平家物語 巻第十  総かな版(元和九年本)
「くびわたし」(『くびわたし』)S1001¥P187¥じゆえい−さんねん−にんぐわつ−なぬかのひ、¥つの−くに¥いちのたに/にて¥うた/れ¥たまひ/し¥へいじ/の¥くび=ども、¥じふににち/に¥みやこ/へ¥いる。¥へいけ/に¥むすぼれ/たり/し¥ひとびと/は、¥こんど¥わが¥かたざま/に、¥いか/なる¥うき¥こと/を/か¥きき、¥いか/なる¥うき−め/を/か、¥み/んず/らん/と、¥なげき−あひ¥かなしみ−あは/れ/けり。¥なか/に/も¥だいかくじ/に¥かくれ−ゐ¥たまへ/る¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥きたのかた/は、¥いとど¥おぼつかなう¥おもは/れ/ける/に、¥こんど¥いちのたに/にて、¥いちもん/の¥ひとびと¥のこり¥すくな/に¥うち−なさ/れ、¥いま/は¥さんみ/の−ちうじやう/と¥いふ¥くぎやう¥いち−にん、¥いけどり/に¥せ/られ/て¥のぼる/なり/と¥きき¥たまひ/て、¥この¥ひと¥はなれ¥たまは/じ/ものを/とて、¥もだえ−こがれ¥たまひ/けり。¥ある¥にようばう/の¥だいかくじ/に¥まゐつ/て¥まうし/ける/は、「¥さんみ/の−ちうじやう=どの/と/は、¥これ/の¥おん=こと/にて/は¥さぶらは/ず、¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう=どの/の¥おん=こと/なり」/と¥まうし/けれ/ば、¥さて/は¥くび=ども/の¥なか/に/こそ¥ある/らめ/とて、¥なほ¥こころ−やすう/も¥おもひ¥たまは/ず。P188¥おなじき−じふさんにち、¥たいふ/の−はうぐわん−なかより¥いげ/の¥けんびゐし=ども、¥ろくでうかはら/に¥いで−むかつ/て、¥へいじ/の¥くび=ども¥うけ−とり、¥ひんがし/の−とうゐん/を¥きた/へ¥わたい/て、¥ごくもん/の−き/に¥かけ/らる/べき¥よし、¥のりより¥よしつね¥そうもん−す。¥ほふわう、¥この¥こと¥いかが¥あら/んず/らん/と、¥おぼしめし−わづらは/せ¥たまひ/て、¥だいじやうだいじん、¥さう/の−だいじん、¥ないだいじん、¥ほりかはの−だいなごん−ただちかの−きやう/に¥おほせ−あはせ/らる。¥ごにん/の¥くぎやう¥まうさ/れ/ける/は、「¥むかし/より¥けいしやう/の¥くらゐ/に¥いたる¥ひと/の¥くび、¥おほち/を¥わたさ/るる¥こと¥せんれい¥なし。¥なか/に/も¥この¥ともがら/は、¥せんてい/の¥おん=とき/より¥せきり/の−しん/と/して、¥ひさしく¥てうか/に¥つかうまつる。¥はんらい¥ぎけい/が¥まうしじやう、¥あながち/に¥ご=きよよう¥ある/べから/ず」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥わたさ/る/まじき/に¥さだめ/られ/たり/しか/ども、¥のりより¥よしつね¥かさね/て¥そうもう−し/ける/は、「¥ほうげん/の¥むかし/を¥おもへ/ば、¥そぶ¥ためよし/が¥あた、¥へいぢ/の¥いにしへ/を¥あんずる/に、¥ちち¥よしとも/が¥かたき/なり。¥され/ば¥きみ/の¥おん=いきどほり/を¥やすめ¥たてまつり、¥ちち/の¥はぢ/を¥きよめ/ん/が¥ため/に、¥いのち/を¥すて/て¥てうてき/を¥ほろぼす。¥こんど¥へいじ/の¥くび¥おほち/を¥わたさ/れ/ざら/ん/に¥おいて/は、¥じこん¥いご¥なん/の¥いさみ¥あつ/て/か¥きようと/を¥しりぞけ/ん/や」/と、¥しきり/に¥うつたへ¥まうさ/れ/けれ/ば、¥ほふわう¥ちから¥およば/せ¥たまは/ず、¥つひに¥わたさ/れ/けり。¥みる¥ひと¥いくせんばん/と¥いふ¥かず/を¥しら/ず。¥ていけつ/に¥そで/を¥つらね/し¥いにしへ/は、¥おぢ−おそるる¥ともがら¥おほかり/き。¥ちまた/に¥かうべ/を¥わたさ/るる¥いま/は、¥また¥あはれみ−かなしま/ず/と¥いふ¥こと¥なし。¥なか/に/も¥だいかくじ/に¥かくれ−ゐ¥たまへ/る、¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥わかぎみ、¥ろくだい−ごぜん/に¥つき¥たてまつ/たり/ける¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく、¥あまり/の¥おぼつかな−さ/に、¥さま/を¥やつし/て¥み/けれ/ば、P189¥おん=くび=ども/は、¥みな¥み−しり¥たてまつり/たれ/ども、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/の¥おん=くび/は¥みえ¥たまは/ず。¥され/ども¥あまり/の¥かなし−さ/に、¥つつむ/に¥たへ/ぬ¥なみだ/のみ¥しげかり/けれ/ば、¥よそ/の¥ひとめ/も¥おそろしくて、¥いそぎ¥だいかくじ/へ/ぞ¥かへり−まゐり/ける。¥きたのかた、「¥さて¥いか/に/や−いか/に」/と¥とひ¥たまへ/ば、「¥ひとびと/の¥おん=くび=ども/は、¥みな¥み−しり¥たてまつ/たれ/ども、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/の¥おん=くび/は、¥みえ/させ¥たまひ¥さふらは/ず。¥ご=きやうだい/の¥おん=なか/に/は、¥びつちうの−かう/の=との/の¥おん=くび/ばかり/こそ、¥みえ/させ¥たまひ¥さふらひ/つれ。¥その−ほか/は、¥そんぢやう¥その¥くび、¥その¥おん=くび」/と¥まうし/けれ/ば、¥きたのかた、「¥それ/も¥ひと/の¥うへ/と/は¥おぼえ/ず」/とて、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥やや¥あつ/て、¥さいとう−ご¥なみだ/を¥おさへ/て¥まうし/ける/は、「¥この¥いちりやう−ねん/は¥かくれ−ゐ¥さふらひ/て、¥ひと/に/も¥いたう¥み−しら/れ¥さふらは/ね/ば、¥いま¥しばらく¥さふらひ/て、¥み¥まゐらせ/たう¥ぞんじ¥さふらひ/つれ/ども、¥よに¥あんない¥くはしう¥しり/たる¥もの/の¥まうし¥さふらひ/し/は、『¥こんど/の¥かつせん/に、¥こまつ=どの/の¥きんだち=たち/は、¥あはせ¥たまは/ず。¥その¥ゆゑ/は、¥はりま/と¥たんば/の¥さかひ/なる、¥みくさ/の¥て/を¥かため/させ¥たまひ¥さふらひ/ける/が、¥くらう−よしつね/に¥やぶら/れ/て、¥しん−ざんみ/の−ちうじやう=どの、¥おなじき−せうしやう=どの、¥たんごの−じじう=どの/は、¥はりま/の¥たかさご/より¥おん=ふね/に¥めし/て、¥さぬき/の¥やしま/へ¥わたら/せ¥たまひ¥さふらひ/ぬ。¥なに/と/して/かは¥はなれ/させ¥たまひ/て¥さふらひ/ける/やらん、¥その¥なか/に¥びつちうの−かう/の=との/ばかり/こそ、¥こんど¥いちのたに/にて¥うた/れ/させ¥たまひ/て¥さふらへ』/と¥かたり¥まうし¥さふらひ/し/ほど/に、¥さて¥さんみ/の−ちうじやう=どの/の¥おん=こと/は、¥いか/に/と¥とひ¥さふらひ/つれ/ば、『¥それ/は¥いくさ¥いぜん/より、P190¥だいじ/の¥おん=いたはり/とて、¥さぬき/の¥やしま/へ¥わたら/せ¥たまひ/て、¥この−たび/は¥むかは/せ¥たまは/ず』/と、¥まうす¥もの/に/こそ¥あう/て¥さふらひ/つれ」/と、¥こまごま/と¥かたり¥まうし/たり/けれ/ば、¥きたのかた、「¥それ/も¥われ=ら/が¥こと/を¥こころ−ぐるしう¥おもひ¥たまひ/て、¥あさゆふ¥なげか/せ¥たまふ/が、¥やまふ/と¥なつ/たる/に/こそ。¥かぜ/の¥ふく¥ひ/は、¥けふ/も/や¥ふね/に¥のり¥たまふ/らん/と¥きも/を¥けし、¥いくさ/と¥いふ¥とき/は、¥ただいま/も/や¥うた/れ¥たまひ/ぬ/らん/と¥こころ/を¥つくす。¥まして¥さやう/の¥おん=いたはり/なんど/を/ば、¥たれ/か¥こころ−やすう¥あつかひ¥たてまつる/べき。¥それ/を¥くはしう¥きか/ばや」/と¥のたまへ/ば、¥わかぎみ¥ひめぎめ/も、「¥など¥なに/の¥おん=いたはり/と/は¥とは/ざり/ける/ぞ」/と¥のたまひ/ける/こそ¥あはれ/なれ。¥さんみ/の−ちうじやう/も、¥かよふ¥こころ/なれ/ば、¥さて/も¥みやこ/に/は、¥いか/に¥こころ−もとなう¥おもふ/らん。¥たとひ¥くび=ども/の¥なか/に/こそ¥なく/とも、¥や/に¥あたつ/て/も¥しに、¥みづ/に¥おぼれ/て¥うせ/ぬ/らん、¥いま/まで¥この−よ/に¥ある¥もの/と/は、¥よも¥おもひ¥たまは/じ。¥つゆ/の−いのち/の¥きえ−やら/で、¥いまだ¥うき−よ/に¥ながらへ/たる/を、¥しらせ¥たてまつら/ん/とて、¥つかひ/を¥いち−にん¥したて/て、¥のぼせ/られ/ける/が、¥みつ/の¥ふみ/を/ぞ¥かか/れ/ける。¥まづ¥きたのかた/へ/の¥おん=ふみ/に/は、「¥みやこ/に/は¥かたき¥みちみち/て、¥おん=み¥ひとつ/の¥おきどころ/だに¥あら/じ/に、¥をさなき¥もの=ども¥ひき−ぐし/て、¥いか/に¥かなしう¥おはす/らん。¥これ/へ¥むかへ¥まゐらせ/て、¥ひとつ−ところ/にて¥いか/に/も−なら/ばや/と/は¥おもへ/ども、¥わが−み/こそ¥あら/め、¥おん=ため¥いたはしく/て」/なんど、¥こまごま/と¥かい/て、¥おく/に/は¥いつしゆ/の¥うた/ぞ¥あり/ける。P191¥
いづく/と/も¥しら/ぬ¥あふせ/の¥もしほぐさ¥かき−おく¥あと/を¥かたみ/と/も¥みよ W073¥
さて¥をさなき¥ひとびと/の¥おん=もと/へ/は、「¥つれづれ/を/ば¥なに/と/して/かは¥なぐさむ/らん。¥やがて¥これ/へ¥むかへ−とら/うずる/ぞ」/と、¥ことば/も¥かはら/ず¥かい/て¥のぼせ/らる。¥つかひ¥みやこ/へ¥のぼり、¥きたのかた/に¥おん=ふみ¥とり−いだい/て¥たてまつる。¥これ/を¥あけ/て¥み¥たまひ/て、¥いとど¥おもひ/や¥まさら/れ/けん、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥かくて¥しごにち/も¥すぎ/しか/ば、¥つかひ、「¥おん=ぺんじ¥たまはつ/て、¥かへり−まゐり¥さふらは/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥きたのかた¥なくなく¥おん=ぺんじ¥かき¥たまふ。¥わかぎみ¥ひめぎみ/も、¥めんめん/に¥ふで/を¥そめ/て、「¥さて¥ちち=ごぜん/へ/の¥おん=ぺんじ/を/ば、¥なに/と¥かき¥まうす/べき/やらん」/と¥とひ¥たまへ/ば、¥きたのかた、「¥ただ¥と/も−かく/も、¥わ−ごぜ=たち/が¥おもは/うずる¥やう/を¥まうす/べし」/と/ぞ¥のたまひ/ける。「¥などや¥いま/まで/は¥むかへ/させ¥たまひ¥さふらは/ぬ/ぞ。¥あまり/に¥おん=こひしう¥おもひ¥まゐらせ¥さふらふ/に、¥とく¥むかへ/させ¥たまへ」/と、¥おなじ¥ことば/に/ぞ¥かか/れ/たる。¥つかひ¥おん=ふみ¥たまはつ/て、¥やしま/へ¥かへり−まゐつ/て、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/に、¥おん=ぺんじ¥とり−いだい/て¥たてまつる。¥まづ¥をさなき¥ひとびと/の¥おん=ぺんじ/を¥み¥たまひ/て、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/に、¥おん=ぺんじ¥とり¥いだい/て¥たてまつる。¥まづ¥をさなき¥ひとびと/の¥おん=ぺんじ/を¥み¥たまひ/て、¥いとど¥せんかた−な=げ/に/ぞ¥みえ/られ/ける。「¥そもそも¥これ/より¥ゑど/を¥いとふ/に¥いさみ¥なし。¥えんぶ−あいしふ/の¥つな¥つよけれ/ば、¥じやうど/を¥ねがは/ん/も¥もの−うし。¥ただ¥これ/より¥やま−づたひ/に¥みやこ/へ¥のぼり、¥こひしき¥もの=ども/を/も、¥いま−いちど¥み/も¥し¥みえ/て¥のち、¥じがい/を¥せ/ん/に/は¥しか/じ」/と/ぞ、¥なくなく¥かたり¥たまひ/ける。P192
「だいりにようばう」(『だいりにようばう』)S1002¥おなじき−じふしにち、¥いけどり¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう−しげひらの−きやう、¥みやこ/へ¥いつ/て¥おほち/を¥わたさ/る。¥こ−ばちえふ/の¥くるま/の¥ぜんご/の¥すだれ/を¥あげ、¥さう/の¥ものみ/を¥ひらく。¥とひの−じらう−さねひら/は、¥むくらんぢ/の−ひたたれ/に¥こぐそく/ばかり/して、¥ずゐびやう¥さんじふ−よ−き¥ひき−ぐし/て、¥くるま/の¥ぜんご/を¥うち−かこん/で¥しゆご−し¥たてまつる。¥きやう−ぢう/の¥じやうげ¥これ/を¥み/て、「¥あな¥いとほし。¥いくら/も¥まします¥きんだち/の¥なか/に、¥この¥ひと¥いち−にん¥かやう/に¥なり¥たまふ¥こと/よ。¥にふだう=どの/に/も¥にゐ=どの/に/も、¥おぼえ/の¥おん=こ/にて¥ましませ/ば、¥いちもん/の¥ひとびと/も¥おもき¥こと/に/して、¥ゐん¥うち/へ¥まゐらせ¥たまひ/し/に/も、¥おい/たる/も¥わかき/も、¥ところ/を¥おき/て¥もてなし¥たてまつら/せ¥たまひ/し/ぞ/かし。¥いま¥また¥かやう/に¥なり¥たまふ¥こと/は、¥いかさま/に/も¥なら/を¥やき¥たまへ/る¥がらん/の¥ばち」/と¥いひ−あへ/り。¥ろくでう/を¥ひんがし/へ¥かはら/まで¥わたい/て、¥それ/より¥かへつ/て、¥こ=なかのみかどの−とう−ぢうなごん−かせいの−きやう/の¥み=だう、¥はちでう−ほりかは/なる¥ところ/に¥すゑ¥たてまつ/て、¥きびしう¥しゆご−し¥たてまつる。¥ゐん/の−ごしよ/より¥お=つかひ¥あり。¥くらんど/の−さゑもん/の−ごん/の−すけ−さだなが、¥はちでう−ほりかは/へ/ぞ¥むかひ/ける。¥せきい/に¥けんしやく/を/ぞ¥たいし/たり/ける。¥さんみ/の−ちうじやう/は、¥こんむらご/の−ひたたれ/に、¥をり−ゑぼし¥ひき−たて/て¥おはします。¥ひごろ/は¥なに/と/も¥おもは/れ/ざり/し¥さだなが/を、¥いま/は¥めいど/にて¥ざいにん=ども/が、P193¥みやうくわん/に¥あへ/る¥ここち/ぞ¥せ/られ/ける。¥おほせ−くださ/れ/ける/は、「¥やしま/へ¥かへり/たく/ば、¥いちもん/の¥かた/へ¥いひ−おくつ/て、¥さんじゆ/の−しんき/を¥みやこ/へ¥かへし−いれ¥たてまつれ。¥しから/ば¥やしま/へ¥かへさ/る/べし」/と/の¥ご=きしよく/なり。¥さんみ/の−ちうじやう¥まうさ/れ/ける/は、「¥さ/しも/に¥わが¥てう/の¥ちようほう、¥さんじゆ/の−しんき/を、¥しげひら¥いち−にん/に¥かへ¥まゐらせ/ん/と/は、¥だいふ¥いげ¥いちもん/の¥もの=ども/が、¥よも¥まうし¥さふらは/じ。¥によしやう/で¥さふらへ/ば、¥もし¥ぼぎ/の¥にほん/なんど/も/や、¥さ/も¥まうし¥さふらは/んず/らん。¥さり/ながら/も、¥ゐ/ながら¥ゐんぜん/を¥かへし¥たてまつら/ん¥こと/は、¥その¥おそれ/も¥さふらへ/ば、¥すみやか/に¥まうし−おくつ/て/こそ¥み¥さふらは/め」/と/ぞ¥まうさ/れ/ける。¥ゐんぜん/の¥お=つかひ/は、¥お=つぼ/の−めしつぎ−はなかた、¥さんみ/の−ちうじやう/の¥つかひ/は、¥へいざう−ざゑもん−しげくに/と¥いふ¥もの/なり。¥おほい=との、¥へい−だいなごん/へ/は、¥ゐんぜん/の¥おもむき/を¥まうさ/る。¥にゐ=どの/へ/は¥おん=ふみ¥こまごま/と¥かい/て¥まゐらせ/らる。¥わたくし/の¥ふみ/を/ば¥ゆるされ¥なけれ/ば、¥ひとびと/の¥もと/へ/は¥ことば/にて¥ことづて/らる。¥きたのかた¥だいなごん/の−すけ=どの/へ/も、¥ことば/にて¥まうさ/れ/けり。「¥たび/の¥そら/にて/も、¥ひと/は¥われ/に¥なぐさみ、¥われ/は¥ひと/に¥なぐさみ/し/ものを、¥ひき−わかれ/て¥のち、¥いか/に¥かなしう¥おはす/らん。¥ちぎり/は¥くちせ/ぬ¥もの/と¥まうせ/ば、¥のち/の−よ/に/は¥かならず¥むまれ−あひ¥たてまつる/べし」/と、¥なくなく¥ことづて¥たまへ/ば、¥しげくに/も¥まことに¥あはれ/に¥おぼえ/て、¥なみだ/を¥おさへ/て¥たち/に/けり。¥ここに¥さんみ/の−ちうじやう/の¥としごろ/の¥さぶらひ/に、¥むく−むま/の−じよう−ともとき/と¥いふ¥もの¥あり。¥はちでうの−にようゐん/に¥けんざん/の¥もの/にて¥さふらひ/ける/が、¥とひの−じらう−さねひら/が¥もと/に¥ゆい/て、「¥これ/は¥ねんらい¥さんみ/の−ちうじやう=どの/にP194¥めし−つかは/れ¥さふらひ/し、¥それがし/と¥まうす¥もの/にて¥さふらふ/が、¥けふ¥おほち/で¥み¥まゐらせ¥さふらへ/ば、¥め/も¥あて/られ/ず、¥あまり/に¥おん=いたはしう¥おもひ¥まゐらせ¥さふらふ。¥なにか¥くるしう¥さふらふ/べき。¥ともとき/ばかり/は¥おん=ゆるされ/を¥かうぶつ/て、¥いま−いちど¥ちかづき¥まゐつ/て、¥はかなき¥むかしがたり/を/も¥まうし/て、¥なぐさめ¥たてまつら/ばや/と¥ぞんじ¥さふらふ。¥ゆみ−や/を¥とる¥み/にて/も¥さふらは/ね/ば、¥いくさ−かつせん/の¥おん=とも¥つかまつ/たる¥こと/も¥さふらは/ず。¥あさゆふ¥ただ¥お=まへ/に¥しこう−せ/し/ばかり/で¥さふらひ/き。¥それ/も¥なほ¥おぼつかなう¥おぼしめさ/れ¥さふらは/ば、¥こし/の¥かたな/を¥めし−おか/れ/て、¥まげて¥おん=ゆるされ/を¥かうぶり¥さふらは/ばや」/と¥まうし/けれ/ば、¥とひの−じらう、¥なさけ−ある¥もの/にて、「¥まことに¥ご=いつしん/は、¥なにか¥くるしう¥さふらふ/べき。¥さり/ながら/も」/とて、¥こし/の¥かたな/を¥こひ−とつ/て/ぞ¥いれ/てげる。¥むま/の−じよう¥なのめ/なら/ず¥よろこび、¥いそぎ¥まゐつ/て¥おん=ありさま/を¥み¥たてまつる/に、¥まことに¥ふかう¥おもひ−いれ¥たまへ/る/と¥おぼしく/て、¥おん=すがた/も¥いたく¥しをれ−かへつ/て¥おはし/ける/を、¥み¥まゐらする/に、¥ともとき¥なみだ/も¥さら/に¥おさへ−がたし。¥ちうじやう/も¥ゆめ/に¥ゆめ¥みる¥ここち−し/て、¥とかう/の¥こと/を/も¥のたまは/ず。¥やや¥あつ/て、¥むかし−いま/の¥ものがたり=ども−し¥たまひ/て¥のち、「¥さて/も¥なんぢ/して¥もの¥いひ/し¥ひと/は、¥いまだ¥だいり/に/と/や¥きく」。「¥さ/こそ¥うけたまはり¥さふらへ」。¥ちうじやう、「¥われ¥さいこく/へ¥くだり/し¥とき、¥ふみ/を/も¥やら/ず、¥いひ¥おく¥こと/も¥なかり/しか/ば、¥よよ/の¥ちぎり/は、¥みな¥いつはり/に¥なり/に/ける/よ/と、¥おもふ/らん/こそ¥はづかしけれ。¥ふみ/を¥やら/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に。¥たづね/て¥ゆき/て/ん/や」/と¥のたまへ/ば、¥ともとき、「¥やすい/ほど/の¥おん=こと¥ざふらふ」/と¥まうす。¥ちうじやう¥なのめ/なら/ず¥よろこび、¥やがて¥かい/て/ぞ¥たう/でげる。P195¥
ともとき¥これ/を¥たまはつ/て、¥まかり−いで/ん/と¥し/けれ/ば、¥しゆご/の−ぶし=ども、「¥いか/なる¥おん=ふみ/にて/か¥さふらふ/らん。¥み¥まゐらせ¥さふらは/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥ちうじやう、「¥みせよ」/と¥のたまへ/ば、¥みせ/てげり。¥くるしかる/まじ/とて、¥とら/せ/てげり。¥ともとき¥これ/を¥とつ/て、¥いそぎ¥だいり/へ¥まゐり、¥ひる/は¥ひとめ/の¥しげけれ/ば、¥その¥へん¥ちかき¥せうをく/に¥たち−より、¥ひ/を¥まち−くらし、¥たそがれどき/に¥まぎれ−いつ/て、¥くだん/の¥にようばう/の¥つぼね/の¥しもぐちへん/に¥たたずん/で¥きき/けれ/ば、¥この¥にようばう/の¥こゑ/と¥おぼしく/て、「¥あな¥いとほし。¥いくら/も¥まします¥きんだち/の¥なか/に、¥この¥ひと¥いち−にん¥かやう/に¥なり¥たまふ¥こと/よ。¥ひと/は¥みな¥なら/を¥やき/たる¥がらん/の¥ばち/と¥いひ−あへ/り。¥ちうじやう/も¥さぞ¥いひ/し。¥わが¥こころ/に¥おこつ/て/は¥やか/ね/ども、¥あくたう¥おほかり/しか/ば、¥てんで/に¥ひ/を¥はなつ/て、¥おほく/の¥だうたふ/を¥やき−ほろぼす。¥すゑ/の¥つゆ¥もと/の¥しづく/の¥ためし¥あれ/ば、¥わが−み¥ひとつ/の¥ざいごふ/に/こそ¥なら/んず/らめ/と¥いひ/し/が、¥げに¥さ/と¥おぼゆる/ぞ/や」/とて¥なか/れ/けれ/ば、¥ともとき、¥これ/に/も¥かく¥なげき¥たまふ¥こと/の¥いとほし−さ/よ/と¥おもひ、「¥もの¥まうさ/う」/ど¥いへ/ば、「¥なにごと」/と¥こたふ。「¥これ/に¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう=どの/より/の¥おん=ふみ/の¥さふらふ」/と¥まうし/たり/けれ/ば、¥ひごろ/は¥はぢ/て¥みえ¥たまは/ぬ¥ひと/の、「¥いづら/や¥いづら」/とて¥はしり−いで、¥てづから¥この¥ふみ/を¥とつ/て¥み¥たまふ/に、¥さいこく/にて¥いけどり/に¥せ/られ/たり/し¥ありさま、¥けふ¥あす/を/も¥しら/ぬ¥み/の¥ゆくへ/など、¥こまごま/と¥かい/て、¥おく/に/は¥いつしゆ/の¥うた/ぞ¥あり/ける。¥
なみだがは¥うき−な/を¥ながす¥み/なり/とも¥いま¥ひとたび/の¥あふせ/ともがな W074 
P196¥にようばう¥この¥ふみ/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥とかう/の¥こと/を/も¥のたまは/ず、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥かくて¥じこく¥はるか/に¥おし−うつり/けれ/ば、¥ともとき、「¥おん=ぺんじ¥たまはつ/て、¥かへり−まゐり¥さふらは/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥にようばう¥なくなく¥おん=ぺんじ¥かき¥たまへ/り。¥こころ−ぐるしう¥いぶせく/て、¥この¥ふたとせ/を¥おくつ/たり/し¥ありさま、¥こまごま/と¥かい/て、¥
きみ¥ゆゑ/に¥われ/も¥うき−な/を¥ながす/とも¥そこ/の¥みくづ/と¥とも/に¥なり/なむ W075¥
ともとき¥これ/を¥たまはつ/て、¥かへり−まゐり/たり/けれ/ば、¥しゆご/の−ぶし=ども、¥また、「¥いか/なる¥おん=ふみ/にて/か¥さふらふ/らん。¥み¥まゐらせ/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥みせ/てげり。「¥くるしう¥さふらふ/まじ」/とて¥たてまつる。¥ちうじやう¥これ/を¥み¥たまひ/て、¥いとど¥おん=もの−おもひ/や¥まさら/れ/けん、¥やや¥あつ/て、¥とひの−じらう−さねひら/を¥めし/て¥のたまひ/ける/は、「¥さて/も¥この−ほど¥おのおの/の¥なさけ−ふかう¥はうじん−せ/られ/つる/こそ、¥あり−がたう¥うれしけれ。¥いま−いちど¥はうおん¥かうぶり/たき¥こと¥あり。¥われ/は¥いち−にん/の¥こ¥なけれ/ば、¥うき−よ/に¥おもひ−おく¥こと¥なし。¥としごろ¥ちぎつ/たり/し¥によばう/に、¥いま−いちど¥たいめん−し/て、¥ごしやう/の¥こと/を/も¥いひ−おか/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥とひの−じらう¥なさけ−ある¥もの/にて、「¥まことに¥にようばう/など/の¥おん=こと/は、¥なにか¥くるしう¥さふらふ/べき。¥とうとう」/とて¥ゆるし¥たてまつる。¥ちうじやう¥なのめ/なら/ず¥よろこび、¥ひと/に¥くるま¥かつ/て¥つかはさ/れ/たり/けれ/ば、¥にようばう¥とり−あへ/ず、¥いそぎ¥のつ/て/ぞ¥おはし/ける。¥えん/に¥くるま¥やり−よせ、¥この¥よし¥かくと¥まうし/たり/けれ/ば、¥ちうじやう¥くるまよせ/まで¥いで−むかひ、「¥ぶし=ども/の¥み¥まゐらせ¥さふらふ/に、¥おり/させ¥たまふ/べから/ず」/とて、¥くるま/の¥すだれ/を¥うち−かづき、¥て/に¥て/を¥とり−くみ、P197¥
かほ/に¥かほ/を¥おし−あて/て、¥しばし/は¥とかう/の¥こと/を/も¥のたまは/ず、¥ただ¥なく/より¥ほか/の¥こと/ぞ¥なき。¥やや¥あつ/て、¥ちうじやう¥なみだ/を¥おさへ/て¥のたまひ/ける/は、「¥さいこく/へ¥くだり¥さふらひ/し¥とき/も、¥いま−いちど¥おん=げんざん/に¥いり/たかり/しか/ども、¥おほかた/の¥よ/の¥もの−さわがし−さ、¥まうし−おくる/べき¥たより/も¥なく/して、¥まかり−くだり¥さふらひ/き。¥その−のち¥おん=ふみ/を/も¥たてまつり、¥おん=かへりこと/を/も¥み¥まゐらせ/たう¥さふらひ/つれ/ども、¥たび/の¥そら/の¥もの−う−さ、¥あさゆふ/の¥いくさだち/に¥ひま¥なく/て、¥むなしう¥まかり−すぎ¥さふらひ/き。¥こんど¥いちのたに/にて¥いか/に/も−なる/べかり/し¥み/の、¥いき/ながら¥とらはれ/て、¥ふたたび¥みやこ/へ¥まかり−のぼり¥さふらふ/も、¥おん=げんざん/に¥いる/べき/と/の¥こと/にて¥さふらふ/ぞ/や」/とて、¥また¥なみだ/を¥おさへ/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥たがひ/の¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥かくて¥さ−よ/も¥やうやう¥ふけ−ゆけ/ば、¥しゆご/の−ぶし=ども、「¥この−ほど/は¥おほち/の¥らうぜき/も/ぞ¥さふらふ/に、¥とうとう」/と¥まうし/けれ/ば、¥ちうじやう¥ちから¥および¥たまは/ず、¥やがて¥かへし¥たまふ。¥くるま¥やり−いだせ/ば、¥ちうじやう¥にようばう/の¥そで/を¥ひかへ/て、¥
あふ¥こと/も¥つゆ/の−いのち/も¥もろとも/に¥こよひ/ばかり/や¥かぎり/なる/らむ W076¥
にようばう¥とり−あへ/ず、¥
かぎり/とて¥たち−わかるれ/ば¥つゆ/の¥み/の¥きみ/より¥さき/に¥きえ/ぬ/べき/かな W077¥
さて¥にようばう/は¥だいり/へ¥まゐり¥たまひ/ぬ。¥その−のち/は¥しゆご/の−ぶし=ども¥ゆるさ/ね/ば、¥ときどき¥ただ¥おん=ふみ/ばかり/ぞ¥かよひ/ける。¥この¥にようばう/と¥まうす/は、¥みんぶきやう−にふだう−しんぱん/の¥むすめ/なり。¥みめ−かたち¥よ/に¥すぐれ、¥なさけ−ふかき¥ひと/なれ/ば、¥ちうじやう¥なんと/へ¥わたさ/れ/て、¥きら/れ¥たまひ/ぬ/と¥きこえ/しか/ば、P198¥やがて¥さま/を¥かへ、¥こき¥すみぞめ/に¥やつれ−はて、¥かの¥ごせ−ぼだい/を¥とぶらひ¥たまふ/ぞ¥あはれ/なる。¥
「やしまゐんぜん」(『やしまゐんぜん』)S1003¥ひかず¥ふれ/ば、¥ゐんぜん/の¥お=つかひ、¥お=つぼ/の−めしつぎ−はなかた、¥おなじき−にじふはちにち¥さぬきの−くに¥やしま/の−いそ/に¥くだり−つい/て、¥ゐんぜん/を¥とり−いだい/て¥たてまつる。¥おほい=との¥いげ/の¥けいしやう−うんかく¥より−あひ¥たまひ/て、¥この¥ゐんぜん/を¥ひらか/れ/けり。「¥いちじん−せいたい、¥ほつけつ/の¥きうきん/を¥いで/て、¥しよしう/に¥かうし、¥さんじゆ/の−しんき、¥なんかい¥しこく/に¥うづもれ/て¥すねん/を¥ふ、¥もつとも¥てうか/の¥なげき、¥ばうこく/の¥もとゐ/なり。¥そもそも¥かの¥しげひらの−きやう/は、¥とうだいじ¥ぜうしつ/の¥ぎやくしん/なり。¥すべからく¥よりともの−あつそん¥まうし−うくる¥むね/に¥まかせ/て、¥しざい/に¥おこなは/る/べし/と¥いへ/ども、¥ひとり¥しんぞく/に¥わかれ/て、¥すでに¥いけどり/と¥なる。¥ろうてう¥くも/を¥こふる¥おもひ、¥はるか/に¥せんり/の¥なんかい/に¥うかび、¥きがん¥とも/を¥うしなふ¥こころ、¥さだめて¥きうちよう/の¥ちうと/に¥とうぜ/ん/か。¥しかれ/ば−すなはち¥さんじゆ/の−しんき、¥みやこ/へ¥かへし−いれ¥たてまつら/ん/に¥おいて/は、¥かの¥きやう/を¥くわんいう−せ/らる/べき/なり。¥ていれば¥ゐんぜん¥かく/の/ごとく、¥よつて−しつたつ−くだん/の/ごとし。¥じゆえい−さんねん−にんぐわつ−じふしにち、¥だいぜん/の−だいぶ−なりただ/が¥うけたまはり、¥きんじやう、¥さきの−へい−だいなごん=どの/へ」/と/ぞ¥かか/れ/たる。P199
「うけぶみ」(『うけぶみ』)S1004¥おほい=との、¥へい−だいなごん/の¥もと/へ、¥ゐんぜん/の¥おもむき/を¥まうさ/れ/けり。¥にゐ=どの、¥ちうじやう/の¥ふみ/を¥あけ/て¥み¥たまふ/に、「¥しげひら/を¥こんじやう/で¥いま−いちど¥ごらんぜ/ん/と¥おぼしめさ/れ¥さふらは/ば、¥さんじゆ/の−しんき/の¥おん=こと/を、¥よき¥やう/に¥まうさ/せ¥たまひ/て、¥みやこ/へ¥かへし−いれ/させ¥たまへ。¥さら/ず/は¥おん=め/に¥かかる/べし/と/も¥ぞんじ¥さふらは/ず」/と/ぞ¥かか/れ/たる。¥にゐ=どの、¥この¥ふみ/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥ひとびと/の¥おはし/ける¥うしろ/の¥しやうじ/を¥ひき−あけ/て、¥おほい=との/の¥おん=まへ/に¥たふれ−ふし、¥しばし/は¥もの/を/も¥のたまは/ず。¥やや¥あつ/て¥おき−あがり、¥なみだ/を¥おさへ/て¥のたまひ/ける/は、「¥これ¥み¥たまへ、¥むねもり、¥きやう/より¥ちうじやう/が¥いひ−おこし/つる¥こと/の¥むざん−さ/よ。¥げに/も¥こころ/の¥うち/に¥いか/ばかり/の¥こと/を/か¥おもふ/らん。¥ただ¥われ/に¥おもひ−ゆるし/て、¥さんじゆ/の−しんき/の¥おん=こと/を、¥よき¥やう/に¥まうし/て、¥みやこ/へ¥かへし−いれ¥たてまつら/せ¥たまへ」/と¥のたまへ/ば、¥おほい=との¥まうさ/せ¥たまひ/ける/は、「¥むねもり/も¥さ/こそ/は¥ぞんじ¥さふらへ/ども、¥さ/しも/に¥わが¥てう/の¥ちようほう¥さんじゆ/の−しんき/を、¥しげひら¥いち−にん/に¥かへ¥まゐらせ/ん¥こと、¥かつう/は¥よ/の¥ため¥しかる/べから/ず。¥かつうは¥よりとも/が¥かへり−きか/んずる¥ところ/も、¥いふ−かひ−なう¥さふらふ。¥その−うへ、¥ていわう/の¥おん=よ/を¥たもた/せ¥たまふ¥おん=こと/も、¥ひとへに¥この¥ないしどころ/の¥わたら/せ¥たまふ¥おん=ゆゑ/なり。¥さて¥よ/の¥こ=ども、¥したしき¥ひとびと/を/ば、P200¥ちうじやう¥いち−にん/に¥おぼしめし−かへ/させ¥たまふ/べき/か。¥こ/の¥かなしい/と¥いふ¥こと/も、¥こと/に/こそ¥より¥さふらへ。¥ゆめゆめ¥かなひ¥さふらふ/まじ」/と¥のたまへ/ば、¥にゐ=どの、¥よに/も¥ほい−な=げ/にて、¥かさねて¥のたまひ/ける/は、「¥われ¥こ=にふだう−しやうこく/に¥おくれ/て¥のち/は、¥いち−にち−へんし¥いのち¥いき/て、¥よ/に¥ある/べし/と/は¥おもは/ざり/しか/ども、¥しゆしやう/の¥いつ/と−なく、¥さいかい/の¥なみ/の¥うへ/に、¥ただよは/せ¥たまふ¥おん=こころ−ぐるし−さ、¥ふたたび¥よ/に¥あら/せ¥たてまつら/ん/が¥ため/に、¥うき/ながら¥けふ/まで/も¥ながらへ/たれ。¥ちうじやう¥いちのたに/にて、¥いけどり/に¥せ/られ/ぬ/と¥きき/し¥のち/は、¥いとど¥むね¥せき/て、¥ゆみづ/も¥のど/へ¥いれ/られ/ず。¥ちうじやう¥この−よ/に¥なき¥もの/と¥きか/ば、¥われ/も¥おなじ¥みち/に¥おもむか/ん/と¥おもふ/なり。¥ふたたび¥もの/を¥おもは/せ/ぬ¥さき/に、¥ただ¥われ/を¥うしなへ/や」/とて、¥をめき−さけび¥たまへ/ば、¥まことに¥さ/こそ/は/と¥いたはしく/て、¥みな¥ふしめ/に/ぞ¥なら/れ/ける。¥しん−ぢうなごん−とももりの−きやう/の¥いけん/に¥まうさ/れ/ける/は、「¥さ/しも/に¥わが¥てう/の¥ちようほう、¥さんじゆ/の−しんき/を¥みやこ/へ¥かえし−いれ¥たてまつ/たり/とも、¥しげひら¥かへし¥たまはら/ん¥こと¥あり−がたし。¥ただ¥その¥やう/を¥おそれ¥なく、¥おん=うけぶみ/に¥まうさ/せ¥たまふ/べう/も/や¥さふらふ/らん」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥この¥ぎ¥もつとも¥しかる/べし/とて、¥おほい=との¥おん=うけぶみ/を¥まうさ/る。¥にゐ=どの/は¥なみだ/に¥くれ/て、¥ふで/の¥たて=ども¥おぼえ¥たまは/ね/ども、¥こころざし/を¥しるべ/に、¥なくなく¥おん=かへりこと¥かき¥たまへ/り。¥きたのかた¥だいなごん/の−すけ=どの/は、¥とかう/の¥こと/を/も¥のたまは/ず、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥その−のち¥へい−だいなごん−ときただの−きやう、¥ゐんぜん/の¥お=つかひ、¥お=つぼ/の−めしつぎ−はなかた/を¥めし/て、「¥なんぢ¥ほふわう/の¥お=つかひ/と/して、¥おほく/の¥なみぢ/を¥しのい/で、¥はるばる/と¥これ/まで¥くだつ/たる¥しるし/に、¥なんぢ¥いちご/が¥あひだ/のP201¥おもひで¥ひとつ¥ある/べし」/とて、¥はなかた/が¥つら/に、¥なみかた/と¥いふ¥やいじるし/を/ぞ¥せ/られ/ける。¥みやこ/へ¥かへり−のぼつ/たり/けれ/ば、¥ほふわう¥えいらん¥あつ/て、「¥なんぢ/は¥はなかた/か」。「¥さん−ざふらふ」。「¥よしよし、¥さら/ば¥なみかた/と/も¥めせ/かし」/とて、¥わらは/せ¥おはします。¥その−のち¥うけぶみ/を/ぞ¥ひらか/れ/ける。「¥こんぐわつ−じふしにち/の¥ゐんぜん、¥おなじき−にじふはちにち、¥さぬきの−くに¥やしま/の−いそ/に¥たうらい、¥つつしん/で¥もつて¥うけたまはる¥ところ¥くだん/の/ごとし。¥ただし¥これ/に¥つい/て¥かれ/を¥あんずる/に、¥みちもりの−きやう¥いげ、¥たうけ¥すはい、¥せつしう¥いちのたに/にて¥すでに¥ちうせ/られ−をはん/ぬ。¥なんぞ¥しげひら¥いち−にん/が¥くわんいう/を¥よろこぶ/べき/や。¥それ¥わが¥きみ/は、¥こ=たかくらのゐん/の¥おん=ゆづり/を¥うけ/させ¥たまひ/て、¥ご=ざいゐ¥すでに¥し−か−ねん、¥まつりごと¥げうしゆん/の¥こふう/を¥とぶらふ¥ところ/に、¥とうい−ほくてき、¥たう/を¥むすび¥ぐん/を¥なし/て¥じゆらく/の¥あひだ、¥かつうは¥えうてい¥ぼこう/の¥おん=なげき¥もつとも¥ふかく、¥かつうは¥ぐわいせき¥きんしん/の¥いきどほり¥あさから/ざる/に¥よつ/て、¥しばらく¥くこく/に¥かうす。¥くわんかう¥なから/ん/に¥おいて/は、¥さんじゆ/の−しんき¥いかで/か¥ぎよくたい/を¥はなち¥たてまつる/べき/や。¥それ¥しん/は¥きみ/を¥もつて¥こころ/と¥し、¥きみ/は¥しん/を¥もつて¥たい/と¥す。¥きみ¥やすけれ/ば¥すなはち¥しん¥やすく、¥しん¥やすけれ/ば¥すなはち¥くに¥やすし。¥きみ¥かみ/に¥うれふれ/ば¥しん¥しも/に¥たのしま/ず。¥しんぢう/に¥うれへ¥あれ/ば、¥たいぐわい/に¥よろこび¥なし。¥なうそ¥へい−しやうぐん−さだもり、¥さうまの−こじらう−まさかど/を¥つゐたう−せ/し/より¥この−かた、¥とう−はつ−か−こく/を¥しづめ/て、¥しし−そんぞん/に¥つたへ/て、¥てうてき/の¥ぼうしん/を¥ちうばつ−し/て、¥だいだい−せぜ/に¥いたる/まで、¥てうか/の¥せいうん/を¥まぼり¥たてまつる。¥しかれ/ば−すなはち¥こ=ばうふ−だいじやうだいじん、¥ほうげん¥へいぢ¥りやうど/の¥げきらん/の¥とき、¥ちよくめい/を¥おもんじ/て¥わたくし/の¥めい/を¥かろん/ず。¥これP202¥ひとへに¥きみ/の¥ため/に/して、¥まつたく¥み/の¥ため/に¥せ/ず。¥なかんづく、¥かの¥よりとも/は、¥さんぬる¥へいぢ−ぐわんねん−じふにんぐわつ、¥ちち¥さま/の−かみ−よしとも/が¥むほん/に¥よつ/て、¥すでに¥ちうばつ−せ/らる/べき¥よし、¥しきり/に¥おほせ−くださ/るる/と¥いへ/ども、¥こ=にふだう−たいしやうこく、¥じひ/の¥あまり、¥まうし−なだめ/られ/し¥ところ/なり。¥しかる/に¥むかし/の¥こうおん/を¥わすれ/て、¥はうい/を¥ぞんぜ/ず、¥たちまちに¥らうるゐ/の¥み/を¥もつて、¥みだりに¥ほうき/の¥らん/を¥なす。¥しぐ/の¥はなはだしき¥こと¥まうし/て¥あまり¥あり。¥はやく¥しんめい/の¥てんばつ/を¥まねき、¥ひそか/に¥はいせき/の¥そんめつ/を¥ごする¥もの/か。¥それ¥じつげつ/は¥いちもつ/の¥ため/に、¥その¥あきらか/なる¥こと/を¥くらう−せ/ず。¥めいわう/は¥いち−にん/が¥ため/に、¥その¥ほふ/を¥まげ/ず。¥いちあく/を¥もつて¥その¥ぜん/を¥すて/ず、¥せうか/を¥もつて¥その¥こう/を¥おほふ¥こと¥なかれ。¥かつうは¥たうけ¥すだい/の¥ほうこう、¥かつうは¥ばうぶ¥すど/の¥ちうせつ、¥おぼしめし−わすれ/ず/は、¥きみ¥かたじけなく/も¥しこく/の¥ご=かう¥ある/べき/か。¥とき/に¥しん=ら¥ゐんぜん/を¥うけたまはつ/て、¥ふたたび¥きうと/に¥かへつ/て、¥くわいけい/の−はぢ/を¥きよめ/ん。¥もし¥しから/ず/は、¥きかい、¥かうらい、¥てんぢく、¥しんだん/に¥いたる/べし。¥かなしき/かな、¥にんわう¥はちじふいちだい/の¥ぎよ=う/に¥あたつ/て、¥わが¥てう¥かみよ/の¥れいほう、¥つひに¥むなしく¥いこく/の¥たから/と¥なさ/ん/か。¥よろしく¥これ=ら/の¥おもむき/を¥もつて、¥しかる/べき¥やう/に¥もらし¥そうもん−せ/しめ¥たまへ。¥むねもり¥とんじゆ、¥つつしん/で¥まうす。¥じゆえい−さんねん−にんぐわつ−にじふはちにち、¥じゆ−いちゐ−さきの−ないだいじん−たひらの−あそん−むねもり/が¥うけぶみ」/と/こそ¥かか/れ/たれ。P203
「かいもん」(『かいもん』)S1005¥さんみ/の−ちうじやう、¥この¥よし/を¥きき¥たまひ/て、¥さ/こそ/は¥あら/んずれ、¥いか/に¥いちもん/の¥ひとびと/の¥わるう¥おもは/れ/けん/と、¥こうくわい−せ/られ/けれ/ども¥かひ/ぞ¥なき。¥げに/も¥しげひら¥いち−にん/を¥をしみ/て、¥さ/しも/に¥わが¥てう/の¥ちようほう、¥さんじゆ/の−しんき/を¥かへし¥たまふ/らん/と/も¥おぼえ/ね/ば、¥この¥おん=うけぶみ/の¥おもむき/は、¥かねて/より¥おもひ−まうけ/られ/たり/しか/ども、¥いまだ¥さう/を¥まうさ/れ/ざり/つる/ほど/は、¥なにと−なう¥こころ−もとなう¥おもは/れ/ける/に、¥うけぶみ¥すでに¥たうらい−し¥て、¥くわんとう/へ¥くだら/る/べき/に¥さだまり/しか/ば、¥さんみ/の−ちうじやう、¥みやこ/の¥なごり/も、¥いまさら¥をしう/や¥おもは/れ/けん、¥とひの−じらう−さねひら/を¥めし/て、「¥しゆつけ−せ/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥この¥よし/を¥くらう−おん=ざうし/へ¥まうす。¥ゐん/の−ごしよ/へ¥そうもん−せ/られ/たり/けれ/ば、¥ほふわう、「¥よりとも/に¥みせ/て¥のち/こそ、¥と/も−かう/も¥はからは/め。¥ただいま/は¥いかで/か¥ゆるす/べき」/と¥おほせ/けれ/ば、¥この¥よし/を¥ちうじやう=どの/に¥まうす。「¥さら/ば¥ねんらい¥ちぎつ/たる¥ひじり/に、¥いま−いちど¥たいめん−し/て、¥ごしやう/の¥こと/を/も¥まうし−だんぜ/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥とひの−じらう、「¥ひじり/を/ば¥たれ/と¥まうし¥さふらふ/やらん」。「¥くろだに/の¥ほふねん−ばう/と¥いふ¥ひと/なり」。「¥さて/は¥くるしう¥さふらふ/まじ、¥とうとう」/とて¥ゆるし¥たてまつる。P204¥さんみ/の−ちうじやう¥なのめ/なら/ず/に¥よろこび、¥やがて¥ひじり/を¥しやうじ¥たてまつ/て、¥なくなく¥まうさ/れ/ける/は、「¥こんど¥さいこく/にて¥いか/に/も−なる/べかり/し¥み/の、¥いき/ながら¥とらはれ/て、¥まかり−のぼり¥さふらふ/は、¥ふたたび¥しやうにん/の¥おん=げんざん/に¥いる/べき/にて¥さふらひ/けり。¥さて/も¥しげひら/が¥ごしやう¥いかが¥つかまつり¥さふらふ/べき。¥み/の¥み/にて¥さふらひ/し/ほど/は、¥しゆつし/に¥まぎれ、¥せいむ/に¥ほだされ、¥けうまん/の¥こころ/のみ¥ふかう/して、¥たうらい/の¥しようちん/を¥かへりみ/ず。¥いはんや¥うん¥つき¥よ¥みだれ/て、¥みやこ/を¥いで/し¥のち/は、¥ここ/に¥たたかひ¥かしこ/に¥あらそひ、¥ひと/を¥ほろぼし¥み/を¥たすから/ん/と¥おもふ¥あくしん/のみ¥さへぎつ/て、¥ぜんしん/は¥かつて¥おこら/ず。¥なかんづく¥なんと−えんしやう/の¥こと/は、¥わうめい/と¥まうし¥ぶめい/と¥いひ、¥きみ/に¥つかへ¥よ/に¥したがふ¥ほふ¥のがれ−がたう/して、¥しゆと/の¥あくぎやう/を¥しづめ/ん/が¥ため/に¥まかり−むかつ/て¥さふらへ/ば、¥ふりよ/に¥がらん/の¥めつばう/に¥および/ぬる¥こと/は、¥ちから¥およば/ざる¥しだい/なり。¥され/ども¥とき/の¥たいしやうぐん/にて¥さふらひ/し¥あひだ、¥せめ¥いちじん/に¥きす/とかや¥まうし¥さふらふ/なれ/ば、¥しげひら¥いち−にん/が¥ざいごふ/に/こそ¥なり¥さふらひ/ぬ/らめ/と¥おぼえ¥さふらふ。¥いま¥また¥かれ−これ¥はぢ/を¥さらす/も、¥しかしながら¥その¥むくい/と/のみ/こそ¥おもひ−しら/れ/て¥さふらへ。¥いま/は¥かみ/を¥そり、¥こつじき−づだ/の−ぎやう/を/も¥し/て、¥ひとへに¥ぶつだう−しゆぎやう−し/たく¥さふらへ/ども、¥かかる¥み/に¥まかり−なつ/て¥さふらへ/ば、¥こころ/に¥こころ/を/も¥まかせ¥さふらは/ず。¥いか/なる¥ぎやう/を¥しゆし/て/も、¥いちごふ¥たすかる/べし/と/も¥おぼえ/ぬ¥こと/こそ¥くちをしう¥さふらへ。¥つらつら¥いつしやう/の¥けぎやう/を¥あんずる/に、¥ざいごふ/は¥しゆみ/より/も¥たかく、¥ぜんごん/は¥みぢん/ばかり/も¥たくはへ¥なし。¥かくて¥いのち¥むなしう¥をはり¥さふらひ/な/ば、¥くわけつたう/の¥くくわ、¥あへて¥うたがひ¥なし。¥ねがは−く/は、¥しやうにん¥じひ/を¥おこし、¥あはれみ/を¥たれ¥たまひ/て、¥かかるP205¥あくにん/の¥たすかり/ぬ/べき¥ほうぼふ¥さふらは/ば、¥しめし¥たまへ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥しやうにん¥なみだ/に¥むせび¥うつぶし/て、¥しばし/は¥とかう/の¥こと/も¥のたまは/ず。¥
やや¥あつ/て¥しやうにん¥のたまひ/ける/は、「¥まことに¥うけ−がたき¥にんじん/を¥うけ/ながら、¥むなしく¥さんづ/に¥かへり¥ましまさ/ん¥こと、¥かなしん/で/も¥なほ¥あまり¥あり。¥しかる/に¥いま¥ゑど/を¥いとひ、¥じやうど/を¥ねがは/ん/と¥おぼしめさ/ば、¥あくしん/を¥すて/て¥ぜんしん/を¥おこし¥ましまさ/ん/に¥おいて/は、¥さんぜ/の¥しよぶつ/も¥さだめて¥ずゐき−し¥たまふ/らん。¥それ¥しゆつり/の¥みち¥まちまち/なり/と/は¥まうせ/ども、¥まつぽふ−ぢよくらん/の¥き/に/は、¥しようみやう/を¥もつて¥すぐれ/たり/と¥す。¥こころざし/を¥くほん/に¥わかち、¥ぎやう/を¥ろくじ/に¥つづめ/て、¥いか/なる¥ぐち−あんどん/の¥もの/も¥となふる/に¥たより¥あり。¥つみ¥ふかけれ/ば/とて、¥ひげ−し¥たまふ/べから/ず。¥じふあく¥ごぎやく¥ゑしん−すれ/ば¥わうじやう/を¥とぐ。¥くどく¥すくな/けれ/ば/とて、¥のぞみ/を¥たつ/べから/ず。¥いちねん−じふねん/の¥こころ/を¥いたせ/ば¥らいかう−す。¥せんしやう−みやうがう−し−さいはう/と¥しやくし/て、¥もつぱら¥みやうがう/を¥しようずれ/ば、¥さいはう/に¥いたり、¥ねんねん−しようみやう−じやう−ざんげ/と¥のたまひ/て、¥ねんねん/に¥みだ/を¥となふれ/ば、¥ざんげ−する/なり/と/ぞ¥をしへ/ける。¥りけん−そくぜ−みだがう/を¥たのめ/ば、¥まえん¥ちかづか/ず。¥いつしやう−しようねん−ざい−かいぢよ/と¥ねんずれ/ば、¥つみ¥みな¥のぞけ/り/と¥みえ/たり。¥じやうどしう/の¥しごく/は、¥おのおの¥りやく/を¥ぞんじ/て、¥たいりやく¥これ/を¥かんじん/と¥す。¥ただし¥わうじやう/の¥とくふ/は、¥しんじん/の¥いうぶ/に¥よる/べし。¥ただ¥この¥をしへ/を¥ふかく¥しんじ/て、¥ぎやうぢう−ざぐわ、¥じしよ−しよえん/を¥きらは/ず、¥さんげふ−しゐぎ/に¥おいて、¥しんねん−くしよう/を¥わすれ¥たまは/ず/は、¥ひつみやう/を¥ご/と/して、¥この¥くゐき/の¥かい/を¥いで/て、¥かの¥ごくらく−じやうど/の¥ふたい/の¥ど/に¥わうじやう−し¥たまは/ん¥こと、¥なん/の¥うたがひ/か¥あら/ん/や」/とP206¥けうげ−し¥たまへ/ば、¥さんみ/の−ちうじやう¥なのめ/なら/ず¥よろこび、「¥ねがは−く/は、¥この¥ついで/に¥かい/を¥たもた/ばや/と/は¥ぞんじ¥さふらへ¥ども、¥しゆつけ¥つかまつら/で/は¥かなひ¥さふらふ/まじ/や」/と¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥しやうにん、「¥しゆつけ−せ/ぬ¥ひと/も、¥かい/を¥たもつ¥こと/は¥つね/の¥ならひ/なり」/とて、¥ひたひ/に¥かみそり/を¥あて、¥そる¥まね/を¥し/て、¥じつかい/を¥さづけ/らる。¥ちうじやう¥ずゐき/の¥なみだ/を¥ながい/て、¥これ/を¥うけ−たもち¥たまふ。¥しやうにん/も¥よろづ¥もの−あはれ/に¥おぼえ/て、¥かき−くらす¥ここち−し/て、¥なくなく¥かい/を/ぞ¥とか/れ/ける。¥おん=ふせ/と¥おぼしく/て、¥ひごろ¥おはし/て¥あそば/れ/ける¥さぶらひ/の¥もと/に¥あづけ−おか/れ/たり/ける¥おん=すずり/を、¥ともとき/して¥めし−よせ/て、¥しやうにん/に¥たてまつり、「¥これ/を/ば¥ひと/に¥たび¥さふらは/で、¥つねに¥おん=め/の¥かから/んずる¥ところ/に¥おか/れ¥さふらひ/て、¥それがし/が¥もの/ぞ/かし/と¥ごらんぜ/られ/ん¥たび−ごと/に/は、¥おん=ねんぶつ¥さふらふ/べし。¥また¥おん=ひま/に/は、¥きやう/を/も¥いつくわん¥ご=ゑかう¥さふらは/ば、¥しかる/べう¥さふらふ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥しやうにん¥とかう/の¥へんじ/に/も¥および¥たまは/ず、¥これ/を¥とつ/て¥ふところ/に¥いれ、¥すみぞめ/の¥そで/を¥かほ/に¥おし−あて、¥なくなく¥くろだに/へ/ぞ¥かへら/れ/ける。¥くだん/の¥すずり/は、¥しんぷ¥にふだう−しやうこく、¥そうてう/の¥みかど/へ、¥しやきん/を¥おほく¥まゐら/させ¥たまひ/たり/しか/ば、¥へんぱう/と¥おぼしく/て、¥につぽん¥わだ/の¥へい−たいしやうこく/の¥もと/へ/とて、¥おくら/れ/たり/ける/とかや。¥な/を/ば¥まつかげ/と/ぞ¥まうし/ける。P207
「かいだうくだり」(『かいだうくだり』)S1006¥さる−ほど/に¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう−しげひらの−きやう/を/ば、¥かまくら/の−さきの−ひやうゑ/の−すけ−よりとも、¥しきり/に¥まうさ/れ/けれ/ば、¥さら/ば¥くださ/る/べし/とて、¥とひの−じらう−さねひら/が¥て/より、¥くらう−おん=ざうし/の¥しゆくしよ/へ¥わたし¥たてまつる。¥おなじき−さんぐわつ−とをかのひ、¥かぢはら−へいざう−かげとき/に¥ぐせ/られ/て、¥くわんとう/へ/こそ¥くだら/れ/けれ。¥さいこく/にて¥いか/に/も−なる/べかり/し¥ひと/の、¥いき/ながら¥とらはれ/て、¥みやこ/へ¥のぼり¥たまふ/だに¥くちをしき/に、¥いまさら¥また¥せき/の¥ひんがし/へ¥おもむか/れ/ん¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥しのみやがはら/に¥なり/ぬれ/ば、¥ここ/は¥むかし¥えんぎ¥だいし/の¥わうじ¥せみまる/の、¥せき/の¥あらし/に¥こころ/を¥すまし、¥びは/を¥ひき¥たまひ/し/に、¥はくが/の−さんみ/と¥いつ/し¥ひと、¥かぜ/の¥ふく¥ひ/も¥ふか/ぬ¥ひ/も、¥あめ/の¥ふる¥よ/も¥ふら/ぬ¥よ/も、¥みとせ/が¥あひだ¥あゆみ/を¥はこび、¥たち−きき/て、¥かの¥さんきよく/を¥つたへ/けん、¥わらや/の¥とこ/の¥いにしへ/も、¥おもひ−やら/れ/て¥あはれ/なり。¥あふさかやま¥うち−こえ/て、¥せた/の−からはし、¥こま/も¥とどろ/と¥ふみ−ならし、¥ひばり¥あがれ/る¥のぢ/の−さと、¥しが/の¥うらなみ¥はる¥かけ/て、¥かすみ/に¥くもる¥かがみやま、¥ひら/の−たかね/を¥きた/に¥し/て、¥いぶき/の−だけ/も¥ちかづき/ぬ。¥こころ/を¥とむ/と¥し¥なけれ/ども、¥あれ/て¥なかなか¥やさしき/は、¥ふは/の−せきや/の¥いたびさし、¥いか/にP208¥なる¥み/の¥しほひがた、¥なみだ/に¥そで/は¥しをれ/つつ、¥かの¥ありはらの−なにがし/の、¥からごろも¥き/つつ¥なれ/に/し/と¥ながめ/けん、¥みかはの−くに/の¥やつはし/に/も¥なり/ぬれ/ば、¥くもで/に¥もの/を/と¥あはれ/なり。¥はまな/の−はし/を¥わたり¥たまへ/ば、¥まつ/の¥こずゑ/に¥かぜ¥さえ/て、¥いりえ/に¥さわぐ¥なみ/の¥おと、¥さら/で/も¥たび/は¥もの−うき/に、¥こころ/を¥つくす¥ゆふまぐれ、¥いけだ/の−しゆく/に/も¥つき¥たまひ/ぬ。¥かの¥しゆく/の¥ちやうじや¥ゆや/が¥むすめ、¥じじう/が¥もと/に、¥その¥よ/は¥さんみ¥しゆくせ/られ/けり。¥じじう、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/を¥み¥たてまつ/て、「¥ひごろ/は¥つて/に/だに¥おぼしめし−より¥たまは/ぬ¥ひと/の、¥けふ/は¥かかる¥ところ/へ¥いら/せ¥たまふ¥こと/の¥ふしぎ−さ/よ」/とて、¥いつしゆ/の¥うた/を¥たてまつる。¥
たび/の¥そら¥はにふ/の¥こや/の¥いぶせ−さ/に¥ふるさと¥いか/に¥こひしかる/らむ W078¥
ちうじやう/の¥へんじ/に、¥
ふるさと/も¥こひしく/も¥なし¥たび/の¥そら¥みやこ/も¥つひ/の¥すみか/なら/ね/ば W079¥
やや¥あつ/て、¥ちうじやう、¥かぢはら/を¥めし/て、「¥さて/も¥ただいま/の¥うた/の¥ぬし/は、¥いか/なる¥もの/ぞ。¥やさしう/も¥つかまつ/たる/ものかな」/と¥のたまへ/ば、¥かげとき¥かしこまつ/て¥まうし/ける/は、「¥きみ/は¥いまだ¥しろしめさ/れ¥さふらは/ず/や。¥あれ/こそ¥やしま/の¥おほい=との/の、¥いまだ¥たう−ごく/の¥かみ/にて¥わたら/せ¥たまひ/し¥とき、¥めさ/れ¥まゐらせ/て、¥ご=さいあい¥さふらひ/し/に、¥らうぼ/を¥これ/に¥とどめ−おき、¥つね/は¥いとま/を¥まうし/しか/ども、¥たまはら/ざり/けれ/ば、¥ころ/は¥やよひ/の¥はじめ/にて/も/や¥さふらひ/けん、¥
いか/に−せ/む¥みやこ/の¥はる/も¥をしけれ/ど¥なれ/し¥あづま/の¥はな/や¥ちる/らむ W080
/とP209¥いふ¥めいか¥つかまつり、¥いとま/を¥たまはつ/て¥まかり−くだり¥さふらひ/し、¥かいだういち/の¥めいじん/にて¥さふらふ」/と/ぞ¥まうし/ける。¥みやこ/を¥いで/て¥ひかず¥ふれ/ば、¥やよひ/も¥なかば¥すぎ、¥はる/も¥すでに¥くれ/な/ん/と¥す。¥ゑんざん/の¥はな/は¥のこん/の¥ゆき/か/と¥みえ/て、¥うらうら−しまじま¥かすみ−わたり、¥こ/し−かた¥ゆく−すゑ/の¥こと=ども/を¥おもひ−つづけ¥たまふ/に/も、「¥こ/は¥され/ば¥いか/なる¥しゆくごふ/の¥うたて−さ/ぞ」/と¥のたまひ/て、¥ただ¥つきせ/ぬ¥もの/は¥なみだ/なり。¥おん=こ/の¥いち−にん/も¥おはせ/ぬ¥こと/を、¥はは/の¥にゐ=どの/も¥なげき、¥きたのかた¥だいなごん/の−すけ=どの/も、¥ほい−なき¥こと/に¥し¥たまひ/て、¥よろづ/の¥かみ−ほとけ/に¥かけ/て¥いのり¥まうさ/れ/けれ/ども、¥その¥しるし¥なし。「¥かしこう/ぞ¥なかり/ける。¥こ/だに/も¥あら/ましか/ば、¥いか/ばかり¥おもふ¥こと¥あら/む」/と¥のたまひ/ける/こそ¥せめて/の¥こと/なれ。¥さやのなかやま/に¥かかり¥たまふ/に/も、¥また¥こゆ/べし/と/も¥おぼえ/ね/ば、¥いとど¥あはれ/の¥かず−そひ/て、¥たもと/ぞ¥いたく¥ぬれ−まさる。¥うつ/の−やまべ/の¥つた/の¥みち、¥こころ−ぼそく/も¥うち−こえ/て、¥てごし/を¥すぎ/て¥ゆけ/ば、¥きた/に¥とほざかつ/て、¥ゆき¥しろき¥やま¥あり。¥とへ/ば¥かひ/の−しらね/と¥いふ。¥その−とき¥さんみ/の−ちうじやう¥おつる¥なみだ¥を¥おさへ/つつ、¥
をしから/ぬ¥いのち/なれ/ども¥けふ/まで/に¥つれなき¥かひ/の−しらね/を/も¥み/つ W081¥
きよみ/が−せき¥うち−こえ/て、¥ふじ/の−すその/に¥なり/ぬれ/ば、¥きた/に/は¥せいざん¥がが/と/して、¥まつ¥ふく¥かぜ¥さくさく/たり。¥みなみ/に/は¥さうかい¥まんまん/と/して、¥きし¥うつ¥なみ/も¥ぼうぼう/たり。「¥こひ−せ/ば¥やせ/ぬ/べし、¥こひ−せ/ず/も¥あり/けり」/と、¥みやうじん/の¥うたひ−はじめ¥たまひ/けん、¥あしがら/の−やま¥うち−こえ/て、P210¥こゆるぎ/の−もり、¥まりこがは、¥こいそ、¥おほいそ/の¥うらうら、¥やつまと、¥とがみがはら、¥みこしがさき/を/も¥うち−すぎ/て、¥いそが/ぬ¥たび/と/は¥おもへ/ども、¥ひかず¥やうやう¥かさなれ/ば、¥かまくら/へ/こそ¥いり¥たまへ。¥
「せんじゆ」(『せんじゆのまへ』)S1007¥さる−ほど/に¥ひやうゑ/の−すけ=どの、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/に¥たいめん¥あつ/て¥まうさ/れ/ける/は、「¥そもそも¥よりとも、¥きみ/の¥おん=いきどほり/を¥やすめ¥たてまつり、¥ちち/の¥はぢ/を¥きよめ/ん/と¥おもひ−たち/し¥うへ/は、¥へいけ/を¥ほろぼさ/ん¥こと、¥あん/の¥うち/に¥ぞんぜ/しか/ども、¥まさしう¥かやう/に¥おん=め/に¥かかる/べし/と/は、¥かけ/て/は¥ぞんじ¥さふらは/ず。¥この¥ぢやう/で/は、¥やしま/の¥おほい=との/の¥げんざん/に/も¥いり/ぬ/べし/と¥おぼえ¥さふらふ。¥さて/も¥なんと−えんしやう/の¥こと/は、¥こ=にふだう−しやうこく/の¥ご=せいばい/にて¥さふらひ/ける/か、¥また¥とき/に¥とつ/て/の¥おん=ぱからひ/か、¥もつて/の−ほか/の¥ざいごふ/で/こそ¥さふらふ/めれ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥さんみ/の−ちうじやう¥のたまひ/ける/は、「¥まづ¥なんと−えんしやう/の¥こと/は、¥こ=にふだう−しやうこく/の¥せいばい/に/も¥あら/ず、¥また¥しげひら/が¥わたくし/の¥ほつき/にて/も¥さふらは/ず。¥しゆと/の¥あくぎやう/を¥しづめ/ん/が¥ため/に、¥まかり−むかつ/て¥さふらひ/し/ほど/に、¥ふりよ/に¥がらん/の¥めつぼう/に¥および¥さふらひ/ぬる¥こと/は、¥ちから¥およば/ざる¥しだい/なり。¥こと−あたらしき¥まうしごと/にて¥さふらへ/ども、¥むかし/は¥げんぺい¥さう/に¥あらそひ/て、¥てうか/の¥おん=かため/たり/しか/ども、P211¥ちかごろ/は¥げんじ/の¥うん¥かたぶき−たつ/し¥こと、¥ひと¥みな¥ぞんぢ/の¥むね/なり。¥なかんづく¥たうけ/は¥ほうげん¥へいぢ/より¥この−かた、¥どど/の¥てうてき/を¥たひらげ、¥けんじやう¥み/に¥あまり、¥かたじけなく/も¥いつてん/の−きみ/の¥ご=ぐわいせき/と/して、¥ていそ¥だいじやうだいじん/に¥いたり、¥いちぞく/の¥しようじん¥ろくじふ−よ−にん、¥にじふ−よ−ねん/が¥この−かた/は、¥くわん−かかい¥てんが/に¥かた/を¥ならぶる¥もの/も¥さふらは/ず。¥それ/に¥つき¥さふらひ/て/は、¥ていわう/の¥おん=かたき¥うつ/たる¥もの/は、¥しちだい/まで¥てうおん¥つき/ず/と¥まうす¥こと/は、¥きはめ/たる¥ひがごと/にて/ぞ¥さふらひ/ける。¥その¥ゆゑ/は、¥まのあたり¥こ=にふだう−しやうこく/は、¥きみ/の¥おん=ため/に¥いのち/を¥うしなは/ん/と¥する¥こと¥どど/に¥およぶ。¥され/ども¥その¥み¥いちだい/の¥さいはひ/にて、¥しそん¥かやう/に¥なる/べき/やは。¥うん¥つき¥よ¥みだれ/て、¥みやこ/を¥いで/し¥のち/は、¥かばね/を¥さんや/に¥さらし、¥うき−な/を¥さいかい/の¥なみ/に¥ながさ/ばや/と/こそ¥ぞんぜ/し/に、¥いき/ながら¥とらはれ/て、¥これ/まで¥くだる/べし/と/は、¥ゆめゆめ¥ぞんじ¥さふらは/ず。¥ただ¥ぜんぜ/の¥しゆくごふ/こそ¥くちをしう¥さふらへ。¥ただし¥いんたう/は¥かたい/に¥とらはれ、¥ぶんわう/は¥いうり/に¥とらはる/と¥いふ¥もん¥あり。¥しやうこ¥なほ¥かく/の/ごとし。¥いはんや¥まつだい/に¥おいて/を/や。¥ゆみ−や¥とる¥み/の、¥かたき/の¥て/に¥わたつ/て、¥いのち/を¥うしなは/ん¥こと、¥まつたく¥はぢ/にて¥はぢ/なら/ず。¥ただ¥はうおん/に/は、¥とくとく¥かうべ/を¥はね/らる/べし」/とて、¥その−のち/は¥もの/を/も¥のたまは/ず。¥かぢはら¥これ/を¥うけたまはつ/て、「¥あつぱれ¥たいしやうぐん/や」/とて¥なみだ/を¥ながす。¥さぶらひ=ども/も¥みな¥そで/を/ぞ¥ぬらし/ける。¥ひやうゑ/の−すけ=どの/も¥まことに¥あはれ/に¥おもは/れ/けれ/ば、「¥そもそも¥へいけ/を、¥よりとも/が¥わたくし/の¥かたき/と/は、¥ゆめゆめ¥おもひ¥たてまつら/ず。¥ただ¥ていわう/の¥おほせ/こそ¥おもう¥さふらへ。¥さり/ながら/も¥なんと/を¥ほろぼさ/れ/たるP212¥がらん/の¥かたき/なれ/ば、¥だいしゆ¥さだめて¥まうす¥むね/も/や¥あら/んず/らん」/とて、¥いづの−くに/の¥ぢうにん、¥かの/の−すけ−むねもち/に/ぞ¥あづけ/られ/ける。¥その¥てい、¥めいど/にて¥しやば−せかい/の¥ざいにん/を、¥なぬか−なぬか/に¥じふわう/の¥て/へ¥わたさ/る/らん/も、¥かく/や/と¥おぼえ/て¥あはれ/なり。¥され/ども¥かの/の−すけ/は、¥なさけ−ある¥もの/にて、¥いたう¥きびしう/も¥あたり¥たてまつら/ず、¥やうやう/に¥いたはり¥まゐらせ、¥あまつさへ¥ゆ=どの¥しつらひ/なんど/して、¥おん=ゆ¥ひか/せ¥たてまつる。¥ちうじやう¥みち−すがら/の¥あせ¥いぶせかり/けれ/ば、¥み/を¥きよめ/て¥うしなは/れ/ん/に/こそ/と¥おもひ/て、¥まち¥たまふ¥ところ/に、¥やや¥あつ/て、¥とし/の−よはひ¥にじふ/ばかん/なる¥にようばう/の、¥いろ¥しろう¥きよ=げ/にて、¥かみ/の¥かかり¥まことに¥うつくしき/が、¥めゆひ/の¥かたびら/に、¥そめつけ/の¥ゆまき−し/て、¥ゆ=どの/の¥と¥おし−あけ/て¥まゐり/たり。¥その¥あと/に、¥じふしご/ばかん/なる¥め/の−わらは/の、¥かみ/は¥あこめだけ/なり/ける/が、¥こむらご/の¥かたびら¥き/て、¥はんざふ¥たらひ/に¥くし¥いれ/て¥もつ/て¥まゐり/たり。¥この¥にようばう¥かいしやく/にて、¥やや¥ひさしう¥お=ゆ¥ひか/せ¥たてまつり、¥かみ¥あらひ/なんど/して、¥いとま¥まうし/て¥いで/ける/が、「¥をとこ/なんど/は¥こと−なう/も/ぞ¥おぼしめす。¥をんな/は¥なかなか¥くるしかる/まじ/とて、¥かまくら=どの/より¥まゐらせ/られ/て¥さぶらふ。¥なにごと/も¥おぼしめす¥こと¥あら/ば、¥うけたまはつ/て¥まうせ/と/こそ、¥ひやうゑ/の−すけ=どの/は¥おほせ¥さぶらひ/つれ」。¥ちうじやう、「¥いま/は¥かかる¥み/と¥なつ/て、¥なにごと/を/か¥おもふ/べき。¥ただ¥おもふ¥こと/とて/は、¥しゆつけ/ぞ¥し/たき」/と¥のたまへ/ば、¥かの¥にようばう¥かへり−まゐつ/て、¥ひやうゑ/の−すけ=どの/に¥この¥よし/を¥まうす。¥ひやうゑ/の−すけ=どの、「¥それ¥おもひ/も¥よら/ず。¥わたくし/の¥かたき/なら/ば/こそ。¥てうてき/と/して¥あづかり¥たてまつ/たれ/ば、¥かなふ/まじ」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥かの¥をんな¥まゐつ/て、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/に¥この¥よし/をP213¥まうし、¥いとま¥まうし/て¥いで/けれ/ば、¥ちうじやう、¥しゆご/の−ぶし/に¥のたまひ/ける/は、「¥さて/も¥ただいま/の¥にようばう/は、¥いう/なり/つる/ものかな。¥な/を/ば¥なに/と¥いふ/やらん」/と¥とひ¥たまへ/ば、¥かの/の−すけ¥まうし/ける/は、「¥あれ/は¥てごしの−ちやうじや/が¥むすめ/で¥さふらふ/が、¥みめ−かたち、¥こころざま、¥いう/に¥わりなき¥もの/とて、¥この¥にさん−か−ねん/は、¥すけ=どの/に¥めし−おか/れ/て¥さふらふ。¥な/を/ば¥せんじゆのまへ/と¥まうし¥さふらふ」/と/ぞ¥まうし/ける。¥
その¥ゆふべ¥あめ¥すこし¥ふつ/て、¥よろづ¥もの−さびし=げ/なる¥をりふし、¥くだん/の¥にようばう、¥びは¥こと¥もた/せ/て¥まゐり/たり。¥かの/の−すけ/も、¥いへのこ−らうどう¥じふ−よ−にん¥ひき−ぐし/て、¥ちうじやう=どの/の¥おん=まへ¥ちかう¥さふらひ/ける/が、¥しゆ/を¥すすめ¥たてまつる。¥せんじゆのまへ¥しやく/を¥とる。¥ちうじやう¥すこし¥うけ/て、¥いと¥きよう−な=げ/にて¥おはし/けれ/ば、¥かの/の−すけ¥まうし/ける/は、「¥かつ¥きこしめさ/れ/て/も/や¥さふらふ/らん。¥むねもち/は、¥もと¥いづの−くに/の¥もの/にて¥さふらへ/ば、¥かまくら/で/は¥たび/にて¥さふらへ/ども、¥こころ/の¥およば/ん/ほど/は¥ほうこう¥つかまつり¥さふらふ/べし。¥なにごと/も¥おぼしめす¥こと¥あら/ば、¥うけたまはつ/て¥まうせ/と、¥ひやうゑ/の−すけ=どの¥おほせ¥さふらふ。¥それ¥なにごと/にて/も¥まうし/て、¥しゆ/を¥すすめ¥たてまつり¥たまへ」/と¥いひ/けれ/ば、¥せんじゆのまへ、¥しやく/を¥さし−おき、「¥らき/の¥ちようい/たる、¥なさけ−なき¥こと/を¥きふ/に¥ねたむ」/と¥いふ¥らうえい/を、¥いちりやう−へん−し/たり/けれ/ば、¥さんみ/の−ちうじやう、「¥この¥らうえい/を¥せ/ん¥ひと/を/ば、¥きたのの−てんじん、¥まいにち¥さんど¥かけつ/て、¥まぼら/ん/と¥ちかは/せ¥たまふ/と/なり。¥され/ども¥しげひら/は、¥こんじやう/にて/は、¥はや¥すて/られ¥たてまつ/たる¥み/なれ/ば、¥じよいん−し/て/も¥なにか¥せ/ん。¥ただし¥ざいしやう¥かるみ/ぬ/べき¥こと/なら/ば、¥したがふ/べし」/と¥のたまへ/ば、¥せんじゆのまへ¥やがて、「¥じふあく/と¥いへ/どもP214¥
なほ¥いんぜふ−す」/と¥いふ¥らうえい/を¥し/て、「¥ごくらく¥ねがは/ん¥ひと/は、¥みな¥みだ/の¥みやうがう/を¥となふ/べし」/と¥いふ¥いまやう/を、¥しごへん¥うたひ−すまし/たり/けれ/ば、¥その−とき¥ちうじやう¥さかづき/を¥かたぶけ/らる。¥せんじゆのまへ¥たまはつ/て¥かの/の−すけ/に¥さす。¥むねもち/が¥のむ¥とき/に、¥こと/を/ぞ¥ひき−すまし/たる。¥さんみ/の−ちうじやう、「¥ふつう/に/は¥この¥がく/を/ば、¥ごしやうらく/と¥いへ/ども、¥いま¥しげひら/が¥ため/に/は、¥ごしやうらく/と/こそ¥くわんず/べけれ。¥やがて¥わうじやう/の−きふ/を¥ひか/ん」/と¥たはぶれ、¥びは/を¥とり、¥てんじゆ/を¥ねぢ/て、¥わうじやう/の−きふ/を/ぞ¥ひか/れ/ける。¥かくて¥よ/も¥やうやう¥ふけ、¥よろづ¥こころ/の¥すむ¥まま/に、「¥あな¥おもは/ず/や、¥あづま/に/も¥かかる¥いう/なる¥ひと/の¥あり/ける/よ。¥それ¥なにごと/にて/も¥いま¥ひとこゑ」/と¥のたまへ/ば、¥せんじゆのまへ¥かさね/て、「¥いちじゆ/の¥かげ/に¥やどり−あひ、¥おなじ¥ながれ/を¥むすぶ/も、¥みな¥これ¥ぜんぜ/の¥ちぎり」/と¥いふ¥しらびやうし/を、¥まことに¥おもしろう¥かぞへ/たり/けれ/ば、¥さんみ/の−ちうじやう/も、「¥ともしび¥くらう/して/は、¥す−かう¥ぐし/が¥なんだ」/と¥いふ¥らうえい/を/ぞ¥せ/られ/ける。¥たとへば¥この¥らうえい/の¥こころ/は、¥むかし¥もろこし/に¥かん/の¥かうそ/と¥そ/の¥かうう/と¥くらゐ/を¥あらそひ、¥かつせん−する¥こと¥しちじふにど、¥たたかひ−ごと/に¥かうう¥かち/ぬ。¥され/ども¥つひ/に/は、¥かうう¥たたかひ¥まけ/て¥ほろび/し¥とき、¥すゐ/と¥いふ¥むま/の¥いちにち/に¥せんり/を¥とぶ/に¥のつ/て、¥ぐし/と¥いふ¥きさき/と¥とも/に、¥にげ−さら/ん/と¥し¥たまへ/ば、¥むま¥いかが¥おもひ/けん、¥あし/を¥ととのへ/て¥はたらか/ず。¥かうう¥なみだ/を¥ながい/て、¥わが¥ゐせい¥すでに¥すたれ/たり。¥かたき/の¥おそふ/は¥こと/の−かず/なら/ず。¥ただ¥この¥きさき/に¥わかれ/ん¥こと/を/のみ、¥なげき−かなしみ¥たまひ/けり。¥ともしび¥くらう¥なり/しか/ば、¥ぐし¥こころ−ぼそ−さ/に¥なみだ/を¥ながす。¥ふけ−ゆく¥まま/に/は、¥ぐんびやう¥しめん/に¥とき/を¥つくる。¥この¥こころ/を¥きつ−しやうこう/の¥し/に¥つくれ/る/を、P215¥さんみ/の−ちうじやう¥いま¥おもひ−いで、¥くちずさび¥たまふ/に/や、¥いと¥やさしう/ぞ¥きこえ/し。¥さる−ほど/に¥よ/も¥あけ/けれ/ば、¥かの/の−すけ¥いとま¥まうし/て¥まかり−いづ。¥せんじゆのまへ/も¥かへり/けり。¥その¥あした¥ひやうゑ/の−すけ=どの/は、¥ぢぶつだう/に¥ほけきやう¥よう/で¥おはし/ける¥ところ/へ、¥せんじゆのまへ¥かへり−まゐり/たり。¥ひやうゑ/の−すけ=どの¥うち−ゑみ¥たまひ/て、「¥さて/も¥ゆふべ¥ちうじん/を/ば、¥おもしろう/も¥し/つる/ものかな」/と¥のたまへ/ば、¥さいゐん/の−じくわん−ちかよし、¥おん=まへ/に¥もの¥かい/て¥さふらひ/ける/が、「¥なにごと/にて¥さふらふ/やらん」/と¥まうし/けれ/ば、¥すけ=どの¥のたまひ/ける/は、「¥へいけ/の¥ひとびと/は、¥この¥にさん−か−ねん/は、¥いくさ−かつせん/の¥いとなみ/の¥ほか/は、¥また¥たじ¥ある/まじき/と/こそ¥おもひ/し/に、¥さて/も¥さんみ/の−ちうじやう/の¥びは/の¥ばちおと、¥らうえい/の¥くちずさび、¥よ/も−すがら¥たち−きき/つる/に、¥いう/に¥やさしき¥ひと/にて¥おはし/けり」/と¥のたまへ/ば、¥ちかよし¥まうし/ける/は、「¥たれ/も¥ゆふべ¥うけたまはり/たく¥さふらひ/しか/ども、¥をりふし¥あひ−いたはる¥こと/の¥さふらひ/て、¥うけたまはら/ず¥さふらふ。¥この−のち/は¥つね/に¥たち−きき¥さふらふ/べし。¥へいけ/は¥だいだい¥かじん−さいじん=たち/にて¥わたら/せ¥たまひ¥さふらふ。¥せんねん¥あの¥ひとびと/を、¥はな/に¥たとへ/て¥さふらひ/し/に/は、¥この¥さんみ/の−ちうじやう=どの/を/ば、¥ぼたん/の¥はな/に¥たとへ/て¥さふらひ/しか」/と/ぞ¥まうし/ける。¥さんみ/の−ちうじやう/の¥びは/の¥ばちおと、¥らうえい/の¥くちずさみ、¥ひやうゑ/の−すけ=どの、¥のち/まで/も¥あり−がたき¥こと/に/ぞ¥のたまひ/ける。¥その−のち¥ちうじやう¥なんと/へ¥わたさ/れ/て、¥きら/れ¥たまひ/ぬ/と¥きこえ/しか/ば、¥せんじゆのまへ/は、¥なかなか¥もの−おもひ/の¥たね/と/や¥なり/に/けん、¥やがて¥さま/を¥かへ、¥こき¥すみぞめ/に¥やつれ−はて/て、¥しなのの−くに¥ぜんくわうじ/に¥おこなひ−すまし/て、¥かの¥ごせ−ぼだい/を、¥とぶらひ/ける/ぞ¥あはれ/なる。P216
「よこぶえ」(『よこぶえ』)S1008¥さる−ほど/に¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/は、¥みがら/は¥やしま/に¥あり/ながら、¥こころ/は¥みやこ/へ¥かよは/れ/けり。¥ふるさと/に¥とどめ−おき¥たまひ/し¥きたのかた¥をさなき¥ひとびと/の¥おもかげ/のみ、¥み/に¥ひし/と¥たち−そひ/て、¥わするる¥ひま/も¥なかり/けれ/ば、¥ある/に¥かひ−なき¥わが−み/かな/とて、¥じゆえい−さんねん−さんぐわつ−じふごにち/の¥あかつき、¥しのび/つつ¥やしま/の−たち/を/ば¥まぎれ−いで、¥よさう−びやうゑ−しげかげ、¥いしどうまる/と¥いふ¥わらは、¥ふね/に¥こころ−え/たれ/ば/とて、¥たけさと/と¥いふ¥とねり、¥これ¥さん−にん/を¥めし−ぐし/て、¥あはの−くに¥ゆふき/の−うら/より¥ふね/に¥のり、¥なると/の−おき/を¥こぎ−すぎ/て、¥き/の−ぢ/へ¥おもむき¥たまひ/けり。¥わか、¥ふきあげ、¥そとほりひめ/の¥かみ/と¥あらは/れ¥たまへ/る¥たまつしまの−みやうじん、¥にちぜん¥こくけん/の¥お=まへ/を¥すぎ/て、¥き/の−みなと/に/こそ¥つき¥たまへ。¥それ/より¥やま−づたひ/に¥みやこ/へ¥のぼり、¥こひしき¥もの=ども/を/も、¥いま−いちど¥み/も¥し、¥みえ/ばや/と/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥をぢ¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう=どの/の¥いけどり/に¥せ/られ/て、¥きやう¥かまくら¥はぢ/を¥さらさ/せ¥たまふ/だに/も¥くちをしき/に、¥この¥み/さへ¥とらはれ/て、¥ちち/の¥かばね/に¥ち/を¥あやさ/ん¥こと/も¥こころ−うし/とて、¥ちたび¥こころ/は¥すすめ/ども、¥こころ/に¥こころ/を¥からかひ/て、¥かうや/の−お=やま/へ¥まゐり¥たまふ。¥かうや/に¥としごろ¥しり¥たまへ/る¥ひじり¥あり。¥さんでうの−さいとう−ざゑもん−もちより/が¥こ/に、¥さいとう−たきぐち−ときより/とて、P217¥もと/は¥こまつ=どの/の¥さぶらひ/たり/し/が、¥じふさん/の¥とし¥ほんじよ/へ¥まゐり/たり。¥けんれいもんゐん/の¥ざふし¥よこぶえ/と¥いふ¥をんな¥あり。¥たきぐち¥これ/に¥さいあい−す。¥ちち¥この¥よし/を¥つたへ−きい/て、「¥よ/に¥あら/ん¥もの/の¥むこご/に/も¥なし、¥しゆつし/なんど/を/も、¥こころ−やすう¥せ/させ/ん/と¥おもひ−ゐ/たれ/ば、¥よし−なき¥もの/を¥おもひ−そめ/て」/など、¥あながち/に¥いさめ/けれ/ば、¥たきぐち¥まうし/ける/は、「¥せいわうぼ/と¥いつ/し¥ひと/も、¥むかし/は¥あつ/て¥いま/は¥なし。¥とうばうさく/と¥きき/し¥もの/も、¥な/を/のみ¥きき/て¥め/に/は¥み/ず。¥らうせう−ふぢやう/の¥さかひ/は、¥ただ¥せきくわ/の¥ひかり/に¥こと/なら/ず。¥たとひ¥ひと¥ぢやうみやう/と¥いへ/ども、¥しちじふ¥はちじふ/を/ば¥すぎ/ず。¥その¥うち/に¥み/の¥さかん/なる¥こと/は、¥わづか/に¥にじふ−よ−ねん/なり。¥ゆめ−まぼろし/の¥よ/の−なか/に、¥みにくき¥もの/を、¥かたとき/も¥み/て¥なにか¥せ/ん。¥おもはしき¥もの/を¥み/ん/と¥すれ/ば、¥ちち/の¥めい/を¥そむく/に¥に/たり。¥これ¥ぜんぢしき/なり。¥しかじ、¥うき−よ/を¥いとひ、¥まこと/の−みち/に¥いり/な/ん」/とて、¥じふく/の¥とし¥もとどり¥きつ/て、¥さが/の¥わうじやうゐん/に¥おこなひ−すまし/て/ぞ¥ゐ/たり/ける。¥
よこぶえ¥この¥よし/を¥つたへ−きい/て、¥われ/を/こそ¥すて/め、¥さま/を/さへ¥かへ/けん¥こと/の¥うらめし−さ/よ。¥たとひ¥よ/を/ば¥そむく/とも、¥など/か/は¥かくと¥しらせ/ざら/ん。¥ひと/こそ¥こころ−づよく/とも、¥たづね/て¥うらみ/ん/と¥おもひ/つつ、¥ある¥くれがた/に¥みやこ/を¥いで/て、¥さが/の¥かた/へ/ぞ¥あくがれ/ける。¥ころ/は¥きさらぎ¥とをか−あまり/の¥こと/なれ/ば、¥うめづ/の−さと/の¥はるかぜ/に、¥よそ/の¥にほひ/も¥なつかしく、¥おほゐがは/の¥つきかげ/も、¥かすみ/に¥こめ/て¥おぼろ/なり。¥ひとかた/なら/ぬ¥あはれ−さ/も、¥たれ¥ゆゑ/と/こそ¥おもひ/けめ。¥わうじやうゐん/と/は¥きき/つれ/ども、¥さだか/に¥いづれ/の¥ばう/と/も¥しら/ざれ/ば、P218¥ここ/に¥やすらひ¥かしこ/に¥たたずみ、¥たづね−かぬる/ぞ¥むざん/なる。¥すみ−あらし/たる¥そうばう/に、¥ねんじゆ/の¥こゑ−し/ける/を、¥たきぐち−にふだう/が¥こゑ/と¥きき−すまし/て、「¥おん=さま/の¥かはり/て¥おはす/らん/を/も、¥み/も¥し¥みえ¥まゐらせ/ん/が¥ため/に、¥わらは/こそ¥これ/まで¥まゐつ/て¥さぶらへ」/と、¥ぐし/たる¥をんな/に¥いは/せ/けれ/ば、¥たきぐち−にふだう、¥むね¥うち−さわぎ、¥あさまし−さ/に、¥しやうじ/の¥ひま/より¥のぞき/て¥みれ/ば、¥すそ/は¥つゆ、¥そで/は¥なみだ/に¥うち−しをれ/つつ、¥すこし¥おも−やせ/たる¥かほばせ、¥まことに¥たづね−かね/たる¥ありさま、¥いか/なる¥だいだうしんじや/も、¥こころ−よわう¥なり/ぬ/べし。¥たきぐち−にふだう、¥ひと/を¥いだい/て、「¥まつたく¥これ/に/は¥さる−ひと¥なし。¥もし¥かどたがへ/にて/も/や¥さふらふ/らん」/と、¥いは/せ/たり/けれ/ば、¥よこぶえ¥なさけ−なう¥うらめしけれ/ども、¥ちから¥およば/ず、¥なみだ/を¥おさへ/て¥かへり/けり。¥その−のち¥たきぐち−にふだう、¥どうしゆく/の¥そう/に¥かたり/ける/は、¥これ/も¥よに¥しづか/にて、¥ねんぶつ/の¥しやうげ/は¥さふらは/ね/ども、¥あか/で¥わかれ/し¥をんな/に、¥この¥すまひ/を¥みえ/て¥さふらへ/ば、¥たとひ¥いちど/は¥こころ−づよく/とも、¥また/も¥したふ¥こと¥あら/ば、¥こころ/も¥はたらき¥さふらひ/な/んず。¥いとま¥まうす」/とて、¥さが/を/ば¥いで/て¥かうや/へ¥のぼり、¥しやうじやう−しん−ゐん/に¥おこなひ−すまし/て/ぞ¥ゐ/たり/ける。¥よこぶえ/も¥やがて¥さま/を¥かへ/ぬる¥よし¥きこえ/しか/ば、¥たきぐち−にふだう、¥いつしゆ/の¥うた/を/ぞ¥おくり/ける。¥
そる/まで/は¥うらみ/しか/ども¥あづさゆみ¥まこと/の−みち/に¥いる/ぞ¥うれしき W082¥
よこぶえ/が¥へんじ/に、¥
そる/とて/も¥なにか¥うらみ/む¥あづさゆみ¥ひき−とどむ/べき¥こころ/なら/ね/ば W083 
P219¥その−のち¥よこぶえ/は、¥なら/の¥ほつけじ/に¥あり/ける/が、¥その¥おもひ/の¥つもり/に/や、¥いく−ほど¥なく/て、¥つひに¥はかなく¥なり/に/けり。¥たきぐち−にふだう¥この¥よし/を¥つたへ−きい/て、¥いよいよ¥ふかう¥おこなひ−すまし/て¥ゐ/たり/けれ/ば、¥ちち/も¥ふけう/を¥ゆるし/けり。¥したしき¥もの=ども/も¥みな¥もちひ/て、¥かうや/の−ひじり/と/ぞ¥まうし/ける。¥さんみ/の−ちうじやう、¥この¥ひじり/に¥たづね−あひ/て¥み¥たまふ/に、¥みやこ/に¥あり/し¥とき/は、¥ほうい/に¥たて−ゑぼし、¥えもん/を¥つくろひ、¥びん/を¥なで、¥はなやか/なり/し¥をのこ/なり。¥しゆつけ/の¥のち/は、¥けふ¥はじめて¥み¥たまふ/に、¥いまだ¥さんじふ/に/も¥なら/ざる/が、¥らうそう¥すがた/に¥やせ−おとろへ、¥こき¥すみぞめ/に¥おなじ¥けさ、¥かう/の¥けぶり/に¥しみ−かをり、¥さかし=げ/に¥おもひ−いつ/たる¥だうしんじや、¥うらやましう/や¥おもは/れ/けん。¥かの¥しん/の¥しちげん、¥かん/の¥しかう/が¥すみ/けん、¥しやうざん、¥ちくりん/の¥ありさま/も、¥これ/に/は¥すぎ/じ/と/ぞ¥みえ/し。¥
「かうやのまき」(『かうやのまき』)S1009¥たきぐち−にふだう、¥さんみ/の−ちうじやう/を¥み¥たてまつり、「¥こ/は¥うつつ/と/も¥おぼえ¥さふらは/ぬ/ものかな。¥さて/も¥やしま/を/ば、¥なに/と/して/かは¥のがれ/させ¥たまひ/て¥さふらふ/やらん」/と¥まうし/けれ/ば、¥さんみ/の−ちうじやう、「¥され/ば/とよ、¥みやこ/を/ば¥ひと¥なみなみ/に¥いで/て、¥さいこく/へ¥おち−くだり/たり/しか/ども、P220¥ふるさと/に¥とどめ−おき/たり/し¥をさなき¥もの=ども/が¥おもかげ/のみ、¥み/に¥ひしと¥たち−そひ/て、¥わするる¥ひま/も¥なかり/しか/ば、¥その¥もの−おもふ¥こころ/や、¥いは/ぬ/に¥しるく/や¥みえ/けん、¥おほい=との/も¥にゐ=どの/も、¥この¥ひと/は¥いけの−だいなごん/の¥やう/に、¥よりとも/に¥こころ/を¥かよはし/て、¥ふたごころ¥あり/な/ん/と¥おもひ−へだて¥たまふ¥あひだ、¥いとど¥こころ/も¥とどまら/で、¥これ/まで¥あくがれ−いで/たん/なり。¥これ/にて¥しゆつけ−し/て、¥ひ/の¥なか¥みづ/の¥そこ/へ/も、¥いり/な/ばや/と/は¥おもへ/ども、¥ただし¥くまの/へ¥まゐり/たき¥しゆくぐわん¥あり」/と¥のたまへ/ば、¥たきぐち−にふだう¥まうし/ける/は、「¥ゆめ−まぼろし/の¥よ/の−なか/は、¥とても−かくても¥さふらひ/な/んず。¥ただ¥ながき¥よ/の¥やみ/こそ¥こころ−うかる/べう¥さふらへ」/と/ぞ¥まうし/ける。¥やがて¥この¥たきぐち−にふだう/を¥せんだち/にて、¥だうたふ¥じゆんれい−し/て、¥おく/の¥ゐん/へ/ぞ¥まゐら/れ/ける。¥かうやさん/は¥ていせい/を¥さつ/て¥じはくり、¥きやうり/を¥はなれ/て¥むにんじやう、¥せいらん¥こずゑ/を¥ならし/て/は、¥せきじつ/の¥かげ¥しづか/なり。¥はちえふ/の¥みね、¥やつ/の¥たに、¥まことに¥こころ/も¥すみ/ぬ/べし。¥はな/の¥いろ/は¥りんぶ/の¥そこ/に¥ほころび、¥れい/の¥おと/は¥をのへ/の¥くも/に¥ひびけ/り。¥かはら/に¥まつ¥おひ¥かき/に¥こけ¥むし/て、¥せいざう¥ひさしく¥おぼえ/たり。¥むかし¥えんぎの−みかど/の¥おん=とき、¥ご=むさう/の¥おん=つげ¥あつ/て、¥ひはだいろ/の¥ぎよ=い/を¥まゐら/させ¥たまふ/に、¥ちよくし¥ちうなごん−すけずみの−きやう、¥はんにやじ/の¥そうじやう¥くわんげん/を¥あひ−ぐし/て、¥この¥お=やま/に¥のぼり、¥みめう/の¥とびら/を¥おし−ひらき、¥おん=ころも/を¥きせ¥たてまつら/ん/と¥し/ける/に、¥きり¥あつう¥へだたつ/て、¥だいし¥をがま/れ/させ¥たまは/ず。¥ときに¥くわんげん¥ふかく¥しうるゐ−し/て、「¥われ¥ひも/の¥たいない/を¥いで/て、¥ししやう/の¥しつ/に¥いつ/し/より¥この−かた、¥いまだ¥きんかい/を¥ぼんぜ/ず、¥され/ば¥など/かP221¥をがみ¥たてまつら/ざる/べき」/とて、¥ごたい/を¥ち/に¥なげ、¥ほつろ−ていきふ−し¥たまへ/ば、¥やうやう¥きり¥はれ/て、¥つき/の¥いづる/が/ごとく/に、¥だいし¥をがま/れ/させ¥たまひ/けり。¥その−とき¥くわんげん¥ずゐき/の¥なみだ/を¥ながい/て、¥おん=ころも/を¥きせ¥たてまつり、¥おん=ぐし/の¥ながう¥おひ−のび/させ¥たまひ/たる/を/も、¥そり¥たてまつる/ぞ¥あり−がたき。¥ちよくし/と¥そうじやう/は¥をがみ¥たまへ/ども、¥そうじやう/の¥おん=でし、¥いしやま/の−ないく−しゆんいう、¥その−とき/は¥いまだ¥とうぎやう/にて¥ぐぶ−せ/られ/たり/し/が、¥だいし/を¥をがみ¥たてまつら/ず/して、¥ふかう¥なげき−しづん/で¥おはし/ける/を、¥そうじやう¥て/を¥とつ/て、¥だいし/の¥おん=ひざ/に¥おし−あて/られ/たり/けれ/ば、¥その¥て¥いちご/が¥あひだ、¥かうばしかり/ける/とかや。¥その¥うつりが/は、¥いしやま/の¥しやうげう/に¥のこつ/て、¥いま/に¥あり/と/ぞ¥うけたまはる。¥だいし、¥みかど/の¥おん=ぺんじ/に¥まうさ/せ¥たまひ/ける/は、「¥われ¥むかし¥さつた/に¥あひ/て、¥まのあたり¥ことごとく¥いんみやう/を¥つたふ。¥むび/の¥せいぐわん/を¥おこし/て、¥へんり/の¥いゐき/に¥はんべり。¥ちうや/に¥ばんみん/を¥あはれん/で、¥ふげん/の¥ひぐわん/に¥ぢうせ/り。¥にくしん/に¥さんまい/を¥しようじ/て、¥じし/の¥げしやう/を¥まつ」/と/ぞ¥まうさ/せ¥たまひ/ける。¥かの¥まかかせふ/の¥けいそく/の¥ほら/に¥こもつ/て、¥しづ/の¥はる/の¥かぜ/を¥こし¥たまふ/らん/も、¥かく/や/と/ぞ¥おぼえ/ける。¥ご=にふぢやう/は、¥しようわ−にねん−さんぐわつ−にじふいちにち、¥とら/の−いつてん/の¥こと/なれ/ば、¥すぎ/に/し¥かた/は¥さんびやく−よ−さい、¥ゆく−すゑ/も¥なほ¥ごじふろくおくしちせんまんざい/の¥のち、¥じそん/の¥しゆつせ、¥さんゑ/の¥あかつき/を¥また/せ¥たまふ/らん/こそ¥ひさしけれ。P222
「これもりのしゆつけ」(『これもりのしゆつけ』)S1010「¥これもり/が¥み/の¥いつ/と−なく、¥せつせん/の¥とり/の¥なく/らん¥やう/に、¥けふ/よ¥あす/よ/と¥おもふ¥こと/を」/とて、¥なみだぐみ¥たまふ/ぞ¥あはれ/なる。¥しほかぜ/に¥くろみ、¥つきせ/ぬ¥もの−おもひ/に¥やせ−おとろへ/て、¥その¥ひと/と/は¥みえ¥たまは/ね/ども、¥なほ¥よ/の¥ひと/に/は¥すぐれ¥たまへ/り。¥その¥よ/は¥たきぐち−にふだう/が¥あんじつ/に¥かへつ/て、¥むかし−いま/の¥ものがたり=ども¥し¥たまひ/けり。¥ふけ−ゆく¥まま/に、¥ひじり/が¥ぎやうぎ/を¥み¥たまへ/ば、¥しごく−じんじん/の¥ゆか/の¥うへ/に/は、¥しんり/の−たま/を¥みがく/らん/と¥みえ/て、¥ごや¥じんでう/の¥かね/の¥こゑ/に/は、¥しやうじ/の¥ねぶり/を¥さます/らん/と/も¥おぼえ/たり。¥のがれ/ぬ/べく/は、¥かくても¥あら/まほしう/や¥おもは/れ/けん。¥あけ/けれ/ば、¥とうぜんゐん/の¥ちかく−しやうにん/と¥まうす¥ひじり/を¥しやうじ¥たてまつ/て、¥しゆつけ−せ/ん/と¥し¥たまひ/ける/が、¥よさう−びやうゑ−しげかげ、¥いしどうまる/を¥めし/て¥のたまひ/ける/は、「¥これもり/こそ¥ひと−しれ/ぬ¥おもひ/を¥み/に¥そへ/ながら、¥みち¥せばう¥のがれ−がたき¥み/なれ/ば、¥いか/に/も−なる/と¥いふ/とも、¥なんぢ=ら/は¥いのち/を¥すつ/べから/ず。¥このごろ/は¥よ/に¥ある¥ひと/こそ¥おほけれ。¥われ¥いか/に/も−なり/な/ん¥のち、¥いそぎ¥みやこ/へ¥のぼつ/て、¥おのおの/が¥み/を/も¥たすけ、¥かつうは¥さいし/を/も¥はぐくみ、¥かつうは¥これもり/が¥ごせ/を/も¥とぶらへ/かし」/と¥のたまへ/ば、¥ににん/の¥もの=ども、¥なみだ/に¥むせび¥うつぶし/て、¥しばし/は¥とかう/のP223¥おん=ぺんじ/に/も¥およば/ず。¥やや¥あつ/て、¥しげかげ¥なみだ/を¥おさへ/て¥まうし/ける/は、「¥しげかげ/が¥ちち¥よさう−ざゑもん−かげやす/は、¥へいじ/の−げきらん/の¥とき、¥こ=との/の¥おん=とも/に¥さふらひ/て、¥にでうほりかは/の¥へん/にて、¥かまだ−びやうゑ/と¥くん/で、¥あく−げんだ/に¥うた/れ¥さふらひ/ぬ。¥しげかげ/も¥なじか/は¥おとり¥さふらふ/べき/なれ/ども、¥その−とき/は¥いまだ¥にさい/に¥なり¥さふらへ/ば、¥すこし/も¥おぼえ¥さふらは/ず。¥はは/に/は¥しちさい/にて¥おくれ¥さふらひ/ぬ。¥なさけ/を¥かく/べき¥したしき¥もの、¥いち−にん/も¥さふらは/ざり/し/に、¥こ=おほい=との、¥おん=あはれみ¥さふらひ/て、¥あれ/は¥わが¥いのち/に¥かはり/たり/し¥もの/の¥こ/なれ/ば/とて、¥あさゆふ¥おん=まへ/にて、¥そだて/られ¥まゐらせ/て、¥しやうねん¥ここのつ/と¥まうし/し¥とき、¥きみ/の¥おん=げんぶく¥さふらひ/し¥よ、¥かたじけなく/も¥かしら/を¥とり−あげ/られ¥まゐらせ/て、『¥もり/の¥じ/は¥いへ/の¥じ/なれ/ば、¥ごだい/に¥つく。¥しげ/の¥じ/を/ば¥まつわう/に』/と¥おほせ/られ/て、¥しげかげ/と/は¥めさ/れ¥まゐらせ/ける/なり。¥その−うへ¥わらは−な/を¥まつわう/と¥まうし/ける¥こと/も、¥うまれ/て¥いみ¥ごじふにち/と¥まうす/に、¥ちち/が¥いだい/て¥まゐり/たり/しか/ば、『¥この¥いへ/を¥こまつ/と¥いへ/ば、¥いはう/て¥つくる/なり』/と¥おほせ/られ/て、¥まつわう/と/は¥つけ/られ¥まゐらせ/て¥さふらひ/ける/なり。¥ちち/が¥よう/て¥しに/ける/も、¥わが−み/の¥みやうが/と¥おぼえ¥さふらふ。¥ずゐぶん¥どうれい=ども/に/も、¥ほうじん−せ/られ/て/こそ¥まかり−すぎ¥さふらひ/しか。¥され/ば¥ご=りんじう/の¥おん=とき/も、¥この¥よ/の−なか/の¥こと/を/ば、¥おぼしめし−すて/て、¥いちじ/も¥おほせ/られ/ざり/し/に、¥しげかげ/を¥おん=まへ/へ¥めし/て、『¥あな¥むざん、¥なんぢ/は¥しげもり/を¥ちち/が¥かたみ/と¥おもひ、¥しげもり/は¥なんぢ/を¥かげやす/が¥かたみ/と¥おもひ/て/こそ¥すごし/つれ。¥こんど/の¥ぢもく/に¥ゆきへの−じよう/に¥なし/て、¥ちち¥かげやす/を¥よび/し¥やう/に、¥めさ/ばや/と/こそ¥おぼしめし/つる/に、¥むなしう/なる/こそP224¥かなしけれ。¥
あひ−かまへ/て¥せうしやう=どの/の¥おん=こころ/に/ばし¥たがひ¥まゐらす/な』/と/こそ¥おほせ¥さふらひ/しか。¥ひごろ/は¥しぜん/の¥こと/も¥さふらは/ば、¥まづ¥まつさき/に¥いのち/を¥たてまつら/う/ど/こそ¥ぞんじ¥さふらひ/し/に、¥み−すて¥まゐらせ/て¥おつ/べき¥もの/と¥おぼしめさ/れ¥さふらふ¥おん=こころ/の¥うち/こそ¥はづかしう¥さふらへ。『¥このごろ/は¥よ/に¥ある¥ひと/こそ¥おほけれ』/と、¥おほせ/を¥かうむり¥さふらふ/は、¥たうじ/の/ごとくん/ば、¥みな¥げんじ/の¥らうどう=ども/こそ¥さふらふ/らめ。¥きみ/の¥かみ/に/も¥ほとけ/に/も¥なら/せ¥たまひ/な/ん¥のち、¥たのしみ−さかえ¥さふらふ/とも、¥せんねん/の¥よはひ/を¥ふる/べき/か。¥たとひ¥まんねん/を¥たもち¥さふらふ/とも、¥つひに/は¥をはり/の¥なかる/べき/かは。¥これ/に¥すぎ/たる¥ぜんぢしき、¥なにごと/か¥さふらふ/べき」/とて、¥てづから¥もとどり¥きつ/て、¥たきぐち−にふだう/に/ぞ¥そら/せ/ける。¥いしどうまる/も¥これ/を¥み/て、¥もとゆひ−ぎは/より¥かみ/を¥きる。¥これ/も¥やつ/より¥つき¥まゐらせ/て、¥しげかげ/に/も¥おとら/ず、¥ふびん/に¥し¥たまひ/しか/ば、¥おなじう¥たきぐち−にふだう/に/ぞ¥そら/れ/ける。¥これ=ら/が¥さきだつ/て¥かやう/に¥なる/を¥み¥たまふ/に¥つけ/て/も、¥いとど¥こころ−ぼそう/ぞ¥なら/れ/ける。「¥あはれ¥いか/に/も−し/て、¥かはら/ぬ¥すがた/を¥いま−いちど、¥こひしき¥もの=ども/に¥みえ/て¥のち、¥かく/なら/ば¥おもふ¥こと¥あら/じ」/と¥のたまひ/ける/こそ¥せめて/の¥こと/なれ。¥さて/しも¥ある/べき¥こと/なら/ね/ば、「¥るてん−さんがい−ちう、¥おんあい−ふのうだん、¥き−おん−にふ−むゐ、¥しんじつ−はうおんじや」/と¥さんべん¥となへ¥たまひ/て、¥つひに¥そり−おろさ/せ¥たまひ/てげり。¥さんみ/の−ちうじやう/と¥よさう−びやうゑ/は、¥どうねん/にて¥ことし/は¥にじふしちさい/なり。¥いしどうまる/は¥じふはち/に/ぞ¥なり/に/ける。¥やや¥あつ/て¥とねり−たけさと/を¥めし/て、「¥あな−かしこ、¥なんぢ/は¥これ/より¥みやこ/へ/は¥のぼる/べから/ずP225。¥その¥ゆゑ/は¥つひに/は¥かくれ¥ある/まじけれ/ども、¥まさしう¥この¥ありさま/を¥きい/て/は、¥やがて¥さま/を/も¥かへ/んず/らん/と¥おぼゆる/ぞ。¥ただ¥これ/より¥やしま/へ¥まゐつ/て、¥ひとびと/に¥まうさ/んずる¥こと/は/よな。『¥かつ¥ごらんじ¥さふらひ/し¥やう/に、¥おほかた/の¥せけん/も¥もの−うく、¥あぢきな−さ/も¥よろづ¥かず−そひ/て¥おぼえ/し/ほど/に、¥ひとびと/に¥かく/と/も¥しらせ¥まゐらせ/ず/して、¥かやう/に¥まかり/なり¥さふらひ/ぬる¥こと/は、¥さいこく/にて¥ひだん/の−ちうじやう¥うせ¥さふらひ/ぬ。¥いちのたに/にて¥びつちうの−かみ¥うた/れ¥さふらひ/ぬ。¥これもり/さへ¥かやう/に¥なり¥さふらへ/ば、¥いか/に¥おのおの/の¥たより−なう¥おぼしめさ/れ¥さふらは/んず/らん/と、¥それ/のみ/こそ¥こころ−ぐるしう¥さふらへ。¥そもそも¥からかは/と¥いふ¥よろひ、¥こがらす/と¥いふ¥たち/は、¥へい−しやうぐん−さだもり/より¥この−かた、¥たうけ/に¥つたへ/て、¥これもり/まで/は¥ちやくちやく¥くだい/に¥あひ−あたる。¥この−のち¥もし¥うんめい¥ひらけ/て、¥みやこ/へ¥かへり−のぼら/せ¥たまふ¥こと/も¥さふらは/ば、¥ろくだい/に¥たぶ/べし』/と¥まうす/べし」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥たけさと¥なみだ/に¥むせび¥うつぶし/て、¥しばし/は¥とかう/の¥おん=ぺんじ/に/も¥およば/ず。¥やや¥あつ/て¥なみだ/を¥おさへ/て¥まうし/ける/は、「¥いづく/まで/も¥おん=とも¥まうし、¥さいご/の¥おん=ありさま/を/も¥み¥まゐらせ/て¥のち/こそ、¥やしま/へ/も¥まゐら/め」/と¥まうし/けれ/ば、¥さら/ば/とて¥めし−ぐせ/らる。¥ぜんぢしき/の¥ため/に/とて、¥たきぐち−にふだう/を/も¥ぐせ/られ/けり。¥かうや/を/ば¥やまぶし¥しゆぎやうじや/の¥やう/に¥いで−たつ/て、¥おなじき−くに/の¥うち、¥さんどう/へ/こそ¥いで/られ/けれ。¥ふじしろの−わうじ/を¥はじめ¥たてまつ/て、¥わうじ−わうじ/を¥ふし−をがみ、¥まゐり¥たまふ/ほど/に、¥せんりのはま/の¥きた、¥いはしろの−わうじ/の¥おん=まへ/にて、¥かりしやうぞく/なる¥もの、¥しちはつき/が/ほど¥ゆき−あひ¥たてまつる。「¥すでに¥からめ−とら/んずる/に/こそ。¥はら/を¥きら/ん」/と¥おのおの¥こし/の¥かたな/に¥て/を¥かけ¥たまふ¥ところ/にP226、¥さ/は¥なく/して、¥むま/より¥おり、¥ちかづき¥たてまつ/たり/けれ/ども、¥すこし/も¥あやまつ/べき¥けしき/も¥なく、¥ふかう¥かしこまつ/て¥とほり/ぬ。¥この¥へん/に/も¥み−しり¥まゐらせ/たる¥もの/の¥ある/に/こそ、¥たれ/なる/らん/と¥はづかしく/て、¥いとど¥あしばや/に/ぞ¥さし¥たまふ。¥これ/は¥たう−ごく/の¥ぢうにん、¥ゆあさの−ごん/の−かみ−むねしげ/が¥こ、¥ゆあさの−しちらう−びやうゑ−むねみつ/と¥いふ¥もの/なり。¥らうどう=ども、「¥あれ/は¥いか/に」/と¥とひ/けれ/ば、「¥あれ/こそ¥こまつの−おほい=との/の¥おん=ちやくし、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/よ。¥そもそも¥やしま/を/ば、¥なに/と/して/かは¥のがれ/させ¥たまひ/たり/ける/やらん。¥はや¥おん=さま¥かへ/させ¥たまひ/たり。¥よさう−びやうゑ、¥いしどうまる/も¥おなじう¥しゆつけ−し/て、¥おん=とも/に/ぞ¥まゐり/ける。¥ちかづき−まゐつ/て、¥おん=げんざん/に/も¥いり/たかり/つれ/ども、¥おん=はばかり/も/ぞ¥おぼしめす/とて¥とほり/ぬ。¥あな¥あはれ/なり/ける¥おん=こと/かな」/とて、¥そで/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥さめざめ/と¥なき/けれ/ば、¥らうどう=ども/も¥みな¥かりぎぬ/の¥そで/を/ぞ¥ぬらし/ける。¥
「くまのさんけい」(『くまのさんけい』)S1011¥やうやう¥さし¥たまふ/ほど/に、¥いはだがは/に/も¥つき¥たまひ/ぬ。¥この¥かは/の¥ながれ/を¥いちど/も¥わたる¥もの/は、¥あくごふ¥ぼんなう¥むし/の¥ざいしやう¥きゆ/なる/ものを/と、¥たのもしう/ぞ¥おぼしめす。¥ほんぐう−しようじやうでん/の¥ごぜん/にて、¥しづか/に¥ほつせ¥まゐらせ/て、¥よ/も−すがら¥お=やま/の¥てい/を¥ながめ¥たまふ/に、¥こころ/も¥ことば/もP227¥およば/れ/ず。¥だいひ−おうご/の¥かすみ/は、¥ゆやさん/に¥たなびき、¥れいげんぶさう/の¥しんめい/は、¥おとなしがは/に¥あと/を¥たる。¥いちじよう−しゆぎやう/の¥きし/に/は、¥かんおう/の¥つき¥くま/も¥なく、¥ろくこん−ざんげ/の¥には/に/は、¥まうざう/の¥つゆ/も¥むすば/ず。¥いづれ/も¥いづれ/も¥たのもし/から/ず/と¥いふ¥こと¥なし。¥よ¥ふけ¥ひと¥しづまつ/て¥のち、¥けいびやく−し¥たまひ/ける/は、¥ちち/の¥おとど/の¥この¥おん=まへ/にて、¥いのち/を¥めし/て¥ごせ/を¥たすけ/させ¥たまへ/と、¥いのり¥まうさ/せ¥たまひ/し¥おん=こと/など/まで/も、¥おぼしめし−いで/て¥あはれ/なり。「¥なか/に/も¥たうざん−ごんげん/は、¥ほんぢ¥あみだによらい/にて¥おはします。¥せつしゆ−ふしや/の¥ほんぐわん¥あやまた/ず、¥じやうど/へ¥みちびき¥たまへ」/と、¥いのり¥まうさ/れ/ける。¥なか/に/も¥ふるさと/に¥とどめ−おき¥たまひ/し¥さいし¥あんをん/に/と、¥いのら/れ/ける/こそ¥かなしけれ。¥うき−よ/を¥いとひ、¥まこと/の−みち/に¥いり¥たまへ/ども、¥まうじふ/は¥なほ¥つき/ず/と¥おぼえ/て、¥あはれ/なり/し¥こと=ども/なり。¥あけ/けれ/ば、¥ほんぐう/より¥ふね/に¥のり、¥しんぐう/へ/ぞ¥まゐら/れ/ける。¥かんのくら/を¥をがみ¥たまふ/に、¥がんしよう¥たかく¥そびえ/て、¥あらし¥まうざう/の¥ゆめ/を¥やぶり、¥りうすゐ¥きよく¥ながれ/て、¥なみ¥ぢんあい/の¥あか/を¥すすぐ/らん/と/も¥おぼえ/たり。¥あすか/の−やしろ¥ふし−をがみ、¥さの/の−まつばら¥さし−すぎ/て、¥なち/の−お=やま/に¥まゐり¥たまふ。¥さんぢう/に¥みなぎり−おつる¥たき/の¥みづ、¥すせんぢやう/まで¥よぢ−のぼり、¥くわんおん/の¥れいざう/は、¥いは/の¥うへ/に¥あらはれ/て、¥ふだらくせん/と/も¥いつ/つ/べし。¥かすみ/の¥そこ/に/は¥ほつけ−どくじゆ/の¥こゑ¥きこゆ。¥りやうじゆせん/と/も¥まうし/つ/べし。¥そもそも¥ごんげん¥たうざん/に¥あと/を¥たれ/させ¥ましまし/て/より¥この−かた、¥わが¥てう/の¥きせん¥じやうげ、¥あゆみ/を¥はこび、¥かうべ/を¥かたぶけ、¥たなごころ/を¥あはせ/て、¥りしやう/に¥あづから/ず/と¥いふ¥こと¥なし。¥そうりよ¥され/ば¥いらか/を¥ならべ、¥だうぞく¥そで/を¥つらね/たり。¥くわんわ/の¥なつ/の¥ころ、¥くわざんの−ほふわうP228、¥じふぜん/の−ていゐ/を¥すべら/せ¥たまひ/て、¥くほん/の−じやうせつ/を¥おこなは/せ¥たまひ/けん¥ご=あんじつ/の¥きうせき/に/は、¥むかし/を¥しのぶ/と¥おぼしく/て、¥おいき/の¥さくら/ぞ¥さき/に/ける。¥いくら/も¥なみ−ゐ/たり/ける¥なち−ごもり/の¥そう=ども/の¥なか/に、¥この¥さんみ/の−ちうじやう=どの/を、¥みやこ/にて¥よく¥み−しり¥まゐらせ/たる/と¥おぼしく/て、¥どうぎやう/の¥そう/に¥かたり/ける/は、「¥これ/なる¥しゆぎやうじや/を¥たれ/やらん/と¥おもひ−ゐ/たれ/ば、¥あな¥こと/も¥おろか/や、¥こまつの−おほい=との/の¥おん=ちやくし、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/にて¥まします/なり。¥あの¥との/の¥いまだ¥しゐ/の−せうしやう/なり/し¥あんげん/の¥はる/の¥ころ、¥ゐん/の−ごしよ−ほふぢうじ=どの/にて、¥ごじふ/の¥おん=が/の¥あり/し/に、¥ちち¥こまつ=どの/は、¥ないだいじん/の−さだいしやう/にて¥おはします。¥をぢ¥むねもりの−きやう/は、¥だいなごん/の−うだいしやう/にて、¥かいか/に¥ちやくざ−せ/られ/き。¥その−ほか¥さんみ/の−ちうじやう−とももり、¥とう/の−ちうじやう−しげひら¥いげ、¥いちもん/の¥くぎやう−でんじやうびと、¥けふ/を¥はれ/と¥ときめき、¥かいしろ/に¥たち¥たまひ/し¥なか/より、¥この¥さんみ/の−ちうじやう=どの、¥さくら/の¥はな/を¥かざい/て、¥せいがいは/を¥まう/て¥いで/られ/たり/しか/ば、¥つゆ/に¥こび/たる¥はな/の¥おん=すがた、¥かぜ/に¥ひるがへる¥まひ/の¥そで、¥ち/を¥てらし¥てん/も¥かかやく/ばかり/なり。¥にようゐん/より¥くわんばく=どの/を¥お=つかひ/にて、¥ぎよ=い/を¥かけ/られ/しか/ば、¥ちち/の¥おとど¥ざ/を¥たち、¥これ/を¥たまはつ/て、¥みぎ/の¥かた/に¥かけ、¥ゐん/を¥はいし¥たてまつり¥たまふ。¥めんぼく¥たぐひ¥すくなう/ぞ¥みえ/し。¥かたへ/の¥てんじやうびと/も、¥いか/ばかり¥うらやましう/や¥おもは/れ/けん。¥だいり/の¥にようばう=たち/の¥なか/に/は、¥み−やま−ぎ/の¥なか/の¥やうばい/と/こそ¥おぼゆれ/なんど、¥いは/れ¥たまひ/し¥ひと/ぞ/かし。¥ただいま¥だいじん/の−だいしやう/を¥まち−かけ¥たまへ/る¥ひと/と/こそ¥み¥たてまつり/し/に、¥けふ/は¥かく¥やつれ−はて¥たまへ/る¥おん=ありさま、¥かねて/は¥おもひ−よら/ざり/し/を/や。¥うつれ/ば¥かはる¥よ/のP229ならひ/と/は¥いひ/ながら、¥あはれ/なり/ける¥おん=こと/かな」/とて、¥そで/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥さめざめ/と¥なき/けれ/ば、¥なち−ごもり/の¥そう=ども/も、¥みな¥うちごろも/の¥そで/を/ぞ¥しぼり/ける。¥
「これもりのじゆすゐ」(『これもりのじゆすい』)S1012¥みつ/の−お=やま/の¥さんけい、¥ことゆゑ−なう¥とげ¥たまひ/しか/ば、¥はまのみや/と¥まうし¥たてまつる¥わうじ/の¥おん=まへ/より、¥いちえふ/の¥ふね/に¥さを¥さし/て、¥ばんり/の¥さうかい/に¥うかび¥たまふ。¥はるか/の¥おき/に¥やまなり/の−しま/と¥いふ¥ところ¥あり/き。¥ちうじやう¥それ/に¥ふね¥こぎ−よせ/させ、¥きし/に¥あがり、¥おほき/なる¥まつのき/を¥けづり/て、¥なくなく¥めいせき/を/ぞ¥かき−つけ/られ/ける。「¥そぶ¥だいじやうだいじん−たひらの−あそん−きよもり=こう、¥ほふみやう¥じやうかい、¥しんぷ¥こまつの−ないだいじん/の−さだいしやう−しげもり=こう、¥ほふみやう¥じやうれん、¥さんみ/の−ちうじやう−これもり、¥ほふみやう¥じやうゑん、¥とし¥にじふしちさい、¥じゆえい−さんねん−さんぐわつ−にじふはちにち、¥なち/の−おき/にて¥じゆすゐ−す」/と¥かき−つけ/て、¥また¥ふね/に¥のり、¥おき/へ/ぞ¥こぎ−いで¥たまひ/ける。¥おもひ−きり/ぬる¥みち/なれ/ども、¥いまは/の−とき/に/も¥なり/ぬれ/ば、¥さすが¥こころ−ぼそう¥かなしから/ず/と¥いふ¥こと¥なし。¥ころ/は¥さんぐわつ−にじふはちにち/の¥こと/なれ/ば、¥かいろ¥はるか/に¥かすみ−わたり、¥あはれ/を¥もよほす¥たぐひ/かな。¥ただ¥おほかた/の¥はる/だに/も、¥くれ−ゆく¥そら/は¥もの−うき/に、¥いはんや¥これ/は¥けふ/を¥さいご、¥ただいま¥かぎり/の¥こと/なれ/ば、¥さ/こそ/は¥こころ−ぼそかり/けめ。¥おき/の¥つり−ぶね/の¥なみ/に¥きえ−いる¥やう/に¥おぼゆる/がP230、¥さすが¥しづみ/も¥はて/ぬ/を¥み¥たまふ/に¥つけ/て/も、¥おん=み/の−うへ/と/や¥おもは/れ/けん。¥おの/が¥ひとつら¥ひき−つれ/て、¥いま/は/と¥かへる¥かりがね/の、¥こしぢ/を¥さし/て¥なき−ゆく/も、¥こきやう/へ¥ことづて−せ/まほしく、¥そぶ/が¥ここく/の¥うらみ/まで、¥おもひ−のこせ/る¥くま/も¥なし。「¥こ/は¥され/ば¥なにごと/ぞ/や。¥なほ¥まうじふ/の¥つき/ぬ/に/こそ」/と¥おもひ−かへし、¥にし/に¥むかひ¥て/を¥あはせ、¥ねんぶつ−し¥たまふ¥こころ/の¥うち/に/も、「¥さて/も¥みやこ/に/は、¥いま/を¥かぎり/と/は¥いかで/か¥しる/べき/なれ/ば、¥かぜ/の−たより/の¥おとづれ/を/も、¥いま/や−いま/や/と/こそ¥また/んず/らめ」/と¥おもは/れ/けれ/ば、¥がつしやう/を¥みだり、¥ねんぶつ/を¥とどめ、¥ひじり/に¥むかつ/て¥のたまひ/ける/は、「¥あはれ¥ひと/の¥み/に、¥さいし/と¥いふ¥もの/を/ば、¥もつ/まじかり/ける/ものかな。¥こんじやう/にて¥もの/を¥おもは/する/のみ/なら/ず、¥ごせ−ぼだい/の¥さまたげ/と¥なり/ぬる¥こと/こそ¥くちをしけれ。¥ただいま/も¥おもひ−いで/たる/ぞ/や。¥かやう/の¥こと/を¥しんぢう/に¥のこせ/ば、¥あまり/に¥つみ¥ふかかん/なる¥あひだ、¥ざんげ−する/なり」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥ひじり/も¥あはれ/に¥おもひ/けれ/ども、¥われ/さへ¥こころ−よわう/て/は、¥かなは/じ/と/や¥おもひ/けん、¥なみだ¥おし−のごひ、¥さら/ぬ¥てい/に¥もてなし、「¥あはれ¥たかき/も¥いやしき/も、¥おんあい/の−みち/は、¥おもひ−きら/れ/ぬ¥こと/にて¥さふらへ/ば、¥まことに¥さ/こそ/は¥おぼしめさ/れ¥さふらふ/らめ。¥なか/に/も¥ふさい/は、¥いち−や/の¥まくら/を¥ならぶる/も、¥ごひやくしやう/の¥しゆくえん/と¥うけたまはれ/ば、¥ぜんぜ/の¥ちぎり¥あさから/ず¥さふらふ。¥しやうじや−ひつめつ、¥ゑしや−ぢやうり/は、¥うき−よ/の¥ならひ/にて¥さふらふ/なり。¥すゑ/の¥つゆ¥もと/の¥しづく/の¥ためし¥あれ/ば、¥たとひ¥ちそく/の¥ふどう¥あり/と¥いふ/とも、¥おくれ¥さきだつ¥おん=わかれ、¥つひに¥なく/て/しも/やP231¥さふらふ/べき。¥
かの¥りさんきう/の¥あき/の¥ゆふべ/の¥ちぎり/も、¥つひに/は¥こころ/を¥くだく¥はし/と¥なり、¥かんせんでん/の¥しやうぜん/の¥おん/も、¥をはり¥なき/に/しも¥あら/ず。¥しようし¥ばいせい¥しやうがい/の¥うらみ¥あり。¥とうがく¥じふぢ¥なほ¥しやうじ/の¥おきて/に¥したがふ。¥たとひ¥きみ¥ちやうせい/の¥たのしみ/に¥ほこり¥たまふ/とも、¥この¥おん=うらみ/は¥つひに¥なく/て/しも/や¥さふらふ/べき。¥たとひ¥また¥ひやくねん/の¥よはひ/を¥たもた/せ¥たまふ/とも、¥この¥おん=わかれ/は、¥いつも¥ただ¥おなじ¥こと/と¥おぼしめさ/る/べし。¥だいろくてん/の−まわう/と¥いふ¥げだう/は、¥よくかい/の¥ろくてん/を¥みな¥わが¥もの/と¥りやうじ/て、¥なか/に/も¥この¥かい/の¥しゆじやう/の、¥しやうじ/に¥はなるる¥こと/を¥をしみ、¥あるひは¥め/と¥なり、¥あるひは¥をつと/と¥なつ/て、¥これ/を¥さまたげ/ん/と¥する/に、¥さんぜ/の¥しよぶつ/は、¥いつさい−しゆじやう/を¥いつし/の/ごとく/に¥おぼしめし/て、¥かの¥ごくらく−じやうど/の¥ふたい/の¥ど/に¥すすめ−いれ/ん/と¥し¥たまふ/に、¥さいし/は¥むし−くわうごふ/より¥この−かた、¥しやうじ/に¥りんゑ−する¥きづな/なる/が¥ゆゑ/に、¥ほとけ/は¥おもう¥いましめ¥たまふ/なり。¥され/ば/とて¥おん=こころ−よわう¥おぼしめす/べから/ず。¥げんじ/の¥せんぞ、¥いよの−にふだう−らいぎ/は、¥ちよくめい/に¥よつ/て、¥あうしう/の¥えびす¥あべの−さだたふ¥むねたふ/を¥せめ¥たまひ/し¥とき、¥じふにねん/が¥あひだ/に¥ひと/の¥くび/を¥きる¥こと、¥いちまんろくせん−よ−にん/なり。¥その−ほか¥さんや/の¥けだもの、¥がうが/の¥うろくづ、¥その¥いのち/を¥たつ¥こと、¥いくせんまん/と¥いふ¥かず/を¥しら/ず。¥され/ども¥しうえん/の¥とき、¥いちねん/の¥ぼだいしん/を¥おこせ/し/に¥よつ/て、¥わうじやう/の¥そくわい/を¥とげ/たり/と/こそ¥うけたまはれ。¥なかんづく¥ご=しゆつけ/の¥くどく¥ばくたい/なれ/ば、¥ぜんぜ/の¥ざいしやう/は¥みな¥ほろび¥たまひ/ぬ/らん。¥もし¥ひと¥あつ/て¥しつぱう/の¥たふ/を¥たて/ん¥こと、¥たかさ¥さんじふさんてん/に¥いたる/と¥いふ/とも、¥いちにち/の¥しゆつけ/の¥くどく/に/は¥およぶ/べから/ず。¥また¥ひと¥あつ/て¥ひやくせんざい/が¥あひだ、¥ひやくらかん/を¥くやう−じ/たら/んずる/より/も、¥いちにち/の¥しゆつけ/の¥くどく/に/はP232¥およば/ず/と/こそ¥とか/れ/たれ。¥つみ¥ふかかり/し¥らいぎ/も、¥こころ¥たけき/が¥ゆゑ/に、¥わうじやう/を¥とぐ。¥まうし¥さふらは/ん/や、¥きみ/は¥させる¥おん=ざいごふ/も¥ましまさ/ざら/ん/に、¥など/か¥じやうど/へ¥まゐらせ¥たまは/で/は¥さふらふ/べき。¥その−うへ¥たうざん−ごんげん/は、¥ほんぢ¥あみだによらい/にて¥おはします。¥はじめ¥むさんあくしゆ/の−ぐわん/より、¥をはり¥とくさんぽふにん/の−ぐわん/に¥いたる/まで、¥いちいち/の¥せいぐわん、¥しゆじやう−けど/の¥ぐわん/なら/ず/と¥いふ¥こと¥なし。¥なか/に/も¥だいじふはち/の¥ぐわん/に、『¥せつがとくぶつ、¥じつばうしゆじやう、¥ししんしんげう、¥よくしやうがこく、¥ないしじふねん、¥にやくふしやうじや、¥ふしゆしやうがく』/と¥とか/れ/たれ/ば、¥いちねん−じふねん/の¥たのみ¥あり。¥ただ¥この¥をしへ/を¥ふかく¥しんじ/て、¥ゆめゆめ¥うたがひ/を¥なす/べから/ず。¥むに/の¥こんねん/を¥いたし/て、¥もしは¥いつぺん/も、¥もしは¥じつぺん/も¥となへ¥たまふ¥もの/なら/ば、¥みだによらい、¥ろくじふまんおく−なゆたがうがしや/の¥おん=み/を¥つづめ、¥ぢやう−ろくはつ−しやく/の¥おん=かたち/にて、¥くわんおん−せいし、¥むしゆ/の¥しやうじゆ、¥けぶつ−ぼさつ、¥ひやくぢう−せんぢう/に¥ゐねう−し、¥ぎがくか−やうじ/て、¥ただいま¥ごくらく/の¥とうもん/を¥いで/て、¥らいかう−し¥たまは/んずれ/ば、¥おん=み/こそ¥さうかい/の¥そこ/に¥しづむ/と¥おぼしめさ/る/とも、¥しうん/の¥うへ/に¥のぼり¥たまふ/べし。¥じやうぶつ−とくだつ−し/て、¥さとり/を¥ひらき¥たまひ/な/ば、¥しやば/の¥こきやう/に¥たち−かへつ/て、¥さいし/を¥みちびき¥たまは/ん¥こと、¥げんらい−ゑこく−どにんでん、¥すこし/も¥あやまち¥たまふ/べから/ず」/とて、¥しきり/に¥かね¥うち−ならし、¥ねんぶつ/を¥すすめ¥たてまつれ/ば、¥ちうじやう/も¥しかる/べき¥ぜんぢしき/と¥おぼしめし、¥たちまち/に¥まうねん/を¥ひるがへし、¥にし/に¥むかひ¥て/を¥あはせ、¥かうじやう/に¥ねんぶつ¥ひやくぺん/ばかり¥となへ¥たまひ/て、¥なむ/と¥となふる¥こゑ¥とも/に、¥うみ/に/ぞ¥とび−いり¥たまひ/ける。¥よさう−びやうゑ、¥いしどうまる/も、¥おなじう¥み=な/を¥となへ/つつ、¥つづい/て¥うみ/に/ぞ¥しづみ/ける。P233
「みつかへいじ」(『みつかへいじ』)S1013¥とねり−たけさと/も、¥つづい/て¥うみ/に¥いら/ん/と¥し/ける/を、¥ひじり¥とり−とどめ、¥なくなく¥けうくん−し/ける/は、「¥いか/に¥うたてく/も、¥きみ/の¥ご=ゆゐごん/を/ば、¥たがへ¥まゐらせ/ん/と/は¥する/ぞ。¥げらふ/こそ¥なほ/も¥うたてけれ。¥いま/は¥いか/に/も−し/て¥ながらへ/て、¥ご=ぼだい/を¥とぶらひ¥まゐらせよ」/と¥いひ/けれ/ば、「¥おくれ¥たてまつ/たる¥かなし−さ/に、¥のち/の¥おん=けうやう/の¥こと/も¥おぼえ/ず」/とて、¥ふなぞこ/に¥たふれ−ふし、¥をめき−さけび/し¥ありさま/は、¥むかし¥しつだたいし/の¥だんどくせん/へ¥いら/せ¥たまひ/し¥とき、¥しやのくとねり/が、¥こんでい−こま/を¥たまはつ/て、¥わうぐう/に¥かへり/し¥かなしび/も、¥これ/に/は¥すぎ/じ/と/ぞ¥みえ/し。¥うき/も/や¥あがり¥たまふ/と、¥しばし/は¥ふね/を¥おし−まはし/て¥み/けれ/ども、¥さん−にん¥とも/に¥ふかく¥しづん/で¥みえ¥たまは/ず。¥いつしか¥きやう¥よみ¥ねんぶつ−し/て、¥ゑかう−し/ける/こそ¥あはれ/なれ。¥さる−ほど/に¥せきやう¥にし/に¥かたぶい/て、¥かいじやう/も¥くらく¥なり/けれ/ば、¥なごり/は¥つきせ/ず¥おもへ/ども、¥さて/しも¥ある/べき¥こと/なら/ね/ば、¥むなしき¥ふね/を¥こぎ−かへる。¥と−わたる¥ふね/の¥かい/の¥しづく、¥ひじり/が¥そで/より¥つたふ¥なみだ、¥わき/て¥いづれ/も¥みえ/ざり/けり。¥ひじり/は¥かうや/へ¥かへり−のぼり、¥たけさと/は¥なくなく¥やしま/へ¥まゐり/けり。¥おん=おとと¥しん−ざんみ/の−ちうじやう=どの/に、¥おん=ふみ¥とり−いだい/て¥たてまつる。¥これ/を¥あけ/て¥み¥たまひ/て、P234「¥あな¥こころ−う/や。¥わが¥おもひ¥たてまつる/ほど、¥ひと/は¥おもひ¥たまは/ざり/ける¥こと/よ。¥さら/ば¥ひき−ぐし/て、¥いつしよ/に/も¥しづみ−はて¥たまは/で、¥ところどころ/に¥ふさ/ん¥こと/こそ¥かなしけれ。¥おほい=との/も¥にゐ=どの/も、¥よりとも/に¥こころ/を¥かよはし/て、¥みやこ/へ/こそ¥おはし/たる/らめ/とて、¥われ=ら/に/も¥こころ/を¥おき¥たまひ/し/に、¥さて/は¥なち/の−おき/にて、¥おん=み/を¥なげ/て¥ましまし/ける¥ござんなれ。¥さて¥おん=ことば/にて¥おほせ/られ/し¥こと/は¥なき/か」/と¥のたまへ/ば、「¥おん=ことば/で¥まうせ/と¥おほせ¥さふらひ/し/は、¥かつ¥ごらんじ¥さふらひ/し¥やう/に、¥おほかた/の¥せけん/も¥もの−うく、¥あぢきな−さ/も¥よろづ¥かず−そひ/て、¥おぼえ/させ¥ましまし¥さふらふ/ほど/に、¥ひとびと/に/も¥しらせ¥まゐらせ/ず/して、¥かやう/に¥なら/せ¥たまふ¥おん=こと/は、¥さいこく/にて¥ひだん/の−ちうじやう=どの¥うせ/させ¥たまひ¥さふらひ/ぬ。¥いちのたに/にて¥びつちうの−かう/の=との¥うた/れ/させ¥ましまし¥さふらひ/ぬ。¥おん=み/さへ¥かやう/に¥なら/せ¥ましまし¥さふらへ/ば、¥いか/に¥おのおの/の¥たより−なう¥おぼしめさ/れ¥さふらふ/らん/と、¥ただ¥これ/のみ/こそ¥おん=こころ−ぐるしう¥おほせ/られ¥さふらひ/つれ」。¥からかは、¥こがらす/の¥こと/まで/も、¥こまごま/と¥かたり¥まうし/たり/けれ/ば、¥しん−ざんみ/の−ちうじやう=どの、「¥いま/は¥わが−み/とて/も¥ながらふ/べし/と/も¥おぼえ/ぬ/ものを」/とて、¥そで/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥さめざめ/と/ぞ¥なか/れ/ける。¥こ=さんみ=どの/に¥いたく¥に¥まゐら/させ¥たまひ/たり/しか/ば、¥これ/を¥みる¥さぶらひ=ども/も、¥さし−つどひ/て¥そで/を/ぞ¥ぬらし/ける。¥おほい=との/も¥にゐ=どの/も、「¥この¥ひと/は¥いけの−だいなごん/の¥やう/に、¥よりとも/に¥こころ/を¥かよはし/て、¥みやこ/へ/こそ¥おはし/たる/らめ/など、¥おもひ−ゐ/たれ/ば、¥さ/は¥おはせ/ざり/しか」/とて、¥いまさら¥また¥もだえ−こがれ¥たまひ/けり。P235¥しんぐわつ−ひとひのひ、¥かいげん¥あつ/て¥げんりやく/と¥かうす。¥その−ひ¥ぢもく¥おこなは/れ/て、¥かまくら/の−さきの−ひやうゑ/の−すけ−よりとも、¥じやう−げ/の−しゐ−し¥たまふ。¥もと/は¥じゆ−げ/の−ごゐ/にて¥おはせ/し/が、¥たちまちに¥ごかい/を¥こえ¥たまふ/こそ¥めでたけれ。¥おなじき−みつかのひ、¥しゆとくゐん/を¥かみ/と¥あがめ¥たてまつら/る/べし/とて、¥むかし¥ご=かつせん¥あり/し¥おほひのみかど/が¥すゑ/に、¥やしろ/を¥たて/て¥みやうつし¥あり。¥これ/は¥ゐん/の¥おん=さた/にて、¥だいり/に/は¥しろしめさ/れ/ず/と/ぞ¥きこえ/し。¥ごぐわつ−よつかのひ、¥いけの−だいなごん−よりもりの−きやう¥くわんとう/へ¥げかう。¥ひやうゑ/の−すけ=どの¥つね/は¥なさけ/を¥かけ¥たてまつ/て、「¥おん=かた/を/ば¥まつたく¥おろか/に¥おもひ¥たてまつら/ず、¥ひとへに¥こ=あま−ごぜん/の¥わたら/せ¥たまふ/と/こそ¥ぞんじ¥さふらへ。¥はちまん−だい−ぼさつ/も¥ご=しやうばつ¥さふらへ」/なんど、¥たびたび¥せいじやう/を¥もつて¥まうさ/れ/けり。¥およそ/は¥ひやうゑ/の−すけ/ばかり/こそ、¥かう/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥じよ/の−げんじ=ら/は、¥いかが¥あら/んず/らん/と、¥おぼつかなう¥おもは/れ/ける/に、¥かまくら/より¥ししや/を¥たてまつ/て、「¥いそぎ¥くだり¥たまへ。¥こ=あま−ごぜん/を¥み¥たてまつる/と¥ぞんじ/て、¥とく¥げんざん/に¥いり¥さふらは/ん」/と¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥だいなごん¥くだり¥たまひ/けり。¥
ここに¥やへい−びやうゑ−むねきよ/と¥いふ¥さぶらひ¥あり。¥さうでん−せんいち/の¥もの/なり/し/が、¥あひ−ぐし/て/も¥くだら/ず。「¥さて¥いか/に/や」/と¥のたまへ/ば、「¥きみ/こそ¥かくて¥わたら/せ¥たまひ¥さふらへ/ども、¥ご=いつけ/の¥きんだち=たち/の、¥さいかい/の¥なみ/の¥うへ/に¥ただよは/せ¥たまふ¥おん=こと/が、¥こころ−ぐるしく¥さふらひ/て、¥いまだ¥あんど−し/て/も¥おぼえ¥さふらは/ね/ば、¥こころ¥すこし¥おとし−すゑ/て、¥おつさま/に/こそ¥まゐり¥さふらは/め」/と/ぞ¥まうし/ける。¥だいなごん、¥はづかしう、¥かたはらいたく¥おぼしめし/て、「¥まことに¥いちもん/に¥ひき−わかれ/てP236、¥おち−とどまつ/し¥こと/を/ば、¥わが−み/ながら¥いみじ/と/は¥おもは/ね/ども、¥さすが¥いのち/も¥をしう、¥み/も¥すて−がたけれ/ば、¥なまじひ/に¥とどまり/に/き。¥この−うへ/は¥くだら/ざる/べき/に/も¥あら/ず。¥はるか/の¥たび/に¥おもむく/に、¥いかで/か¥み−おくら/ざる/べき。¥うけ/ず¥おもは/ば、¥おち−とどまつ/し¥とき、¥など¥さ/は¥いは/ざり/し/ぞ。¥たいせうじ¥いつかう¥なんぢ/に/こそ¥いひ−あはせ/しか」/と¥のたまへ/ば、¥むねきよ¥ゐ−なほり¥かしこまつ/て¥まうし/ける/は、「¥あはれ¥たかき/も¥いやしき/も、¥ひと/の¥み/に¥いのち/ほど¥をしい¥もの/や/は¥さふらふ。¥され/ば¥よ/を/ば¥すつれ/ども、¥み/を/ば¥すて/ず/と/こそ¥まうし−つたへ/て¥さふらふ/なれ。¥おん=とどまり/を¥あし/と/に/は¥ぞんじ¥さふらは/ず。¥ひやうゑ/の−すけ/も、¥かひ−なき¥いのち/を¥たすけ/られ¥まゐらせ/て¥さふらへ/ば/こそ、¥けふ/は¥かかる¥さいはひ/に/も¥あひ¥さふらへ。¥るざい−せ/られ¥さふらひ/し¥とき、¥こ=あま−ごぜん/の¥おほせ/にて、¥あふみの−くに¥しのはら/の−しゆく/まで、¥うち−おくつ/たり/し¥こと/など、¥いま/に¥わすれ/ず/と¥さふらふ/なれ/ば、¥おん=とも/に¥まかり−くだつ/て¥さふらは/ば、¥さだめて¥ひきでもの¥きやうおう/など¥し¥さふらは/んず/らん。¥それ/に¥つけ/て/も、¥さいかい/の¥なみ/の¥うへ/に、¥ただよは/せ¥たまふ¥ご=いつけ/の¥きんだち=たち、¥また/は¥どうれい=ども/の¥かへり−きか/んずる¥ところ/も、¥いふ−かひ−なう¥おぼえ¥さふらふ。¥はるか/の¥たび/に¥おもむか/せ¥たまふ¥おん=こと/は、¥まことに¥おぼつかなう¥おもひ¥まゐらせ¥さふらへ/ども、¥かたき/を/も¥せめ/に¥おん=くだり¥さふらは/ば、¥まづ¥いちぢん/に/こそ¥さふらふ/べけれ/ども、¥これ/は¥まゐら/ず/とも、¥さら/に¥おん=こと¥かけ¥さふらふ/まじ。¥ひやうゑ/の−すけ=どの¥たづね¥まうさ/れ¥さふらは/ば、¥をりふし¥あひ−いたはる¥こと¥あつ/て/と、¥おほせ/られ¥さふらふ/べし」/とて、¥なみだ/を¥おさへ/て¥とどまり/ぬ。¥これ/を¥きく¥さぶらひ=ども、¥みな¥そで/を/ぞ¥ぬらし/ける。¥だいなごん、¥にがにがしう、¥かたはらいたく¥おもは/れ/けれ/ども、¥この−うへ/は¥くだら/ざる/べき/に/もP237¥あら/ず/とて、¥やがて¥たち¥たまひ/ぬ。¥おなじき−じふろくにち、¥いけの−だいなごん−よりもりの−きやう¥くわんとう/へ¥げちやく。¥ひやうゑ/の−すけ=どの¥いそぎ¥たいめん/を¥し¥たまひ/て、¥まづ、「¥むねきよ/は¥いか/に」/と¥とは/れ/けれ/ば、「¥をりふし¥あひ−いたはる¥こと¥あつ/て」/と¥のたまへ/ば、「¥いか/に¥なに/を¥いたはり¥さふらふ/やらん。¥なほ¥いしゆ/を¥ぞんじ¥さふらふ/に/こそ。¥せんねん¥あの¥むねきよ/が¥もと/に¥あづけ−おか/れ¥さふらひ/し¥とき、¥こと/に¥ふれ/て¥なさけ−ふかう¥さふらひ/しか/ば、¥あはれ¥おん=とも/に¥まかり−くだり¥さふらへ/かし。¥とく¥げんざん/に¥いら/ん/と¥こひしう¥ぞんじ/て¥さふらへ/ば、¥うらめしう/も¥くだり¥さふらは/ぬ/ものかな」/とて、¥ちぎやう−す/べき¥しやうゑんじやう=ども¥あまた¥なし−まうけ、¥さまざま/の¥ひきでもの/を¥たば/ん/と、¥ようい−せ/られ/たり/けれ/ば、¥とうごく/の¥だいみやう−せうみやう、¥われ/も−われ/も/と¥ひきでもの/を¥ようい−し/て¥まつ¥ところ/に、¥くだら/ざり/けれ/ば、¥じやうげ¥ほい−なき¥こと=ども/にて/ぞ¥あり/ける。¥ろくぐわつ−ここのかのひ、¥いけの−だいなごん−よりもりの−きやう¥みやこ/へ¥かへり−のぼり¥たまふ。¥ひやうゑ/の−すけ=どの、「¥いま¥しばらく/は¥かくても¥おはせよ/かし」/と¥のたまへ/ども、¥だいなごん、¥みやこ/に¥おぼつかなう¥おもふ/らん/とて、¥やがて¥たち¥たまひ/ぬ。¥ちぎやう−し¥たまふ/べき¥しやうゑん¥しりやう、¥いつしよ/も¥さうゐ¥ある/べから/ず、¥ならびに¥だいなごん/に¥なし−かへさ/る/べき¥よし、¥ほふわう/へ¥まうさ/る。¥くらおきむま¥さんじつぴき、¥はだかむま¥さんじつぴき、¥ながもち¥さんじふえだ/に、¥こがね、¥まきぎぬ、¥そめもの¥ふぜい/の¥もの/を¥いれ/て¥たてまつら/る。¥ひやうゑ/の−すけ=どの¥かやう/に¥し¥たまふ¥うへ/は、¥とうごく/の¥だいみやう−せうみやう、¥われ/も−われ/も/と¥ひきでもの/を¥たてまつら/る。¥むま/だに/も¥さんびやつぴき/まで¥あり/けり。¥いけの−だいなごん−よりもりの−きやう/は、¥いのち¥いき¥たまふ/のみ/なら/ず、P238¥かたがた¥とく¥つい/て¥みやこ/へ¥かへり−のぼら/れ/けり。¥おなじき−じふはちにち、¥ひごの−かみ−さだよし/が¥をぢ、¥ひらたの−にふだう−さだつぐ/を¥さき/と/して、¥いが¥いせ¥りやうこく/の¥くわんびやう=ら、¥あふみの−くに/へ¥うつ/て¥いで/たり/けれ/ば、¥げんじ/の¥ばつえふ=ら¥はつかう−し/て、¥かつせん/を¥いたす。¥おなじき−はつかのひ、¥いが¥いせ¥りやうこく/の¥くわんびやう=ら、¥しばし/も¥たまら/ず¥せめ−おとさ/る。¥へいけ¥さうでん/の¥けにん/にて、¥むかし/の¥よしみ/を¥わすれ/ぬ¥こと/は¥あはれ/なれ/ども、¥おもひ−たつ/こそ¥おほけなけれ。¥みつかへいじ/と/は¥これ/なり。¥
「ふぢと」¥さる−ほど/に¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥きたのかた/は、¥かぜ/の−たより/の¥おとづれ/も、¥たえ/て¥ひさしく¥なり/けれ/ば、¥つき/に¥いちど/なんど/は、¥かならず¥おとづるる/ものを/と¥おもひ/て¥また/れ/けれ/ども、¥はる¥すぎ¥なつ/に/も¥なり/ぬ。「¥さんみ/の−ちうじやう、¥いま/は¥やしま/に/も¥おはせ/ぬ/ものを」/なんど¥まうす¥もの¥あり/と¥きき¥たまひ/て、¥きたのかた¥あまり/の¥おぼつかな−さ/に、¥とかう/して¥つかひ/を¥いち−にん¥したて/て、¥やしま/へ¥つかはさ/れ/たり/けれ/ども、¥つかひ¥やがて¥たち/も¥かへら/ず。¥なつ¥たけ¥あき/に/も¥なり/ぬ。¥しちぐわつ/の¥すゑ/に¥かの¥つかひ¥かへり−まゐり/たり。¥きたのかた、「¥さて¥いか/に/や」/と¥とひ¥たまへ/ば、「¥すぎ¥さふらひ/し¥さんぐわつ−じふごにち/の¥あかつき、¥よさう−びやうゑ−しげかげ、¥いしどうまる/ばかりP239¥おん=とも/にて、¥さぬき/の¥やしま/の−たち/を/ば¥おん=いで¥あつ/て、¥かうや/の−お=やま/へ¥まゐらせ¥たまひ/て、¥ご=しゆつけ−せ/させ¥おはしまし、¥その−のち¥くまの/へ¥まゐらせ¥たまひ/て、¥なち/の−おき/にて、¥おん=み/を¥なげ/て¥ましまし¥さふらふ/と/こそ、¥おん=とも¥まうし/たり/し¥とねり−たけさと/は、¥まうし¥さふらひ/つれ」/と¥まうし/けれ/ば、¥きたのかた、「¥され/ば/こそ、¥あやし/と¥おもひ/たれ/ば」/とて、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥わかぎみ¥ひめぎみ/も、¥こゑごゑ/に¥をめき−さけび¥たまひ/けり。¥わかぎみ/の¥めのと/の−にようばう、¥なみだ/を¥おさへ/て¥まうし/ける/は、「¥これ/は¥いまさら¥なげか/せ¥たまふ/べから/ず。¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう=どの/の¥やう/に、¥いき/ながら¥とらはれ/て、¥きやう¥かまくら¥はぢ/を¥さらさ/せ¥たまひ/な/ば、¥いか/ばかり¥こころ−うう¥さぶらふ/べき/に、¥これ/は¥かうや/の−お=やま/へ¥まゐらせ¥たまひ/て、¥ご=しゆつけ−せ/させ¥おはしまし、¥その−のち¥くまの/へ¥まゐらせ¥たまひ/て、¥ごせ/の¥おん=こと¥よくよく¥まうさ/せ¥たまひ/て、¥なち/の−おき/とかや/にて、¥おん=み/を¥なげ¥ましまし¥さぶらふ¥こと/こそ、¥なげき/の¥なか/の¥おん=よろこび/にて/は¥さぶらへ。¥いま/は¥いか/に/も−し/て¥おん=さま/を¥かへ、¥ほとけ/の¥み=な/を¥となへ/させ¥たまひ/て、¥なき¥ひと/の¥ご=ぼだい/を¥とぶらひ¥まゐら/させ¥たまへ/かし」/と¥まうし/けれ/ば、¥きたのかた¥やがて¥さま/を¥かへ、¥かの¥ごせ−ぼだい/を¥とぶらひ¥たまふ/ぞ¥あはれ/なる。¥
(『ふじと』)S1014¥かまくら=どの¥この¥よし/を¥つたへ−きき¥たまひ/て、「¥あはれ¥へだて¥なう¥うち−むかひ/て/も¥おはし/たら/ば、¥さり/とも¥いのち/ばかり/を/ば¥たすけ¥たてまつ/て/まし。¥その¥ゆゑ/は¥こ=いけの−ぜんに/の¥つかひ/と/して、¥よりとも¥るざい/に¥なだめ/られ/ける¥こと/は、¥ひとへに¥かの¥だいふ/の¥はうおん/なり。¥その¥なごり/にて¥おはすれ/ば、¥しそく=たち/を/も¥まつたく¥おろそか/に¥おもひ¥たてまつら/ず。¥まして¥さやう/に¥しゆつけ/など¥せ/られ/な/んP240¥うへ/は、¥しさい/に/や¥およぶ/べき」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥さる−ほど/に¥へいけ¥さぬき/の¥やしま/へ¥わたり¥たまひ/て¥のち/は、¥とうごく/より¥あらて/の¥ぐんびやう¥すまんぎ、¥みやこ/に¥つい/て、¥せめ−くだる/と/も¥きこゆ。¥また¥ちんぜい/より、¥うすき、¥へつぎ、¥まつら−たう¥どうしん−し/て、¥おし−わたる/と/も¥きこえ/けり。¥かれ/を¥きき¥これ/を¥きく/に/も、¥ただ¥みみ/を¥おどろかし、¥きも−たましひ/を¥けす/より¥ほか/の¥こと/ぞ¥なき。¥にようゐん、¥きたのまんどころ、¥にゐ=どの¥いげ/の¥にようばう=たち¥より−あひ¥たまひ/て、¥こんど¥わが¥かたざま/に、¥いか/なる¥うき¥こと/を/か¥きき、¥いか/なる¥うき−め/を/か¥み/んず/らん/と、¥なげき−あひ¥かなしび−あは/れ/けり。¥こんど¥いちのたに/にて、¥いちもん/の¥くぎやう−てんじやうびと、¥たいりやく¥うた/れ、¥むねと/の¥さぶらひ、¥なかば¥すぎ/て¥ほろび/に/しか/ば、¥いま/は¥ちから¥つき−はて/て、¥あはの−みんぶ−しげよし/が¥きやうだい、¥しこく/の¥もの=ども¥かたらつ/て、¥さり/とも/と¥まうし/ける/を/ぞ、¥たかき¥やま¥ふかき¥うみ/と/も¥たのみ¥たまひ/ける。¥さる−ほど/に¥しちぐわつ−にじふごにち/に/も¥なり/ぬ。¥にようばう=たち/は¥さし−つどひ/て、「¥こぞ/の¥けふ/は¥みやこ/を¥いで/し/ぞ/かし。¥ほど−なく¥めぐり−き/に/けり」/とて、¥にはか/に¥あわただしう、¥あさましかり/し¥こと=ども¥のたまひ−いで/て、¥なき/ぬ¥わらひ/ぬ/ぞ¥し¥たまひ/ける。¥おなじき−にじふはちにち、¥みやこ/に/は¥しんてい/の¥ご=そくゐ¥あり/けり。¥しんし、¥ほうけん、¥ないしどころ/も¥なく/して¥ご=そくゐ/の¥れい、¥にんわう¥はちじふにだい、¥これ¥はじめ/と/ぞ¥うけたまはる。¥おなじき−はちぐわつ−むゆかのひ、¥ぢもく¥おこなは/れ/て、¥たいしやうぐん−かまの−くわんじや−のりより、¥みかはの−かみ/に¥なる。¥くらう−くわんじや−よしつね、¥さゑもん/の−じよう/に¥なる。¥すなはち¥つかひ/の¥せんじ/を¥かうむつ/て、¥くらう−はうぐわん/と/ぞ¥まうし/ける。P241¥さる−ほど/に¥をぎ/の¥うはかぜ/も、¥やうやう¥み/に¥しみ、¥はぎ/の¥したつゆ/も、¥いよいよ¥しげく、¥うらむる¥むし/の¥こゑごゑ、¥いなば¥うち−そよぎ、¥こ/の−は¥かつ¥ちる¥けしき、¥もの¥おもは/ざら/ん/だに、¥ふけ−ゆく¥あき/の¥たび/の¥そら/は、¥かなしかる/べし。¥まして¥へいけ/の¥ひとびと/の¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥むかし/は¥ここのへ/の¥くも/の¥うへ/にて、¥はる/の¥はな/を¥もてあそび、¥いま/は¥やしま/の−うら/に/して、¥あき/の¥つき/に¥かなしぶ。¥およそ¥さやけき¥つき/を¥えいじ/て/も、¥みやこ/の¥こよひ¥いか/なる/らん/と¥おもひ−やり、¥なみだ/を¥ながし¥こころ/を¥すまし/て/ぞ、¥あかし−くらさ/せ¥たまひ/ける。¥さま/の−かみ−ゆきもり、¥
きみ¥すめ/ば¥ここ/も¥くもゐ/の¥つき/なれ/ど¥なほ¥こひしき/は¥みやこ/なり/けり W084¥
さる−ほど/に¥おなじき−くぐわつ−じふににち、¥たいしやうぐん−みかはの−かみ−のりより、¥へいけ−つゐたう/の¥ため/に/とて、¥さいこく/へ¥はつかう−す。¥あひ−ともなふ¥ひとびと、¥あしかがの−くらんど−よしかぬ、¥ほうでうの−こしらう−よしとき、¥さいゐん/の−じくわん−ちかよし、¥さぶらひ−だいしやう/に/は、¥とひの−じらう−さねひら、¥しそく/の¥やたらう−とほひら、¥みうら/の−すけ−よしずみ、¥しそく/の¥へいろく−よしむら、¥はたけやまの−しやうじ−じらう−しげただ、¥おなじき−ながのの−さぶらう−しげきよ、¥さはらの−じふらう−よしつら、¥わだの−こたらう−よしもり、¥ささきの−さぶらう−もりつな、¥つちやの−さぶらう−むねとほ、¥あまのの−とうない−とほかげ、¥ひきの−とうない−ともむね、¥おなじき−とうしらう−よしかず、¥はつたの−しらう−むしや−ともいへ、¥あんざいの−さぶらう−あきます、¥おほごの−さぶらう−さねひで、¥ちうでうの−とうじ−いへなが、¥いつぽん−ばう−しやうげん、¥とさ−ばう−しやうしゆん、¥これ=ら/を¥さき/と/して、¥つがふ¥その¥せい¥さんまん−よ−き、¥みやこ/を¥たつ/て¥はりま/の−むろ/に/ぞ¥つき/に/ける。¥へいけ/の¥かた/の¥たいしやうぐん/に/は、¥こまつの−しん−ざんみ/の−ちうじやう−すけもり、¥おなじき−せうしやう−ありもり、¥たんごの−じじう−ただふさ、¥さぶらひ−だいしやう/に/は、¥ゑつちうの−じらう−びやうゑ−もりつぎ、¥かづさの−ごらう−びやうゑ−ただみつ、¥あく−しち−びやうゑ−かげきよ/をP242¥さき/と/して、¥ごひやく−よ−そう/の¥ひやうせん/に¥のり−つれ/て¥こぎ−き/たり、¥びぜん/の−こじま/に¥つく/と¥きこえ/しか/ば、¥げんじ¥やがて¥むろ/を¥たつ/て、¥これ/も¥びぜんの−くに¥にしかはじり、¥ふぢと/に¥ぢん/を/ぞ¥とつ/たり/ける。¥
さる−ほど/に¥げんぺい¥りやうばう¥ぢん/を¥あはす。¥ぢん/の¥あはひ、¥うみ/の¥おもて、¥わづか¥にじふごちやう/ばかり/を/ぞ¥へだて/たる。¥げんじ¥こころ/は¥たけう¥おもへ/ども、¥ふね¥なかり/けれ/ば¥ちから¥およば/ず、¥いたづら/に¥ひかず/を/ぞ¥おくり/ける。¥おなじき−にじふごにち/の¥たつ/の−こく/ばかり/に、¥へいけ/の¥かた/の¥はやりを/の¥つはもの=ども、¥こ−ぶね/に¥のつ/て¥こぎ−いだし、¥あふぎ/を¥あげ/て、「¥げんじ¥ここ/を¥わたせ/や」/と/ぞ¥まねき/ける。¥げんじ/の¥かた/の¥つはもの=ども、「¥いかが−せ/ん」/と¥いふ¥ところ/に、¥あふみの−くに/の¥ぢうにん、¥ささきの−さぶらう−もりつな、¥にじふごにち/の¥よ/に¥いつ/て、¥うら/の¥をとこ/を¥いち−にん¥かたらひ、¥ひたたれ、¥こそで、¥おほくち、¥しろざやまき/なんど/を¥とら/せ、¥すかし−おほせ/て、「¥この¥うみ/に¥むま/にて¥わたし/ぬ/べき¥ところ/や/ある」/と¥とひ/けれ/ば、¥をとこ¥まうし/ける/は、「¥うら/の¥もの=ども¥いくら/も¥さふらへ/ども、¥あんない¥しつ/たる/は¥まれ/に¥さふらふ。¥しら/ぬ¥もの/こそ¥おほう¥さふらへ。¥この¥をとこ/は¥あんない¥よく¥ぞんじ/て¥さふらふ。¥たとへば¥かは/の¥せ/の¥やう/なる¥ところ/の¥さふらふ/が、¥つきがしら/に/は¥ひんがし/に¥さふらふ。¥つきずゑ/に/は¥にし/に¥さふらふ。¥くだん/の¥せ/の¥あはひ、¥うみ/の¥おもて、¥じつちやう/ばかり/も¥さふらふ/らん。¥これ/は¥お=むま/など/にて/は、¥たやすう¥わたさ/せ¥たまふ/べし」/と¥まうし/けれ/ば、¥ささき、「¥いざ¥さら/ば、¥わたい/て¥み/ん」/とて、¥かの¥をとこ/と¥ににん¥まぎれ−いで/て、¥はだか/に¥なり、¥くだん/の¥かは/の¥せ/の¥やう/なる¥ところ/を¥わたつ/て¥みる/に、¥げに/も¥いたう¥ふかう/は¥なかり/けり。¥ひざ、¥こし、¥かた/に¥たつ¥ところ/も¥あり、¥びん/の¥ぬるる¥ところ/もP243¥あり、¥ふかき¥ところ/を¥およい/で、¥あさき¥ところ/に¥およぎ−つく。¥をとこ¥まうし/ける/は、「¥これ/より¥みなみ/は、¥きた/より¥はるか/に¥あさう¥さふらふ。¥かたき¥や−さき/を¥そろへ/て¥まち¥まゐらせ¥さふらふ¥ところ/に、¥はだか/にて/は¥いか/に/も¥かなは/せ¥たまひ¥さふらふ/まじ。¥ただ¥これ/より¥かへら/せ¥たまへ」/と¥いひ/けれ/ば、¥ささき、¥げに/も/とて¥かへり/ける/が、「¥げらふ/は、¥どこ/と/も¥なき¥もの/にて、¥また¥ひと/に/も¥かたらは/れ/て、¥あんない/も/や¥をしへ/んず/らん。¥われ/ばかり/こそ¥しら/め」/とて、¥かの¥をとこ/を¥さし−ころし、¥くび¥かき−きつ/て/ぞ¥すて/てげる。¥あくる¥にじふろくにち/の¥たつ/の−こく/ばかり、¥また¥へいけ/の¥かた/の¥はやりを/の¥つはもの=ども、¥こ−ぶね/に¥のつ/て¥こぎ−いだし、¥あふぎ/を¥あげ/て、「¥ここ/を¥わたせ」/と/ぞ¥まねい/たる。¥ここに¥あふみの−くに/の¥ぢうにん、¥ささきの−さぶらう−もりつな、¥かねて¥あんない/は¥しつ/たり、¥しげめゆひ/の−ひたたれ/に、¥ひ−をどし/の−よろひ¥き/て、¥れんぜん−あしげ/なる¥むま/に、¥きんぷくりん/の¥くら/を¥おい/て¥のつ/たり/ける/が、¥いへのこ−らうどう¥とも/に¥しちき、¥うち−いれ/て¥わたす。¥たいしやうぐん−みかはの−かみ−のりより、¥これ/を¥み¥たまひ/て、「¥あれ¥せいせよ、¥とどめよ」/と¥のたまへ/ば、¥とひの−じらう−さねひら、¥むち−あぶみ/を¥あはせ/て¥おつ−つき、「¥いか/に¥ささき=どの/は、¥もの/の¥つい/て¥くるひ¥たまふ/か。¥たいしやうぐん/より/の¥おん=ゆるされ/も¥なき/に、¥とどまり¥たまへ」/と¥いひ/けれ/ども、¥ささき¥みみ/に/も¥きき−いれ/ず、¥わたし/けれ/ば、¥とひの−じらう/も¥せいし−かね/て、¥とも/に¥つれ/て/ぞ¥わたし/ける。¥むま/の¥くさわき、¥むながい−づくし、¥ふとばら/に¥たつ¥ところ/も¥あり、¥くらつぼ¥こす¥ところ/も¥あり、¥ふかき¥ところ/を¥およが/せ/て、¥あさき¥ところ/に¥うち−あがる。¥たいしやうぐん¥これ/を¥み¥たまひ/て、「¥ささき/に¥たばから/れ/ぬる/は。¥あさかり/ける/ぞ、¥わたせ/や−わたせ」/とP244¥げぢ−し¥たまへ/ば、¥さんまん−よ−き/の¥つはもの=ども、¥みな¥うち−いれ/て¥わたす。¥へいけ/の¥かた/に/は¥これ/を¥み/て、¥ふね=ども¥おし−うかべ−おし−うかべ、¥や−さき/を¥そろへ/て、¥さしつめ−ひきつめ¥さんざん/に¥い/けれ/ども、¥げんじ/の¥かた/の¥つはもの=ども、¥これ/を¥こと/と/も¥せ/ず、¥かぶと/の¥しころ/を¥かたぶけ、¥くまで、¥ないがま/を¥もつて、¥かたき/の¥ふね/を¥ひき−よせ−ひき−よせ¥をめき−さけん/で¥たたかふ。¥ひとひ¥たたかひ−くらし、¥よ/に¥いり/けれ/ば、¥へいけ/の¥ふね/は¥おき/に¥うかび、¥げんじ/は¥こじま/の¥ぢ/に¥うち−あがつ/て、¥じんば/の¥いき/を/ぞ¥やすめ/ける。¥あけ/けれ/ば、¥へいけ/は¥さぬき/の¥やしま/へ¥こぎ−しりぞく。¥げんじ¥こころ/は¥たけう¥おもへ/ども、¥ふね¥なかり/けれ/ば、¥やがて¥つづい/て/も¥せめ/ず。「¥むかし/より¥むま/にて¥かは/を¥わたす¥つはもの¥おほし/と¥いへ/ども、¥むま/にて¥うみ/を¥わたす¥こと、¥てんぢく¥しんだん/は¥しら/ず、¥わが¥てう/に/は¥きたい/の¥ためし/なり」/とて、¥びぜん/の−こじま/を¥ささき/に¥たぶ。¥かまくら=どの/の¥み=げうしよ/に/も¥のせ/られ/たり。¥
「だいじやうゑのさた」¥おなじき−にじふはちにち、¥みやこ/に/は¥また¥ぢもく¥おこなは/れ/て、¥くらう−はうぐわん−よしつね、¥ごゐ/の−じよう/に¥なさ/れ/て、¥くらう−たいふ/の−はうぐわん/と/ぞ¥まうし/ける。¥さる−ほど/に¥じふぐわつ/に/も¥なり/ぬ。¥やしま/に/は¥うら¥ふく¥かぜ/も¥はげしく、¥いそ¥うつ¥なみ/も¥たかかり/けれ/ば、¥つはもの/も¥せめ−き/たら/ず、¥しやうかく/の¥ゆき−かふ/もP245¥まれ/に/して、¥みやこ/の¥つて/も¥きか/まほしく、¥そら¥かき−くもり、¥あられ¥うち−ちり、¥いとど¥きえ−いる¥ここち/ぞ¥せ/られ/ける。¥みやこ/に/は¥だいじやうゑ¥ある/べし/とて、¥じふぐわつ−みつかのひ、¥しんてい/の¥ご=けい/の¥ぎやうがう¥あり/けり。¥ないべん/を/ば¥とくだいじ=どの¥つとめ/らる。¥をととし¥せんてい/の¥ご=けい/の¥ぎやうがう/に/は、¥へいけ/の¥ないだいじん−むねもり=こう¥つとめ/らる。¥せつげのあくや/に¥つい/て、¥まへ/に¥りよう/の¥はた¥たて/て¥ゐ¥たまひ/たり/し¥けしき、¥かぶり−ぎは、¥そで/の¥かかり、¥うへ/の¥はかま/の¥すそ/まで/も、¥こと/に¥すぐれ/て¥みえ¥たまへ/り。¥その−ほか¥さんみ/の−ちうじやう−とももり、¥とう/の−ちうじやう−しげひら¥いげ、¥こんゑづかさ、¥み=つな/に¥さふらは/れ/し/に/は、¥また¥たち−ならぶ¥かた/も¥なかり/し/ぞ/かし。¥けふ/は¥くらう−たいふ/の−はうぐわん−よしつね、¥せんぢん/に¥ぐぶ−す。¥これ/は¥きそ/など/に/は¥に/ず、¥もつて/の−ほか/に¥きやう¥なれ/たり/しか/ども、¥へいけ/の¥なか/の¥えりくづ/より/も¥なほ¥おとれ/り。¥おなじき−じふはちにち、¥だいじやうゑ¥かた/の/ごとく¥とげ−おこなは/る。¥さんぬる¥ぢしよう、¥やうわ/の¥ころ/より/して、¥しよ−こく−しちだう/の¥にんみん−ひやくしやう=ら、¥あるひは¥へいけ/の¥ため/に¥なやまさ/れ、¥あるひは¥げんじ/の¥ため/に¥ほろぼさ/る。¥いへ¥かまど/を¥すて/て¥さんりん/に¥まじはり、¥はる/は¥とうさく/の¥おもひ/を¥わすれ、¥あき/は¥せいじゆ/の¥いとなみ/に/も¥およば/ず。¥いか/に−し/て¥かやう/の¥たいれい/など¥おこなは/る/べき/なれ/ども、¥さて/しも¥ある/べき¥こと/なら/ね/ば、¥かた/の/ごとく/ぞ¥とげ/られ/ける。¥たいしやうぐん−みかはの−かみ−のりより、¥やがて¥つづい/て¥せめ¥たまは/ば、¥へいけ/は¥たやすう¥ほろぶ/べかり/し/に、¥むろ、¥たかさご/に¥やすらひ、¥いうくん−いうぢよ=ども¥めし−あつめ、¥あそび−たはぶれ/て/のみ、¥つきひ/を¥おくり¥たまひ/けり。¥とうごく/の¥だいみやう−せうみやう¥おほし/と¥いへ/ども、¥たいしやうぐん/の¥げぢ/に¥したがふ¥こと/なれ/ばP246、¥ちから¥およば/ず。¥ただ¥くに/の¥つひえ、¥たみ/の¥わづらひ/のみ¥あつ/て、¥ことし/も¥すでに¥くれ/に/けり。P247¥
(『こうやごこう』)S1015

 

入力者:荒山慶一

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