平曲譜本 藝大本 八巻

じゆえい二ねん七ぐわつにじうしにちのよのやはんばかり、はふわうはあぜちのだいなごんすけかたのきやうのしそく、う
まのかみすけときばかりをおともにて、ひそかにごしよをいでさせたまひて、くらまへごかうなる。じそうども
ここはみやこちかうて、あしうさふらひなんずとまをしければ、さらばとて、しののみね、やくわうさかなんど
いふ、さかしきけんなんをしのがせたまひて、よこがはのげだつだに、じやくぢやうばうへいらせおはします、
だいしうおこつて、とうたふへこそごかうはあるべけれとまをしければ、とうたふのみなみだにゑんゆうばうごしよにな
る。かかりしかば、しうともぶしも、みなゑんゆうばうをぞしゆごしたてまつる。ほふわうはせんどうをいでてんだい
ざんへ、しゆじやうはほつけつをさつてさいかいへ、せつしやうとのはよしののおくとかや、によゐんみやみやは、やはた、か
も、さが、うづまさ、にしやま、ひんがしやまのかたほとりについて、にげかくれさせたまひけり。へいけはおちぬ
れど、げんじはいまだいりかはらず、すでにこのきやうはぬしなきさととぞなりにける。かいびやくよりこの
かた、かやうのことありしともおぼえず。しやうとくたいしのみらいきにも、けふのことこそゆかしけ
れ。さるほどに、ほふわうてんだいざんにわたらせたまふときこえしかば、はせまゐらせたまふひとびと、にふだうどの
とはさきのくわんはくまつとの、たうとのとはこのゑとの、だいじやうだいじん、さうのだじん、ないだいじん、だいなごん、ちう

なごん、さいしやう、三み四ゐ五ゐのでんじやうびとすべて、よにひととかぞへられ、くわんかかいにのぞみをかけ、
しよたいしよしよくをたいするほどのひとの、いちにんももるるはなかりけり。ゑんゆうばうにはあまりにひとおほく、
まゐりつどひだうじやうだうか、もんげもんない、ひまはざまもなうぞみちみちたる。さんもんはんじやう、もんぜきのめんぼく
とこそみえたれ。おなじき廿八にち、ほふわうみやこへくわんぎよなる。きそ五まんよきにてしゆごしたてまつる。あふ
みげんじやまもとのくわんじやよしたか、しらはたさいてせんぢんにぐぶす。この廿よねんがあひだみえざりつるしらはた
の、けふはじめてみやこへいる。めづらしかりしけんぶつなり。十らうくらんどゆきいへは、すうせんきでうぢはしを
わたつてみやこへいる。みちのくにのしんはうくわんよしやすがこ、やたのはんぐわんだいよしきよ、おほえやまをへてじやうらくす。
またつのくにかはちのげんじらどうしんして、おなじうみやこへみだれいる。およそきやうちうには、げんじのせいみち
みちたり。かげゆのこうぢのちうなごんつねふさのきやう、けんびゐしのべつたうさゑもんのかみさねいへりやうにん、ゐん
のでんじやうのすのこにさふらひて、よしなかゆきいへとめす。きそそのひのしやうぞくには、あかぢのにしきのひたたれに、
むらさきしそごのよろひきて、こがねづくりのたちをはき、二十四さいたるきりふのやおひ、しげとうのゆみわき
にはさみ、かぶとをばぬいてたかひもにかけ、ひざまづいてぞさふらひける。十らうくらんどゆきいへは、こんぢのにしきの
ひたたれに、くろあやおどしのよろひきて、いかものづくりのたちをはき、二十四さいたるおほなかぐろのやおひ、ぬりごめ
とうのゆみわきにはさみ、これもかぶとをぬいでたかひもにかけ、かしこまつてぞさふらひける。さきのないだいじんむねもりこう
をはじめとして、へいけの一ぞくみなつゐたうすべきよしおほせくださる。りやうにんていじやうにかしこまりうけたまはつてまかり

いで、おのおのしゆくしよのなきよしをまをす。きそはだいぜんのたいふなりただがしゆくしよ、六でうにしのどうゐんをくださ
る。十らうくらんどゆきいへは、ほふぢうじとののみなみとのとまをす、かやのごしよをぞたまはりける。さるほどにはうわうは
しゆじやうくわいせきのへいけにとはれさせたまひて、せいかいのなみのうへにただよはせたまふおんことを、おほきにおんなげ
きあつて、しゆじやうならびに三じゆのしんき、ことゆゑなうみやこへかへしいれたてまつるべきよし、さいこくへおほせくだ
されけれども、へいけもちゐたてまつらず。たかくらのゐんのみこのみやはしゆじやうのほか三ところましましき。なか
にも二のみやをば、まうけのきみにしまゐらせんとて、へいけとりたてまつて、さいこくへおちくだりぬ。
三四はみやこにましましけり。八ぐわつ五かのひ、ほふわうこのみやたちむかへよせまゐらつさせたまひて、
まづ三のみやの五さいにならせたまふを、あれはいかにこれへとおほせければ、ほふわうをみまゐらつ
させたまひて、おほきにむつからせたまふあひだ、とうとうとていだしまゐらつさせたまひけり。つぎに
四のみやの四さいにならせたまふを、あれはいかにこれへとおほせければ、いそぎほふわうのおんひざの
うへへまゐたつさせたまひて、よにおんなつかしげにぞましましける。ほふわうおんなみだをながさせたまひ
て、げにもそぞろならんずるものが、このおいぼふしをみていかでかなつかしげにはおもふべき。
これぞまことのわがおんまごにてまします。こゐんのをさなおひに、すこしもたがはせたまはぬものかな。これほど
のわすれがたみを、いままでごらんぜられざりけることよとて、おんなみだせきあへさせたまはず。
じやうどじの二ゐとの、そのときはいまだたんごとのとてごぜんにさふらはれけるが、さておんくらゐはこのみやにて

こそ、わたらせたまひさぶらはめなうとまをされたりければ、ほふわうしさいにやとぞおほせける、ないない
おんうらのありしにも、四のみや、くらゐにつかせたまひては、はくわうまでも、につほんごくのおんぬしたるべし、
とぞかんがへまをしける。おぼぎは七でうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうのおんむすめなり。けんれいもんゐんいまだ
ちうぐうのおんときそのおかたにおんみやつかへたまひしを、しゆじやうつねはめされまゐらせけるほどに、みやあまたいで
きまゐらせたまひけり。そもそもこののぶたかのきやうとまをすは、おんむすめあまたもちまゐらつさせたまひたりしがいづ
れにてもにようごきさきにたてまゐらせたくおもはれけるに、ひとのいへにとりのしろいをせんそろへてかひつ
ればそのいへにかならずきさきのいでくるといふをとのあるぞかしとて、とりのしろいをせんそろへてかは
れたりけるゑゆにや、このおんむすめ、わうしあまたうみまゐらつさせたまひけり。のぶたかのきやうもないないうれし
うはおもはれけれども、あるひはよをはばかり、あるひはへいけにもおそれをなしてもなしたてまつることもなか
りしを、八でうの二ゐとの、よしよしくるしかるまじ、われそだてて、まうけのきみにしまゐらせんとて、
おんめのとともあまたつけてもてなしまゐらつさせたまけり。四のみやとまをすは、二ゐとののおんせうと、ほつ
しようじのしゆぎやう、のうゑんほふいんの、やしなひきみにてぞましましける。しかるをほふいんへいけにとらはれて、みやを
もにようばうをもきやうとにすておきまゐらせて、さいこくへおちくだられたりしが、ほふいんさいこくよりひとを
のぼいて、みやいざなひまゐらせて、とくくだりたまへとまをしのぼせられたりければ、にようばうのみやさそ
ひまゐらせて、にしの七でうまでいでられたりしを、にようばうのせうと、きいのかみのりみつこれはもののついて

くろひたまふか、このみやのごうんは、ただいまにひらけさせたまはんずるものをとて、とりとめたてまつつ
たりけるつぎのひぞ、ほふわうよりおんむかひのおんくるまはまゐりたりける。なにごとのもしかるべきこととはまをし
ながら、きのかみのりみつは、四のみやのおんためには、さしもほうこうのひととぞみえし。さるをなんの
おぼしめしよることもなかりけるにや、させるてうおんなくして、むなしうとしつきをおくられける
が、あるときのりみつ、もしやと、二しゆのうたをようで、きんちうにらくしよをぞしたりける。
ひとこゑはおもひいでなけほととぎすおいそのもりよばのむかしを
このうちもなほうらやましやまがらのみのほどかくすゆふがほのやど
しゆじやうえいらんあつて、これほどのことをいままでおぼしめしよらざりけることこそかへすかへすもおろかな
れとて、やがててうしんかうむつて、じやうざんみにじよせられけるとぞきこえし。

八ぐわつ十かのひ、ぢもくおこなはれてきそ、さまのかみになつて、ゑちごのくにをたはまる。そのうへあさ
ひのしやうぐんといふ、ゐんぜんをぞくだされける。十らうくらんどゆきいへはびんごのかみになつて、びんごのくに
をたまはる。きそゑちごをきらへば、いよをたぶ。くらんどびんごをきらへばびぜんをたぶ。そのほかげん
じ十よにんみなゑふ、しよしのじやう、ひやうゑのじやうにぞなされける。おなじき十六にち、さきのないだいじんむね

もりこういかをはじめとしてへいけの一るゐ百六十にんがくわんしよくをやめてでんじやうのみふだをけずらる。され
どもそののうちにへいだいなごんときただのきやう、しそくくらのかみのぶもと、さぬのちうじやうときざね、ふし三にんをばけず
られず。これはしゆじやうならびに三じゆのしんき、ことゆゑなうみやこへかへしいれたてまつるべきよし、このときただのきやう
のもとへおほせくだされたりけるによつてなり。おなじき十七にち、へいけは、ちくぜんのくに三かさのこほり
ださいふにこそつきたまへ。きくちのじらうたかなほは、きやうよりへいけのおんともにまゐりけるが、おほつやま
のせきあけてまゐらせんとて、そのせい五百よきにてちくごのくにへうちこえ、おのがじやうにたてこもつて、
めせどもめせどもまゐらず。そのほか九しうのものども。うすきへつき、まつらたうにいたるまで、みなまゐるべき
よしのおんりやうしやうをばまをしなんがらいちにんもさんぜず。たうじはいはどのしよきやう、おほくらのたねなほばかり
ぞさふらひける。あくる十八にち、へいけあんらくじへまゐり、うたよみれんがしてみやしつかへたまひしに、三み
のちうじやうしげひらのきやう、
すみなれしふるきみやこのこひしさをかみもむかしにおもひいづらん
ひとびとまことにさこそはとえぼえて、みなそでをぞぬらされける。おなじき二十かのひ、みやこにはほふわう
のせんみやうにて、四のみやかんゐんとのにてくらゐにつかせたまふ。せつしやうはもとのせつしやう、このゑとのかはらせたま
ず、とうやくらんどになしおいて、ひとびとみなたいしゆつせられけり。三のみやのおんめのと、なきかなしみこうくわい
すれどもかひぞなき。てんに二つのひなし、くににふたりのわうなしとはまをせども、へいけのあく

ぎやうによつてこそ、ぎやうゐなかにふたりのわうはましましけれ。むかしぶんとくてんわうてんあん二ねん八ぐわつ廿三日
かくれさせたまひぬ。みこのみやたち、あまたおんくらゐにのぞみをかけてましましければ、ないないおんいのりどもあ
りけり。一のおんここれたかのしんわうをば、きのはらのわうじともまをしき。わうしやうのざりやうをおんこころにかけ、
四かいのあんきはたなごころのうちにてらし、はくわうのりらんはおんこころにかけたまへり。さればせいけんのなをも
とらせましましぬべききみなりとみえたり。二のみやこれひとのしんわうはそのころのしつぺいちうじんこうの
おんむすめ、そめどののきさきのおんぱらなり。一もんのくぎやうれつしてもてなしたてまつらせたまひしかば、これもまたさ
しおきがたきおんことなり。かれはしほぶんけいていのきりやうあり、これはばんきふさのしんしやうあり。かれもこれも
いたはしくして、いづれもおぼしめしわづらはれき。一のみここれたかのしんわうけのおんいのりには、かきのもと
のきそうじやうしんぜいとて、とうじの一のちやうじや、こうぼふだいしのおんでしなり。二のみやこれひとのしんわうけの
おんいのりには、ぐわいそちうじんこうのごぢそう、ひえいざんのゑりやうくわしやうぞうけたまはられたりける。いづれもおと
らぬかうそうたちなり。とみにことゆきがたうやあらんずらんとぞ、ひとびとささやきあはれける。
さるほどにみかどかくれさせたまひしかば、くぎやうけんぎありけり。そもそもしんらがおもんばかりをもつて、えらんでくらゐ
につけたてまつらんこと、ようしやわたくしあるににたり。ばんじんくちびるをかへすべし。しらずけいばすまふのせちを
とげ、そのうんをしり、しゆうによつて、はうそをさづけたてまつるべしと、ぎぢやうをはんぬ。さるほどに
九ぐわつふつかのひ、ににんのみやたち、うこんのばばへぎやうげいありけり。ときにわうこうきやうしやう、たまのくつばみをなら

べ、はなのたもとをよそひ、くものごとくにかさなり、ほしのごとくにつらなりたまへり。これきだいのしようじ、てんがの
さかんなるみもの、ひごろこころをよせたてまつりしげつきやううんかく、りやうはうにひきわかつててをにぎりこころをくだきたまへ
り。おんいのりのかうそうたち、いづれかそりやくあらんや。しんぜいそうじやうはとうじにだんをたて、ゑりやうくわしやうはたい
だいのしんごんゐんにだんをたてておこなはれけるが、ゑりやうはうせたりといふひろうをなさば、しんぜいそう
じやうすこしたゆむこころもやおはすらんと、ゑりやうはうせたりといふひろうをなして、かんたんをくだい
ていのられけり。さるほどに十ばんのけいばはじまる。始四ばんは、一のみここれたかのしんわうけかたせたま
ふ。あと六ばんは、二のみやこれひとしんわうけかたせたまふ。やがてすまふのせちあるべしとて、一のみここれ
たかしんわうけよりは、なとらのうひやうゑのかみとて、およそ六十にんがちからあらはしたる、ゆゆしきひとをいだ
されたる。二のみやこれひとのしんわうけよりは、よしをのせうしやうとて、せちひさうたへにして、かたてに
あふべしともみえぬひと、ごむさうのおつげありとてまをしうけてぞいでられける。さるほど
になとらよしをよりあひて、ひしひしとつまどりしてのきにけり。しんばしあつてなとらつ
とより、よしををとつてささげ、二ぢやうばかりぞなげたりける。ただなほつてたふれず。よしをまたつ
とより、ゑいごゑをいだいて、なとらをとりてふせせんとす。なとらもともにこゑをあげよしををとつ
てふせんとすたがひにおとらぬだいりき、されどもなとらはだいのをとこかさにまはる、よしをなほあぶなうみ
えければ、おぼぎそめどののきさきより、おつかひくしのはのごとくにしげうはしりかさなつて、みかたすでにまけ

いろにみゆ。いかがせんとあふせければ、ゑりやうくわしやうはだいゐとくのほふをおこなはれけるが、こはこころ
うきことなりとて、どつこをもつてかうべをつきやぶり、なづきをくだし、にうにわしてごまをたき、
くろけぶりをたてひともみもまれたりければ、よしをすまふにかちにけり。二のみやくらゐにつかせたまふ、
せわのみかどこれなり。のちにはみのをのてんわうとぞまをしける。それよりして、さんもんにはいいかの
ことにも、ゑりやうなうをくだせば、二ていくらゐにつき、そんいちけんをふるひしかば、くわんしやうなふじゆしたまふと
もつたへたり。これのみやほふりきにてもありけん。そのほかはまたてんせうだいじんのおんぱからひなりとぞみえ
たりける。

『さいけはさいこくにてこのよしをつたへたまきたまひて、あはれ三のみやをも四のみやをもとりたてまつつて
おちくだるべかりしものをとこうくわいせられければ、へいだいなごんときただのきやう、さらんにはたかくらの
みやのみこのみやを、おんめのとさぬきのかみしげひでがごしゆつけせさせたてまつり、ぐしまつつてほくこくへおちくだ
りたりしを、きそよしなかじやうらくのとき、しゆにしまゐらせんとて、げんぞくせさせたてまつり、ぐしまつつて、
のぼつたるをぞ、くらゐにつけまゐらせんずらんとのたまへば、ひとびといかでかげんぞくのみやをばくらゐには
つけたてまつるべきと、まをされたりければ、ときただのきやう、さもさうず、げんぞくのこくわうのれい、いこく

には、そのれいもあるらん。わがてうには、てんむてんわういまだとうぐうのおんとき、おほとものわうじにおそはれ
させたまひて、びんはつをそり、よしののおくへにげこもらせたまひしが、やまとのくにうたのこほりをすぎさ
せたまふには、そのせいわづかに十七き、されどもいがいせにうちこえ、みのをはりのぐんびやうをもつ
て、おほとのもわうじをほろぼして、つひにくらゐにつかせたまひにき。またかうけんてんわうとまそししは、だいぼだい
しんをおこさせたまひて、おんかざりをおろし、おんなをほふきにとまをししは、二どくらゐにつかせたまひて、
しようとくてんわうとまをししぞかし。いはんやこれはきそがしゆにしまゐらせたる、げんぞくのみやなれば、しさい
にやおよぶべきとぞのたまひける。さるほどに九ぐわつ三にちのひ、だじやうてんわういせへくぎやうのちよくしをたて
らる。ちよくしはさんぎながのりとぞきこえし。だじやうてんわういせへくぎやうのちよくしをたてらるることは、
すじやく、しらかは、とば、三だいのしようせきありとはまをせども、それはごしゆつけいぜんなり。ごしゆつけいご
のれいはこれはじめとぞまけたまはる。』へいけはつくしにみやこをさだめ、たいりつくるべしといふ。くぎやうけんぎ
ありしかども、みやこもいまださだまらず、しゆじやうはそのころいはどのしよきやう、おほくらのたねなほがしゆくしよにぞま
しましける。ひとびとのいへいへは、のなかたなかなりければ、あさのころもはうたねども、といちのさとと
もいひつべし。だいりはやまのなかなれば、かのきのまるどのもかくやありけんと、なかなかいうなる
かたもありけり。まづうさのみやへみゆきなる。だいぐうしきみみちがしゆよしよくわうきよになる。しやとうはげつ
けいうんかくのきよしよになる。くわいらうは五ゐ六ゐのくわんじん、ていじやうには四こくちんぜいのつはものども、かつちうゆみや

をたいして、くもかすみのごとくなみゐたり。ふりにしあけのたまがき、ふたたびかざるとぞみえし。七にちさんろう
のあけがた、おほいとののおんためにむさうのつげぞありける。ごはうでんのおんとおしひらき、ゆゆしうけだかげ
なるおんこゑにて、
よのなかのうさにはかみもなきものをなにいのるらんこころづくしに
おほいとどのうちおどろき、むねうちさはぎあさましつさに、
さりともとおもふこころもむしのねもよはりはてぬるあきのくれかな
といふこかを、こころぼそげにぞくちずさみたまひける。さてだざいふへくわんかうなる。さるほどに、九
ぐわつもとふかあまりになりぬ。をぎのはむけのゆふあらし、ひとりまるねのとこのうへ、かたしくそでをしぼりつつ、ふ
けゆくあきのあはれさは、いづくもとはいひながら、たびのそらこそしのびがたけれ。九ぐわつ十三
やは、なをえたるつきなれども、そのよはみやこをおもひいづるなみだに、われからくもりてさやかな
らずここのへのくものうへひさかたのつきにおもひをのべしゆふべも、いまのやうにおぼえて、さつまのかみただのり、
つきをみしこぞのこよひのとものみやみやこにわれをおもひいづらん
しゆりのだいぶつねもり、
こひしとよこぞのこよひのよもすがらちぎりしひとのおもひいづらん
くわうごうぐうのすけつねまさ、

わきてこしのべのつゆともきえずしておもはぬさとのつきをみるかな

ぶんごのくには、ぎやうぶきやうさんみよりすけのきやうのくになりけり。しそくよりつねのあつそんを、だいくわんにおかれ
けるが、きやうよりよりつねのあつそんのもとへししやをたてて、へいけはすでにしんめいにもはなたれたてまつり、きみ
いもすてられまゐらせて、ていとをいでてなみのうへにただよふおちうどとなれり。しかるを九しうのものども
がうけとつてもて、あつかふらんことこそしかるべからね。たうごくにおいては、一みどうしんして、
九こくのうちをおひいだしたてまつるべきよし、のたまひつかはされたりければ、これををがたのさぶらうこれよしにげぢ
す。かのこれよしとまをすは、おそろしきもののすゑにてぞさふらひける。たとへば、むかしぶんごのくにのかたやまさと
にをんなありき。あるひとのひとりむすめ、をつともなかりけるがもとへ、をとこよなよなかよふほどに、としつきも
かさなれば、みもただならずなりぬ。ははこれをあやしんで、なんぢがもとへかよふものは、いかなるものぞと
とひければ、くるをばみれどもかへるをしらずとぞいひける。さらばあさかへりせんとき、
しるしをつけて、へてゆきがたをつないでみよとぞをしへける。をんな、ははのをしへにしたがつて、あさがへ
りしけるをとこのみづいろのかりぎぬをきたりけるくびがみにはりをさし、しづのをだまきといふものをつけて、
へてゆくかたをつないでみれば、ぶんごのくににとつても、ひうがのさかひ、うばたけといふたけのすそ、

おほきなるいはやのうちへぞつなぎいれたりける。をんな、いはやのくににたちてききければ、おそろしげな
るこゑしてにえびけり。をんなまをしけるは、おんすがたをみまゐらせんがために、わらはこそこれまでまゐつ
てさふらへといひければ、われはこれひとのすがたにはあらず。なんぢわれがすがたをみては、きもたましひもみにそふ
まじきぞ。はらめるところのこはなんしなるべし。ゆみやうちものとつては、九しう二たうにならぶものもあ
るまじきとぞをしへける。をんな、かさねて、たとへいかなるおんすがたにてもおはせよ、ひごろのよしみい
かでかわするべきなれば、たがひのすがたをいま一どみもしみえられんといひければ、さらばとて
いはやのうちより、ふしたけは五六しやくばかりにて、あとまくらは十四五ぢやうもあるらんとおぼゆるだいじや
にて、どうえうしてぞはひいでたる。をんなきもたましひもみにそはず、めしぐしたる十すうにんのしよじう
ら、をめきさけんでにげさりぬ。くびかみにさすとおぼえしはりは、だいじやうののどぶえにぞたつたりけ
る。をんなかへつて、ほどなくさんをしたりければ、まことになんしにてぞありける。ははかたのそふ、そだ
ててみんとてそだてたれば、いまだ十さいにもみたざるに、そびらおほきう、かほもながかりき。七さい
にてげんぷくせさせ、ははかたのそふをだいたいふといふあひだ、これをばだいたとこそつけたりけれ、なつ
もふゆもてあしにひまなくあかがりやぶれければ、あぶりだいたとぞいはれける。かのをがたの三らうはくだんのだい
たには五だいのそんなり。かかるおそろしきもののすゑなればにや、こくしのあふせをゐんせんとがうして、九
しう二たうにめぐらしぶみをしたりければ、しかるべきものどもは、みなこれよしにしたがひつく。くだんのだいじやは、ひう

がのくににあがめられさせたまふ、たかちほのみやうじんのしんたいなりとぞうけたまはる。

へいけはつくしにみやこをさだめ、だいりつくらるべしとて、くぎやうけんぎありしかども、これよしがむほんと
きいておほきにおそれさはがれけり。へいだいなごんときただのきやうのいけんまをされけるは、かのをがたの三
らうはこまつどののごけにんなり。さればきんだちご一しよむかはせたまひて、こしらへてごらんぜらるべくも
やさふらふらんと、まをされたりければ、さらばとて、しん三みのちうじやうすけもりのきやう、そのせい五百よ
き、ぶんごのくにへうちこえ、さまざまにこしらへのたまへども、これよししたがひたてまつらず、あまつさへ、きんだちをも、
これにてとりこめまゐらすべうさふらひしかども、だいじのうちのせうじなりとてとりこめまゐらせず
ば、なにほどのことのおはすべき。ただこれよりとうとうかへらせたまへとてだざいふへおひかへしたてまつる。
そののちこれよしがじなん、のじりのじらうこれむらをししやにて、だざいふへまをしけるは、へいけはぢうおんの
きみにてわたらせたまへば、かぶとをぬぎゆみのつるをゆるいてかうにんにまゐるべうさふらひしかども、一ゐんの
あふせには、一みどうしんして九こくのうちをおひいだしたてまつるべきよしさふらふと、すみやかにまをしおくつたりけ
れば、へいだいなごんときただのきやうは、いとくずのはかま、ひをくくりのひたたれ、たてえぼしにて、かのこれむらにいで
むかつてのたまひけるは、それわがきみはてんせうだいじんてんそん四十九せのしやうとう、じんむてんわうより八十一

だいにあたらせたまふ。さればてんせうだいじん、しやう八まんぐうも、いかでかおぼしめしはなさせたまふべき。なかんづく、
たうけはほうげんへいぢよりこのかた、たびたびのてうてきをたひらげて、九しうのものどもをば、みなうちざまへこ
そめされしか、しかるをそのおんをわすれて、とうごくほつこくのきようとら、よりともよしなからにかたらはれて、
しおほせたらばくにをあづけん、しやうをたばんとまをすを、まこととおもつて、そのはなぶんごがげぢにしたが
ふらんことこそ、おほきにまことしからぬとぞのたまひける。ぶんごのこくしぎやうぶきやう三ゐよりすけの
きやうは、きはめてはなのおほきなりければ、箇様にはあくこうしたまひけるなれ。これむらかへつて、ちちに
このよしをつげたりければ、こはいかに、むかしはむかし、いまはいま、そのぎならば一みどうしんして九
こくのうちをおひいだしたてまつれやとて、せいぞろふるときこえしかば、げんだいふのはうぐわんすゑさだ、せつつのはう
ぐわんもりすみ、きやうこうはうばいのためきつくわいにさふらふ、めしとりさふらはんとて、そのせい三千よきにてぶんごの
くにへうちこえ、たかののほんしやうにはつかうして、一にち一やせめたたかふ。されどもこれよしがかたのせいは、
うんかのごとくにかさなれば、ちからおよばでひきしりぞく。へいけはをがたの三らうこれよしが、三まんよきのせいに
て、すでによすときこえしかば、とるものもとりあへず、だざいふをこそおちたまへ。さしもたの
もしかりつるてんまんてんじんのしめのあたりを、こころぼそくもたちわかれ、かよちやうもなければ、そう
くわほうれんはただなをのみききて、しゆじやうえうよにめされけり。こくもをはじめまゐらせて、やごと
なきにようばうたちは、はかまのすそをたかくはさみ、おはばとのいがのげつけいうんかくは、さしぬきのそばをたかくとつて、

かぢはだしにてみづきのとをいで、われさきにわれさきにとはこざきのつへこそおちたまへ。をりふしくだるあめしや
ぢくのごとし。ふくかぜいさごをあぐとかや。おつるなみだ、ふるあめ、わきていづれもみえざりけり。
すみよし、はこざき、かしひ、むなかたふしをがみ、しゆじやうただきうとのくわんかうとのみぞいのられける。たるみやま、
うづらばまなんどいふ、けはしきけんなんをしのがせたまひて、べうべうたるへいさへぞおもむかれける。いつな
らはしのおんことなれば、おんあしよりいづるちは、いさごをそめ、くれなゐのはかまはいろをまし、しろきはかまは
すそくれなゐにぞなりけにける。かのげんぞう三ざうの、りうさそうれいをしのがれたりけんかなしみも、これにはいか
まさるべき。それはぐほふのためなれば、じたのりやくもありけん。これはとうせんのみちなれ
ば、らいせいのくるしみ、かつおもふこそかなしけれ。はらたのたいふたねなほは、二千よきにて、へいけの
おんともにまゐる。やまがのひやうとうじひでとほはすう千きで、へいけのおんむかへにまゐりけるが、たねなほひでとほもつての
ほかにふわなりければ、たねなほはあしかりなんとて、みちよりひきかへす。あしやのつといふところ
をすぎさせたまふにも、これはわれらがふくはらへかよひしとき、あさゆふみなれしさとのななればとていづれ
のさとよりもなづかしう、いまさらあはれをぞもよほされける。きかい、かうらい、けいたん、くものはて、うみの
はてまでも、おちゆかばやとはおもはれけれども、なみかぜむかうてかなはねば、ひやうどうじひでとほに
ぐせられて、やまがのしろにぞこもられける。やまがへもまたかたきよすときこえしかば、とるものもと
りあへず、へいけこふなどもにとりのつて、よもすがらぶぜんのくにやぎながうらへぞわたられける。ここにみやこ

をさだめてだいりつくらるべしと、くぎやうけんぎありしかども、ぶんげんなければそれもかなはず。なが
とよりまたげじよすときこえしかば、へいけ、あまをぶねにとりのつて、うみにぞうかびたまひける。こ
まつとのの三なんひだんのぢうじやうきよつねは、なにごともふかうおもひいれたるひとにておはしけるが、あるつきのよ、
ふなばたにたちいでて、やうでうねどりらうえいしてあそばれけるが、みやこをばげんじのためにせめおとさ
れ、ちんざいをばこれよしがためにおひいださる、あみにかかれるうをのごとし、いづちへゆかばのがる
べきかは、ながらへはつべきみにもあらずとて、しづかにきやうよみねんぶつして、うみにぞしづみたま
ひける。なんによなきかなしめどもかひぞなき。ながとのくには、しんぢうなごんとももりきやうのくになりけり。
もくだいは、きいのたいふのはうぐわんみちすけといふものなり。へいけあまをぶねにめされたるよしうけたまはつ
て、おほふね百よそうてんじてまゐらせたれば、へいけそれにとりのつて、四こくへぞわたられける。あ
はのみんぶのたいふしげよしがさたとして、さぬきのくにやしまのいそに、かたのやうなるいたやのだいりや、
ごしよをぞつくらせける。そのほどはあやしのみんをくをくわんきよとするにおよばねば、ふねをごしよとぞさだ
めける。おほいとのいがのけいしやううんかくは、あまのとまやにひをくらし、ふねのうちにてよをあかす。
りうとうげきしゆをかいちうにうかべ、なみのうへのあんぐうはしづかなるときなし。つきをひたせるうしほのふかきうれひにしづみ、
しもをおほへるあしのはのもろきいのちをあやぶむ。すさきにさわぐちどりのこゑは、あかつきうらみをまし、いそまに
かかるかぢのおとは、よはにこころをいたましむ。はくろのゑんしようにむれゐるをみては、げんじのはた

をあぐるかときもをけし。やがんのれうかいになくをきいては、つはものどものよもすがらふねをこぐかとあや
またる。せいらんはだへををかしては、すゐたいこうがんのいろやうやうおとろへ、さうはまなこをうげて、ぐわいどぼうきあゆの
なんだおさへがたし。すゐちやうこうけいにかはれるは、はにふのこやのあしすだれ、くんろのけぶりにことなるあま
のもしほびたくいやしきをみたまふにつけても、にようばうたちはつきせぬものおもひに、くれなゐのなんだせきあへ
たまはねば、みどんのまゆずみみだれつつ、そのひとともみえたまはず。

さるほどに、かまくらのさきの右ひやうゑのすけよりとも、ぶようのめいよちやうじたまへるがゆゑにゐながらせいいしやう
ぐんのゐんぜんをくださる。ゐんぜんのおつかひにははさししやうなかはらのやすさだとぞきこえし。十ぐわつよつかのひやす
さだくわんとうへげちやく、うひやうゑのすけののたまひけるは、そもそもよりともぶようのめいよちやうぜるによつて、ゐ
ながらせいいしやうぐんのゐんぜんをかうむる。さればわたくしにては、いかでかうけとりたてまつるべき。わかみや
のはいでんにしてうけとりたてまつるべしとて、わかみやへこそまゐりむかはれけれ。八まんはつるがをかにたたせ
たまふ。ぢかた、いはしみづにたがはず、くわいらうあり、ろうもんあり、つくりみち十よちやうをみおろしたり。
そもそもゐんぜんをば、たれしてかうけとりたてまつるべきとひやうぢやうあり。みうらのすけよしずみして、うけとりたてまつら
るべし。そのゆゑははちかこくにきこえたるゆみやとり、みうらのへいたらうためつぎがばちえふなり。ちちおほすけも、

ぎみのためにいのちをすてしつはものなれば、かのぎめいがくわうせんのめいあんをてらさんがためとぞきこえし。
ゐんぜんのおつかひやすさだは、いへのこ二らうどう十にんぐしたりけり。みうらのすけもいへのこ二にん、らうどう
十にんぐしたりけり。二にんのいへのこはひきのとう四らうよしかず、わだの三らうむねざねなり。らうどう十
にんをば、だいみやう十にんして、にはかに一にんづつしたてられらり。みうらのすけ、そのひ、かちんのひた
たれにくろいとおどしのよろひきて、こくしつのたちをはき、二十四さいたるくろほろのやおひ、ぬりごめのゆみ
わきにはさみ、かぶとをばぬいでたかひもにかけ、こしをかがめてゐんぜんうけとりたてまつらんとす。さしじやうまをされ
けるは、ただいまゐんぜんうけとりたてまつらんとするはたれびとぞ。なのりたまへといひければ、ひやうゑのすけ
のじにやおそれけん、みうらのすけとはなのらずして、ほんみやうをみうらのあらじらうよしずみとこそのなの
つたれ。ゐんぜんをばらんばこにいれられたり。ひやうゑのすけどのにたてまつる。ややあつてらんばこをばかへされ
けり。おもかりければ、やすさだこれをひらいてみるに、さきん百りやういれられたり。わかみやのはいでんに
して、やすさだにさけをすすめらる、さいゐんのじくわんはいぜんす。五ゐ一にんやくおくりをつとむ。うま三びきひか
る。いつぴきにくらおいたり。みやのさふらひのうちにくどういちろうすけつねこれをひく、ふるきかやをしつらう
て、やすさだをいれらる。あつわたのきぬ二りやう、こそで十かさね、ながもちにいれてまうけたり。こんあゐ
ずりしろぬの千だんをつめり。はいばんゆたかにしてびれいなり。つぎのひ、ひやうゑのすけのたちへむかふ。うちと
にさふらひあり、ともに十六ままでありけり。とさふらひにはいへのこらうどう、かたをならべひざをくんでな

みゐたり。うちさふらひには一もんのげんじじやうざして、ばつぼにははちかこくのだいみやうせうみやうゐながれたり。
げんじのかみざには、やすさだをすゑらる。ややあつてしんでんへむかふ。うへにはかうらいべりのたたみをし
き、ひろびさしにはむらさきべりのたたみをしいて、やすさだをすゑらる。すだれたかくまきあげて、ひやうゑのすけどの
いでられたり。ひやうゑのすけそのひはほういにたてゑぼしなり。かほだいにして、せいひくかりけり。
ようばういうびにしてげんぎよぶんみやうなり。まづしさいを一じのべたり。そもそもへいけよりともがゐせいにおそれ
て、みやこをおつ。そのあとにきそよしなか、十らうくらんどらがうちいつて、わがかうみやうげにくわんかかいを
おもふさまにつかまつり。あまつさへ、くにをきらひまをすでうこれもつてきつくわいなり。またおくのひでひらがみちのくにのかみになり、
さたけのわんじやくがひたちのかみになつて、これもよりとものげぢにしたがはず。これらをもいそぎつゐたうすべき
よしのゐんぜん、たまはるべきよしほふわうへまをさる。やすさだやがてこれにて、みやうぶをもまゐらせたうはさふら
へども、たうじはおつかひのみにてさふらへば、のぼつて、したためてこそあゐらせめ。おとうとにてさふらふしたい
ふしげよしも、このぎをまをしさふらふとまをしければ、ひやうゑのすけどのあざわらつて、たうじよりともがみと
しておのおののみやうぶおもひもよらず、さりながらもいたされば、さこそぞんぜめとぞのたまひける。やす
さだやがてこんにちじやうらくのよしをまをす。こんにちばかりはとうりうあるべしとてとどめらる。つぎのひまた、ひやう
ゑのすけのたちへむかふ。もえぎいとおどしのはらまきに一りやう、しろうつくつたるたちひとふり、しげどうのゆみにのや
そへてたぶ。うま十三びきひかる。三びきにくらおいたり。十二にんのいへのこらうどうどもにも、ひただれ、

こそで、おほぐち、うま、もののぐにおよべり。かまくらいでのしゆくよりも、あふみのくにかがみのしゆくにいたるまで、
しゆくじゆくに十こくづつのこめをぞおかれたりければ、たくさんなるによつて、せやうにひきけるとぞ
きこえし。

やすさだみやこへかへり、ゐんさんしておつぼのうちにて、くわんとうのさまをつぶさにそうもんまをしたりければ、ほふ
わうおほきにぎよかんありけり。くぎやうもでうじやうびとも、ゑつぼにいらせおはします、ひやうゑのすけは、か
うこそゆゆしくおはせしか、たうじみやこのしゆごにてさふらはれけん、きそよしなかはにもにず、わる
かりけり。みめはよきをとこにてありけれどもたちゐのふるまひのぶこつさ、ものいひたることばつづ
きのかたくななることかぎりなし。ことわりかな、二さいより三十にあまるまで、しなのののくに
きそといふかたやまざとに、すみなれておはしければ、さこそありけめ、たとへばそのころねこまの
ちうなごんみつたかのきやうとまをすくぎやうおはしき。きそにのたまひあはすべきことあつて、よしなかがもとへおは
したるを、らうどうども、ねこまどののいらせたまひてさふらふとまをしければ、きそおほきにわらつて、ねこ
がひとにたいめんするかとぞいひける。これはねこまのちうなごんどのとて、くぎやうにてわたらせたまひさふらふ
とまをしければ、さらばとてたいめんす。きそ、ねこまどのとはえいはいで、ねこどけどきにまれば、

れわいたにものよそへとぞいひける。ちうなごんどのいかでただいまさるおんことのおひはすべきとはのたま
へども、きそなにをもあたらしきものをば、ぶえんといふぞとこころえて、ぶえんのひらたけここにあり、
とうとうといそがず。ねのゐのこやたはいぜんす。ゐなかがふしの、きはめておほきうくぼかりけるに、
はんうづたかうよそひ、ごさいさんじゆして、ひらたけのしるにてまゐらせたり。きそがまへにも、おなじ
やうにすゑたりけり。きそはしとつてしよくす。ちうなごんどのはあまりにがふしのいせぶさに、めさ
ざりければ、きそきたうなおもひたまひそ、それはよしなかがしやうじんがふしでさふらふぞ、とうとうとす
すむるあひだ、ちうなごんどのめさでも、さすがあしかりなんとやおぼしけん。はしとつてめすよ
しして、さしおかれければ、きそ、ねこどのはせうじきでおはすよ。きこゆるねこおろししたま
ひたり。かへたまへとぞせめたりける。ちうなごんどのはかやうのことどもに、よろづきやうさめて、
のたまひあはすべきことども、一ことばもいひいださずして、いでられけり。そののちよしなかゐんさんしけ
るに、くわんかかいしたるものの、ひたたれにてしゆつしせんことあるべうもなしとて、にはかにほういとり、
しやうぞきかふりぎは、そでのかかり、うへのはかまのすそまでも、かたくなることかぎりなし。よろひとつてつけ、や
かきおひ、ゆみおしはり、かぶとのををしめ、うまにうちのつたるには、にもにずわろかりけ
り。されどもくるまにこがみのんぬ。うしかひはやしまのおほいとののうしかひなり。うしぐるまもそなりけり。
いちもつなるうしのすゑかうたるを、もんいづるとて、ひとずはいあてたらうに、なじかはよかるべ

き。うしはとんでいづれば、きそはくるまのなかにてあふのけにたふれふし、てふのはねをひろげたるや
うに、さうのそでをひろげて、おきんおきんとしたまへども、なじかはおきらるべき。きそ
うしかひとはえいはいで、やれこうしこでい、やれこうしこでい、といひけれども、くるまをやれと
いふぞとこころえて、五六ちやうこそあがかせけれ。いまゐの四らうかねひらむちあぶみをあはせておつつき、
いかでおんくるまをばかうはするぞといひければ、あまりはおうしのはながこはうてとぞのべたりける。
うしかひきそになかなほりせんとやおもひけん、それにさふらふてがたとまをすものに、とりつかせたまへと
まをしければ、きそはてがたにむんづとつかみついて、あつぱれしたくや、うしでいがはからひか、とののや
うかとぞとひたりける。そののちゐんのごしよへまゐりついて、くるまかけはづさせ、うしろよりおりんと
したりければ、きやうのもののざつしきにめしつかはれるが、みくるまにはめされさふらふときこそ、うしろ
よりめされさふらへ、おりさせたまふときは、まへよりこそおりさせたまふべけれとまをしければ、き
そいかんがくるまならんからに、すどほりをばすべきとて、つひにうしろよりこそおりたりけれ。その
ほかをかしきことどもおほかりけれども、おそれてこれをまをさず。

さるほどに、へいけみがらはさぬきのいそにありながら、せんやうだうはちかこく、なんかいだう六かこく、つ

がふ十四かこくをぞちぎやうしける。きそとのこのよしをききたまひてやすからぬことなりとて、やがてうつてを
さしむけらる。たいしやう軍にはみちのくのしんはんぐわんよしやすがこ、やだのはんぐわんだいよきよ、さふらひだいしやうにはしなの
のくのぢうにん、うんののやへい四らうゆきひろをさきとして、つがふそのせい七千よき、せんやうだうへはつかうす。
びつちうのくにみづしまがとにふねをうかべて、やしまへすでによせんとす。うるふ十ぐわつひといのひ、みづしまのと
にこぶねいつそういできたり、あまぶねつりぶねかとみるところに、さはなくして、へいけのかたよりのちやうの
つかひのふねなりけり。これをみてげんじのかたのつはものども、ほしあげたりける五百よそうのふねどもを、われ
さきにわれさきにとぞおろしける。へいけ千よそうでぞよせたりける。たいしやうぐんにはしんちうなごんとももり
のきやう、のとのかみのりつねなりけり。のとどのだいおんじやうをあげて、いかにほくこくのやつばらにいけどりにせ
られんをば、こころうしとはおもはずや、みかたのふねをばくめやとて、千よそうがともづなへつなをくみ
あはせ、なかにもやひをいれ、あゆみのいたをひきわたしわたしわたいたれば、ふねのうちはへいへいたり。そののちは
げんぺいたかひにときつくりやあはせして、とほきをばいておとし、ちかきをばたちできる。あるひはくまでにか
けてひきおとさるるものもあり、あるひはひきくみさしちがへて、うみへとびいるものもあり、いづ
れすきありともみえざりけり。げんじのかたのさふらひたいしやう、うんののやへい四らうゆきひろうたれぬ。これ
をみてたいしやうぐんやたのはんぐわんだいよしきよ、やすからずやおもひけん、しうじう七にんこぶねにのり、まつさきに
すすんでたたかひけるが、ふねふみしづめてうせにけり。へいけのかたにはふねにうまをたてたりければ、

ふなどものりかたむけかたむけ、うまともおひくだしくだし、ふねにひきつけひきつけおよばす、うまのあだちくらつめひたる
ほどにもなりしかば、ひたひたとうちのつて、のととの五百よき、をめいてかけたまへば、
げんじのかたのつはものども、たいしやうぐんはうたれぬ。われさきにとぞおちゆきける。へいけはみづしまのいくさ
にかちてこそ、くわいけいのはぢをばきよめけれ。

きそとのこのよしをききたまひて、やすからぬことなりとて、そのせい一まんよきでさいこくへはつかうす。
ここにぶつちうのくにのぢうにん、せのをのたらうかねやすは、きこゆるつはものなりしかども、うんやつきにけん、
こんどほくこくにて、かがのくにのぢうにん、くらみつのじらうなりずみがてにかかつて、いけどりにせられたり
しを、きそとのあつたらをのこを、さうなうきるべきにあらずとて、おとうとのなりうぢにあづけられて
ぞさふらひける。ひとあひこころざま、まことにいうなりければ、くらみつもねんごろにもてなしけり。そしけいが
ここくにとらはれ、りせうけいがかんてうへかへらざりしがごとし。とほくいこくにつけることも、むかしのひと
のかなしめりしところなりといへり。おしかはのたまき、かうのばく、もつてふううをふせぎ、なまぐさきしし、らくのつくりみづ、もつ
てきかつにあつ。よるはいぬることなく、ひるはひねもすにつかへて、きをきりくさをからずと
いふばかりにしたがひつつ、いかにもしてかたきをうかがひうつて、きうしゆをいま一どみばやとおもひた

ちけるかねやすがこころのうちこそおそろしける。あるときかねやす、くらみつにいひけるは、さんぬる五ぐわつよりこの
かたかひなきいのちをたすけられまゐらせてさふらへば、たれをたれとかおもひまゐらせさふらふべき。こんどご
かせんさふらはば、いのちをばきそとのにたてまつらん。それにつきさふらひては、せんねんかねやすがちぎやうしさふらひし
びつちうのせのをといふところは、うまのくさがひよきところにてさふらふ。ごへんまをしてたまはらせさふらへ、あんないしや
せんといひければ、きそとのにこのよしをまをす。まことにはなんぢくだつて、うまのくさなんどをもかまへ
させよとのたまへば、くらみつの三らうなのめならずによろこび、てぜい三十きばかり、せのをのたらうを
あひぐして、びつちうのくにへはせくだる。せのをがちやくしこたらうむねやすは、へいけのおんかたにさふらひけるが、
ちちがきそとのよりいとまたまはつてくだると、きいてとしごろのらうどうどももよほしあつめ、そのせい五十きばか
りにて、ちちがむかひにのぼるほどに、はりまのこふにてゆきあうたり。それよりうちつれてくだる
ほどに、びぜんのくにみついしといふところにて、せのをがあひしつたりけるものども、さけをもつてきたりあつま
り、くらみつがせい三十きばかりをしひふせて、おこしもたてず、一々にみなさしころす。びぜんの
くに十らうくらんどのくになりけり。そのだいくわんのびぜんのこふにありけるをも、おしよせてうちて
んげり。そののちせのをのたらうかねやすこそきそどのよりいとまたまはつて、これまでまかりくだつたんなれ。
へいけおもひまゐらせんひとびとは、こんどきそとのくだりたまふに、やひとついかけたてまつれやとひろうした
りければ、びぜん、びつちう、びんご、三がこくのつはものども、うまもののぐ、しよじうなどをば、へいけのおんかたへ

まゐらせて、やすみゐたりけるらうしやども、せのをにもよほされて、あるひはぬののこそでにあづまをりし、
あるひはかきのひたたれにつめひもし、くさりはらまきつづりき、やまうつばたけゑびらにやどもせうせうさし、かきおひかきおひ、
せのをがもとへはせあつまる。つがふそのせい二千よにん、びぜんのくにふくりうじなはて、ささのせまりにじやうくわく
をかまへて、くち二ぢやう、ふかさ二ぢやうにほりをほり、かいだてかき、たかやぐらし、さかもぎひいてまちかけた
り。十らうくらんどのだいくわんのせのをにうたれて、げにんのにげてきやうへのぼるが、びぜんとはりまのさかひ
なる、ふなさかやまといふところにてきそとのにゆきあひたてまつり、このよしかくとまをしければ、きそとの
につくいせのをめを、きつてすつべかりつるものをと、こうくわいせられければ、いまいの四らう
まをしけるは、きやつがつらだましひ、ただものともおぼえさふらはず、ちたびきらせたまへとまをしさふらひし
は、ここさふらふぞかし。おもふにそのものなにほどのことかさふらふべき。かねひらまづまかりくだつてみさふらは
んとて、そのせい三千よきで、びぜんのくにへはせくだる。ふくりうじなはては、みちのはたばりゆん
づゑひとえだばかりにて、とほさはさいこくみちの一りなり。さうはふかたにて、うまのあしもおよばねば、
三千よきがこころはさきにすすめども、ちからおよばずうましだいにぞあゆませける。いまゐの四らうおしよせ
てみければ、せのをのたらうは、いそぎたかくらにはしりのぼり、だいおんじやうをあげて、さんぬる五ぐわつより、
かひなきいのちをたすけられてまゐらせてさふらふ。おのおののはうしには、これをこそよういつかまつつてさふらへとて、
廿四さしたるやを、さしつめひきつめさんざんにいる。いまゐの四らう、みやざきさぶらう、うんの、もろ

づき、すは、ふぢさはなんどいふ、一にんたうせんのつはものども、これをことともせず、いころさるるじんばを
ば、とりいれひきいれほりをうづめ、あるひはさうのふかたへうちいれて、うまのくさわきむながひづくし、
ふとばらにたつところをもことともせず、むらめかひておしよせ、あるひはたにふけをもきらはず、かけい
りかけいり、せめければ、せのをがたのみきつたるささのせまりのじやうくわくをやぶられて、かなはじとや
おもひけん。ひきしりぞき、びつちうのくにいたくらがはのはたにかいたてかいてまちかけたり。いまゐの四らうや
がてつづいてせめければ、びぜんびつちうびんごの三かこくのつはものども、やまうつぼたけゑびらに、やだねのあるほどこ
そふせぎけれ、やだねみなつきければ、ちからおよばず、われさきにとぞおちゆきける。せのをのたらうただ
しゆじゆ三きにたたかひなつて、いたくらがはのはたについて、みどりやまのかたへおちぞゆく。ここにほくこくにて、
せのををいけどりにしたりし、くらみつのじらうなりずみは、おとうとのなりうぢをうたせて、やすからずやおもひけ
ん、こんどもまたせのをめにおいては、いけどりにせんとて、ただいつきぐんにぬけておつてゆく。あは
ひ一ちやうばかりにおつつき、あはれいかに、せのをどのとこそみれば、まさなうもてきにうしろを
みせさせたまふものかな、かへさせたまへたまへと、ことばをかけければ、せのをのたらうはいたくらがはを
にしへわたすが、かはなかにひかへてまちかけたり。くらみつのじらうなのめならずによろこびむちあぶみをあはせては
せきたり、せのをのたらうにおしならべむずとくんでどうとおつ。たがひにおとらぬだいぢから、うへになり
したになりこひびあひけるが、かはぎしにふちのあるところへころびいりぬ。くらみつはぶすゐれんなり、せのを

はすゐれんのじやうづにてありければ、みづのそこにてくらみつが、こしのかたなをぬき、よろひのくさずりひきあげ
て、つかもこぶしもとほれとほれと、みたちさいてくびをとる。そののちせのをのたらうわがうまは、のりそん
じたりければ、くらみつがうまにうちのつてにしをさしてぞおちゆきける。せのをがちやくしこたらう
むねやすは、としは二十になりけれども、あまりにふとつて一ちやうともえはしらず。いそぎもののぐぬぎす
てあゆまんとしけれどもかなはざりければ、せのをはこれをみすてて十よちやうをぞのびたりけ
る。せのをのたらうらうだうにいひけるは、ひごろ千まんのてきにあうていくさするには、四はうはれておぼ
ゆるが、けふはこたらうをすててゆけばにやあらん、一かうさきがくらうてみえぬぞ、そのうへ
こんどのいくさいのちいきて、へいけのおんかたはへまゐりたりとも、せのをのたらうは六十にあまつて、いくほど
いかうとおもつて、ただ一にんあるこをうたせて、これまでのがれまゐりたるやらんなんどいはれん
ことくちをしかるべし、いざかへさうといひければ、らうだうまをしけるはちたびかへさせたまへとまを
しさふらひしはここさふらふぞかし、ささふらへばこそさらばとうかへさせたまへとて、とつてかへす。あん
のごとくこたらうむねやすはあしかんばかりはれて、ふせりゐたり。せのをのたらういそぎうまよりとんで
おり、こたらうがてをとつて、なんぢといつしよで、いかにもならんためにこそこれまでかへりたれ
といひければ、こたらうなみだをはらはらとながいて、たとへこのみこそふきりやうにさふらへば、じがい
をつかまつりさふらふとも、われゆゑおんいのちさへうしなひたてまつらんこと、五ぎやくざいにてぞさふらはんずらん。ただこれよ

りとうとうのびさせたまへといひけれども、せのをのたらうおもひきつてんうへはとて、やすみゐ
たりけるところに、またあらてのむしや五十きばかりでおつかけたり。せのをのたらういのこしたるや
すぢのやを、さしつめひきつめさんざんにいる。ししやうはしらず、やにはにかたきはつきいおとし、その
のちたちをぬいて、まづこたらうがくびをふつとうちおとし、てきのなかへわつていり、たてざまよこ
ざま、くもで十もんじにかけまはり、たたかひけるが、かたきあまたうちとつて、つひにうちじはしてん
げり。らうどもうしゆにちつともおとらずたたかひけるが、いたでおうていけどりにこそせられけれ。なかに
にちとうりうあつてしににけり。かれら三にんがくびをば、びつちうのくにさぎがもりにぞかけたりける。き
そとのこれをみたまひてあつぱれがうのものや、これらをこそ一にんたうせんのつはものともいふべけれ、あ
つたらものどもがいのちをたすけてみでとぞのたまひける。

きそはびつちうのくにまんじゆのしやうにてせいそろへして、やしまへすでによせんとす。そのあひだみやこのるすし
てさふらひける、ひぐちじらうかねみつ、さいこくへししやをたて、とののわたらせたまはぬあひだに、十らうくらんど
どのこそ、ゐんのきりびとしてさまざまにざんそうせられさふららへ、さいこくのいくささばしばらくさしおかせたまひて、
いそぎのぼらせたふべうもやさふらんとまをしおくつたりければ、きそとるものもとりあへずいそぎみやこへ

はせのぼる。十らうくらんど、きそになかしたがうて、あしかりなんとやおもはれけん、たんばのくににかかつて
はりまのくにへくだる。きそはせつつのくにをへてみやこへいる。へいけはきそうたんとてはりまのくにへ
おしわたる。たいしやうぐんにはしんぢうなごんとももりのきやう、ほん三みのちうじやうしげひらのきやう、さふらひだいしやうにはいがのへい
ないさゑもんいへなが、ゑつちうのじらうびやうゑもりつぐ、かづさの五らうびやうゑただみつ、あく七びやうかげきよをさきとして
つがふそのせい二まんよき、むろやまにぞぢんをとる。十らうくらんどゆきいへは、へいけといくさして、きそになか
なほりせんとやおもはれけん。そのせい五百よきにて、むろやまへこそかけられけれ。へいけはぢん
をいつつにはる。まづいがのへいないさゑもんいへなが、二千よきにてせんぢんをかたむ。ゑつちうのじらうびやう
ゑもりつぐ二千よきで二ぢんをかたむ。かづさの五らうびやうゑただみつ、あく七びやうゑかげきよ二千きにて三ぢんを
かたむ。ほん三みのちうじやうしげひらのきやう三千よきで四ぢんをかたむたまふ。とももりのきやう、一まんよき、五ぢん
にひかへたまへり。まづ一ぢんいがのへいないさゑもんいへなが、しばらくあひしらふていにもてなして、なかをあ
けてとほしける。二ぢんゑつちうのじらうびやうゑ、これもあけてぞとほしける。三ぢんかづさの五らうびやうゑ、
あく七びやうゑ、おなじうあけてぞとほしける。四ぢんほん三みのちうじやうしげひらのきやうも、ともにあけてぞいれ
られける。へいけはせんぢんよりごぢんまで、かねてやくそくしたりければ、げんじをなかにとりこめて、
われうちとらんとぞすすみける。十らうくらんどゆきいへ、こはたばかられにけりとやおもはれけん。
おもてもふらずいのちもをしまず、ここをさいごとせめたたかふ。しんちうなごんとももりのきやう、ただ十らうくらんどにおし

ならべてくめやくめとげぢせられたりしかども、さすがおしならべてくむむしや一きもなかりけり。しん
ちうなごんのむねとたのまれたりける、きの七うゑもん、きの八うゑもん、きの九うゑもんなんどいふ、一
にんたう千のつはものども、みなそこにて十らうくらんどにうちとられぬ。十らうくらんどゆきいへは、そのせい五百よき
ありけるが五十騎ばかりにうちなされ、廿七きたいりやくておひ、四はうはみなてきなりのがるべきや
うなかりしかども、いつばううちやぶつてぞいでにける、はりまのくにたかさごよりふねにのつて、いづみのくにふけ
いひのうらへおしわたり、かはちのくにながののしろにたてこもる。へいけはみづしま、むろやま、二にかどのいくさ
にかちてこそいよいよいきほひはつきにけれ。

およそ、きやうぢうには、げんじのせいみちみちて、ざいざいしよしよにいりどりおほし。かも八まんのごりやうともい
はず、あをたをかりてまぐさにし、ひとのくらをうちあけてものをとり、もつてとほるものをうばひ、いしやう
をはぎとる。へいけのみやこにおはせしときは、ただひたすらろくはらどのとて、おそろしかりしばかりなり。
いしやうをはぎとるまではなかりしものを、へいけにげんじかへおとりしたりとぞひとまをしける。
さるほどにきそのさまのかみのもとへ、ゐんのごしよよりおつかひあり、らうぜきしづめよとあふせくださる。
おつかひはいきのかみともちかがこに、いきのはうぐわんともやすといふものなり。てんがにすぐれたるつづみのじやうづ

にてありければ、ときのひと、つづみはんぐわんとぞまをしける。きそたいめんして、まつおんぺんじをばまをさ
で、そもそもわどもをつつみはんぐわんといふは、よろづのひとにうたれたうたか、はられたうたかとぞとう
たりける。ともやすとかうのへんじにもおよばず、いそぎゐんのごしよにかへりまゐつて、よしなかをこのもの
にてさふらふ、いそぎめしとらせたまへ、たんだいまてうてきとなりさふらひなんずと、まをしければ、ほふわうさらば
しかるべきぶしにもあふせつけられずして、やまのざす、てらのちやうりにあふせて、やま、みゐてらの
あくそうどもをぞめされける。くぎやうでんじやうびとのめされけるせいといふは、むかひつぷて、いんちいひがひ
なきつじくわんじやはら、さてはこつじきどもなりけり。さるほどにきそのさまのかみよしなか、ゐんのみけきあし
うなるときこえしかば、はじめはきそにしたがうたる五きないのつはものども、みなきそをそむいてゐんかたへまゐ
る。しなのげんじむらかみのさぶらうはんぐわんだいこれもきそをそむいてほふわうにまゐりける。いまゐの四らうまをしけ
るは、これこそもつてのほかのおんだいじにてはさふらへ。さらばとて十ぜんのきみにむかひまゐらせて、いか
でごかつせんさふらふべき。ただかぶとをぬぎ、ゆみのつるをはづいて、かうにんにまゐらせたまふべうもやさふらふ
らんとまをしければ、きそおほひにいかつて、われしなのをたちしとき、をみあひだのいくさよりはじめて、
ほくこくにては、となみやま、くろさか、しほやま、しのはら、さいこくにてはふくりうじなはで、ささのせまり、いたくらが
しろをせめしかども、いまだてきにうしろをみせず。たとひ十ぜんのきみにてわたらせたまふとも、かぶとを
ぬぎゆみのつるをはづいてかうにんにはえこそまゐるまじけれ。

たとへばみやこのしゆごにてあらんずるものが、うま一ぴきづつかうてのらざるべきか、いくらもあ
るたどもからせてまぐさにせんを、あながちにほふわうのとがめたまふべきやうやある。ひやうらうまいもなけれ
ば、つじくわんじやばらどもが、かたほとりについて、ときどきいりとりせんは、なにかあながちひがごとならん。だい
じんけ、みやみやのごしよへもまゐらばこそひがごとならめ、これはひたすらつづみはうぐわんがきようがいとおぼゆるぞ。そ
のつづみめ、うちやぶつてすてよ、こんどはよしなかがさいごのいくさにてあらんずらん。かつうはよりともが、
かへりきかんずるところもあり、いくさようせよとものどもとて、うつたちけり。ほくこくのせいどもは、みな
おちくだつて、わづか六七千きぞありける。よしなかがいくさのきちれいなればとて、ななてにわかつ。まづ
ひぐちのじらうかねみつ、二千よきでいまくまののかたへからめてにさしつかはす。のこりむては、おのおのがゐたら
んずる、でうりこうぢよりかはらにいで、七でうがはらにて一つになれと、あひづをさだめてうつた
ちけり。いくさは十一ぐわつ十九にちのあさなり。ゐんのごしよほふぢうじとのにも、ぐんびやう二まんよにんまゐりこもつ
たるよしきこえけり。みかたのかさじるしにはまつのはをぞつけたりける。きそ、ほふぢうじとののにしのもん
へおしよせてみれば、つづみはんぐわんともやすはいくさのぎやうじうけたまはつて、あかぢのにしきのひたたれに、よろひはわざと
きず、かぶとばかりぞきたりける。かぶとにはしてんをかいておしたりけり。ごしよのにしのついがきの

うへに、のぼりあがつてたつたりけるが、かたてにはほこをもち、かたてにはこんがうれいをもつて、う
ちふりうちふりときどきはまふをりもありけり。わかきくぎやうでんじやうにんはふぜいなしともやすにはてんぐついたり
とぞわらはれける。ともやすだいおんじやうをあげて、むかしはせんじをむかつてよみれければかれたるくさき
もたちまちにはなさきみなり、あくきあくじんもしたがひき。ましてまつだいならんからに、いかんが十ぜんの
きみにむかひまゐらせて、ゆみをばひくべき。なんぢらがはなたんやは、かへつてみにあたるべし。ぬか
んたちは、みをきるべしなどののしつたりければ、きそさないはせそとて、ときをどつとつく
りける。さるほどにひぐちのじらうかねみつ、二千よきでいまくまののかたよりときのこゑをぞあはせたる。
いまゐの四らうかねひら、ひきめのなかにひをいれて、ほふぢうじどののごしよのむねにいたてたりければ、
をりふしかぜははげし、こくえんてんちうにみちて、ほのほはこくうにすきもなし。いくさのぎやうじともやすはひとよりさきに
おちにけり。ぎやうじがおつるうへは二まんよにんのつはものども、われさきにわれさきにとぞおちゆきける。あまり
にあわてさはいて、ゆみとるものはやをしらず。やとるものはゆみをしらず。あわてふためきける
が、あるひはなぎなたをさかさまについて、わがあしつきぬくものもあり。あるひはゆみのはず、ものにかけてえはづ
さで、すててにぐるものもあり。七でうがすゑをば、せつつのくにげんじのかためたりけるが、七でう
をにしへおちゆく。かねておちうどのあらんずるをば、よういしてみなうちころせと、ごしよよりげぢせ
られたりければ、ざいぢのものどもやねいにたてをつき、おそひのいしをとりあつめてまちゐたるところに、せつ

つのくにげんじのおちけるを、あはやおちうどとて、いしをひろひかけて、さんざんにうちければ、これ
はゐんかたであるぞ、あやまちつかまつるなといひけれども、さないはせそ、ゐんぜんであるに、ただうち
ころせころせとてうつあひだ、あるひはかしらをうちわられてうまよりおち、はうばうにぐるものもあり、
あるひはうちころさるるものもおほかりけり。八でうがすゑをば、さんぞうどものかためたりけるが、はぢある
ものはうちじにし、つれなきものはおちぞゆく。ここにもんどのかみちかなりは、うしあをのかりぎぬのしたに、もえ
ぎにほひのはらまきをきて、つきげなるうまにきんぷくりんのくらをおいてのつたりけるが、かはらをのぼり
におちゆくところを、いまゐの四らうかねひらむちあぶみをあはせておつつき、しやくびのほねをひやうすばと
いきる。せいだいげきよりなりのこなりけり。みやうぎやうだうのはかせかつちうをよろふこと、しかるべからずと
ぞひとまをしける。さるほどにきそをそむいてゐんかたへまゐりたるしなののげんじ、むらかみのさぶらうはんぐわんだいも
うたれぬ。これをはじめてゐんかたにはあふみのちうじやうためきよ、ゑちぜんのせうしやうのぶゆきもうちころされてくびとられぬ。
はうきのかみみつなが、しそくはうきのはうぐわんみつなほもふしともにうちころされぬ。あぜちのだいなごんすけかたのきやう
のまご、はりまのせうしやうまさかたは、よろひにたてゑぼしにていくさのぢんへいでられけるたりがひぐちのじらうかね
みつがてにかかつていけどりにこそせられけれ。てんだいざすめいうんだいそうじやう、てらのちやうりゑんけいほふしんわう
も、ごしよにまゐりこもられたまひたりけるが、くろけふりすでにおしかけければ、おんうまにめして、いそ
ぎかはらへにげいでたまふ。ぶしどもさんざんにいたてまつる。めいうんだいそうじやう、ゑんけいほふしんわうもおんうまよりいおと

されて、おんくびとられさせたまひけり。ほふわうはおんこしにめして、たしよへごかうなる。ぶしどもさん
ざんにいたてまつる。ぶんごのせうしやうむねなが、むくらんぢのひたたれにをりゑぼしにて、ぐぶせられたりけるが、
これはほふわうのごかうぞあやまちつかまつるなとまをされたりければ、つはものどもみなうまよりおりてかしこまる。なにものぞ
とおんたづねありければ、しなののくにのぢうにん、やしまの四らうゆきつなとなのりまをす。やがておんこしにて
かけまゐらせて、五でうだいりへいれたてまつつて、きびしうしゆごしたてまつる。ぶんごのこくしぎやうぶきやうざんみより
すけのきやうも、ごしよにまゐりこもられたりけるが、ひはすでにおしかけたりければ、いそぎかはらへに
げいでらる。ぶしのしもべどもに、いしやうみなはぎとられて、まつぱだかにてたたれたり。いくさは十一
ぐわつ十九にちのあしたなりければ、かはらのかぜさこそすさまじかりけめ。ここにざんみのこぜうと、ゑちぜん
のほふけうしやういといふそうあり、そのちうげんぼふしのいくさみんとてかはらへいでたりけるが、ざんみの
はだかにてたたれたるにみあうて、あなあさましとて、はしりよる。このほふしは、しろいこそで
二つにころもをきたりけるが、さらばこそでをもいいできせたてまつれかし、ころもをぬいてなげかけ
たり。みじかきころもうつぼにほほかぶつて、おびもせず、うしろのていさこそみぐるしかりけめ。びやくいなる
ほふしをともにぐしておはしけるが、さらばいそぎもあゆみたまはで、あそこここにたちどまりて
あれはたがいへぞ、これはなにもののしゆくしよぞ、ここをばいづくといふぞととひたまへば、みるひと
てをたたいてわらひあへり。しゆじやうはほうれんにめして、いけのみぎはへぎやうがうなる。ぶしどもしきりにやを

まゐらせければ、七でうのじじうのぶきよ、きいのかみのりみちおんふねにさふらはれけるが、これはうちにてわたら
せたまふぞ、あやまちつかまつるなとまをされたりければ、つはものどもみなうまよりおりてかしこまる。かんゐんどのへぎやうかう
なしたてまつる。ぎやうがうのぎしきのあさましさ、まをすもなかなかおろかなり。ゐんかたのさふらはれけ
るあふみのかみなかかねは、そのせい五十きばかりで、ほふぢうじどのの、にしのもんをかためてふせぐところに、
あふみげんじやまもとのくわんじやよしたか、むちあぶみをあはせてはせきたり、いかにおのおのはたれをかばはんとて、
いくさをばしたまふぞ、ごかうもぎやうかうもはやたしよへなりぬとこそきけといひければ、さらばと
てたいぜいのなかへかけいり、さんざんにたたかひうちやぶつてぞいでにける。ただしゆじゆ八きにぞなりにける。
八きがなかに、かはちのくさかたうに、かがのばうといふほふしむしやあり。しらあしげなるうまのきはめてくちの
こはきにぞのつたりける。このうまはあまりにくちがこはうて、のりたまつつべしともぞんじさふらはず、
とまをしければ、げんくらうど、さらばわがうまにのりかへよとて、くろきうまのしたをじろいにのりか
へて、ねのゐのこやたが、二百よきばかりでひかへたる、かはらざかのせいのなかへかけいり、
さんざんにたたかひ、うちやぶつてぞいでにける。ただしゆじゆ三きにぞなりにける。かがのばうはわがうま
のひあひなりとて、しゆのうまにのりかへたれども、うんやつきにけん、そこにてつひにうた
れにけり。ここにげんのくらんどのいへのこに、しなののじらうくらんどなかよりといふものあり。たいぜいにお
しへだてられて、くらんどのゆくへをしらず。くろきうまのしたをじろいが、かけいでたるをみて、げ

にんをよび、ここなるうまを、げんくらんどのうまとみるはひがごとか。はやうたれたまひけるにこそ。し
なば一しよでしなんとこそちぎりしか、どのせいのなかへいるとかみつる。あのかはらざかのせいのなか
へこそかけいらせたまひつるなれ。おんうまもやがてあのせいのなかよりいできたつてさふらふ、とまをしけ
れば、さらばとてさいしのもとへさいごのありさまいひつかはし、ただ一きたいぜいのなかへかけいり、あぶみふ
んばりたちあがり、だいおんじやうをあげて、あつざねのしんわうに九だいのこういん、しなののかみなかしげがじなん、
しなののじらうくらんどなかよりしやうねん廿七いくさをばかうすれ、われとおもはんひとびとはよせあへや、げんざんせ
んとて、たてざま、よこざま、くまで、十もんじにかけわりかけまはり、たたかひけるが、てきあま
たうちとつてつひにうちじにしてんげり。げんくらんどこれをばゆめにもしりたまはず。あにのかはちのかみ
なかのぶまたらうどう一き、しゆじゆ三きみなみをさしておちゆきけるが、せつしやうどののみやこをば、いくさにおそれさ
せたまひて、うぢへぎよしゆつありけるに、こはたやまにておつつきたてまつり、うまよりおりてかしこまる。き
そがよたうかとおぼしめしてなにものぞとおんたづねありければ、なかのぶ、なかかぬとなのりまをす。ほくくこのきようとら
かとこそおぼしめしつるに、しんびやうにもまゐじたるものかな、ちかうさふらひてしゆごつかまつれとあふせけ
れば、かしこまりうけたまはつて、うぢのふけどもまでおくりまゐらせて、それよりこのひとびとは、かはち
へぞおちゆきける。あくるはつかのひ、きそのさまのかみよしなか、六でうがはらにうつたつて、きの
ふきるところのくびども、かけならべてしるいたりければ、七百三十よにんなり。そのなかにてんだいざ

すめいうんだいそうじやう、てらのちやうりゑんけいほふしんわうのおんくびもかけらせたまひたり。これをみるひと、なみだをながさ
ずといふことなし。きそそのせいの七千よき、うまのかしらをひんがしへむけ、てんもひびきちもゆるぐばか
りに、ときをぞみたびつくりける。きやうぢうまたさわぎあへり。ただしこれはよろこびのときとぞきこえし。
さるほどに、こせうなごんにふだうしんせいのしそく、さいしやうながのり、ほふわうのわたらせたまふ五でうだいりへまゐつて、
これをそうすべきことのあるぞ、いれよとのたまへどもしごのぶしどもゆるさず。ちからおよばずあるせうをくに
たちより、にはかにかみそりおろし、すみぞめのころもはかまきて、このうへはなにかくるしかるべき、いれよとのたま
へば、そのときゆるしたてまつる。なくなくごぜんへまゐつて、こんどうたれたまへるひとびとのこと、つぶさにそう
もんせられたりければ、ほふわうおんなみだをながさせたまひて、めいうんはひごうのしにすべきものとは、
つゆもおぼしめしよらざりつるものを、こんどはただちんがいかにもなるべかりつる、おんいのちにかは
りけるにこそとて、おんなみだせきあへさせたまはず。きそさきのくわんぱくまつとののひめぎみとりたてまつつて、
まつとののむこにおしなる。きそいへのこらうどうどもめしあつめてひやうていす。そもそもよしなかいつてんのきみにむかひ
まゐらせて、いくさにはうちかちぬ。ほふわうにやならまし、しゆじやうにやならまし。ほふわうにならう
どおもへども、ほふしにならんもみぐるしかるべし。しゆじやうにならうとおもへども、わらはにならん
もしかるべからず。よしよし、さらばくわんぱくにならうどいひければ、てかきにぐせられたり
ける、だいぶばうかくめいすすみいでて、くわんぱくにはふぢはらこそならせたまひさふらへ。とのはげんじでわたらせ

たまへば、それこそにはひさふらふまじとまをしければ、さらばとて、ゐんのうまやのべつたうにおしな
つて、たんばのくにをぞちぎやうしける。ゐんのごしゆつけあれば、ほふわうとまをし、しゆじやうのいまだおんげんぷく
なきほどは、ごとうぎやうにてわたらせたまふを、しらざるけるこそうたてけれ。二十三にち、三でうの
だいなごんともかたのきやうをはじめたてまつつて、げつけいうんかく四十九にんのくわんしよくをとどめて、みなおつこめたてまつる。
へいけのときは四十三にんをこそとどめられしか、これは四十九にんなれば、へいけのあくぎやうにはなほてう
くわせり。さるほどにかまくらのさきのひやうゑのすけよりとも、きそがらうぜきしづめんとて、のりよりよしつねをさきと
してつがふ六まんよきをさしのぼせられけるが、みやこにはいくさいできて、ごしよだいりみなやきはらひ、
ゐんをもうちをもとりたてまつつててんがくらやみとなつたるよしきこえしかば、さうなうのぼつていくさすべきや
うなし、ただこれよりしさいをかまくらへまをさんとて、をはりのくにあつたのだいぐうしがたちにおはしける
に、このことうつたへんとて、ほくめんにさふらひける、くないはうぐわんきんとも、とうないざゑもんときもり、よをひについ
でをはりのくにへはせくだり、このよしかくとまをしければ、九らうおんざうしよしつね、これはくわんとうへくだ
らるべきにてさふらふぞ。しさいしらぬつかひは、かへしてとはるるとき、ふしんののこるにとのたまへ
ば、きんともいそぎかまくらへくだる。このたびのいくさに、いへのこらうどうどもみなおちうせうたれにしかば、
しそくのくないどころきんもぢとて、しやうねん十五になるをぞぐしたりける。よをひについでかまくら
へはせくだり、このよしうつたへまをしたりければ、かまくらどの、これはつづみはうぐわんがふしぎのことまをしいだいて、

きみをもなやましたてまつり、おほくのかうそうきそうをもほろぼしうしなひてげるにこそ。ともやすにおいてはゐんのゐ
かんのものなり。めしつかはせたまひなば、かさねておんだいじいできさふらひなんずと、はやうまをもつてみやこへまを
されたりければ、ともやすこのことちんぜんとてよをひについでかまくらへはせくだる。ひやうゑのすけやつ
にめなみせそ、あひしらひなせそとのたまへども、ひごとにひやうゑのすけのたちへむかふ。つひにたいめん
もなくして、またみやこへかへりのぼり、のちにはいなりのへんなるところにて、いのちばかりいきてすごしける
とぞきこえし。さるほどにきそのさまのかみよしなかさいこくへししやをたて、いそぎのぼらせたまへ、一つに
なつてとうごくせめんとまをしおくつたりければ、おほいとのはよろこばれけれどもへいだいなごんしんぢうなごんは、
さこそよのすゑにてさふらふとも、よしなからにかたらはれてみやこへかへりのぼらせたまはんこともしかるべ
からず。十ぜんていわうに、三じゆのじんきをたいしてわたらせたまへば、かぶとをぬぎゆみのつるをはづいて、
かうにんになりこれへまゐれとまをさせたまふべうもやさふらふらん、とまをされたりければ、おほいとのそ
のさまをへんじありしかども、きそもちひたてまつらず。まつどのにふだうどのへたちへ、きそをめして、きよ
もりこうはさばかんのあくぎやうにんたりしかども、きたいのだいぜんこんをしおきたればにや、よをもおだ
しう二十よねんまでたもつたりしなり。あくぎやうばかりで、よをたもつことはなきものを、させる
ゆゑなうして、おしこめたてまつつたるひとびとのくわんとども、みなゆるすべきよしあふせければ、ひたすらのあら
えびすのやうなれども、したがひたてまつつて、けつくわんしたるひとびとのくわんどども、みなゆるしたてまつる。まつどのの

おんこもろいへのきやう、そのときはいまだざんみのじじうにておはしけるを、きそがはからひにて、だいじんせつ
しやうになしたてまつる。をりふしだいじんのあかざりければ、そのころのとくだいじとのの、ないだいじんにてましまし
けるを、かりたてまつつてないだいじんになしたてまつる。いつしかひとのくちなれば、しんせつしやうとのをば、かりの
だいじんとぞまをしける。おなじき十一ぐわつとほかのひ、ほふわうは五でうのだいりをいでさせたまひて、だいぜん
のだいぶなりただがしゆくしよ、六でうにしのどうゐんへごかうなる。おなじき十三にちさいまつのみじゆほふあり。そのひぢ
おくおこなはれて、きそがはからひにて、ひとびとのくわんどおもふさまにぞなしおきける。へいけはさいこくに、
ひやうゑのすけはとうごくに、きそはみやこにはりおこなふ。ぜんかんごかんのあひだ、わうもんがよをうつとつて、十
八ねんをさめたりしがごとし。よものせきせきみなとぢたれば、おほやけのみつきものをもたてまつらず、わたくしのねん
ぐものぼらねば、きやうぢうのじやうげただせうすゐのうをにことならず。あぶなながらもとしくれて、じゆ
えいもみとせになりにけり。