平家物語(城方本・八坂系)
巻第二  

座主流 201
あんげん三ねん五ぐわつ五かのひてんだいざすめいうんだいそうじやうくじやうをとどめてけつくわんせられたまふうへくらんどをおんつかひにてによいりんのごほんぞんをめしかへしたてまつつてごぢそうをかいえきせらるすなはちしちやうのつかひをつけてこんどだいりへしんよふりたてまつりししゆとのちやうぽんをぞめされけるまたかがのくににざすのごばうりやうありもろたかこれをちやうはいのあひだもんとのだいしゆをかたらつてそしせうをいたすこれすでにてうかのおんだいじにおよびぬべきよしさいくわうほうしふしがむじつのざんそうによつてほうわうつみなきめいうんをぢうくわにおぼしめしさだめけりめいうんもまたほうわうのごきそくあしきよしきこえしかばいんやくをかへしたてまつつてざすをじしまをされけりおなじき十一にちにとばのゐんの七のみやかくくわいほうしんわうてんだいざすにならせたまふこれはこしやうれんゐんのだいそうじやうぎやうげんのみでしなりおなじき十二にちにせんざすをばすでにすゐくわのせめにおよびぬべきよしきこえしかばおなじき十三にちにだいじやうだいじんいげのくぎやう十六にんさんだいあつてぢんのざにつきさきのざすざいくわのことぎぢやうありなかにも八でうのちうなごんながかたのきやうのいまだそのころさだいべんのさいしやうにてばつざにさふらはれけるがすすみいでてまをされけるはほつけのかんじやうにまかせしざい一とうをげんじをんるせらるべしとはみえてさふらへどもこのめいうんはじやうぎやうぢりつなるうへけんみつけんがくして一じようめうきやうをくげにさづけたてまつり三しゆじやうかいをほふわう(ほうわう)にたもたせたてまつるあるひはおんきやうのしなりあるひはごかいのしなりてうくわのをんるにおこなはれんことみやうのせうらんはかりがたしさればげんぞくをんるをもともになだめまをさるべきかといささかはばかるところもなうまをされたりければたうざのくぎやうもつともながかたのきやうのぎにどうずとはのたまひあはれけれどもほうわうのおんいきどほりふかかりければなほてうくわにおぼしめしさだめけりそうをつみするならひとてどゑんをとつてげんぞくせさせたてまつりだいなごんのたいふふぢゐのまつえだといふぞくみやうをつけられけるこそうたてけれおなじきはつかのひせんざすをばすでにいづのくにへながしたてまつらるべきよしきこえしかばにふだうしやうごくもこのことなだめまをさんとてゐんざんまをされたりけれどもほうわうおんかぜのここちとてごぜんへもめされざりければいきどほりふかげにてぞいでられけるおなじき廿二にちにせんざすをばけふすでにみやこのうちをおひいだしたてまつるべしとておつたてのくわんにんりやうそうしらしらかはのごばうにまゐりむかひこのよしまをしたりければせんざすすこしもやすらふべきにあらずとていそぎごばうをいでさせたまひそのひはあはたぐちのほとり一さいきやうのべつしよになくなくたちぞしのばせたまひけるさるほどにさんもんのだいしゆだいかうだうのにはにしゆゑしてせんぎしけるはそもそもわれらがかたきはさいくわうほうしふしなりとてかれらおやこがみやうじをかいてこんぽんちうだうにおはしますこんぴらたいしやうのひだりのみあしのしたにふませたてまつりねがはくは十二じんしやう七千やしやじこくをめぐらさずさいくわうほうしふしがいのちをめしとらせたまへやとをめきさけんでしゆそしけるこそおそろしけれおなじき廿三にちにせんざすいつさいきやうのべつしよをなくなくたちぞいでさせたまひけるさしものほふむのだいそうじやうほどのひとにかうぞめのおんころもをばきせたてまつりながらてんまのうたてげなるにのせたてまつりおつたてのくわんにんりやうそうしらがさきにけたてたてまつつてけふをかぎりにせきのひんがしへこえられけるみこころのうちおしはかられてあはれなりおほつのうちでのはまにもなりしかばもんじゆろうののきばのしろじろとしてみえけるをふためともみたまはずそでをかほにおしあててなくなくそこをぞすぎられけるなかにもぎをんのべつたうちようけんほういんのいまだそのころごんだいそうづにておはしけるがせんざすのおんなごりををしみたてまつりあはづまでおくりたてまつつてかへられけるにせんざすちようけんのはるばるとこれまでとぶらひきたりたまへるこころざしのほどをかんじたまひてねんらいごしんぢうにひせられけるてんだいゑんじゆのひほふ一しん三くわんのもんならびにけちみやくせうじようのしだいをちようけんにさづけらるそもそもこのひほふとまをすはしやかふぞくのでしはらないこくのめみやうびくなんてんぢくのりうじゆぼさつよりこのかたしだいにさうでんしきたれりしかるをけふのなさけにちようけんにこれをさづけらるさすがわがてうはぞくさんへんちのさかひとはまをしながらちょうけんこれをふぞくしてありがたさにほうえのそでをかほにあてなくなくかへりたまひけりそもそもこのめいうんとまをしたてまつるはむらかみのてんわうにだい七のわうじぐへいしんわうに五だいのまごこがのだいなごんあきみちのきやうのおんこなりじやうぎやうぢりつなるうへけんみつけんがくしてならびなきかうそうにてましましければ六しようじならびにてんわうじのべつたうをもかねたまへりにんあん三ねん二ぐわつ十五にちにてんだいざすにならせたまふそのときあべのやすちかこのめいうんをみたてまつつてぎようとくのほどはありがたけれどもただしおんなこそこころえられねめいうんはかみにじつげつのひかりをならべてしもにくもありとぞなんじまをしけるむかしでんけうだいしちうだうのはうざうにこめられたりけるはう一しやくのはこありしろききぬにてつつまれたりかのなかにわうしにかけるふみ一くわんありこれはでんけうだいしまつだいのざすのしだいをかねてあそばしおかれたりさればだいだいのざすごはいだうのおんときかのはこをあけふみをひらいてみたまふにわがなのあるところまではみたまひてそれよりおくをばみずしてまきをさめておかるるならひありさればこのめいうんもごはいだうのおんときかのはこをあけふみをひらいてみたまふにぎしんくわしやうよりこのかたてんだいざすはじまつて五十五だいめいうんとまをすおんなありかほどめでたきかうそうにてましましけれどもいかなるつみのむくいにかいまるざいせられたまふらんさるほどにさんもんのだいしゆだいかうだうのにはにしゆゑしてせんぎしけるはでんけうじかくのおんことはなかなかまうすにおよばずぎしんくわしやうよりこのかたてんだいざすはじまつて五十五だいいまだるざいのれいをきかずつらつらことのこころをあんずるにさんぬるえんりやくのころほひくわんむてんわうでんけうだいしとおんちぎりをむすばせたまひくわうていはていとをたてだいしたうさんによぢのぼりこのところにしめいのけうぼふをひろめたまひしよりこのかたながく五しやうのによにんあとたえて三千のじやうりよきよをしめたりみねには一じようどくじゆとしふりてふもとには七しやのれいげんあらたなりかのぐわつしのりやうぜんはていとのとうぼくにそばだつてだいしやうのいうくつたりじちゐきのえいがくはわうじやうのきもんにあたつてごこくのれいちたりさればだいだいのけんわうちしんみなこのところにだんじやうをしむこはまつだいといはぬからにいかでかわがやまのくわんしゆをたこくへはうつさるべきこはこころうしなんどをめきさけぶほどこそありけれ三千のだいしゆ一にんものこらずみなひがしさかもとにおりくだるそののち三千のだいしゆ十ぜんじごんげんのおんまへにしうゑしてせんぎしけるはおつたてのくわんにんりやうそうしらがあんなればわれらこんどあはづにゆきむかひるにんをうばひとどめたてまつらんことありがたしいまは十ぜんじごんげんのおんちからのほかはまたたのみたてまつるかたなしとてかんたんをくだいていのりたてまつりけるにここにじようゑんりつしがわらはにつるまるとてしやうねん十八さいになりけるがしんじんをくるしめ五たいにあせをながしわれに十ぜんじごんげんののりゐさせたまへりとてたくせんしていはくしやうじやうせぜにこころうしこはまつだいといはんからにいかでかわがやまのくわんしゆをたこくへはうつすべきさらんにとつてはわれこのやまのふもとにあとをたれてもなににかはせむとなりだいしゆずゐきのなみだをながしまことのれいけんにてましまさばわれらしるしをたてまつらんまづひとつのずゐさうをみせしめたまへとておもてにたちならびたるらうそう千よにんがてんでにもちたるじゆずどもをおほゆかのうへへぞなげあげたるくだんのものつきはしりめぐりつかのごとくにとりあつめすこしもたがへずもとのぬしにくばりわたすだいしゆいまは十ぜんじごんげんのれいけんあらたにましましけりわれらこんどあはづにゆきむかひるにんをうばひとどめたてまつらんことうたがひなしとよろこびていさみをなしてぞむかひけるあるひはべうべうたるしがからさきのはまぢにあゆみつづけるだいしゆもありあるひはやまだやばせのこじやうにふねおしいだすしゆともありたいぜいうんかのごとくにむかひければさしもきびしげなりつるおつたてのくわんにんりやうそうしらざすをばあはづのこくぶんじのみだうのまへにすておきたてまつつてみなちりぢりにこそなりにけれだいしゆまゐりければせんざすのたまひけるはけふすでにみやこのうちをおひいださるべしといふゐんぜんせんじのなりぬるうへはすこしもやすらふべきにあらずとてはしぢかうゐいでのたまひけるはわれ三たいくわいもんのいへをいで四めいけいけいのまどにいつしよりこのかたひろくゑんしうのけうぼふをがくしけんみつりやうしうをまなべりひとへにわがやまのこうりうをのみおもへりしゆとをはごくむこころざしもふかかりきまたこくかをいのりたてまつることもあさからざりきりやうしよさんじやうさんわう七しやもさだめてせうらんしたまふらんつみなくしてとがをかうむることこれひとへにぜんぜのしゆくしふとのみおもへばまつたうよをもひとをもかみをもほとけをもうらみたてまつらずしゆとのこれまではるばるととぶらひきたりたまへるはうしこそいつのよまでわすれがたけれとてかうぞめのおんころものそでしぼるばかりにみえられければだいしゆもみなよろひのそでをぞぬらしけるだいしゆおんこしさしよせいまはとうとうめさるべうさふらふとまをしたりければせんざすのたまひけるはわれすでにるにんのみとしていかでかちゑふかきしゆがくしややごとなきだいとくたちにかきささげられてはのぼるべきたとひかへりのぼるともおなじうあゆみつづきてこそはのぼるべけれとてさうなうのりたまはずここにさいたふのぢうりよかいじやうばうのあじやりいうけいとてそのたけ七しやくばかりありけるがふしなはめのよろひのかねまぜたるをくさずりながにきなしくはがたうつたる三まいかぶとのををしめしらえのおほなぎなたのさやをはづいてつゑにつきはるかのごぢんにたちたりけるがかぶとをばぬいでうしろへかつばとなげけるをげにんのほうしとりてんげりそののちたいぜいのなかをおしわけおしわけせんざすのおんまへにつつとまゐりだいのまなこにかどをたてざすをはつたとにらみたてまつつてあなあさましそのみこころにてわたらせたまへばこそいまかかるうきめにはあはせたまへとうとうめさるべうさふらふとておんてをとつてあらけなくひつたてまゐらせければざすあまりのおそろしさにやいそぎおんこしにぞめされけるだいしゆせんざすとりえたてまつつたることをよろこびていやしきほうしばらにあらずちゑふかきしゆがくしややごとなきだいとくたちかきささげてぞのぼりけるやがてさきごしをばいうけいかくひとはかはれどもいうけいはかはらずごぢんはよわれどもせんぢんはつかれずこしのながえもなぎなたのえもをれよくだけよともつままにさしもさかしきひんがしざかへいちをゆくがごとくにてだいかうだうのにはにぞかきすゑたるそののち三千のだいしゆまただいかうだうのにはにしふゑしてせんぎしけるはわれらこんどるにんをうばひとどめたてまつつていかでかわがやまのくわんしゆとはあがめたてまつるべきとせんぎしけるところにいうけいまたさきのごとくにすすみいでてそれわがやまはにつぽんぶさうのれいちちんごこくかのだうぢやうなりさればしゆとのいしゆもよさんにこえいやしきほうしばらにいたるまでよもつてこれをかろんぜずちゑかうきにして三千のくわんしゆたりとくぎやうおもうしていつさんのくわしやうたりわれらこんどけんみつのあるじをうしなひたてまつつてけいせつのつとめおこたらんこととうだいこうぶくをんじやうのあざけりさんじやうらくちうのいきどほりにあらずやいうけいこんどちやうぽんにしようせられきんごくるざいかうべをはねられまゐらせむことこんじやうのめんぼくめいどのおもひいでなるべしとてさうがんよりなみだをはらはらとながしければだいしゆもつともとてまたおんこしかきささげたてまつつてとうたふのみなみだにめうくわうばうへいれたてまつるそれよりしてぞいうけいをばいかめばうとはまをしけるさればときのわうさいをばいかなるごんげのひとものがれたまはざるにやだいたうの一ぎやうあじやりはげんそうくわうていのごぢそうなりくわうていのきさきやうきひになだちたまへることありこれあとかたなきむじつのとがなりけれどもくわらこくへぞながされけるくだんのくにへは三のみちありいうちだうりんちだうあんけつだうとぞまをしけるいうちだうはみゆきみちりんちだうはざふにんのかよひぢなかにもあんけつだうとまをすはぢうぼんのものをつかはすに七か七やがあひだつきひのひかりをみずしてゆくみちなり一ぎやうぢうぼんのひとなればとてかのあんけつだうよりぞながされけるみやうみやうとしてひとりゆくかうほうに千どまよひしんしんとしてやまふかくただかんこくにとりの一こゑばかりにてこけのぬれぎぬほしあへずてんだうむじつのとがをあはれませたまふことなれば九えうのかたちをげんじて一ぎやうをてらしたまふときに一ぎやうみぎのゆびをくひきつてひだりのそでに九えうのかたちをぞうつされけるわかんりやうてうにしんごんのほんぞんたる九えうのまんだらこれなり

西光がきられ 202
こんどさんもんのだいしゆのせんざすとりとどめたてまつたることをほうわうきこしめされておほきにやすからずとぞおほせけるれいのさいくわうがまをしけるはむかしよりさんもんのだいしゆのみだりがはしきそしようさふらふこといまにはじめずとはまをしながらこれらほどのらうぜきをばいまだうけたまはりおよばずよはよにてもさふらふまじとわがみのたつたいまほろびんずるをもしらずまたさんわうだいしのしんりよにもはばからずかやうにまをしてしんきんをなやましたてまつるそうらんしげからんとすればあきのかぜこれをやぶりわうしやあきらかならんとすればざんしんこれをくらうすともいへりざんしんはくにをみだりとふはいへをやぶるともかやうのことをやまをすべきさるほどにほうわうはしんだいなごんなりちかのきやういげごきんじゆのひとびとそのほかほくめんのともがらにおほせてやませめらるべしとぞきこえしさんもんのだいしゆこのよしをつたへうけたまはつてわれらわうどにはらまれながらさのみぜうめいをたいかんすべきにあらずとてないないはゐんぜんにしたがひつきたてまつるしゆともせうせうありなんどきこえしかばせんざすはめうくわうばうにおはしけるがこのよしをききたまひてまたいかなるうきめにかあはむずらんとてやすきこころもしたまはずさるほどにしんだいなごんなりちかのきやうはたうじさんもんのさうどうによつてわたくしのしゆくいをばしばらくおさへられたりそもそもないぎしたくはさまさまなりしかどもおほかたのぎせいばかりにてはいかにもかなふべうもみえざりけるにむねとたのまれたりけるつのくにげんじただのくらんどゆきつなこのことむやくなりとおもふこころぞいできにけるつらつらへいけのはんじやうをみるにたやすくかたぶけがたしまただいなごんどののかたらはるるところのぐんびやういくほどなしゆきつなよしなきことにくみしたりこのことてんかにもれなばまづゆきつなさきにうしなはれなんずさればひとのくちよりもれぬさきにこのことへいけへまをしわがみのさいなんをのがればやとおもひければおなじき五ぐわつ廿九にちのよにいつてにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうどのへぞまゐりたるにふだうやがていであひたいめんしたまひてこのよははるかにふけぬらんにそもなにごとぞとのたまへばゆきつなさんさふらふたうじごきんじゆのひとびとのひやうぐをととのへぐんびやうあつめられさふらふをばいまだしろしめされさふらはぬやらんとまをしたりければにふだうよにもこともなげにてわうそれはほうわうのやませめらるべしとこそきけとのたまへばゆきつなゐよりていやそのぎにてはさふらはずたうじごきんじゆのひとびとのご一もんをかたぶけまゐらせんとこそぎせられげにさふらへとまをしたりければにふだうもつてのほかにおどろきたまひてさてさやうのことどもをばゐんにもしろしめされたるかまをすにやおよびさふらふしつじのべつたうしんだいなごんどののぐんぴやうあつめられさふらひしにもゐんぜんとてこそもよほされさふらひしかそのほかさいくわうがとまをしてしゆんくわんがかうまをしてなんどあるままにもさしすぎてまをしちらしいとままをしてまかりいづにふだうもつてのほかのおほごゑをもつてさぶらひどもよびののしりたまふこゑおそろしくゆきつなもなまじひなることまをしいだしわがみもそのしようにんにやひかれつらんとおもひければひともおはぬにとりはかましおほのにひをはなつたるここちしてもんぜんにはしりいでばばなるむまにうちのりていそぎしゆくしよへにげかへるにふだうさだよしとめすちくごのかみさだよしおんまへにまゐりかしこまるにふだうややさだよしきやうちうにむほんのともがらどもがみちみちたんなるぞひとびとにもふれまをせさぶらひどもめすべしとのたまへばさだよしうけたまはつてきやうちうをもよほしけるにこまつどのばかりこそなにごとにもさわぎたまはぬひとにてさんぜられねそのほかのひとびとにはとうのちうじやうくらんどのかみさまのかみいげのくぎやうでんじやうびとみなわれもわれもとはせまゐらるそのほかさぶらひぐんびやうどもわれもわれもとはせたりけりよのほどににし八でうどのには四五千きにこそなりにけれあくれば六ぐわつついたちのまだくらかりけるににふだうけんびゐしあべのすけなりをめしてやよすけなりゐんのごしよにまゐりだいぜんのだいぶよびいだしそうせうずるやうよなごきんしゆのともがらどもがあまりのくわぶんにてあまつさへじやうかいをかたぶけんとけつこうつかまつりさふらふをいちいちにめしとつてことのしさいをたづねうけたまはりまをさうずるをばゐんにはしろしめさるまじうさふらふとまをせとてつかはさるすけなりゐんのごしよにまゐりだいぜんのだいぶをよびいだしこのよしまをしたりければほうわうあはれこれはひごろはかりしことのはやもれきこえたるにこそとおぼしめすよりあさましくてこはなにごとぞとばかりにてふんみやうのごへんじもなかりければすけなりさればこそとむやくにていそぎかへりまゐるべきよしをいひいれつつにし八でうにかへりまゐりてこのよしまをしたりければにふだうさればこそよもごへんじはあらじゆきつなはまことをいひけりこのことつげしらせずはにふだうあんをんにてやあるべきとてやがてなんばせのををめしてむほんのともがらどもからめとるべきやうをいちいちしだいにげぢせらるなかのみかどからすまるのしんだいなごんなりちかのきやうのもとへざふしきをもつてきつとたちよらせさふらへいささかのたまひあはすべきことのさふらふとのたまひつかはされたりければだいなごんあはれこれはたうじさんもんのさうどうのことをゐんへそうせんとにやらんそのぎならばおんいきどほりもつてのほかげなるものをとてわがみのうへとはつゆしりたまはずないきよげなるほうえたをやかにきなしつつ八えふのくるまのあざやかなるにのりたまふうしかひざふしきにいたるまでみなきよげにてぞいでられけるそもさいごとはのちにぞおもひしられけるだいなごんにし八でうちかうなるままにそのへんをみたまへばもののぐしたるつはものどもが四五ちやう十ちやうにところもなくぞみちみちたるだいなごんこはなにごとやらんとむねうちさわぎもんをさしいりてみたまへばちうもんのとにはおそろしげによろうたるむしや二にんだいなごんどのにたちむかひたてまつりだいなごんどののさうのてをとつてひつぱりにはへひきおとしたてまつつてこはいましめたてまつるべうもやさふらふらんとまをしたりければにふだうすこしはらゐてあるべからずとのたまへばうけたまはつてつはものす十にんがなかにとりこめたてまつつてひとまなるところにおしこめたてまつるだいなごんただゆめのここちぞしたまひけるおんともにさふらひけるしよたいふさぶらひどもいくらもありけれどもたいぜいにおしへだてられてものをだにもまをさずうしかひざふしきにいたるまでくるまをすててみなちりぢりにこそなりにけれこれをはじめとしてへいけのさぶらひども二百よき三百よきしよしよにおしよせおしよせむほんのともがらども一々しだいにからめとりまづあふみのちうじやうにふだうれんじやうやましろのかみもとかねしきぶのたいふまさつなそうのはんぐわんのぶふさしんへいはんぐわんすけゆきへいはんぐわんやすよりほつしようじのしふぎやうしゆんくわんそうづもからめられてぞいできたるさいくわうこれもこのことゐんへそうせんとていそぎむちあぶみあはせてはせまゐるへいけのさぶらひどもみちにてゆきあうたりいかにごへんにし八でうどのよりめしのさうぞきとまゐりたまへといひければさいくわうこれもいささかゐんへそうすべきやうあつてまゐりさふらふいかさまにもやがてまゐらむずるさふらふとてうちすぎんとすにつくいにふだうのなにごとをかそうすべきさないはせそといふままにむまよりとつてあておとしてからめとるひのはじめよりどういよりきのものなりければしたたかにいましめてにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうへぐしてまゐりおんつぼのうちにぞひつすゑたるにふだうごらんじてあはれこのひごろいかにもしてじやうかいをかたぶけんとせしやつばらどものなれるすがたのおもしろさよしやつここへひきよせよやとてえんのきはにひきふせさせまづおほきなるむちをもつてこころのゆくゆくうちてのたまひけるはやれおのれがやうなるげらふのはてをきみのめしつかはせたまひてなさるまじきくわんしよくをたうでふしともにくわぶんのふるまひせしやつばらとみしにあはせてあやまらぬてんだいざするざいにまをしおこなひあまつさへじやうかいをかたぶけんとせしむほんにんひのはじめよりみなひとしつたりいささかそのやうをすみやかにまをせにつくいにふだうのとのたまへばさいくわうちつともいろもへんぜずわるびれたるきしよくもなくゐなほりいでいでさらばのちごとひとつはなさんとていいやさもさうぬぞとよしつじのべつたうしんだいなごんどののぐんびやうあつめられさふらひしかばゐんちうにめしつかはるるもののみなればくみせぬとはまをすまじそれはくみしたりただしごへんはみみにとどまることをものたまふものかなたにんのまへはしらずさいくわうなんどがまへにてはさやうのくわんぶんのことばをばえこそのたまふまじけれみさうざつしことかごへんはこぎやうぶきやうのこにてはありしかども十四五まではしゆつしもなくこなかのみかどのとうのちうなごんかせいのきやうのもとにたちよりたまひしをばきやうわらんべはれいのたかへいたとこそわらひしかいんじはうえんのころかとよごへんのちちただもりのはかりごといみじうしてかいぞくのちやうぽんにん四十よにんめししんぜられたりしけんしやうにごへんのいまだそのころ十八か九にて四ゐして四ゐのひやうゑのすけといはれたまひしをばひといつしかなりとまをししがひごろはでんじやうのまじはりをだにもきらはれたまひしひとのしそんのいまはきんじきざつはうをゆりりようらきんしうをみにまとひあまつさへだいじんたいしやうにいたつてきみをもきみとはせずしんをもしんとせぬをこそくわぶんとはいへさぶらひほどのもののじゆりやうけびゐしになることせんれいはふれいなきにあらずさればなにごとかくわぶんなるべきにふだうどのといひければにふだうあまりにはらをすゑかねてしばしはものをものたまはずややあつてにふだうしやうごくのたまひけるはしやつここへひきよせよやとてえんのきはにあをのけにひきふせさせさいくわうがしやつらをものはきながらむんずむんずとふんでしやつにものないはせそしたをぬけくちをさけとぞいかられけるまつうらのたらういへとしとまをすものちうにくくつていでにけりそののちあしてをはさみがうきにかけさまざまにいためとふさいくわうもとよりあらがひざつしうへきうもんはきびしかりけりことのしさいのこりなうこそおちたりけれはくじやうをかみ四五まいにきせられけりそののち五でうにしのしゆじやかにひきいだししたをぬきくちをさきつひにかうべをはねられけりじなんこんどうはんぐわんもろつねきんごくせられたりけるをもめしいだしおととさゑもんのじようもろひらともにかうべをはねられけりならびにらうどう三にんちうせらるちやくしかがのかみもろたかをばをはりのゐどたへながされたりけるをもうつてをつかはしてほろぼさるもろたかさんざんにたたかひけるがかなはじとやおもひけむたちにひかけじがいしてこそうせにけれこれらはすべていひがひなきもののひいでてあやまらぬてんだいざするざいにまをしおこなひさんわうだいしのしんばちみやうばちをたちどころにえてわがみもしそんもことごとくほろびぬるこそあさましけれ

小教訓 203
さるほどにだいなごんはひとまなるところにおしこめられておはしけるがあはれこれはひごろはかりしことのはやもれきこえたるにこそたれもらしけむいかさまにもこれはほくめんのともがらどものうちにもやあるらんなんどおもはしなきこともなうあんじつづけておはしけるところにうしろのかたよりあしおとたからかにひとのきたるおとのしければだいなごんただいまこれにてうしなはれんずるにこそとおもはれけるにさはなくてにふだうしやうごくそけんのころものもみじかなるにしろきおほくちふみふくみひじりづかのかたなおしくつろげてさすままにだいなごんのおはしけるうしろのしやうじをあららかにさつとあけてしばらくにらまへてぞたちたまひけるややあつてにふだうのたまひけるはいかにごへんさんぬるへいぢにのぶよりのきやうがむほんのどうしんによつてすでにちうせられたまふべかりしをこまつのだいふがやうやうにまをしてくびをつぎたまひしひとぞかしいつしかそのおんをわすれてあまつさへじやうかいをかたぶけむとのごけつこうぞやひごろのむほんけつこうのしだいをたづねうけたまはりまをさうずるはいかにとのたまへばなまじひにだいなごんいかさまにもそれはひとのざんげんにてぞさふらふらんくはしくおんたづねあるべうさふらふといはせもはてずそれなりつるさいくわうがはくじやうもつてまゐれとのたまへばうけたまはつてかみ四五まいにかいたるものをもつてまゐりたりにふだうひきひろげ二三べんがほどたからかによみきかせあらにくやこのうへはここをなにとかあらがひたまふべきそれよくみたまへとてだいなごんのかほにさつとなげかけていそぎしやうじをちやうどたててぞいりたまひけるそののちにふだうなんばせのをとめされければつねとほかねやすまゐりたりあのをとことつてひつぱりにはへひきおとしとつてふせてをめかせよとのたまへば二にんのものどもこまつどののかへりきこしめされんずるところもいかがさふらふべかるらんとてふかうかしこまつてぞさふらひけるにふだうよしよしさきいつじやうかいがめいをばかるんじてだいふはなほおそろしいとやそのぎならばそのむねをこそこころえめとのたまへば二にんのものどもあしかりなんとやおもひけんだいなごんどののさうのてをとつてひつぱりにはへひきおとしたてまつつてさうのおんみみにくちをよせていかさまにもおんこゑのいづべうさふらふとてあげてはどうとおきどうとおき二三どあげおろしたりければおんこゑ二こゑ三こゑぞいだされたるなほいまめたてまつるべうもやさふらふらんとまをしたりければにふだうすこしはらゐていまはとうとうやすめまをせとのたまへばうけたまはつてつはものす十にんがなかにとりこめたてまつつてまたひとまなるところにおしこめたてまつるだいなごんただゆめのここちぞしたまひけるそのていめいどにてざいにんどもがつみのけいぢうによつてあるひはごふのはかりにかけられあるひはじやうはりのかがみにひきむけられしよさのごふによつてかしやくをくはへけいばつをおこなはるらんもこれにはすぎじとぞみえしせうはんとらはれとらはれてかんはうにらきすされたりてうそりくをうけしうぎつみせらるたとへばかのせうかはんくわいかんしんはうゑつこれらはみなかうそのこうしんたりしかどもせうじんのざんによつてくわはいのはぢをうくともかやうのことをやまをすべきさるほどにだいなごんはひとまなるところにおしこめられておはしけるがちやくしたんばのせうしやうもいまはめしやこめられぬらんのこりとどまるあとのありさまさこそはあるらめなむどおもはじなきこともなうあんじつづけておはしけるほどにさしものごくねつにしやうぞくをだにもくつろげたまはねばあせもなみだもあらそひてぞみえられけるおとどはいまだおはせぬやらんさりともよもすておきたまふべきとはおもはれけれどもたれしてのたまふべきともおぼえねばくれをもまたでつゆのみのきえぬべうこそおもはれけれこまつどのはなにごとにもさわぎたまはぬひとにておはしければはるかにひたけてのちゑふ四五にんずゐしん三四にんほどめしぐしてのどやかげにてぞおはしたるにふだうよにもあしげにみたまへばちくごのかみさだよしおんまへをついたつておとどにまゐりむかひたてまつりこれほどのおんだいじになどぐんびやうどもをば一にんもめしぐせられさふらはぬやらんとまをしたりければおとどだいじとはてんがのだいじをこそいへさればこれはわたくしごとなんでうことのあるべきとていりたまへばかつちうをよろひきうせんをたいしたるものどももみなそぞろいてぞさふらひけるそののちおとどちうもんにおはしてだいなごんのおはするところはいづくやらんとかしこここのしやうじをひきあけひきあけみたまへばここにくもでゆうたるところありこれやそなるらんとてひきあけてみたまへばをりふしだいなごんはおとどのことおぼしめしいだしなみだにむせびうつぶしておはしけるがおとどさていかにやとのたまふこゑをききつけてめをもちあげうれしげにおもはれたるけいきごくあくしんぢうのざいにんがぢざうぼさつにあひたてまつるらんもこれにはすぎじとぞみえしだいなごんはこはなにごとにてさふらふやらんみにはいつせつあやまつたることもさふらはねどもけさよりかやうにめしこめられまゐらせてゆふさりすでにうしなはるべしとやらんうけたまはりさふらふさんぬるへいぢにいのちたすけられまゐらせてそのごおんいまだはうじつくしがたうてさふらふこんどもよきやうにまをしてたすけさせおはしましさふらへかしかひなきいのちだには(イ命だに生きて候はば)やがてもとどりきつていかならむかたやまざとにもとぢこもりひとすぢにごしやうぼだいのいとなみをもつかまつりさふらはんとおもひなつてこそさふらへとのたまへばおとどいかさまにもそれはひとのざんげんにてぞさふらふらんさりながらこんどもまたよきやうにまをしてたすけたてまつらばやとこそぞんじさふらへおんこころやすくおぼしめされさふらふべしとていでられければだいなごんおとどのおはしつるほどはいささかたのもしうおもはれつるにおとどいでたまひてのちはだいなごんよにもこころぼそくぞおもはれけるそののちおとどちちのおんまへにおはしてさてあのだいなごんをばきられんずるにてさふらふやらんとまをされたりければにふだうしさいにやおよぶこのくれをまつなりとぞのたまひけるおとどあのだいなごんさうなううしなはるべからずそのゆゑはかれがせんぞ六でうのしゆりのだいぶあきすゑきやうしらかはのゐんにめしつかへてよりこのかたいへひさしうへのぼりくらゐじやう二ゐくわんだいなごんにあがりことにはたうじのきみのぶさうのおんいとほしみにてさふらふなるものをさうなううしなはるべきこといかがさふらふべかるらんかやうにはまたきこしめされてさふらふとももしこのことのひがごとならばいよいよふびんのいたりなるべしきたののてんじんはしへいのおとどのざんげんによつてうきなをさいかいのなみにながしにしのみやのだいじんはただのしんぼちがざんさうによりてそのみをせんやうのくもにかくしたまふこれみなえんぎのせいしゆあんわのみかどのおんひがごととぞまをしつたへたるじやうこもつてかくのごとしいはんやまつだいにおいてをやけんわうなほおんあやまりありいはんやぼんにんにおいてをやよくよくごあんもあるべしくはしうおんたづねもさふらふべしこうくわいさきにただずとこそうけたまはりさふらへけいのうたがはしきをばかるんぜよこうのうたがはしきをばおもんぜよとこそみえてさふらへかやうにまをしさふらへばしげもりかのだいなごんがいもうとにあひぐしたりこれもりまたむこなりかたがたしたしければまをすとやおぼしめされさふらふらんまつたくそのぎにてさふらはずただよのためいへのためにぞんじてかやうにはまをしさふらふなりむかしさがのくわうていのおんときさひやうゑのじようふぢはらのなかなりがちうせられてよりこのかたしにたるもののふたたびかへることなしこれふびんのいたりなるべしとてはうげんまではきみ廿五だいたえてひさしかりししざいをしんぜいにふだうしつけんのときにあひあたりてうぢのさふのしがいをほりおこしかうべをはねおほぢをわたしじつけんせられしことなんどはむだうなるいたりあまりなるまつりごととこそみさふらひしかさればふるきひとのことばにもあまりにしざいをおこなへばかいだいにむほんのともがらたえずとまをししにあはせてなかふたとせあつてへいぢにこといできしんぜいみやこのうちをいだされいきながらうづまれいくほどなうてほりおこしかうべをはねおほぢをわたされくびをごくもんにかけられしことなんどはいつしかそのむくいかとおぼえてかへすがへすおそろしうこそさふらへこれはさせるてうてきにてもさふらはずせめてはみやこのうちをいだされたらんにことたりさふらひなんずだいじやうだいじんまでもきはめさせたまひぬればごえいぐわのこるところはさふらはねどもししそんそんまでもはんじやうこそあらまほしうさふらへふそのぜんあくはしそんにおよびしやくぜんのいへによけいありしやくあくのかどによあうとどまるとこそうけたまはりさふらへなんどやうやうにまをされたりければゆふさりだいなごんきられんことをばおぼしめしとどまりたまひける

あひ 204
そののちおとどちうもんにいでさぶらひどもにむかつてのたまひけるはたとひにふだうふしぎをげぢしたまふともあのだいなごんさうなうきるべからずおんふくりふのままにものさわがしきおんことならばさだめてごこうくわいあるべしさるにてもつねとほかねやすがけさあのだいなごんにあらけなくあたりつることこそかへすがへすもきくわいなれかたゐなかのものどもはよろづのことにかかるぞとよとのたまへば二にんのものどもさればこそけさわれらがまをしつるところもここぞかしとてふかうおそれいつてぞさふらひけるおとどはかやうにげぢしつつこまつどのへぞかへられけるさるほどにだいなごんのともにさふらひけるしよたいふさふらひどもなかのみかどからすまるのだいなごんなりちかのきやうのごしゆくしよにかへりまゐつてかみにはけさよりしてにし八でうにめしこめられまゐらつさせたまひてゆふさりすでにうしなはれさせたまふべきとやらんうけたまはりさふらふまたせうしやうどのをはじめたてまつつてきんたちたちをもみなむかへまゐらつさせたまふべしとやらんつたへうけたまはつてさふらふとまをしたりければきたのかためのとのにようばうをはじめたてまつつていへのうちにありとしあるひとみなきもたましひをうしなつてこゑをあげてぞなかれけるによばうだちいまは六はらよりつゐふのくわんにんどものまゐりむかひさふらふらんにこはいづくへもしのばせたまひてとまをしあはれければきたのかたいまこれほどになりぬるうへはいづかたへかしのぶべきただひとところにてともかうもなりたらんこそほんいなれさるにてもけさをかぎりとしらざりつることこそかなしけれとてふししづみてぞなかれけるさるほどに六はらよりつゐふのくわんにんどものまゐりむかふよしきこえしかばきたのかたいまさればとてはぢがましくうきめをみむよりはしのばむとてきたのかたくるまにのりたまふ十さいのわかぎみ八さいのひめぎみひとつくるまにのせたてまつつておほみやをのぼりにきたやまのほとりうんりんゐんへいれたてまつりあさましげなるそうばうにおろしおきたてまつるおんとものひとびとはみのすてがたさにいとままをしてみなちりぢりにこそなりにけれきたのかたきんだちばかりのこりとどまらせたまひてくれゆくかげをみたまふにつけてもあはれやだいなごんはゆふさりすでにうしなはれさせたまふべきなればつゆのおんいのちいまいくほどぞやとおもひやるにもきえぬべしさるほどにだいなごんのとしごろめしつかはれたるつぼねのにようばうめのわらはものをだにもうちかつがずかちはだしにてもんぜんにはしりいでみなちりぢりにこそなりにけれもんをだにもおしたてずむまやにはむまどもなみたちけれどもくさかふものもなしよあくればもんぜんにはうまくるまのひまなくうちにはひんかくざにつらなつてよをよともせずみちをすぐるものどもおぢおそれてこそきのふまでもありつるによのまにかはるよのならひしやうじやひつすゐのことわりはめのまへにこそあらはれたれたのしみつきてかなしみきたるとかかれたるがうしやうこうのふでのあといまこそおもひしられけれ

少将の乞請 205
さるほどにしんだいなごんなりちかのきやうのちやくしたんばのせうしやうなりつねはきのふよりゐんのごしよにうへぶししていまだまかりもいでられざりけるにひとまゐつてこのよしまをしたりければせうしやうなどこれほどのことをしうとさいしやうのもとよりはつげられぬやらんとのたまふところにしうとさいしやうのもとよりつかひありにし八でうよりぐしたてまつつてきつときたれとさふらふとうとうとのたまひつかはされたりければせうしやうはやこころえたまひてごしよちうのにようばうたちをよびいだしたてまつつてかかることこそさふらへきのふよりせけんなんとなうそうぞうにさふらひつるをれいのやまのだいしゆのくだるかなんどよそにぞんじてさふらへばはやなりつねがみのうへにてさふらひけりさても八さいよりおんめにかかり十二よりこのごしよにしこうつかまつつてあさゆふはふびんのおほせまかりかうぶりさふらひしにゆふさりあのだいなごんうしなはれさふらはばさだめてなりつねもおなじみちにぞおこなはれさふらはんずらんいま一どきみをもみまゐらせたくはさふらへどもかかるみにまかりなりさふらひぬるうへはよにおそれてこそまかりいでさふらへとまをされたりければにようばうたちごぜんにまゐりこのよしそうしまうされたりければほうわうなにかはくるしかるべきいま一どこれへとおほせければせうしやうなくなくごぜんへはまゐられたりけれどもまをしいださるるむねもなしほうわうもまたおほせいださせたまふかたもなかりけるにさてしもあるべきならねばせうしやうおんいとままをしていでられけりほうわうはせうしやうのうしろをはるばるとごらんじおくらせたまひてただまつだいこそこころうけれまたもごらんぜられぬおんこともやあらんずらんとておんなみだにむせばせおはしますそのほかごしよちうのひとびとせうしやうのそでにすがりたもとにとりつきみななみだをぞながされけるせうしやうはけさゐんのごしよをいづるよりながるるなみだもつきざるにしうとさいしやうのもとにおはしてまづきたのかたのおんありさまをみたまふにせんかたなしちかうさんしたまふべきにてつきごろもなにとなううちなやみたまひけるがまたこのことさへうちそひてふししづみてぞおはしけるまたせうしやうのめのとに六でうとまをすにようばうありせうしやうのそでをひかへたてまつつてきみのちのなかにわたらせたまひしをとりあげいだきそだてまゐらせてよりこのかたわがみのとしのおいゆくをもしらずいつかとくしておとなしくならせたまはんずらんとまをしあかしまをしくらしことしは廿一までそだてまゐらせてゐんへもうちへもおんまゐりあつておそういでさせたまふときはかつうはおんこひしうもかつうはまたおぼつかなうもおもひまゐらせつるにただいまいでさせたまひていかなるおんめにかあはせたまはんずらんとてなきければせうしやういたうななげきそさいしやうさてましませばいのちばかりをばまをしてたすけたまはぬことあらじとはのたまへどもめのとの六でうただもだえこがれたをれふしなくよりほかのことぞなきさるほどににし八でうよりつかひしきなみにたちければさいしやうさらばいでてこそともかうもならめとてくるまにのつてぞいでられけるせうしやうもどうしやしてこそいでられけれさいしやうのうちのじやうげなんによみなくるまよせまではしりいでなきひとをいだすがやうにこゑをあげてぞなかれけるはうげんへいぢよりこのかたへいけのひとびとのたのしみさかえはありしかどもうれへなげきはなかりしにこのさいしやうばかりこそよしなきむこゆゑにかかるなげきはしたまひけれさるほどにさいしやうにし八でうにおはしてあんないをまをされたりければにふだうせうしやうをばうちへはかなふまじとのたまふあひだそのへんちかきさぶらひのもとにおろしおきたてまつつてさいしやうばかりいりたまふいつしかつはものどもせうしやうをうちかこみたてまつつてしゆごしたてまつるさいしやうちうもんにおはしていであはるるかとたいめんをまたれけれどもにふだうとみにもいでられざりければげんたいふのはんぐわんすゑさだをもつてまをされけるはのりもりよしなきものにむすぼほれていまさらくやしうさふらへどもちからおよびさふらはずまたかれにあひぐせさせてさふらふもののうちなやむことのさふらふがまたこのことさへうちそへていのちもあやうくこそさふらへあはれかれがいかにもならんほどたんばのせうしやうをのりもりにあづけさせおはしましさふらへかしなじかはひがごとせさせさふらふべきとまをされたりければすゑさだおんまへにまゐつてこのよしまをしたりければにふだうあはやまたれいのさいしやうのものにもこころえぬことをのたまふものかなとておほきにいかつてしばしはものをものたまはずややあつてにふだうしやうごくのたまひけるはそもそもかのしんだいなごんなりちかのきやうといつぱむほんをおこしてたうけをがたぶけむとすされどもこの一もんいまだうんつきざるによつてこのことはやくあらはれたりもしこのむほんとげましかばそのごへんとてもあんをんにやおはすべきうとうもおはせよしたしうもおはせよえこそなだめまをすまじけれむこもこもまことのときはただみにまさることやあるとぞのたまひけるさいしやうかさねてまうされけるははうげんへいぢよりこのかただいせうじおんいのちにかはりまゐらせてあらきかぜをばまづふせぎまゐらせんとこそつかまつりさふらひしがいまよりのちもたとひのりもりこそとしおいてさふらふともこどもあまたもちてさふらへばなどか一ぱうのおんかためになりまゐらせではさふらふべきそれにしばらくせうしやうをのりもりにあづけさせおはしませとまをすをおんゆるされもなきはよくのりもりをもふたごころあるものにおぼしめされたるにてこそさふらへさやうにうしろめたいものにおもはれまゐらせてのりもりよにありてもなににかはしさふらふべきあはれしゆつけのいとまをたまはつてかうやこがはにもとぢこもりひとすぢにごしやうぼだいのいとなみをつかまつりさふらはばやよしなきうきよのまじはりなりよにあればこそのぞみもあれのぞみのかなはねばこそうらみもあれしかじうきよをいとひまことのみちにいりなんにはとぞまをされけるすゑさだまたおんまへにまゐつてこのよしまをしたりければにふだうもつてのほかにおどろきたまひてさてはさやうにさいしやうのしゆつけにふだうなんどまでまをさるなるこそけしからねさらばしばらくせうしやうをしゆくしよにもおかれさふらへかしとよにもしぶしぶにこそのたまひけれさいしやうなみだをながしあはれわがこにむすぼほれざらんにはなにしにかこれほどにこころをくだくべきよしなかりけるによしかなとてなみだにむせびてぞいでられけるせうしやうまちうけたてまつつてさていかにさふらふとのたまへばさいしやうさればこそいかにもかなふまじかりつるをのりもりがしゆつけにふだうなんどまでまをしたればにやらんしばらくしゆくしよにおきたてまつれとはのたまへどもゆくすゑとてもたのもしからずとのたまへばせうしやうさてはごおんをもつてしばらくのいのちのたすかりさふらふござんなれさてあのだいなごんどののおんことをばなにとかきこしめされたるやらんとのたまへばさいしやういさとよいかにもしてぞこのことをこそまをさばやとしつれそれまでのことはおもひもよらずとのたまへばさてあのだいなごんどのゆふさりうしなはれたまひさふらはばうきもしづみもなりつねをもおなじみちにはまをさせたまはでとのたまへばさいしやうよにもこころぐるしげにていさとよそれもこまつのだいふのけさよりしてやうやうにとりまをさるなるがそれもしばらくのいのちのたすからせたまふやうにこそうけたまはりつれとのたまへばせうしやうてをあはせてぞよろこばれけるまことのこならざらむひとのわがみのうへをさしおきてたれかはかやうによろこぶべきまことのちぎりはおやこのなかにぞありけるさればこにすぎたるたからなしとやがておもひぞかへされけるさるほどにさいしやうはくるまにのつてぞいでられけるせうしやうもまたけさのやうにどうしやしてこそかへられけれひとさきにまゐつてせうしやうどのはべちのおんこともわたらせたまはでかへらせたまひてさふらふとまをしたりければさいしやうのうちのじやうげなんによみなくるまよせまではしりいでししたるひとのいきかへりたるここちしてみなよろこびのなみだをぞながされける

教訓状 206
にふだうしやうごくしんだいなごんなりちかのきやういげごきんじゆのひとびとそのほかほくめんのともがらどもにいたるまでおほくいましめおかれてもなほこころゆりずや(イ心ゆかずや)おもはれけむあかぢのにしきのひたたれにくろいとをどしのはらまきのむないたせめそのかみいまだあきのかみたりしときいつくしまのだいみやうじんよりれいむかうぶりうつつにたまはられたりけるしらえのこなぎなたつねのまくらをはなたずたてられたりけるをわきにはさみつつちうもんのらうへぞいでられけるおほかたそのけしきゆゆしうぞみえしにふだうさだよしとめすちくごのかみさだよしもくらんぢのひたたれにひをどしのよろひきておまへにまゐりかしこまるにふだうややさだよしいかがはからふさんぬるはうげんにをぢへいむまのすけただまさをさきとして一もんなかばすぎしんゐんのみかたにまゐりたりき一みやのおんことはごぎやうぶきやうのとののやうくんにてわたらせたまひしかばかたがたみはなちまゐらせがたうはおもひしかどもこゐんのごゆゐかいにまかせてこのおんかたにまゐりさきをかけたりきこれ一のほうこうにあらずやまたへいぢぐわんねん十二ぐわつにのぶよりよしともがむほんのときゐんうちおしこめたてまつつててんかはくらやみとなりたりしにもにふだういのちをすてずしてはいかにもかなふまじかつしあひだみかたにてぞくとをうちたひらげのぶよりよしともをちゆうりくしつねむねこれかたをめしいましめしにいたるまできみのおんためにいのちをすつることどどにおよぶさればひといかにまをすともこの一もんをばいかでか七だいまでもおぼしめしすてさせたまふべきにそれになりちかといふむようのいたづらものまたさいくわうといふげせんのふたうにんがまをすことにきみのつかせおはしましてたうけをかたぶけんとのごけつこうこそしかるべからねなほもざんそうするものあらばかさねてゐんぜんくだされつとおぼゆるなりてうてきとなりなんのちはいかにくゆともえきあるまじさればしばらくよをしづめむほどほうわうをとばのきたどのへうつしまゐらするかしからずばまたごかうをこれへなりともなしまゐらせばやとおもふはいかがあるべきさらむにとつてはほくめんのともがらどものなかにやをもひとついつとおぼゆるもののあるぞとよさぶらひどもにそのよういせよとふるべしおほかたにふだうゐんがたのほうこうにおいてはおもひきつたりむまにくらおけきせながとりいだせよとぞひしめかれけるそののちしゆめのはんぐわんもりくにいそぎこまつどのにはせまゐつてまうしけるはよははやすでにかうとこそみえさせおはしましさふらへそのゆゑはかみにおんきせながをめされさふらふうへつはものどもみなうつたつてただいますでにゐんのごしよほうぢうじどのによせさふらふぞやほうわうをばとばどのにとごひろうあつてないないはさいこくのかたへながしまゐらすべしとこそうけたまはりさふらへとまをしたりければおとどいかでかさるおんことのわたらせたまふべきとはおぼしめされけれどもけさのぜんもんのふるまひさるものぐるはしうおはしつればもしさやうのこともやおはすらんとていそぎおんくるまにめしにし八でうにおはしてもんぜんにてくるまよりおりもんをさしいりてみたまへばげにもにふだうはらまきをちやくしたまふうへ一もんのけいしやううんかくす十にんおもひおもひのひたたれにいろいろのよろひきてちうもんのらうに二ぎやうにちやくせられたりそのほかしよこくのじゆりやうゑふしよしなんどはえんにもゐこぼれてにはにもひしとなみゐたりつはものどもはたさををひきそばめひきそばめむまのはるびをかためかぶとのををしめてただいますでにうつたたうずるきそくなるにおとどはまたけさのやうにゑぼしなほしにだいもんのさしぬきのそばとつてさやめきいりたまふことのほかにぞみえられけるにふだうしやうごくこのよしをみたまひてあはまたれいのだいふがよをへうするやうにふるまふものかなついでをもつておほきにいさめばやとおもはれければなぎなたひざのしたにおきゐだけだかになつておはしけるがさすがだいふはこながらもうちには五かいをたもつてじひをさきとしほかにはまた五じやうをみだらずれいぎをただしうしたまふひとなりあのすがたにはらまきをちやくしてむかはんことさすがおもはゆうはづかしくもやおもはれけんしやうじをすこしひきたてそけんのころもをとつてはらまきのうへにあわてぎにきたまひけるがむないたのかなもののはづれてすこしみえけるをかくさんところものむねをとつてしきりにひきちがへひきちがへぞしたまひけるおとどはおんおととうたいしやうむねもりのざじやうにちやくせられけりにふだうしやうごくものたまひいださせたまふむねもなしおとどもまたまうしいださせたまふかたもなかりけるにややあつてにふだうしやうごくのたまひけるはそもそもかのしんだいなごんなりちかのきやうがむほんはことのかずならず一かうこれはおほかたほうわうのごけつこうにてさふらひけるぞやそれにふだうがくわたいはがいぶんにくわんとをすすむばかりなりそれゆみやとるならひせんれいなきにあらずたむらまろはぎやうぶきやうさかのうへのかつたまろがこなりしかどもわづかにとういをたひらげしけんしやうにだいなごんにてさこんのたいしやうをけんじきせいだいじやうこにもわづかにとういへんどをかせしくんこうかくのごとしいはんやにふだうわうゐをうばはれたまはんとせし二ケどのくんしやうすてがたししかのみならずこうしんちやくちやくのみとしててうていどどのはぢをきよめきそれになりちかといふむようのいたづらものさいくわうといふげせんのふたうじんがまうすことにきみのつかせおはしましてたうけつゐたうのごけつこうこそしかるべからねなほもざんそうするものあらばかさねてゐんぜんくだされつとおぼゆるなりてうてきとなりなんのちはいかにくゆともえきあるまじさればしばらくよをしづめむほどほうわうをとばのきたどのへうつしまゐらするかしからずはまたごかうをこれへなりともなしまゐらせばやとおもふはいかがあるべきとのたまへばおとどこのことききもあへたまはずまづさめざめとぞなかれけるにふだうさてはいかにやいかにとあきれたまへばややあつておとどなみだをおさへてまうされけるはこのおほせうけたまはりさふらふにごうんははやすゑになりぬとおぼえてまづしげもりがふかくのなみだのさきだちさふらふなりひとはかならずうんめいつきむとてはかかるあくぎやうをおもひたつことにてさふらふなりさすがわがてうはぞくさんへんちのさかひとはまをしながらてんせうだいじんのごしそんくにのあるじとしてあまつこやねのみことのごべうえいてうのまつりごとをつかさどりたまひしよりこのかただいじやうだいじんのくわんにいたりたまふほどのひとのかつちうをよろひましますことこれれいぎをそむくにあらずやなかんづくしゆつけのおんみなりそれ三ぜのしよぶつげだつどうさうのほうえをぬぎすててたちまちにかつちうをよろひきうせんをたいしましますことうちにははかいむざんのつみをまねかせたまふのみならずほかにはまたじんぎれいちしんのほふにもすでにそむきぬらんとこそみえてさふらへかたがたおそれあるまをしごとにてはさふらへどもしばらくおんこころをしづめてしげもりがまをしじやうをつぶさにきこしめさるべうもやさふらふらんかつうはさいごのまうしじやうなりこころのうちにししゆをのこすべからずまづよに四おんさふらふしよきやうのせつさうふどうにしてないげのぞんぢかくべちなりとはまをせどもしんちくわんぎやうのもんにもとかれてさふらふがてんちのおんこくわうのおんぶものおんしゆじやうのおんこれなりしるをもつてじんりんとすそのなかにもつともおもきはてうおんなりふてんのしたことごとくわうどにあらずといふことなしさればえいせんのみづにみみをあらひしゆやうざんにわらびををつしけんじんもちよくめいそむきがたきれいぎをばぞんぢすとこそうけたまはれいまだせんぞにもきかざりしだいじやうだいじんのくわんをきはめさせたまふのみならずいはゆるしげもりなんどがむさいぐあんのみをもつてれんぶくわいもんのくらゐにいたるしかのみならずこくぐんなかば一かのしよりやうたりでんをんはことごとく一もんのしんしたりこれきたいのてうおんにあらずやいまばくだいのごおんをわすれてみだりがはしくきみをなみしまゐらつさせたまはんおんことしんりよのほどもはかりがたしそれわがてうはしんこくなりかみはひれいをうけさせたまはずおよそてうてきとなりなんものはちかくは百にちとほくはみとせをすごさずとこそうけたまはりさふらへこれはきみのおぼしめしたつところだうりなかばなきにあらずやおよそこの一もんはだいだいのてうてきをたひらげて四かいのげきらうをしづむることぶさうのちうとはまをしながらそのしやうにほこることかへりてばうじやくぶじんともまたまをしつべしいへのめいをもつてはきみのめいをじせざれわうふのめいをもつてはちちのめいをじせよとこそみえてさふらへおほせあはせらるるだいなごんいげのよたうのともがらにしよたうのざいくわおこなはれぬるうへはなにのおそれかさふらふべきいまはしりぞいてこのしさいをちんじまをさせたまはばきみのおんためにはいよいよほうこうのちうきんをいたしたみのためにはますますむいくのあいれんをほどこさせおはしまさばしんめいのかごにあづかつてぶつだのみやうりよにもそむくべからずしんめいぶつだのかんおうあらばきみもなどかおぼしめしなほさせたまはではさふらふべきさればしやうとくたいしの十七ケでうのごけんぽふにもみなひとこころまちまちなりおのおのしふありわれをぜしかれをひすかれをぜしわれをひすぜひのことわりをたれかよくさだむべきあひともにけんぐなりはしなくしてたまきのごとしたとひかのひといかるといふともかへりてわがしつををさめよとこそみえてさふらへきみとしんとをならぶるにしんそわくかたなしきみにつきたてまつるはちうしんのはふ(ほふ)だうりとひがごとをくらべんにいかでかだうりにつかざるべきこれはきみのおんことわりにてさふらへばしげもりはかなはぬまでもゐんちうをしゆごしまゐらせんとこそぞんじさふらへそのゆゑはしげもりはじめじよしやくよりいまだいじんのたいしやうにいたるまで一としててうおんならずといふことなしそのおんのおもきことをおもへばせんくわばんくわのたまにもこえそのふかきいろをろんずれば一じふさいじふのくれなゐにもなほすぎたらんしげもりがみにかはらむいのちにかはらむとちぎつてさふらふさぶらひどもせうせうさふらふらんかれらをめしぐしてゐんのごしよにまゐりもんもんをかためてふせぎまゐらせんはゆゆしきおんだいじにてこそさふらはんずれかなしきかなきみのおんためにほうこうのちうきんをいたさんとすればめいろ八まんのいただきよりなほたかきちちのおんたちまちにわすれなんとすいたましきかなふかうのつみをのがれんとすればきみのおんためにはふちうのぎやくしんともなりぬべししんたいこれきはまれりぜひいかにもわきまへがたしせんずるところきみをもしゆごしまゐらせさふらふまじまたゐんざんのおんともをもつかまつるべからずせんはただまをしうくるところしげもりがくびをめさるべしらうしのことばこそおもひいでてさふらへこうみやうかなひとげてみをしりぞけずくらゐをさらざればすなはちがいにあふともまをすかのせうかはだいこうかたへにこえたりしによつてくわんだいしやうごくにあがりけんをたいしくつをはきながらでんじやうへのぼることをゆるされたりしかどもひとたびえいりよにそむくことありしかばかうそこれをいましめておもうつみせられきかやうのことをおもふにもふつきといひえいぐわといひてうおんとまをしちようしよくといひかたがたきはめさせたまひぬればいまはごうんのつきさせたまはんこともかたかるべしともおぼえずふつきのいへにはろくゐちようでふせりなほふたたびみなるきはそのねかならずいたむともまをすいつまでかながらへてかやうにみだれむよをもみさふらふべきただまつだいにしやうをうけてかかるうきめにあひさふらふしげもりがくわはうのほどこそつたなうさふらへさぶらひ一にんにおほせつけおつぼのうちにめしいだししげもりがくびをめされんはいとやすきおんことにてこそさふらはんずらめこれやおのおのききたまへとてなほしのそでしぼるばかりにみえられければにふだうしやうごくをはじめたてまつつて一もんのけいしやううんかくみなよろひのそでをぞぬらされけるにふだうしやうごくたのみきつたるだいふはかやうにのたまふよろづちからもなげにていやいやそれまでのことはおもひもよらずあくたうどものまをすことにきみのつかせおはしましてもしおんひがごとなんどもやいでこんずらんなどおもふばかりにてこそあれとのたまへばおとどたとひいかなるおんひがことわたらせたまひさふらふともきみをばなにとかしまゐらつさせたまふべき(イべきとて)おんまへをついたつてちうもんにいでさぶらひどもにむかつてのたまひけるはいまおんまへにてまをしつることどもをばなんぢらはうけたまはらずやけさよりこれにありてかやうのことどもをもまをしなだむべかりつれどもこれていにひたさわぎなりつればかへりたりつるなりまたゐんざんのおんともにおいてはしげもりがくびをめされんをみてまをすべしさらばおのおのまゐれとてこまつどのへぞかへられけるされどもたうけぢうだいからかはといふよろひこがらすといふたちをばしのびつつおんくるまにいれられけるとぞうけたまはるよういのほどこそおそろしけれそののちこまつどのにはおとどかへりたまひてのちしゆめのはんぐわんもりくにをもつてもよほされけるはしげもりこそべつしててんがのだいじききいだしたれしげもりをしげもりとおもひあはれんずるひとびとはみなもののぐしてはせまゐるべしとふれられたりければひごろはおぼろけにてもさわぎたまはぬひとのいまかやうにおほせなるはべつのしさいぞあるらんいざやまゐらんとてあるひはよどはつかしうぢをかのやだいごうぐるすひのくわんじゆじおはらしづはらせれうのさとむめづかつらにあふれゐたりけるつはものどもあるひはよろひきてかぶときるもありきぬもありやおひてゆみとるもありとらぬもありわれさきにさきにとこまつどのへぞはせたりけるさるほどににし八でうにす千きありつるつはものどももこまつどのにだいじいできたりとききてんげればにふだうしやうごくにこのよしかくともまをさずみなさやめきつれてこまつどのへぞまゐりける

烽火の沙汰(あひ) 207 
さるほどににし八でうにはちくごのかみさだよしがほかはきうせんにたづさはりぬべきひと一にんもなしただおいたるあまあをにようばうふでとりなんどぞさふらひけるにふだうさだよしとめすちくごのかみさだよしおんまへにまゐりかしこまるにふだうややさだよしなにとてだいふはこれらをばかやうによびとるやらんいかさまにもけさこれにていひつるやうににふだうがもとへうつてなんどやむけんずらんなどのたまへばさだよしまをしけるはいかでかさるおんことのわたらせたまひさふらふべきけさおんまへにてまをさせたまひつるおんことどもをもいまはさだめてごこうくわいぞさふらふらんとまをしたりければにふだういやいやだいふとなかたがうてはゆゆしきだいじぞとてもののぐぬぎすてそけんのころもにけさうちかけながずずつまぐつていとこころもおこらぬねんじゆしてこそおはしけれひとへにものぐるひのくるひさめたにことならずそののちこまつどのにはしゆめのはんぐわんもりくにうけたまはつてちやくたうつけけりまゐりこもるつはもの一まんよにんとちうしまをすちやくたうひけんののちおとどちうもんにいでさぶらひどもにむかつてのたまひけるはひごろのけいやくたがへずみなしんべうにまゐりたりただしいこくにさるためしありむかししうのいうわうとまをししひとはうじとてさいあいのきさきをもちたまへりてんかいちのびじんされどもこのきさきいささかわらふことをしたまはずかのくにのならひにててんかにことのいできたるときはほうくわとてみやこよりはじめてひをあげたいこをうつてくにぐにのつはものをめさるるならひありあるときてんかにこといできにしかばほうくわをあげたりければきさきこれをごらんじてふしぎやひもさればあれほどにたかうもあがることかやとてはじめてわらひたまひけりひとたびゑめばもものこびありとかやいうわうふしぎやこのきさきはほうくわをあいしたまへりとてつねはそのこととなくひをあげたいこをうつてきさきをなぐさめたてまつるしよこうきたるにあたなしあたなければほどなくさるかやうにすることどどにおよぶあるときりんごくよりきようぞくおこつていうわうのみやこをかたぶけんとせしときひをあげたいこをうちけれどもれいのきさきのひにならつてまゐりちかづくものもなしすなはちみやこかたぶいていうわううたれたまひけりそののちこのきさきはきうびのしやつことなつてかきけすやうにぞうせられけるよにはかかるためしのあるぞとよしげもりもべつしててんかのだいじききいだしたりつれどもまたひがごとにききなしたりじこんいごもこれよりめさばかくのごとくまゐるべしさらばおのおのかへれとてさぶらひどもをぞかへされけるおよそこのおとどまことにちちといくさをすべきにはあらずまたてんかのだいじをもききいだされざりけれどもかやうにしてわがみにせいのつくやつかぬをもみまたはにふだうしやうごくのあくしんをもやはらげんのためのおとどのはかりごととぞうけたまはるきみきみたらずといふともしんもつてしんたらずんばあるべからずちちちちたらずといふともこもつてこたらずんばあるべからずいはんやこのおとどはきみのおんためにはちうあつてちちのためにはかうありこれぶんせんわうのことばにたがはずほうわうもないないきこしめされていまにはじめぬことなれどもだいふがこころのうちこそはづかしけれあたをばはやおんをもつてはうじけりとぞおほせけるくににいさむるしんあればそのくにかならずやすしいへにいさむるこあればそのいへかならずただしともいへりじやうこにもまつだいにもありがたかりしおとどなり

大納言の流され 208
おなじき六ぐわつ二かのひしんだいなごんなりちかのきやうをばにし八でうのくぎやうのざにいだしたてまつつてぎよもつまゐらせたりけれどもむねふさがつておんてをだにもかけられずさてしもあるべきならねばつはものどもおんくるまよせていまはとうとうめさるべうさふらふとまをしたりければだいなごんこころならずのりたまふくるまのぜんごさいうをみたまへばもののぐしたるつはものどもがところもなくみちみちてひごろみなれたるひと一にんもなしただみにそふものとてはつきせぬなみだばかりなりしゆじやかをみなみへゆけばおほうちやまもいまはよそにぞなりにけるとばどのをすぎられけるにひごろこのごしよへごかうなりしには一どもおんともにははづれざりつるものをとわがさんしやうすはまどのをもよそにしてこそとほられけれとばのみなみのもんにてつはものどもふねをおそしといそがすればだいなごんこはいづくをさしてゆくやらんとてもうしなはるべくはみやこちかきこのへんにてもあらばやとのたまひけるぞいとほしきだいなごんちかうさふらふぶしはたそととひたまへばなんばの二らうつねとほとまをすだいなごんさてこのへんにわがかたざまのものやあるたづねてえさせよとのたまひければうけたまはつてたづねけれどもなかりければさふらはずとまをすだいなごんむざんやなわれよにありしときはきのふまでもしたがひつきたりしじやうげ一二千にんもこそありつらんにいまはよそにてだにもとぶらふもののなきことよとのたまひけるぞいとほしきひごろくまのまうでてんわうじまうでなんどのありしにはふたつがはらみつむねにつくつたるふねまたつぎのふねおよそ二三十さうこぎつづけさせてこそおはせしにいまはいつしかけしかるかきすゑやかたぶねのともへあれたるにおほまくひきまはさせみもなれぬつはものどもとのりぐしてけふをかぎりにみやこのうちをいでられけるこころのうちおしはかられてあはれなりよどのいりえをこぎすぎてこつどのうとのはしらもときんやかたののなぎさのをかいりえいりえをこぎすぎてそのひはつのくにだいもつのうらにぞつきたまふまたかおうぐわんねんのふゆのころこのきやういまだそのころちうなごんにてみののくにをちぎやうせられたりけるにもくだいさゑもんのじようまさともさんもんのしよりやうひらののしやうのじんにんとことをしいだしたりしによつてさんもんおほきにいきどほりこくしなりちかるざいにしよせられもくだいまさともきんごくせらるべきよしそうもんまをしたりければそのときもこのきやうのさんもんのそしようによつてびつちうへながさるべきにてにしのきやうまでいでられたりしをもきみいかがはおぼしめされけんなか五かあつてやがてめしかへされさせたまひけりこれによつてさんもんおほきにいきどほりなりちかきようをさまざまにじゆそしたてまつりけるとぞきこえしされどもじようあんにねんしやうぐわつ十二にちにじゆ二ゐしたまふおなじき三ねん三ぐわつ十三にちにうひやうゑのかみをけんじてけびゐしのべつたうにぞあがられけるそのときはあぜちのだいなごんすけかたくわざんのゐんのちうなごんかねまさのきやうこえられさせたまひけりあぜちのだいなごんはいへのひとおとななりかねまさのきやうはせいぐわのひとけちやくにてこえられたまふぞゐこんなるこれは三でうどのざうしんのしやうとぞきこえしまたあんげんぐわんねん七ぐわつ五かのひじやう二ゐしたまふそのときはなかのみかどのちうなごんむねいへのきやうこえられさせたまひけりおなじき二ねん十ぐわつ廿二にちにけびゐしのべつたうよりごんだいなごんにぞあがられけるかくのみさかえたまひしかばひとあざけりてあはれさんもんのだいしゆにはのろはるべかりけるものかなとぞまをしけるされどもしんばつみやうばつはときもありおそきもありしならひにてつひにはかかるうきめにあはれけるこそあさましけれおなじき三かのひだいもつのうらにはみやこよりおんつかひありとてひしめきけりだいなごんただいまこれにてうしなへとのつかひやらんとききたまへばびぜんのこじまへながしたてまつれとのつかひなりまたこまつどのよりおんふみありひらきてみたまへばみやこちかきかたやまざとにもおきまゐらせんとてやうやうにまをしさふらひしかどもかなはぬことこそよにあるかひもさふらはねさりながらおんいのちばかりをばよきやうにまをしてこそさふらへおんこころやすくおぼしめされさふらふべしまたなんばがかたへもあひかまへておんこころにたがひたてまつらでよくよくおんみやづかひつかまつれとあそばされたるだいなごんさてもかたじけなうおもはれまゐらせつるきみにもすてられたてまつりまたつかのまもはなれがたききたのかたきんたちだちをもふりすててこはいづくをさしてゆくやらんひととせもびつちうへながさるべきにてにしのきやうまでいでたりしをもやがてめしこそかへされたれこんどはいのちながらへてこひしきものどもをいま一どみみえむこともかたかるべしとてあけければふねにのつてぞいでられけるみちすがらもなみだにくれてゆくさきさらにみえわかずあとのしらなみへだつればみやこはしだいにとほざかりゑんごくはまたちかくなるさるほどにだいなごんびぜんのこじまにつきたまふたひのうらといふところのあさましげなるしばのいほりにおきたてまつるこれやこのしづがすむなるはにふのこやもこれなるらんしまのならひうしろはやままへはいそなればきしうつなみのおとまつふくかぜあはれいづれもつきざりけり

阿古屋の松 209
おなじき六ぐわつ五かのひむほんのともがらどもくにぐにへながしつかはさるまづあふみのちうじやうにふだうれんじやうさどのくにやましろのかみもとかぬおきのくにしきぶのたいふまさつなびんごのくにそうはんぐわんのぶふさいよのくにしんへいはんぐわんすけゆきはみまさかのくにとぞきこえしにふだうしやうごくかやうにさんざんにしちらしわがみはいそぎふくはらへこそくだられけれおなじき廿かのひつのさゑもんもりずみをししやにておととかどわきどののもとへいまはたんばのせうしやうをもとうとうくだされさふらへかしとのたまひつかはされたりければさいしやうさらばありしときともかうもなしたまはでふたたびものをおもはすることよとのたまへばにようばうたちあはれさいしやうのいま一どよきやうにまをさせたまへかしなんどのたまひあはれければさいしやういまはのりもりがよをいとふよりほかのことをばなにごとをかまをすべきさりながらいづくのうらわにもおはせよのりもりがいのちのあらんかぎりははぐくむべしとぞのたまひけるまたせうしやうのわかぎみ三さいになりたまふおはしけりひごろはわかきひとにていとこまやかなることもおはせざりしかどもいまはのときにもなりしかばさすがこころにかかつてやおもはれけんあはれをさなきものをいま一どみばやとのたまへばめのといだいてまゐりたりせうしやうひざにおきわかぎみのかみかきなでてのたまひけるはむざんやなんぢ七さいにもならばげんぷくせさせゐんへまゐらせんとこそおもひしにいまはかひなしもしまたいのちながらへておとなしくなりたらばなりつねがごせとぶらうてえさせよとおとなしきひとにむかつてのたまふやうにかきくどきてのたまへばこのわかぎみうちうなづきたまひけりさてこそにようばうたちもいとどそでをぞぬらされけれおつかひこんやはとばまでとまをしければせうしやうとてもかなはぬものゆゑにこんやはこれにありてあかつきとくいでんとのたまへどもおつかひゆるしたてまつらずおなじき廿三にちにつのさゑもんせうしやうどのをぐそくしたてまつつてふくはらにくだりにふだうしやうごくにこのよしまをしたりければにふだうせうしやうをばびつちうのくにのぢうにんせのをのたらうかねやすにおほせてびつちうのせのをへこそくだされけれかねやすかどわきどののかへりきこしめされんずるところをもはばかりにおもひければせうしやうどのをやうやうにもてなしたてまつるされどもせうしやうはいささかくつろぐここちもしたまはずただあけくれほとけのみなをとなへてもちちだいなごんどののことをのみぞいのられけるさるほどにだいなごんはびぜんのこじまにおはしけるがここはなほふねつきなればびんぎあしかりなんとてそれより(イこなたの)ちにわたしたてまつるびぜんびつちうりやうごくのさかひなんばにかせのがうきびのなかやまのふもとありきのべつしよといふところにおきたてまつるそれよりせうしやうのおはしけるびつちうのせのをへはわづかに五十よちやうのあひだなりあるときせうしやうかねやすをめしてこれよりちちだいなごんどののおはしけるありきのべつしよとかやへはいかほどのみちぞととひたまへばかねやすちかきよしをまうしあげてはあしかりなんとやおもひけむ十二三にちにゆくところにてさふらふとまをすせうしやうこはいかににつぽんはむかし三十三ケこくなりしをてんぢてんわうのおんとき六十よしうにはわけられたりさればあづまにきこゆるあうしうもむかしは六十六ぐんなりしをもんむてんわうのぎようたいはうけいうんに十二ぐんさきわかつてではのくにとはなづけられたりなかごろさねかたのちうしやうのあづまへながされたりしにむつにあこやのまつといふめいしよありちうしやうかれをみんとてくにのうちをまはつてたづねられけれどもなかりければちからおよばずかへられけるみちにてらうおう一にんゆきあうたりちうしやうらうおうのそでをひかへてややごへんみちのくにあこやのまつといふめいしよやしりたまひたるととひたまへばたうごくのうちにはさふらはずとまをすちうしやうふしぎやよのすゑになればめいしよをもはやよみうしなへるにこそとてかへられければらうおうちうしやうのそでをひかへてややきみはみちのくのあこやのまつにこがくれていづべきつきも(イの)いでもやらぬかとよめるうたのこころをもつてたうごくのうちとはしろしめされてさふらふかさればそれはいまだかのくにの六拾六ぐんなりしときよめるうたのこころなりもしではのくににもやさふらふらんといひければまことにもとてではのくににこえてこそあこやのまつをもみたりしかすでに十二三にちはほとんどみやこよりちんぜいげかうほどござんなれちんぜいよりはらかのつかひののぼるこそかちぢ十四五にちとはきけびぜんびつちうびんごもむかしは一こくなりしを三ケこくにはわけられたりなかんづくせんやうだうにそれほどのたいこくありとはきかぬものをびぜんびつちうりやうごくのさかひいかにとほしといふともりやう三にちにはよもすぎじちかきをとほきにまをしなすはしらせじとにこそとてのちにはこひしけれどもとひたまはずなかにもへいはんぐわんやすよりほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづをばさつまがたきかいがしまへぞながされけるたんばのせうしやうをもあひそへてこそくだされけれなかにもやすよりはすはうむろつみといふところにてしゆつけしほうみやうしやうぜうとぞなのられけるしゆつけはもとよりののぞみなりければかうぞおもひつづけたるつひにかくそむきはてけるよのなかをとくすてざりしことぞくやしききかいがしまとまをすはみやこをいでてほどとほくうみをわたりてゆくしまなりふねなんどもたやすくかよふことなければしまにはひとまれなりをとこはゑぼしきずをんなはかみもさげずみにはしきりにけおひつついろくろくしてうしのごとしいしやうなければひとにもにずしよくするものもなければただせつしやうをもつてさきとすしづがやまだをうたざればべいこくのたぐひもなくそののくはをもとらざればけんばくのたぐひさらになしさつまがたとはそうみやうなりむかしはおにがすみければきかいがしまとはなづけられけりまたいわうといふものおほかりければいわうがしまともまをすしまのうちにはたかきやまありやまのいただきにはとこしなへにひもえつつつねはいかづらのなりあがりなりさがればふもとのさとにあめしげし一にちへんしつゆのいのちながらふべしともみえざりけり

大納言の死去 210 
さるほどにだいなごんはびぜんのくにありきのべつしよにおはしけるがいささかくつろぐこともやとおもはれけるにさはなくてちやくしたんばのせうしやうもきかいがしまへなんどきこえしかばよろづこころぼそくやおもはれけんこまつどのへしゆつけのいとままをしおんとし四十三にてうきよをよそにすみぞめのそでとなられけるこそあはれなれさるほどにだいなごんのきたのかたはみやこきたやまのほとりうんりんゐんにおはしけるがさらでだにすみもならはぬかたやまざとはさびしきにいとどしのばれければおのづからすぎゆくつきひをくらしかねあかしわづらふおんさまなりさるほどにだいなごんのとしごろめしつかはれけるしよたいふさぶらひどもいくらもありけれどもあるひはよにおそれあるひはへいけにはばかつてまゐりちかづくものもなしなかにもげんざゑもんのじようのぶとしばかりぞつねはまゐりけるあるとききたのかたのぶとしをめしてややのぶとしやまことやとのはびぜんのありきのべつしよとかやにおはすなるせめてふみをたてまつつてへんじをなりともみてなぐさまばやとおもふはいかがあるべきとのたまひければのぶとしまをしけるはこれはえうせうよりきみのごおんあくまでまかりかうぶりさふらひしかばつねはいさめられまゐらせしおんことのきもにめいじそのみやこまでもめされたりしおんこゑのはるかにみみのそこにとどまつてかたときわすれまゐらすることもさふらはずみやこをおんいでのときももつともおんともつかまつるべうぞんじさふらひつれどもへいけゆるされさふらはねばちからおよびさふらはずこんどはたとひいかなるうきめにもあひさふらへおんゆくへをしたひまゐらせてたづねまゐらばやとこそぞんじさふらへおんふみたまはらむとまをしたりければきたのかたなのめならずよろこびたまひてやがておんふみあそばしてぞたうだりけるのぶとしおんふみたまはつてよをひについでくだるほどにほどなうびぜんのくにありきのべつしよにくだりつきしゆごのぶしにむかつてまをしけるはこれはだいなごんどののとしごろめしつかはれしさぶらひにげんざゑもんのじようのぶとしとまをすものにてさふらふおんゆくへをしたひまゐらせてたづねまゐりたるよしをまをしたりければなんばのじらうのぶとしがはるばるとこれまでたづねくだりたるこころざしのほどをかんじてだいなごんどのにこのよしまをしたりければをりふしだいなごんはみやこのおんことおぼしめしいだしなみだにむせびうつぶしておはしけるがのぶとしがこれへこれへとのたまへばのぶとしおんそばちかうまゐつてみたてまつるにおはするところのあさましげなるもさることにてはやおんさまかへておはしけるをみたてまつるにつけてもつきせぬものはなみだなりだいなごんさてみやこのことはいかにとのたまへばみやこのおんことはなかなかおぼしめしやらせたまふべしきたのおんかたよりのおんふみとてとりいだしてたてまつるだいなごんひらいてみたまへばきたのかたのみづぐきのあとはなみだにかきくれてとかくうらみくどきてかかれたるよりをさなきひとびとのいまだいとけなきふでのすさびなるにこひしこひしとかかれたるをみたまひてぞいとどせんかたなくはおもはれけるそののち五六にちありてのぶとしまをしけるはいましばらくもさふらひておんゆくへをもみまゐらせたくはさふらへどもきたのかたよりはあひかまへてごへんじたまはつていそぎまゐりのぼるべきよしをおほせられさふらひしにあともなくゆくへもなくさふらはんことおほきにおそれいつておぼえさふらへばこんどはまづまかりのぼりやがてまゐるべきよしをまをしたりければだいなごんこんどなんぢがくだらんまでいのちいきてみみえんこともかたかるべしあひかまへてなりちかがごせとぶらうてえさせよとのたまひぬべきことはみなかねてよりはやつきけれどもせめてのしたはしさにやはるばるといでたりけるのぶとしをいましばしやしばしとてたびたびめしぞかへされけるのぶとしごへんじたまはつてまたよをひについでのぼるほどにほどなうみやこにのぼりつきうんりんゐんにまゐりだいなごんどののごへんじをきたのかたへたてまつるきたのかためづらしきふみをもみるものかなとてわかぎみひめぎみ三にんひとつところにさしつどひこのふみをひらいてみたまひてなみだにむせびたまひけりふみのおくにびんのかみを一むらまきぐせられたりけるをみたまひてぞはやさまかへておはしけるをもしられけるあんげん三ねん八ぐわつ十六にちにかいげんあつてぢしようぐわんねんとぞまをしけるおなじき廿二日にだいなごんありきのべつしよにてうせたまふそもさいごのありさまさまざまにきこゆはじめはさけにぶすをいれてすすめたてまつりけれどもそのしるしもなかりければのちには二ぢやうばかりありけるきしのしたをほりにほりひしをうゑうへよりつきおとしたてまつつてうしなひたてまつりけるとぞきこえしさるほどにだいなごんのきたのかたはうんりんゐんにおはしけるがこのよしをつたへききたまひてやがてぼだいゐんよりひじりをしやうじおんとし三十九にてさまをかへひたすらだいなごんのごしやうぜんしよをぞいのられけるこのきたのかたとまをすはやましろのかみあつかたのきやうのおんむすめなりわかぎみひめぎみきたのかたのべにいでてははなをたをりさはべにおりてはみづをむすびひたすらだいなごんのごしやうぼだいをぞいのられけるさるほどにときさりときうつりよのかはりゆくありさまただてんにんの五すゐとぞみえしおなじき十ぐわつ廿五にちにせいせいとうばうにいづまたはせききありしいうきともまをすてんもんはかせこれをうらなひまをすうちにはだいびやう(乱字脱か)あるのみならずほかにはまたおほきなるうれへとぞまをしけるさるほどにとしくれてぢしようも二ねんになりにけり

 

入力者:荒山慶一



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