平家物語 巻第十二  総かな版(元和九年本)
「しげひらのきられ」(『しげひらのきられ』)S1119¥さる−ほど/に¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう−しげひらの−きやう/を/ば、¥かの/の−すけ−むねもち/に¥あづけ/られ/て、¥こぞ/より¥いづの−くに/に¥おはし/ける/が、¥なんと/の¥だいしゆ¥しきり/に¥まうし/けれ/ば、¥さら/ば¥つかはさ/る/べし/とて、¥げん−ざんみ−にふだう/の¥まご、¥いづの−くらんど/の−たいふ−よりかぬ/に¥おほせ/て、¥つひに¥なら/へ/ぞ¥わたさ/れ/ける。¥こんど/は¥みやこ/の¥うち/へ/は¥いれ/られ/ず、¥おほつ/より¥やましなどほり/に、¥だいごぢ/を¥へ/て¥ゆけ/ば、¥ひの/は¥ちかかり/けり。¥この¥きたのかた/と¥まうす/は、¥とりかひの−ちうなごん−これざね/の¥むすめ、¥ごでうの−だいなごん−くにつな/の¥やうじ、¥せんてい/の¥おん=めのと、¥だいなごん/の−すけ/の−つぼね/と/ぞ¥まうし/ける。¥ちうじやう¥いちのたに/にて、¥いけどり/に¥せ/られ¥たまひ/て¥のち/は、¥せんてい/に¥つき¥まゐらせ/て¥ましまし/ける/が、¥だんのうら/にて¥うみ/に¥しづみ¥たまひ/しか/ば、¥もののふ/の¥あらけ−なき/に¥とらはれ/て、¥きうり/に¥かへり、¥あね/の¥だいぶ−さんみ/に¥どうしゆく−し/て、¥ひの/と¥いふ¥ところ/に/ぞ¥ましまし/ける。¥さんみ/の−ちうじやう/の¥つゆ/の−いのち、¥くさば/の¥すゑ/に¥かかつ/て、¥いまだ¥きえ−やり¥たまは/ぬ/と¥きき¥たまひ/て、¥あはれ¥いか/に/も−し/て、¥かはら/ぬP311すがた/を、¥いま−いちど¥み/も¥し、¥みえ/ばや/と/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥それ/も¥かなは/ね/ば、¥ただ¥なく/より¥ほか/の¥なぐさみ¥なく/て、¥あかし−くらし¥たまひ/けり。¥さんみ/の−ちうじやう、¥しゆご/の−ぶし=ども/に¥のたまひ/ける/は、「¥さて/も¥この−ほど、¥おのおの/の¥なさけ−ふかう、¥はうじん−せ/られ/ける¥こと/こそ、¥あり−がたう¥うれしけれ。¥おなじう/は¥さいご/に¥いま−いちど、¥はうおん¥かうぶり/たき¥こと¥あり。¥われ/は¥いち−にん/の¥こ¥なけれ/ば、¥うき−よ/に¥おもひ−おく¥こと¥なし。¥としごろ¥ちぎつ/たり/し¥にようばう/の、¥ひの/と¥いふ¥ところ/に¥あり/と¥きく。¥いま−いちど¥たいめん−し/て、¥ごしやう/の¥こと/を/も¥いひ−おか/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥ぶし=ども/も¥いはき/なら/ね/ば、¥みな¥なみだ/を¥ながい/て、「¥まことに¥にようばう/など/の¥おん=こと/は、¥なにか¥くるしう¥さふらふ/べき。¥とうとう」/とて¥ゆるし¥たてまつる。¥さんみ/の−ちうじやう、¥なのめ/なら/ず¥よろこび、「¥これ/に¥だいなごん/の−すけ/の−つぼね/の¥おん=わたり¥さふらふ/か。¥ほん−ざんみ/の−ちうじやう=どの/の、¥ただいま¥なら/へ¥おん=とほり¥さふらふ/が、¥たち/ながら¥おん=げんざん/に¥いら/ん/と¥さふらふ」/と、¥ひと/を¥いれ/て¥いは/せ/られ/たり/けれ/ば、¥きたのかた、「¥いづら/や−いづら」/とて、¥はしり−いで/て¥み¥たまへ/ば、¥あゐずり/の−ひたたれ/に、¥をり−ゑぼし¥き/たる¥をとこ/の、¥やせ−くろみ/たる/が、¥えん/に¥より−ゐ/たる/ぞ、¥そ/なり/ける。¥きたのかた¥み=す/の¥きは¥ちかく¥いで/て、「¥いか/に/や−いか/に、¥ゆめ/か/や¥うつつ/か。¥これ/へ¥いら/せ¥たまへ」/と¥のたまひ/ける¥おん=こゑ/を、¥きき¥たまふ/に¥つけ/て/も、¥ただ¥さきだつ¥もの/は¥なみだ/なり。¥だいなごん/の−すけ=どの/は、¥め/も¥くれ¥こころ/も¥きえ−はて/て、¥しばし/は¥もの/も¥のたまは/ず。¥さんみ/の−ちうじやう¥み=す¥うち−かづき、¥なくなく¥のたまひ/ける/は、「¥こぞ/のP312¥はる¥つの−くに¥いちのたに/にて、¥いか/に/も−なる/べかり/し¥み/の、¥せめて/の¥つみ/の¥むくい/に/や、¥いき/ながら¥とらはれ/て、¥きやう¥かまくら¥はぢ/を¥さらす/のみ/なら/ず、¥はて/は¥なんと/の¥だいしゆ/の¥て/へ¥わたさ/れ/て、¥きら/る/べし/とて¥まかり¥さふらふ。¥あはれ¥いか/に/も−し/て、¥かはら/ぬ¥すがた/を¥いま−いちど、¥み/も¥し¥みえ¥たてまつら/ばや/と/こそ¥おもひ/つる/に、¥いま/は¥うき−よ/に¥おもひ−おく¥こと¥なし。¥これ/にて¥かしら/を¥そり、¥かたみ/に¥かみ/を/も¥まゐらせ/たう¥さふらへ/ども、¥かかる¥み/に¥まかり−なつ/て¥さふらへ/ば、¥こころ/に¥こころ/を/も¥まかせ/ず」/とて、¥ひたひ/の¥かみ/を¥かき−わけ、¥くち/の¥およぶ¥ところ/を¥すこし¥くひ−きつ/て、「¥これ/を¥かたみ/に¥ごらんぜよ」/とて¥たてまつり¥たまへ/ば、¥きたのかた、¥ひごろ¥おぼつかなう¥おぼし/ける/より、¥いま¥ひとしほ¥おもひ/の¥いろ/や¥まさら/れ/けん、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥やや¥あつ/て、¥きたのかた¥なみだ/を¥おさへ/て¥のたまひ/ける/は、「¥にゐ=どの、¥ゑちぜんの−さんみ/の−うへ/の¥やう/に、¥みづ/の¥そこ/に/も¥しづむ/べかり/しか/ども、¥まさしう¥この−よ/に¥おはせ/ぬ¥ひと/と/も¥きか/ざり/しか/ば、¥かはら/ぬ¥すがた/を¥いま−いちど、¥み/も¥し¥みえ/ばや/と¥おもひ/て/こそ、¥うき/ながら¥けふ/まで/も¥ながらへ/たれ。¥いま/まで¥ながらへ/つる/は、¥もしや/と¥おもふ¥たのみ/も¥あり/つる/ものを、¥さて/は¥けふ/を¥かぎり/にて¥おはす/らん¥こと/よ」/とて、¥むかし−いま/の¥こと=ども¥のたまひ−かはす/に¥つけ/て/も、¥ただ¥つきせ/ぬ¥もの/は¥なみだ/なり。¥
きたのかた、「¥あまり/に¥おん=すがた/の¥しをれ/て¥さぶらふ/に、¥たてまつり¥かへよ」/とて、¥あはせ/の¥こそで/に¥じやうえ/を¥そへ/て¥いださ/れ/たり。¥ちうじやう¥これ/を¥き−かへ/つつ、¥もと¥き¥たまひ/たる¥しやうぞく/を/ば、「¥これ/を/も¥かたみ/に¥ごらんぜよ」/とて¥たてまつり¥たまへ/ば、¥きたのかた、「¥それ/も¥さる−おん=こと/にて/はP313¥さぶらへ/ども、¥はかなき¥ふで/の¥あと/こそ、¥のち/の−よ/まで/の¥かたみ/にて¥さぶらへ」/とて、¥おん=すずり/を¥いださ/れ/たり。¥ちうじやう¥なくなく¥いつしゆ/の¥うた/を/ぞ¥かき¥たまふ。¥
せき−かね/て¥なみだ/の¥かかる¥からごろも¥のち/の¥かたみ/に¥ぬぎ/ぞ¥かへ/ぬる W090¥
きたのかた/の¥へんじ/に、¥
ぬぎ−かふる¥ころも/も¥いま/は¥なに/か¥せ/む¥けふ/を¥かぎり/の¥かたみ/と¥おもへ/ば W091「¥
ちぎり¥あら/ば、¥のち/の−よ/に/は¥かならず¥むまれ−あひ¥たてまつる/べし。¥ひとつ−はちす/に/と¥いのり¥たまへ。¥ひ/も¥たけ/ぬ。¥なら/へ/も¥とほう¥さふらへ/ば、¥ぶし=ども/の¥まつ/らん/も¥こころ−なし」/とて、¥いで/られ/けれ/ば、¥きたのかた、¥ちうじやう/の¥たもと/に¥すがり、「¥いか/に/や¥しばし」/とて¥ひき−とどめ¥たまへ/ば、¥ちうじやう、「¥こころ/の¥うち/を/ば¥ただ¥おし−はかり¥たまふ/べし。¥され/ども¥つひ/に/は¥ながらへ−はつ/べき¥み/に/も¥あら/ず」/とて、¥おもひ−きつ/て/ぞ¥たた/れ/ける。¥まことに¥この−よ/にて¥あひ−み/ん¥こと/も、¥これ/ぞ¥かぎり/と¥おもは/れ/けれ/ば、¥いま−いちど¥たち−かへり/たく/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥こころ−よわう/て/は¥かなは/じ/とて、¥おもひ−きつ/て/ぞ¥いで/られ/ける。¥きたのかた/は¥み=す/の¥ほか/まで¥まろび−いで、¥をめき−さけび¥たまひ/ける¥おん=こゑ/の、¥かど/の¥ほか/まで¥はるか/に¥きこえ/けれ/ば、¥ちうじやう¥なみだ/に¥くれ/て、¥ゆくさき/も¥みえ/ね/ば、¥こま/を/も¥さら/に¥はやめ¥たまは/ず。¥なかなか/なり/ける¥げんざん/かな/と、¥いま/は¥くやしう/ぞ¥おもは/れ/ける。¥きたのかた¥やがて¥はしり/も¥いで/て¥おはし/ぬ/べう/は¥おもは/れ/けれ/ど、¥それ/も¥さすが/なれ/ば/とて、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥さる−ほど/に¥なんと/の¥だいしゆ、¥さんみ/の−ちうじやう¥うけ−とり¥たてまつ/て、¥いかが¥す/べき/と¥せんぎ−す。「¥そもそもP314¥この¥しげひらの−きやう/は¥だいぼん/の¥あくにん/たる¥うへ、¥さんぜん−ごけい/の¥うち/に/も¥もれ、¥しゆいん−かんくわ/の¥だうり¥ごくじやう−せ/り。¥ぶつてき¥ほつてき/の¥ぎやくしん/なれ/ば、¥すべからく¥とうだいじ¥こうぶくじ¥りやうじ/の¥おほがき/を¥めぐらし/て、¥ほりくび/に/や¥す/べき、¥また¥のこぎり/にて/や¥きる/べき」/と¥せんぎ−す。¥らうそう=ども/の¥せんぎ−し/ける/は、「¥それ/も¥そうと/の¥ほふ/に/は¥をんびん/なら/ず。¥ただ¥ぶし/に¥たう/で、¥こつ/の¥へん/にて¥きら/す/べし」/とて、¥つひに¥ぶし/の¥て/へ/ぞ¥かへさ/れ/ける。¥ぶし¥これ/を¥うけ−とつ/て、¥こつがは/の¥はた/にて、¥すでに¥きり¥たてまつら/ん/と¥し/ける/に、¥すせん−にん/の¥だいしゆ、¥しゆご/の−ぶし、¥みる¥ひと¥いくせんまん/と¥いふ¥かず/を¥しら/ず。¥
ここに¥さんみ/の−ちうじやう/の¥としごろ/の¥さぶらひ/に、¥むく−むま/の−じよう−ともとき/と¥いふ¥もの¥あり。¥はちでうの−にようゐん/に¥けんざん/にて¥さふらひ/ける/が、¥ご=さいご/を¥み¥たてまつら/ん/とて、¥むち/を¥うつ/て/ぞ¥はせ/たり/ける。¥すでに¥きり¥たてまつら/ん/と¥し/ける¥ところ/に¥はせ−つい/て、¥いそぎ¥むま/より¥とん/で¥おり、¥せんまん¥ひと/の¥たち−かこう/だる¥なか/を、¥おし−わけ−おし−わけ、¥さんみ/の−ちうじやう/の¥おん=そば¥ちかう¥まゐつ/て、「¥ともとき/こそ¥ご=さいご/を¥み¥たてまつら/ん/とて、¥まゐつ/て¥さふらへ」/と¥まうし/けれ/ば、¥ちうじやう、「¥こころざし/の¥ほど¥まことに¥しんべう/なり。¥いか/に¥ともとき、¥あまり/に¥つみ¥ふかう¥おぼゆる/に、¥さいご/に¥ほとけ/を¥をがみ¥たてまつ/て、¥きら/れ/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥ともとき、「¥やすい/ほど/の¥おん=こと¥ざふらふ」/とて、¥しゆご/の−ぶし/に¥まうし−あはせ/て、¥その¥へん¥ちかき¥さと/より、¥ほとけ/を¥いつたい¥むかへ¥たてまつ/て¥まゐり/たり。¥さいはひ/に¥あみだ/にて/ぞ¥ましまし/ける。¥かはら/の¥いさご/の¥うへ/に¥すゑ¥たてまつり、¥ともとき/が¥かりぎね/の¥そで/の¥くくり/を¥とい/て、¥ほとけ/の¥み=て/に¥かけ、¥ちうじやう/に¥ひかへ/させ¥たてまつる。¥ちうじやう¥これ/をP315¥ひかへ/つつ、¥ほとけ/に¥むかひ¥たてまつ/て¥まうさ/れ/ける/は、「¥つたへ−きく、¥でうだつ/が¥さんぎやく/を¥つくり、¥はちまんざう/の¥しやうげう/を、¥やき−ほろぼし¥たてまつ/たり/し/も、¥つひに/は¥てんわうによらい/の¥きべつ/に¥あづかり、¥しよさ/の¥ざいごふ¥まこと/に¥ふかし/と¥いへ/ども、¥しやうげう/に¥ちぐ−せ/し¥ぎやくえん¥くち/ず/して、¥かへつて¥とくだう/の¥いん/と¥なる。¥いま¥しげひら/が¥ぎやくざい/を¥をかす¥こと、¥まつたく¥ぐい/の¥ほつき/に¥あら/ず。¥ただ¥よ/の¥ことわり/を¥ぞんずる/ばかり/なり。¥しやう/を¥うくる¥もの、¥たれ/か¥わうめい/を¥べつじよ−せ/ん。¥いのち/を¥たもつ¥もの、¥たれ/か¥ちち/の¥めい/を¥そむか/ん、¥かれ/と¥まうし¥これ/と¥いひ、¥じする/に¥ところ¥なし。¥りひ¥ぶつだ/の¥せうらん/に¥あり。¥され/ば¥ざいはう¥たちどころ/に¥むくい、¥うんめい¥すでに¥ただいま/を¥かぎり/と¥す。¥こうくわい¥せんばん、¥かなしん/で/も¥なほ¥あまり¥あり。¥ただし¥さんばう/の¥きやうがい/は、¥じひしん/を¥もつて¥こころ/と¥する¥ゆゑ/に、¥さいど/の¥りやうえん¥まちまち/なり。¥ゆゐゑんげうい、¥ぎやく−そくぜ−じゆん、¥この¥もん¥きも/に¥めいず。¥いちねん−みだぶつ、¥そくめつむりやうざい、¥ねがは−く/は¥ぎやくえん/を¥もつて¥じゆんえん/と¥し、¥ただいま/の¥さいご/の¥ねんぶつ/に¥よつ/て、¥くほん−たくしやう/を¥とぐ/べし」/とて、¥くび/を¥のべ/て/ぞ¥うた/せ/らる。¥ひごろ/の¥あくぎやう/は¥さる−こと/なれ/ども、¥ただいま/の¥おん=ありさま/を¥み¥たてまつる/に、¥すせん−にん/の¥だいしゆ/も、¥しゆご/の−ぶし=ども/も、¥みな¥よろひ/の¥そで/を/ぞ¥ぬらし/ける。¥くび/を/ば¥はんにやじ/の¥もん/の¥まへ/に、¥くぎづけ/に/こそ¥し/たり/けれ。¥これ/は¥さんぬる¥ぢしよう/の−かつせん/の¥とき、¥ここ/に¥うつ−たつ/て、¥がらん/を¥やき−ほろぼし¥たまひ/たり/し¥ゆゑ/と/ぞ¥きこえ/し。¥きたのかた¥この¥よし/を¥きき¥たまひ/て、¥たとひ¥かうべ/を/こそ¥はね/らるる/とも、¥むくろ/は¥さだめて¥すて−おい/て/ぞ¥ある/らん。¥とり−よせ/て¥けうやう−せ/ん/とて、¥こし/を¥むかひ/に¥つかはさ/れ/たり/けれ/ば、P316¥げに/も¥むくろ/は¥かはら/に¥すて−おき/て/ぞ¥あり/ける。¥これ/を¥とつ/て¥こし/に¥いれ、¥ひの/へ¥かい/て/ぞ¥かへり/ける。¥きのふ/まで/は、¥さ/しも¥ゆゆし=げ/に¥おはせ/しか/ども、¥かやう/に¥あつき¥ころ/なれ/ば、¥いつしか¥あら/ぬ¥さま/に/ぞ¥なら/れ/ける。¥これ/を¥まち−うけ/て¥み¥たまひ/ける¥きたのかた/の¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥くび/を/ば、¥だいぶつ/の¥ひじり、¥しゆんじよう−ばう/に¥かく/と¥のたまへ/ば、¥だいしゆ/に¥こひ−うけ/て、¥やがて¥ひの/へ/ぞ¥おくら/れ/ける。¥さて/しも¥ある/べき¥こと/なら/ね/ば、¥その¥へん¥ちかき¥ほふかいじ/と¥いふ¥やまでら/に¥いれ¥たてまつり、¥くび/も¥むくろ/も¥けぶり/に¥なし、¥こつ/を/ば¥かうや/へ¥おくり、¥はか/を/ば¥ひの/に/ぞ¥せ/られ/ける。¥きたのかた¥やがて¥さま/を¥かへ、¥こき¥すみぞめ/に¥やつれ−はて/て、¥かの¥ごせ−ぼだい/を¥とぶらひ¥たまふ/ぞ¥あはれ/なる。¥
「だいぢしん」(『だいぢしん』)S1201¥さる−ほど/に¥へいけ¥ほろび、¥げんじ/の¥よ/に¥なつ/て¥のち、¥くに/は¥こくし/に¥したがひ、¥しやう/は¥りやうけ/の¥まま/なり/けり。¥じやうげ¥あんど−し/て¥おぼえ/し/ほど/に、¥おなじき−しちぐわつ−ここのかのひ/の¥むま/の−こく/ばかり、¥だいぢ¥おびたたしう¥うごい/て¥やや¥ひさし。¥せきけん/の¥うち、¥しらかは/の¥ほとり、¥ろくしようじ¥みな¥やぶれ−くづる。¥くぢう/の¥たふ/も、¥うへ¥ろくぢう¥ふり−おとし、¥とくぢやうじゆゐん/の¥さんじふさんげん/の¥み=だう/も、¥じふしちけん/まで¥ゆり−たふす。P317¥くわうきよ/を¥はじめ/て、¥ざいざいしよしよ/の¥じんじや−ぶつかく、¥あやし/の¥みんをく、¥さながら¥みな¥やぶれ−くづる。¥くづるる¥おと/は、¥いかづち/の/ごとく、¥あがる¥ちり/は¥けぶり/の/ごとし。¥てん¥くらう/して¥ひ/の¥ひかり/も¥みえ/ず、¥らうせう¥とも/に¥たましひ/を¥うしなひ、¥てうしゆ¥ことごとく¥こころ/を¥つくす。¥また¥ゑんごく¥きんごく/も¥かく/の/ごとし。¥やま¥くづれ/て¥かは/を¥うづみ、¥うみ¥ただよひ/て¥はま/を¥ひたす。¥なぎさ¥こぐ¥ふね/は¥なみ/に¥ゆら/れ、¥くが¥ゆく¥こま/は¥あし/の¥たてど/を¥うしなへ/り。¥だいぢ¥さけ/て¥みづ¥わき−いで、¥ばんじやく¥われ/て¥たに/へ¥まろぶ。¥こうずゐ¥みなぎり−きたら/ば、¥をか/に¥のぼつ/て/も¥など/か¥たすから/ざら/ん。¥みやうくわ¥もえ−きたら/ば、¥かわ/を¥へだて/て/も、¥しばし/は¥さん/ぬ/べし。¥とり/に¥あら/ざれ/ば、¥そら/を/も¥かけり−がたく、¥りう/に¥あら/ざれ/ば、¥くも/に/も¥また¥のぼり−がたし。¥ただ¥かなしかり/し/は¥だい−ぢしん/なり。¥しらかは、¥ろくはら、¥きやう−ぢう/に、¥うち−うづま/れ/て¥しぬる¥もの、¥いくら/と¥いふ¥かず/を¥しら/ず。¥しだいしゆ/の¥なか/に、¥すゐくわ¥ふうう/は¥つね/に¥がい/を¥なせ/ども、¥だいぢ/に¥おいて¥こと/なる¥へん/を¥なさ/ず。¥こんど/ぞ¥よ/の¥うせはて/とて、¥じやうげ¥やりど¥しやうじ/を¥たて/て、¥てん/の¥なり¥ち/の¥うごく¥たび−ごと/に/は、¥こゑごゑ/に¥ねんぶつ¥まうし、¥をめき−さけぶ¥こと¥おびたたし。¥ろくしちじふ、¥はつくじふ/の¥もの=ども、「¥よ/の¥めつする/など¥いふ¥こと/は、¥つね/の¥ならひ/なれ/ども、¥さすが¥きのふ¥けふ/と/は¥おもは/ざり/し/ものを」/と¥いひ/けれ/ば、¥わらんべ=ども/は¥これ/を¥きい/て、¥なき−かなしむ¥こと¥かぎり−なし。¥ほふわう/は¥いまぐまの/へ¥ご=かう¥なつ/て、¥おん=はな¥まゐら/させ¥たまふ¥をりふし、¥かかる¥だい−ぢしん¥あつ/て、¥しよくゑ¥いで−き/に/けれ/ば、¥いそぎ¥おん=こし/に¥めし/て、¥ろくでう=どの¥へ¥くわんぎよ¥なる。¥ぐぶ/の¥くぎやう−てんじやうびと、¥みち−すがら、¥いか/ばかり/の¥こころ/を/か¥くだか/れ/けん。¥ほふわう/は¥なんてい/に¥あくや/をP318¥たて/て/ぞ¥おはします。¥しゆしやう/は¥ほうれん/に¥めし/て、¥いけ/の¥みぎは/へ¥ぎやうがう¥なる。¥ちうぐう、¥みやみや/は、¥あるひ/は¥おん=こし/に¥めし、¥あるひは¥おん=くるま/に¥たてまつ/て、¥たしよ/へ¥ぎやうげい¥あり/けり。¥てんもんはかせ¥いそぎ¥だいり/へ¥はせ−まゐつ/て、¥ゆふさり¥ゐね/の−こく/に/は、¥だいぢ¥かならず¥うち−かへす/べき¥よし¥まうし/けれ/ば、¥おそろし/など/も¥おろか/なり。¥むかし¥もんどく−てんわう/の¥ぎよ=う、¥さいかう−さんねん−さんぐわつ−やうか/の¥だい−ぢしん/に/は、¥とうだいじ/の¥ほとけ/の¥み=ぐし/を¥ゆり−おとし/たり/ける/とかや。¥また¥てんぎやう−にねん−しんぐわつ−ふつか/の¥だい−ぢしん/に/は、¥しゆしやう¥ご=てん/を¥さつ/て、¥じやうねいでん/の¥まへ/に¥ご=ぢやう/の¥あくや/を¥たて/て、¥おはしまし/ける/と/ぞ¥うけたまはる。¥それ/は¥じやうだい/なれ/ば¥いかが¥あり/けん。¥この−のち/は¥かかる¥こと¥ある/べし/と/も¥おぼえ/ず。¥じふぜん−ていわう¥ていと/を¥いで/させ¥たまひ/て、¥おん=み/を¥かいてい/に¥しづめ、¥だいじん¥くぎやう¥とらはれ/て、¥きうり/に¥かへり、¥あるひは¥かうべ/を¥はね/て¥おほち/を¥わたさ/れ、¥あるひは¥さいし/に¥わかれ/て¥をんる−せ/らる。¥へいけ/の¥をんりやう/に¥よつ/て、¥よ/の¥うす/べき¥よし¥まうし/けれ/ば、¥こころ−ある¥ひと/の¥なげき−かなしま/ぬ/は¥なかり/けり。¥
「こんかきのさた」(『こんがきのさた』)S1202¥おなじき−はちぐわつ−にじふににち、¥たかを/の¥もんがく−しやうにん、¥こ=さま/の−かみ−よしとも/の¥うるはしき¥かうべ/とて、P319¥たづね−いだし/て¥くび/に¥かけ、¥かまだ−びやうゑ/が¥くび/を/ば、¥でし/が¥くび/に¥かけ/させ、¥くわんとう/へ/ぞ¥くだら/れ/ける。¥さんぬる¥ぢしよう−しねん−しちぐわつ/に、¥むほん/を¥すすめ¥まうさ/ん/が¥ため/に、¥ひじり、¥そぞろ/なる¥どくろ/を¥ひとつ¥とり−いだし、¥しろい¥ぬの/に¥つつん/で、「¥これ/こそ¥こ=さま/の−かみ−よしとも/の¥かうべ/よ」/とて、¥たてまつら/れ/たり/けれ/ば、¥やがて¥むほん/を¥おこし、¥ほど−なく¥よ/を¥うつ−とつ/て、¥いつかう¥ちち/の¥かうべ/と¥しんぜ/られ/ける¥ところ/に、¥いま¥また¥たづね−いだし/て/ぞ¥くだら/れ/ける。¥これ/は¥よしとも/の¥ねんらい¥ふびん/に/して¥めし−つかは/れ/ける¥こんかき/の¥をとこ、¥へいぢ/の¥のち/は、¥ごくしや/の¥まへ/なる¥こけ/の¥した/に¥うづもれ/て、¥ごせ¥とぶらふ¥ひと/も¥なかり/し/を、¥とき/の¥たいり/に¥つけ/て¥まうし−うけ、¥ひやうゑ/の−すけ=どの/は、¥いま/こそ¥るにん/で¥おはす/とも、¥すゑ¥たのもしき¥ひと/なり。¥また¥よ/に¥いで/て¥たづね¥たまふ¥こと/も/や/と、¥ひがしやま¥ゑんがくじ/と¥いふ¥ところ/に、¥ふかう¥をさめ/て¥おき/たり/し/を、¥もんがく¥たづね−いだし/て¥くび/に¥かけ、¥かの¥こんかき/の¥をとこ¥とも/に、¥あひ−ぐし/て/ぞ¥くだら/れ/ける。¥ひじり¥けふ¥すでに¥かまくら/へ¥いる/と¥きこえ/しか/ば、¥げん−にゐ、¥かたせがは/の¥はた/まで¥むかひ/に/ぞ¥いで¥たまふ。¥それ/より¥いろ/の¥すがた/に¥いで−たつ/て、¥かまくら/へ¥かへり−いら/る。¥ひじり/を/ば¥おほ−ゆか/に¥たて、¥わが−み/は¥には/に¥たつ/て、¥なくなく¥ちち/の¥かうべ/を¥うけ−とり¥たまふ/ぞ¥あはれ/なる。¥これ/を¥み¥たてまつる¥だいみやう−せうみやう、¥みな¥そで/を/ぞ¥ぬらさ/れ/ける。¥せきがん/の¥さがしき/を¥きり−はらつ/て、¥あらた/なる¥だうぢやう/を¥つくり、¥いつかう¥ちち/の¥おん=ため/と¥くやう−じ/て、¥しようぢやうじゆゐん/と¥かうせ/らる。¥くげ/に/も¥かやう/の¥こと=ども/を¥きこしめし/て、¥こ=さま/の−かみ−よしとも/の¥はか/へ、¥ないだいじん−じやう−にゐ/を¥おくら/る。¥ちよくし/は¥させうべん−かねただ/と/ぞ¥きこえ/し。¥よりともの−きやう、¥ぶよう/の¥めいよ¥ちやうじ¥たまへ/る/に¥よつ/て、P320¥み/を¥たて¥いへ/を¥おこす/のみ/なら/ず、¥ばうぶ¥そんりやう/まで¥ぞうくわん¥ぞうゐ/に¥および/ぬる/こそ¥あり−がたけれ。¥
「へいだいなごんのながされ」(『へいだいなごんながされ』)S1203¥くぐわつ−にじふさんにち、¥へいけ/の¥よたう/の、¥みやこ/の¥うち/に¥のこり−とどまつ/たる/を、¥みな¥くにぐに/へ¥つかはさ/る/べき¥よし、¥かまくら/より¥くげ/へ¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥さら/ば¥つかはさ/る/べし/とて、¥へい−だいなごん−ときただの−きやう¥のとの−くに、¥くら/の−かみ−のぶもと¥さどの−くに、¥さぬきの−ちうじやう−ときざね¥あきの−くに、¥ひやうぶ/の−せふ−まさあきら¥おきの−くに、¥にゐ/の−そうづ−せんしん¥あはの−くに、¥ほつしようじ/の−しゆぎやう−のうゑん¥かづさの−くに、¥きやうじゆ−ばう/の−あじやり−ゆうゑん¥びんごの−くに、¥ちうなごん/の−りつし−ちうくわい/は¥むさしの−くに/と/ぞ¥きこえ/し。¥あるひは¥さいかい/の¥なみ/の¥うへ、¥あるひは¥とうくわん/の¥くも/の¥はて、¥せんど¥いづく/を¥ごせ/ず。¥こうくわい¥その¥ご/を¥わきまへ/ず、¥わかれ/の¥なみだ/を¥おさへ/つつ、¥めんめん/に¥おもむか/れ/けん¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥なか/に/も¥へい−だいなごん−ときただの−きやう/は、¥けんれいもんゐん/の¥わたら/せ¥たまふ¥よしだ/に¥まゐつ/て¥まうさ/れ/ける/は、「¥おん=いとま¥まうさ/ん/が¥ため/に、¥くわんにん=ども/に¥しばし/の¥いとま¥こう/て¥まゐつ/て¥さふらふ。¥ときただ/こそ¥せめ¥おもう/して、¥けふ¥すでに¥はいしよ/へ¥おもむき¥さふらへ。¥おなじ¥みやこ/の¥うち/に¥さふらひ/て、¥おん=あたり/の¥おん=こと=ども/を/も、¥うけたまはら/まほしう¥ぞんじ¥さふらひ/し/に、¥かかる¥み/に¥まかり−なつ/て¥さふらへ/ば、¥いま/よりP321¥のち、¥また¥いか/なる¥おん=ありさま=ども/にて/か、¥わたら/せ¥たまひ¥さふらは/んず/らん/と、¥おもひ−おき¥まゐらせ¥さふらふ/に/こそ、¥さらに¥ゆく/べき¥そら/も¥おぼえ/まじう¥さふらへ」/と、¥なくなく¥まうさ/れ/けれ/ば、¥にようゐん、「¥げに/も¥むかし/の¥なごり/とて/は、¥そこ/ばかり/こそ¥おはし/つる/に、¥いま/は¥なさけ/を¥かけ¥とひ−とぶらふ¥ひと/も、¥たれ/か¥ある/べき」/とて、¥おん=なみだ¥せき−あへ/させ¥たまは/ず。¥そもそも¥この¥ときただの−きやう/と¥まうす/は、¥ではの−せんじ−とものぶ/が¥まご、¥ぞう−さだいじん−ときのぶ=こう/の¥こ/なり/けり。¥こ=けんしゆんもんゐん/の¥おん=せうと、¥たかくらの−しやうくわう/の¥ご=ぐわいせき、¥また¥にふだう−しやうこく/の¥きたのかた、¥はちでうの−にゐ=どの/も、¥あね/にて¥おはし/けれ/ば、¥けんぐわん¥けんじよく¥おもひ/の/ごとく¥こころ/の¥まま/なり。¥され/ば¥じやう−にゐ/の−だいなごん/に/も¥ほど−なく¥へ−あがつ/て、¥けんびゐし/の−べつたう/に/も、¥さん−か−ど/まで¥なり¥たまへ/り。¥この¥ひと/の¥ちやうむ/の¥とき/は、¥しよ−こく/の¥せつたう¥がうだう、¥さんぞく¥かいぞく/など/を/ば、¥やう/も¥なく¥からめ−とつ/て、¥いちいち/に¥ひぢ/の¥もと/より、¥ふつふつ/と¥うち−きり−うち−きり¥おつ−ぱな/たる。¥され/ば¥ひと、¥あく−べつたう/と/ぞ¥まうし/ける。¥しゆしやう¥ならびに¥さんじゆ/の−しんき、¥ことゆゑ−なう¥みやこ/へ¥かえし−いれ¥たてまつる/べき¥よし/の¥ゐんぜん/の¥お=つかひ、¥お=つぼ/の−めしつぎ−はなかた/が¥つら/に、¥なみかた/と¥いふ¥やいじるし/を¥せ/られ/ける/も、¥ひとへに¥この¥ときただの−きやう/の¥しわざ/なり。¥こ=けんしゆんもんゐん/の¥おん=なごり/にて¥おはし/けれ/ば、¥ほふわう/も¥おん=かたみ/に¥ごらんぜ/まほしう/は¥おぼしめさ/れ/けれ/ども、¥かやう/の¥あくぎやう/に¥よつ/て、¥おん=いきどほり¥あさから/ず。¥はうぐわん/も¥また¥したしう¥なら/れ/たり/けれ/ば、¥やうやう/に¥まうさ/れ/けれ/ども、¥かなは/ず/して¥つひに¥ながさ/れ¥たまひ/けり。¥しそく/の¥じじう−ときいへ/とて、¥しやうねん¥じふろく/に¥なり¥たまふ/は、¥これ/は¥るざい/に/は¥もれ/て、P322¥をぢ/の¥さいしやう−ときみつの−きやう/の¥もと/に¥おはし/ける/が、¥きのふ/より¥だいなごん/の¥しゆくしよ/に¥おはし/て、¥ははうへ¥そつのすけ=ども¥とも/に、¥だいなごん/の¥たもと/に¥すがり、¥いま/を¥かぎり/の¥なごり/を/ぞ¥をしま/れ/ける。¥だいなごん、「¥つひに¥す/まじき¥わかれ/かは」/と、¥こころ−づよう/は¥のたまへ/ども、¥さ/こそ/は¥こころ−ぼそかり/けめ。¥とし¥たけ¥よはひ¥かたぶい/て、¥さ/しも¥むつまじかり/ける¥さいし/に/も、¥みな¥わかれ−はて/て、¥すみ−なれ/し¥みやこ/を/ば、¥くもゐ/の¥よそ/に¥かへりみ/て、¥いにしへ/は¥な/に/のみ¥きき/し¥こしぢ/の¥たび/に¥おもむい/て、¥はるばると¥くだり¥たまふ/に、「¥かれ/は¥しが−からさき、¥これ/は¥まの/の−いりえ、¥かたた/の−うら」/と¥まうし/けれ/ば、¥だいなごん¥なくなく¥えいじ¥たまひ/けり。¥
かへり−こ/ん¥こと/は¥かたた/に¥ひく¥あみ/の¥め/に/も¥たまら/ぬ¥わが¥なみだ/かな W092¥
きのふ/は¥さいかい/の¥なみ/の¥うへ/に¥ただよひ/て、¥をんぞうゑく/の¥うらみ/を、¥へんしう/の¥うち/に¥つみ、¥けふ/は¥ほつこく/の¥ゆき/の¥した/に¥うづもれ/て、¥あいべつりく/の¥かなしみ/を、¥こきやう/の¥くも/に¥かさね/たり。¥
「とさばうきられ」(『とさぼうきられ』)S1204¥さる−ほど/に¥はうぐわん/に/は、¥かまくら=どの/より¥だいみやう¥じふにん¥つけ/られ/たり/ける/が、¥ないない¥ご=ふしん/を¥かうぶり¥たまふ/と¥きこえ/しか/ば、¥こころ/を¥あはせ/て、¥いち−にん/づつ¥みな¥くだり−はて/に/けり。¥きやうだい/なる¥うへ、¥こと/に¥ふし/の¥ちぎり/を¥し/て、¥いちのたに、¥だんのうら/に¥いたる/まで、¥へいけ/を¥せめ−ほろぼし、P323¥ないしどころ、¥しるし/の−おん=はこ、¥ことゆゑ−なう¥みやこ/へ¥かへし−いれ¥たてまつり、¥いつてん/を¥しづめ¥しかい/を¥すます。¥くんじやう¥おこなは/る/べき¥ところ/に、¥なに/の¥しさい¥あつ/て/か、¥かかる¥きこえ/の¥あり/けん/と、¥かみ¥いちじん/より¥しも¥ばんみん/に¥いたる/まで、¥ひと¥みな¥ふしん/を¥なす。¥その¥ゆゑ/は、¥この¥はる¥つの−くに¥わたなべ/にて、¥さかろ¥たて/う¥たて/じ/の¥ろん/を¥し/て、¥おほき/に¥あざむか/れ/し¥こと/を、¥かぢはら¥ゐこん/に¥おもひ、¥つね/は¥ざんげん−し/て、¥つひに¥うしなひ/ける/と/ぞ、¥のち/に/は¥きこえ/し。¥かまくら=どの、¥はうぐわん/に¥せい/の¥つか/ぬ¥ま/に、¥いま¥いちにち/も¥さき/に¥うつて/を¥のぼせ/たう/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥だいみやう=ども¥さし−のぼせ/ば、¥うぢ−せた/の−はし/を/も¥ひき、¥きやうと/の¥さわぎ/と/も¥なつ/て、¥なかなか¥あしかり/な/んず。¥いかが−せ/ん/と¥おもは/れ/ける/が、¥ここに¥とさ−ばう−しやうしゆん/を¥めし/て、「¥わ−そう¥のぼつ/て、¥ものまうで−する¥やう/で、¥たばかつ/て¥うて」/と¥のたまへ/ば、¥とさ−ばう¥かしこまり−うけたまはつ/て、¥しゆくしよ/へ/も¥かへら/ず、¥すぐに¥きやう/へ/ぞ¥のぼり/ける。¥くぐわつ−にじふくにち/に、¥とさ−ばう¥みやこ/へ¥のぼつ/たり/けれ/ども、¥つぎ/の−ひ/まで¥はうぐわん=どの/へ/は¥さんぜ/ず。¥はうぐわん、¥とさ−ばう/が¥のぼつ/たる¥よし/を¥きこしめし/て、¥むさし−ばう−べんけい/を¥もつて¥めさ/れ/けれ/ば、¥やがて¥つれ/て/ぞ¥まゐつ/たる。¥はうぐわん、「¥いか/に¥とさ−ばう、¥かまくら=どの/より¥おん=ふみ/は¥なき/か」/と¥のたまへ/ば、「¥べつ/の¥おん=こと/も¥さふらは/ぬ¥あひだ、¥おん=ふみ/を/ば¥まゐらせ/られ/ず¥さふらふ。¥おん=ことば/で¥まうせ/と¥おほせ¥さふらひ/つる/は、『¥たうじ¥みやこ/に¥べつ/の¥しさい/の¥さふらは/ぬ/は、¥さて¥わたら/せ¥たまふ¥おん=ゆゑ/なり。¥あひ−かまへ/て¥よくよく¥しゆご−せ/させ¥たまへ/と¥まうせ』/と/こそ¥おほせ¥さふらひ/つれ」/と¥まうし/けれ/ば、¥はうぐわん、「¥よも¥さ/は¥あら/じ。¥よしつね¥うち/に¥のぼつ/たる¥おん=つかひ/なり。¥だいみやう=どもP324¥さし−のぼせ/ば、¥うぢ−せた/の−はし/を/も¥ひき、¥きやうと/の¥さわぎ/と/も¥なつ/て、¥なかなか¥あしかり/な/んず。¥わ−そう¥のぼつ/て¥ものまうで−する¥やう/で、¥たばかつ/て¥うて/と¥おほせ−つけ/られ/たん/な」/と¥のたまへ/ば、¥とさ−ばう¥おほき/に¥おどろき、「¥なに/に¥よつ/て/か、¥ただいま¥さる−おん=こと/の¥さふらふ/べき。¥これ/は¥いささか¥しゆくぐわん/の¥しさい¥さふらひ/て、¥くまの−さんけい/の¥ため/に、¥まかり−のぼつ/て¥さふらふ」/と¥まうし/けれ/ば、¥その−とき¥はうぐわん、「¥かげとき/が¥ざんげん/に¥よつ/て、¥かまくら−ぢう/へ/だに¥いれ/られ/ず/して、¥おひ−のぼせ/られ/し¥こと/は¥いか/に」。¥とさ−ばう、「¥その¥おん=こと/は¥いかが¥ましまし¥さふらふ/やらん、¥しり¥まゐらせ/ぬ¥ざふらふ。¥しやうしゆん/に¥おいて/は、¥まつたく¥おん=ぱらくろ¥おもひ¥たてまつら/ぬ¥ざふらふ」。¥いつかう¥ふちう¥なき¥よし/の¥きしやうもん/を、¥かき−しんず/べき¥よし/を¥まうす。¥はうぐわん、「¥とても−かくても、¥かまくら=どの/に¥よし/と¥おもは/れ¥たてまつ/たる¥み/なら/ば/こそ」/とて、¥もつて/の−ほか/に¥けしき¥あし=げ/に¥みえ¥たまへ/ば、¥とさ−ばう、¥いつたん/の¥がい/を¥のがれ/ん/が¥ため/に、¥ゐ/ながら¥しちまい/の¥きしやう/を¥かき、¥あるひは¥やい/て¥のみ、¥あるひは¥やしろ/の¥ほうでん/に¥こめ/など/して、¥ゆり/て¥かへり、¥おほ−ばんじゆ/の¥もの=ども¥もよほし−あつめ/て、¥その¥よ¥やがて¥よせ/ん/と¥す。¥
はうぐわん/は¥いその−ぜんじ/と¥いふ¥しらびやうし/が¥むすめ、¥しづか/と¥いふ¥をんな/を¥ちようあい−せ/られ/けり。¥しづか¥かたはら/を¥へんし/も¥たち−さる¥こと¥なし。¥しづか¥まうし/ける/は、「¥おほち/は¥みな¥むしや/で¥さぶらふ/なる。¥み=うち/より¥もよほし/の¥なから/ん/に、¥これ−ほど/まで¥おほ−ばんじゆ/の¥もの=ども/が、¥さわぐ/べき¥こと/や¥さぶらふ/べき。¥いかさま/に/も、¥これ/は¥ひる/の¥きしやう−ぼふし/が¥しわざ/と¥おぼえ¥さぶらふ。¥ひと/を¥つかはし/て¥みせ¥さぶらは/ばや」/とて、¥ろくはら/の¥こ=にふだう−しやうこく/の¥めし−つかは/れ/ける¥かぶろ/を、¥さんしにん¥めし−つかは/れ/ける/を、P325¥ににん¥みせ/に¥つはかす。¥ほど¥ふる/まで¥かへら/ず。¥をんな/は¥なかなか¥くるしかる/まじ/とて、¥はしたもの/を¥いち−にん¥みせ/に¥つかはす。¥やがて¥はしり−かへつ/て、「¥かぶろ/と¥おぼしき¥もの/は、¥ふたり/ながら¥とさ−ばう/が¥かど/の¥まへ/に、¥きり−ふせ/られ/て¥さぶらふ。¥かど/の¥まへ/に/は、¥くらおきむま=ども、¥ひつ−たて−ひつ−たて、¥おほまく/の¥うち/に/は、¥もの=ども、¥よろひ¥き、¥かぶと/の¥を/を¥しめ、¥や¥かき−おひ、¥ゆみ¥おし−はり、¥ただいま¥よせ/ん/と¥いで−たち¥さぶらふ。¥すこし/も¥ものまうで/の¥けしき/と/は¥みえ¥さぶらは/ず」/と¥まうし/けれ/ば、¥はうぐわん、¥され/ば/こそ/とて、¥たち¥とつ/て¥いで¥たまへ/ば、¥しづか、¥きせなが¥とつ/て¥なげ−かけ¥たてまつる。¥たかひも/ばかり/して¥いで¥たまへ/ば、¥むま/に¥くら¥おい/て、¥ちうもん/の¥くち/に¥ひつ−たて/たり。¥はうぐわん¥これ/に¥うち−のり、「¥かど¥あけよ」/とて¥あけ/させ、¥いま/や−いま/や/と¥まち¥たまふ¥ところ/に、¥やはん/ばかり/に、¥とさ−ばう¥ひた−かぶと¥しごじつき、¥そうもん/の¥まへ/に¥おし−よせ/て、¥とき/を¥どつと/ぞ¥つくり/ける。¥はうぐわん¥あぶみ¥ふんばり¥たち−あがり、¥だい−おんじやう/を¥あげ/て、「¥ようち/に/も、¥また¥ひるいくさ/に/も、¥よしつね¥たやすう¥うつ/べき¥もの/は、¥につぽんごく/に/は¥おぼえ/ぬ/ものを」/とて、¥はせ−まはり¥たまへ/ば、¥むま/に¥あて/られ/じ/と/や¥おもひ/けん、¥みな¥なか/を¥あけ/て/ぞ¥とほし/ける。¥さる−ほど/に¥いせの−さぶらう−よしもり、¥あうしう/の−さとう−しらう−びやうゑ−ただのぶ、¥えだの−げんざう、¥くまゐ−たらう、¥むさし−ばう−べんけい/など¥いふ、¥いち−にん−たうぜん/の¥つはもの=ども、¥み=うち/に¥よ¥うち−いつ/たり/とて、¥あそこ/の¥しゆくしよ、¥ここ/の¥やかた/より¥はせ−きたる/ほど/に、¥はうぐわん¥ほど−なく¥ろくしちじつき/に¥なり¥たまひ/ぬ。¥とさ−ばう、¥こころ/は¥たけう¥よせ/たれ/ども、¥たすかる¥もの/は¥すくなう、¥うた/るる¥もの/ぞ¥おほかり/ける。P326¥とさ−ばう¥かなは/じ/と/や¥おもひ/けん、¥けう/に/して¥くらま/の¥おく/へ¥ひき−しりぞく。¥くらま/は¥はうぐわん/の¥こさん/なり/けれ/ば、¥かの¥ほふし¥からめ−とつ/て、¥つぎ/の−ひ¥はうぐわん=どの/へ¥つかはす。¥そうじやう/が−たに/と¥いふ¥ところ/に、¥かくれ−ゐ/たり/ける/とかや。¥とさ−ばう¥その−ひ/の¥しやうぞく/に/は、¥かち/の−ひたたれ/に、¥くろかは−をどし/の−よろひ¥き/て、¥しゆつちやうどきん/を/ぞ¥き/たり/ける。¥はうぐわん¥えん/に¥たつ/て、¥とさ−ばう/を¥おほ−には/に¥ひき−すゑ/させ、「¥いか/に¥とさ−ばう、¥きしやう/に/は、¥はやく/も、¥うて/たる/ぞ/かし」/と¥のたまへ/ば、「¥さん−ざふらふ。¥ある¥こと/に¥かい/て¥さふらへ/ば、¥うて/て¥さふらふ」/と¥まうす。¥はうぐわん¥なみだ/を¥はらはら/と¥ながい/て、「¥しゆくん/の¥めい/を¥おもんじ/て、¥わたくし/の¥めい/を¥かろんず。¥こころざし/の¥ほど¥まことに¥しんべう/なり。¥わ−そう¥いのち¥をしく/ば、¥たすけ/て¥かまくら/へ¥かへし−つかはさ/ん/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥とさ−ばう¥ゐ−なほり¥かしこまつ/て、「¥こ/は¥くちをしき¥こと/を/も¥のたまふ/ものかな。¥たすから/う/ど¥まうさ/ば、¥との/は¥たすけ¥たまふ/べき/か。¥かまくら=どの/の、¥ほふし/なれ/ども、¥おのれ/ぞ¥ねらは/んずる/ものを/と、¥おほせ/を¥かうむつ/し/より¥この−かた、¥いのち/を/ば¥ひやうゑ/の−すけ=どの/に¥たてまつり/ぬ。¥なじか/は¥ふたたび¥とり−かへし¥たてまつる/べき。¥ただ¥はうおん/に/は¥とくとく¥かうべ/を¥はね/られ¥さふらへ」/と¥まうし/けれ/ば、¥さら/ば/とて、¥やがて¥ろくでうかはら/へ¥ひき−いだい/て/ぞ¥きり/てんげる。¥ほめ/ぬ¥ひと/こそ¥なかり/けれ。P327¥
「はうぐわんのみやこおち」(『はうぐわんのみやこおち』)S1205¥ここに¥あだちの−しんざぶらう/と¥いふ¥ざつしき¥あり。「¥きやつ/は¥げらふ/なれ/ども、¥さかざかしき¥もの/にて¥さふらふ。¥めし−つかは/れ¥さふらへ」/とて、¥かまくら=どの/より¥はうぐわん/に¥つけ/られ/たり/ける/とかや。¥これ/は、¥ないない¥くらう/が¥ふるまひ/を¥み/て、¥われ/に¥しらせよ/と/なり。¥とさ−ばう/が¥きら/るる/を¥み/て、¥よ/を¥ひ/に¥つい/で¥はせ−くだり、¥この¥よし¥かくと¥まうし/けれ/ば、¥かまくら=どの¥おほき/に¥おどろき、¥しやてい¥みかはの−かみ−のりより/に、¥うつて/に¥のぼり¥たまふ/べき¥よし¥のたまへ/ば、¥しきり/に¥じし¥まうさ/れ/けれ/ども、¥いか/に/も¥かなふ/まじき¥よし/を、¥かさねて¥のたまふ¥あひだ、¥ちから¥およば/ず¥いそぎ¥もののぐ−し/て、¥おん=いとま¥まうし/に¥まゐら/れ/たり/けれ/ば、¥かまくら=どの、「¥わ=との/も¥また¥くらう/が¥ふるまひ−し¥たまふ/な/よ」/と¥のたまひ/ける¥おん=ことば/に¥おそれ/て、¥しゆくしよ/に¥かへり、¥いそぎ¥もののぐ¥ぬぎ−おき、¥きやうのぼり/を/ば¥おもひ−とどまり¥たまひ/ぬ。¥まつたく¥ふちう¥なき¥よし/の¥きしやうもん/を、¥いちにち/に¥じふまい−づつ、¥ひる/は¥かき、¥よる/は¥お=つぼ/の−うち/にて¥よみ−あげ−よみ−あげ、¥ひやくにち/に¥せんまい/の¥きしやう/を¥かい/て¥まゐらせ/られ/たり/けれ/ども、¥かなは/ず/して、¥のりより¥つひに¥うた/れ¥たまひ/けり。¥つぎに¥ほうでうの−しらう−ときまさ/に、¥ろくまん−よ−き/を¥さし−そへ/て、¥うつて/に¥のぼせ/らるる¥よし¥きこえ/しか/ば、¥はうぐわん、¥うぢ−せた/の−はし/を/も¥ひき、¥ふせが/ばや/と¥おもは/れ/ける/が、¥ここに¥をがたの−さぶらう−これよし/は、P328¥へいけ/を¥くこく/の¥うち/へ/も¥いれ/ず/して、¥おひ−いだす/ほど/の¥たせい/の¥もの/なり。「¥われ/に¥たのま/れよ」/と¥のたまへ/ば、「¥さ¥さふらは/ば、¥み=うち/に¥さふらふ¥きくちの−じらう−たかなほ/は、¥ねんらい/の¥かたき/で¥さふらふ¥あひだ、¥たまはつ/て¥きつ/て¥のち、¥たのま/れ¥たてまつら/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥はうぐわん¥さう−なう¥たう/でげり。¥やがて¥ろくでうかはら/へ¥ひき−いだい/て/ぞ¥きり/てげる。¥その−のち¥これよし¥りやうじやう−す。¥おなじき−じふいちぐわつ−ふつかのひ、¥くらう−たいふ/の−はうぐわん¥ゐんざん−し/て、¥おほくらきやう−やすつねの−あそん/を¥もつて、¥そうもん−せ/られ/ける/は、「¥よりとも、¥らうどう=ども/が¥ざんげん/に¥よつ/て、¥よしつね¥うた/ん/と¥つかまつり¥さふらふ。¥うぢ−せた/の−はし/を/も¥ひき、¥ふせが/ばや/と/は¥ぞんじ¥さふらへ/ども、¥きやうと/の¥さわぎ/と/も¥なつ/て、¥なかなか¥あしう¥さふらひ/な/んず。¥ひとまづ¥ちんぜい/の¥かた/へ/も、¥おち−ゆか/ばや/と¥ぞんじ¥さふらふ。¥あはれ¥ゐん/の−ちやう/の¥おん=くだしぶみ/を¥たまはつ/て、¥まかり−くだり¥さふらは/ばや」/と¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥ほふわう、¥この¥こと¥いかが¥あら/んず/らん/と、¥おぼしめし−わづらは/せ¥たまひ/て、¥しよきやう/に¥おほせ−あはせ/らる。¥しやきやう¥まうさ/れ/ける/は、「¥よしつね¥みやこ/に¥さふらひ/な/ば、¥とうごく/の¥おほぜい¥みだれ−いつ/て、¥きやうと/の¥さうどう¥たえ/まじう¥さふらふ。¥しばらく¥ちんぜい/の¥かた/へ/も、¥おち−ゆき¥さふらは/ば、¥その¥おそれ¥ある/まじう¥さふらふ」/と¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥さら/ば/とて、¥ちんぜい/の¥もの=ども、¥をがたの−さぶらう−これよし/を¥はじめ/と/して、¥うすき、¥へつぎ、¥まつら−たう/に¥いたる/まで、¥みな¥よしつね/が、¥げぢ/に¥したがふ/べき¥よし/の、¥ゐん/の−ちやう/の¥おん=くだしぶみ/を¥たまはつ/て、¥あくる¥みつか/の¥う/の−こく/に、¥みやこ/に¥いささか/の¥わづらひ/も¥なさ/ず、¥なみかぜ/を/も¥たて/ず/して、¥その¥せい¥ごひやく−よ−き/で/ぞ¥くだら/れ/ける。P329¥
ここに¥つの−くに−げんじ、¥おほだの−たらう−よりもと、¥この¥よし/を¥きい/て、¥かまくら=どの/と¥なか¥たがう/て¥くだり¥たまふ¥ひと/を、¥さう−なう¥わが¥もん/の¥まへ/を¥とほし/な/ば、¥かまくら=どの/の¥かへり−きこしめさ/れ/んずる¥ところ/も¥あり、¥や¥ひとつ¥い−かけ¥たてまつら/ん/とて、¥てぜい¥ろくじふ−よ−き、¥かはらづ/と¥いふ¥ところ/に¥おつ−つい/て¥せめ−たたかふ。¥はうぐわん、「¥その¥ぎ/なら/ば、¥いち−にん/も¥もらさ/ず¥うて/や」/とて、¥ごひやく−よ−き¥とつ/て¥かへし、¥おほだの−たらう¥ろくじふ−よ−き/を¥なか/に¥とり−こめ/て、¥われ¥うつ−とら/ん/と/ぞ¥すすみ/ける。¥おほだの−たらう−よりもと、¥いへのこ−らうどう¥おほく¥うた/せ、¥わが−み¥て−おひ、¥むま/の¥ふとばら¥い/させ、¥ちから¥およば/で¥ひき−しりぞく。¥のこり−とどまつ/て¥ふせぎ−や¥い/ける¥つはもの=ども、¥にじふ−よ−にん/が¥くび¥きり−かけ/させ、¥いくさがみ/に¥まつり、¥よろこび/の¥とき/を¥つくり、¥かどで¥よし/と/ぞ¥よろこば/れ/ける。¥その−ひ/は、¥つの−くに¥だいもつ/の−うら/に/ぞ¥つき¥たまふ。¥あくる¥よつかのひ、¥だいもつ/の−うら/より¥ふね/にて¥くだら/れ/ける/が、¥をりふし¥にし/の¥かぜ¥はげしう¥ふき/けれ/ば、¥はうぐわん/の¥のり¥たまへ/る¥ふね/は、¥すみよし/の−うら/へ¥うち−あげ/られ/て、¥それ/より¥よしのやま/へ/ぞ¥こもら/れ/ける。¥よしの−ぼふし/に¥せめ/られ/て、¥なら/へ¥おつ。¥なら−ぼふし/に¥せめ/られ/て、¥また¥みやこ/へ¥かへり−のぼり、¥ほつこく/に¥かかつ/て、¥つひに¥おく/へ/ぞ¥くだら/れ/ける。¥はうぐわん/の¥みやこ/より¥ぐせ/られ/たり/ける¥じふ−よ−にん/の¥にようばう=たち/を/ば、¥みな¥すみよし/の−うら/に¥すて−おか/れ/たり/けれ/ば、¥ここ/や¥かしこ/の¥まつ/の¥した、¥いさご/の¥うへ/に¥たふれ−ふし、¥あるひは¥はかま¥ふみ−しだき、¥あるひは¥そで¥かた−しい/て¥なき−ゐ/たり/ける/を、¥すみよし/の¥じんぐわん、¥これ/を¥あはれん/で、¥のりもの=ども/を¥したて/て、P330¥みな¥きやう/へ/ぞ¥おくり/ける。¥はうぐわん/の¥むねと¥たのま/れ/たり/ける¥をがたの−さぶらう−これよし、¥しだの−さぶらう−せんじやう−よしのり、¥びぜんの−かみ−ゆきいへ=ら/が¥のつ/たる¥ふね=ども/も、¥ここ−かしこ/の¥うらうら−しまじま/に¥うち−あげ/られ/て、¥たがひ/に¥その¥ゆくへ/を/も¥しら/ざり/けり。¥にし/の¥かぜ¥たちまち/に¥はげしう¥ふき/ける/は、¥へいけ/の¥をんりやう/と/ぞ¥きこえ/し。¥おなじき−なぬかのひ、¥ほうでうの−しらう−ときまさ、¥ろくまん−よ−き/を¥あひ−ぐし/て¥しやうらく−す。¥あくる¥やうかのひ¥ゐんざん−し/て、「¥いよの−かみ−みなもとの−よしつね、¥ならびに¥びぜんの−かみ−ゆきいへ、¥しだの−さぶらう−せんじやう−よしのり、¥みな¥つゐたう−す/べき¥よし/の¥ゐんぜん¥たまはる/べき¥よし、¥よりとも¥まうし¥さふらふ」/と¥まうし/けれ/ば、¥ほふわう¥やがて¥ゐんぜん/を/ぞ¥くださ/れ/ける。¥さんぬる¥ふつかのひ/は、¥よしつね¥まうし−うくる¥むね/に¥まかせ/て、¥よりとも¥そむく/べき¥よし/の¥ゐん/の−ちやう/の¥おん=くだしぶみ/を¥なさ/れ、¥おなじき−やうかのひ/は、¥よりともの−きやう/の¥まうしじやう/に¥よつ/て、¥よしつね¥うつ/べき¥よし/の¥ゐんぜん/を¥くださ/る。¥あした/に¥かはり¥ゆふべ/に¥へんず。¥ただ¥せけん/の¥ふぢやう/こそ¥かなしけれ。¥
「よしだだいなごんのさた」(『よしだのだいなごんのさた』)S1206¥さる−ほど/に¥かまくら/の−さきの−ひやうゑ/の−すけ−よりとも、¥につぽんごく/の¥そうづゐふくし/を¥たまはつ/て、¥たんべつ/に¥ひやうらうまい¥あて−おこなふ/べき¥よし、¥くげ/へ¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥ほふわう¥おほせ/なり/ける/は、「¥むかし/よりP331¥てうてき/を¥たひらげ/たる¥もの/に/は、¥はんごく/を¥たまはる/と¥いふ¥こと、¥むりやうぎきやう/に¥みえ/たり。¥され/ども¥さやう/の¥こと/は¥あり−がたき¥ためし/なり。¥これ/は¥よりとも/が¥くわぶん/の¥まうしじやう/かな」/とて、¥しよきやう/に¥おほせ−あはせ/られ/たり/けれ/ば、¥くぎやう−せんぎ¥あつ/て、「¥よりともの−きやう/の¥まうさ/るる¥ところ、¥だうり¥なかば/なり」/と、¥しよきやう¥いちどう/に¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥ほふわう/も¥ちから¥およば/せ¥たまは/ず、¥やがて¥おん=ゆるされ¥あり/けり。¥しよ−こく/に¥しゆご/を¥おき−かへ、¥しやうゑん/に¥ぢとう/を¥ふせ/らる。¥かかり/しか/ば、¥いちまう/ばかり/も¥かくる/べき¥やう/ぞ¥なかり/ける。¥かまくら=どの¥かやう/の¥こと/を/ば、¥くげ/に/も¥ひと¥おほし/と¥いへ/ども、¥よしだの−だいなごん−つねふさの−きやう/を¥もつて¥まうさ/れ/けり。¥この¥だいなごん/は、¥うるはしき¥ひと/と¥きこえ¥たまへ/り。¥その¥ゆゑ/は、¥へいけ/に¥むすぼほれ/たり/し¥ひとびと/も、¥げんじ/の¥よ/の¥つより/し¥のち、¥あるひは¥ふみ/を¥つかはし、¥あるひは¥ししや/を¥たて/て、¥さまざま/に¥へつらは/れ/たり/けれ/ども、¥この¥だいなごん/は、¥さ/も¥し¥たまは/ず。¥され/ば、¥へいけ/の¥とき、¥ほふわう/を¥せいなん/の−りきう/に¥おし−こめ¥たてまつ/て、¥ごゐん/の−べつたう/を¥おか/れ/ける/に/も、¥はちでうの−ちうなごん−ながかたの−きやう、¥この¥だいなごん、¥ににん/を/ぞ¥ふせ/られ/ける。¥ごん/の−うちうべん−みつふさの−あそん/の¥こ/なり/けり。¥しかる/を¥じふに/の¥とし、¥ちち/の¥あそん¥うせ¥たまひ/しか/ば、¥みなしご/にて¥おはせ/しか/ども、¥しだい/の¥しようじん¥とどこほら/ず、¥さんじ/の¥けんえう/を¥けんたい−し/て、¥せきらう/の¥くわんじゆ/を¥へ、¥さんぎ、¥だいべん、¥ださい/の−そつ、¥ちうなごん、¥だいなごん/に¥へ−あがつ/て、¥ひと/を/ば¥こえ¥たまへ/ども、¥ひと/に/は¥こえ/られ¥たまは/ず。¥され/ば¥ひと/の¥ぜんあく/は、¥きり¥ふくろ/を¥とほす/とて¥かくれ¥なし。¥あり−がたかり/し¥だいなごん/なり。P332
「ろくだい」(『ろくだい』)S1207¥さる−ほど/に¥ほうでうの−しらう−ときまさ/は、¥かまくら=どの/の¥おん=だいくわん/に、¥みやこ/の¥しゆご−し/て¥さふらは/れ/ける/が、「¥へいけ/の¥しそん/と¥いは/ん¥ひと、¥なんし/に¥おいて¥いち−にん/も¥もらさ/ず、¥たづね−いだし/たら/ん¥ともがら/に/は、¥しよまう/は¥こふ/に¥よる/べし」/と¥ひろう−せ/らる。¥きやう−ぢう/の¥じやうげ、¥あんない/は¥しつ/たり、¥けんじやう¥かうむら/ん/とて、¥たづね−もとむる/こそ¥うたてけれ。¥かかり/しか/ば、¥いくら/も¥たづね−いださ/れ/たり。¥げらふ/の¥こ/なれ/ども、¥いろ¥しろう¥みめ¥よき/を/ば、「¥あれ/は¥なん/の¥ちうじやう=どの/の¥わかぎみ、¥かの¥せうしやう=どの/の¥きんだち」/など¥いふ¥あひだ、¥ちち¥はは¥なげき−かなしめ/ども、「¥あれ/は¥めのと/が¥まうし¥さふらふ、¥これ/は¥かいしやく/の¥にようばう/が」/なんど¥まうし/て、¥むげ/に¥をさなき/を/ば、¥みづ/に¥いれ、¥つち/に¥うづみ、¥すこし¥おとなしき/を/ば、¥おし−ころし、¥さし−ころす。¥はは/の¥かなしみ¥めのと/が¥なげき、¥たとへ/ん¥かた/ぞ¥なかり/ける。¥ほうでう/も¥しそん¥さすが¥ひろけれ/ば、¥これ/を¥いみじ/と/は¥おもは/ね/ども、¥よ/に¥したがふ¥ならひ/なれ/ば¥ちから¥およば/ず。¥なか/に/も¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥わかぎみ、¥ろくだい−ごぜん/とて、¥とし/も¥すこし¥おとなしう¥まします。¥その−うへ¥へいけ/の¥ちやくちやく/に/して¥おはし/けれ/ば、¥いか/に/も−し/て¥とり¥たてまつ/て¥うしなは/ん/とて、¥て/を¥わけ/て¥たづね/けれ/ども、¥もとめ−かね/て、¥すでに¥むなしう¥くだら/ん/とP333¥し/ける¥ところ/に、¥ある¥にようばう/の¥ろくはら/に¥まゐつ/て¥まうし/ける/は、「¥これ/より¥にし、¥へんぜうじ/の¥おく、¥だいかくじ/と¥まうす¥やまでら/の¥きた、¥しやうぶだに/と¥まうす¥ところ/に/こそ、¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥きたのかた、¥わかぎみ、¥ひめぎみ、¥しのう/で¥まします/なれ」/と¥いひ/けれ/ば、¥ほうでう¥うれしき¥こと/を/も¥きき/ぬ/と¥おもひ、¥かしこ/へ¥ひと/を¥つかはし/て、¥その¥へん/を¥うかがは/せ/ける/ほど/に、¥ある¥ばう/に¥にようばう=たち¥あまた、¥をさなき¥ひとびと、¥ゆゆしう¥しのう/だる¥てい/にて¥すまは/れ/たり。¥まがき/の¥ひま/より¥のぞい/て¥みれ/ば、¥しろい¥えのこ/の¥には/へ¥はしり−いで/たる/を¥とら/ん/とて、¥よ/に¥うつくしき¥わかぎみ/の、¥つづい/て¥いで¥たまひ/ける/を、¥めのと/の−にようばう/と¥おぼしく/て、「¥あな¥あさまし。¥ひと/も/こそ¥み¥まゐらせ¥さぶらへ」/とて、¥いそぎ¥ひき−いれ¥たてまつる。¥これ/ぞ¥いちぢやう¥そ/にて¥まします/らん/と¥おもひ、¥いそぎ¥はしり−かへつ/て、¥この¥よし¥まうし/けれ/ば、¥つぎ/の−ひ、¥ほうでう、¥しやうぶだに/を¥うち−かこみ、¥ひと/を¥いれ/て¥まうさ/れ/ける/は、「¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥わかぎみ、¥ろくだい−ごぜん/の¥これ/に¥まします¥よし¥うけたまはつ/て、¥かまくら=どの/の¥おん=だいくわん/と/して、¥ほうでうの−しらう−ときまさ/が、¥おん=むかひ/に¥まゐつ/て¥さふらふ。¥とうとう¥いだし¥まゐら/させ¥たまへ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥ははうへ¥ゆめ/の¥ここち−し/て、¥つやつや¥もの/を/も¥おぼえ¥たまは/ず。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく、¥その¥へん/を¥はしり−まはつ/て¥うかがひ/けれ/ども、¥ぶし=ども¥しはう/を¥うち−かこん/で、¥いづかた/より¥いだし−まゐらす/べし/と/も¥おぼえ/ず。¥ははうへ/は¥わかぎみ/を¥かかへ¥たてまつ/て、「¥ただ¥われ/を¥うしなへ/や」/とて、¥をめき−さけび¥たまひ/けり。¥めのと/の−にようばう/も、¥おん=まへ/に¥たふれ−ふし、¥こゑ/も¥をしま/ず¥をめき−さけぶ。¥ひごろ/は¥もの/を/だに¥たかく¥いは/ず、¥しのび/つつ¥かくれ−ゐ/たり/しか/ども、¥いま/は¥いへ/の¥うち/に¥あり/と−ある¥もの/の、P334¥こゑ/を¥ととのへ/て¥なき−かなしむ。¥ほうでう/も¥いはき/なら/ね/ば、¥さすが¥あはれ=げ/に¥おぼえ/て、¥なみだ/を¥おさへ、¥つくづくと/ぞ¥また/れ/ける。¥やや¥あつ/て、¥また¥ひと/を¥いれ/て¥まうさ/れ/ける/は、「¥よ/も¥いまだ¥しづまり¥さふらは/ね/ば、¥しどけなき¥おん=こと/も/ぞ¥さふらは/んず/らん。¥ときまさ/が¥おん=むかひ/に¥まゐつ/て¥さふらふ。¥べつ/の¥しさい/は¥さふらふ/まじ。¥とうとう¥いだし¥まゐら/させ¥たまへ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥わかぎみ、¥ははうへ/に¥まうさ/せ¥たまひ/ける/は、「¥つひに¥のがる/まじう¥さふらふ¥うへ、¥はやはや¥いださ/せ¥おはしませ。¥ぶし=ども/の¥うち−いつ/て¥さがす/ほど/なら/ば、¥なかなか¥うたて=げ/なる¥おん=ありさま=ども/を、¥みえ/させ¥たまひ¥さふらは/んず/らん。¥たとひ¥まかり/て¥さふらふ/とも、¥しばし/も¥あら/ば、¥ほうでう/とかや/に¥いとま¥こう/て、¥かへり−まゐり¥さふらは/ん。¥いたう¥な¥なげか/せ¥たまひ¥さふらひ/そ」/と、¥なぐさめ¥たまふ/こそ¥いとほしけれ。¥さて/しも¥ある/べき¥こと/なら/ね/ば、¥ははうへ/は、¥わかぎみ/に¥なくなく¥おん=もの¥きせ¥まゐらせ、¥おん=ぐし¥かき−なで/て、¥すでに¥いだし¥まゐらせ/ん/と¥し¥たまひ/ける/が、¥くろき/の¥ずず/の¥ちひさう¥うつくしき/を¥とり−いだい/て、「¥あひ−かまへ/て、¥これ/にて、¥いか/に/も−なら/ん/まで、¥ねんぶつ¥まうし/て¥ごくらく/へ¥まゐれよ」/とて/ぞ¥たてまつら/る。¥わかぎみ¥これ/を¥とら/せ¥たまひ/て、「¥ははうへ/に/は¥けふ¥すでに¥わかれ¥まゐらせ¥さふらひ/ぬ。¥いま/は¥いか/に/も−し/て、¥ちち/の¥まします¥ところ/へ/こそ¥まゐり/たけれ」/と¥のたまへ/ば、¥いもうと/の¥ひめぎみ/の、¥しやうねん¥とを/に¥なり¥たまひ/ける/が、「¥われ/も¥まゐら/ん」/とて、¥つづい/て¥いで¥たまひ/ける/を、¥めのと/の−にようばう¥とり−とどめ¥たてまつる。¥ろくだい−ごぜん、¥ことし/は¥じふに/に¥なり¥たまへ/ども、¥よ/の¥ひと/の¥じふしご/より/も¥おとなしく、¥みめ−すがた¥うつくしう、P335¥こころざま¥いう/に¥おはし/けれ/ば、¥かたき/に¥よわ=げ/を¥みえ/じ/とて、¥おさふる¥そで/の¥ひま/より/も、¥あまり/て¥なみだ/ぞ¥こぼれ/ける。¥さて¥おん=こし/に¥めさ/れ¥たまふ。¥ぶし=ども¥うち−かこん/で¥いで/に/けり。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/も、¥おん=こし/の¥さう/に¥つい/て/ぞ¥まゐり/ける。¥ほうでう、¥のりがへ=ども/を¥おろい/て、¥むま/に¥のれ/と¥いへ/ども¥のら/ず。¥だいかくじ/より¥ろくはら/まで、¥かちはだし/で/ぞ¥まゐり/たる。¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう、¥てん/に¥あふぎ¥ち/に¥ふし/て、¥もだえ−こがれ¥たまひ/けり。¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう/に¥のたまひ/ける/は、「¥この¥ひごろ、¥へいけ/の¥こ=ども¥とり−あつめ/て、¥みづ/に¥いれ、¥つち/に¥うづみ、¥あるひは¥おし−ころし、¥さし−ころし、¥さまざま/に/して¥うしなふ¥よし¥きこゆ/なれ/ば、¥わが¥こ/を/ば、¥なに/と/して/か¥うしなは/んず/らん。¥とし/も¥すこし¥おとなしけれ/ば、¥さだめて¥くび/を/こそ¥きら/んず/らめ。¥ひと/の¥こ/は、¥めのと/なんど/の¥もと/に¥つかはし/て、¥ときどき¥みる¥こと/も¥あり。¥それ/だに/も、¥おんあい/の−みち/は¥かなしき¥ならひ/ぞ/かし。¥いはんや¥これ/は、¥うみ−おとし/て/より¥この−かた、¥ひとひ−かたとき/も¥み/を¥はなた/ず、¥ひと/も¥もた/ぬ¥こ/を¥もち/たる¥やう/に¥おもひ、¥あさゆふ¥ふたり/の¥なか/にて¥そだて/し¥もの/を、¥たのみ/を¥かけ/し¥ひと/に、¥あか/で¥わかれ/て¥のち/は、¥ふたり/を¥うらうへ/に¥おい/て/こそ¥なぐさみ/し/に、¥いま/は¥はや¥ひとり/は¥あれ/ども、¥ひとり/は¥なし。¥けふ/より¥のち/は¥いかが−せ/ん。¥この¥みとせ/が¥あひだ、¥よる¥ひる¥きも−たましひ/を¥けし/て、¥おもひ−まうけ/たる¥こと/なれ/ども、¥さすが¥きのふ¥けふ/と/は¥おもひ/も¥よら/ず、¥ひごろ/は¥はせ/の¥くわんおん/を、¥さり/とも/と/こそ¥たのみ¥たてまつり/し/に、¥つひに¥とら/れ/ぬる¥こと/の¥かなし−さ/よ。¥ただいま/も/や¥うしなひ/つ/らん」/と¥かき−くどき、¥そで/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥さめざめ/と/ぞ¥なか/れ/ける。¥よる/に¥なれ/ども、¥むね¥せき−あぐるP336¥ここち−し/て、¥つゆ/も¥まどろみ¥たまは/ざり/し/が、¥やや¥あつ/て¥めのと/の−にようばう/に¥のたまひ/ける/は、「¥ただいま¥ちと¥うち−まどろみ/たり/つる¥ゆめ/に、¥この¥こ/が¥しろい¥むま/に¥のつ/て¥きたり/つる/が、『¥あまり/に¥おん=こひしう¥おもひ¥まゐらせ¥さふらふ/ほど/に、¥しばし/の¥いとま¥こう/て¥まゐつ/て¥さふらふ』/とて、¥そば/に¥つい−ゐ/て、¥なに/と/やらん¥よ/に¥うらめし=げ/にて¥あり/つる/が、¥いく−ほど¥なく/て、¥うち−おどろか/さ/れ、¥そば/を¥さぐれ/ども¥ひと/も¥なし。¥ゆめ/だに/も¥しばし/も¥あら/で、¥やがて¥さめ/ぬる¥こと/の¥かなし−さ/よ」/と/ぞ、¥なくなく¥かたり¥たまひ/ける。¥さる−ほど/に¥ながき¥よ/を、¥いとど¥あかし−かね、¥なみだ/に¥とこ/も¥うく/ばかり/なり。¥かぎり−あれ/ば、¥けいじん¥あかつき/を¥となへ/て、¥よ/も¥あけ/ぬ。¥さいとう−ろく¥かへり−まゐつ/たり。¥ははうへ、「¥さて¥いか/に/や」/と¥とひ¥たまへ/ば、「¥いま/まで/は¥べち/の¥おん=こと/も¥さふらは/ず。¥これ/に¥おん=ふみ/の¥さふらふ」/とて、¥とり−いだい/て¥たてまつる。¥これ/を¥あけ/て¥み¥たまふ/に、「¥いま/まで/は¥べち/の¥しさい/も¥さふらは/ず。¥さ/こそ¥おん=こころ−もとなう¥おぼしめさ/れ¥さふらふ/らん。¥いつしか¥たれたれ/も¥おん=こひしう/こそ¥おもひ¥まゐらせ¥さふらへ」/と、¥おとなしやか/に¥かき¥たまへ/り。¥ははうへ¥これ/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥とかう/の¥こと/も¥のたまは/ず、¥ひき−かづい/て/ぞ¥ふし¥たまふ。¥かくて¥じこく¥はるか/に¥おし−うつり/けれ/ば、¥さいとう−ろく、「¥とき/の¥ほど/も¥おぼつかなう¥さふらふ。¥おん=ぺんじ¥たまはつ/て¥かへり−まゐり¥さふらは/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥ははうへ¥なくなく¥おん=ぺんじ¥かい/て/ぞ¥たう/でげる。¥さいとう−ろく¥いとま¥まうし/て¥いで/に/けり。¥めのと/の−にようばう、¥せめて/の¥こころ/の¥あら/れ/ず−さ/に/や、¥だいかくじ/を/ば¥まぎれ−いで/て、¥そのP337¥へん/を¥あし/に¥まかせ/て¥なき−あるく/ほど/に、¥ある¥ひと/の¥まうし/ける/は、「¥これ/より¥おく、¥たかを/と¥いふ¥やまでら/の¥ひじり、¥もんがく−ばう/と¥まうす¥ひと/こそ、¥かまくら=どの/の¥ゆゆしき¥だいじ/の¥ひと/に¥おもは/れ¥まゐらせ/て¥ましまし/ける/が、¥じやうらふ/の¥こ/を¥でし/に¥せ/ん/とて、¥ほしがら/るる/なれ」/と¥いひ/けれ/ば、¥めのと/の−にようばう、¥うれしき¥こと/を/も¥きき/ぬ/と¥おもひ、¥すぐに¥たかを/へ¥たづね−いり、¥ひじり/に¥むかひ¥まゐらせ/て、¥なくなく¥まうし/ける/は、「¥ち/の¥なか/より¥いだき−あげ¥たてまつり、¥おほし−たて¥まゐらせ/て、¥ことし/は¥じふに/に¥なり¥たまひ/つる¥わかぎみ/を、¥きのふ¥ぶし/に¥とら/れ/て¥さぶらふ/なり。¥おん=いのち/を¥こひ−うけ/て、¥おん=でし/に¥せ/させ¥たまひ/な/ん/や」/とて、¥ひじり/の¥おん=まへ/に¥たふれ−ふし、¥こゑ/も¥をしま/ず¥をめき−さけぶ。¥まことに¥せんかた−な=げ/に/ぞ¥みえ/たり/ける。¥ひじり/も¥むざん/に¥おもひ/て、¥こと/の¥しさい/を¥とひ¥たまふ。¥やや¥あつ/て¥おき−あがり、¥なみだ/を¥おさへ/て¥まうし/ける/は、「¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥きたのかた/に、¥おん=したしう¥まします¥ひと/の¥わかぎみ/を、¥やしなひ¥まゐらせ/て¥さぶらひ/つる/を、¥もし¥ちうじやう=どの/の¥きんだち/と/や、¥ひと/の¥まうし/て¥さぶらふ/らん、¥きのふ¥ぶし/に¥とら/れ/て¥さぶらふ/なり」/と/ぞ¥かたり/ける。¥ひじり、「¥さて¥その¥ぶし/を/ば¥たれ/と¥いふ/やらん」。「¥ほうでうの−しらう−ときまさ/と/こそ¥なのり¥まうし¥さぶらひ/つれ」。¥ひじり、「¥いで¥さら/ば¥たづね/て¥み/ん」/とて、¥つき−いで/ぬ。¥めのと/の−にようばう、¥この¥ことば/を¥たのむ/べき/に/は¥あら/ね/ども、¥きのふ¥ぶし/に¥とら/れ/て/より¥この−かた、¥あまり/に¥おもふ¥はかり/も¥なかり/つる/に、¥ひじり/の¥かく¥のたまへ/ば、¥すこし¥こころ/を¥とり−のべ/て、¥いそぎ¥だいかくじ/へ/ぞ¥まゐり/ける。¥ははうへ、「¥さて¥わ−ごぜ/は、¥み/を¥なげ/に¥いで/ぬる/やらん。¥われ/も¥いか/なる¥ふちかは/へ/も、¥み/をP338¥なげ/ばや/など¥おもひ/たれ/ば」/とて、¥こと/の¥しさい/を¥とひ¥たまふ。¥めのと/の−にようばう、¥ひじり/の¥まうさ/れ/つる¥さま/を、¥こまごま/と¥かたり¥まうし/たり/けれ/ば、「¥あはれ、¥その¥ひじり/の−おん=ばう/の、¥この¥こ/を¥こひ−うけ/て、¥いま¥ひとたび¥われ/に¥みせよ/かし」/とて、¥うれし−さ/に/も、¥ただ¥つきせ/ぬ¥もの/は¥なみだ/なり。¥その−のち¥ひじり¥ろくはら/に¥いで/て、¥こと/の¥しさい/を¥とひ¥たまふ。¥ほうでう¥まうさ/れ/ける/は、「¥かまくら=どの/の¥おほせ/に/は、¥へいけ/の¥しそん/と¥いは/ん¥ひと、¥なんし/に¥おいて、¥いち−にん/も¥もらさ/ず¥たづね−いだし/て、¥うしなふ/べし。¥なか/に/も¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥しそく、¥ろくだい−ごぜん/とて、¥とし/も¥すこし¥おとなしう¥まします。¥その−うへ¥へいけ/の¥ちやくちやく/なり。¥こ=なかのみかど−しん−だいなごん−なりちかの−きやう/の¥むすめ/の¥はら/に¥あり/と¥きく。¥いか/に/も−し/て¥とり¥たてまつ/て、¥うしなひ¥まゐらせよ/と、¥おほせ/を¥かうむつ/し¥あひだ、¥すゑずゑ/の¥きんだち=たち/を/ば、¥せうせう¥とり¥たてまつ/て/は¥さふらへ/ども、¥この¥わかぎみ/の¥ざいしよ/を、¥いづく/と/も¥しり¥まゐらせ/ず/して、¥すでに¥むなしう¥くだら/ん/と¥つかまつる¥ところ/に、¥おもは/ざる¥ほか、¥をととひ¥きき−いだし¥まゐらせ/て、¥きのふ¥これ/まで¥むかへ¥たてまつ/て¥さふらへ/ども、¥あまり/に¥うつくしう¥ましまし¥さふらふ/ほど/に、¥いまだ¥と/も−かう/も、¥し¥たてまつら/で¥おき¥たてまつ/て¥さふらふ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥ひじり、「¥いで¥さら/ば、¥み¥まゐらせ/ん」/とて、¥わかぎみ/の¥わたら/せ¥たまふ¥ところ/に¥まゐつ/て¥み¥たまへ/ば、¥ふたへ−おりもの/の−ひたたれ/に、¥くろき/の¥ずず¥て/に¥ぬき−いれ/て¥おはします。¥かみ/の¥かかり、¥すがた¥ことがら、¥まことに¥あて/に¥うつくしく、¥この−よ/の¥ひと/と/も¥みえ¥たまは/ず。¥こよひ¥うち−とけ/て¥まどろみ¥たまは/ぬ/か/と¥おぼしく/て、¥すこし¥おも−やせ¥たまふ/をP339¥み/まゐらする/に¥つけ/て/も、¥いとど¥らうたく/ぞ¥おもは/れ/ける。¥わかぎみ¥ひじり/を¥み¥たまひ/て、¥いかが¥おぼし/けん、¥なみだぐみ¥たまへ/ば、¥ひじり/も¥すぞろ/に¥すみぞめ/の¥そで/を/ぞ¥ぬらさ/れ/ける。¥すゑ/の¥よ/に/は¥いか/なる¥をんでき/と¥なり¥たまふ/と¥いふ/とも、¥これ/を/ば¥いかで/か¥うしなひ¥たてまつる/べき/と¥おもは/れ/けれ/ば、¥ほうでう/に¥むかつ/て¥のたまひ/ける/は、「¥ぜんぜ/の¥こと/に/や¥さふらふ/らん、¥この¥わかぎみ/を¥み¥まゐらせ¥さふらへ/ば、¥あまり/に¥いとほしう¥おもひ¥まゐらせ¥さふらふ。¥なにか¥くるしう¥さふらふ/べき。¥はつか/の¥いのち/を¥のべ/て¥たべ。¥かまくら/へ¥くだつ/て、¥まうし−ゆるい/て¥たてまつら/ん。¥その¥ゆゑ/は、¥ひじり¥かまくら=どの/を¥よ/に¥あら/せ¥たてまつら/ん/とて、¥ゐんぜん¥うかがひ/に¥きやう/へ¥のぼる/が、¥あんない/も¥しら/ぬ¥ふじがは/の¥すそ/に、¥よる¥わたり−かかつ/て、¥すでに¥おし−ながさ/れ/ん/と¥し/たり/し¥こと、¥また¥たかしやま/にて¥ひつぱぎ/に¥あひ、¥からき¥いのち/ばかり¥いき/つつ、¥ふくはら/の¥ろう/の−ごしよ/に¥まゐつ/て、¥ゐんぜん¥まうし−いだい/て¥たてまつ/し¥とき/の¥おん=やくそく/に/は、¥たとひ¥いか/なる¥だいじ/を/も¥まうせ、¥ひじり/が¥まうさ/んずる¥こと=ども/を/ば、¥よりとも¥いちご/が¥あひだ/は、¥かなへ/ん/と/こそ¥のたまひ/しか。¥その−ほか¥たびたび/の¥ほうこう/を/ば、¥かつ¥み¥たまひ/し¥こと/ぞ/かし。¥こと−あたらしう¥はじめ/て¥まうす/べき/に¥あら/ず。¥ちぎり/を¥おもんじ/て¥いのち/を¥かろんず。¥かまくら=どの/に¥じゆりやうがみ¥つき¥たまは/ず/は、¥よも¥わすれ¥たまは/じ」/とて、¥やがて¥その¥あかつき/ぞ¥たた/れ/ける。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく、¥ひじり/を¥しやうじん/の¥ほとけ/の/ごとく/に¥おもう/て、¥て/を¥あはせ/て¥なみだ/を¥ながす。¥これ=ら¥また¥だいかくじ/に¥まゐつ/て、¥この¥よし¥まうし/けれ/ば、¥ははうへ¥いか/ばかり/か¥うれしう¥おもは/れ/けん。¥され/ども¥かまくら/の¥はからひ/なれ/ば、¥いかが¥あら/んず/らん/と¥おもは/れ/けれ/ども、¥はつか/の¥いのち/の¥のび¥たまふ/に/ぞ、¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう、P340¥すこし¥こころ/を¥とり−のべ/て、¥ひとへに¥はせ/の−くわんおん/の¥おん=たすけ/なれ/ば/に/や/と、¥たのもしう/ぞ¥おもは/れ/ける。¥かく−し/て¥あかし−くらさ/せ¥たまふ/ほど/に、¥はつか/の¥すぐる/は¥ゆめ/なれ/や、¥ひじり/も¥いまだ¥みえ¥たまは/ず。¥これ/は¥され/ば¥なに/と¥し/つる¥こと=ども/ぞ/や/と、¥なかなか¥こころ−ぐるしく/て、¥いまさら¥また/もだえ−こがれ¥たまひ/けり。¥ほうでう/も、「¥ひじり/の¥はつか/と¥まうさ/れ/し¥やくそく/の¥ひかず/も¥すぎ/ぬ。¥いま/は¥かまくら=どの¥おん=ゆるされ¥なき/に/こそ¥あん/なれ。¥さ/のみ¥ざいきやう−し/て、¥とし/を¥くらす/べき/に¥あら/ず。¥いま/は¥くだら/ん」/とて¥ひしめき/けり。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/も¥て/を¥にぎり、¥きも−たましひ/を¥けし/て¥おもへ/ども、¥ひじり/も¥いまだ¥みえ¥たまは/ず、¥つかいもの/を/だに/も¥のぼせ/ね/ば、¥おもふ¥はかり/ぞ¥なかり/ける。¥これ=ら¥また¥だいかくじ/に¥まゐり、「¥ひじり/も¥いまだ¥みえ¥たまは/ず。¥ほうでう/も¥あかつき¥げかう¥つかまつり¥さふらふ」/とて、¥なみだ/を¥はらはら/と¥ながし/けれ/ば、¥ははうへ、¥ひじり/の¥さ/しも¥たのもし=げ/に¥まうし/て¥くだり/ぬる¥のち/は、¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう、¥すこし¥こころ/も¥とり−のべ/て、¥ひとへに¥くわんおん/の¥おん=たすけ/なり/と、¥たのもしう¥おもは/れ/つる/に、¥この¥あかつき/に/も¥なり/しか/ば、¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう/の¥こころ/の¥うち、¥さ/こそ/は¥たより−なかり/けめ。¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう/に¥のたまひ/ける/は、「¥あはれ¥おとなしやか/なら/んずる¥もの/が『¥みち/にて¥ひじり/に¥ゆき−あは/ん¥ところ/まで、¥この¥こ/を¥ぐせよ』/と¥いへ/かし。¥もし¥こひ−うけ/て¥のぼら/ん/に、¥さき/に¥きら/れ/たら/んずる¥こころ−う−さ/を/ば、¥いかが−せ/ん。¥さて¥やがて¥うしなひ=げ/なり/つる/か」/と¥とひ¥たまへ/ば、「¥この¥あかつき/の¥ほど/と/こそ¥みえ/させ¥ましまし¥さふらへ。¥その¥ゆゑ/は、¥この−ほど¥お=とのゐP341¥つかまつり¥さふらひ/つる¥ほうでう/の¥いへのこ−らうどう=ども/も、¥よに¥なごり−をし=げ/にて、¥あるひは¥ねんぶつ¥まうす¥もの/も¥さふらふ、¥あるひは¥なみだ/を¥ながす¥もの/も¥さふらふ」/と¥まうす。¥ははうへ、「¥さて¥この¥こ/が¥ありさま/は¥なに/と¥ある/ぞ」/と¥とひ¥たまへ/ば、「¥ひと/の¥み¥まゐらせ¥さふらふ¥とき/は、¥さら/ぬ¥てい/に¥もてない/て、¥おん=ずず¥をくら/せ¥ましまし¥さふらふ。¥また¥ひと/の¥み¥まゐらせ¥さふらは/ぬ¥とき/は、¥かたはら/に¥むかは/せ¥たまひ/て、¥おん=そで/を¥おん=かほ/に¥おし−あて/て、¥なみだ/に¥むせば/せ¥たまひ¥さふらふ」/と¥まうす。¥ははうへ、「¥さぞ¥ある/らめ。¥とし/こそ¥をさなけれ/ども、¥こころ¥すこし¥おとなしやか/なる¥もの/なり。¥しばし/も¥あら/ば、¥ほうでう/とかや/に¥いとま¥こう/て、¥かへり−まゐら/ん/と/は¥いひ/つれ/ども、¥けふ¥すでに¥はつか/に¥あまる/に、¥あれ/へ/も¥ゆか/ず、¥これ/へ/も¥みえ/ず。¥また¥いづれ/の¥ひ¥いづれ/の¥とき、¥かならず¥あひ−みる/べし/と/も¥おぼえ/ず。¥こよひ¥かぎり/の¥いのち/と¥おもう/て、¥さ/こそ/は¥こころ−ぼそかり/けめ。¥さて¥なんぢ=ら/は¥いかが/は¥はからふ/やらん」/と¥のたまへ/ば、「¥これ/は¥いづく/まで/も¥おん=とも¥つかまつり、¥いか/に/も−なら/せ¥ましまさ/ば、¥ご=こつ/を¥とり¥たてまつり、¥かうや/の¥お=やま/に¥をさめ¥たてまつり、¥しゆつけ−にふだう¥つかまつり、¥ご=ぼだい/を¥とぶらひ¥まゐらせ/ん/と/こそ¥ぞんじ¥さふらへ」/とて、¥なみだ/に¥むせ−しづん/で/ぞ¥ふし/に/ける。¥かくて¥じこく¥はるか/に¥おし−うつり/けれ/ば、¥ははうへ、「¥とき/の¥ほど/も¥おぼつかなし、¥さら/ば¥とう¥かへれ」/と¥のたまへ/ば、¥ににん/の¥もの=ども¥なくなく¥いとま¥まうし/て¥まかり−いづ。¥さる−ほど/に¥おなじき−じふにんぐわつ−じふしちにち/の¥あかつき、¥ほうでうの−しらう−ときまさ、¥わかぎみ¥ぐし¥たてまつ/て、¥すでに¥みやこ/を¥たち/に/けり。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/も、¥おん=こし/の¥さう/に¥つい/て/ぞ¥まゐり/ける。¥ほうでうP342¥のり−かへ=ども¥おろい/て、「¥むま/に¥のれ」/と¥いへ/ども¥のら/ず。「¥さいご/の¥おん=とも/で¥さふらへ/ば、¥くるしう/も¥さふらは/ず」/とて、¥ち/の¥なみだ/を¥ながい/て、¥かちはだし/で/ぞ¥くだり/ける。¥わかぎみ/は、¥さ/しも¥はなれ−がたう¥おぼし/ける¥ははうへ、¥めのと/の−にようばう/に/も¥わかれ−はて/て、¥すみ−なれ/し¥みやこ/を/ば、¥くもゐ/の¥よそ/に¥かへりみ/て、¥けふ/を¥かぎり/の¥あづまぢ/に¥おもむい/て、¥はるばる/と¥くだら/れ/けん¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥こま/を¥はやむる¥ぶし¥あれ/ば、¥わが¥くび¥きら/ん/か/と¥きも/を¥けし、¥もの¥いひ−かはす¥もの¥あれ/ば、¥すは¥いま/や/と¥こころ/を¥つくす。¥しのみやがはら/と¥おもへ/ども、¥せきやま/を/も¥うち−すぎ/て、¥おほつ/の−うら/に/も¥なり/に/けり。¥あはづ/の−はら/か/と¥うかがへ/ば、¥けふ/も¥はや¥くれ/に/けり。¥くにぐに¥しゆくじゆく¥うち−すぎ−うち−すぎ¥くだり¥たまふ/ほど/に、¥するがの−くに/に/も¥なり/しか/ば、¥わかぎみ/の¥つゆ/の−おん=いのち、¥けふ/を¥かぎり/と/ぞ¥みえ/し。¥
せんぼん/の−まつばら/と¥いふ¥ところ/に、¥おん=こし¥かき−すゑ/させ、「¥わかぎみ¥おり/させ¥たまへ」/とて、¥しきがは¥しい/て¥すゑ¥たてまつる。¥ほうでう¥いそぎ¥むま/より¥とん/で¥おり、¥わかぎみ/の¥おん=そば¥ちかう¥まゐつ/て¥まうさ/れ/ける/は、「¥もし¥みち/にて¥ひじり/に/や¥ゆき−あひ¥さふらふ/と、¥これ/まで¥ぐそく−し¥たてまつ/て¥さふらへ/ども、¥やま/の¥あなた/まで/は、¥かまくら=どの/の¥ご=しんぢう/も¥はかり−がたう¥さふらへ/ば、¥あふみの−くに/にて¥うしなひ¥まゐらせ/たる¥よし、¥ひろう¥つかまつり¥さふらは/ん。¥いちごふ−しよかん/の¥おん=み/なれ/ば、¥たれ¥まうす/とも、¥よ/も¥かなは/せ¥たまひ¥さふらは/じ」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥わかぎみ、¥とかう/の¥へんじ/に/も¥および¥たまは/ず。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/を¥めし/て¥のたまひ/ける/は、「¥あな−かしこ、¥なんぢ=ら¥みやこ/へ¥のぼり、¥われ¥みち/にて¥きら/れ/たり/など¥まうす/べから/ず。¥その¥ゆゑ/は、¥つひ/に/は¥かくれ¥ある/まじけれ/ども、P343¥まさしう¥この¥ありさま/を¥きき¥たまひ/て、¥なげき−かなしみ¥たまは/ば、¥ごせ/の¥さはり/と/も¥なら/んずる/ぞ。¥かまくら/まで¥おくり−つけ/て¥のぼつ/たる¥よし¥まうす/べし」/と¥のたまへ/ば、¥ににん/の¥もの=ども、¥なみだ/を¥はらはらと¥ながす。¥やや¥あつ/て¥さいとう−ご¥なみだ/を¥おさへ/て¥まうし/ける/は、「¥きみ/の¥かみ/に/も¥ほとけ/に/も¥なら/せ¥たまひ/な/ん¥のち、¥いのち¥いき/て¥ふたたび¥みやこ/へ¥かへり−のぼる/べし/と/も¥ぞんじ¥さふらは/ず」/とて、¥また¥なみだ/を¥おさへ/て¥ふし/に/けり。¥わかぎみ¥いま/は¥かう/と¥みえ/し¥とき、¥み=ぐし/の¥かた/に¥かかり/ける/を、¥ちひさう¥うつくしき¥おん=て/を¥もつて、¥まへ/へ¥かき−こさ/せ¥たまふ/を、¥しゆご/の−ぶし=ども¥み¥まゐらせ/て、「¥あな¥いとほし、¥いまだ¥おん=こころ/の¥まします/ぞ/や」/とて、¥みな¥よろひ/の¥そで/を/ぞ¥ぬらし/ける。¥その−のち¥わかぎみ、¥にし/に¥むかつ/て¥て/を¥あはせ、¥かうじやう/に¥じふねん¥となへ/させ¥たまひ/つつ、¥くび/を¥のべ/て/ぞ¥また/れ/ける。¥かのの−くどうざう−ちかとし、¥きりて/に¥えらま/れ、¥たち/を¥ひき−そばめ、¥ひだん/の¥かた/より¥わかぎみ/の¥おん=うしろ/に¥たち−まはり、¥すでに¥きら/ん/と¥し/ける/が、¥め/も¥くれ¥こころ/も¥きえ−はて/て、¥いづく/に¥かたな/を¥うち−つく/べし/と/も¥おぼえ/ず、¥ぜんご−ふかく/に¥おぼえ/けれ/ば、「¥つかまつ/とも¥ぞんじ¥さふらは/ず。¥たにん/に¥おほせ−つけ/られ¥さふらへ」/とて、¥たち/を¥すて/て/ぞ¥のき/に/ける。「¥さら/ば¥あれ¥きれ、¥これ¥きれ」/とて、¥きりて/を¥えらぶ¥ところ/に、¥ここに¥すみぞめ/の¥ころも¥き/たり/ける¥そう¥いち−にん、¥つきげ/なる¥むま/に¥のつ/て、¥むち/を¥うつ/て/ぞ¥はせ/たり/ける。¥その¥へん/の¥もの=ども、「¥あな¥いとほし、¥あの¥まつばら/の¥なか/にて、¥よに¥うつくしき¥わかぎみ/を、¥ほうでう=どの/の¥ただいま¥きり¥たてまつら/る/ぞ/や」/とて、¥もの=ども、¥ひしひし/と¥はしり−あつまり/けれ/ば、¥この¥そう¥こころ−もとな−さ/に、P344¥むち/を¥あげ/て¥まねき/ける/が、¥なほ/も¥おぼつかな−さ/に、¥き/たる¥かさ/を¥ぬい/で、¥さし−あげ/て/ぞ¥まねき/ける。¥ほうでう、¥しさい¥あり/とて¥まつ¥ところ/に、¥この¥そう¥ほど−なく¥はせ−きたり、¥いそぎ¥むま/より¥とん/で¥おり、「¥わかぎみ¥こひ−うけ¥たてまつ/たり。¥かまくら=どの/の¥み=げうしよ¥これ/に¥あり」/とて¥とり−いだす。¥ほうでう¥これ/を¥ひらい/て¥みる/に、「¥まことや、¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥しそく、¥ろくだい−ごぜん¥たづね−いださ/れ/て¥さふらふ。¥しかる/を¥たかを/の¥ひじり¥もんがく−ばう/の、¥しばし¥こひ−うけ/う/ど¥さふらふ。¥うたがひ/を¥なさ/ず¥あづけ/らる/べし。¥ほうでうの−しらう=どの/へ、¥よりとも」/と¥あそばい/て、¥ご=はん¥あり。¥ほうでう¥おし−かへし−おし−かへし、¥にさんべん¥よう/で、「¥しんべう¥しんべう」/とて、¥さし−おか/れ/けれ/ば、¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/は¥いふ/に¥およば/ず、¥ほうでう/の¥いへのこ−らうどう=ども/も、¥みな¥よろこび/の¥なみだ/を/ぞ¥ながし/ける。¥
「はせろくだい」(『はせろくだい』)S1208¥さる−ほど/に¥もんがく−ばう/も¥いで−きたり、「¥わかぎみ¥こひ−うけ¥たてまつ/たり」/とて、¥きしよく¥まことに¥ゆゆし=げ/なり。「¥この¥わかぎみ/の¥ちち、¥さんみ/の−ちうじやう=どの/は、¥どど/の¥いくさ/の¥たいしやうぐん/にて¥おはし/けれ/ば、¥たれ¥まうす/とも¥いか/に/も¥かなふ/まじき¥よし¥のたまふ¥あひだ、¥ひじり/が¥こころ/を¥やぶら/せ¥たまひ/て/は、P345¥いかで/か¥みやうが/の¥ほど/も¥おはす/べき/なんど、¥さまざま¥あつこう¥まうし/つれ/ども、¥なほ/も¥かなふ/まじき¥よし¥のたまひ/て、¥なすの/の¥かり/に¥いで¥たまひ/し¥あひだ、¥あまつさへ¥もんがく/も¥かりば/の¥とも−し/て、¥やうやう/に¥まうし/て¥こひ−うけ¥たてまつ/たり。¥いか/に¥おそう¥おぼし/つ/らん/な」/と¥のたまへ/ば、¥ほうでう¥まうさ/れ/ける/は、「¥ひじり/の¥はつか/と¥おほせ/られ/し、¥やくそく/の¥ひかず/も¥すぎ/ぬ。¥いま/は¥かまくら=どの¥おん=ゆるされ/も¥なき/ぞ/と¥こころ−え/て、¥ぐし¥たてまつ/て¥くだり¥さふらふ/ほど/に、¥かしこう/ぞ、¥ただいま¥ここ/にて¥あやまち¥つかまつる/らん/に」/とて、¥くら¥おい/て¥ひか/せ/られ/たり/ける¥のりがへ=ども/に、¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/を¥のせ/て¥のぼせ/らる。¥わが−み/も¥はるか/に¥うち−おくり、「¥いま¥しばらく/も¥おん=とも¥まうす/べう¥さふらへ/ども、¥これ/は¥かまくら/に¥さして¥ひろう¥つかまつる/べき¥だいじ=ども¥あまた¥さふらふ」/とて、¥それ/より¥うち−わかれ/て/ぞ¥くだら/れ/ける。¥まことに¥なさけ−ふかかり/けり。¥さる−ほど/に¥たかを/の¥もんがく−しやうにん、¥わかぎみ¥うけ−とり¥たてまつ/て、¥よ/を¥ひ/に¥つい/で¥のぼる/ほど/に、¥をはりの−くに¥あつた/の¥へん/にて、¥ことし/も¥すでに¥くれ/ぬ。¥あくる¥しやうぐわつ−いつか/の¥よ/に¥いつ/て、¥みやこ/へ¥のぼり、¥にでうゐのくま/なる¥ところ/に、¥もんがく−ばう/の¥しゆくしよ/の¥あり/ける/に、¥まづ¥それ/に¥おち−つい/て、¥わかぎみ¥しばらく¥やすめ¥たてまつり、¥やはん/ばかり/に¥だいかくじ/へ¥いれ¥たてまつり、¥もん/を¥たたけ/ども、¥ひと¥なけれ/ば¥おと/も¥せ/ず。¥わかぎみ/の¥かひ¥たまひ/たり/ける¥しろい¥えのこ/の、¥ついぢ/の¥くづれ/より¥はしり−いで/て、¥を/を¥ふつ/て¥むかひ/ける/に、¥わかぎみ、「¥ははうへ/は¥いづく/に¥まします/ぞ」/と¥のたまひ/ける/こそ¥いとほしけれ。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく、¥あんない/は¥しつ/たり、¥ついぢ/を¥こえ、¥もん/を¥あけ/て¥いれ¥たてまつる。¥ちかう¥ひと/の¥すん/だる¥ところ/と/も¥みえ/ず。¥わかぎみ、「P346¥ひとめ/も¥はぢ/ず、¥いのち/の¥をしう¥さふらふ/も、¥ははうへ/を¥いま−いちど¥み/ばや/と¥おもふ¥ため/なり。¥いま/は¥いき/て/も¥なに/に/かは¥せ/ん」/とて、¥もだえ−こがれ¥たまひ/けり。¥その¥よ/は¥そこ/にて¥まち−あかし、¥あけ/て¥のち、¥きんり/の¥ひと/に¥たづぬれ/ば、「¥とし/の¥うち/は¥だいぶつまうで/と¥きこえ/させ¥たまひ/し。¥しやうぐわつ/の¥ほど/は、¥はせでら/に¥おん=こもり/と/こそ¥うけたまはり¥さふらへ」/と¥まうし/けれ/ば、¥さいとう−ろく¥いそぎ¥はせ/へ¥くだり、¥ははうへ/に¥この¥よし¥かくと¥まうし/けれ/ば、¥ははうへ¥とる¥もの/も¥とり−あへ/ず、¥いそぎ¥みやこ/へ¥のぼり、¥だいかくじ/へ/ぞ¥おはし/たる。¥ははうへ、¥わかぎみ/を¥ただ¥ひとめ¥み¥たまひ/て、「¥いか/に¥ろくだい−ごぜん、¥これ/は¥ゆめ/か/や¥うつつ/か。はやはや¥しゆつけ−し¥たまへ」/と¥のたまへ/ども、¥もんがく¥をしみ¥たてまつ/て、¥ご=しゆつけ/を/ば¥せ/させ¥たてまつら/ず。¥すぐに¥たかを/へ¥むかへ−とつ/て、¥かすか/なる¥ははうへ/を/も¥はぐくみ/ける/と/ぞ¥きこえ/し。¥くわんおん/の¥だいじ−だいひ/は、¥つみ¥ある/を/も¥つみ¥なき/を/も、¥たすけ¥たまふ¥こと/なれ/ば、¥じやうだい/に/は¥かかる¥ためし/も/や¥ある/らん。¥あり−がたかり/し¥こと=ども/なり。¥
「ろくだいきられ」(『ろくだいきられ』)S1209¥さる−ほど/に¥ろくだい−ごぜん、¥やうやう¥おひ−たち¥たまふ/ほど/に、¥じふしご/に/も¥なり¥たまへ/ば、¥いとど¥みめ−かたち¥うつくしく、¥あたり/も¥てり−かかやく/ばかり/なり。¥ははうへ¥これ/を¥み¥たまひ/て、「¥よ/の¥よ/にてP347¥あら/ましか/ば、¥たうじ/は¥こんゑづかさ/にて¥あら/んずる/ものを」/と¥のたまひ/ける/こそ¥あまり/の¥こと/なれ。¥かまくら=どの、¥びんぎ−ごと/に、¥たかを/の¥ひじり/の¥もと/へ、「¥さて/も¥あづけ¥たてまつ/し¥こまつの−さんみ/の−ちうじやう−これもりの−きやう/の¥しそく、¥ろくだい−ごぜん/は、¥いかやう/の¥ひと/にて¥さふらふ/やらん。¥むかし¥よりとも/を¥さうし¥たまひ/し¥やう/に、¥てう/の¥をんでき/を/も¥たひらげ、¥ちち/の¥はぢ/を/も¥きよむ/べき/ほど/の¥じん/やらん」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥もんがく−ばう/の¥へんじ/に、「¥これ/は¥いつかう¥そこ/も¥なき¥ふかくじん/にて¥さふらふ/ぞ。¥おん=こころ−やすく¥おぼしめさ/れ¥さふらへ」/と¥まうさ/れ/けれ/ども、¥かまくら=どの¥なほ/も¥こころ−ゆか/ず=げ/にて、「¥むほん¥おこさ/ば、¥やがて¥かたうど−す/べき¥ひじり/の−おん=ばう/なり。¥さり/ながら/も¥よりとも¥いちご/が¥あひだ/は、¥たれ/か¥かたむく/べき、¥しそん/の¥すゑ/は¥しら/ず」/と¥のたまひ/ける/こそ¥おそろしけれ。¥ははうへ¥この¥よし/を¥きき¥たまひ/て、「¥いか/に/や¥ろくだい−ごぜん、¥はやはや¥しゆつけ−し¥たまへ」/と¥あり/しか/ば、¥しやうねん¥じふろく/と¥まうし/し¥ぶんぢ−ごねん/の¥はる/の¥ころ、¥さ/しも¥うつくしき¥おん=ぐし/を、¥かた/の¥まはり/に¥はさみ−おろし、¥かき/の−ころも、¥かき/の−はかま、¥おひ/など¥ようい−し/て、¥やがて¥しゆぎやう/に/こそ¥いで/られ/けれ。¥さいとう−ご、¥さいとう−ろく/も、¥おなじ¥さま/に¥いで−たつ/て、¥おん=とも/に/ぞ¥まゐり/ける。¥まづ¥かうや/へ¥のぼり、¥ぜんぢしき−し¥たまひ/ける¥たきぐち−にふだう/に¥たづね−あひ、¥ご=しゆつけ/の¥さま、¥ご=りんじう/の¥ありさま、¥くはしう¥たづね−とひ、¥かつうは¥その¥あと/も¥なつかし/とて、¥くまの/へ/こそ¥まゐら/れ/けれ。¥はまのみや/と¥まうし¥たてまつる¥わうじ/の¥おん=まへ/より、¥ちち/の¥わたり¥たまひ/たり/し¥やまなり/の−しま¥み−わたい/て、¥わたら/まほしく/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥なみかぜ¥むかう/て¥かなは/ね/ば、¥ちから¥および¥たまは/ず、¥ながめ−やりP348¥たまふ/に、¥わが¥ちち/は¥いづく/に/か¥しづみ¥たまひ/けん/と、¥おき/より¥よする¥しらなみ/に/も、¥とは/まほしう/ぞ¥おもは/れ/ける。¥はま/の¥まさご/も¥ちち/の¥ご=こつ/やらん/と¥なつかしく/て、¥なみだ/に¥そで/は¥しをれ/つつ、¥しほくむ¥あま/の¥ころも/なら/ね/ど、¥かはく¥ま¥なく/ぞ¥みえ/られ/ける。¥なぎさ/に¥いち−や¥とうりう−し、¥よ/も−すがら¥きやう¥よみ¥ねんぶつ−し/て、¥ゆび/の¥さき/にて¥はま/の¥まさご/に¥ほとけ/の¥すがた/を¥かき−あらはし、¥あけ/けれ/ば、¥そう/を¥しやうじ、¥さぜん/の¥くどく¥さながら¥しやうりやう/に/と¥ゑかう−し/て、¥みやこ/へ¥かへり−のぼら/れ/けん¥こころ/の¥うち、¥おし−はから/れ/て¥あはれ/なり。¥その−ころ/の¥しゆしやう/は、¥ごとばのゐん/にて¥ましまし/ける/が、¥ぎよ=いう/を/のみ¥むね/と¥せ/させ¥おはします。¥せいだう/は¥いつかう¥きやうの−つぼね/の¥まま/なり/けれ/ば、¥ひと/の¥うれへ¥なげき/も¥やま/ず。¥ごわう¥けんかく/を¥このみ/しか/ば、¥てんが/に¥きず/を¥かうむる¥ともがら¥たえ/ず、¥そわう¥さいえう/を¥あいせ/しか/ば、¥きうちう/に¥うゑ/て¥しする¥をんな¥おほかり/き。¥かみ/の¥このむ¥こと/に、¥しも/は¥したがふ¥ならひ/なれ/ば、¥よ/の¥あやふき¥ありさま/を¥み/て/は、¥こころ−ある¥ひと/の¥なげき−かなしま/ぬ/は¥なかり/けり。¥なか/に/も¥に/の−みや/と¥まうす/は、¥せいだう/を¥もつぱら/と¥せ/させ¥たまひ/て、¥おん=がくもん¥おこたら/せ¥たまは/ね/ば、¥もんがく/は¥おそろし/き¥ひじり/にて、¥いろふ/まじき¥こと/を/のみ¥いろひ¥たまへ/り。¥いか/に/も−し/て、¥この¥きみ/を¥くらゐ/に¥つけ¥たてまつら/ばや/と¥おもは/れ/けれ/ども、¥よりともの−きやう/の¥おはし/ける/ほど/は、¥おもひ/も¥たた/れ/ず。¥かくて¥けんきう−じふねん−しやうぐわつ−じふさんにち、¥よりともの−きやう¥とし¥ごじふさん/にて¥うせ¥たまひ/しか/ば、¥もんがく¥やがて¥むほん/を¥おこさ/れ/ける/が、¥たちまち/に¥もれ−きこえ/て、¥もんがく−ばう/の¥しゆくしよ¥にでうゐのくま/なる¥ところ/に、¥くわんにん=ども¥あまた¥つけ/られ/て、¥はちじふ/に¥あまつ/て¥からめ−とら/れ/て、¥つひに¥おきの−くに/へ/ぞP349¥ながさ/れ/ける。¥もんがく¥きやう/を¥いづる/とて、「¥これ−ほど/に¥おい/の−なみ/に¥たつ/て、¥けふ¥あす/を¥しら/ぬ¥み/を、¥たとひ¥ちよくかん/なれ/ば/とて、¥みやこ/の¥かたほとり/に/も¥おか/ず/して、¥はるばる/と¥おきの−くに/まで¥ながさ/れ/ける¥ぎつちやう−くわじや/こそ¥やすから/ね。¥いかさま/に/も¥わが¥ながさ/るる¥くに/へ、¥むかへ−とら/んずる/ものを」/と、¥をどり−あがり−をどり−あがり/ぞ¥まうし/ける。¥この¥きみ/は¥あまり/に¥ぎつちやう/の¥たま/を¥あいせ/させ¥たまふ¥あひだ、¥もんがく¥かやう/に/は¥あつこう¥まうし/ける/なり。¥その−のち¥じようきう/に¥ご=むほん¥おこさ/せ¥たまひ/て、¥くに/こそ¥おほけれ、¥はるばる/と¥おきの−くに/まで¥うつさ/れ/させ¥ましまし/ける、¥しゆくえん/の¥ほど/こそ¥ふしぎ/なれ。¥その¥くに/にて¥もんがく/が¥ばうれい¥あれ/て、¥おそろしき¥こと=ども¥おほかり/けり。¥つね/は¥ごぜん/へ/も¥まゐり、¥おん=ものがたり=ども¥まうし/ける/と/ぞ¥きこえ/し。¥さる−ほど/に¥ろくだい−ごぜん/は、¥さんみ/の−ぜんじ/とて、¥たかを/の¥おく/に¥おこなひ−すまし/て¥おはし/ける/を、¥かまくら=どの、「¥さる−ひと/の¥こ/なり、¥さる−もの/の¥でし/なり。¥たとひ¥かしら/を/ば¥そり¥たまふ/とも、¥こころ/を/ば¥よも¥そり¥たまは/じ」/とて、¥めし−とつ/て¥うしなふ/べき¥よし、¥かまくら=どの/より¥くげ/へ¥そうもん¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥やがて¥あん−はうぐわん−すけかぬ/に¥おほせ/て¥めし−とつ/て、¥つひに¥くわんとう/へ/ぞ¥くださ/れ/ける。¥するがの−くに/の¥ぢうにん、¥をかべの−ごん/の−かみ−やすつな/に¥おほせ/て、¥さがみの−くに¥たごえがは/の¥はた/にて、¥つひに¥きら/れ/に/けり。¥じふに/の¥とし/より、¥さんじふ/に¥あまる/まで¥たもち/ける/は、¥ひとへ/に¥はせ/の−くわんおん/の¥ご=りしやう/と/ぞ¥きこえ/し。¥さんみ/の−ぜんじ¥きら/れ/て¥のち、¥へいけ/の¥しそん/は¥ながく¥たえ/に/けり。P350¥

 

入力者:荒山慶一

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