平家物語(城方本・八坂系)
巻第十 P435
頸渡 1001
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P437
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八島院宣 1002
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内裏女房 1004
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重衡の戒文 1005
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維盛の熊野参詣 1011
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維盛の入水 1012
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をこすところもありふかきところをばすこしおよがせてあさきところにさつとうちあげたりへいけのつはものこれをみてみな
ふねにとりのつてこぎむかひてぞたたかひけるげんじのつはものどもはへいけのふねにのりうつりのりうつつてぞたたか
ひけるなかにもかうづけのくにのぢうにんわみの八らうゆきしげさぬきのくにのぢうにんかべのげんじにひつくんでふなぞこに
どうとおちわみがくびかききつておきあがらんとしけるところをわみがいとこゑちごのくにのぢうにんこばやしの
たらうたかしげかべのげんじにおちあひてひつくんでうみへぞいりたりけるこばやしがらうどうにくろだのげんだと
まをすものこぶねをこぎよせくまでをおろしてさがしけるにしうもかたきもくまでにとりつきてぞあがつたる
やがてかべのげんじをばふなばたにとつておさへてくびかききつてすててんげりこれをはじめとしてげんじ三
まんよきうちいつてぞわたしけるへいけのかたのつはものどもさしつめひきつめさんざんにいけれどもげんじこれ
をことともせずかぶとのしころをかたむけさんざんにたたかひければへいけかなはじとやおもひけんまたさぬき
のやしまにこぎしりぞくそのまにげんじもこじまのちにうちわたりうまのいきをぞやすめけるさればささきに
こじまをたびけるときのみげうしよにもてんぢくしんたんはしらずにほんわがてうにおいてはかはをわたしたるP480
ことはあれどもうみをわたしたるためしなしきたいふしぎのことなりとぞぶんしやうにものせられたるおなじき十ぐわつ十か
あまりにもなりしかばやしまにはしほかぜはげしくしていそこすなみもたかければげんじのふねもよせきた
らずしやうかくのゆきかふこともまれなればみやこのつてもきかまほしくゆきうちふつてへいけのひとびとは
いとどきえいるここちぞしたまひける
五節の沙汰(あひ) 1016
おなじき廿六にちにみやこには五せちならびにだいじやうゑあるべしとぞきこえしぢしよう四ねんの五せちはふくはらにて
ぞとげられけるそのときはやしまのおほいとのぞせつかのあくよにはまゐられしこんどはおほゐのみかどの
さだいじんつねむねこうぞせつかのあくよにはまゐられける九らうたいふのはんぐわんよしつねかちのひたたれにしらはのや
おひてぐぶつかまつるはんぐわんはきそにもにずみやこなれたるひとにていうなるところもおほかりけれどもへいけの
えりくづにはなほおとれりとぞひとまをしけるこの二三ケねんがあひだはとうごくほつこくのひやくしやうらあるひはげんじにせめふせ
られはるはとうさくのおもひをわすれあるひはへいけになやまされあきはせいしうのいとなみにもおよばずいへかまどをすてて
みなさんりんににまじりしかばかかるたいれいをもいかでかおこなはるべきなれどもかくのごとくぞとげられける
さるほどにげんじついでせめたらましかばへいけはそのとしにほろぶべかりしをたいしやうぐんみかはのかみのりよりはり
まのくにむろたかさごにひきのきみやこよりいうくんいうぢよどもよびくだしあそびたはふれてのみぞおはしけるとうごくP481
ほつこくのつはものどもはすすむもせうせうありけれどもたいしやうのげぢにしたがふならひちからおよばずただくにのつひえ
たみのわづらひのみあつてさるほどにとしくれてげんりやくも二ねんになりにけり

 

入力者:荒山慶一



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