港の旗
- 輝く太陽
- 輝く太陽
子供の世界はいつでも朝だ。
おうい!ほうい!
鳥の巣見つけた、僕らは叫ぶ。
力だ、ピストン、
ベルト、ベルト、ベルトがまはる。
そこにも火花が子供を待つてる。
おうい!ほうい!
天気だ、クレーンがぐんぐんあがる。
のぼれのぼれ、丘から山へ、
知らない地平がつぎつぎひらける。
海だ、マストだ、地球は円い。
おうい!ほうい!
母さん、見えるよ、僕らはをどる。
- 一月
一月は何処へ行く。
僕は山にのぼる。
雪の高原に行く。
スキーをかついで行く。
初日ををがみに行く。
一月は何を読む。
僕はラムプの下で
日本歴史を読む。
古事記の神話を読む。
亜細亜の地図を見る。
ジンギスカンの伝記を読む。
一月は何故に好きだ。
僕は山小星で
火が焚けるから好きだ。
寒気がつよいのも
から松の林も好きだ。
山の上は空気が澄んで
星が近いから好きだ。
- 竜胆
朝だ、
竜胆をさがしに行かう。
藍いろの竜胆。
竜胆は好きだ、
きびしい霜を凌いで、
なにか凛々しい竜胆。
探せばきつとある。
そしていいことがある。
竜胆は青空の色だ、
奥ぶかい喜びの色だ、
いつも見馴れて
そして忘れられてる花だ。
竜胆は雑木林や、
水のしたたる岩かげに咲く、
何でもないそこらの落葉の下にも開いてゐる
竜胆は、ほうら、
小犬の眼の中にも光つてゐる。
見ないか、この竜胆を、
弟よ、君の眼の中にも開いてゐる。
- まつ直な道
幅びろい鋪装した道、
丘、林、野の中をつつきつて、
どこまでもまつ直な道、
僕はこの道を行くのだ。
トラツクがはしつて行く、
銀バスが追つかける、
兵隊がざつくざつくと行く、
オートバイが爆音と埃を立てる、
この道を僕は行くのだ。
白い雲と地平線、
電柱と鉄塔とが先へ先へと続いてゐる。
あかるい、かがやかしい道、
太陽の下のいつぽん道、
この道を僕は行くのだ。
空を見ろ、ひるむな、
どこまでも気ばつてあるけ、
僕は自分に命令する。
この道を僕は行くのだ。
- 作業
作業だ、作業だ、作業の時間だ、
鍬もつて、シヤベルもつて、バケツもつて、ホイ。
暑いな、暑いな、白シヤツ、まくつた、
鍬もつて、シヤベルもつて、バケツもつて、ホイ。
おい、君、どこいく、ずらかりや、どやすぞ、
鍬もつて、シヤベルもつて、バケツもつて、ホイ。
小麦も刈つたし、トマトだ、これから、
鍬もつて、シヤベルもつて、バケツもつて、ホイ。
植ゑかへ、植ゑつけ、鍬もつて、僕らの畠だ、
鍬もつてシヤベルもつて、バケツもつて、ホイ。
熊蜂、熊蜂、啼いてる林で、
鍬もつて、シヤベルもつて、バケツもつて、ホイ。
- 飼育
鳥の飼育に行く朝は、
早う起きます午前四時。
ツビー、ツビー、ツビー、チヨン。
鳥の飼育はふたりづつ
級で交替、たのしいな。
ツビー、ツビー、ツビー、チヨン。
鳥の飼育は谷越えて、
学園のうら、雑木山。
ツビー、ツビー、ツビー、チヨン。
鳥の飼育は露まみれ、
いつも素足で、蚊がかゆい。
ツビー、ツビー、ツビー、チヨン。
鳥の飼育にやる餌は、
夏の労作、粟、菜つぱ。
ツビー、ツビー、ツビー、チヨン。
鳥の飼育に行く朝は、
鳥のさへづりきいて行く。
ツビー、ツビー、ツビー、チヨン
- 鳥のこゑ
鳥のこゑききに、林へいこよ、
カツコウ、カツコウ
ないてる谷で。
鳥のこゑききに、夜あけにいこよ。
ツキ ヒ ホシ コヒシ。
サンクワウテウヨ。
鳥のこゑききに、山みちいこよ、
ヂヂブ ヂユイ ジユイチ、
ホウホホ ホケキヨ。
鳥のこゑききに、すそ野をいこよ、
チヨロン チヨロン チイチイ。
霧だよ、風だ。
鳥のこゑきけば、
カツコウ、カツコウ。
ツキ ヒ ホシ コヒシ。
ヂヂブ ヂユイ ジユイチ。
ホウホウ ホケキヨ
チヨロン チヨロン チイチイ。
註。ヂヂブ ヂユイ ジユイチとなくのは、センダイムシクヒ。
チヨロン チヨロン チイチイとなくのは、小ルリといふ鳥です。
- 十六ミリ
十六ミリで、チカチカと
うつした映画うつくしい。
光線がある、空がある。
野原がある、花がある。
銀バスが行く、風がふく、
サーカスの小屋、キラキラだ。
子供なんどもあちこちに、
しぶきとばしておよいでる。
いつも見なれた あの景色、
なぜにこんなにあたらしい。
みんな チカチカうごいてる。
どんな影でもひかつてる。
- パイワンの子
パイワンの子は
絶壁をのぼる。
斜に走りのぼる。
足のうらは鉄のやうだ。
パイワンの子は
裸で、強い、
弓を持つて、蕃刀を帯びて、
鳥を射る。ぽんぽんと杖を伐る。
パイワンの子は
暴風雨の中でも
跳びまはる、草から草へ。
ゐのししを突きに行く。
パイワンの子は
少しもめげない。
使ひにでも、何処へでも駈ける。
鈴が鳴る、つけてる鈴が。
パイワンの子は
逢ふと元気だ。
国語で挨拶する。
お早うお早う、内地のをぢさん。
註。パイワンは台湾パイワン族の略。高砂族ともいふ。
- 少年の歌
一
僕らは純です。地平よ、海よ、
僕らは翔けます、小鳥のやうに。
行け行け、この夢、霞を超えて、
光へ光へ、輝く星へ。
少年です。少年です。フレー、フレー、少年です。
二
僕らは純です。緑よ、熱よ、
僕らは燃えます、豹の子のやうに。
見たまへ、この眼を、季節の風に、
躍つて躍つて、自由に育つ。
少年です。少年です。フレー、フレー、少年です。
三
僕らは純です。霙よ、雪よ、
僕らは冴えます、野菜のやうに。
うてうて、この肩、正義に強い、
耐へて、忍んで、鍛へて生きる。
少年です。少年です。フレー、フレー少年です。
四
僕らは純です。レンズよ、珠よ、
僕らは鳴ります、お笛のやうに。
言葉に行、ぴつたりあつて
飾らず、作らず、愛情を磨く。
少年です。少年です。フレー、フレー少年です。
五
僕らは純です。祖国よ、母よ、
僕らは立ちます、日あしのやうに。
そだそだ、輝く世界だ、雲だ、
第二の時代はかならず若い。
少年です。少年です。フレー、フレー少年です。
- 港の旗
- 港の旗
旗は風よりうつくしい。
税関の旗、船の旗、
潮のいろよりうつくしい。
旗は空よりあざやかだ、
商館の旗、ビルの旗、
雲のかげよりあざやかだ。
旗は何より眼に高く、
風をいつでも感じてる、
海のたよりをあつめてる。
空に振る鰭あのフラフ、
旗は嵐におよいでる。
旗は潮よりうつくしい。
- 港の出口
赤い海堡
防波堤、
防波堤、
波が立つ立つ、あの向う。
ざぶらん、らん、
ざぶらん、らん、らん、るん。
長い突き出し、
防波堤、
防波提、
遠いお空はどこの空。
ざぶらん、らん、
ざぶらん、らん、らん、るん。
赤い海堡、
灯よとぼれ、
灯よとぼれ、
船が出てゆく、あの出口。
ざぶらん、らん、
ざぶらん、らん、らん、るん。
暮れりや闇夜の、
防波提、
防波堤、
波のぶつかる音ばかり。
ざぶらん、らん、
ざぶらん、らん、らん、るん。
- ブイ
風が吹く吹く、港ぐち、
波、波、しけ波、西はとば。
ひゆうるる、寒いな、
日がくれる。
ひとつちよつぽり、
赤いブイ。
軍艦、商船、はいつてる、
煙がもうもう、まつくろだ。
ひゆうるる、さむいな、
波が立つ。
まるで赤んぼ、
赤いブイ。
税関、鉄橋、浮ドつク、
ぞろぞろ水兵、菜葉服。
ひゆうるる、さむいな、
夕やけだ。
ひとつちよつぽり、
赤いブイ。
- 水の紋
潮はいつでもうごいてる。
でこぼこしてる、ゆれてゐる、
ぎらぎらの縁、くろい紋。
影はいつでもうごいてる。
千の靴べら、銀の匙、
桟橋だから、海だから。
僕はいつでもみつめてる。
とほい、さびしい水の面、
あかるい光、くろい影。
潮はいつでもうごいてる。
でこぼこしてる、ゆれてゐる、
なにか泣きたい水の紋。
- 遡江艦隊
遡江艦隊のぼつてく、
千里二千里、楊子江。
遡江艦隊 どこまでも、
風にひらめく軍艦旗。
遡江艦隊 すすんでく、
機雷とりのけ、ずんずんと。
遡江艦隊 夜になりや、
燈火管制すごいんだ。
遡江艦隊 ぐんぐんと、
朝は飛んでく、艦載機。
遡江艦隊 陸戦隊
敵前上陸、それ今だ。
遡江艦隊 愉快だな、
一斉砲撃 どんずどん
- SOS
SOS・SOS、
遠い 海からうつて来る、
無電の信号、SOS。
SOS・SOS、
誰か どこかでうつてゐる、
あゝまたきこえる、SOS。
SOS・SOS、
海は 月夜で白いのに、
沈むおふねはどこのふね。
SOS・SOS、
ここは 岩はな白い塔、
燈つけても暗いのに。
SOS・SOS、
星も ふるよに出てるのに、
はたととぎれた、SOS。
- 航空母艦
航空母艦、
月の夜に、
ひとつ飛ばした、
飛行機を。
空と海との、
どこやらで、
音がしてます、
プロペラが。
ほうい、ほいほい、
もうかへれ、
だれか呼んでる、
メガホンで。
航空母艦、
月の夜に、
波をけたてる、
白い波。
ほうい、ほいほい、
もうかへれ。
- 月夜の飛行船
船のふくろに、
ふうはりと、
月のひかりがさしてます。
誰が乗つてる、
飛行船、
ひとが見えます、よい船室。
こんな月夜は、
海や川、
どんなにさざなみきれいだろ。
燈ちらちら、
街や村、
森の向うはどんなだろ。
船のふくろに、
ふうはりと、
月の光がさしてます。
- 波うちあがる
波うちあがる、見ろ、岩を、
波はさかまく、
どんどとあがる。
裂けて、くだける、
見ろ、しぶく。
波うちあがる、見ろ、岩を、
岩は黒岩、
どどどとひびく。
立てよ、がんばれ、
見ろ、僕を。
波うちあがる、見ろ潮を、
潮はうづまく、
ざぶらんらんと、
ちやうど日の出だ、
見ろ、あがる。
波うちあがる、見ろ、岩を、
波はさかまく、
どんどとあがる。
裂けて、くだける、
見ろ、しぶく。
- 玩具のけしき
こんもり、わた雪、
日の出です。
電信柱が二三本、
ガードの角から誰か来る。
あかい帽子の子供です。
こんもり、樫の木、
ホテルです。
ここでもアンテナななめ向き、
窓から、嬢さん、をかしいな、
両手でお目々をこすります。
こんもり、きらきら、
雪の朝、
「ああ。」と道から見上げます。
「あら。」と二階で目つけます。
「お早う。」「お早う。」六時です。
ぴいぽつ、ぽつぽつ、
ぴいー。ぽつ、ぽつ、ぽつ、
こちらは汽車です。のぼりです。
- ドロツプ
赤だ、緑だ、
黄だ、青だ、
誰か投げてる、ドロツプを、
夕日の光るいい空気。
瀬戸の内海、
夏の海、
船はずんずん進んでく、
お腹がすいたあ、お母さん。
港、さんばし、
もう、見えぬ、
風にテープも吹かれてる、
来年だ、また、お母さん。
赤だ、緑だ、
黄だ、青だ、
誰か投げてる、ドロツプを、
波、波、光れ、ぢき暮れる。
註。皆さん。
これは避暑に行つた帰りの汽船の上のことだと思つて下さい。
- ドウナツ
子供の好きなドウナツは
ポンポン蒸気船の煙の輪、
いつもおやつは窓越しで
赤い夕日の松花江。
円い輪型のドウナツよ、
狐色してホカホカで
いつも揚げます母さんが、
とても大きなフライパン。
僕等の好きなドウナツは
世界の子供がみな好きだ、
そこでナイフをカチヤカチヤだ、
皿よ廻れよクルクルリ。
踊れフオークよドウナツの
ピカピカザラメの粉つけて、
春も来ました、雪溶けだ、
ポンポン蒸気船の松花江。
- 夏の砂山
夏だ、おい、
とても愉快だ、
駈けろ、駈けろ、
海が鳴つてる。
きものぬげ、
来たぞ、みんなら、
すべれ、すべれ、
砂のスロープ。
ほうら、見ろ、
波がまさをだ。
ひかる、ひかる、
抜手切つてる。
朝つから、
沖もあついぞ、
むくり、むくり、
雲が湧いてる。
- 砂の上の町
夏のさかり場、海のそば、
いつも子供の町がたつ。
町は日でりの砂のうへ、
旗や、テントや、黄や、赤や。
だれも群れます、およぎます、
水着、パラソル、うきぶくろ。
沖に暑いは雲のみね、
潮はむらさき、いいしぶき。
だけど浜風、秋の風、
ぢきにくづれる砂の町。
いつもひと夏、海のそば、
ちさい女王も立つてゆく。
- 山のキヤムプ
- 山のおやつ
子供のキヤムプだ、
キヤムプのおやつだ。
ナイフとフオークと、
ちやかちやか、ちやつちや。
林檎もむきましよ、
トマトも切りましよ。
ナイフとフオークと、
ちやかちやか、ちやつちや。
雷鳥も啼きます、
お山の根雪に。
ナイフとフオークと、
ちやかちやか、ちやつちや。
ラジオがきけます、
JOAKが。
ナイフとフオークと、
ちやかちやか、ちやつちや。
お空はちかいし、
白樺木立だし。
ナイフとフォークと、
ちやかちやか、ちやつちや。
吹け吹け、涼風、
子供のキヤムプだ。
ナイフとフオークと、
ちやかちやか、ちやつちや。
- 山の駅
軽井沢から草津ゆき、
駅はどこでも山のうへ。
おうい、切符をとつてくれ、
だれもゐないか、おういおい。
かぼちや畑から駅長さん、
ほうい、そこらへ置いとくれ。
鷹が舞ひます、山のうへ、
赤い切符を投げあげろ。
- 登山靴
靴をはいてた、登山靴、
リユツクサツクしよつて、
ピツケルついて、僕は、
ヂツグダツグ、ヂツグダツグ、山みちのぼる。
なにか重たい登山靴、
おんなじなんだ、
大人なんだ、僕は、
ヂツグダツグ、ヂツグダツグ、父さんとのぼる。
夏だ夏だよ、登山靴、
郭公が啼いて、
雲がわいて、僕は、
ヂツグダツグ、ヂツグダツグ、岩などのぼる。
みんな見ろ見ろ、登山靴、
リユツクサツクしよつて
ピツケルふつて、僕は、
ヂツグダツグ、ヂツグダツグ、山みちのぼる。
- 山から海から
山からかへつたお兄さん、
「雲のうへまで見て来たよ、
見て来たよ。
山には鈴蘭、
いはたばこ、
夏でも白雪たべてきたよ。
さうさう、雷鳥も啼いてゐたよ」。
海からかへつたお姉さん、
「波のそこまで見て来たよ、
見て来たよ、
海にはまて貝、
かご雀、
提灯河豚までつけて来た。
さうさう、鴎も飛んでゐたよ。」
- 秋晴れ
みんな そろつて 日の丸弁当、
草に 坐つて 楽しい おひる。
ツビーツビーと 小鳥が なけば
谷で ちよろろと 水の音 ひびく。
向う とほるは 出征の 兵士、
誰か 手を 上げ、万歳してる。
ツビーツビーと 小鳥が なけば
谷で ちよろろと 水の音 ひびく。
今日は 秋晴れ 勤労奉仕、
僕ら 稲かり 手だすけ 今だ。
ツビーツビーと 小鳥が なけば
谷で ちよろろと 水の音 ひびく。
みんな そろつて 日の丸弁当、
どこの村でも 日の丸 ばかり。
ツビーツビーと 小鳥が なけば
谷で ちよろろと 水の音 ひびく。
- ヂヤムプしに行こ
ヂヤムプしに行こ、霧ケ峰さして、
日本アルプスひと目に見える。
リユツクサツク、リユツクサツク、脊負てけよ、みんな。
冬はかつかと、から松たいて、
山のヒユツテにゐろりが燃える。
リユツクサツク、リユツクサツク、脊負てけよ、みんな。
スキーしに行こ、かがやく雪に、
鷹も翔けましよ、カラリと晴れよ。
リユツクサツク、リユツクサツク、脊負てけよ、みんな。
ひろい高原、丘から丘を
滑りや一気に三四里は走る。
リユツクサツク、リユツクサツク、脊負てけよ、みんな。
本も読みましよ、ラムプの下で、
夜はとろろん、夢でもみましよ。
リユツクサツク、リユツクサツク、脊負てけよ、みんな。
- スキー
蝋をぬれ、蝋を、
スキーのうらに。
すべりよく、かろく、
つつぱしれ、雪を。
靴をつけ、靴を、
しめしめバンド。
すべりよく、かろく、
つつぱしれ、雪を。
杖をふれ、杖を、
こな雪けつて。
すべりよく、かろく、
つつぱしれ、雪を。
ヂヤムプだ、ヂヤムプ、
空を見ろ、空を。
すべりよく、かろく、
つつぱしれ、雪を。
みんなゆけ、みんな、
スキーは今だ。
すべりよく、かろく、
つつぱしれ、雪を。
- 風よ吹け吹け
風よ吹け吹け、
どうどと吹けよ、
風にむかへばすぐ眼がさめる、
鷹もつばさをしやんと張る。
風よ吹け吹け、
電信ばしら
風があたればじんじんうなる、
きけよみんなよ耳おつつけて。
風よ吹け吹け、
雪吹きとはせ、
風が通れば、からりと晴れる、
雪のお山の青空が。
風よ吹け吹け、
どうどと吹けよ、
風が吹かなきやあがらぬ凧が、
あがれ、僕らの奴凧。
- 山の家
僕の父さん、追分に、
山のお家を建てるとさ。
そこはくるみの木ばかりで、
栗鼠が来るとさ、チヨロチヨロと。
うれしいな。
うれしいな。
君の別荘も近いんだ、
いつも逢はうよ、その山で。
秋は野葡萄が熟れるんだ。
栗鼠が来るとさ、チヨロチヨロと。
うれしいな。
うれしいな。
冬も行くんだ、いいだろな、
スキーやるんだ、妹と。
雪のスロープすべるんだ。
栗鼠が来るとさ、チヨロチヨロと。
うれしいな。
うれしいな。
小屋は丸太だ、屋根は石、
そして燃すんだストーブを。
いいなくるみの木ばかりで、
栗鼠が来るとさチヨロチヨロと
うれしいな。
うれしいな。
- 映画の中の雪
映画の中のかげ、ひなた、
雪のスロープうつくしい。
枝も根つこも、もんもりと、
雪がつもつて揺れてます。
雪のつもつた庇から、
氷柱のナイフもさがつてる。
誰がつけたかつうつうと、
スキーの跡もはしつてる。
あ、お母さん、お窓から
手だけ出ました、小さい手が、
あ、振つてます、振つてます。
空へしきりに呼んでます。
しろい、しづかな山の雪、
ミルク煮てましよ、おうちでは、
山の方からじんじんと
飛んで来てます飛行機が。
なにか待たれる、よいたより、
春ももうぢきまゐります、
丸太の壁に板の屋根、
雪がまぶしく光ります。
- 水平線
- 水平線
「君、ちよつとおいで、
このこと知つてるか。」
「なんのこと、それは。」
「僕らの地球、
まるいつてことさ。」
「いや、いや、知らぬ。」
「水平線をごらん、
けぶりが見えよ。」
「うむ、うむ、見える。」
「ずつとずつとのぼろ、
ほばしら見えよ。」
「そだ、そだ、見える。」
「もつともつとのぼろ。」
「おお、おお、見える。
大きな船が。」
「そだ、そだ、あれだ。
まるいんだ、地球。」
「そだ、そだ、まるい。」
「のぼれ、のぼれ、高く、
ずつとさきが見える。」
「ずつとさきが見える。」
- 地球のうしろ
──地球のうしろにゐる人は、
いつもさかさにあるくだろ。
――夜はこちらがうしろなら、
どうしてねてゐて落ちないの。
――まるい林檎を見てごらん、
蟻が落ちずにまはつてる。
――そして林檎のこちらだけ、
月にてらてらあかつてる。
- 走ります
走ります、走ります、
強い子供は走ります、
なにが寒風、向ひ風、
息をつめつめ走ります。
走ります、走ります、
強い子供は走ります、
雪だ、吹雪の向ひ風、
胸を張り張り走ります。
走ります、走ります、
強い子供は走ります、
吹けよ北風、向ひ風、
肱を振り振り走ります。
走ります、走ります、
強い子供は走ります、
吹けよ、吹け吹け向ひ風、
足を蹴あげて走ります。
- はしり高跳び
そら、そら、駈けた、
跳んだ、跳んだ、綱を、
そりやまだ低い、
すばつと跳んだ。
そら、そら、駈けた、
跳んだ、跳んだ、綱を、
ひつかけた足を、
やつとこさと跳んだ。
そら、そら、駈けた、
跳んだ、跳んだ、綱を、
高いな、高い、
ひらりと落ちた。
そら、そら、駈けた、
跳んだ、跳んだ、綱を、
かはれよ、かはれ、
僕が跳んでみせる。
- 跳んでみろ
「跳んでみろ、跳んでみろ、
この椅子ひとつ。」
「みていろ、ひと跳び
そら、ぽういだ。」
「跳んでみろ、跳んでみろ、
この窓ひとつ。」
「みていろ、ひと跳び
そら、ぽういだ。」
「跳んでみろ、跳んでみろ、
この川ひとつ。」
「ちよろちよろながれだ、
そら、ぽういだ。」
「跳んでみろ、跳んでみろ、
この山ひとつ。」
「こんこん小山だ、
そら、ぽういだ。」
「跳んでみろ、跳んでみろ、
あの雲ひとつ。」
「こんどは飛行機、
そら、ぽういだ。」
- 跳び越せ
かがめ、かがめ、
かがんだ子供を、跳び越せ、ひとり、
駈けてつて、両手ついて、
ひらりと前へ。
かがめ、かがめ、
跳び越した子供も、かがめよ、先で、
駈けてつて、後のも、
ひらりと跳べよ。
かがめ、かがめ、
かがんだ子供を、跳び越せ、みんな、
駈けてつて、両手ついて、
ひらりと次へ。
かがめ、かがめ、
跳び越した子供も、かがめよ、みんな、
駈けてつて、順々に、
ひらりと跳べよ。
かがめ、かがめ、
かがんだ子供を、跳び越せ、子供、
駈けてつて、両手ついて、
ひらりと跳べよ。
- リレー
リレーだ、走れ、
四百メートル、リレーだ。
そら、いつた、かけた。
まつさきかけた。
リレーだ、走れ、
そこだ、そこだ、かはれ、
そら、継いだ、かけた、
ぐんぐん飛んだ。
リレーだ、走れ、
来たぞ、来たぞ、かはれ、
そら、継いだ、かけた、
まゐるな、走れ。
リレーだ、走れ、
おつと、よし、
そら、継いだ、かけた、
ひとりぢやないぞ。
リレーだ、走れ、
トツプきれ、トツプ、
そらゴール見えた、
みんなの勝だ。
- ノツク
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク、
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク。
いいか、ゆくぞ、カーンだ。
レフト、レフト、つかんだ。
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク、
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク
いいか、ゆくぞ、ヒツトだ。
ライト、ライト、おとした。
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク、
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク。
いいか、ゆくぞ、フライだ。
センター、センター、はしつた。
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク、
ノツク、ノツク、ノツカー、ノツク、
いいか、ゆくぞ、バンドだ。
一塁、二塁、ころんだ。
註。野球のノツクです。
ノツクは球を打つていろいろな練習をしてやることです。
ノツカーはその練習をつける人です。
- さくらとテニス
さくら、さくら、
さくらのはなが
かすみに咲いた。
ラケツトふりましよ、
わたしはサーブ、
テニスのコートに
ボールがあがる。
さくら、さくら、
さくらのはなが
朝日に匂ふ。
うちましよ、ポーンと、
ラインは白い、
テニスのコートに
ネツトがそよぐ。
さくら、さくら、
さくらのはなは
ひとへのさくら。
ラケツト光れば
ボールも光る、
テニスのコートに
かげろふもえる。
- ふきあげる
ふきあげる、
ふきあげる、
土のしたからふきあげる
水は草の葉ぬらします。
水は泉をつくります。
ふきあげる、
ふきあげる、
谷のしたからふきあげる
風は木の葉を鳴らします。
風は光をちらします。
ふきあげる、
ふきあげる、
誰がしたからふきあげる。
水は草の葉ぬらします。
風は木の葉を鳴らします。
- 力
力だ、力だ、力でゆくぞ。
汽関の缶をかつかつとたけば、
ふきたつ蒸気。
力だ、力だ、力でゆくぞ。
お山の水をダムから落しや、
百万ボルト。
力だ、力だ、力でゆくぞ。
見ろあのピストン突き出す力、
動けとばかり。
力だ、力だ、力でゆくぞ。
強いなクレーンぐうんとあげる、
何でも吊るぞ。
力だ、力だ、力でゆくぞ。
- 月と煙幕
- 煙幕
月は煙幕引いてゐる、
白い煙幕、雲の幕。
しろく引け引け、引きながせ。
あれは夜ふけの月の艦、
細い戦艦、雲の幕。
しろく引け引け、引きながせ。
あまりあかるい空の海、
星よ灯を消せ、きらら星。
しろく引け引け、引きながせ。
こんな月夜に、よい凪に、
誰が爆弾投げるやら。
しろく引け引け、引きながせ。
月は煙幕引いてゆく、
そしてかくれて進んでく。
しろく引け引け、引きながせ。
- ロケツト
月へゆくなら
ロケツトだ、
ポーンととびだせ、
まつすぐに。
火薬でとびだす
ロケツトだ、
飛行機なんぞは
もうおそい。
僕も起きたら
ロケツトだ、
ポーンととびだそ、
まつすぐに。
ご飯でとびだす
ロケツトだ、
学校へかけたら
いちばんだ。
- 汽関車の夢
一
らら、らんらん、らら、らつしよ、
らら、らんらん、じんじんじん。
わたしや汽関車、ねんねのこども
たいた、石炭くわつくわとたいた。
だれかピイポと汽笛を鳴らす、シユツシユツ、
わたしや駈け出した、あかりをつけた。
二
らら、らんらん、らら、らつしよ、
らら、らんらん、じんじんじん。
わたしや機関車、くろんぼ小僧、
駈けた、野原をいきせき駈けた。
煙はきはき、月夜のレール、シユツシユツ、
とても愉快だ、がむしやらこども。
三
らら、らんらん、らら、らつしよ、
らら、らんらん、じんじんじん。
わたしや汽関車、お夢のこども、
山や林をのぼつた、越えた、
花がさいてた、小鳥が啼いた、シユツシユツ、
とても愉快だ、
谷川見えた。
四
らら、らんらん、らら、らつしよ、
らら、らんらん、じんじんじん。
わたしや汽関車、トンネルぬけた、
海のさざなみ、すず風、小風、
白いお船も沖から来てた、シユツシユツ、
とても愉快だ、呼ばつた、駈けた。
五
らら、らんらん、らら、らつしよ、
らら、らんらん、じんじんじん。
わたしや汽関車、ねんねのこども
お目がさめたら、とろりと寝てた。
雲のむらさき、月夜の車庫よ、シユツシユツ、
わたしや駈けてた、お夢を見てた。
- 流線型
「流線型知つてるか。」
「知るてるよ、
角々ないよ。」
「流線型はやい。」
「知つてるよ、
スピード出るぞ。」
「なぜなぜはやい。」
「知つてるよ、
風のうけがない。」
「流線型すごいよ。」
「知つてるよ、
流れるやうだ。」
「流線型見たか。」
「知つてるよ、
汽車、電車、自動車。」
- ぽんぽん船
ぽんぽん船が、いま出る、船が
ぽぽんと煙、はじけた空へ。
十一月は修学旅行、
三年四年、僕等はいさむ。
ぽんぽん船で、わたろよ、わたろ、
さざ波小波、湖水はひろい。
あの山何だ、あの岸どこだ、
鳥居が見える、豆柿あかい。
ぽんぽん船ははやいな、はやい、
一キロニキロ、ぽんぽんすすむ。
あの岩いいな、この島いいな、
兎が出てる、ほらほらはねる。
ぽんぽん船は湖水にひびく、
水より空へ、ぽんぽんひびく。
ふれふれ帽子、天気はよいぞ、
三年四年、進めよ進め。
- ダツトサン
をぢさん、小児科、
子供ずき、
自転車売つて
ダツトサン買つた。
チリリンはよして、
ブウブと鳴らす。
いつも気がるな
運転手。
あの子をのせて、
この子をのせて、
ダツトサンはいいな、
ドライブいいな。
ダツトサン、ダツトサン、
お医者さん、
ハンドルにぎつて、
口笛ふいて、
スピード、どうだ、
野つ原ひろい。
おつとあぶない、まがりかど、
カタリと、まつかな
角出すダツトサン、
あつち向きやどこだ、
こつち向きやどこだ。
- サーチライト
サーチライトは青い角、
あれは生きてる、うごいてる。
サーチライトはうごいてる、
右を左を、さがしてる。
サーチライトに照らされりや、
敵の飛行機見えましよか。
サーチライトは走つてく、
月へ星へとのびてゆく。
サーチライトの下の森、
田にはかはづが、げげぐつぐ。
サーチライトはうごいてる、
光るひとすぢ、沖の方。
サーチライトの青い角、
空を大きく掃いてゐる。
- グライダー
山のてつぺんから
グライダーが飛んだ、
まるで大鷲、風切るやうだ。
みんな出てみろ、
グライダーがはずむ、
あかい初日が翼をそめた。
おつと下げかぢ、
グライダーがゆれた、
「兄さ、しつかり」僕らはさけぶ。
山は晴天、
グライダーが飛んだ、
すそ野めがけて羽風を切つた。
- ゴム靴
機械で チヨキチヨキ ゴムの板
みるみる お靴の 底になる。
あとから あとから 筒になる。
ミシンと 糊とで つぎあはせ、
ほうら、長靴 もうできた。
黒いエナメル ぴかぴかだ。
そこで むします、かためます、
大きな かまどに なげいれる、
すると 長靴 すぐかわく。
みんな ひきだす、ぶらさげる、
ぶらんぶらんと みぎひだり、
長靴 ばつかり お一二だ。
くるめ くるめよ ひとつづつ、
紙はパラピン うすい紙、
赤いマークを そら 貼れよ。
しめた、OKだ、ゴム靴だ
さあさ のせましよ すべり板、
すとん、とんとん、庫のなか。
雨のふる日は ぢやぶぢやぶと、
僕の長靴 うれしいな、
鐘が鳴つたら 駈けてゆく。
- 踏切
ほうら、おります、
遮断機が、
ここは踏切、
土手のうへ。
向うに並ぶ
騎兵隊、
あかい帽子に
緋のズボン。
みんなストツプ、
月夜には
雁が飛びます、
あれ、ごらん。
汽車は特急、
寝台車、
みんなしめてる
よろひ戸を。
そうら、あがつた、
遮断機が、
通れ、とつとと
騎兵隊。
- ガソリン・スタンド
こな雪、小雪、
ちらちら小雪。
ガソリン・ガールが
さむそに見てる。
こな雪、小雪、
ちらちら小雪。
ガソリン・タンクは
まつかなタンク。
こな雪、小雪、
ちらちら小雪。
タクシーがとまつて、
ホースだ、ホース。
こな雪、小雪、
ちらちら小雪。
ハンドルまはせば
メーターがあがる。
こな雪、小雪、
ちらちら小雪。
出た、出た、タクシーが。
あかりがついた。
- 人間大砲
銀の兜に
革の服、
ソロリ、大砲にもぐりこむ。
あげろ、ぐんぐん、砲の口、
ソラ、砲の口。
人間大砲
ドンと鳴りや、
パツと飛び出す、くる、る、る、る、
弾丸は人間、雲のなか、
ワア、雲のなか。
銀の兜の
宙がへり、
アツと見るまに網のうへ。
落ちて、すとんと、死んぢまふ、
オヤ、死んぢまふ。
人間大砲、
人気者、
ハツと起き出す、手をあげる。
そこでおしまひ、またあした。
ホイ、またあした。
- ロボツト
ロボツト、ロボツト、夜がふける、
あかりが消えます窓のうち、
まどのうち、
ラジオの時報も鳴りました。
ロボツト、ロボツト、おやすみな、
いえいえ、わたしはねずの番
ねずの番、
ひとりで夜つぴて立つてましよ。
ロボツト、ロボツト、なぜねない、
ほれほれ、ぎくしやく、かねのあし、
かねのあし、
横にもなれない、床もない。
ロボツト、ロボツト、月が出る、
あなたの母さん呼びましよか、
呼びましよか、
いえ、いえ、ください、ドロツプス。
ロボツト、ロボツト、さやうなら。
はいはい、おやすみ、またあした、
またあした、
ラジオの体操でをどりましよ。
- 硝子ふく家
硝子吹く家、
街はづれ、
お伽話の絵のやうだ、
硝子がどろどろ煮えてゐる。
硝子吹く人、
長い管、
ぷうと吹きます、ほら、赤く、
子供はるつぼを掻きまぜる。
硝子吹き吹き、
おほぜいで、
頻つぺたふくらす、仰向いて
花がめ、フラスコ、うつくしい。
硝子吹く家、
月の夜は、
赤くてきれいで、ゆめのよだ、
小人も森から来て見ます。
- 靴と帽子
銀座の店のシヨーウヰンド、
通りがかりに、ふつと見りや、
長靴、赤靴、黒の靴、
ずらりと並んで不思議だな。
靴、靴、靴、靴、光つてる。
銀座の宵のシヨーウヰンド、
またも帰りに、のぞいたら、
ソフト、山高、シルクハツト、
ずらりと並んでをかしいな。
帽子、帽子、帽子、帽子、すましてる。
- 春の射的場
- 射的場
あをい草山、
あかい旗、
ほうら、やつてる、
音がする。
ここは射的場、
朝つから、
誰が射撃に
来てるやら。
なかは見えない
高い土手、
きつとゐるんだ、
兄さんも。
雲は湧く湧く、
みなみ風、
づどんづどんと
音がする。
- プールがよひ
白鷺、しらさぎ、
遠目には、
なにか、ひでりが
さみしいな。
お午ちかくよ、もうお午。
白鷺、しらさぎ、
また、下りた、
行こよ、プールヘ、
田の土手を。
夏が来た来た、もう真夏。
白鷺、しらさぎ、
あれ、飛んだ。
しろいタオルで
また拭いた。
いそげ裸で、もうそこだ。
- 少年騎馬隊
少年騎馬隊、
ズラリとならぶ。
番号だ、一、二、
三、四、五、六。
少年騎馬隊、
ヒラリと乗つた。
お馬はわか駒、
花ちりやいさむ。
少年騎馬隊、
とつとと駈ける。
鞭はひかへて、
手綱でこなす。
少年騎馬隊、
そろつて子ども、
多摩の御陵へ、
かつぽかつぽまゐる。
- 少年飛行兵
兄さん、少年飛行兵、
「ちよつと行つて来るよ。」
嵐をついて、
支那海越えて、
見事な編隊、ぐんとぐんと飛んでつた。
ぐんとぐんと飛んでつた。
日本少年飛行兵、
「ちよつとやつてやろか。」
ソラ来て、見えた、
南京なんてぢきだ、
すごい爆弾、だんとだんと落した。
だんとだんと落した。
万歳、少年飛行兵、
「ちよつと行つて来たよ。」
夕やけ小やけ、
二千浬ほいだ。
口笛ふきふき、さつとさつと帰つた。
さつとさつと帰つた。
- おい兄弟
「おい、兄弟。」とやつて来る、
いつも、毎朝、やつて釆る、
あの子すきだな、
はきはきしてる。
ラント、ラント、ラン。
「おい、兄弟。」と肩をうつ、
やあと両手で肩をうつ、
あの子つよいな、
がつちりしてる。
ラント、ラント、ラン。
「おい、兄弟。」と笑つてく、
まるでとぶよにかけつてく、
あの子はやいな、
ぴちぴちしてる。
ラント、ラント、ラン。
「おい、兄弟。」といつでもだ。
とても愉快だ、くちぐせだ。
あの子すきだな、
からからしてる。
ラント、ラント、ラン。
- 森の裏
大きな月の二重暈、
雨がふりそでふらぬ晩。
獅子が吼えます、すぐ近く、
動物園の森の裏。
僕は起きてる、目がさめて、
僕は男だ、きいてゐる。
大きな暈だ、見てゐると、
月は西へと飛んでゐる。
- 軍馬
とつとつと、とつとつと、
誰だか奔る。
夜ふけの街を、
蹄で奔る。
とつとつと、とつとつと、
四列の馬だ。
たてがみふつて、
軍馬が奔る。
とつとつと、とつとつと、
厩は火事だ。
どこ行くお馬、
そろつて奔る。
とつとつと、とつとつと、
もとゐた山へ、
鴻ノ台の方へ、
とつとつとと奔る。
とつとつと、とつとつと、
軍馬が奔る。
月の出る方へ、
そろつて奔る。
- 敵
「立て立て、肩に、
見えるか、よいか。」
「とどいた、塀に、
うん、よく見える。」
「来てるか、敵が。」
「こそこそ来てる、
野ばらのかげを、
桜のしたを。」
「もつともつと見てろ、
あとから来るか。」
「来ないよ、誰も、
日の照るばかり。」
「まだ、奴、ゐるか。」
「ゐるゐる、そこに
こちらを見てる。
笑つて見てる。」
「よしとし、下りろ。」
「戦はよすか。」
「うんうん、よそよ。
おいでと言へよ。」
- 石の門
石の門、
石の門。
いつも見てゆく、道ばたの、
のうぜんかづら、石の門。
石の門、
石の門。
だれか乗つてる、立つてゐる、
ほうら、あの子だ、笑つてる。
石の門、
石の門。
僕は下から手をあげる、
するとあの子も手をあげる。
石の門、
石の門。
君、君、遊んでゆかないか。
やあと上からまた笑ふ。
- 土嚢
土嚢をついた、土嚢をついた、
眼ばかり出した、
あの子は誰だ、
こしやくなあの子。
土嚢をついた、土嚢をついた、
こちらの町と
あちらの町と
パンパンやろか。
土嚢をついた、土嚢をついた、
銃口出した、
鉄かぶとだ、やあい。
うつならうてだ。
土嚢をついた、土嚢をついた、
お父さん通る、
会社のかへり、
お手々をあげた。
土嚢をついた、土嚢をついた、
ゆふ焼こやけ、
うたずにやめた、
みんなみんなかへろ。
- 戦ごつこ
鉄の兜に、機関銃、
機関銃
進め、名誉の聨隊旗
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
はしれ、野砲に装甲車、
装甲車、
赤い夕日だ、満州だ。
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
駆けよ、蹴とばせ、雪、氷、
雪、氷、
零下二十度、こりやすごい。
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
なんだ塹壕、鉄条網、
鉄条網、
うなれ、空から爆撃機。
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
投げよ、手ん手に手榴弾、
手榴弾、
たかが馬賊だ、追ひちらせ。
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
喇叭ふけふけ、そら進め、
そら進め。
つづけ、後から衛生兵。
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
鉄の兜に、機関銃、
機関銃、
僕ら、子供の日本軍。
ツラ、トラ、タツタ、チテタツタ。
- 鮒つり
うきがちよいちよい動くけど、
上げりや、やつぱり、藻ばかりだ。
僕はぢりぢりしてきます、
向うで、すつぽん、伸し首だ。
おおい、その場所かへてくれ、
やつばりだめだな、釣れやしねえ。
僕は大人ぢやないんだよ、
ぢやぶぢやぶ泳いで帰つちやへ。
- 映画の父つアま
ニユース映画の鉄兜、
髭面もぢやもぢや 笑つてる
あれつ父つアまだ 父つァまだ。
なあんだ はだかで 銃もつて
ぢやぶ ぢやぶ クリークわたつてる。
まるで 釣する みてえだなア。
父つアま しんぺえ いらねえだ、
母つアま せつせこ かせいでる。
よちよち 赤つ児も あるくすけ。
村中手わけで 稲刈りだ。
俺たち 元気で 稲こきだ。
新屋の小父つアま よく来らあ。
父つアま 勝つんだ 勝つてくれ、
きつとやるつて いつたけなあ、
万歳 父つアま 突貫だ。
- あとがき
此の少国民詩集「港の旗」は、「新日本児童文庫」の中の一席として、この度、新しい意図のもとに、編纂した単行の作品集であります。
作品としては、比較的に最近のもので、童謡を主とし、それにいくらかの童詩が加はつてをります。これまでの、私の他の童謡集と異つてゐる点は、夢よりは現実を、土俗よりは近代機構其の他少国民生活の主たるものに素材を選んであることです。「輝く太陽」・「港の旗」・「山のキヤムプ」・「水平線」・「月と煙幕」・「春の射的場」とを通じて、全篇が此の新しい一つの方向を指示するものと言へませう。
此の書は、現在の少国民たちにとつて、最も身近かな詩の一つの世界を感じて貰へれば、まことに嬉しいことに思ひます。
私の愛する日本の少国民たちの感情が、あの明るい港の旗のやうに、いつも清新であるやうに祈ります。
昭和十七年三月
北原白秋
- (奥付)
- 白秋全集27 第八回配本(第2期二五〜三七巻・別巻)
一九八七年八月三日発行
定価 三九〇〇円
著者 北原白秋
発行者 緑川亨
発行所 〒101東京都千代田区一ツ橋二−五−五
株式会社岩波書店
電話 〇三−二六五−四一一一
振替 東京六−二六二四〇