平曲譜本 藝大本 巻七

巻七
じゆえい二ねん三ぐわつじやうじゆんに、きそのくわんじやよしなか、うひやうゑのすけよりとも、ふくわいのことありときこえけ
り。さるほどにかまくらのさきのうひやうゑのすけよりとも、きそよしなかつゐたうのためにとて、そのせい十まんよき
をいんそつしてしなののくにへかつかうす。きそはそのころよだのじやうにありけるが、これをきいて三千よ
きでじやうをいで、しなのとゑちごのさかひなる、くまさかやまにぢんをとる。うひやうゑのすけよりともはおなじきくに
のうち、ぜんくわうじにこそつきたまへ。きそめのとごのいまゐの四らうかねひらをししやにて、うひやうゑのすけ
のもとへつかはす。なんのしさいあつてかよしなかうたんとはしたまふなるぞ。ごへんはとうはつかこくをうち
したがへて、とうかいだうよりせめのぼり、へいけをおひおとさんとはしたまふなれ。よしなかも、とうせん、ほくろく
りやうだうをうちしたがへて、ほくりくだうよりせめのぼり、いま一にちもさきにへいけをほろぼさんとすることでこ
そあれ、そのうへごへんとよしなかなかをたがううて、へいけにわらはれんとはおもふべき。ただしおじの十らう
くらんどどのこそ、ごへんをうらみたてまつることありとて、よしなかがもとへおはしたるを、よしなかさへすげなう
もてなしまをさんこといかんぞやさふらへば、これまではうちつれたてまつたれ。よしなかにおいては、まつたくいしゆ
おもひたてまつらぬよし、いひおくられたりければ、うひやうゑのすけどの、いまこそさやうにのたまへども、まさし

うよりともうつべきよしのむほんのくはだてありと、つげしらするものあり。ただしそれにはよるべから
ずとて、どひかぢはらをさきとして、すまんぎのぐんびやうをさしむけらるるよしきこえしかば、きそ、
しんじついしゆなきよしをあらはさんがために、ちやくしにしみづのくわんじわよししげとてしやうねん十一さいになり
けるせうくわんに、うんの、もちづき、すは、ふぢさはなんどいふ、いちにんたう千のつはものどもをあひそへて、う
ひやうゑのすけのもとへつかはす。うひやうゑのすけどの、このうへはまことにいしゆなかりけり。よりともいまだせいじんの
こをもたず、よしよし、さらばこにしまをさんとて、しみづのくわんじやうをあひぐして、かまくらへこそかへ
られけれ。さるほどにきそよしなかは、とうせんほくろくりやうだうをうちしたがへて、ほくろくだうよりせめのぼり、すでに
みやこへみだれいるよしきこえけり。へいけはこぞのふゆのころより、みやうねんはうまのくさかひについて、いくさあ
るべしとひろせられたりければ、せんぶん、せんやう、なんかい、さいかいのつはものども、うんかのごとくにはせ
あつまる。とうせんだうはあふみ、みの、ひだのつはものはまゐりたれども、とうかいだうは、たほとうみよりひんがしのつはものは
いちにんもさんせず、にしはみなまゐりたり。ほくろくだうは、わかさよりきたのつはものはいちにんものまゐらず。へいけの
ひとびと、まづほつこくへうつてをつかはして、きそよしなかをうつてのち、ひやうゑのすけよりともうつべきよしの
くぎやうせんぎあつて、ほつこくへうつてをさしむけらる。たいしやうぐんにはこまつのさんみのちうじやうこれもり、ゑちぜん
のさんみみちもり、ふくしやうぐんにはさつまのかみただのり、くわうごうぐうのすけつねまさ、あはぢのかみきよふさ、みかはのかみとも
のり、さぶらひだいしやうには、ゑつちうのぜんじのもりとし、かづさのたいふのはうぐわんただつな、ひだのたいふのはうぐわんかげたか、

かはちのはうぐわんひでくに、たかはしのはうぐわんながつな、むさしの三らうさゑもんありくに、ゑつちうのじらうひやうかんもりつぐ、かづ
さの五らうひやうゑただみつ、あく七ひやうゑかげきよをさきとして、いじやうたいしやうぐん六にん、しかるべきさぶらひ三百四十
よにん、つがふそのせい十まんよき、しんぐわつ十七にちのたつのいつてんにみやこをたつて、ほつこくへこそおもむかれ
けれ。へんだうをたまはつてんければ、あふさかのせきよりはじめて、ろじにもつてあふけんもんせいかのしやうぜい
くわんもつをもおそれず、いちいちにみなうばひとり。しが、からさき、みつかじり、まの、たかしま、しほつ、かいづ
のみちのほとりについてしだいにつゐぶしてとほりけければ、じんみんこらへずして、さんやにみなとうさんす。

たいしやうぐんこれもり、みちもりはすすみたまへども、ふくしやうぐんただのり、つねまさ、きよふさ、とものりなんどは、いまだあふ
みのくにしほづ、かいづにひかへたまへり。なかにもつねまさは、しいかくわんげんのみちにちやうじたまへるひとにてお
はしければ、かかるみだれのなかにも、あるあした、みづうみのはたにうちいで、はるかのおきなるしまを
みわたいて、ともにさふらふとうひやうゑのじようありのりをめして、あれをばいづくといふぞととひたまへば、
あれこそきこえさふろふちくぶじまにてさふらへ、とまをしければ、つねまささることあり、いざやまゐ
らんとて、とうひやうゑのじようありのり、あんゑもんのじようもりのりいげ、さぶらひ五六にんめしぐして、こぶねにのり、
ちくぶじまへぞまゐられける。ころはうづきなかの八かのことなれば、みどりにみゆるこずゑには、はるのなさけを

をしむかとうたがはれ、かんんこくのあうぜつのこゑおいては、はつねゆかしきほととぎす、をりしりがほにつげわた
り、まつにふぢなみさきかかつて、まことにおもしろかりければ、つねまさいそぎふねよりおり、きしにあが
り、このしまのけしきをみたまふに、こころもことばもおよばず。かのしんくわう、かんぶ、あるひはどうなんくわによをつかは
し、あるひははうしをしてふしのくすりをたづねしに、ほうらいをみずば、いなやかへらじといひて、
いたづらにふねのうちにておい、てんすゐばうばうとして、もとむることをえざりけん、ほうらいどうのありさまも、
これにはすぎじとぞみえし。あるきやうのもん/に\いはく、えんぶだいのなかにみづうみあり、そのなかにこんりんざいよ
りおひいでたるすゐしやうりんのやまあり、てんによすむところといへり。すなはちこのしまのおんことなり、つねまさ、
みやうじんのおんまへについゐつつ。それだいべんくどくてんは、わうこのによらいほつしんのだいじなり。めうおん、べん
ざい二てんのなは、かくべつなりとはまをせども、ほんちいつたいにしてしゆじやうをさいどしたまへり。いちどさん
けいのともがらは、しよぐわんじやうじゆゑんまんすとうけたまはれば、たのもしうこそさふらへとて、しづかにほつせまゐ
らせてゐたまへば、やうやうひくれ、ゐまちのつきさしいでて、かいじやうもてりわたり、しやだんも
いよいよかがやきければ、じやうぢうのそう、これはきこゆるおんことなりとて、おんびはをまゐらせたり。
つねまさこれをとつてひきたまふに、じやうげんせきじやうのひきよくには、みやのうちもすみわたり、まことにおもしろ
かりければ、みやうじんもかんおうにたへずやおぼしけん、つねまさのそでのうへに、びやくりうげんじてみえたまへ
り。つねまさあまりのかたじけなさに、よろこびのなんだせきあへたまはず。ややしばらくおんびはをさし

おいて、かうぞおもひつづけたまふ。
ちはやふるかみにいのりのかなへばやしるくもいろのあはれにけり
めのまへにててうのをんできをたひらげ、きようとをほろばさんこと、うたがひ-なしとよろこんで、またふねにの
り、ちくぶしまをぞいでられける。ありがたかりしことどもなり。

さるほどにきそのくわんじやよしなかは、みがらはしなのにありながら、ゑちぜんのくにひついがじやうをぞか
まへたる。かのじやうくわくにこもるせい、へいせんじのちやうりさいめいゐぎし、とがしのにふだうぶつせい、いなづのしん
すけ、さいとうだ、はやしの六らうみつあきら、いしぐろ、みやざき、つちだ、たけべ、にふぜん、さみをさきとして、六千
よきこそこもりけれ。ところ、もとよりくつきやうのじやうくわく、ばんじやくそばたちめぐつて、しはうにみねをつらね
たり。やまをまへにし、やまをうしろにあつ。じやうくわくのまへには、のみがは、しんだうがはとてながれたり。かの
ふたつのかはのおちあひに、たいせきをかさねあげ、おほきをきつてさかもぎにひき、しがらみをおびただしうかき
あげたれば、とうざいのやまのねにみづせきこうで、みづうみにむかへるがごとし。かげ、なんざんをひたし、あを
うしてくわうやうたり。なみ、せいじつとしづめて、くれなゐにしていんりんたり。かのむねつちのそこにはきんぎんの
いさごをしき、こんめいちのなぎさにはとくせいのふねをうかべたり。わがてうのひうちがじやうのつきいけは、つつみをつ

き、みづをにごして、ひとのこころをたぶらかす。ふねなくしては、たやすうわたすべきやうなかりしか
ば、へいけのおほぜい、むかひのやまにしやくして、いたづらににつしゆをぞおくりける。かのじやうくわくにこもつたるへい
ぜんじのちやうりさいめいゐぎし、へいけにこころざしふかかりければ、やまのねをめぐり、せうそくをかいて、ひき
めにいれ、へいしのぢんへぞいいれたる。へいけのかたのつはものどもこれをとりて、たいしやうぐんのおんまへに
まゐり、ひらいてみるに、このかはとまをすは、わうごのふちにはあらず。いつたんやまかはをせきとどめ、
みずをにごしてひとのこころをたぶらかす。よにいつてあしがるどもをつかはして、しがらみをきりおとさせられな
ば、みづはほどなくおつべし。うまのあしだちよきところにてさふらふ。いそぎわたさせたまへ。うしろやをつかまつらん。
かうまをすものは、へいぜんじのちやうりさいめいゐぎしがまをしじやうとぞかいたりける。へいけななめならずによろこ
び、やがてよにいりあしがるどもをつかはして、しがらみをとりのぞけさせられたりければ、げにもおびただしう
はみえけれどもやまかはではあり、みづはほどなくおちにけり。へいけしばしのちちにもおよばず
ざつとわたす。しろのなかにも六千よきふせぎたたかふといへども、たぜいにぶせい、かなふべしともみ
えざりけり。へいせんじのちやうりさいめいゐぎしは、へいけについてちうをいたす。とがしのにふだうぶつせい、
いなづのしんすけ、さいとうだ、はやしの六らうみつあき、かなはじとやおもひけん、じやうをいでてかがのくにへ
おちゆき、しらやま、かはちにたてこもる。へいけやがてつづいてかがのくにへうちこえ、とがし、はやし
がじやうくわく、二かしよやきはらふ。なにおもてをむかふべしともみえざりけり。ちかきしゆくじゆくよりひきやくをもつ

て、このよしみやこへまをししたりければ、おほいどのをはじめたてまつて、へいけのひとびとみないさみよろこびあはれ
けり。五ぐわつ八かのひ、かがのくにしのはらにてせいぞろひして、おほてわらめでふたてにわかつてむかはれけり。
おつてのたいしやうぐんには、こまつのさんみのちうじやうこれもり、ゑちぜんのさんみみちもり、ふくしやうぐんには、さつまのかみ
ただのり、くわうごうのぐうのすけつねまさ、さぶらひだいしやうには、ゑつちうのじらうぜんじもりとしをさきとして、つがふそのせい
七まんよき、かがゑつちうのさかひなるとなみやまへぞむかはれける。からめてのたいしやうぐんには、あはぢのかみきよ
ふさ、みかはのかみとものり、さぶらひだいしやうには、むさしの三らうさゑもんありくにをさきとして、つがふそのせい三
まんよき、のとゑつちうのさかひなるしをのやまへぞむかはれける。きそはそのころゑちごのこふにあり
けるが、これをきいて、五まんよきでこふをたつて、となみやまへぞむかひける。よしなかがいくさの
きちれいなりとて、五まんよきをななてにわかつ。まづおぢの十らうくらんどゆきいへ一まんよき、しをのやま
へぞむかひける。ひぐちにじらうかねみつ、おちあひの五らうかねゆき、七千よき、きたくろぢかへさしつかはす。に
しな、たかなし、やまだのじらう、七千よきみなみくろさかからめてへこそつかはしけれ。一まんよきはとなみやま
のすそ、まつながのやなぎはら、ぐみのきんばやしにひきかくす。いまゐの四らう六千よき、わしのせをうちわ
たつて、ひのみやばやしにひかへたり。きそわがみ一まんよき、をやべのわたりをして、となみやま
のきたのはづれ、はにふにぢんをぞとつたりける。

きそどののたまひけるは、いくさはさだめてかけあひのいくさにてぞあらんずらん。かけあひのいくさといふは、
せいのたせうによることなり、おほぜいかさにまはり、とりこめられてはかなふべからず。まづはたさし
どもをさきたて、くろさかのうへにうつたてたらば、へいけこれをみて、あはやげんじのせんぢんのむかふ
たるはさだめておほせいにてぞあるらん。とりこめられてはかなふべからず。このやまはしはうがんせきに
てあんなれば、からめてよもめぐらじ、しばしおりゐてうまやすめんとて、となみやまにぞおりゐんず
らん。そのときよしなか、しばらくあひしらふていにもてふし、ひをまちくらし、よにいつてへいけのおほぜいをうしろ
のくりからがたにへおひおとさんとて、まづしらはた三十ながれ、くろさかのうへにうちたてたれば、あんの
ごとくへいけこれをみて、あはやげんじのせんぢんのむかふたるは、さだめておほぜいにてぞあらん、
かたきはあんないしや、みかたはぶあんないなり、とりこめられてはかなふべからず。このやまはしはうがんせきに
てあんなれば、からめてよもめぐらじ、うまのくさがひ、すゐびんともによげなり、しばしおりゐてうまやすめ
んとて、となみやまのさんちう、さるがばばといふところにぞおりゐたる。きそははにふにぢんどつて、
しはうをきつとみまはせば、なつやまのみねのみどりのこのまより、あけのたまがきほのみえて、かたそぎつく
りのやしろあり。まへにはとりゐぞたちたりける。きそどの、くにのあんないしやをめして、あのやしろをば

なんのやしろといひ、いかなるかみをあがめたてまつるぞととひたまへば、あれこそはちまんにてわたらせたまひ
さふらへ、やがてここもやはたのごりやうでさふらふとまをしければ、きそどのなのめならずによろこび、てかきに
ぐせられたりけるだいふぼうかくめいをめして、よしなかこそなんとなうよするとおもひゐたれば、いま
やはたのごはうぜんにちかづきたてまつて、かつせんをすでにとげんとすれ、さらんにとては、かつうはこうだい
のため、かつうはたうじのきたうのために、ぐわんよをひとふでまゐらせんとおもふはいかにとのたまへば、かく
めい、このぎもつともしかるべうさふらふとて、いそぎうまよりとんでおりきそどののおんまへにかしこまる。
かくめいがそのひのていたらく、かちのひたたれにくろいとおどしのよろひきて、こくしつのたちをはき、二十四さしたるくろ
ぼろのやおひ、ねりごめどうのゆみわきにはさみ、かふとをばぬいでたかひもにかけ、ゑびらのはうだてよりこすずりたたうがみ
とりいだし、ぐわんじよをかかんとす。あつぱれぶんぶ二だうのたつしやかなとぞみえし、このかくめいと
まをすは、もとじゆけのものなり、くらんどみちひろとて、くわんがくゐんにさふらひけるが、しゆつけして、さいじようばう
しんざうとぞまをしける。つねはなんとへもかよひけり。ひととせたかくらのみや、ゑんじやうじへじゆぎよのとき、やま、な
らへてうじやうをつかはされけるに、なんとのだいしゆういかがおもひけん、そのへんてふをばこのかくめいにぞかかせ
ける。きよもりにふだうはへいしのさうかう、ぶけのぢんかいとぞかいたりける。にふだうさうこくこのよしをつたへきき
たまひて、なんでうそのしんざうほふしめが、じやうかいほどのものを、へいしのさうかう、ぶけのぢんかいと、
かくべきやうこそきつくわいなれ。そのほふしからめとつて、しざいにおこなへとぞのたまひける。これによ

つて、なんとにはこらへずして、ほつこくへおちくだり、きそどののてかきして、だいぶばうかくめいとぞ
まをける。そのぐわんじよ/に\いはく、なむきみやうちやうらいはちまんだいぼさつたはじちゐきてうていのほんじゆ、るゐせいめいくんののうそ
たり。ほうさをまもらんがため、さうせいをりせんがために、さんじんのこんようをあらはして、さんじよのけん
びをおしひらきたまへり。ここにしきりのとしよりこのかた、へいさうこくといふものあつて、しかいをくわんれいし、
ばんみんをなうらんせしむ。これすでにぶつぽふのあだ、わうぼふのかたきなり。よしなかいやしくもきうばのいへにうまれて、
わづかにききうのあとをつぐ。かのばうあくをあんずるに、しりよかへりみるにあたはず。うんをてんだうにまかせて、
みをこくかになぐ。こころみにぎへいをおこして、きようきをしりぞけんとほつす。しかるにとうせんりやうけぢんをあはす
といへども、しそついまだいつちのいさみをえざるあひだ、まちまちのこころおそれたるところに、いまいちぢんはたをあぐ。
せんぢやうにして、たちまちにさんじよわくわうのしやだんをはいす、きかんじゆんじゆくあきらかになり。きようとちうりき\うたがひ-なし。
くわんきなみだこぼれて、くわつがうきもにそむ。なかんづく、そうそふさきのみちのくにのかみぎかのあつそん、みをそうべうのし
ぞくにきふして、なをはちまんたらうよしいへとがうせしよりこのかた、そのもんえふたるものの、ききやうせずといふ
ことなし。よしなかそのこういんとして、かうべをかたむけてとしひさし。いまこのたいこうをおこすこと、たとへばえいじ
のかいをもつてきよかいをはかり、たうらうがをのをいからかいてりうしやにむかふがごとし。しかりといへども、
きみのためくにのためにしてこれをおこす、まつたくみのためいへのためにしてこれをおこさず。こころざしのいた
りしんかんそらにあり。たのもしきかな、よろこばしきかな、ふしてねがはくは、みやうけんゐをくはへ、れいじん

ちからをあはせて、かつことをいつじにけつし、あだをしはうへしりぞけたまへ。しかればすなはちたんきみやうりよにかな
ひ、げんかんかごをなすべくんば、まづこれにていちのずゐさうをみせしめたまへ。じゆえい二ねん五ぐわつ十
一にち、みなもとのよしなかつつしんでまをすとかいて、わがみをはじめて、十三きがうはやのかぶらをぬき、ぐわん
じよにとりそへて、だいぼさつのごはうでんにぞをさめける。たのもしきかな、はちまんだいぼさつ、しんじつの
こころざしふたつなきをや、はるかにせうらんしたまひけん、くものなかよりやまばとみつとびきたつて、げんじのしら
はたのうへにへんばんす。むかし、じんごうくわうごうしらぎをせめさせたまひしとき、みかたのたたかひよわく、いこくのいくさつよ
くして、すでにかうとみえしとき、くわうごうてんにむかつてごきせいありしかば、れいきうみつとびきたつ
て、みかたのたてのおもてにあらはれて、いこくのいくさまけにけり。またこのひとのせんぞらいぎのあつそん、あうしうの
えびす、さだたうむねたうをせめたまひしとき、みかたのたたかひよわく、きようぞくのいくさつよくして、すでにかうとみえ
しとき、らいぎのあつそんかたきのぢんにむかつて、これはまつたくわたくしのひにあらず、しんくわなりとてひをはな
つ。かぜたちまちにいぞくのかたへふきおひ、くりやがはのしろやけおちぬ。そのときさだたうむねたうほろびにけ
り。きそどのかやうのせんじゆうをおもひいでて、いそぎうまよりとんでおり、かぶとをぬぎてうづうがひを
して、れいきうをはいしたまひけん、こころのうちこそたのもしけれ。

さるほどにげんぺいりやうはうぢんをあはせ、ぢんのあはひわづかに三ちやうばかりぞよせあはせたりける。げんじもすすま
ず、へいけもすすまず、ややあつてげんじのかたよりせいびやうをすぐして、十五き、ぢんのもてにすすませ、
十五きがうはやのかぶらをとつてただいちどにへいしのぢんへぞいいれたる。へいけのかたにもおなじうせい
びやうをすぐつて十五きぢんのおもてにすすませ、十五のかぶらをいかへさす。げんじ三十きをいだいて、三
十のかぶらをいさすれば、へいけも三十きをいだいて三十のかぶらをいかへさす。げんじ五十きをいだせ
ば、へいけも五十きをいだし、百きをいだせば、百きをいだす。りやうはう百きづつぢんのおもてにすすませ、
たがひにしようぶをせんとはやりけれども、げんじのかたよりせいして、わざとしようぶをばせさせず。
かやうにあしらひ、ひをまちくらし、よにいつて、へいけのたいぜいを、うしろのくりからがたにへ
おひおとさんとたばかりけるを、へいけこれをばゆめにもしらず、ともにあしらひ、ひをまちくらすこそ
はかなけれ。さるほどに、からめてのせい一まんよき、くりからのだうのあたりにめぐりあひ、ゑびらのはうだてうちた
たき、ぜんごよりいちどにときをどつとぞつくりける。へいけうしろをかへりみたまへば、しらはたくものごとくにさし
あげたり。このやまはしはうがんせきにてあんなれば、からめてよもめぐらじとこそおもひつるに、こは
いかにとぞさわがれける。きそどのおつてより一まんよきで、ときのこゑをぞあはせたまふ。となみやまの
すそ、まつながのやなぎはら、ぐみのきんばやしに、ひきかくしたりける一まんよき、ひのみやばやしにひかへたる
いまゐの四らう六千よきも、おなじうときのこゑをぞあはせたる。ぜんご四まんよきがをめくこゑには、やま

もかはも、ただいちどにくづるるとこそきこえけれ。さるほどに、しだいにくらうはなる、ぜんごよりてきは
せめきたり、きたなしやかへせやかへせといふやからおほかりけれども、たいぜいのかたむきたつたるは、さう
なうとつてかへすことのかたければ、へいけのたいぜい、うしろのくりからがたにへ、われさきにわれさきにとぞお
ちゆきける。さきにおといたるもののみえねば、このたにのそこにもみちのあるにこそとて、おやおと
せばこもおとし、あにがおとせばおとうともつづき、しゆおとせばいへのこらうどうもつづいたり。うまにはひと、
ひとにはうま、おちかさなりかさなり、さばかりふかきたにひとつを、へいけのぜい七まんよきでぞうづめたりけ
る。がんせんちをながし、しがいをかをなせり。さればこのたにのほとりには、やのあな、かたなのきづのこつて
いまにありとぞうけたまはる。へいけのかたのさぶらひだいしやう、かづさのたいふのはうぐわんただつな、ひだのたいふのはう
ぐわんかげたか、かはちのはうぐわんひでくにも、このたにのそこにうづもれてぞうせにける。ここにびつちうのくにのぢうにん
せをのたらうかねやすは、きこゆるつはものなりしかども、うんやつきにけん、こんどほくほくにてかがのくに
のぢうにん、くらみつのじらうなりずみがてにかかつて、いけどりにこそせられけれ。またゑちぜんのくにひうちが
じやうにてかへりうちしたりける、へいぜんじのちやうりさいめいゐぎりしも、とらはれてこそいできたれ。きそどの、
そのほふしはあまりにくきに、まづきれとてきらせらる。たいしやうぐんこれもり、みちもりはけうにして、
かがのくにへひきしりぞく。七まんよきがなかより、わづかに二千よきこそのがれたれ。おなじき十二にち、
おくのひでひらがもとより、きそどのへりうてい二ひきたてまつる。いつぴきはくろつぎげ、いつぴきはれんぜんあしげなり。

きそとのやがてそのうまにかがみぐらおかせて、しらやまのやしろへじんめにたてらる。きそどのいまはおもふことな
しとておはしけるが、ただしおぢの十らうくらんどどのの、しほのたたかひこそおぼつかなけれ。いざや
ゆいてみんとて、四まんよきがなかよりうまやひとをすぐつて、二まんよきにてはせむかふ。ここにひ
みのみなとをわたさんとするところに、をりふししほみちて、ふかさあささをしらざりけり、きそどのま
づはかりごとに、くらおきうまども十ぴきばかりおひいれられける、くらづめひたしたるほどにて、さうゐなく
むかひのきしにぞつきにける。きそどのこれをみたまひて、あさかりけるぞ、わたせやとて、さつとわた
いてみたまへば、あんのごとく十らうくらんどどのは、さんざんにかけなされ、ひきしりぞいて、じんばのいきやす
めたまふところに、あらてのげんじ二まんよき、へいけ三まんよきがなかへかけいり、もみにもんで、ひ
いづるほどにぞせめたりける。へいけのかたたいしやうぐんみかはのかみとものりうたれたまひぬ。これはにふだうさう
こくのばつしなり。そのほかのつはものおほくほろびにけり。へいけそこをもおひおとされて、かがのくにへひ
きしりぞく。きそわがみ一まんよき、しほのやまうちこえて、のとのこだなか、しんわうのつかのまへにぞ
ぢんをとる。

きそどのやがてそこにて、しよやしろへじんりやうをよせらる。ただのやはたへはてふやのしやう、すがふの

やしろへはのみのしやう、けひのやしろへははんばらのしやう、しらやまのやしろへはよこえ、みやまる、二かしよのしやうをき
しんす。へいぜんじへはふぢしま七がうをこそよせられけれ。さんぬるちしようしねん八ぐわにいしばしやまのかつせん
のとき、ひやうゑのすけどのいたてまつつしもののふども、みなにげのぼつて、へいけのおんかたにぞさふらひける。むねとの
ひとびとには、まづながゐのさいとうべつたうさねもり、つぎにうきすの三らうかげちか、またのの五らうかげひさ、いとうの
九らうすけうし、ましもの四らうしげなうなり。これらはいくさのあらんほど、しばらくやすまんとて、ひごとによりあ
ひよりあひ、じゆんしゆをしてぞなぐさみける。まづながゐのさいとうべつたうがもとによりあひたりけるとき、さつもり
まをしけるは、つらつらたうせいのていをみさふらふに、げんじのかたはいよいよつよく、へいけのおんかた、まけいろにみえ
させたまひさふらふ。いざおのおのきそどのへまゐらうどいひければ、みなさんなうとぞどうじける。つぎの
ひ、またうきすの三らうがもとによりあひたりけるとき、さいたうべつたう、さてもきなふさねもりまをししことはい
かにおのおのといひければ、そのなかにまたのの五らうかげひさ、すすみいでててまをしけるは、さすが
われらは、とうごくではひとにしられて、なあるものでこそあれ。いまきちについて、あなたへまゐり、
こなたへまゐらんは、みぐるしかるべし。ひとびとのおこころどもをばしりまゐらせぬざうらふ、かげひさにおいて
は、こんどへいけのおんかたにてうちじにせんとおもひきつてさふらふぞ、といひければ、さいとうべつたうあざ
わらつて、まことにはおのおののおこころどもをばかなびかんとてこそまをしたれ。さねもりもこんどほくこくにて
うちじにせんとおもひきつてさふらふ。そのうへそのやうをばおほいとのへもまをしあげ、ひとびとにもみないひおいて

さふらふぞといひければ、またこのぎにぞどうじける。そのやくそくをたがへじとや、たうざにありけ
る二十よにんのさぶらひどもも、こんどほくこくにて、しにけるこそむざんなれ。さるほどにへいけはかがのくに
しのはらにひきしりぞいて、じんばのいきをやすめたまふところに、きそどの一まんよき、しのはらにおしよせてときをど
つとぞつくりたまふ。きそどののかたより、いまゐの四らうかねひら、五百よきにてはせむかふ。へいけの
かたよりはたけやまのしやうじしげよし、をやまだのべつたうありしげ、うつのみやのさゑもんともつな、これらはおほばんやくに
て、をりふしざいきやうしたりけるが、これらはふるいものなれば、いくさのやうをもおきてよとて、こんど
ほくこくへむけられたり。かれらけいてい、三百よき、たてのおもてにぞすすんだる。はじめははたけやまいまゐ五
き十きづついだしあはせて、しようぶをせさせけるが、のちにはりやうはうたがひにみだれあひてぞたたかひけ
る。さるほどにおなじき五ぐわつ二十一にちのうまのこく、くさもゆるがずてらすひに、げんぺいのつはものども、われおと
らじとたたかへば、へんしんよりあせいでて、みづをながすにことならず。いまゐがかたにも、つはものおほくほろび
にけり。はたけやま、いへのこらうどうおほくうたせ、ちからおよばでひきしりぞく。つぎにへいけのかたより、たかはし
のはうぐわんながつな、五百よきにてはせむかふ。きそどののかたより、ひぐちのじらうかねみつ、おちあひの五らう
かねゆき、三百よきでうちむかふ。げんぺいのつはものども、しばしささへてふせぎたたかふ。されどもたかはしがかた
のせいは、みなくにぐにのかうむしやなりければ、いつきもおちあはず、われさきにわれさきにとぞおちゆきけ
る。たかしこころはたけうおもへども、うしろあばらになりしかば、ちからおよばず、ただいつき、みなみをさして

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ば、にふぜんをつかんで、わがのつたりけるくらのまへわにおしつけ、ちつともはたらかさず、さて、
わぎみはなにものぞ、なのれ、きかうといひければ、ゑつちうのくにのぢうにん、にふぜんのこたらうゆきしげ
しやうねん十八さいとぞなのつたる。たかはしなみだをはらはらとながいて、あなむざん、こぞおくれしなが
つながこもあらば、ことしは十八さいぞかし、わぎみねぢきつてすつべけれども、さらばたけけ
んとてゆるしけり。たかはしのはうぐわんはみかたのぜいまたたんとて、うまよりおりていきつぎゐたり。にふ
ぜんわれをばたすけたれども、あつぱれよいかたき、いかにもしてうたばやとおもひゐたるところに、たかはし
うちとけてこまごまとものがたりをぞしける。にふぜんはちからこそおとつたれどもくつきやうのはやわざのをとこに
てありければ、たかはしがみぬひまに、かたなをぬきたちあがり、たかはしのはうぐわんがうちかぶとをふたたちさす。
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ふたり。たかはしこころはたけうおもへども、てはおひつ、かたきはあまたなり、うんやつきにけん、そ
こにてつひにうたれにけり。つぎにへいけのかたより、むさしの三らうさゑもんありくに、三百よきでうち
むかふ。きそどののかたより、にしな、たかなし、やまだのじらう、三百よきでうちむかふ。げんぺいのつはものし
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おちぞゆく。

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かつかつもつてしようえつす。こくかのためるゐかのため、ぶこうをかんじぶりやくをかんず。かくのごとくならば、
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ぶつぽふ、ほんしやまつしやさいてんのしんめい、さだんでけうほふのふたたびさかえんことをよろこび、すうぎやうのふるきにふくせん
ことづゐきしたまふらん。しゆうとらがしんちう、ただけんさつをたれよ。しからばすなはち、めうには十二しんしやう、
かたじけなくいわうぜんぜいをししやとして、きよとつゐたうのゆうしにあひくははり、げんには三千のしゆうと、しばらくしう
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てうのそとにはらひ、ゆか三みつのほふうは、じぞくをげうねんのむかしにかへさん、しゆうとのせんぎかくのごとし。
つらつらこれをさつせよ。じゆえい二ねん七ぐわつ二かのひ、だしゆうらとぞかいたりける。

へいけこれをばゆめにもしりあははず。こうぷく、をんじやうのりやうじは、うつぷんをふくめるをりふしなれば、かた
らふともよもなびかじ。たうけはさんもんにむかつて、いまだうらみをむすばず。さんもんまたたうけのために
ふちうをぞんぜず。せんずるところ、さんわうだいしにきせいまをして、三千のしゆうとをかたらはばやとて、いち
もんくぎやう十にん、どうしんれんしよのぐわんじよをかいて、さんもんへおくらる。そのぐわんじよ/に\いはく、うやまつてまをす、
えんりやんじをもつてうぢでらにじゆんじ、ひえのやしろをもつてうじやしろとして、いつかうてんだいのぶつぽふをあふぐべきこと、
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かた、もつぱらぶつぽふはんじやうのれいくつとして、ひさしくちんごこくけのだうぢやうにそなふ。まさにいまいづのくにのる
にんみなもとのよりとも、みのとがをくいず、かへつててうけんをあざける。しかのみならず、かんばうにくみして、どうしんをいた
すげんじら、よしなか、ゆきいへいげたうをむすんでかずあり。りんけいゑんけいすうこくをりやくりやうし、ときとこうばんぶつ
をおふりやうす。これによつて、あるひはるゐだいくんこうのあとをおひ、あるひはたうじきうばうのげいにまかせて、すみやかに

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りんがくよくのぢん、くわんぐんりをえず。せいばうてんげきのゐ、ぎやくるゐかちにじようずるににたり。もししんめいぶつだ
のかびにあらずば、いかでかほんぎやくのきようらんをしづめんまくのみ。いかにましてやしんらがのうそ、おも
へばかたじけなくほんぐんのよえいといつつべし。いよいよすうちようすべし。いよいよきようけいすべし。じこんいご、さんもん
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みぎやうさこんゑのちうじやうけんいよのかみたひらのあそんこれもり、しやう三みぎやうさこんゑのごんのちうじやうけんはりまのかみたひら
のあつそんしげひら、しやう三みぎやううゑもんのかみけんあふみたふかうみのかみたひらのあつそんきよむね、しやう三みぎやうさんぎくわうだいこうの
みやのごんのだいふけんしゆりのだいぶかがゑつちうのかみたひらのあつそんつねもり、じゆ二ゐぎやうちうなごんけんせいいいたいしやうぐん

けんさひやうゑのかみたひらのあつそんとももり、じゆ二ゐぎやうごんちうなごんけんひぜんのかみたひらのあつそんのりもり、しやう二ゐぎやうごん
のだいなごんけんむつではあぜつしたひらのあつそんよりもり、じゆ一ゐさきのないだいじんたひらのあつそんむねもりじゆえい二ねん七
ぐわつ五かのひ、うやまつてまをすとぞかかれたる。くわんじゆこれをあはれみたまひて、さうなうはしゆとにひろ
もしたまはず。十ぜんしごんげんのしやだんに三かこめて、そののちしゆうとにひろせらる。ひごろはありと
もみえざりしぐわんじよのうはまきに、うたこそいつしゆいできたれ。
たひらかにはなさくやどもとしふればにしへかたむくつきとこそなれ
さんわうだいしこれをあはれみたまひて、三千のしゆうとちからをあはせよとなり、されどもひごろのふるまひ、しんりよ
にもたがひ、じんばうにもそむきぬれば、いのれどもかなはず、かたらへどもなびかざりけり。だいしゆうも
まことにさこそはと、ことのていをばあはれみけれども、げんじがふりよくのへんてふをおくりぬるうへ、いままたかるがる
しうさのぎをひるがへすにもおよばねば、これをきよようするしゆうともなし。

おなじき七ぐわつ十しにち、ひんごのかみさだよしは、ちんぜいのむほんたひらげて、きくち、はらだ、まつうらたう、
三千よきをひきぐしてじやうらくす、ちんぜいはわづかにたひらげたれども、とうごくほくこくのいくさはなほもしづまらず。
おなじき二十二にちのよのやはんばかり、ろくはらのあたりおびただしうさうどうす。うまにくらおき、はるび

しめ、ものどもとうぜいほんぼくへはこびかくす。ただいまかたきのうちいりたるやうなりけり。あけてのちきこえ
しは、みのげんじに、さどのゑもんのじようしげさだといふものあり。さんぬるほげんのかつせんのとき、ちんぜい
の八らうためともがゐんかたのいくさにまけておちうどとなつたりしを、からめていだしたりしけんじやうに、しぼん
にしてもとはひやうゑのじようたりしが、たちまちにうゑもんのじようになりぬ。これによつていちもんにはうらまれ
て、へいけをへつらひけるが、そのよのさよふけがたに、けんれいもんゐんのわたらせたまふろくはらいけどのにまゐつ
てまをしけるは、きそすでにほくこくより五まんよきにてせめのぼり、てんだいざん、ひんがしさかもとにみちみちて
さふらふ。らうどうにたての六らうちかただ、てかきにたいふばうかくめい、六千よきてんだいざんにきほひのぼり、三千の
しゆうとひきぐして、ただいまみやこへみだれいるよしまをしければ、へいけのひとびとおほいにさわいで、はうばうへうつて
をさしむけらる。たいしやうぐんにしんちうなごんとももりのきやう、ほん三みのちうじやうしげひらのきやう、三千よきに
てみやこをたつてまづやましなにやどらせらる。ゑちぜんの三みみちもり、のとのかみのりつね、二千よきでうぢ
ばしをかためらる。さまのかみゆきもり、さつまのかみただのり、一千よき、よどぢをしゆごせられけり。げん
じのかたには十らうくらんどゆきいへ、す千きにてうぢばしをわたつてみやこへいるともきこゆ。むつのしんはう
ぐわんよしやすがこ、やだのはうぐわんだいよしきよ、おほえやまをへてじやうらくすともまをしあへり。またせつつのくにかは
ちのげんじらどうしんして、ただいまみやこへみだれいるよしまをしければ、へいけのひとびとこのうへはちからおよばず、
ただひとところでいかにもなりたまへやとて、はうばうへむけられたりけるうつてども、みなみやこへよびかへ

されけり。ていとめいりのち、とりないてやすきことなし。をさまれるよだにもかくのごとし。いはんや
みだれたるよにおいてをや。よしのやまのおくのおくへも、いりなばやとはおぼしめされけれども、
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きんげんいちじようのめうもんなれば、なじかはすこしもたがふべき。おなじき二十四かのさよふけがたに、
さきのないだいじんむねもりこう、けんれいもんゐんのわたらせたまふろくはらいけどのにまゐつてまをされけるは、このよ
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しまゐらせんと、おもひなつてこそさふらへとまをされたりければ、によゐんいまはたただともかうも、そ
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のおんかた、よにものさわがしう、にようばうたちあまたしのびねになきなんどしたまへり。なにごとなるらん
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かなんどをもめしぐせよと、へいだいなごんときただのきやう、げちせられたりけれども、あまりにあわて
さわいで、とりおとすものぞおほかりける。ひめござのぎよけんなんどをも、とりわすれさせたまひけ
り。やがてこのときただのきやう、しそくくらのかみのぶもと、さぬきのちうじやうときざね、いくわんにてはまゐられけ
り。このゑのつかさみつなのすけ、かつちうをよろひゆみやをたいしてぎやうがうのくぶせらる。七でうをにしへ、しゆ
じやくをみんなみへみゆきなる。あくれば七ぐわつ二十五にちなり。かんてんすでにひらけ、くも、とうれいにたな
びき、あけがたのつきしろくさえて、けいめいまたいそがはし。ゆめにだにかかることはみず。ひととせみやこう
つりとて、にはかにあわただしかりしも、かかるべかりけるせんべうとも、いまこそおぼししられ
けれ。せつせいどのもぎやうがうにぐぶして、ぎよしゆつありけるが、七でうおほみやなるところにてびんづらゆふたる
どうじの、おんみぐるまのまへをつとはしりとほるをごらんずれば、かのどうじのひだんのたもとに、はるのひといふ
もじぞあらはれたる。はるのひとかきては、かすがとよめば、ほふさうえうごのかすがだいみやうじん、たいしよく
くわんのおんすゑをまもらせたまふにこそといよいよたのもしうおぼしめすところに、くだんのどうじのこゑとおぼ
しくて、
いかにせんふぢのすゑはのかれいけばただはるのひにまかせたらならん
ともにさふらふしんどうさゑもんのじようたかなををめして、このよのなかのありさまをごらんずるに、ぎやうがうはなれ
ども、ごかうはあらず。ゆくすゑたのもしからずおぼしめすは、いかにとおほせければ、おんうしかひに

めをきつとみあはせたり。やがてこころえて、おんくるまをやりかへし、おほみやをのぼりに、とぶがごと
くにつかうまつり、きたやまのへん、ちそくゐんへぞいらせましましける。

『ゑつちうのじらうべゑもりつぎ、ゆみわきばさみ、せつしやうどののおとどまりを、おしとめたてまつんとて、しきりにすすみ
けれども、ひとびとにせいせられて、ちからおよばでとどまりぬ。』うちにもこまつの三みのちうじやうこれもりの
きやうは、ひごろよりおもひまうけたまへることなれども、さしあたつてはかなしかりけり。このきたのかたと
まをすはこなかのみかどのしんだいなごんなりちかのきやうのむすめ、ちちにもははにもおくれたまひて、みなしごにては
おはせしかども、とうがんつゆにほころび、こうふんまなこにこびをなし、ようはつなぜにみだるるよそほひ、またひと
あるべしともみえたまはず。六だいごぜんとて、せいねん十になりたまふわかぎみ、そのいもうと八さいのひめぎみ
おはしけり。このひとびともめんめんにおくれじとしたひなきたまへば、三みのちうじやうのたまひけるはわれ
はひごろまをししやうに、一もんにぐせられて、さいこくのがたへおちゆくなり。みちにもかたきまつな
れば、こころやすうとほらんことありがたし。たとへわれうたれたりとききたまふとも、さまなんどかへ
たまふことはゆめゆめあるべからず。そのゆゑは、いかならんひとにもみもしみえて、あのをさなきものども
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ども、きたのかたとかうのへんじにもおよびたまはず、ちうじやうすでにうちたたんとしたまへば、きたのかたちう
じやうのたもにすがり、みやこにはちちもなしははもなし、すてられたてまつてのちは、まただれにかはまみゆべ
きに、いかならんひとにもみえよなんど、うけたまはるこそうらめしけれ。ぜんぜのちぎりありけれ
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じのはらのつゆともきえ、ひとつそこのみくづともならんとこそちぎりしか、さればさよのねざめの
むつごとも、みないつはりになりにけり。せめてはみひとつならばいかがせん、すてられたてまつるみのう
さを、おもひしつてもとどまりなん。さてあのをさなきものどもをばだれにみゆづり、いかにせよと
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まことにひとは、十三われは十五よりみそめみえそめたてまつりたれば、いかならんひのなかみづのそこへ
も、ともにいりともにしづみ、かぎりあるわかれぢまでも、おくれさきだたじとこそちぎりしかけふはかく
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へば、わかぎみひめぎみはしりいで、ちちのよろひのそで、くさずりにとりつき、こはさればいづちへとて、わた

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おぼえて、三みのちうじやう、いとどせんかたなげにぞみえられける。おんおとうとしん三みのちうじやうすけもり、ひだんの
ちうじやうきよつね、おなじきせうしやう、ありもり、たんごのじじゆうただふさ、びちうのかみもろもり、きやうだい五きうまにのりな
がら、もんのうちへうちいれさせ、にはにひかへ、だいおんじやうをあげて、ぎやうがうははやはるかにのびさせ
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一しゆぞ、よみひとしらずといれられたる。
さざなみやしがのみやこはあれにしをむかしながらのやまざくらかな
そのみてうてきとなりぬるうへは、しさいにおよばずといひながら、うらめしかりしをどもなり。

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のごしよに、どうぎやうにてさふらふはれけるが、かかるそうげきのうちにも、そのおんなごりきつとおもひいでまゐ
らせ、さぶらひ五六きめしぐして、にんなじどのへはせまゐり、いそぎうまよりとんでおり、もんをたたか
せまをしいられけるは、きみすでにていとをいでさせたまひさふらひぬ。一もんのうんめい、けふはやつき
はてさふらふ。うきよにおもひおくこととては、ただきみのおんなごりばかりなり。八さいのとし、このごしよ
へまゐりはじめさふらひて、十三にてげんぷくつかまつりさふらひしまでは、いささかあひいたはることのさふらはんより
ほか、あからさまにごぜんをたちさることもさふらはず。けふすでにせいかいせんりのなみぢにおもむきさふらへ
ば、またいづれのひ、いづれのとき、たちかへるべしともぞんじさふらはぬことこそ、くちをしうはさふらへ。
いまいちどごぜんへまゐつて、きみをもみまゐらせたうはさふらへども、たちまちにかぶとをよろひ、ゆみ
やをたいして、あらぬさまなるよそほひにまかりなつてさふらへば、はばかりぞんじさふらふとまをされたり
ければ、おむろあはれにおぼしめして、ただそのすがたをあらためずしてまゐれ、とこそおほせけれ。つねまさその
ひはむらさきぢのにしきにひたたれに、もえぎにほひのよろひきて、ながぷくりんのたちをはき、二十四さしたるきりふ
のやおひ、しげとうのゆみわきにはさみ、かぶとをぬいでたかひもにかけ、ごぜんのおつぼにかしこまる。

おむろやがておんいであつて、みすたかくあげさせ、これへこれへとめされければ、つねまさおほゆかへこそまゐ
られけれ。ともにさふらふとうべゑのすけありのりをめす。あかぢのにしうのふくろにいつたりける。おんびば
をもつてまゐりたり。つねまさこれをとりつぎて、ごぜんにさしおきまをされけるは、せんねんくだしあづかつ
てさふらひしせいざんもたせてまゐつてさふらふ、なごりはつきずぞんじさふらへども、さしものわがてうのぢうほうを、
でんじやのちりになさんことの、くちをしうさふらへば、まゐらせおきざふらふ。もしふしぎにうんめい
ひらけて、みやこへたちかへることもさふらはば、そのときこそかさねてくだしあづかりさふらふはめと、まをされ
たりければ、おむろあはれにおぼしめして、一しゆのぎよえみをあそばいてぞくだされける。
あかずしてわかるるきみがなごのごりをばあとのかたみにつつみてぞおく
つねまさおんすずりくだされて、
くれたけのかけひのみづはかはれどもなほすみあかぬみやのうちかな
さてつねまさごぜんをまかりいでられけるに、すうはいのどうぎやう、しゆつせいしや、ばうくわん、じいぞうにいたるま
で、つねまさのなごりををしみ、たもとにすがりなみだをながし、そでをぬらさぬはなかりけり。なかにもえう
せうのとき、こじでおはせし、だいなごんのほふいんぎやうけいとまをししは、はむちのだいなごんくわうらいのきやうのおん
こなり。あまりになごりををしみまゐらせて、かつらがはのはたまでうちおくり、それよりいとまごうてかへられ
けるが、ほふいんなくなくかうぞおもひつづけたまふ。

あはれなりおいきわかきもやまざくらおくれさきだちはなはのこらじ
つねまさのへんじに、
たびごろもよなよなそでをかたしきておもへばわれはとほくゆきなん
さてまきてもたせられたるあかはた、さつとさしあげたければ、あそこここにひかへて、まちたてまつ
るさぶらひども、あはやとてはせあつまり、そのせい百きばかりむちをあげ、こまをはやめて、ほどなく
ぎやうがうにおひつきたてまつらる。

このつねまさ十七のとし、うさのちよくしをうけたまはつてくだられけるが、そのときせいざんをもたせて、う
さへまゐり、ごてんにむかひまゐらせてひきよくをひきたまひしかば、いつききなれたることはなけれど
も、とものみやびとおしなべて、りよくいのそでをぞぬらしける。こころなきやつこまでも、むらさめとはまが
はじな、めでたかりけるおんことかな。かのせいざんとまをしおんびはは、むかしにんみやうてんわうのぎよう、か
しやう三ねん三ぐわつに、かもんのかみていびんとたうのとき、だいたうのびはのはかせ、れんしようぶにあひ、三きよくをつた
へてきてうせしに、そのときげんしやう、ししまる、せいざんとて三めんのびはを、さうでんしてわたりけるが、
りうじんやをしみたまひけん、なみかぜあらくたちければ、ししまるをばかいていにしづめぬ。いま二めんのびは

をわたいて、わがてうのみかどのおんたからとす。むらかみのせいだいおうわのころほひ、三五やちうのしんげつしろくさ
え、りやうふうさつさつたるやはんに、みかど、せいりやうでんにして、げんじやうをぞあそばされける。ときにかげのごとく
なるものごぜんにさんじて、いうにけだかきこゑをもつてしやうがをめでたうつかまつる。みかどしばらくおびはをさ
しおかせたまひて、そもそもなんぢはいかなるものぞ、いづこよりきたれるとぞおほせければ、こたへまを
していはく、これはむかしていびんに三きよくをつたへさふらひし、だいたうのびはのはかせれんしようぶとまをすものにて
さふらふが、三きよくのうちに、ひきよくを一きよくのこせるつみによつて、まだうにちんりんつかまつる。いまおんびはの
ばちおとたとへにきえはんべるあひだ、さんにふつかまつるところなり。ねがはくはこのきよくをきみにさづけまゐらせて、ぶつくわぼ
だいをしようすべきよしまをして、ごぜんにたたてられたりけるせんざんをとり、てんじゆをねぢて、このきよく
をきみにさづけたてまつる。三きよくのうちに、じやうげんしやくじやうこれなり。そののちは、きみもしんもおそれさせたま
ひて、あそばしひくこともなかりしが、にんなじのおむろのごしよへまゐらさせたまひたりしを、この
つねまささいあいのどうぎやうにてくだしたまはられたりけるとかや。かぶとはしとうのかぶと、なつやまのみねのみどりのこ
のまより、ありあけのつきのいでけるを、ばちめんにかかれたりけるゆゑにこそ、せいざんとはなづけ
られたれ。げんしやうにもあひおとらぬ、きだいのめいぶつなり。

いけのだいなごんよりもりのきやうも、いけとのにひかけていでられたるが、とばのみなみのもんにて、にはかに
わすれたることありとて、よろひにつけたるあかじるしどもみなかなぐりてせい三百きばかりみやこへとつてかへす。
ゑつちうのじらうべゑもりつぐいそぎうまよりとんでおり、ゆみわきはさみ、おほいとののおんまへにまゐり、かしこまつて
あれごらんさふらへ、いけとののおんとどまりによつて、おほくのさぶらひどものとどまりさふらふが、きくわいにさふらふ、いけとのま
ではそのおそれもさふらへば、さぶらひどもにやひとつゐかけさふらはばやとまをしければ、おほいとの、ねんらいぢう
おんをかうむつていまこれほどのありさまどもを、みはてぬほどのふたうにんは、さなくともありなんとのたま
へば、ちからおよばでゐざりけり。さてこまつとののきんだちたちはいかにととひたまへば、まだごいつ
しよもみえさせたまひさふらはずとまをす。おほいとのあなこころうしや、みやこをいでて、いま一にちだにもす
ぎざるに、はやひとびとのこころどものかはりゆくうたてさよとのたまへば、しんちうなごんとももりのきやう、さいこく
とてもさこそはあらんずらめとおもはれければ、ただみやこのうちにていかにもならせたまへと、さ
しもまをしつるものをとて、おほいとののおんかたを、よにもうらめしげにぞみたまひける。そもそもいけ
とののおんとどまりをいかにといふに、かまくらのさきにひやうゑのすけよりとも、つねはなさけをかけておんかたを
ばまつたくおろそかにおもひたてまつらず、ひとへにこいけとののおんわたりとこそぞんじさふらへ、はちまんだいぼさつも
ごぜうばつさふらへなんど、たびたびせいじやうをもつてまをされけり。へいけちうばつのうつてのつかひのあがるごとに、
あひかまへていけとののさぶらひにむかつて、ゆみひくななんど、たびたびはうじんせられしかばいちもんのへいけはうん

つきてみやこをおちぬ、いまはひやうゑのすけこそたすけられんずれとて、かくおちとどまられたり
けるとかや。八でうのによゐんはみやこをばいくさにおそれさせたまひて、にんなじのときはとのに、しのうでま
しましけるところへまゐりこもられけり。このよりもりのきやうとまをすは、にようゐんのおんめのと、さいしやうどのとまを
すにようばうに、あひぐせられたりけるによつてなり、だいなごんしぜんのこともさふらはば、よりもりたすけさせ
おはしませとまをされたりければ、によゐん、いまははやよがよでもあらばこそと、たのみともげ
もなうぞおほせける、すべてはひやうえのすけばかりこそ、かうはのたまへども、じよのげんじとうはいかが
あらんずらんとおもはれければ、なまじひにいちもんのなかをばひきわかれてかくおちとどまりぬ。なみにもいそ
にもつかぬここちぞせられける。さるほどにこまつとののきんだち、きやうだい六にん、つがふそのせい一千よにん
よどのむつだがはらにて、ぎやうがうにおひつきたてまつらる。おほいとのさしもうれしげにみたまひて、いかに
やいままでのちさんさふらふとのたまへば、三みのちうじやうまをされけるはをさなきものどもが、あまりにしたひさふらふを、
とかうこしらへおかんとつかまつるほどに、ぞんのほかちざんさふらふとまをされたりければ、おほいとのなど六だいとのを
ばめしぐせられさふらふはぬやらんとのたまへば、三みのちうじやう、すくすゑとてもたのもしからずおもは
れければ、とふにつらさのなみだをながされけるこそかなしけれ。おちゆくへいけはたれだれぞ、さきの
ないだいじんむねもりこう、へいだいなごんときただ、へいちうなごんのりもり、しんちうなごんとももり、しゆりのだいぶつねもり、うゑ
もんのかみきよむね、ほん三みのちうじやうしげひら、こまつの三みのちうじやうこれもり、しん三みのちうじやうすけもり、ゑちぜんの

三みみつもり、でんじやうびとにはくらのかみのぶもと、さぬきのちうじやうときざね、ひだんのちうじやうきよつね、おなじきせうしやう
ありもり、たんごのじじゆうただふさ、くわうごうぐうのすけつねまさ、さまのかみゆきもり、さつまのかみただのり、のとのかみ
のりつね、むさしのかみともあき、びつちうのかみもろもり、あはぢのかみきよふさ、をはりのかみきよさだ、わかさのかみつねとし、
つねもりのおとごたいふあつもり、くらんどのたいふなりもり、ひやうぶのせういふまさあき、そうには二ゐのそうづせんしん、
ほふしようじのしつかうのうゑん、ちうなごんのりつしちうくわい、きやうじゆばうのあじやりいうゑん、ぶしは、ずりやう、けびゐ
し、ゑふ、しよしのぜう、百六十にん、つがふそのせい七せんよにん、これはこの三がねんがあひだ、とうごくほつ
こくたびたびのいくさにうちもらされて、わづかにのこるところなり。へいだいなごんときただのきやう、やまさきせきとのゐんに
たまのおんこしをかきすゑさせ、をことやまのかたふしをがみ、なむきみやうちやうれい八まんだいぼさつ、ねがはくはきみを
はじめまゐらせて、われらをいま一どこきやうへかへしいれさせたまへと、いのられけるこそかなしけれ。
おのおのをうしろかへりみたまへば、かすめるそらのここちしてけむりのみこころほそうぞたちのぼる。へいちうなごんのりもり
はかなしなぬしはくもゐにわかるればやどはけぶりとたちのぼるかな
しゆのたいふつねもり、
ふるさとをやけののはらとかへりみてすゑもけぶりのなみぢをぞゆく
まことにこきやうをば一ぺんのえんぢんにながめつつ、ぜんとばんりのくもぢにおもむかれけんこころのうちおしはかられて
あはれなり。ひごのかみさだよしは、かはじりにげんじまつときこえしかばけちらさんとて、そのせい五百

よきにてはつかうす。ひがことなればとて、とつてかへしてのぼるほどに、うどののへんにてぎやうがうにまゐ
りあひたてまつり、いそぎうまよりとんでおり、おほいとののおんまへにまゐりかしこまつて、こはさればいづ
ちへとて、わたらせたまひさふらふやらん、さいこくへくだらせたまひたりともおちうどとてここかしこに
てうちもらされて、うきなをながさせたまはんより、ただみやこのうちにて、いかにもならせたまふべ
うもやさふらふらん、とまをしければ、おほいどの、さだよしはいまだしらぬか、きそうすでにほくこくより五
まんよきにてせめのぼり、てんだいさんひんがしさかもとにみちみちたりなり。ほふわうもすぎしやはんにうせさ
せたまひぬ。せめてはぎやうかうばかりをもなしまゐらせてひとまづもとおもふぞかしとのたまへば、ささふら
はば、さだよしはみのいとまをたまはつて、ただみやこのうちにていかにもなりさふらはんとて、めしぐした
りける五百よきのせいをば、こまつどののきんだちたちにつけまゐらせ、てぜい三十きばかりみやこへとつて
かへす。へいけのよたうのみやこのうちにのこりとどまつたるをうたんとて、さだよしがかへりいるよしきこえしか
ば、いけのだいなごんよりもりのきやうは、みのうへにてぞあらんずらんとて、おほいにおそれさわがれけり。
さだよしはにし八でうのやけあとにおほまくうたせ、いちやしゆくしたりけれども、かへりいらせたまふごいつけのき
だちいちにんもおはせざりしかば、ゆくすゑたのもしからずやおもひけん、げんじのうまのひづめにかけ
させじとて、こまつとのおんはかほらせ、おんこつにむかひまゐらせ、いきたるひとにものをまをしすやうに
なくなくかきくどいてまをしけるは、あなあさまし、ごいちもんのおんはてごらんさふらへ、しやうあるものは

かならずめつす、たのしみつきてかなしみきたるとまをすことは、いにしへよりかきおきたることにてさふらへども、まの
あたりかかるおんことさふらはず、きみはかかるべかりけることを、かねてさとらせたまひて、ぶつしん三ぱうに
ごきせいあつて、おんよをはやうせさせたまひけることこそ、まことにありがたうさふらへ、さだよしもそ
のときいかにもして、ごぜのおんともつかまつるべうさふらひしものを、かひなきいのちながらへて、けふ
はかかるうきめにあひさふらふ。しごのときは、かならず一ぶつどにむかへさせたまへと、なくなくはるかに
かきくどき、こつをばかうやへおくり、あたりなるつちをばかもうがはへながさせ、ゆくすゑたのもしからずや
おもひけん、しうとうしろあはせに、とうごくのはうへぞおちゆきける。さだよしはせんねんうつのみやをまをしあづか
つて、そのときなさけありしかば、こんどはまたうつのみやをたのうでくだつたりければ、はうじんしけ
るとぞきこえし。さるほどにこまつの三みのちうじやうこれもりのきやうのほかは、おひいとのいかさいしをぐせら
れたりしかども、つぎさまのひとびとは、さのみひきしたふにもおよばねば、こうくわいそのごをしら
ず、みはうちすててぞおちゆきける、ひとはいづれのひ、いづれのとき、かならずたちかへるべし
と、そのごをさだめおくだにも、ひさしきぞかし。いはんやこれはけふをさいご、ただいまかぎりのこと
なれば、ゆくもとどまるもたがひにそでをぞぬらしける。さうでんふだいのよしみ、としごろひごろのぢうおん、わす
るべきにあらねども、おいたるもわかきもうしろのみかへりみて、さきへはすすみもやらざり
けり。あるひはいそべのなみまくら、やへのしほぢにひをくらし、あるひはとほきをわけ、けはしきをしのいで

こまにくらうつひともあり、ふねにさをさすものもあり、おもひおもひこころごろこにおちゆきけり。

さるほどにへいけはふくはらのきうりについて、おほいとのさぶらひ、らうせうすう百にんめしてのたまひけるは、しつく
ぜんのよけいいへにつき、しやくあくのよおうみにおよぶがゆゑに、しんめいにもはなたれたてまつり、きみにもすてら
れまゐらせて、ていとをいでてりよはくにただよふうへは、なんのたのみかあるべきなれども、いちじゆのかげに
やどるも、ぜんぜのちぎりあさからず、おなじながれをむすぶもたしやうのえんなをふかし。いはんやなんぢは一たんしたがひつ
くもんかくにあらず、るゐそさうでんのけにんなり。あるひはきんしんのよしみたにことなるもあり。あるひはぢうだいはう
おんふかきもあり。かもんはんじやうのいにしへは、そのおんはによつてわたくしをかへりみき。なんぞいまそのはうおん
をむくいざらんや。しかれば十ぜんていわう、三しゆのじんきをたいしてわたらせたまへば、いかならんの
のすゑ、やまのおくまでも、ぎやうがうのおんともつかまつり、いかにもならばやと、おもはずやとのたまへば、
らうせうなみだをおさへて、あやしのとりけだものもおんをはうじ、とくをむくゆるこころはさふらふなり。いはんやじんりんの
みとして、いかんがそのことわりをぞんじつかまつらではさふらふべき。なかんづく、ゆみやばじやうにたづさはる
ならひ、ふたごころをあるをもつてはづとす。いはんやこの二十よねんがあひださいしをはごくみ、しよじゆうをかへりみさふらふ
ことも、しかしながら、きみのごをんならずといふことなし。しかればにつぽんのほか、きかい、かうらい、けい

たん、くものはて、うみのはてまでも、ぎやうがうのおんともつかまつり、いかにもなりさふらはんと、いくどう
おんにまをしたりければ、おほいとのをはじめたてまつていちもんのひとびとみなたのもしげにぞみたひける。さる
ほどに、へいけはふくはらのきうりにして、いちやをぞあかされける。をりふしあきのつきはしものゆみはりなり、
しんかうくうやしづかにして、たびねのとこのくさまくら、つゆもなみだにあらひて、ただもののみぞかなしき、いつかへる
べしともおぼえねば、こにふだうさうこくのつくりおかれたりし、ふくはらのしよしよをみたまふに、はるははな
みのをかのごしよ、あきはつきみのはまのごしよ、いづみとの、まつかげとの、ばばとの、二かいのさしきとの、ゆきみ
のごしよ、かやのごしよ、ひとびとのたちども、五でうのだいなごんくにつなのきやうのうけたまはつて、ざうしんせられしさと
だいり、をしのかはら、たまのいしたたみ、いづれもいづれもみとせがほどにあれはて、きうたいみちをふさ
ぎ、あきのくさかどをとづ、かはらにまつおひ、かきにつたしげれり。だいかたむいてこけむせり。まつかぜのみやかよ
ふらん。れんたえねやあらはなり。つきかげのみぞさしいりける。あけぬれば、ふくはらのだいりに
ひをかけ、しゆじやうをはじめまゐらせて、ひとびとみなおふねにめす。みやこをたちしほとこそなけれども、これ
もなごりはをしかりけり。あまのたくものゆふけふり、をのへのしかのあかつきのこゑ、なぎさなぎさによするなみ
のおと、そでにやどかるつきのかげ、ちぐさにすだくしつしゆつのきりぎりす、すべてめにみえ、みみにふ
るることの、ひとつとしてあはれをもよほし、こころをいたましめずといふことなし。きのふはとうくわんのふもとに
くつばみをならべて、十まんよき、けふはさいかいのなみのうへにともづなをといて七せんよにん、うんかいちんちんとし

て、せいでんすでにくれなんとす。こたうにせきぶへだてて、つきかいじやうにうかべり。きよくほのなみをわけ、
しほにひかれてゆくふねは、はんてんにくもにさかのぼる。ひかずふれば、みやこはさんせんほどをへだてて、くもゐの
よそにぞなりにける。はるばるきぬとおもふにもただつきせぬものはなみだなり。なみのうへにしろきとり
のむれゐるをみては、かれならん、ありはらのなにがしのすみだがはにてこととひけん、なもむつましきみやこ
どりかなとあはれなり。じゆえい二ねん七ぐわつ二十五にちに、へいけみやこをおちはてぬ。