まざあ・ぐうす
日本の子供たちに
はしがき
お母さん鵞鳥のマザア・グウスは綺麗な青い空の上に住んでゐて、大きな美しい鵞鳥の背中に乗つてその空を翔つたり「月の世界の人たちのつい近くをひようひようと雪のやうに明るく飛んでゐるのださうです。マザア・グウスのお婆さんがその鵞鳥の白い羽根をむしると、その羽根がやはり雪のやうにひらひらと、地の上に舞うて来て、落る、すぐにその一つ一つが白い紙になつて、その紙には子供たちの何より喜ぶ子供のお唄が書いてあるので、いぎりすの子供たちのお母さん方はこれを子供たちにいつも読んできかして下すつたのださうです。今でもさうだらうと思ひます。それでそのお話をお母さんからうかがつたり、そのお唄を夢のやうに歌つていただいたりするいぎりすの子供たちは、どんなにあの金の卵を生む鵞鳥や、マザア・グウスのお婆さんを慕はしく思ふかわかりません。
ですが、ほんたうを云へば、そのマザア・グウスはやはり私たちとおなじ此の世界に住んでゐた人でした。べつにお月さまのお隣の空にゐた人ではありません。子供が好きな、さうして、ちやうどあの鵞鳥が金の卵でも生むやうに、ぽつとりぽつとりとこの御本の中にあるやうな美しい子供のお唄を子供たちの間に落してゆかれたのでした。ありがたいお母さん鵞鳥ではありませんか。
そのグウスといふお婆さんは今から二百年ばかり前に生れた方でした。そのお婆さんに一人の小つちやな孫息子がありました。お婆さんはその孫息子がかはゆくてならなかつたものですから、その子を喜こばせるためにその子の喜ぶやうな、さうしてその子の罪のない美しいお夢をまだまだかはいい綺麗な深みのあるものにしてやりたいのでした。それでいろいろな面白いお唄をしぜんと自分でつくり出すやうになりました。やつぱりその子がかはいかつたのですね。
それも初めはただ何といふことなしに節をつけてお話したり、歌つたりしたものでせうが、さうしたものはどうしても忘れやすいものですから、また覚え書に書きとめて置くやうになりました。さうなるとまた、さうして書きとめて置いたのが一つ殖え二つ殖えしていつかしら一冊の御本にまとまるやうになつたのでせう。
そのお婆さんの養子にトオマス・フリイトといふ人がありました。この人は印刷屋さんでした。で、そのお母さんが自分の息子のために歌つて下すつた、さうしたありがたいお唄を刷つて、自分の息子ばかりでなく、外の沢山の子供たちを喜ばしてやりたいと思つたのでした。それでこのマザア・グウスの童謡の御本が初めて刷られて、広く世間に読まれるやうになりました。それは西洋暦の千七百十九年といふ年で、時のいぎりすの王様はヂヨウヂ一世と申される御方でした。
で、このマザア・グウスの童謡はずいぶん古いものです。古いものですけれど、いつまで経つても新しい。ほんとにいいものはいつまで経つても昔のままに新らしいものです。考へて見てもその御本が出てから、いぎりすの子供たちはどんなに仕合せになつたかわかりません。その子供たちが大人になり、またつぎからつぎにかはいい子供たちが生れて来て、またつぎからつぎに此のお母さん鵞鳥のねんねこ唄を歌つて大きくなつて行くのです。それに此の御本が出てから仕合にされたのはそのいぎりすの子供ばかりではありません。いぎりすの言葉を使つてゐる国々の子供は無論のことですが、世界中のいろいろな国の言葉に訳されてゐますので、さうした国々の子供たちもみんな仕合にされてゐる筈です。それにいろいろ作曲されて、ずいぶん広く歌はれてゐるやうです。ですから、赤い嘴と赤い水掻とを持つた鵞鳥のお婆さんがお椅子に腰かけて、同じやうな赤い小つちやな嘴と赤い小つちやな水掻とを持つた小つちやな鵞鳥をお膝に載つけて、赤い御本を開いてゐる画のついた表紙のや、三角帽のリボンに鵞ペンを挿したお婆さんが卓子の前に腰をかけて、何か書いてゐると、そのそばから大きな鵞鳥が嘴をあけて、針の頭のやうに眼を小つちやくして覗きこんでゐる画のや、鵞鳥とお婆さんが空を翔けてゐるのや、緑色の牧草の中に金の卵を落してゐる白い雌鳥の鵞鳥のや、いろんな本が出てゐます。
日本ではこの私が初めてです。日本の子供たちの為めに、私はこのお母さん鵞鳥を日本の空の上に来てもらひました。さうして空からひらひらとその唄のついた鵞鳥の羽根を散らして貰つたのでした。その羽根に書いてある字はいぎりすの字ですから、私は桃色のお月さまの光でひとつひとつ透かして見て、それを日本の言葉に直して、あなた方、日本のかはいい子供たちに歌つてあげるのです。そしてみんな歌へるやうに歌ひながら書き直したのですからみんな歌へます。歌つて御覧なさい。ずいぶん面白いから。
その童謡の中には、青いもえぎ色の月の夜にお月さまを飛び越える牝牛のダンスや、紅い胸の駒鳥が死んで白嘴鴉が御経を読むのや、王様の前のパイのお皿から歌ひ出す二十四匹の黒鶫や、『パンにお煎餅。』とうなるロンドンのお寺の鐘や、お家が大火事でプツヂングのお鍋の下にもぐりこむてんたう虫の娘や、赤い鯡に呑まれる黒ん坊の子供や、籠に乗つて青天井の煤掃しにお月様より高くのぼるお婆さん、お靴の中に子供をどつさり入れて始末に困るお婆さん、挽割麦を三斤盗んでお菓子をこさへる王様や、栂指よりも小いさな豆つぶの旦那さま、赤いお椀に乗つて海へ出るお悧巧さん、気ちがひ馬に乗つて滅茶苦茶に駈けてゆく気ちがひの親子、さうした、それはもうどんなに不思議で美くしくて、をかしくて、馬鹿々々しくて、面白くて、なさけなくて、怒りたくて、笑ひたくて、歌ひたくなるか、ほんとにゆつくりと読んで、さうしてあなた方も今までよりもずつと変つたお月夜の空や朝焼夕焼の色どりを心にとめて、いつも美くしいあなた方のお夢を深めて下さるやう。さうなら私はどんなにうれしいかわかりません。
この本の中の童謡は重にそのマザア・グウスから訳したのですが、その外にもいぎりすの子供の歌つてゐるので違つたのが沢山附け足してあります。いろんな指遊びや、顔遊び、めくら鬼、梯子段遊びなど、日本のと違つた遊戯唄をおしまひの方に載せて見ました。皆さんで一つやつて下さるとうれしいと思ひます。
これからもまだいろんなものを皆さんのために書いてお贈りしたいと思つてゐますが、私もこれからほんとに念を入れて、鵞鳥が金の卵を生み落すように、ほんとにいい童謡をぽつとりぽつとりと落してゆきたいと思ひます。
では、どうぞ、此の本の初めにあるその金の卵の謡から読んで行つて下さい。するときつと鵞鳥があなた方を背中に乗せて、高い高いお月さまのそばまで翔けてゆくでせう。 大正十年九月
木兎の家にて
白秋しるす
母鵞鳥の歌
母鵞鳥のお婆さん、
いつも出あるくその時は
綺麗な鵞鳥の背に乗つて、
空をひようひよう翔けてゆく。
母鵞鳥の住む家は
一つ、ちんまり、森の中、
戸口にや一羽の梟が
見張りするので立つてゐる。
息子がひとりで名はヂヤツク、
その子まづまづお人よし、
ずんといい事せぬ代り、
づるい悪さもよう為得ぬ。
市場ヘヂヤツクをやつたれば、
雌の鵞鳥を買うて来る、
「まあまあ、お母さん、見ておいで、
そのうちいい事もあるでしよよ。」
それから鵞鳥の雌と雄
仲よし小よしで遊んでる。
いつも一緒に餌をたべて、
ガアガア、お池におよいでる。
ある朝、ヂヤツクが行つて見りや、
(ほんに話によく聞いた、)
金の卵がありまする。
生んでくれたは雌鵞鳥。
金の卵だ、早よ告げよ、
ヂヤツクはお母さんへ飛んでゆく。
お母さんもほくほく御機嫌だ。
「それはよかつた、大出来じや。」
ヂヤツクは卵を売りに出る。
それを買はうと猶太人の悪者、
思ふ半値もつけせんで、
うまうまヂヤツクをちよろまかす。
ヂヤツクはお嫁取りに行きまする。
向うのお嬢さん華美好きで、
それはかはいい、うつくしい、
花の山査子、百合見たやう。
ところへ、背後から蹤けまはす
猶太人とお洒落のおべつか屋、
脇腹めがけて、打つてやろと
かはいそなヂヤツクに突つかかる。
その時すばやく、すつと来たは
母鵞鳥のお婆さん、
杖でヂヤツクを一寸と打ちや、
道化のアルレキンに早変り。
つづいて、お婆さんが杖上げて、
綺麗なお嬢さんを一寸と打ちや、
すぐにその子も早変り、
それこそかはいいコランビン。
金の卵は海の中、
どさくさまぎれに放られる。
だけど、ヂャックが飛び込んで、
またも元へと取り返す。
それで、雌鵞鳥とつた猶太人の奴、
殺しちまへといきまいた、
割いて、此奴を売つ飛ばしや、
ポケツトにたんまり金儲。
ヂヤツクのお母さんは、それ見ると、
すぐに雌鵞鳥をひつたくり、
そして、その背にうち乗つて、
お月さま目がけて飛んで行つた。
註、アルレキン。道化しばゐの男役です。
コランビン。これは女役です。
まざあ・ぐうす
駒鳥のお葬式
「誰が殺した、駒鳥の雄を。」
「そオれは私よ。」雀がかう云つた。
「私の弓で、私の矢羽で、
私が殺した、駒鳥の雄を。」
「誰が見つけた、死んだのを見つけた。」
「そオれは私よ。」蒼蝿がさう云つた。
「私の眼々で、小さな眼々で、
私が見つけた、その死骸見つけた。」
「誰が取つたぞ、その血を取つたぞ。」
「そオれは私よ。」魚がさう云つた。
「私の皿に、小さな皿に、
私が取つたよ、その血を取つたよ。」
「誰が作る、経帷子を作る。」
「そオれは私よ。」甲虫がさう云つた。
「私の糸で、私の針で、
私が作ろ、経帷子を作ろ。」
「誰が記す、戒名を記す。」
「そオれは私よ。」雲雀がさう云つた。
「明いならば、暮れないならば、
私が記そ、戒名を記そ。」
「誰が会つか、お葬式に会つか。」
「そオれは私よ。」お鳩がさう云つた。
「葬つてやろよ、かはいそなものを、
私が会たうよ、お葬式に会たうよ。」
「誰が掘るか、お墓の穴を。」
「そオれは私よ。」梟がさう云つた。
「私の鏝で、小さな鏝で、
私が掘ろよ、お墓の穴を。」
「誰がなるぞ、お坊さんになるぞ。」
「そオれは私よ。」白嘴鴉がさう云つた。
「経本持つて、小本を持つて、
私がなろぞ、お坊さんになろぞ。」
「誰が鳴らす、お鐘を鳴らす。」
「そオれは私よ。」雄牛がかう云つた。
「私は引ける、力がござる、
私が鳴らそ、お鐘を鳴らそ。」
空の上からみんなの小鳥が、
ためいきついたり啜り泣きしたり、
みんなみんな聞いた、鳴り出す鐘を、
かはいそな駒鳥のお葬式の鐘を。
お月夜
ひよつこり、ひよつこり、ひよつこりしよ。
猫が胡弓弾いた。
牝牛がお月様飛び越えた。
小犬がそれ見て笑ひ出す。
お皿がお匙を追つかけた。
ひよつこり、ひよつこり、ひよつこりしよ。
天竺鼠のちび助
天竺鼠のちび助は、
矮小だから太つちやゐなかつた。
いつも足でお歩きで、
食べる時や断食や致さない。
さて、一ところから駈けて出りや、
決して其処にはもう居らぬ。
聞けば、駈けてるその時は、
どつちみちぢつと為ちやゐないそだ。
キイキイ啼くのは屡々だ、滅茶苦茶暴れもたまたまだ。
それが騒いで喚く時や決して黙つちやゐなかつた。
たとへ猫から教はらなくとも、
二十日鼠が只の鼠で無いのは御承知だ。
ところで確な噂だが、
ある日、とつぴよくりんに気が狂れて、奇態な死方した話
とても感じのいい、金棒引の人たちは、
彼奴め死んだで生きてる訳ないぞと云つてゐる。
木のぼりのお猿
木のぼりのお猿さん、
落ちた時や、その時や落ちてゐた。
石の上のつん鴉、
立つた時や、其処らにや影も無い。
林檎かぢりの婆お内儀、
二つ食べた時や、一対食べてゐた。
水車場通ひの小荷駄馬、
てくる時やじつと立つちやゐなかつた。
栂指ちよん切つた牛殺し、
怪我したその時や、血を出してた。
駈けて蹤いてくお供さん、
疾走する時や、駈け足だ。
お靴そそくる靴直し、
繕つちやつたその時や、為上てた。
蝋燭作るが燈燭屋、
型から引つ剥いだ時や手に持つてた。
西班牙指して行つた艦隊、
帰つた時や、またぞろ遣つて来てた。
胡桃
小さな緑のお家がひとつ。
小さな緑のお家の中に、
小さな金茶のお家がひとつ。
小さな金茶のお家の中に、
小さな黄色いお家がひとつ。
小さな黄色いお家の中に、
小さな白いお家がひとつ。
小さな白いお家の中に、
小さな心がただひイとつ。
孟買の肥満漢
一人の肥満漢が孟買にござつた。
ある日、日向で煙草のんでござつた。
そこへ、ついと来たは鷸といふ小鳥よ、
パイプひつ掠つてまたふいと飛んぢまふ。
そこでぢれました孟買の肥満漢。
六片の歌
歌へ歌へ六片の歌を。
衣嚢にや御褒美の麦がある。
二十四匹の黒鶫、
焙じこまれて、パイの中。
パイが剥がれた、その時に、
すぐに小鳥が歌ひ出す。
もともと王様に供へます
綺麗なお皿ぢや、そりや無いか。
『王様は会計院で、
お金の御勘定。
御妃や御居間で、
パンと蜜をめしあがり。
女中さんはお庭で、
衣裳をせつせと干してゐる。
そこへ小鳥が一羽飛んでまゐつて、
つんとはぢきました、女中さんのお鼻。』
一時
いつちく、たつちく、おうやおや。
鼠が時計をかけあがる。
柱時計がチーンとうつ。
鼠がすたこらかけおりる。
いつちく、たつちく、おうやおや。
卵
お乳のよに白い大理石の壁に、
絹の柔軟した薄い膜つけて、
透いて凝つた泉の中に
金の林檎が見えまする。
そのお城に戸一つ無いので、
泥棒共までわりこんで金の林檎を盗み出す。
朝焼夕焼
朝焼小焼、
羊飼の気がかり。
夕焼小焼、
羊飼の後生楽。
風が吹きや
風が吹きや、
まはります、粉挽き車よ。
風が止みや、
とまります、粉挽き車さ。
文なし
一文なしの文三郎、文三郎を浚はうと
泥棒どもがやつて来た。
逃げた、逃げた、烟突の素頂辺へ攀ぢてつた。
締めた、締めたと泥棒どもが追つかけた。
それ見て文三郎、そろつと向うへ逃げ下りた。
かうなりや見つかるまい。
駈けた、駈けた、十五日に十四マイル、
それで、振り向いたが、もう誰も見えなんだ。
フアウスト国手
フアウスト国手はいい人で、
時々、お弟子たちを引つぱたく。
引つぱたいて、踊らして、追つ立てて、
英吉利出てから仏蘭西へ、
仏蘭西出てから西班牙へ、
そしてまた、引つぱたいて逆戻り。
とことこ床屋さん
とこ、とこ、床屋さん、
豚の毛刈つちよくれ、
鬘がひイとつほしいけど、
その毛が何本入用ぢやね。
二十四本で沢山だ。
フンとお鼻で御挨拶。
お靴の中に
お靴の中にお婆さんがござる。
子供がどっさり、始末がつかない。
お粥ばつかり、パンも何もやらず、
おまけに、小つぴどくひつぱたき、
寐ろちゆば、寐ろちゆば、この小童ら。
一つの石に
一つの石に小鳥が二羽よ。
フア、ラ、ラ、ラ、ラルド、
一羽が飛んでつた、一羽が残つた。
フア、ラ、ラ、ラ、ラルド、
また一羽飛んでつた、誰も無くなつた。
フア、ラ、ラ、ラ、ラルド、
石だけぼつつり残つた。たつたひとり残つた。
フア、ラ、ラ、ラ、ラルド。
コール老王
お年寄りのコオル王は愉快なお爺、
愉快なお爺、
すぐに煙管召して、お酒杯召してね、
そして胡弓弾者を三人ほどお召しで。
どのどの胡弓弾者もいい胡弓持ちでよ、
中で一番なは王様の胡弓よ、
ツウイ・ツウイヅル・デイ、ツウイヅル・ディ。……
それそれ胡弓弾者が弾き出したよ、おききな。
誰に較べうか、滅多にまた無かろ、
コオル王様とその胡弓弾者よね。
雨、雨、行つちまへ
雨、雨、行つちまへ、
またいつか来なよ。
早よ出て遊ぼに。
花壇に豚
お庭の花壇に豚が出た。それ行つて捕つつかめ。
穀物畑に牛が来た。走れ、走れ、男の子。
クリイムのお鍋に猫がゐる。走れ、走れ、女の子。
山火事だ。走れ、走れ、男の子。
日の照り雨
日の照り雨、小半時ももてぬ。
セント・クレメンツの鐘
のぼれいそいそ、また下りなされ、
鐘はロンドン、つけば数ござる。
「柑子に檸檬。」よ。
セント・クレメンツの鐘が鳴る。
「標的と、標的の星。」
セント・マアガレツツの鐘が鳴る。
「煉瓦に瓦。」
セント・ギルスの鐘が鳴る。
「半片にフアシング。」
セント・マアルチンスの鐘が鳴る。
「麺麭菓子にお煎餅。」
セント・ピイタアスの鐘が鳴る。
「二本の洋杖、一つの林檎。」
ホワイト・チヤペルの鐘が鳴る。
「灰掻、火箸。」
セント・ジヨンスの鐘が鳴る。
「湯沸、お鍋。」
セント・アンヌの鐘が鳴る。
「バルドペヱト爺さんよう。」
オルトゲヱドの緩ろい鐘。
「汝に十志貸しがある。」
セント・ヘレンスの鐘が鳴る。
「いイつ払うてくれるんじや。」
古るいベヱレヱの鐘が鳴る。
「俺が金持になつたらな。」
シヨルヂツチの鐘が鳴る。
「そしたら頼むよ。」
ステプニイの鐘が鳴る。
「俺ん知つたこつかい。」と
ボウの大きな鐘のこゑ。
さあ来た、手燭がお床へ汝を照らしに来た。
さあ来た、屠人が汝のそつ首ちよんぎるぞ。
*一ペンニイの四分の一
荊棘のかげに
荊棘のかげに、
ひもじさ、寒むさ。
花咲くかげに、
白金、黄金。
お馬乗り
貴夫人の馬乗り。
ツリイ、ツレ、ツレ、ツレエ、
ツリイ、ツレ、ツレ、ツレエ。
貴夫人の馬乗り。
ツリイ、ツレ、ツレ、ツレエ。ツリ、ツレ、ツレエ。
紳士の馬乗り。
ガロツプ・エ・ツロツト。
ガロツプ・エ・ツロツト。
紳士の馬乗り。
ガロツプ・エ・ガロツプ・エ・ツロツト。
お百姓の馬乗り。
ホツブルデイ・ホイ、
ホツブルデイ・ホイ。
お百姓どんの馬乗りやこんなもんぢや、はあ。
ホツブルデイ、ホツプルデイ・ホイ。
小径に娘
小路のほとりに一人の娘が、
何だか言つてるけど、はつきりや言へないで、
ぐつつ、ぐつつ、ぐつつぐつ。
向うの小岡に一人の男が、
立つてはゐれども、じつとしちやゐられず、
ひよつこり、ひよつこり、・ひよつこりしよ。
月の中の人
月の中の人が、
ころがつて落ちて、
北へ行く道で、
南へ行つて、
凝えた碗豆汁で、
お舌を焼いて焦がした。
十人の黒坊の子供
十人よ、黒奴の子供が十人よ、
お午餐に呼ばれて行きました。
一人が咽喉首つまらした。
そこで九人になりました。
九人よ、黒坊の子供が九人よ、
どの子もどの子も朝寝坊で、
一人がたうとう寝過した。
そこで八人になりました。
八人よ、黒坊の子供が八人よ、
一緒にデボンを旅してて、
一人が途中で留まつた。
そこで、七人になりました。
七人よ、黒坊の子供が七人よ、
杖伐りにと行つたれば、
一人が真二つに腹切つた。
そこで、六人になりました。
六人よ、黒坊の子供が六人よ、
蜂の巣いぢつてつい遊び、
一人が熊蜂に螫された。
そこで、五人になりました。
五人よ、黒坊の子供が五人よ、
喧嘩して御訴訟を起した。
一人が裁判所へ行きました。
そこで、四人になりました。
四人よ、黒坊の子供が四人よ、
みんなで海へと出かけたら、
赤い鯡に一人が呑まれ、
そこで、三人になりました。
三人よ、黒坊の子供が三人よ、
こんどは動物園へ行つたれば、
大きな熊奴が一人を引つ抱へ、
そこで、二人になりました。
二人よ、黒坊の子供が二人よ、
てんとさんの中へと坐り込み、
一人がちぢれて焼け死んだ。
そこで、一人になりました。
一人よ、黒坊の子供が一人よ、
いよいよ、たつた一人よ、
その子がお嫁取りに出て行つた。
そこで、誰も無くなつた。
*いぎりすの西南部の一県で、デボンシイルのことです。
お月さまの中のお仁が
お月さまの中のお仁が、
お月さまの外を眺めて、
そして、かうお仰るわ。
今、今、わたしは起きかかる。
赤子のみんなはいま寝まる。
クリスマスが来やすわい
右や左や、クリスマス。
鵞鳥が肥つてこまりやす。
どうぞや一ペンニイ、
爺奴が帽子に放りこんで下され。
一ペンニイがおいやなら半ペンニイでもようござる。
半ペンニイでも無いならば、
御機嫌よろしう、旦那さま。
べああ、べああ、黒羊
べああ、べああ、黒羊、お前はいい毛をお持ちだろ。
はい、はい、嚢に三嚢ござります。
旦那様に一ふくろ、
奥様に一ふくろ、
だつけど、そこいらの細道で、
べそかく坊つちやんにや、いイやいや。
蝋燭
小び子、
名前はナンシイ・ヱツチコウト、
白い下袴に
赤い鼻持つて、
長く立つてるほど、
短くなつて了ふ。
小つちやなテイ・ウイ
小つちやなテイ・ウイは海へ行き、
棚無し短艇に乗りこんで、
ゆらゆら揺られてゐるうちに、
小つちやな短艇がひつくりかへり、
これでお話もおオしまひ。
三月、風よ
三月、風よ、四月は雨よ、
五月は花の花ざかり。
お面持
グレゴリイ・グリツグスさんは、
グレゴリイ・グリツグスさんは、
二十と七つのお面持でおじやつて、
取つかへひつかへ、ひつかへ、取つかへ、
街中をやんやと笑はせる。
東へ行つちや引つかぶり、
西へ行つちや引つかぶり、
それでも、どの面が一番お好きか、
やっぱり御本人でお云ひやれぬ。
獅子と一角獣
獅子と一角獣と
ふたりで王位を競り合つた。
獅子が強かつたで、
街を上下大暴れ、
そこで、白麺麭やつたり、
黒麺麭やつたり、
乾葡萄入菓子やつたり、
やつとこすつとこ追ひ出した。
靴屋さん
靴屋さん、おうち。
はい、はい、今日は。
お靴のつくろひたのみます。
よしきた。合点だ。
こちらに一釘、そちらに一釘、
とんとんとんのとん。
綺麗な頸巻
ヂイニイ、結びに来とくれよ。
ヂイニイ、結びに来とくれよ。
ヂイニイ、結びに来とくれよ。
私の綺麗な頸巻を。
私はうしろで結んでよ。
私は前で結んでよ。
私は何度も結んでよ。
もうもう私はかまやせぬ。
何人何匹何嚢
セント・イブへと私がお参りする時に、
私が逢つたは男一人にお神さんが七人、
そのどのお神さんも嚢を七つ、
そのどの嚢にも猫奴が七つ、
そのどの猫にも小猫が七つ。
セント・イブヘとお参りするのが、
さてさて、何人何匹何嚢。
飲むもの
世界中が一つのパイならば、
海がすつかりインキなら、
木がまたチイスとパンならば、
俺たちの飲むものそりや、何だ。
それこそ甲羅経た爺奴でも
頭をかかへて一寸とまゐろ。
かはいい小猫
「かはいい、かはいい小猫や、
何処へお前は行つてたの。」
「私は行つてたのロンドンヘ、
女王さアまにお目見よ。」
「かはいい、かはいい小猫や、
其処でお前は何したの。」
「女王さアまのお椅子の下で、
鼠を一匹つかまえた。」
雨模様
犬と猫とがお友達に逢ひに、
鳥渡と、街から連れ立つてまゐる。
猫が申します。
「お天気はどうでしよね。」
犬が申します。
「さやうさ、奥さんえ、雨がふりそでござんすが、
御心配はいりません、手前が蝙蝠傘持つてますでな。
その時や御一緒に、相合傘とはいかがでしよ。」
ポウリイ、薬鑵を
ポウリイ、薬鑵を掛けときな。
ポウリイ、薬鑵を掛けときな。
ポウリイ、薬鑵を掛けときな。
みんなが飲むんだ、お茶アだよ。
スケイ、そいつをおはづしな。
スケイ、そいつをおはづしな。
スケイ、そいつをおはづしな。
みんながもうもう行つちやうぞ。
南瓜つ食ひ
ペエタアさん、ペエタアさん、南瓜つ食ひ、
女房持つてもお守りが出来ず、
南瓜の殻にとどしこんで、
やつとこ、ほくほくお守りした。
ぼう、うおう、うおう
ぼう、うおう、うおう、
お前さん何処の犬、
わたし、チンカアさんの犬ですよ、
ぼう、うおう、うおう。
三百屋
トムミイ・ツロツトさん、三百屋、
寝台を売つて、
藁の上へごろりよ。
その藁売つて、
草の上へごろりよ。
そしてお内儀さんに姿見鏡一つ買うてくりよ。
お釘が減れば
お釘が減れば、
蹄鉄失せる。
蹄鉄減れば、
お馬が失せる。
お馬が減れば、
乗者が失せる。
乗者が減れば、
戦が失せる。
戦が無いと、
王様のお国や失せる
お馬の蹄鉄が減つたせいでよ。
二十四人の仕立屋
二十四人の仕立屋が
蝸牛殺した、えつさつさ。
滅多に尻尾にや触れまいぞ。
そりやこそ蝸牛が角出した、小さなカイロ牛そつくりだ。
逃げ逃げ、逃げなきや今にも殺される。
蝸牛角出せ
蝸牛、蝸牛、角出せや、
お父さんもお母さんも死んで了ふた。
お前の御兄弟姉妹は裏ん口の庭で
パンをお呉れエと乞うてゐる。
お針見つけたら
お針見つけたら抓み上げてお取りな。
その日いちんち、いい事ばかり。
お針見つけてその儘為ときや
その日いちんち悪い事ばかり。
風よ吹け吹け
風よ、吹け、吹け、
挽臼廻せ、
粉屋粉挽き、
パン屋さんが捏ねて、
朝はほやほや蒸かし立て。
気軽な粉屋
気軽な粉屋が
デイ河にござる。
朝から晩まで
働らいちや歌ふ。
巫山戯てばつかり、
一つ事ばかり、
お極まり文句で
一つ事ばかり。
『誰にかまふもんか、いやいや、私や、よ。
誰が構ふかよ、このわしに。ホイソラ、ホイソラ。』
お籠の婆さん
お婆さんが一人お籠に乗つて、
ふらふら上る、
月より高く、九十倍も高く、
何処へ行くのか、訊かうにも訊けず、
お手々に箒を持つて、あれあれ上る。
『お婆さん、お婆さん、お婆さん、
何処、何処、何処へ、
そんなに高く上がつて。』
『円天井の煤掃じや。』
『早く帰つて頂戴よう。』
『あい、あい、今に今に。』
田舎漢
田舎漢のおたづねだ。
『一体海に苺が何本あるだ。はあ。』
うまく返字をしてのきよか。
『森に何匹鯡がゐるだ、はあ。』
素つ頓狂な南京さん
素つ頓狂な南京人がお三方ござつた。
それは皆様とくより御承知だ。
きやつきや騒いで猟にと出かけた。
而かも、滅相も無い、安息日にでござる。
永の終日、猟をして廻り、
これと云ふもの根つから葉つから見つからない。
一つ見つけたは帆かけた船よ。
それが追風にしゆつしゆつと走つた。
「あれは船だ。」と一番先のが云ひ出した。
「なんの、嘘だ。」と二番目のが打ち消した。
「あれは家さ。」と三番目のが云ひのけた。──
「壊れ煙突まで取つついてるぢやないかいな。」
永の一晩猟をして廻り、
これと云ふもの根つから葉つから見つからない。
一つ見つけたはお辷り屋のお月さんだ、
それが吹かれてつるつると辷つた。
「あれはお月さんだ。」と一番先のが云ひ出した。
「なんの、嘘だ。」と二番目のが打ち消した。
「あれは乾酪さ。」と三番目のが云ひのけた。──
「二つ割にしたその半分きりさね。」
またも終日猟をして廻り、
これと云ふもの根つから葉つから見つからない。
一つ見つけたは木苺藪の蝟鼠。
それを後に通り過ぎて了ふ。
「あれは蝟鼠だ。」と一番先のが云ひ出した。
「なんの、嘘だ。」と二番目のが打ち消した。
「あれは針差さ。」と三番目のが云ひのけた。
「よくも滅茶苦茶にお針を差したもんだすな。」
またも夜つぴて、猟をして廻り、
これと云ふもの根つから葉つから見つからない。
一つ見つけたは蕪畑の野兎だ。
それを見棄ててまた行つて了ふ。
「あれは野兎だ。」と一番先のが云ひ出した。
「なんの、嘘だ。」と二番目のが打ちけした。
「あれは犢さ。」と三番目のが云ひのけた。──
「彼奴、牝牛に置き去りされた奴だんね。」
またも終日、猟をして廻り、
これと云ふもの根つから葉つから見つからない。
見たは洞木の分別顔の梟よ。
それを後にまた行つて了つた。
「あれは梟だ。」と一番先のが云ひ出した。
「なんの、嘘だ。」と二番目のが打ち消した。
「あれは爺さ。」と三番目のがいひのけた。──
「それそれ胡麻塩頭の髪の毛を見さいな。」
鼻曲り
彼奴やよつぽど妙だ、真つ直ぐにや行かぬ。
その訳知つてるか、
鼻の向いた方へ向いて行く。
道理で、奴さん、鼻曲り。
あの丘のふもとに
あの丘のふもとに
お婆さんがござつた。
若しも去なんだら
まだ住んでござろ。
ゆりかごうた
ねんねや、ねんねや、おねんねや。
坊やがお父さん羊守。
お母さんはねんねのねむりの木、
ねんねやねんねとゆすりませう、
ゆすればお夢がふりかかる。
ねんねやねんねや、おねんねや。
あたいの牝牛
あたいの牝牛は小つぽけだ。
ひよろひよろ、ひよつこり、ひよつこりよ。
あたいの牝牛は、小つぽけだ、
牝牛の腓は小つぽけだ。
ひよろひよろ、ひよつこり、ひよつこりよ。
私のお歌はまだ半。
あたいの牝牛は小つぽけだ。
ひよろひよろ、ひよつこり、ひよつこりよ。
あたいの牝牛は小つぽけだ。
やつとこ牛小屋へ追ひこんだ。
ひよろひよろ、ひよつこり、ひよつこりよ。
そこでお歌もちやんちやんだ。
小びつちよの子供は
小びつちよの男の子は何で作る。何で作る。
小びつちよの男の子は何で作る。
蛙と蝸牛と小狗の尻尾で作られた。
それそれ、小びつちよの男の子が作られた。
かはいい女の子は何で作る。何で作る。
かはいい女の子は何で作る。
お砂糖に薬味に、甘いものづくめ、
それそれ、かはいい女の子が作られた。
ねんねこうた
ねんねこ、ねんねこ、ねんねこや。
泣いてお母さんを泣かすなや。
泣かれりや私も辛ござる。
ねんねこ、ねんねこ、ねんねこや。
はしつこいヂヤツク
はしつこいヂヤツク、
すばやいヂヤツク、
蝋燭立一つ
ヂヤツクが
飛び越した。
蝸牛、でむし
蝸牛、でむし。
盗人が来るぞ、汝ちの壁を
ぶつこはしに来るぞ。
蝸牛、でむし。
その角出せよ、
盗人が来るぞ、穀物奪りに、
盗人が来るぞ、夜明の四時に。
一列こぞつて
一列こぞつて、
弓をひき、
お鳩を射つたら、
鴉奴を殺した。
蝸牛
蝸牛、蝸牛、角出せや。
麺麭とお麦を、それ、あげよ。
お悧巧さん
とても不思議なお悧巧さんがござつた。
ばんばら藪へいきなり飛び込むと、
眼玉をポンポン引ん剥いた。
おやおやつ、眼玉が飛び出たら、
それこそ今度は糞力、
横つちよの小藪へ飛び込んだ。
そして眼玉をすつ込ました。
おしやべり
山雀のおしやべり、
お舌が裂けよぞ。
町中の犬が
ちんぢんに咬んぢやふぞ。
ハアトの女王
ハアトの女王がお饅頭を作られた。
夏の日いつぱいかアかつた。
ハアトの兵士がお饅頭を盗んだ。
みんな持つて逃げてつた。
ハアトの王様がお饅頭とお仰つた。
さあ大変、兵士を御折檻なすつた。
ハアトの兵士がお饅頭を返した。
それこそ閉口して、もうもう真平だ。
コケコツコ踊
コケコツコ、コケコツコ、コケコツコ。
奥さんがお靴を失くした。
旦那さんが提琴の弓を失くし、
どうしていいのか大弱り。
コケコツコ、コケコツコ、コケコツコ。
おやおや、奥さんどうなさる。
旦那さんが提琴の弓を探す、
それまで、裸足でお踊りか。
コケコツコ、コケコツコ、コケコツコ。
奥さんがお靴を失くした。
旦那さんが提琴の弓を見つけ、
それきた、コケコツコ、コケコツコ。
コケコツコ、コケコツコ、コケコツコ。
さあさあ、奥さん、それ踊ろ、
旦那さんが提琴の弓をこすり、
それそれ踊れと、コケコツコ。
コケコツコ、コケコツコ、コケコツコ。
奥さんがお靴を失くした。
寝ても寝られず大弱り。
頭の髪毛も滅茶苦茶。
でんでんむしむし
でんでんむしむし、角引けよ。
引かなきや山淑の粒ふりかける。
お婆さんと息子
一人のお婆さんと三人の息子、
ヂエリイ、ヂエムス、それにまたヂヨンよ、
ヂエリイは首くくつた。ヂエムスは溺れた、
ヂヨンは何処かへゐなくなつて了つた。
誰も見つけた者が無い。
三人の息子がみんな死んで了つた。
ヂエリイ、ヂエムス、それにまたヂヨンよ。
てんたう虫
てんたう虫、てんたう虫、
早う家へ帰れ、
お前の家や火事だ。
みんな子供は焼け死んだ。
娘のアンヌがたつたひとり、
プツヂングの鍋の下に
つんぐりむんぐり潜ぐつた。
暖かい麺麭
暖かい麺麭、暖かい麺麭、暖かい暖かい麺麭。
一つが一ペンニイで、二つが二ペンニイ、
暖かい麺麭。
お前に娘がないならば、
お前の息子にお上げなえ。
一つが一ペンニイで、二つが二ペンニイ、
暖かい麺麭。
ゴオサムの三悧巧
さてもゴオサムの三悧巧、
お椀に乗つかつて海へ出た。
もそつとお椀が確りさへ為てりや、
ここらで此の歌も切れやしまい。
気ちがひ家族
気ちがひの御亭主に、
気ちがひのお内儀さん、
気ちがひ小路に住んで、
三つ児を生んで、
どの児もどの児も気がちごた。
お父さんが気ちがひ、
お母さんが気ちがひ、
みんな子供が気ちがひ。
気ちがひ馬に乗つて
いつしよくたに、みんな乗つて、
まつくら三宝に、駈けてつた。
一つの樽に
一つの樽に、三人這入り、
どんどこ、どんどこ、すつどんどん。
彼奴ら誰だ。
肉屋にパン屋、
燭台屋の亭主。
突つころがしてしまへ。
しようのねえ奴らだ。
小ちやな旦那さま
あたいの小ちやな旦那さま、
拇指よりかもまだ小さい。
小まめのお鍋に一寸と入れて、
どんがどんが囃して糶売に。
小ちやなお馬も買うてあげた。
それで、とつとと駈けさして、
手綱とらせて、鞍置いて、
さあさ、練り出そ町の外。
かはいい靴下結ふなら
それには小ちやな留かな具、
小ちやなお鼻を拭きやるには
かはいい小ちやなハンカチフ。
ヂヤツクとヂル
ねんねの小鳥が岡に二羽、
一羽がヂヤツクで、外のがヂルよ、
飛んでつたヂヤツクが、飛んでつたヂルが、
また来たヂヤツクが、また来たヂルが。
トムトム坊主
トム、トム、トム坊主、
笛吹きの息子、
豚をぬすんで逃げたはよいが、
豚は食べられ、トムは打つたたかれ、
泣いておんおん街を駈けた。
犬はぼうわう
犬はぼうわう、
猫はみゆうみゆう、
お豚はぐるんぐるん、
鼠はすけえく。
梟はつうふう
鴉はかうかう、
雌鴨はくわつくくわつく、
牛もうもう。
小さなお嬢つちやん
額のまん中に、きらきら縮らした
小さな捲毛の、
小さなお嬢つちやん、
御機嫌いい時や、
それはそれはいい子で、
お悪い時には怖い子。ソレ、怖い子。
藪医者
藪医者のフオスタアサン、
グロオスタアへ行つて、
驟雨に遇つて、
水たまりに立往生して、
お臍の上まで水びたり。
それから二度とはよう行かぬ。
綺麗好きのお神さん
お月さんのお媒灼でお嫁にござつた、
綺麗好きの、世帯持の、締り屋のお神さんだ。
お午にでもならなきや何としても起きない。
ほんとに締るなら、それこそ頼むよ。
やつとこさと起きれば思ひきつてせかせか、
綺麗好きの、世帯持の、締り屋のお神さんだ。
灰掻で麦つ粉をやつさもつさ捏ねます。
ほんとに締るなら、それこそ頼むよ。
長靴にどろどろどし込んだバタをよ、
綺麗好きの、世帯持の、締り屋のお神さんだ。
撹乳棒のかはりにお足でべつちやべつちや。
ほんとに締るなら、それこそ頼むよ。
乾酪は台所の物置のお棚に、
綺麗好きの、世帯持の、締り屋のお神さんだ。
ひとりでに転げるまでうつちやつちやつてかまはない。
ほんとに締るなら、それこそ頼むよ。
御婚礼
ぶうん、ぶうん、ぶうぶうぶ。
蝿が熊蜂にお嫁入り、
いよいよ教会へ行きやして、首尾よく御祝儀相済んだ。
蝿と熊蜂の御婚礼。
タツフイ
タツフイはウエルス人、タツフイはどろばう。
私の家にやつて来て、牛肉一塊盗んだ。
タツフイの家へ行つたらば、タツフイはゐなかつた。
タツフイがやつて来て、髄骨一本盗んだ。
タツフイの家へ行つたらば、タツフイはゐなかつた。
タツフイがやつて来て、今度は麺棒盗んだ。
タツフイの家へ行つたらば、タツフイは寝てゐた。
そこで火棒取つて、其奴の頭に投げつけた。
婆ア牛
黒白まだらの御面相は、
チヤアレエ・ワアレエの女郎牛だ。
その木戸開けねえか、お通りぢや。
チヤアレエ・ワアレエの婆ア牛。
とっぴよくりん
とつぴよくりんのぽん吉が、
とつぴよくりんのぽん吉が、
お饅頭をいただいて、
外包だアけ残した。
卵売りませうと
卵売りませうと、わしが行く道で、
出遇うた、出遇うたよ、ねぢれ足と出遇うた。
足はねぢれ足、爪まがり爪、
こいつ面白いと踵を一寸とすくふ、
そこで、すとんと地面に小鼻をぶつつけた。
鵲が一羽よ
鵲が一羽よ、梨の木にとオまつた。
鵲が一羽よ、梨の木にとオまつた。
鵲が一羽よ、梨の木にとオまつた。
おお辛度、ああ辛度、おお辛度よう。
うれしそに一度よ、ちちんがちんと跳ねた。
うれしそに二度よ、ちちんがちんと眺ねた。
うれしそに三度よ、ちちんがちんと眺ねた。
おお辛度、おお辛度、おお辛度よう。
これ、これ、小意気な
「これ、これ、小意気なお娘御。
お前は何処へお出でです。」
「お乳しぼりにまゐります。」
「これ、これ、小意気なお娘御。
私もいつしよに行てあぎよか。」
「ええ、ええ、そんなら嬉しいわ。」
「これ、これ、小意気なお娘御。
お前のお父さんは何なさる。」
「私のお父さんはお百姓よ。」
「これ、これ、小意気なお娘御。
お前さんに財産ありましよね。」
「いえ、いえ、御器量が財産よ。」
「これ、これ、小意気なお娘御。
そんならお嫁さんにやちと困る。」
「いらぬ御世話でござります。」
市場へ市場へ
市場へ、市場へ、干葡萄入菓子買ひに、
帰ろよ、帰ろよ、市場にや遅れた。
市場へ、市場へ、乾葡萄入麺麭買ひに、
帰ろよ、帰ろよ、市場ははねた。
数学
掛け算はしちめんだう。
割り算は因業。
比例は人泣かせ。
応用問題気がちがふ。
眼
青い眼は綺麗。
灰色の眼は陰気、
黒い眼は腹黒、
鳶色眼玉はお化け。
ABC
ABCDEFG
HIJKLMN
OPQRSTU
VWXYZ
うれしい、うれしい、うれしいな、
ABC、を教はつた。
五月の蜜蜂
五月の蜜蜂や、
乾草一駄よ。
六月の蜜蜂や、
銀の匙とおなじ価よ。
七月の蜜蜂や、
蝿の一匹にも、つつかはぬ。
朝のかすみ
朝のかすみと夕焼空は、
日和よいとの前しらせ。
曇る日ぐれと朝焼空は、
寝まる羊をみな濡らす。
かつこ鳥
綺麗な小鳥、かつこ鳥、
飛び飛びうたふかつこ鳥、
鳴いて知らするそのこゑは、
つゆ嘘のないいい報せ。
小鳥の卵すする故
鳴く音すずしいかつこ鳥、
早やも鳴きます、かつこうと、
夏がもうぢきまゐります。
豆小僧
豆んちよの家の、
豆んちよの小僧つ子、
よその養魚池へ行つてから、
魚をちよいちよい釣りあげた。
蛙の殿御
お池にござるは蛙どの、
お池にござるは蛙どの。
二十日鼠は粉小屋に。
相手ほしやの蛙どの、
相手ほしやの蛙どの、
蝸牛の背中にうち乗つて。
二十日鼠のお宿まで、
二十日鼠のお宿まで。
そこで戸たたく、もの申す。
「二十日鼠のお姫さま、私や其様に逢ひに来た、
二十日鼠のお姫さま、私や其様に逢ひに来た。
お気に召したか、召すまいか。」
「なんと御返事いたされうに、
なんと御返事いたされうに、
まして叔父様の不在のうち。」
鼠の叔父御が戻られて、
鼠の叔父御が戻られて、
「誰か見えたぞ、不在のうち。」
「いやな殿御がござんした。
いやな殿御がござんした。
叔父様のお不在にござんした。」
そこで啼き啼き蛙どの、
啼き啼き小川を蛙どの、
牝鴨のお上臈と出会はしやる。
よいもの見つけた、ござんなれ、ござんなれ、
牝鴨のお上臈に蛙どの、
ぱくと呑まれてきゆうきゆうきゆう。
さてもあはれな物語、
ここらあたりで、あなかしこ。
ロンドン橋
ロンドン橋が墜ちた。
ロンドン橋が墜ちた。
何で今度架けるぞ。
何で今度架けるぞ。
銀と金とで架けて見ろ。
銀と金とで架けて見ろ。
銀も金も盗まれた。
銀も金も盗まれた。
鉄と鋼鉄とで架けて見ろ。
鉄と鋼鉄とで架けて見ろ。
鉄でも鋼鉄でもへし曲る。
鉄でも鋼鉄でもへし曲る。
材木と粘土とで架けて見ろ。
材木と粘土とで架けて見ろ。
材木、粘土は流される。
材木、粘土は流される。
そんなら石で架け、そりや丈夫だ。
千年万年大丈夫だ。
ソロモン・グランデイ
ソロモン・グランデイは、
月曜日に生れて、
火曜日に洗礼受け、
水曜日に嫁とつたが、
木曜日には病気になり、
金曜日にづんと重つて
土曜日におつ死ぬちふと、
日曜日には埋められた。
ソロモン・グランデイの御一代。
そこでおしまひ、ちやアんちやん。
世界中の海が
世界中の海がひとつの海なら、
どんなに大きい海だろな。
世界中の木といふ木がひとつの木ならば、
どんなに大きな木であろな。
世界中の斧がひとつの斧なら、
どんなに大きな斧だろな。
世界中の人たちがひとりの人なら、
どんなに大きな人だろな。
大きなその人が大きな斧をとつて、
大きな木を伐り、
大きなその海にどしんと倒したら、
それこそ、どんなにどんなに大きい音だろな。
空はじめじめ
空はじめじめ、
雨もよひ、
小ちやなお爺さんに出会ふたら、
身ぐるみ革着て、
頤に縁無帽突ん出して、
「お寒う、お寒う、今日は。」
空はじめじめ、
おわかれと、
よぼよぼ仲間が手を握り、
身ぐるみ革着て、
頤に縁無帽突ん出して、
「さよなら、さよなら、またいつか。」
一切空
一切空ちふお婆さんがどこかしらにござつた。
豆つちよろのお家に納まり反つてござつた。
そこへ誰だかぬうと出て、
くわつと口あけ、すう、ぱくり。
お家もお婆さんも一切空。
がぶがぶ、むしやむしや
どうしたことだえ、このお婆、
飲んだり喰つたり、そればかり、
他には何にもようせぬで、
食ふのと飲むのが商売かい、
むしやむしや、がぶがぶ、ぐずり婆、
ぶつぶつぶつぶつまだやめぬ。
アアサア王
アアサア王の御治世ぢや、
アアサア王はよい方で、
挽割麦三斤盗んで、
袋形のプツヂングをこさへよか。
いよいよ王様のお手製で、
それには山盛り乾葡萄、
拇指二つよりかまだ太い
脂肉を二塊どし込んだ。
王様とお妃とがまづ食べて、
次に大臣たちが御招伴、
そしてその夜のおあまりは、
翌朝お妃が油揚げ。
天竺鼠は
天竺鼠は追つかけごつこが大好きだ。
ツラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、
捕よと思ふなら先づ駈けた、
それ手を放した、
どつちが早いか。
ツラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ。
ヂヤツク・スプラツトと
ヂヤツク・スプラツトとその嚊さ。
爺さは食べても痩せこけだ、
婆さは肥つても意地汚だ。
二人の間中を、一寸と御覧、
お皿はすぺすぺ嘗めてある。
俺がお父は
俺がお父はおつ死んだ。
何と云つてええだか、こちや知らぬ。
馬を六匹呉んさんし。サテ、
犁でもつて鋤けちふだ、追へちふだよ。
馬を六匹売つ飛ばし、
牝牛を一匹、こちや買つてな、
一身上あんべと御機嫌だ。サテ、
何としてええだかまだ知らぬ。
そこで牝牛を売つ飛ばし、
腓を一本、こちや買つてな、
一身上あんべと御機嫌だ。サテ、
極上肉を半ぺらまた失くす。
そこで腓を売つ飛ばし、
牝猫を一匹、こちや買つてな、
阿魔女の猫奴もうい奴ぢや。サテ、
煙突の隅つこにちよんと坐る。
またまた猫奴を売つ飛ばし、
二十日鼠を、こちや買つてな、
尻尾つまんで火に投げた。サテ、
俺のお家がぼうと燃えた。
背骨曲り
背骨曲りの天の邪鬼、
背骨曲りの旅をして、
背骨曲りの石段で、
背骨曲りの六ペンスを拾ひ、
背骨曲りの猫を買ひ、
背骨曲りの鼠をとらせ、
背骨曲りの豆んちよの家に、
背骨曲げ曲げ納まつた。
註、あちらでは、つむじ曲りの事を背骨曲りと申します。
猫と王様
さても此度、猫が王様に御拝謁、
御無事にをさまりや、仕合だ。
がアがア、鵞鳥
がア、がア、鵞鳥、
うろついて何処行こ、
階上を、下を、
聖母様の御堂で
いやな爺に出会つた、
その爺不信心、
お祈りひとつするぢやない。
そこで、そいつの左の足を掬つて、
すつてんころりと上り段からころがした。
火の中に
火の中に石脂、
樫の中にはすつからかん。
泥の中にうなぎ、
粘土の中にはすつからかん。
山羊が蔦食ふ。
牝馬が麦食ふ。
火箸の一対
足なが、せむし、
小頭、眼なし。
それなアに。
お月さま光る
お嬢つちやん、お坊つちやん、外へ出て遊すぼ、
お月さま光る、昼のやうに明る。
口笛吹いて来なよ、呼ばはつて来なよ。
上々機嫌で出て来なよ。でなけりやお断り。
夕飯うつちやつて、石盤うつちやつて、
街へ出て来なよ、遊び仲間が待つてゐるに。
鬨の声あげて、飛んだり跳ねたりしてお出で、
お月さまの光にぐるぐる廻つて踊りませう。
上り段にのぼり、石垣飛び下りて、
転がしやお銭が何もかも呉れる。
牛乳が買へる、蜂の蜜が買へる、
半時たたずにお饅頭が買へる。
玩具の馬
はいしどうどう、
お馬に乗つて、
チヤアリング・クロスへ行て見よか。
綺麗な貴婦人が、
白い馬に乗つて、
お手手に指輪、
お靴に鈴つけ、
ちんからちんから通る、
それ見に行こか。
ちんからちんから、りんりん。
泣け泣け
泣け泣け、赤ちやん、
眼玉にお指を突つ込みな。
そしてお母さんへ行つたらば
あれは坊やぢや無いとお云ひ。
北風吹けば
北風吹けば
雪がふろ、
かはいそな駒鳥はどうするぞ。
かはいそなものね。
お倉の中の刈麦に
もウぐりこウぐり、温もろぞ、
お羽根の裏に首曲げて。
かはいそなものね。
めくら鬼
盲目鬼、盲目鬼、
めん眼が見えない御存じか、
くるくる三遍廻つて、
私をつかめて御覧なね、
転ぶな転ぶな、
誰でもいいから取つつかめ。
私は此方だよ、取つつかまへたとお思ひか。
笑止々々、盲目鬼。
お山の大将
見ろやい、ひと飛び、
俺や此処だ。
誰も来れまい。
俺ひとり。
上へ行つた
上へ行つた、行つた、行つた。
下へ行つた、行つた、行つた。
前へ行つた、後へ行つた。
ぐるぐるぐると廻つた。
みんなして森へ
(五つの指のさきをつつ突いて歌ふ)
一、此の豚申す。みんなして森へ。
二、此の豚申す。何しに森へ。
三、此の豚申す。お母さんに逢ひに。
四、此の豚申す。そしてそしてどうするの。
五、此の豚申す。かぢりついてキツスしよ、キツスしよ。
この豚、ちび助
(おなじく)
一、この豚、ちび助、市場へまゐつた。
二、この豚、ちび助、お留守番でござる。
三、この豚、ちび助、牛肉焙つた。
四、この豚、ちび助、何にも持たなんだ。
五、この豚、ちび助、うゐうゐうゐ。
一緒にお家へ、よいとこらしよ。
お沓を穿かしよ
(五つの足の指をつつきながら歌ふ)
お沓を穿かしよ、仔馬に穿かしよ。
牝馬に穿かしよ。
嚢を背に乗しよ。
背負つたか、見よよ。
背負つたら、麦よ。
背負はなきや、脳味噌ぶつつウぶしよ。
長い尾の豚に
長い尾の豚に、短い尾の豚に、
尾の無い豚に、
雌豚に雄豚、
巻尻尾の小豚。
上つた、上つた
甲、上つた、上つた、梯子段を二つ。
乙、ちやうど私の通りよ。
甲、上つた上つた梯子段を四つ。
乙、ちやうど私の通りよ。
甲、お部屋へ這入つた。
乙、ちやうど、私の通りよ。
甲、お窓の外を眺めた。
乙、ちやうど、私の通りよ。
甲、そこでお猿を見つけた。
乙、ちやうど、私の通りよ。
一、二、三、四、五、
一、二、三、四、五。
魚をピンピンつかまへた。
何故それ逃がした。
指を噛んだ、手を噛んだ。
どつちの指噛んまれた。
この右の小指よ。
足
二本足が坐つた、三本足の上に。
一本足をしやぶつた。
四本足がやつて来て、
一本足浚つて逃げてつた。
二本足が飛び上り、
三本足をひつつかみ、
四本足めがけて投げつけた。
そこで一本足を取り返した。
註、一本足は牛の骨、二本足は人間、三本足は腰掛、四本足は犬。
顔あそび
殿さま、御着座。──額。
二人の御家来。──両方の眼。
雄鶏。──右の頬。──
雌鶏。──左の頬。──
急いで御入来。──口。
チンチヨツパア、チンチヨツパア、
チンチヨツパア、チン。──頤を撫でる。
この呼鈴
この呼鈴鳴した。(髪の毛を一つまみ、引つ張る。)
この扉たたいた。(額をたたく。)
この錠はづした、(鼻をつまみあげる。)
さあ、さあ、這入りましよ。(口を開いて指を中へ突つ込む。)
一番目のお床
一番さきに寝る子に金の財布、
二番目に寝た子に金の雉子、
三番目に寝る子に金の小鳥。
おしまひ
よぼよぼ鴉が
一羽地に留つた。
そこでお謡もおオしまひ。
巻末に
「母鵞鳥」の童謡は市井の童謡である。純粋な芸術家の手に成つたものでは無からう。然し、それだからと云つて一概に平俗野卑だと云ふわけにはゆかない。日本の在来の童謡、即ち私達が小供の時にいつも手拍子をたたいては謡つたかの童謡は矢張り民衆それ自身のものであつた。誰の何がしと云ふ有名な詩人の手に成つたのでは無い、自然に湧き上つて来た民族としての小供の声であつた。その中には無論平俗なものもあつた、如何はしい猥雑な大人のものもあつた。然しほんたうの小供の声はその中にあつた。すぐれて光つてゐた。これを思はなくてはならない。本来の民謡なるものは、野山の木萱のそよぎそのものからおのづと湧き出たものである。初めは誰が歌つたとなく歌ひ出されて、つぎつぎに歌ひ伝へられて、歌ひ直されて、ほんとに洗練されたいいものばかりが永く残ることになつたのである。で、その長い民族精神の伝統といふことに就いて充分に尊重しなければならない。この意味で日本在来の童謡は日本の童謡の本源であり本流である。「母鵞鳥」もおなじく英国童謡の本源と見倣していいであらう。かうした民族の伝統といふことを考へないで、ただ優秀な詩人の手に成るもののみが真の高貴な歌謡だと思ふのは間違ひであらう。私はさうした妙な詩人気取りはきらひである。
ほんたうを云ふと、民謡とか童謡とか云ふものは、たとへそれが或る種の詩人の作だつたにせよ、その歌謡が一般民衆のものとなつた以上、その作者の名は忘れられて、その歌謡だけが凡ての民衆のものとなる。さうして残れば残るだけ、その歌謡は民謡として成功したものだと云ひ得る。すなはち作者の名が忘れられれば忘れられるだけ、ほんたうの民謡として光あるものであるのだ。
今日「母鵞鳥」の童謡として伝へられてるるもののうち、グウス夫人の作が無論凡てであるとは思へぬ。いろいろ作者未詳のもの、小供そのものの声が混入してゐるに違ひない。グウス夫人の名すらも英国その他の英語本位の国々では忘れられて、小供たちは所謂お母さん鵞鳥の謡だと思つてゐる。読まれると云ふことよりも歌ひ囃されてゐる。すなはち英吉利民族の童謡そのものとなつてゐる。この民衆そのものの歌謡を決して侮つてはならない。
殊にその快活、その機智、その鋭い調刺、無邪、諧謔、豊潤な想像、それ等の類ひ稀な種々相には流石に異常な特殊の光が満ちてゐる。無論、此等の中には純粋な芸術上の立場から見ると、多少の玉石混淆は免れぬ。然しこれは民謡としての紹介には仕方の無いものである。だから芸術品として見ても随分いいと思ふものがある代り、ずつと品位の落ちたのも少々はある。それにしてもどうにも棄てるには惜しい何等かの鋭さが蔵されてゐる。で、私は拾つた。ただ無批判に手当り次第に訳したのでは無い。これで無いと「母鵞鳥」の大体がはつきりしないからである。小供といふものはさうビクビクして教育しなくともよい。私は小供の叡智を信じてゐる。
私はまたこれらのNurseryRhymesを訳し乍ら、洋の東西を問はず小供の感情乃至感覚生活と云ふ事に就いては殆どおんなじだと云ふ事に驚かされた。この中の「てんたう虫」の如きは全然日本の「鴉々」の童謡とそつくりでは無いか、幾つかの「ででむし」の謡の如き、また殆ど同じでは無いか。
ただ、彼に於ては極めて都会的な軽快味とその縦横無碍の機智とにづばぬけてゐる代り、日本の子守唄のやうなほんとに沁々としたあの人情味には欠けてゐはしまいかと思はれる。で、私は日本在来の民謡やさうした子守唄の難有さをつくづくと顧みた。ただ茲では委細の比較は読者にお任せする。
*
私が此集に訳出したのは「母鵞鳥」の童謡を主として、なほ英国児童の間に行はれてゐる遊戯唄ねんねこ唄その他のものを取り混ぜた。
翻訳するに当つては四五種の童謡集、楽譜等を彼れ是れ参照した。同一の童謡でもいろいろ歌ひくづされてゐたり、抜かしたりしてある。甚しいのはかんじんな個所で全然反対の意に変つてゐるのもある。さういふのは最もいいと信じたものから選択した。此の集の序詩の如きはどの本を覗いてもところどころ抜けてゐた。で、みんなから綜合してあの通りにまとめて了つた。然しどの聯もどの行も私の自儘に作り足したのは無い、その儘揃へて完全な一つのものとしたのである。
元来、翻訳といふ事は六づかしい。とりわけ韻文の翻訳は難行である。語学者でも無く、学力も乏しい私が、此の難事に身を入れる事は可なり憚られる事ではあるが、ただ幸に私は詩を作つてゐる、民謡としての日本の言葉をどうにか風味して来た。で、詩とか民謡とかに就いては、その真精神、そのリズムの動き方等には先づ先づ相当の理会を持つてゐる積りである。で、その力を頼りに兎も角やり初めて見たのであつた。
第一の困難は、これらの童謡は無論手拍子足拍子で歌ふ可きものであるので、訳もまた極めて民謡風の動律で、全然歌ふやうに為なければならない。で、原謡のリズムの動き方に就いてはその通りその儘の推移法を必要とする。これを違つた国の言葉で移さうとするのは可なり無理な事である。そしてまた歌へるやうにするのは猶更である。
で、ある少数の例外を除いて、私はなるべく一行づつ殆ど逐次に訳して行つた。大体に於て逐次訳と云つていい。そのお蔭で私は創作以上の苦しみを嘗めた。
尤も、一昨年あたり、初めて此事に着手した当坐はまだ不馴で、充分手に入らなかつた故に、謡ひものとする為めに多少の手加減を為なければ思ふやうに訳せなかつた。それが次第に厳格な逐次訳でどうにか納めて行けるやうになつた。でこの中には少数の手加減を入れた例外がある。
それから、“Rain,rain go to Spain"と云ふやうな音韻上の引つかけ言葉のものは訳しようとするのが抑の無理であるから訳しなかつた。「雨、雨、西班牙へ」では原謡の面白味が無くなるからである。日本でなら「雨、雨、安房へ」といふ風にあの韻で掛けてゆくべきものである。
“Baa,Baa,Black Sheep"と云ふやうなのも困つた。凡てBで行つてゐるのであるが、日本の黒羊のくにBは掛からない。かと云つて、「くうくう黒羊。」でも羊の啼声は出ない。「啼け啼け、黒羊。」では意味だけのものになる。意味だけのものではほんたうの訳にはならないのだ。仕方がなければその言語の儘生きさせる外道が無い。
「お医者様のフオスタアさんが、グロスタアへ行つて。」といふ風のものはこれも言葉の上の引掛けであるが、固有の名詞でその儘にやれるから、その通りに為て置いた。「お医者様の西庵さんが埼玉へ行つて。」といふ風の洒落だ。これは両方が固有名詞で行つてるのでその儘でいいが、雨と西班牙の如く、一つが普通名詞である場合は全く困つて了ふ。で、あるものは「とつぴよくりんのチヤアレエが。」と訳しては原謡の妙味が出ない場合に、「とつぴよくりんの頓吉が。」といふ風にとで掛けたのもある。これは頓吉そのものが人名といふより、「とつぴよくりん」そのものが通称化されてゐるからさして障りにはならないし、チヤアレエといふ人名は原謡にはただ音韻上の洒落に使用したまでで、それ以上のもので無いから本質的の引掛けの妙味を主として訳したのである。然しかうした例はこれ位である。
それからまた、
月の中の人が
ころがつて落ちて、
北へ行く道で
南へ行つて、
凝えた豌豆汁で
お口を焼いて焦がした。
この原謡では「ノルウイツチへ行く道を訊いて、南へ行つて。」であるが、ノルウイツチはロンドンの北に当るので、本質の精神は北へが南と対照して、ノルウイツチを知らない日本の小供にははつきりわかるし、この方がずつと簡潔でいいからである。こんな場合の地名は除けた。然し、この例も外には滅多に無い。大概生かす可き固有名詞は生かした。
それからまた、日本語に直す場合に、語法の相違から、動詞の過去を現在格に為たり、その儘直訳するよりも、却つてピタと本質的にその意に合ふ日本語がある場合は、その無意味な直訳は避けた。その真精神にそむくばかりでなく、日本語としても生きないからである。
それから、正直に「うまく返事をしてのけた。」と訳したでは、却てその本当の面目が出ない場合は「うまく返事をしてのきよか。」といふ風にしたのもある。
そからまた、「二十四人の仕立屋が蝸牛殺しに行きました」「二十四人の仕立屋が蝸牛殺しにえつさつさ。」とやつたのもある。意は同じでも、えつさつさの方が一列に、活動人形その儘になつて、足がさくさくと同じに動くからである。
それから淫りがましくて一寸困るものは多少気品よくするために手加減したのがある。
で、かういふのは例外であるけれども、それだからと云つて充分意識してやつてゐるのであるから、詩法を知らぬ語学者から頭ごなしに誤訳呼りをされ度くない。
ただ、学力の不足のためか、うつかり為たために飛んでも無い間違を為た事があるかも知れない。さうした条々が若し有ればどうか御教示にあづかり度くお願ひする。
私はそれらの内容と動律の本質とを我が日本の民謡語で能ふ限り生かしきらうとつとめた。生かし得たなれば難有い。創作すると殆ど同様の熱意と熱心とを之に傾けたのもこの故ある。で、ある意味に於ては半は私の創作とも云へよう。以上。
(奥付)
白秋全集25 第一回配本(第U期二五〜三七巻・別巻一)
一九八七年一月八日 発行
定価 三八〇〇円
著者 北原白秋
発行者 緑川亨
発行所 〒101東京都千代田区一ツ橋二−五−五
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