平家物語(城方本・八坂系)
巻第三 P100

山門滅亡 301
ぢしよう二ねん・しやうぐわつついたちのひ・しゆじやう・てうきんのおんために・ほうぢうじどのへ・ぎやうかうなつて・なにごとも・れいにかはりたる
ことは・なけれども・きよねんのなつ・しんだいなごんなりちかのきやう・いげ・ごきんじゆのひとびと・そのほかほくめんの・ともがらどもに・いたるまで・
おほくながし・うしなはれし・ことどもを・ほうわうやすからず・おぼしめされければ・よの・おんまつりごとをも・ものうく・おぼしめされけ
り・にふだうしやうごくも・ゆきつなが・つげしらせしのちは・きみをもうしろめたいことに・おもひまゐらせ・うへにはことなき・や
うなれども・したには・こころえうじんつねにして・にがわらひて・のみぞ・おはしける・そのころ・ほうわうは・みゐでら・
の・こうけんそうじやうを・ごしはんとして・しんごんの・ひほふ・こんねむ・だいにちきやう・こんがうちやうぎやう・そしつぢきやう・三ぶの
ひきやうを・ごでんじゆありて・おなじき二ぐわつ五かのひ・みゐでらにて・ごくわんぢやう・あるべきよし・きこえしかば・さんもんおほきに・
いきどほり・むかしより・だいだいの・みかどの・じゆかいくわんぢやうは・わがやまにて・とげさせたまふこと・これせんきなり・なかにも・さん
わうの・けだうは・じゆかい・くわんぢやうのためなり・しかるを・こんど・みゐでらにて・とげさせたまはば・をんじやうじを・やきはらふ
べしとぞ・せんぎしける・ほうわうこのよしを・つたへきこしめされて・やうやうに・こしらへ・なだめ・おほせられけれども・P101
れいの・さんもんの・だいしゆ・ゐんぜんにも・かかはらず・いよいよほうきすと・きこえしかば・ほうわうこれおほきに・むやく
なりとて・いそぎ・ごけぎやうを・ごけちぐわんあつて・みゐでらにての・ごくわんぢやうをば・おぼしめし・とどまらせ・たまひけり・
されども・ごほんいなりければ・こうけんを・めしぐして・てんわうじへ・ごかうなり・五ちくわうゐんを・つくらせたまひ・
かめゐの・みづをもつて・五ひやうの・ちすゐと・さだめ・ぶつぽふ・さいしよの・れいちにてぞ・でんほふ・くわんぢやうをば・とげさ
せたまひける・さるほどに・ほうわうは・さんもんの・さうどうことを・やめさせ・たまはんがために・みゐでらにての・ごくわん
ぢやうをば・おぼしめしとどまらせ・たまひたりけれども・そのころさんもんには・だうしゆと・がくしやうのあひだに・ふくわいのこと・いできて・
かつせん・どどに・およぶまいどに・がくりよ・うちおとさる・さんもんの・めつばう・これひとへにてうかの・おんだいじとぞ・みえし・
だうしゆと・まをすは・がくしやうの・めしつかひける・わらんべの・ほうしになりたるなり・もしは・ちうげんほうしばらや・こん
がうじゆゐんの・ざす・かくそん・ごんそうじやう・ちさんのとき・三たふに・けちばんして・げしゆと・がうして・がくしやうをも・こととも
せず・どどのいくさに・かちにけり・だうしゆ・ししゆの・めいをそむきて・かつせんのくはだてあり・だいじやうのにふだうどのも・ゐんぜんを・
うけたまはつて・きのくにのぢうにん・ゆあさの七らうひやうゑむねみつに・おほせて・きないのつはもの・二千よにん・だいしゆにさしそへて・だうしゆ
を・せめさせらる・だうしゆひごろは・とうやうばうに・さふらひけるが・あふみのくに・三かのしやうに・げかうして・こくちうのあくたう
らを・かたらひ・すたの・せいをいんぞつして・こんどは・さうおいさかのじやうに・たてこもる・だいしゆ・くわんぐんに・五
千よにんにて・おしよせたり・だいしゆは・くわんぐんを・さきだてんとす・くわんぐんはまた・だいしゆを・さきだてんとせしほど
に・おもひおもひ・こころごころになつて・こんどのいくさも・はかばかしうは・せざりけり・だうしゆが・かたらふところの・P102
あくたうとまをすは・しよこく七だうの・せつたう・がうたう・さんぞく・かいぞくらなれば・よくしん・しじやうにして・ししやうふちの・やつばら
なりければ・いのちもをしまず・せめたたかふ・こんどもみな・がくしやういくさに・まけにけり・よすゑになれば・あくにんは・い
よいよつよく・ぜんにんはまた・よわくなるこそかなしけれ・そののち・さんもんいよいよ・あれはてて・十二しん・ところ
ところのほかは・しぢうの・そうりよまれなり・たにだにの・かうえん・まめつして・だうだうの・ぎやうほふも・たいてんす・しゆがくの・まどを
とぢ・ざぜんのゆかも・むなしくせり・四けう・五じの・はるのはなも・にほはず・三たい・そくぜの・あきのつきも・くも
れり・三百よさいの・ほつとうかかぐる・ひともなく・六じふだんのかうのけぶりも・たへやしぬらん・だいしやたかくそびえて
は・三ぢうのかまへを・せいかんの・うちにさしはさみ・とうりやうはるかに・ひいでては・四めんのたるきを・はくぶのあひだに・
かけたりき・されども・いまは・ぐぶつは・みねのあらしに・まかせ・きんようを・こうれきに・うるほし・よるのつき・ともし
びをかかげ・あかつきのつゆ・たまをたれ・れんざのよそほひを・そふとかや・それまつだいの・ぞくに・およんで・三ごくのぶつ
ぽふも・しだいに・すゐびしけるにや・とほくてんぢくの・ぶつせきを・とぶらふに・ぎをんしやうじや・ちくりんしやうじや・ぎつこどくをん・
わしの・たかねも・このごろは・こらうのすみかと・あれはてて・いしずゑのみや・のこるらん・はくろちには・みづたえ
て・くさのみ・ふかくしげれり・たいぼん・げじようの・そとばも・こけのみ・むして・かたぶきぬ・しんたんには・
てんだいさん・五だいさん・はくばじ・ぎよくせんじも・このごろは・ぢうりよ・なきさまと・あれはてて・だいせうじようの・ほうもんも・
はこのそこにや・くちぬらん・わがてう・あたご・たかをの・だうたふも・むかしは・のきをならべて・ありしかども・いちやの・
うちにあれはてて・てんぐのすみかとなりにけり・なんとの七だいじも・このごろは・とうだい・こうふく・りやうじのほかは・のこP103
れる・だうしやもまれなり・八しう九しうも・あとたえて・ほつさう・三ろん・二しうのほかは・のこれる・ほうもんまれなり・
さしも・やごとなかりし・てんぢくの・ぶつぽふも・ぢじようの・いまにおよんで・ほろびぬるにやと・こころあるひとの・
これをかなしまずと・いふことなし・りざんしける・そうのうちにや・よみたりけん・ふるきばうの・はしらに・いつしゆのうたをぞ・かきつけける
いのりこしわがたつそまのひきかへてひとなきみねとあれやはてなん
これは・でんけうだいし・たうさん・さうさうの・いにしへ・あのくたら・三みやく・三ぼだいの・ほとけたちに・いのりまをされたりし・
そのこころをやおもひいでてや・よみたりけん・いと・やさしうぞ・きこえし・八日は・やくしの・ひなれども・な
むと・となふるこゑもせず・うづきは・すゐじやくのつきなれども・へいはくを・ささぐるひともなし・あけのたまがき・かみさびて・し
めなは・のみや・のこるらん・さればふるきひとびとの・まをしあはれけるは・わうばふつきんとては・まづ・ぶつぽふさき
だつて・ばうずと・いへり・されば・しなののくに・ぜんくわうじも・さんぬる・三ぐわつ十三にちに・えんじやうの・きこえあり・
このによらいとまをしたてまつるは・むかし・ちうてんぢく・びしやりこくに・おいて・五しゆの・あくびやう・おこつて・にんみんことごとく・
ほろびしとき・びしやりこくの・ぐわつがいちやうじやと・しやくそん・もくれん・みこころを・ひとつにして・えんぶだごんにて・てづからみ
づから・いうつし・まゐらつさせたまへる・一ちやくしゆはんの・みだの三ぞん・えんぶだい一の・れいざうなり・されば・
ぶつぽふ・とううぜんの・ことわりにこたへて・ちうてんぢくにて・五百さい・はくさいこくにて・一千よねん・そののちわがてう・つのくに・
なにはの・ほりえにして・しばらく・やすらひたまひしを・おほみの・あづまうど・ほんだよしみつ・とりたてまつつて・P104
しなののくに・みのちのこほりに・あんぢしたてまつる・ぢしようのころまでは・五百五十よねんなり
康頼祝 302
きかいがしまの・るにんども・つゆのいのち・くさばのすゑに・すがりても・をしむべきにはあらねども・たんばのせうしやうの・しうと・
へいさいしやう・のりもりの・しよりやう・ひぜんの・かせのしやうより・いしよくを・つねにおくられしかば・しゆんくわんも・やすよりも・いのちを
いきては・ながらへけり・たんばのせうしやうなりつね・へいはんぐわんやすよりにふだうと・二にんは・くまのしんし(イ信心)の・ひとにてお
はしければ・いかにもして・たうしまのうちに・くまの三しよごんげんを・くわんじやうしたてまつりて・きらくのことを・いのらばや
といふに・しゆんくわんは・もと・さんそうなるうへ・ふしんの・ひとにて・さんわうの・おんことならば・さもありなん・ごんげん
の・おんことは・あながち・しんも・おこらずとて・このぎに・どうしんをも・したまはず・二にんは・おなじこころに・も
ししまのうちに・くまのににたる・ところやあると・たづねまはるに・あるひは・りんたふの・たへなるところもあり・あるひは・こうきん
しうの・やまもあり・やまのけしき・きの・こだちほかより・なほすぐれたり・みなみをのぞめば・かいまんまんとし
て・くものなみ・けぶりのなみ・いとふかく・みづは・へきたんを・おび(イたたへ)たれば・かのちやうあん・しやうかが・むすめの・げんのとくを・
あらはせし・じんやうの・かう・のほとりも・これには・すぎじとぞ・みえし・きたをかへりみれば・また・さんがくの・
ががたるなかより・はくせきの・れうすゐ・みなぎりおちたる・たきのおと・ことにすさまじく・しようふう・かみさびたる・けしき・まこと
に・ひれうごんげんの・おはします・なちの・おやまに・さ(も字脱 )にたりけり・さてこそ・やがて・そこをば・なP105
ちさんとは・なづけられけれ・かのみねは・ほんぐう・これは・しんぐう・かれは・そんぢやう・そのわうじ・どのわうじ・
このわうじと・わうじわうじの・なをまをし・やすよりにふだう・せんだちにて・きらくの・ことをぞ・いのられける・なむごんげん・
こんがうどうじ・ねがはくは・われらを・いまいちど・こきやうへかへさせたまひて・こひしき・ものどもを・みせしめたまへと・
ふたとせが・あひだぞ・いのられける・ひかずつもつて・たちかふべき・じやうえなければ・あさのころもを・みにまとひ・
きりべの・わうじの・なぎのはを・いなりのやしろの・すぎのはには・たむけつつ・くろめに・つくとぞ・くわんじけ
る・けがらはしき・心ある時は・さはべの・みづを・こりにかき・いはたがはの・きよきながれと・おもひやり・
たかきところに・のぼりては・ほつしんもんとぞ・くわんじける・さるほどに・やすよりにふだうは・ひに六十六ど・まゐり・ご
へいがみの・なければ・はなをたをりて・へいとささげ・ほんぐう・しようじやうでんの・おんまへにて・つねはのつとをぞ・まをしけ
る・それあたりきたれる・としのついで・ぢしよう二ねん・つちのえいぬのとし・つきのならひは・十ぐわつ・二ぐわつ(イ十二月)・ひのかず・三
百五十よケにち・きちにちりやうしんを・えらびて・かけまくも・かたじけなく・まします・につぽんだい一・だいれいけん・ゆや三しよ・ごんげん・
ひれう・だいぼさつの・けうりやう・うづの・ひろまへにして・しんじんの・だいせしゆ・うりんふぢはらの・なりつね・ならびに・しやみしやうせう・一しんしやうじやうの・まことをいたし・三ごふさうおうの・こころざしを・ぬきんでて・つつしんでもつて・うやまつてまをす・それ・しようじやうだいぼさつは・さいどくかい
の・けうしゆ・三じんゑんまんの・かくしゆなり・りやうしよごんげんは・あるひは・とうばう・じやうるり・いわうのしゆ・しゆびやうしつぢよの・によらいた
り・あるひは・なんぱうふだらく・のうけのしゆ・にふちう・げんもんの・だいし・にやくわうじは・しやばせかいの・ほんしゆ・せむゐしや
のだいし・ちやうじやうの・ぶつめんを・げんじてしゆじやうのしよぐわんを・みてしめたまふ・ここをもつて・かみいちじんを・はじめたてまつつP106
て・しもばんみんに・いたるまで・あるひは・げんせあんをんのため・あるひは・ごしやう・ぜんしよのために・あしたには・じやうすゐを・むすん
で・ぼんなうの・あかを・すすぎ・ゆふべにはしんざんに・むかつて・はうがうを・となふるに・かんおうおこたることなし・
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きに・なずらふる・くもをわけて・のぼり・つゆをしのぎて・くだる・ここに・りやくの・ちを・たのまずんば・
いかがあゆみを・けんなんのみちに・はこばむや・それ・ごんげんの・ゐとくを・あふがずんば・なんぞ・かならずしも・いうゑんのさかひ
に・ましまさむや・よりて・しようじやうだいごんげん・ひれうだいぼさつ・しやうれん・じひの・おんまなじりを・あひならべ・われらが・
むにの・たんせいを・ちけんして・いちいちにこんしを・なふじゆせしめたまへ・ままのみ・(イままのみ四字ナシ)そもそもむすぶはや
たまの・りやうしよごんげんは・おのおのきに・したがつて・あるひは・うえんの・しゆじやうを・みちびき・あるひは・むえんの・ぐん
るゐを・すくはんがために・七はうしやうごんの・すみかをすて・八まん四千の・ひかりを・やはらげ・かりに・すゐじやくと・あらはれ
て・六だう三うの・ちりに・どうじたまへり・されば・ぢやうごふやくのうてん・ぐちやうじゆ・とくちやうじゆの・らいはい・そでをつらね・
へいはくれいてんを・ささぐる・ことひまなし・にんにくのころもを・かさね・かくだうのはなを・ささげてしんでんのゆかを・うごかし・しん
じんの・みづをすましては・りしやうの・いけを・たたへたり・しんめい・なふじゆしたまはば・しよぐわんなんぞ・じやうじゆせざらんや・あ
ふぎ・ねがはくば・十二しよごんげん・おのおの・りしやうのつばさを・ならべ・はるかに・くかいの・そらにかけり・さ
せんの・うれへを・やすめて・すみやかに・きらくの・ほんくわいを・とげしめたまへ・さいはいさいはい・とぞまをしけるP107
卒都婆ながし 303
さるほどに・二にんのひとびとは・あるよ・ほんぐうしようじやうでんの・おんまへに・つやして・よもすがら・ねんじゆせられけ
るに・おきのあらし・ことに・はげしかりけるに・いづかたよりともしらず・このはふたつ・二にんの・ひとびとの・そでの
うへに・ふきかけたり・はんぐわんにふだう・なにとなう・これをとつて・みけるに・さしも・このあひだたのみを・かけたてまつる・
みくまのの・なぎのはにてぞ・さふらひける・このきのはに・一しゆのうたを・むしくひにこそ・したりけれ
ちはやぶるかみにいのりのしげければなどかみやこへかへらざるべき W
ごんげんの・ごなふじゆ・うたがひなしとぞ・おぼえたる・あるよまた・二にんの・ひとびとにしの・ごぜんのおんまへに・つやして・
ねんじゆ・せられけるに・ゆめうつつとも・わかざるに・おきのかたより・かざり・じんじやうに・したる・こ
ぶねを・一さう・なぎさによせ・よにうつくしき・にようばうたち・十よにん・ふねよりあがり・つづみ・しらべひやうしを・もたせつ
つ・にしのごぜんの・おんまへにて・いまやうをこそ・うたはれけれ・よろづのほとけの・ぐわんよりも・せんじゆの・
ちかひぞ・たのもしき・かれたる・くさ・木にも・たちまちに・はなさき・みのるとこそ・きけと・これを・二三
ど・うたふかと・おぼしくて・かきけすやうにぞ・うせられける・にしのごぜんの・ごほんぢ・せんじゆせんげんにて・
おはします・りうじんは・廿八ぶしゆの・そのひとつなれば・さだめて・ごやうがうなるらんと・たのもしかりしおんことなり・
なかにも・やすよりにふだうは・みやこのこひしさの・せつなるままに・せんぼんの・そとばを・つくり・あじの・ぼんじをかき・P108
けみやう・じつみやう・ねんがう・ぐわつぴのしたには・二しゆの・うたをぞ・かきつけける・
さつまがたおきのこじまにわれありと・おやにもつげよやへのしほかぜ
おもひやれしばしとおもふたびだにも・なほふるさとはこひしきものを
これをうらに・もつて・いで・につぽんのかたを・ふしをがみ・なむ・きみやうちやうらい・ぼんてん・たいしやく・四だいてんわう・けんらう
じしん・そうじては・につぽん・六拾よしうの・だいせうのじんぎ・みやうだう・べつしては・ゆや三しよ・ごんげん・かいりうわうとう・ま
でも・あはれみを・たれさせたまひて・このうちに・一ぽんなりとも・こきやうへ・つたへてたばせ・たまへと・きせいして・
おきつしらなみの・よせては・かへす・たびごとに・そとばを・うみにぞ・うかべける・そとばは・つくりいだすに・
したがつて・うみにいれければ・ひかず・つもれば・そとばの・かずも・つもりにけり・おもふこころや・たよ
りのかぜとも・なりたりけん・またしんめいぶつだや・おくらせ・おはしましけん・千ぼんの・そとばのうちに・一ぽんは
るばると・八へのしほぢを・ゆられきて・あきのくに・いつくしまの・だいみやうじんの・おまへのなぎさに・うちあげたり・
ここにやすよりが・ゆかりありけるそう・一にん・せんやうだう・しゆぎやうしけるが・あるとき・いつくしまに・まゐり・しやだんのていを・を
がみたてまつるに・こころもことばも・およばれず・八しやの・ごてんは・いらかをならべ・百八十けんの・くわいらうあり・しやとうは・
うみにのぞめる・ところにて・しほの・みちひに・つきぞすむ・しほの・さすときは・おきのとりゐ・うちのくわいらう・あけのたまがき
に・いたるまで・ことごとくみな・るりのごとし・またしほのひくときは・なつのよなれども・おまへの・はくさに・しもぞ
おく・それ・わくわうどうぢんの・すゐじやくは・いづれも・とりどりなりとは・まをせども・いかなれば・このおんかみは・P109
かいまんの・うろくづに・えんをばむすばせ・たまふらんと・ごほんぢを・みやびとに・たづねたてまつれば・しやがら・りうわうの・
だい三の・ひめみや・たいざうかいの・すゐじやくとぞ・まをしける・このそういよいよ・たつとくおもひ・たてまつつて・ひねもすに・ほつ
せまゐらせ・やうやう・ひくれ・つきさしいでて・おまへのなぎさに・たちいでまんまんたるかいしやうを・みけるに・そこはか
となく・うちよせける・もくづの・なかに・そとばのかたのみえけるを・このそうなにとなう・これをとつて・み
けるに・さつまがたおきの・こじまと・かきながせる・ことのはは・やすよりにふだうが・しわざなり・もじをばゑりい
れ・きざみつけたりければ・なみにも・いそにも・あらはれずして・よにも・あざやかにこそ・みえにけれ・
このそうあはれにもまた・ふしぎにおもひ・おひのかたはらに・さし・みやこに・のぼり・やすよりが・ははや・つまこどもの・
一でうのきた・むらさきののへんに・しのうでさふらひけるに・とらせければ・らうぼ・これをうけとり・なみだをはらはらと・なが
いて・あはれこのそとばの・もろこしのかたへも・ゆられもゆかで・なにしにこれまでつたはりきて・ふた
たびものを・おもはすることよ・とて・なきければ・つまこどもも・ながされしときの・おもひより・いまこのそとば
を・みけるにぞ・いとどおもひは・ふかかりける・そののちはるか・えいぶんに・およんで・ほうわう・かのそとばを・
めしよせ・えいらんあつて・あなむざん・このものどもは・いまだきかいがしまに・ながらへて・あるにぞとて・れうがんにおんなみだせ
きあへさせたまはず・そののち・うちのおとどのもとへ・つかはし・おはします・だいふはまた・ちちのぜんもんに・みせ
たてまつらる・にふだうもいはきならねば・よにも・あはれげにこそ・のたまひけれ・そのころ・きやうちうに・あやしの・しづのを・しづの
めに・いたるまで・やすよりが・二しゆのうたとて・くちずさまぬは・なかりけり・かきのもとのひとまろは・しまがくれゆく・P110
ふねをおもひ・やまべのあかひとは・あしべのたづを・ながめたまふ・すみよしのみやうじんは・かたそぎの・おもひをなし・み
わのみやうじんは・すぎたてるかどをさす・むかし・そさのをのみことの・三十一じを・はじめおき・たまひしより・このかた・も
ろもろのしんめい・ぶつぽふ・そのえいぎんをもつて・百千まんの・おもひをのぶ・千ぼんの・そとばなれば・さこそは・
ちひさくも・ありけめに・さつまがたより・みやこまで・つたはりけるこそ・ふしぎなれ
蘇武 304
あまりに・ひとのおもふことは・かくしるしありけるにや・むかし・かんてうのみかど・ここくを・せめさせたまひしに・はじめは・
りりようとまをす・しやうぐんの・十八さいに・なりけるに・かんわうの・はたをたうで・十万きを・さしそへて・ここくへ・むけ
られたりけるに・ここくのいくさこはく・かんわうのいくさ・よわくして・みかたほどなく・おつかへさる・つぎのとし・またそぶ
とまをす・しやうぐんの・十六さいに・なりけるに・かんわうのはたをたうで・卅万きを・さしそへて・ここくへ・むけられた
りけるに・こんどもまた・ここくのいくさ・こはく・かんわうのいくさ・よわくして・みかた・たたかひまけにけり・そぶを・はじめ
て・つはもの千よにんを・とりこにし・ほらにおひこめ・三ねんといふに・とりいだし・そぶを・はじめて・つはもの・六百よにんが・かたももを・いち
いちにおしきつて・ひろきのべへ・おひはなつ・やがてしするもあり・ほどへてむなしく・なるもあり・そのなか
に・そぶ一にんは・しなざりけり・のべにいでては・くさのみをとり・やまだにおりては・おちぼをひろひ・さは
べの・みづを・えんとして・つゆのいのちを・ささへけり・さるままには・たのむのかり・はじめは・そぶに・おそれP111
けるが・しだいに・みなるるままに・おそるることこそ・なかりけれ・あるとき・そぶ・ゆびのさきより・
ちをあやし・一くをかいて・かりのつばさに・むすびつけ・これをかんてうに・もつてわたり・みかどのごげんざんに・い
れよやと・いひふくめてぞ・はなちける・かひがひしくも・たのものかり・あきはかならず・ここくより・みやこへかよふもの
なれば・かんの・せうてい・じやうりんゑんに・みゆきなつて・ぎよいうあり・ゆふされのそら・うすぐもつて・なにとなく・ものあはれ
なる・をりふし・ひとつらのかりとびわたる・そのなかに・かりひとつとびさがつて・おのがつばさに・むすび・つけた
る・たまづさを・くひきつてぞ・おとしける・くわんじんあやしみをなし・これをとつて・みかどへたてまつる・みかどひらい
て・えいらんあるに・そぶが・ほまれの・あとなれや・むかしは・がんくつの・ほらに・こめられて・いたづらに・三しゆんの・
しうたんを・おくりき・いまはくわうでんの・うねに・はなたれて・むなしく・こてきの一そくと・なれり・たとひかばねは・このち
に・ちらすと・いふとも・たましひはかへつて・ふたたびくんべんに・つかへん・そしけいとぞ・かいたりける・みかど・あなむざん
これは・ひととせ・そぶと・いつしものを・ここくへ・むけたりしが・いまだながらへて・あるにこそ・とて・こんど
は・やうりとまをす・しやうぐんの・十九さいに・なりけるに・かんわうの・はたをたうで・百まんきを・さしそへて・ここく
へぞ・むけられける・やうりは・そぶが・こなりけり・やうり・百万きを・たまはつて・ここくにむかひ・せめ
けるに・こんどぞ・ここくのいくさよわく・かんわうのいくさ・こはくして・ここくほどなく・やぶれにけり・そののち・そぶをば・
くわうやのうちより・たづねいだす・かたあしは・きられながら・十九ねんの・せいさうを・おくり・とし卅四とまをすには・かんきう
ばんりの・なみのうへ・ふたたび・きうりへ・かへりけり・それよりしてぞ・ふみをがんしよと・なづけ・つかひを・がんしP112
とまをすなり・かんかの・そぶは・しよを・かりにつけて・きうりへ・おくり・ほんてうの・やすよりは・うたをなみのたよりに・
こきやうへ・つたふ・かれは・かりのつばさの・一くのし・これは・そとばの・おもての二しゆのうた・かれは・かんてう・こ
れは・ほんてう・かれは・じやうだい・これは・まつだいさかひを・へだて・よよは・かはれども・ふぜいは・いづれも・おなじ・あはれなりし・ことどもなり
ゆるしふみ 305
にふだうしやうごくの・だい二のおんむすめ・ちうぐうとて・だいりにわたらせたまひけるが・ぢしよう二ねんの・はるのころより・ごなうと・
きこえさせたまひしかば・くものうへ・あめがしたの・さわぎなるうへ・へいけのひとびと・ことにさわぎ・あはれけり・い
け・くすりを・つくし・おんやう・じゆつを・きはむ・しよじに・みどつきやう・はじめてしよしやへ・くわんぺいを・たてまつらる・されども・ご
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あひ 306 P119
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御産の巻 307
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そのほか・一じきんりん・五だいこくうざう・五だんのほふ・六じかりん・八じもんじゆ・ふげんえんめいのほふに・いたるまですべて・だい
ほふ・ひほふ・のこるところなく・しゆせられけり・ごまのけぶりは・ごしよちうに・みちみち・すずのこゑは・くもをひびかし・しゆP121
ほふのこゑには・みのけよだつ・ごけんじやには・ばうかく・しやううんりやうそうじやう・しゆんげうほういん・がうせん・実せん・りやうそうづ・
いげの・ごけんじやたち・ねんらいしよぢのほんぞん・ほんじ・ほんざんの・さんばう・としごろの・ぎやうこふをもつて・おのおのそうが
のくどもを・あげあせをながし・くろけぶりをたてて・もみあはれたる・けいき・いかなる・おんもののけなりとも・
おもてを・むかふべしとも・みえざりけり・そのほか・あらはるるところの・おんもののけどもをば・みやうわうよりましの・ばく
にかけて・せめふせせめふせ・をどりくるふ・ありさまは・おそろしなんども・おろかなり・ほうわうは・いまくまのへ・
ごかうなるべきにて・ごしやうじんのおついで・なりければ・みきちやうちかう・ござあつて・せんじゆきやうを・うちあげうち
あげ・あそばされけるにぞ・さしもをどりくるふ・おんよりましどもも・しばらく・ばくを・しづめて・ちやう
もんつかまつりける・なによりも・ほうわうの・おほせけるおんことばこそ・かたじけなうはうけたまはれ・たとひいかなる・おんものの
け・なりとも・このおいほうしが・かくてさふらはんほどは・いかでか・たやすくちかづきたてまつるべき・ただしさぬきのゐんの・ご
りやうばかりなり・それもごつゐがうののちは・おんうらみあるべしとも・ぞんぜず・そのほか・つぎさまの・ものどもは・
てうおんをもつてみな・ひととなりたる・ものぞかし・たとひはうしやの・こころをこそ・ぞんぜずとも・あにしやうげを・なさんや・
とうとう・まかりしりぞき・さふらへとて・によにん・しやうさんしがたからん・ときに・のぞんで・じやま・じやしやうして・く・
しのびがた・からんときも・こころをいたして・だいひしゆを・しようじゆせば・きじんたいさんして・あんらくに・しやうぜんと・となへさ
せたまひて・おんじゆず・さらさらと・もませも・はてさせ・たまはぬに・ごさん・へいあんのみ・ならず・わうじ・に
てぞ・ましましける・なかにも・ほん三ゐのちうじやうしげひらのきやうの・いまだそのころ・ちうぐうのすけにて・おんまへに・さふらはれけP122
るが・みすのうちより・つつといで・ごさん・へいあんのみならず・わうじ・ごたんじやうさふらふ・ぞやと・たからかに・まを
されたりければ・ほうわうを・はじめたてまつつて・おのおのの・じよしゆ・すはいの・ごけんじやに・いたるまで・一どうに・あはや
とまをしあはれける・こゑごゑの・はるかに・もんぐわいまでも・ののめいて・しばしは・しづまりも・やらざりけ
り・にふだうしやうごく・あまりの・うれしさにや・こゑをあげてぞ・なかれける・よろこびなきとは・これをまをすべきにや・
ほうわうは・いまくまのへ・ごかうなるべきにて・はるかの・もんぜんにみくるま・たてさせられたりければ・いそぎ・ごたいしゆつ
あり・にうだう・あまりの・めでたさにや・ふじの・わた千りやう・おつさまに・ほうぢうじどのへ・しんじやうせらる・ほう
わう・これおほきに・むやくなりとて・いそぎ・ごけんじやの・うちへぞ・くだされける・そののち・ほうわうは・いまくまのへ・ごかうな
る・七か・ごさんろうのうちに・ごあんじちのまへに・こんど・ほうわうの・六はらにての・ごけんじやの・ごしやうよう・ほこ
りあるべしといふ・らくしよをぞ・たてたりける・いかなる・あどなしものの・しわざにてか・ありけん・を
かしかりし・ことどもなり・そののち・こまつどの・ごさんじよへ・まゐらせたまひ・きんせん・九十九もんを・わうじの・おんまくらが
みの・したに・おき・くはのゆみ・よもぎの・やを・もつて・てんち四はうを・い・てんをもつては・ちちとさだめ・ち
をもつては・ははとさだむ・みこころには・てんせうだいじん・いりかはらせたまへ・ごじゆみやうちやうをんは・むかしの・ほうそ・とうばう
さくが・よはひを・たもたせたまへと・いはひまゐらつさせ・たまひて・やがて・おんほそのを・きりまゐらつさせ・たまひけり
公卿揃(あひ) 308 P123
おんちつけには・へいだいなごん・ときただのきやうの・きたのかた・そつのすけどのぞ・まゐられける・さきのうだいしやうむねもりのきやうの・きたのかたこ
そ・まゐらせ・たまふ・べけれども・さんぬる・七ぐわつに・せいきよのうへは・たいしやう・だいなごん・りやうくわんをじし・まをさ
れて・むねもりきやうは・ろうきよとぞ・きこえし・あはれ・こんど・しゆつしあらば・きやうだい・さうにあひならび・たまひて・い
かばかりか・めでたからまし・むねもりのろうきよ・ほいなかりし・ことどもなり・されば・ふるきひとびとや・つぼねの・
にようばうたちの・まをしあはれけるは・あはれ・こにようゐん・だにも・わたらせたまはんには・これほどしも・おんかるがるし
き・おんことは・よもわたらせたまはじ・だいじやうほうわうの・ごけんじや・じやうこにもうけたまはらず・またまつだいにも・あるべしとも・
ぞんぜず・こんどの・ごさんに・めでたかりしは・わうじ・たんじやう・かたじけなかりしは・ほうわうの・ごけんじや・いう
なりしは・こまつどのの・ふるまひ・おもはざりしは・にふだうしやうごくの・よろこびなき・ほいなかりしは・むねもりの・
ろうきよ・またあやうかりしことは・わうじたんじやうの・ときは・ごてんのむねより・こしきを・みなみへころばかすことのさふらふ
を・ひめみや・たんじやうの・やうに・ききなして・きたへむけて・ころばかす・ひとびとあれは・いかにととよまれて・
またからげ・なほして・みなみへおとし・なほしたりしぞ・これきたいの・あやまりなる・またをかしかりしことに
は・かもんのかみ・ときはると・まをす・おんやうしの・千どのおはらひの・やくにめされて・まゐりけるが・しよじうなんども・
ほくせうなりけるに・ひとのおほきことは・たう・ま・ちく・ゐの・ごとし・ひざをよこたふるに・およばねば・やく
にんの・まゐりさふらふ・まゐりさふらふとて・たいぜいのなかを・おしわけおしわけ・まゐるほどに・いかがは・したりけむ・みぎの・くつ
を・ふみぬかれ・うつぶして・とらんと・しけるを・かうぶりをさへに・つきおとされて・そくたい・ただしき・P124
らうしやの・もとどりはなちにて・ゆるぎ・いでたりけるにぞ・みなひと・はらのわたをば・きられける・ときはる・
わがみのうへとは・つゆしらず・かかる・めでたき・ごさんじよに・いかなる・けうけいの・いできてさふらふ・や
らんとて・あきれて・たつたりければ・こらへかねたる・わかきひとびとは・みなかんしよへ・いでてぞ・わら
はれける・おんやうしは・へんばいとて・あしをだにも・あらけなく・ふまずとこそ・うけたまはりつるに・その
ときは・なにともおもはざりしかども・のちにこそ・おもひあはすることども・おほかりけれ・こんど・ふさんの・くぎやうには・
まづ・さきのうたいしやうむねもり・おほみやの・だいなごんたかすゑ・七でうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうを・さきとして・いじやう十三にんとぞ・
きこえし・このひとびとは・つぎのひ・ゑぼし・ひたたれにて・おんよろこびまをしに・にし八でうへ・まゐられけるとぞ・きこえし・
さるほどに・ごさんじよに・まゐりこもらせたまふ・ひとびとには・くわんぱく・まつどの・めうおんゐんの・だいじやうだいじんもろなが・おほゐ・みかどの・さだいじんつねむね・つきのわの・うだいじんかねざね・こまつのないだいじんしげもり・ごとくだいじの・さたいしやうさねさだ・げんだいなごんさだふさ・三でうだいなごんさねふさ・とうだいなごんさねくに・五でうだいなごんくにつな・なかのみかどの・ちうなごんむねいへ・いけのちうなごんよりもり・くわざんのゐん
の・ちうなごんかねまさ・べつたうただちか・あぜちすけかた・げんちうなごんまさより・とうちうなごんすけなが・ごんちうなごんさねつな・さゑもんのかみとき
ただ・さひやうゑのかみしげのり・うひやうゑのかみみつよし・くわうごぐうのだいぶともかた・へいさいしやうのりもり・ひだりのさいしやうちうじやうさねむね・みぎのさいしやうちうじやうさねいへ・さだいべんさいしやうながかた・うだいべんのさいしやうつねふさ・六かくのさいしやうよりさだ・ほりかはのさいしやう・いへみち・しんさいしやうのちうじやう
みちちか・さきやうのだいぶながのり・三ゐのちうじやうとももり・しん三ゐのさねきよ・いじやう・卅三にん・うだいべんの・ほかは・みな・ちよくいなりP125
頼豪 309
そののちだいりには・こんどの・ごさんの・おんいのりの・きそう・かうそうたちに・けんしやうおこなはれけり・にんわじのみやは・とう
じしゆざう・ならびに・五七にちのみしゆほふ・たいけんのほふ・くわんちやうの・こうぎやうあるべしとて・みでし・ゑんりやうほうげんを・ほういん
にきよせらる・ざすのみやは・二ほん・ならびに・ぎうしやを・まをさせたまひけるを・おむろしきりに・あたへ(ささへノ愆カ)まを
させたまひければ・みでし・かくせいそうづを・ほういんに・きよせらる・むかししらかはのゐんのきさきは・きやうごくのおほとののおんむすめな
り・しゆじやういかにもして・きさきばらに・わうじ・あらま・ほしうおぼしめされければ・そのころ・みゐでらに・うげんと
きこゆ・じつさうばうの・あじやりらいがうを・めされて・なんぢ・きさきばらに・わうじ・いのりいだして・まゐらせよ・けんしやうは・こひに
よるべしと・おほせければ・らうがうかしこまつて・うけたまはり・おんまへを・ついたつて・みゐでらにかへり・ぢぶつだうに・とぢ
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ぎよかんあつて・やがて・らいがうを・めされて・ごぐわんははや・じやうじゆしぬ・さてなんぢがけんしやうは・いかにとおほせけれ
ば・らいがうかしこまつてうけたまはり・みゐでらにかいだんこんりふつかまつるべきよしを・まをす・しゆじやうこはいかに・一かい
そうじやうなんどをも・のぞみまをさんずるかと・おぼしめされたれば・ぞんぐわいのまをしやうかな・われわうじを・まうけ
まゐらせて・そをつがしめんと・おぼしめすもただかいだいぶゐを・おぼしめすゆゑなり・なんぢがしよまう・たつせば・P126
りやうもん・かつせんして・てんだいの・ぶつぽふ・ことごとくほろびなんず・つゆおぼしめし・よらぬおんことなりとて・つひにきこしめしも・いれさ
せたまはず・らいがう・もつてのほかにいかれる・けしきにて・おんまへを・ついたつて・みゐでらにかへり・ぢぶつだう
に・とぢこもり・ひとへに・ひじにに・せんとぞしける・しゆじやうこのよしをつたへ・きこしめされて・がうそつまさふさのきやうの・
いまだそのころ・みまさかのかみにて・おはしけるを・めされて・なんぢはらいがうに・しだんの・けいやくあんなれば・みゐでら
に・ゆきむかひ・やうやうに・こしらへて・みよかしと・おほせければ・まさふさ・かしこまつてうけたまはり・いそぎ・みゐでら
に・ゆきむかひ・ちよくぢやうのおもむき・いひふくめけるに・らいがうとみにも・いでやらず・ややあつて・ふすぼつたる・だう
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の・いまだそのころゑんゆうばうのそうづにて・おはしけるを・めされて・たまたままうけ・まゐらせたる・わうじを・P127
うしなひ・たてまつりたるよしを・おほせければ・ゑんゆうばうの・そうづ・かしこまつてうけたまはり・むかしより・よよの・みかどの・ごぐわんは・
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まをしつたへたれ・さればいまの・きかいがしまの・しゆんくわんをも・ともにめしこそかへされんずらめ・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける
大塔建立 310
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よしのやしろへ・百にちまうでなんどして・いのりまをされけれども・そのしるしも・なかりければ・さらばわがあがめたてまつる・P128
あきのいつくしまへ・まをさんとて・みとせつきまうでなんどして・いのりまをされたりければ・そのしるしにや・きさきほどなくご
くわいにんあつて・おぼしめすさまに・ごさん・へいあん・わうじ・ごたんじやうありとかや・そもそもにふだうしやうごくの・あきのいつくしま
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少将の都がへり 311 P130
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て・みやこへとは・いそがれけれども・よかんもいまだはげしくて・かいじやうもいたくあれければ・ふねのうちにてひかず
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とを・ことにふれて・よにも・なつかしげにこそ・のたまひけれ・やよひ・なかの六か・なれば・はなはいまだ・な
ごりあり・やうばいとうりの・こずゑこそ・をりしりがほに・いろいろなれ・むかしのあるじは・なけれども・はるをわすれぬ・はな
なれや・せうしやうはなのもとに・たちよつて・とうりものいはず・はるいくばくかくれぬ・えんかあとなし・むかしたれかすみし
ふるさとのはなのものいふよなりせば・いかにむかしのことをとはまし・
このふるきしいかを・えいぜられけるにぞ・やすよりにふだうも・そぞろになみだを・ながしつつ・すみぞめのそでをぞ・ぬらし
ける・くるるほどとは・おもはれけれども・なほもなごりの・をしければ・よふくるまでこそ・おはしけれ・あ
れたるやどの・ならひにて・ふるきのきの・いたまより・もるつきかげはくまぞ・なき・けいろうのやま・あけな
んとすれども・いへぢは・なほもいそがれず・さてしも・あるべきならねば・なみだをおさへて・いでられけり・あけP133
ければ・みやこより・めんめんに・のりものども・とばのへんまで・つかはされたりけれども・やすよりにふだうは・せうしやうの・
おんなごりををしみたてまつつて・ひとつくるまにのり・七でうかはらにて・ゆきわかれけるが・たがひに・なごりを・をしみつつ・
しばしは・はなれも・やらざりけり・まことにをしかるべし・たびびとが・ひとむらさめのすぎゆくとき・いちじゆのもとに・たちや
どり・ゆきわかるるだに・なごりは・したふ・ならひなり・はなのもとの・はんじつのかく・つきのまへの・一やの
とも・だにも・なごりはをしき・ならひなり・いはんやこのひとびとは・このみとせがあひだ・うかりししま・なみのうへ・ふねのうち
の・ともなれば・一ごうしよかんの・ちぎりにて・ぜんせのはうえんも・あさからずや・おもはれけん・さるほどに・やすより
にふだうは・ひがしやま・さうりんじへとて・ゆきければ・せうしやう・六はらへ・いりたまふ・せうしやうの・ははうへりやうぜんにおはしけ
るが・きのふよりさいしやうのもとに・おはして・またれけるが・せうしやうのいりたまふを・ただひとめみたまひて・いのちだに
あればと・ばかりにて・またひきかづきてぞ・なかれける・さいしやうのうちの・じやうげなんによ・みなひとつところに・さしつ
どひ・よろこびの・なみだをば・ながしける・せうしやうのめのとの・六でうが・くろかりし・かみもしろくなり・きたのおん
かたの・さしもはなやかなりし・おんありさまも・このみとせがあひだの・つきせぬ・おんものおもひに・やせくろませ・
たまひて・そのひととも・みえたまはず・またせうしやうの・ながされ・たまひしとき・三さいになられける・をさなきひとも・
ことしは・五さいに・なられける・はるかに・おとなしうなつて・かみゆふばかりにぞ・みえられける・また
きたのかたの・かたはらに・みつばかりなる・をさなきひとの・おはしけるを・せうしやうあれは・いかにと・のたまへ
ば・めのとの・にようばう・これこそと・ばかりにて・なみだに・むせびければ・せうしやうまことや・ながされしとき・たいないにありP134
しを・こころもとなう・みすてて・くだりしが・さては・べちのことなう・むまれ・そだちたることの・ふしぎ
さよどぞ・のたまひける・そののち・せうしやうふたたび・きみに・めしつかへて・さいしやうの・ちうしやうまで・あがられけると
ぞ・きこえし・さるほどに・やすよりにふだうは・ひがしやま・さうりんじの・やどに・おちついて・まづとどめ・おきたりける・
ははのゆくへを・とひけるに・ちかきあたりのひとの・まをしけるは・さんさふらふそれは・きよねんのはるのころまでは・これに
おんわたり・さふらひしが・それもなほ・ひとめをつつませ・たまひて・一でうのきた・むらさきののへんに・しのうで・おんわたり
さふらひしが・おんのぼりのよしを・ききたまひて・なのめならず・よころばせ・たまひしが・すぎにし・きさらぎの・ころより・
おんかぜの・ここちとやらん・きこえさせ・たまひしが・つひに・むなしう・ならせたまひて・けふははや・いつかな
りとぞ・まをしける・やすよりにふだう・なみだをながし・われひぜんの・かせのしやうのにて・としをおくり・びぜんのありきの・べつしよ
にて・ひかずをだにも・おくらずば・などか・いま一どははを・みたてまつらざるべき・さだめなき・よのならひなり・
一しやうはこれ・ゆめのごとし・たれか百ねんの・よはひをごせん・ばんじは・みなむなし・いづれか・じやうぢうの・おもひ
をなさんと・えいじつつ・ふるき・のきのいたまより・もるつきかげの・おぼろなるをみて・なくなく・よみたりけるとぞ
ふるさとののきのいたまにこけむして・おもひしほどはもらぬつきかな
と・くちずさみつつ・やがてそこに・ろうきよして・うかりしむかしを・おもひやり・はうもつしふといへる・もの
がたりを・つくりけるとぞ・うけたまはる・あはれなりし・ことどもなりP135
蟻王が島くだり 312
なかにも・ほつしようじの・しゆきやう・しゆんくわんそうづのわらはに・ありわう・かめわうとて・さふらひけるが・ともにしうのことを
ぞ・かなしみける・なかにも・かめわうは・そのおもひの・つもりにや・ほどなう・はかなくなりにけり・なほもうき
よにありわうは・あはたぐちのへんに・しのうで・さふらひけるが・二にんのひとびとは・めしかへされて・のぼりたまひぬ・そうづ
一にん・しまにとどまりたまふと・きこえしかば・もしやと・とばのへんまで・ゆきむかうて・みけるに・まことに・二
にんのひとびとは・みえたまへども・わがしうは・みえたまはず・ひとにとへば・しまにとどまり・たまひぬとぞ・まをしける・
わらははんぐわんにふだうの・そばちかうたちよつて・ことのしさいをとひけるに・やすよりにふだう・しまのありさまを・こまやかに・
かたりければ・いとどせんかたなく・かなしくて・つきせぬはなみだり・わらはわれ・みやこにて・かくものをおも
はんより・しまへたづねまゐらせてまゐり・かはらぬおんすがたをも・いまいちど・みもし・みえたてまつらばや・たとひ・またこの
よに・なきみと・なりたまひたりとも・おんこつをもとりて・たつときところに・をさめばやと・おもひければ・ひと
には・いはねども・ないないは・いでたちけり・そうづの・ひめぎみの・ならに・おはしければ・わらはならに・くだつて・ひ
めぎみに・まをしけるは・二にんのひとびとは・めしかへされて・のぼりたまひぬ・かみの一にん・しまにとどまらせ・お
はしますが・あまりに・あさましう・ぞんじさふらふ・かなはぬまでもしまへ・たづねまゐらせて・まゐらばやとこそ・ぞんじ
さふらへ・おんふみやさふらふと・まをしたりければ・ひめぎみ・なのめならず・よろこびたまひて・やがておんふみ・あそばしてぞ・たP136
うだりける・わらはひめぎみの・おんふみたまはつて・いきながら・めいどにおもむく・ここちして・おもひければ・よもゆるさ
じとて・おやにも・きやうだいにも・しらせずして・みやこのうちを・しのびつつ・まぎれいで・さつまがたへぞ・おもむき
ける・もろこしぶねのともづなは・うづき・さつきに・とくなれば・なつごろもたつを・おそしと・まちかねて・やよひのすゑに・
みやこをたつて・はるばると・やへのしほぢを・しのぎつつ・さつまがたへぞ・くだりけるわらは・さつまのちに・おち
ついて・しまへわたらんと・びんせんをこへば・ひとあやしめ・いしやうを・はぎとり・なんどしけれども・わらはすこし
も・こうくわいせず・ひめぎみの・おんふみばかりをこそ・ひとにしられじと・もとゆひの・なかにはいれたりけれ・とかくし
て・あきびとのふねに・びんせんし・しまにわたつて・みけるに・みやこにて・つたへききしは・ことのかずならず・たもなく・はたけ
もなく・むらもなく・またさともなし・たまたまあるものも・このどの・ひとには・にざりけり・いふことをも・ききしら
ず・わらはあるものの・そばちかうたちよつて・これにひととせ三にん・ながされたまひしが・二にんは・めしかへされて・のぼり
たまひぬ・一にんのこされおはします・ほつしようじの・しゆぎやう・しゆんくわんそうづの・ごばうの・おんゆくへや・しりたまひた
ると・とひければ・そうづとも・しゆぎやうとも・しつたらばこそ・へんじをもせめ・ただかしらを・ふつて・しらず
と・のみぞこたへける・そのなかに・すこし・こころえたるものの・まをしけるは・いざとよ・さやうのひとは・このへんに・あ
りしが・それも・このちかうよりは・いづちへか・ゆきぬらん・ゆきがた・しらずとぞまをしける・わらはさては・こ
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によぢ・たににくだれども・せいらん・ゆめを・やぶつて・そのおもかげも・みえず・はくうんあとを・うづめて・ゆききのみちも・
さだかならず・なほもはまのかたの・おぼつかなさに・あるときの・まだあした・わらははまのかたへと・ゆくほどに・ここに
もと・ほうしなりけりと・おぼしくて・かみは・そらざまに・おひのぼり・よろづのもくづ・とりついて・ひとへに・
やぶをいただけるがごとし・みにきたるものは・つぎめあらはれ・かはゆたえ・きぬ・ぬののわけもみえ
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かやうのものは・いまだなし・ぢごく・がき・三あく・四しゆは・しんざん・だいかいの・ほとりに・ありと・ほとけののべ
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辻風の沙汰(あひ) 313
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ぶつたいにあらず・めいいまた・かのきばにおよぶべからず・かの四ぶのしよをかかがみて・はくれうにちやうずといふとも・い
かでかうだいのゑしんを・くれうせん・たとひ五きやうのせつは・つまびらかにして・しゆびやうを・いやすといふとも・あにせんぜのごふ
びやうをぢせんや・もしいじゆつによつて・ぞんめいあらば・ほんてうのいだう・なきににたり・いじゆつまた・かうげんなくん
ば・たいめんなんの・せんかあらん・なかんづくほんてうの・だいじんほどのものの・このありさまにて・いこくのいしにまみえ
んこと・かつはくにのはぢ・かつはみちのれうし(イれうち)なり・たとひしげもりがいのちは・ばうすといふとも・いかでかくにのはぢを・
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たりければ・にふだうしやうごくもつてのほかに・おどろきたまひて・むかしよりおほくの・だいじんはありつれども・これほどま
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んとぞ・さわがれける・おなじき七ぐわつ・廿七にちに・おとどしゆつけしたまひて・ほうみやう・せうくうとぞ・なのられける・
おなじき・八ぐわつついたちのひ・おとどつひにかうじたまひぬ・おんとし四十三・りんじうしやうねんとぞきこえし・およそこのおとどの・うせたま
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しやうどのへぞ・まゐらんずらんとて・よろこびあへるもおほかりけり・ひとのおやの・こをおもふならひおろかなるが・
さきだつだにもおんあいのみちは・かなしきぞかし・いはんやこのおとどは・たうけのとうりやう・たうせいのけんじんにておはしけれ
ば・いへのすゐびといひ・おんあいのわかれといひ・かなしんでも・なほあまりあり・およそこのおとどは・ぶんしやううるはしう
して・こころにちうをぞんちして・ことばにとくをかねたまへり・さればよには・りやうしんをうしなへることを・なげき・いへに
はまた・ぶりやくの・すたれぬることを・かなしめり
無紋かねわたし 314
およそこのおとどは・みらいのことをも・かねてよくさとりたまへるひとなり・そのゆゑは・わがてうに・いかなる・だいぜんごんを・P148
したりと・いふとも・しそんあひつづいて・とぶらはれんこと・ありがたし・されば・いこくに・いかなることをもして・
わがごせ・とぶらはればやと・おもはれければ・さんぬるあんげんのころほひ・ちんぜい・はかたより・めうでんとまを
す・せんどうを・めしよせ・三千五百りやうの・こがねをたうで・これ五百りやうをば・なんぢにたぶ・いま三千りやうをば・そうてうに
もつてわたり・千りやうをば・いわうざんの・そうにひき・二千りやうをみかどへ・たてまつつて・でんだいをながく・いわうさんへ・
まをしよせ・わがごせとぶらはせよと・のたまへば・めうでんかけばくも・かたじけなくおもひたてまつり・かしこまつて・うけたまはり・
やがて・ちんぜいのはかたにくだり・もろこしぶねのともづなを・とくほどこそありけれ・ばんりのゑんらうを・しのぎつつ・
だいそうこくにぞ・つきにける・いわうざんのちやうらう・ぶつせうぜんじとくくわうに・あひたてまつつて・このよしまをしたりければ・ちやうらう・
おほきに・ずゐきかんたん・したまひて・やがて・千りやうをば・いわんざんの・てらのそうにひき・二千りやうを・みかどへたてまつつ
て・につぽんのだいふのまをさるるやうを・一々に・かきしるしまをされたりければ・みかど・なのめならず・ぎよかんあ
つて・五百ちやうのでんだいを・ながく・いわうざんへぞ・よせられける・につぽんのだいじんたひらのあそんしげもりこうの・ごじやうぜん
しよと・いのること・いまにありとぞ・うけたまはる・およそ・このおとどは・へいけのうんめいの・すゑになりなんことをも・かね
てより・しりたまへることあり・そのゆゑは・あるよおとどのおんゆめに・べうべうたるはまを・なぎさにそひて・ひがしへゆけば・
おほきなるとりゐたちたまへり・いづのみしまの・だいみやうじんの・おんとりゐかと・おぼしくて・とりゐのひがしのわきには・
ひといく千万といふ・かずもしらず・ならびゐて・ただいまきりたると・おぼしき・にふだうのくびを・たちのさきに
さしつらぬき・こなたかなたへ・もてあつかふ・おとど・あれはいかにと・おもひたまへば・これは・へいけP149
だいじやうのにふだうどののくびを・いづのくにのみしまの・だいみやうじんの・めしとらせたまひて・いづのくにの・るにん・さきのうひやう
ゑのごんのすけよりともに・たまはすなりとぞ・まをしける・おとど・さては・ちちのおんことにこそと・おぼしめし・たちよつ
て・みたまへば・まことに・ちちの・おんくびなり・おとど・こはいかにしつることぞやとて・いそぎとりゐのそとに・たちい
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あひ 315
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法印問答 316
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大臣流罪(あひ) 317
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妙音院の琵琶ひき 318
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どしらべ・ひきよくをつくされけり・ふかうてうのうちには・はなふんぶくのきをふくみ・りうせんのきよくのあひだには・つきせい
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みなもとのすけときは・二のくわんを・とどめらる・あぜちのだいなごんすけかた・ことに・うせうしやうまさかたをば・よのほどに・みやこのうち
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どころなし・一しやうほどなしと・いへども・一にちくらしがたしとて・やちうに・ここのへのうちをば・まぎれいで・やへだ
つくもゐの・よそにぞ・おもむかれける・かのおほえやまや・いくののみちに・かかつて・はじめは・たんばのくに・
むらくものさとと・きこえしが・のちにははいしよをかへて・しなののこふと・こそきこえけれ
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なかにも・あぜちのだいなごんすけかたは・およそくわんげんのみちに・たつし・さいげいすぐれて・おはしければ・ほうわう・しよじない
げなう・おほせあはせられけるによりて・にふだうかやうに・あだを・むすばれけるとぞ・きこえし・こんど四十よにん
のひとびとの・ことに・あはれける・ゆゑをいかにと・まをすに・ちうなごんのちうしやうどのと・こんゑの二ゐの・ちうしやうどのと・
ちうなごん・ごさうろんゆゑとぞ・きこえし・さらば・ちうなごんの・ちうしやうどのばかりこそ・いかなるおんめにも・あは
せたまふべきに・四十三にんの・ひとびとの・ことに・あはれけるこそ・ふしぎなれ・きんねん・ふりよなること・ども
あつて・せじやうさわぎ・やまざることも・これひとへに・ごりやうの・ゆゑなりとて・きよねん・さぬきのゐんの・ごつゐがうあつ
て・しゆとくてんわうとがうし・うぢのあくさふの・ぞうくわんぞうゐの・きこえありしかども・ごりやうは・いまだ・しづまりも・
やまざるにや・にふだういよいよ・はらをすゑかねたまへりと・きこえしかば・きやうちうのじやうげ・またいかなることか・いで
こむずらんとて・さわぎののしること・なのめならず・そのころ・さきのさせうべんゆきたかと・きこえしは・こなかのやまのちうなP160
ごんあきたかのきやうの・ちやうしにて・二でうゐんのおんときは・べんくわんにて・さもゆゆしう・わたらせたまひしかども・ゐんほうぎよ
ののちは・くわんとをうばはれ・せんとをうしなつて・この十よねんがあひだは・しよじあるか・なきかの・ていにて・おはしけ
るを・にふだうゆきたかのもとへ・ししやをたてて・きつと・たちよられさふらへ・いささか・のたまひあはすべきことのさふらふと・のたまひつ
かはされたりければ・ゆきたか・こは・なにごとを・のたまひあはせらるべき・やらん・この十よねんがあひだは・しよじなにごと
にも・まじはらざりつるものを・いかさまにも・これは・ざんげんするものの・あるにこそと・のたまへば・きたのかた・
めのとのにようばうを・はじめたてまつつて・いへのうちに・ありとし・あるひとみな・きも・たましひを・うしなつて・こゑ
を・あげてぞ・なげかれける・さるにても・ゆきたか・やがてさんずべきよしの・ごへんじをば・まをされたりけ
れども・ぎつしや・しゆつしのしやうぞくともに・なかりければ・おととの・さゑもんみつたかのもとへ・このよしのたまひ・つかはされ
たりければ・ぎつしや・しゆつしのしやうぞくともに・ゆきたかのもとへ・つかはさる・ゆきたかくるまにのり・にし八でうに・おは
して・もんぜんにて・くるまよりおり・あんないを・まをされたりければ・にふだう・おもふにもにず・やがていであひたいめん・し
たまひて・こちうなごんどのとは・にふだう・しよじないげなう・まをしうけたまはりさふらひしかば・ごへんとても・おろかには・おも
ひたてまつらず・ねんらいろうきよのことをも・いたはしうは・さふらひつれども・ほうわうの・ごせいむなるうへ・ちからおよびさふら
はず・いまは・とうとうしゆつし・したまふべし・おほかた・くわんとのことをも・にふだうはからひ・まをすべし・そのやうを・
まをさむとてなり・ベちのやうは・なし・はやはや・かへりたまへと・のたまへば・ゆきたか・なのめならず・よろこうで・
かへられけるに・にふだう・あとより・げんたいふの・はんぐわんすゑさだが・くるまに・にふだうのうしかけさせ・しゆつしのしやうぞくともP161
に・ゆきたかの・もとへ・おくりつかはさる・つぎのひの・まんだあさ・にふだう・さぞあるらむとて・よねを百こく・くるまに
つみて・ゆきたかのもとへ・つかはさる・ゆきたか・てのまひ・あしの・ふみども・おぼえず・こはゆめかや・ゆめか
とぞ・あきれたまひける・おなじき十七にちに・五ゐのさふらひちうに・ふせられ・させうべんあきときが・おひこめられたる
かはりに・さきのさせうべんに・なりかへり・たまひけり・ことしは・五十一・いつしか・わかやぎたまふぞあはれな
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の・四もんを・うちかこみたてまつる・およそそのせい・二三千きは・あるらんとぞ・みえし・ひととせ・のぶよりのきやうが・三
でうどのを・なしまゐらせたるやうに・ごしよにも・ひをかけ・にようばうたちをも・みなやきころすべし・なんど・きこ
えしかば・つぼねのにようばう・めのわらは・ものをだにも・うちかづかず・もんぜんにはしりいで・みなちりぢりにこそ・なり
にけれ・さきのうたいしやうむねもりのきやう・みくるまよせて・いまは・とうとうめさるべうさふらふと・まをされたりければ・ほう
わう・こはいかに・なしまゐらせんとは・つかまつるぞ・しゆじやう・さてましませば・せいむに・こうじゆする・ばかりなり・
それも・さあるまじくは・さらでこそ・あるべきに・いかで・かやうに・うきめを・みせまゐらせむとは・
つかまつるぞ・いかさまにも・これは・しゆんくわん・なりちか・なんどがやうに・とほきくに・はるかのしまへも・ながしうしなは
むずるに・こそと・おほせければ・むねもりこのおほせうけたまはる・かたじけなさに・いかでか・さるおんことの・わたらせたまひさふらふ
べき・しばらく・よをしづめんほど・とばどのへ・ごかう・なしまゐらすべきよし・を・にふだう・はからひまをされ
さふらふと・まをされたりければ・ほうわうさらば・おんともに・ひと・ひとりもなきに・やがて・なんぢおんともにさふらへかしと・P162
おほせけれども・にふだうのけんゐに・はばかつて・まゐらせられず・ほうわう・あはれこだいふには・おとりたるものかな・ひと
とせも・かかるおんめに・あはせたまふべかりしを・こまつのだいふが・やうやうにまをしてこそ・いままでも・あんおん
には・わたらせたまひしか・いまはさやうに・いさむるものの・なきあひだ・かくこころのままに・ふるまふにこそ・ゆくすゑ
とても・たのもしからず・さよとぞ・おほせける・みくるまへは・おんきやうばこ・ばかりぞいれられたる・じやうどじの・二
ゐどのの・さまかへて・あまぜと・めされけるばかりこそ・みくるまへはまゐられけれ・おんともには・おんりきしやに・
こんぎやうばかりぞ・おほくの・ひとのなかにまぎれては・まゐりける・そのころの・きやうちうのじやうげ・このよしを・みたてまつ
つて・あはや・ゐんのながされさせたまふはとて・みななみゐて・そでをぞ・ぬらしける・さんぬる七かのよの・だい
ぢしんは・はや・かかるせんべうにて・十六らくしやの・そこまでも・こたへ・けんらうぢしんも・さだめて・おどろきさわぎ・たまふ
らむとぞ・おぼえたる・だいぜんのだいぶのぶなりが・なにとしてかは・まゐりたりけむ・おんまへちかうさふらひけるを・め
されて・やや・のぶなりや・ゆふさりすでに・うしなはるべしとこそ・きこしめされさふらへ・さらんにとつては・いま一
ど・おんぎやうずゐを・めさばやと・おぼしめすは・いかがあるべきと・おほせければ・のぶなりは・けさ・ゐんのごしよを
いづるより・ながるるなみだも・つきざるに・またこのおほせうけたまはる・かたじけなさに・つきせぬものは・なみだなり・のぶなり・ひたたれに・
たまだすきあげ・こしばがき・こぼち・おほゆかのつかばしら・わりなんどして・こんぎやうに・みづあげさせ・かたのごと
くの・ゆを・しいだして・まゐらせけり・ほうわう・おんぎやうずゐを・めして・おんきやうばこより・おんきやうとりいださせ・たまひ・
うちあげ・うちあげ・あそばされけるにも・いまをかぎりとぞ・おぼしめされける・つぎのひの・まんだあさ・じやうP163
けんほういん・にし八でうに・おはして・まことやらむ・とばどのに・ひとひとりも・なきよしを・うけたまはりさふらふ・あはれ・おんゆるさ
れをかうぶつて・まゐらばはやと・まをされければ・にふだうごへんは・ことすごすまじき・ひとなれば・とうとうとて
ぞ・ゆるされける・ほういんくるまにのり・とばどのにまゐり・もんぜんにて・くるまよりおり・もんをさしいりて・みたまへば・
とばどのには・のやまのあらし・はげしくして・ものさびしげなる・をりふし・ほうわうの・おんきやう・うちあげうちあげ・あそば
されけるおんこゑの・はるかのもんのそとまでも・きこえさせたまひけるに・ほういんおんまへちかう・まゐられたりけれ
ば・ほうわうこれを・えいらんあつて・あそばされける・おんきやうに・おんなみだのはらはらと・かからせたまへば・ほういんも
しのびがたさに・ほうえのそでを・かほにあて・なくなく・おんまへへぞ・まゐられける・ほういんまゐられたりければ・あま
ぜの・のたまひけるは・きみは・きのふのあさ七でうどのにして・くごきこしめされたるほかは・ゆふべもけさも・きこし
めされず・さらんにとつては・おんいのちもあやうくこそ・みえさせたまひて・さふらへと・まをさせたまひたり
ければ・ほういんなど・それは・きこしめされさふらはぬやらん・へいけあくぎやうつもつて・としひさし・てんせうだいじん・しやう八
まんぐうも・きみをこそ・まぼりまゐらつさせ・たまはんずれ・ことには・きみのしつしおぼしめす・ひよしさんわう廿一しや・
一じようしゆごの・おんちかひ・あらたまらせたまはずば・かのほつけ八ぢくに・たちかけらせたまひて・きみをこそ・しゆご
し・まゐらつさせ・たまはんずれ・さらんにとつては・きようとは・みづのあわと・きえ・ごせいむは・おんはからひ
にこそ・なりまゐらつさせ・たまはんずれなんど・やうやうに・まをしたりければ・そののちは・くごをも・きこし
めされけるとかや・さるほどに・しゆじやうは・ゐんのながされ・しんかたちの・おほくながし・うしなはれし・ひよりP164
して・だいりには・りんじのごじんじあつて・しゆじやうみづから・いしばひのだんにして・いせだいじんぐうを・ごはいあり・これ
ひとへに・ほうわうの・いつとなく・とばどのに・おしこめられて・わたらせたまふ・おんいのりの・ためとぞ・おぼえたる
あひ 320
二でうゐんは・てんしに・ぶもなしとて・つねは・ゐんのおほせをも・まをしかへさせ・おはします・さればそれは・けい
ていの・きみにては・わたらせたまはず・これはおなじふしの・おんならひとは・まをしながら・おんちぎりことに・ふかかり
ければ・よそのたもとも・おさへがたし
城南の離宮 321
はつかうのなかには・かうかうをもつて・さきとす・めいわうは・かうをもつて・てんかををさむと・みえたり・されば・たう
げうは・おいおとろへたる・ははをたつとみ・ぐしゆんは・かたくななるちちを・うやまふと・みえたり・かの・けんわう・せいしゆ
の・せんきを・おはせ・おはします・えいりよのほどこそ・めでたけれ・あるとき・だいりより・しのびつつ・とば
どのへ・ぎよしよあり・かからんよには・くもゐにあとを・とどむべしとも・ぞんじさふらはず・されば・くわんぺいの・む
かしをたづね・くわざんの・いにしへをも・おひ・さんりんるらうのみとも・なりぬべうこそ・さふらへと・まをさせ
たまひ・たりければ・ほうわうの・ごへんじには・さなおぼしめされそ・さてわたらせたまへばこそ・一のたのみP165
にてもさふらへ・さやうにあとなく・おぼしめしたちなば・なんのたのみか・さふらふべき・ただぐらうが・ともか
うも・ならんやうを・ごらんじはてさせ・たまひてこそと・まをさせたまひたりければ・しゆじやう・このぎよしよを・りよう
がんに・おしあて・させたまひて・おんなみだいよいよ・せきあへさせ・たまはず・きみは・ふね・しんはみづ・みづよく・ふね
を・うかべ・みづまた・ふねを・くつがへす・しんよく・きみを・たもち・しんまた・きみをくつがへす・はうげん・へいぢ
の・むかしは・にふだうしやうごく・きみをたもち・たてまつるといへども・あんげんぢしようの・いまはまた・きみを・なみしたてまつる・これ・し
しよのもんにたがはず・おほみやの・だいしやうごく・三でうの・ないだいじん・はむろのだいなごん・なかのやまのちうなごん・このひとびとも・う
せられぬ・いまふるきひととては・なりより・ちかのり・ばかりなり・このひとびとも・かからんよには・てうにつかへ・み
をたて・だいちうなごんを・へても・なににかは・せむとて・いまだ・わかう・さかんなつしひとの・いへをいで・
よをのがれ・さいしやうにふだうなりよりは・かうやの・きりにまじはり・みんぶきやうにふだうちかのりは・をはらのしもにともなひ・いつ
かうごせぼだいの・つとめの・ほかたじなしとぞ・きこえし・むかしも・しやうざんのくもにかくれ・えいせんのつきに・こころをすます・
ひともあり・なむと・きこえしかども・あに・はくらんせいけつにして・よをのがれたるに・あらずや・なかにも・かうやのお
やまに・おはします・さいしやうにふだうなりより・このよしを・つたへききたまひて・あはれこころとうも・よをのがれたる・ものか
な・かくて・きくも・おなじこと・なれども・まのあたり・たちまじはつて・みましかば・いかばかりか・
こころうからまし・はうげん・へいぢの・みだれをこそ・あさましと・おもひしに・いまはよすゑに・なつて・かかる
ふしぎの・いでくるにや・またいかなる・うきことをか・みきかむ・ずらん・されば・くもゐを・わけても・のP166
ぼり・ふかき・やまのおくへも・いりなばやとぞ・のたまひける・こころあらんほどの・ひとの・あとを・とどむべき・
よとも・みえざりけり・おなじき廿三にちに・せんざす・めいうんだいそうじやう・てんだいざすに・なりかへらせ・たまふぞ・あり
がたき・これも・ただ・いつかうへいけの・とりまをされけるに・よりてなり・にふだうしやうごくは・くわんぱくどのむこなり・ちうぐうまた・だい
りにわたらせたまへば・よろづ・なにごとも・こころやすくや・おもはれけん・いつかうてんかの・おんまつりごとは・くげのごさたたる
べうさふらふと・まをしおき・わがみは・いそぎ・ふくはらへこそ・くだられけれ・さきのうたいしやうむねもりのきやう・さんだいあつて・
このよしを・そうしまをされたりければ・しゆじやう・おほせなりけるは・ほうわうより・ゆづりたうだる・よならばこそ・せい
むをも・しろしめさめ・ただ・しつぺいに・いひあはせて・たいしやう・はからへとて・つひに・きこしめしも・いれさせたま
はず・さるほどに・ほうわうは・せいなんの・りきうにして・ふゆも・なかばすぎさせたまへば・あきのやまのあらしのおとのみ・は
げしくて・かんていのつきのひかりぞ・さやけき・にはには・ゆきふり・つもれども・あとふみつくる・ひともなく・いけに
は・つらら・とぢかさなつて・むれゐし・とりもみえざりけり・おほでらのかねのこゑ・ゐあいじの・きき(イひびきを)おどろか
し・せいざんの・ゆきのいろ・かうろほうの・のぞみをもよほす・よるしもに・さむけき・きぬたのひびき・かすかに・おんまくらに・つたひ・あか
つき・こほりをきしる・くるまのあと・はるかの・もんぜんによこたはれり・ちまたをすぐる・かうじん・せいばの・いそが
はしげなる・けしき・うきよをわたる・ありさま・かつかつ・おぼしめし・しられて・あはれなり・きうもんをまぼる・ばんいの・
よる・ひる・けいごを・つとむるも・さきのよに・いかなる・ちぎりにて・いまえんを・むすぶらんと・おぼしめすぞ・
かたじけなき・さるままには・ほうわう・ところどころの・ごさんけい・をりをりの・ごいうらん・おんがの・めでたかりし・ことどもP167
を・おぼしめし・つづくるに・くわいきうの・おんなみだおさへがたし・さるほどに・としくれて・ぢしようも・四とせに・りな(なり)にけり


入力者:荒山慶一



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