平家物語(城方本・八坂系)
巻第四 P168
新院厳島御幸 401
ぢしよう四ねん・しやうぐわつついたちのひ・とばどのには・ぐわん三のおんあひだなりけれども・にふだうしやうごくも・ゆるされず・ほうわうもまた・
おほきにおそれさせ・おはしましければ・にふだうのけんゐに・はばかつて・さんにふするひともなく・さくらまちの・ちうなごん
しげのり・おとうとさきやうのだいぶながのり・この二にん・ばかりぞ・おんゆるされを・かうむつては・まゐられける・おなじき四かのひ・
六はらには・とうぐうの・おんはかまぎ・ならびに・おんまな・きこしめす・なんど・よには・かくめでたきことども・
ありしかども・ほうわうはただ・とばどのにして・おんみみのよそにぞ・きこしめされける・おなじき二ぐわつ十八にちに・とうぐう
おんとし三さいにて・せんそあり・しゆじやうは・ことなる・おんつつがも・わたらせたまは・ざりしかども・おしおろしたてまつつて・
いつしか・ひとしんゐんとぞ・まをしける・そのころのいうそくの・ひとびとの・いつしか・なる・こんどの・ごじやうゐかなと・
のたまひあはれける・なかにも・へいだいなごんときただのきやうばかりこそ・うちのおんめのと・そつのすけの・をつとたりしかば・この
たびのごじやうゐ・いつしかなりと・たれやのひとか・まをさるべき・ゐこくには・しうのせいわう三さい・しんのぼくてい二さい・
わがてうには・こんゑのゐん三さい・六でうのゐん二さい・これみな・きやうはうのなかに・つつまれて・いたいをただして・せざりしか
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ども・あるひは・せつしやうおうて・くらゐにつき・あるひは・ぼこう・いだいて・てうにのぞむと・みえたり・ごかんのくわうせうくわうていは・
うまれて百にちといへば・せんそあり・せんしようわかんかくの・ごとしと・まをされたりければ・ひとびとあな・おそろし・
ものなまをされそ・さればそれは・よきためしかは・とぞ・かたぶきあはれける・とうぐうせんそありしかば・にふだう
しやうごく・ふうふともに・じゆん三こうの・せんじをかうぶり・ねんくわんねんしやくをたまはつて・じやうじつのものを・めしつかはる・ゑかき
はなつけたるさふらひども・いでいつてひとへに・ゐんみやの・ごとくにてぞ・さふらひける・しゆつけのひとの・じゆん三こうの・せんじを
かうぶらせたまふことは・ほこゐんの・だいにふだうどのかねいへこうのほかは・うけたまはりおよばず・しゆつけののちも・えいぐわはなほ・つ
きせずとこそ・うけたまはれ・おなじき三ぐわつ十九にちに・しんゐんあきの・いつくしまへ・ごかうとぞきこえし・ていわうみくらゐを・さ
らせたまひて・のち・しよしやのごかうの・はじめには・あるひは・やはた・かも・かすが・なんどへこそ・ごかうならせたま
ふに・これははるばると・あきのいつくしままでの・ごかうを・いかにとまをすに・しらかはのゐんは・くまのへごかう・いちのゐんは・
ひよしのやしろへ・ごかうなる・すでにしりぬ・えいりよにありと・いふことを・ごしんちうに・ふかきごぐわんあり・またごむさう
の・つげありとぞおほせける・たうじ・あきのいつくしまをば・いつかうへいけの・あがめまをされければ・うへには・へいけにごどう
しん・したには・またほうわうの・いつとなく・とばどのに・おしこめられて・わたらせたまふ・そのおんいのりの・おんためとぞ・
おぼえたる・おなじき三ぐわん(ぐわつ)十八にちの・まんだあさ・しんゐん・さきのうたいしやうむねもりを・めして・みやうにちごかうのついでに・と
ばどのへ・まゐらばやと・おぼしめすは・ぜんもんに・ふれずしては・あしかりなんやと・おほせければ・むねもり・この
おほせうけたまはる・かたじけなさに・いかでか・さるおんことの・わたらせたまひ・さふらふべきと・まをされたりければ・じやうわう・なのめなら
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ずぎよかんあつて・さらばやがてなんぢ・とばどのに・まゐりこのよしを・そうせよかしとおほせければ・むねもり・かしこまつてうけたはまり・
やがて・とばどのに・まゐり・このよしを・そうしまをされたりければ・ほうわうもあまりにおぼしめすおんことなれば
こはゆめやらんとぞ・おほせける・おなじき三ぐわつ十九にちの・あかつきがた・しんゐん・にふだうしやうごくの・しゆくしよ・にし八でうを・しゆつぎよ
なる・かすみにくもる・ありあけの・つきのひかりも・おぼろにて・こしぢへかへる・かりがねの・くもゐにおとづれゆくを・きこ
しめすに・つけても・をりふしあはれに・おぼしめすぐぶのひとびとには・まづさきの・うたいしやうむねもり・三でうのだいなごん
さねふさ・とうだいなごんさねくに・五でうのだいなごんくにつな・つちみかどのさいしやうのちうじやうみちちか・たかくらのちうじやうやすみち・れいぜんのせうしやうたか
ふさ・くないのせうむねのり・なんどぞ・まゐられける・よもほのぼのと・あけければ・じやうわう・とばどのに・まゐらせたま
ひ・まづもんを・さしいつて・えいらんあるに・はるもすでに・くれなんと・して・なつこだちにぞ・なりにける・こずゑ
のはな・いろおとろへ・みやのうぐひす・こゑおいたり・ひとまれにして・こぐらく・ものさびしげなる・おんありさまを・ごらん
ぜらるるに・つけても・まづおんなみだぞ・すすみける・きよねんのしやうぐわつ・六かのひ・しゆじやうてうきんのおんために・ほうぢうじ
どのへ・ぎやうかうなりたりしには・しよゑ・ぢんをひき・しよきやうれつにたつて・まんもんをひらき・ゐんじのくぎやう・まゐりむ
かつて・かもんれう・えんだうをしき・さしも・ただしかりしぎしき・けふはいちじもなし・ただゆめと・のみこそ・お
ぼしめせ・そののち・さくらまちのちうなごんしげのりきやう・まゐりむかつて・ごきそく・まをされたりければ・じやうわう・いらせたま
ひけり・ほうわうは・しんでんの・はしがくしのまにて・まちまゐらつさせ・たまひけりじやうわうは・ことし・廿にならせお
はしましけるが・あけがたのつきの・ひかりにはへさせたまひて・ぎよくたいも・ことにうつくしく・おんぼぎけんしゆんもんゐんに・
P171
すこしもたがはせたまはず・よく・にまゐらつさせたまひたりければ・ほうわうはまづ・こにようゐんの・おんことを・お
ぼしめしいでて・おんなみだに・むせばせおはします・そののち・りやうゐんちかう・ござあつて・やや・はるかにおんもの
がたりあり・ごもんだふのやう・たれうけたまはるべうもなし・おんまへには・あまぜばかりぞ・さぶらはれける・そののちはるか
にひたけてのち・じやうわう・とばどのを・たつてぞ・いでさせ・たまひける・じやうわうは・ほうわうの・ぜいなんのりきうのこてい・
いうかんせきばくの・ものさびしげなる・おんありさまを・ごらんじ・おかせたまへば・ほうわうはまた・じやうわうの・いつとなき・
りよはくわうぐうの・なみのうへ・ふねのうちの・おんすまひ・おぼつかなくぞ・おぼしめす・まことにそうべう・やはた・かも・かすが・
なんどをば・さしおかせたまひて・これははるばると・いつくしままでの・ごかうをば・しんめいもなどか・かんおうなかるべ
き・ごぐわんじやうじゆ・うたがひなしとぞ・おぼえたる

源氏そろへ 402
おなじき三ぐわつ廿六にちに・しんゐん・あきのいつくしまへ・ごさんちやくあり・にふだうの・さいあいのないしが・しゆくしよ・くわうきよに・なる・
なか一りやうにち・ごとうりうあつて・きやうゑぶがくなんど・おこなはれけり・こくしゆふぢはらのありつな・かんぬし・さへぎのかげひろ・ざす
そんえい・けんじやうかうふる・しんりよもうごき・にふだうしやうごくのこころも・さだめてはたらくらんとぞ・おぼえたる・おなじき四ぐわつ三
かのひ・しんゐんくわんぎよのついで・にふだうしやうごくのしゆくしよ・ふくはらのべつげふに・いらせたまふ・にふだうの・おとと・いけのちうなごんよりもり・
きやうのしゆくしよ・くわうきよになる・おなじき四かのひ・いへのしやうとて・ぢもくおこなはれけり・にふだうのやうし・たんばのかみきよくに・じやう
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げの五ゐ・まごに・ごんのすけせうしやうこれもりは・四ゐのじゆじやうとぞ・きこえし・おなじき五かのひ・じやうわう・ふくはらをたたせたま
ひて・てらゐにいらせたまひ・おなじき六かのひ・とばに・つかせたまふ・みやこよりのおんむかへの・くぎやうでんじやうびと・とば
のくさつまで・まゐられけり・おなじき七かのひ・みやこには・しんていのごそくゐとぞきこえし・ごそくゐは・だいごくでんにて
こそ・とげらるべけれども・だいごくでんは・ひととせ・やけたりしかば・だいじやうくわんのちやうにて・とげらるべしと・しよ
きやう・ごさたありけるに・九でうのみぎのおとどのまをさせたまひけるは・だいじやうくわんのちやうは・ぼんにんのいへにとつても・
くもんじよていのところなり。だいごくでんなからんうへは、ししんでんにてこそとげらるべけれとて、ししんでんにてぞとげられけ
る。さんぬるかうはう四ねん十一ぐわつに、れいぜんのゐんのごそくゐを、ししんでんにてとげられたりしは、ごじやきによりて、か
しこへぎやうかうもかなはざりしゆゑなり。さればそのれいいかがあるべからん。ただご三でうのゐんの、えんきうのかれいにま
かせて、だいじやうくわんのちやうにてあるべきものをと、とりどりにまをされしかども、九でうどののおんはからひのうへは、ちから
およばせたまはず。おなじき八かのひ、ちうぐうこうきでんより、じじうでんにうつらせたまひて、たかみくらへ、まゐらせたま
ひしおんありさま、めづらしかりしみものなり。へいけのひとびとも、みなしゆつしまをされけり。なかにもこまつどののきんだちば
かりこそ、きよねんの八ぐわつに、おとどかうじたまひしかば、いまだいろにて、しゆつしもなかりけり。さきのうたいしやうむねもり、
こんどのごそくゐのゐらんなく、めでたかりしことどもを、こまやかにしるして、ふくはらへまをされたりければ、にふ
だうどのも二ゐどのも、ゑみをふくみてぞおはしける。よにはかく、めでたきことどもありしかども、せけんはいまだ
らくきよせず。だいじやうほうわうのだい二のみこ、もちひとのわうとまをし、おんはははかがのだいなごんすゑなりのおんむすめ、三でうたかくらにまし
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ましければ、ひとたかくらのみやとぞまをしける。おんとし十五とまをし、しやうぐわつ十五にちに、ここのへのほか、こんゑかはらのおほみやの
ごしよにして、ひそかにごげんぷくあり。まさしう一ゐんだい二のみこにてわたらせたまへば、いまはたいしにもたち、
みくらゐにもつかせたまふべけれども、たうじのおんぼぎけんしゆんもんゐんのおんそねみによつて、おしこめられてわたらせ
たまへば、はなのもとのはるのあそびには、しがうをふるつて、てづからぎよせいをかき、つきのまへのあきのえんには、ぎよく
てきをふいて、みづからがいんをあやつり、かくてあかしくらさせたまふほどに、ぢしよう四ねんには、おんとし三十にならせお
はします。おなじきうづき九かのひのよにいりて、げん三ゐよりまさにふだうしのびつつ、みやのおんまへにまゐり、ひそかにまをさ
れけることこそ、なによりもおそろしけれ。まさしう一ゐんだん(だい)二のみこにてわたらせたまへば、いまはたいしにも
たち、みくらゐにもつかせたまふべきひとの、いまだしんわうのせんじをだにも、かうぶらせたまはぬおんことをば、こころうしと
はおぼしめされさふらはずや、うへにこそしたがふやうにさふらへども、たうじたれかへいけをそむかぬものやさふらふ、はやはやご
むほんおぼしめしたたせたまひ、へいけをほろぼさせおはしましさふらへかし。またほうわうのいつとなく、とばどのにおし
こめられてわたらせたまふ、そのおんいきどほりをもやすめまゐらつさせたまはんは、ごかうかうのおんいたりにてこそさふらはんず
れ。さだにもさふらはば、にふだうも、こども一りやうにんもちてさふらへば、などか一ぱうのおんかためになりまゐらせではさふらふべき、
そのほかりやうじをだにもたうづるほどならば、よろこびをなして、はせまゐらんずるげんじどもこそ、くにぐににおほうさふらへとて、
いちいちにまをしつづく。まづきやうとには、ではのかみみつのぶがこどもに、いがのかみみつもと、ではのはんぐわんみつなが、げんはんぐわんみつしげ、では
のくわんじやみつよし、くまのには、ためよしがばつし十らうよしもりとて、しんぐうのへんにかくれゐてさふらふ。つのくにには、ただのくらんど
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ゆきつな、ただのじらうともざね、おなじき八らうたかより、おほたのたらうたかよし、てしまのくわんじやよりもと、かはちのくにには、むさしのごんのかみ
よしもとにふだう、しそくいしかはのはんぐわんだいよしかね、やまとのくにには、うのの七らうちかはるがこどもに、たらうありはる、じらうなりはる、三
らうきよはる、四らうよしはる、あふみのくにには、やまもと、かしはぎ、にしごりが一たう、みのをはりには、やまだのじらうしげひろ、かうべのたらう
しげなほ、いづみのじらうしげみつ、うらのの四らうしげすけ、あじきのじらうしげより、そのこの四らうしげずみ、くわいでんのはんぐわんだいしげくに、きた
の三らうしげなが、やしまの四らうしげとき、そのこのたらうとききよ、かひのくにには、たけたのたらうのぶよし、かがみのじらうとほみつ、
そのこのこじらうながきよ、一でうのじらうただより、いたがきの三らうかねのぶ、ゐさはの五らうのぶみつ、へんみのくわんじやありよし、やすだの三
らうよしさだ、しなののくにには、おほうちのたらうこれよし、きそのくわんじやよしなか、をかだのくわんじやちかよし、そのこの四らうしげよし、ひらがのくわん
じやもりよし、そのこのこ四らうよしのぶ、いづのくにには、るにんさきのうひやうゑのごんのすけよりとも、ひたちのくにには、ためよしが三なん、三
らうせんじやうよしのりとて、しだのうきしまにかくれゐてさふらふ、さたけのくわんじやまさよしがこどもに、たらうただよし、じらうたかよし、三らうよしすゑ、
四らうよしむね、五らうよしきよ、むつのくにには、よしともがばつし、九らうくわんじやよしつねとて、これらはみな六そんわうのごべうえい、た
だのまんぢうがこういんなり。

いたちの沙汰(あひ) 403
むかしはげんぺいさうにあらそひて、いづれしようれつもさふらはざりしかども、いまはうんれいまじはりをへだてつつ、しうじうのれいにもなほおとれ
り。くにはこくしにしたがひ、しやうはりやうけのままなりければ、くじざふじにかりたてられて、よるひるやすきこころもさふらは
P175
ず、かれらにりやうしをだにも、くだしたうづるほどならば、よろこびをなしてませまゐり、へいけをほろぼし、きみをみくらゐ
につけまゐらせむこと、じじちはめぐらしさふらふまじと、かやうにたのもしげにまをされたりければ、みやはこのことおほ
きにおぼしめしわづらはせたまひけるが、そのころこあこまのだいなごんすけみつがまご、びんごのぜんじこれみつがこに、せう
なごんこれながは、ならびなきさうにんなりければ、にんさうせうなごんとぞまをしける。あるときかれがみやをみたてまつつて、きみは
みくらゐのさうわたらせたまふ、あひかまへててんがのおんことおぼしめしすてさせたまふべからずとまをしたりしにあはせて、三ゐにふ
だういままたかやうにまをされければ、これひとへにてんせうだいじんじやう八まんぐうのおんはからひにこそと、おぼしめし、まづくま
のにさふらふ十らうよしもりをめして、くらんどになさる。ゆきいへとかいみやうしてりやうしをたぶ。おなじき四ぐわつ廿八にちにみやこをたつ
て、あふみのくによりはじめて、くにぐにのげんじどもに、つげしらせてこそとほりけれ。おなじき五ぐわつ八かのひ、いづのくににくだりつ
き、るにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともに、りやうしをたてまつる。せんじやうよしのりはあになりければ、たばんとてひたちのくにへもくだり
けり。きそのよしなかはをひなりければ、しらせんとて、それよりせんだうへこそかかりけれ。さるほどにほうわうは、しゆん
くわんなりちかなんどがやうに、とほきくにはるかのしまへもながしうしなはんずるにこそと、おぼしめされけれども、さはな
くて、ただとばどのにして、ことしはふたとせにならせおはします。おなじき五ぐわつ十二にちのとりのこくばかりに、とばどの
には、おほきなるいたちのおびただしうなきて、ごしよちうをはしりければ、ほうわうおんうらかたあそばして、あふみの
かみなかかねが、いまだそのころつるくらんどにて、おんまへちかうさふらひけるをめされて、これやすちかがもとにもちてゆき、きつとか
むがへさせよとおほせければ、なかかねかしこまりうけたまはり、やすちかがもとにゆきむかふ。やがてかんがへてまゐらせけり。なかかね
P176
いそぎかへりまゐりけれども、よははやふけぬ。しゆごのぶしきびしうして、もんをもあけざりければ、なかかねもとよ
りあんないはしつたり、ついぢをのぼりこえ、おほゆかのしたをくぐつて、きりいたよりかんじやうをたてまつる。ほうわうひらいてえい
らんあるに、三かがうちのおんよろこびならびにおんなげきとぞうらなひまをしける。三かがうちのおんよろこびとはなになるらんとおぼしめしけ
れば、いつとなくとばどのに、おしこめられて、わたらせたまひたりしを、さきのうたいしやうむねもりのきやうをりふしまをさ
れしによつて、とばどのをいだしたてまつつて、八でうからすまるなるびふくもんゐんのごしよへいれたてまつる。これぞおんよろこびなる。
またおんなげきとはなになるらんとおぼしめしければ、おなじき十四かのとりのこくばかりに、たかくらのみやのごむほんといふことあらはれ
て、きやうちうのさうどうなのめならず、これぞおんなげきなる。さきのうたいしやうむねもりのきやうはやむまをたてて、ふくはらへこのよしをまをされ
たりければ、にふだうおほきにいかつて、せんずるところみやをばとりたてまつつて、とさのはたへながしたてまつるべしとて、じやう
けいにはとうだいなごんさねくに、ぶしにはではのはんぐわんみつなが、げんたいふのはんぐわんかねつなをさきとして、つがふそのせい三百よきに
てぞむかはれける。このげんたいふのはんぐわんかねつなとまをすは、三ゐにふだうのじなんなり。へいけかやうに三ゐにふだうみやをすすめ
まゐらせけるとは、ゆめにもしらざりけるによりてなり。みやは五ぐわつ十五にち、よるのくもまのつきをながめさせたまひて、
なんのおんゆくへもおぼしめしよらざりつるに、ここに三ゐにふだうのつかひとて、ふみもつたるをとこひとり、いそがはし
げにてまゐりたり。

信連合戦 404
P177
みやのおめのとご、六でうのすけのたいふむねのぶこれをよむ。ごむほんすでにあらはれさせたまひて、六はらよりくわんにんどもが、
べつたうせんをうけたまはつて、おんむかへにまゐりさふらふ、とうとうごしよちうをいでさせたまひて、みゐでらへいらせたまふべし、にふ
だうもこどもらうじうひきぐして、やがてまゐらむずるさふらふとぞよみあげたる。みやはこのことおほきにおぼしめしわづらはせたまひ
ければ、ちやうさひやうゑのじようはせべののぶつらがまをしけるは、べちのやうやさふらふべき、ただにようばうのしやうぞくをからせたまふべし
とまをしたりければ、みやはかさねたるぎよいに、いちめがさをぞめされける。くろまろとまをすわらはに、つつみ
にものいれていただかせらる。すけのたいふむねのぶはひたたれにたまだすきあげて、からかさもつておんともつかまつる。たとへ
ばせいしがぢよをむかへてゆくがごとくにて、たかくらおもてのこもんよりいでさせたまひ、たかくらをのぼりに、こんゑを
ひがしへすぎさせたまひけるに、おほきなるみぞのありけるを、いとものかるやかに、さつとこえさせたまひければ、
みちゆきびとがたちとどまつて、あれはしたなのにようばうの、みぞのこえやうかなと、あやしげにみとがめまゐらせければ、
みやは、いとどあしばやにこそすぎさせたまひけれ。みやはなにごとも、とりあへぬおんさまにて、さしものてうはうどもを、
とりわすれさせたまひけるなかにも、せみをれこえだとて、ふたつのおんふえをつねのおんまくらにとりわすれさせたまひたりけるを、たちかへ
つてもとらまほしくぞおぼしめされける。さるほどにごしよのおんるすには、のぶつらいちにんさふらひけるが、みぐるしきもの
あらば、とりしたためんとて、ごしよちうをはしりめぐつてみけるに、このおんふえをみつけたてまつつて、あなあさま
し、これはきみのさしものごひさうにて、あんなるものをとて、五ちやうがうちにて、おつつきまゐらせければ、みやなのめ
ならずぎよかんあつて、われしなば、このふえをごくわんにいれよとぞおほせける。みややがて、なんぢもおんともにさふらへかしと
P178
おほせければ、のぶつらかしこまつてまをしけるは、あのごしよにのぶつらがさふらふことをば、きやうちうのじやうげみなぞんぢのことにてさふらふに、
それもそのよは、おちてなかりけりなんどいはれむこと、ゆみやとりは、かりにもなこそをしうさふらへ、くわんにんども
にひつとあひしらひあひしらうて、一ぱううちやぶつて、やがてまゐらむずるさふらふとてはしりかへる。のぶつらがそのよの
しやうぞくには、とくさのかりぎぬのしたに、もえぎのはらまきをき、ゑふのたちをぞはいたりける。三でうおもてのそうもん
をも、たかくらおもてのこもんをも、ともにひらいてぞまちかけたる。あんのごとくそのよのやはんばかりに、六はらの
つはものども三百よきにておしよせたり。なかにもげんたいふのはんぐわんかねつなは、ぞんずるむねありとて、はるかのもんぜんにひかへ
たり。ではのはんぐわんみつながはむまにのりながら、ごもんのうちにかけいり、おほにはにひかへ、あぶみふんばりつつ
たちあがり、だいおんじやうをあげて、みやのごむほんすでにあらはれさせたまひて、六はらよりくわんにんどもがべつたうせんをう
けたまはつて、おんむかへにまゐりてさふらふ、とうとうごしよちうをいでさせたまふべしとまをしたりければ、のぶつらおほゆかにたつ
て、たうじはごしよにてもさふらはず、おんものまうでのおんるすにてさふらふ、なにごとぞことのしさいをまをされよといひければ、
みつなが、なんでうこのごしよならではいづくにかわたらせたまふべき、そのぎならば、しもべどもまゐつてさがしたてまつれとぞまをし
ける。のぶつらおほきにいかつて、ものにもこころえぬくわんにんどもがもののまをしやうかな、たとひきみのてうてきとならせたまひて、いつ
てんがをかたきにうけさせたまはんからに、むまにのりながら、ごもんのうちへまゐるだにも、きつくわいなるに、あまさへ
しもべどもまゐつて、さがしたてまつれとはいかでかまをすぞ、ごぜんにはさひやうゑのじようはせべののぶつらがさふらふぞ、まぢかうよつて
あやまちすなとぞまをしける。はるかのもんぜんにひかへたりける、げんたいふのはんぐわんかねつなこのよしをききて、をめいてか
P179
けいり、かねつながらうどうに、かねたけといふやつはきこゆるだいりきのがうのものなりけるが、うちもののさやをはづし、のぶつら
をめにかけて、おほゆかのうへへきつてのぼる。のぶつらこのよしをみるよりも、かりぎぬのおびひぼひつきつてなげのけ、
ゑぶのたちとはいへども、みをばすこしこころえてうたせたりけるを、ぬきあはせ、かたきはおほたちおほなぎがたにてふ
るまへども、のぶつらがゑふのたちにきりたてられて、あらしにこのはのちるやうに、にはへさつとぞおりたりける。ころ
はさつきもちのよの、ひとむらさめのくもまより、ありあけのつきのあらはれいでて、あかかりけるに、のぶつらはあんないしや、
かたきはぶあんないなり、ここのめんらうにおつかけてははたときり、かしこのつまりにおつつめてはちやうと
きる。せんじのおつかひをば、いかでかくはつかまつるぞといひければ、せんじとはなんぞとて、さんざんにこそはきりたりけ
れ。たちゆがめばをどりのき、ふみなほしおしなほし、もみにもうでぞきつたりける。たちどころにくきやうのつはもの
ども十四五にんぞきりふせたる。そののちたちのさき五すんばかり、うちをつてすててけり。こしのかたなをさぐりけれども、
さやまきおちてなかりければ、ちからおよばずおほてをひろげ、もんぜんのかたへとゆくほどに、ここにてつかの八らうがなぎなたもつて
いできたり。のぶつらなぎなたにのらむととんでかかる。いかがはしたりけむ、あしうのりそんじ、ももをぬいさまに
つらぬかれ、のぶつらこころはたけうすすみけれども、たいぜいのなかにとりこめられて、とりこにこそせられけれ。そののちごしよ
ちうをさがしたてまつりけれども、みやわたらせたまはざりければ、のぶつらばかりからめとつて、六はらへこそかへられけれ。
つぎのひのまんだあさ、さきのうだいしやうむねもりのきやうおほゆかにたつて、のぶつらをおつぼのうちにめしいだし、まことやわをとこは、せんじ
とはなんぞとてきつたるか。のぶつらさんさふらふ、このほどあのごしよを、よなよなものがうかがひさふらふを、なんでうことのある
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べきとおもひあなづつて、えうじんをもつかまつりさふらはぬところに、このよのやはんばかりに、なにかはしらず、よろうたるもの
が参百きばかりうちいつてさふらふを、なにものぞととうてさふらへば、せんじのおつかひとなのるあひだ、たうじはせつたう、がうたう、さんぞく、
かいぞくらなんどいふやつばらどもが、あるひはせんじのおつかひ、あるひはきんだちのおいでなんど、かねがねなのるとうけたまはつてさふらふあひだ、
せんじとはなんぞとてきつた(イ切りたん候)さふらふ。うたいしやう、せんじのおんつかひあつこうし、ちやうのしもべにんじやうせつがい、かたがたもつてきくわいな
り、さだめてみやのおんありかをば、しりまゐらせたるらん、よくよくせめとうて、そののちかはらにひきいだし、かうべをはねさふら
へとぞのたまひける。のぶつらおほきにあざわらつて、せんじのおつかひあつこうし、ちやうのしもべにんじやうせつがいこともなげにさふらふや、
かねよきたちだにももつてさふらはば、三百にんのくわんにんどもをば、よも一にんもあんをんにてはかへしさふらはじ、これはがう
たうめらおどさんためのゑふのたちにてさふらへば、なにほどのことさふらふべき、ことごとしうとぞまをしける。そのうへみやの
おんありかをばしりまゐらせずさふらふ、たとひしりまゐらせてさぶらふとも、さふらひほどのものが、まをさじとおもひきつてんずることを、きう
もんにおよんでまをすべきや、みやのおんために、かうべをはねられまゐらせんこと、こんじやうのめんぼくめいどのおもひでなるべしとて、
そののちはものもまをさず。へいけのさぶらひどもらうせうなみゐたりけるが、あつぱれがうのもののてほんかなと、くちぐちにほめけ
れば、あるもののまをしけるは、あれがかうみやうは、いまにはじめぬことぞかし、かれが十六のとし、だいばんしうのとめか
ねたるがうたう六にんを、二でうほりかはに、ただ一にんおひかけ、四にんきりふせ、二にんをからめとつて、そのときなされたりしさひやう
ゑのじようぞかし、きられんことのをしさよをしさよと、くちぐちにをしみたてられて、うたいしやうもさすがをしうやおも
はれけん、もしおもひなほつたらば、たうけにほうこうをもいたせかしとて、はうきのひのへぞながされける。その
P181
のちへいけほろび、げんじのよとなつて、かまくらにくだり、かぢはらへい三かげときについて、ことのこんげんをくはしうまをしたり
ければ、かまくらどの、みやのおんために、こころざしのふかきほどをかんじたまひて、のとのくににごおんありとぞきこえける。

競 405
みやはたかくらをのぼりに、こんゑをひんがしへ、かはをわたつて、によいざんにかからせおはします。いつならはせたまふべきな
れば、おんあしかけぬ、はれぬ、ちあえつつ、あゆみぞかねさせたまひける。なつぐさのしげみがもとのつゆけさも、さこ
そはおんところせくおぼしめされけめ。むかしきよみはらのてんわうの、おほとものわうじにおそれさせたまひて、やまとのくによし
ののやまへ、わけいらせたまひしおんことまでも、いまこそおぼしめししられけれ。しらぬやまぢにかからせたまひ
て、よもすがらまよはせおはします。とかくしてあかつきがた三ゐでらへいらせたまひけり。みやだいしゆにむかつて、
おほせられけるは、かひなきいのちのすてがたさよ、しゆとをたのんでこれまできたれるなりとおほせければ、だいしゆかしこまつてうけ
たまはり、やがてほうりんゐんにごしよしつらうておきたてまつり、ぐごしたててまゐらせけり。おなじき十六にちに、こんゑ
がはらにさふらひけるげん三ゐよりまさにふだう、いへのこらうじうひきぐして、つがふそのせい三百よき、やかたにひかけ、みゐでらへこそ
まゐりけれ。としごろひごろもあればこそありけめ、いかなればことししも、三ゐにふだう、かかるむほんをおもひ
たたれける、ゆゑをいかにとまをすに、ごにちにきこえしは、さきのうだいしやうむねもりのきやうの、ふしぎのことをのみしたまひ
けり。さればひとのよにあればとて、いふまじきことをいひ、すまじきことをすることをば、かねてよくみなひとの
P182
しりよあるべきことどもなり。たとへばそのころ三ゐにふだうのちやくし、いづのかみなかつなのもとに、きこえたるめいばあり。かげな
るむまのいつきばかりなるが、なをばこのしたとぞまをしける。うたいしやうこのよしをつたへききたまひて、いづのかみのもとへししや
をたてて、それにきこえさふらふこのしたを、たまはつてみさふらはばやと、のたまひつかはされたりければ、いづのかみのごへん
じには、さるむまをもつてさふらひつるを、このほどあまりにのりそんじて、いたはらせんがために、ゐなかへつかはして
さふらふ、やがてめしこそのぼせさふらはめと、へんじせられたりければ、うたいしやうさてはとておはしけるところに、へいけ
のさぶらひどもらうせうならびゐたりけるが、あるもののまをしけるは、あつぱれそのむまはをととひまでもさふらひつるものを、き
のふもさふらひし、けさもにはのりさせさふらひつるものをなんど、くちぐちにまをしあはれければ、うたいしやう、さてはをしむご
ざんなれ、にくしそのむまこへとて、あるひはさぶらひしてはせはせつ、あるひはふみなんどして、ひびに五六どなんどぞ、
こはれける。ちちの三ゐにふだうどのこのよしをききたまひて、いづのかみをようでのたまひけるは、たとひこがねをもつてむまにした
りといふとも、さやうにひとのこばむを、をしむべきやうやある、はやはやそのむま六はらへつかはすべしとのたま
へば、いづのかみのごへんじには、まつたうむまのをしきにてはさふらはず、ただけんゐについて、こはるるとなれ
ば、やすからずさふらうてこそ、いままでもつかはしさふらはざりつれとて、ちからおよばず六はらへ、このむまをこそつ
かはされけれ。うたいしやうひきまはさせ、みるべきほどみて、むまはよきむま、ただしぬしがをしみつることこそに
くけれ、やがてなのりを、かなやきにしさふらへとて、いづのかみなかつなといふかなやきをしてぞおかれたる。きやく
じんきたつて、これにきこえさふらふこのしたを、たまはつてみさふらはばやとまをすときは、あのなかつなめがことさふらふか、あのなかつなめひきいだ
P183
せ、なかつなめにくつわはげよ、うてはれなんどぞのたまひける。いづのかみこのよしをききたまひて、ちちの三ゐにふだうどのにまをさ
れけるは、いつかむまをばうてとはいへども、はれとはいふ、さしもひとのみにかへてをしかりつるむまを、けん
ゐについて、こはるるをだにもやすからずさふらふに、けふこのごろなかつながむまゆゑに、てんかのわらはれぐさとなりさふら
ひぬることこそ、かへすがへすもくちをしうさふらへ、はぢをみむよりは、しにをせよとまをすことのさふらふものをなんど、やうやう
にまをされたりければ、三ゐにふだうまことに、ひとにさやうにせられては、いのちいきてもなににかはせん、さりな
がらびんぎをうかがふみにてこそあれとて、おはしけるが、さすがわたくしにてはおもひもたたで、みやをすす
めまゐらせけるとぞうけたまはる。これにつけてもあにのおとどのことをのみぞ、いまさらしのびまをしける。あるときおとどさんだい
のついでに、ちうぐうのおんかたへまゐらせたまひたりけるに、いづかたよりともしらぬ、おほきなるくちなはの、お
とどのおはしけるさしぬきのひだりのりんをはひまはりけるあひだ、おとどこのよしかくとまをさば、にようばうたちもさわがせたまひ、
ちうぐうもさだめておどろかせたまひなんずと、おもはれければ、ひだりのてにては、くちなはのかしらをおさへ、みぎのてに
ては、ををおさへ、やはらなほしのそでのうちにひきいれつつ、おんまへをついたつてぞまかりいでられける。おとどちうもん
におはして、六ゐやさふらふ六ゐやさふらふとめされけれども、をりふしひと壱にんもさふらはざりけるに、いづのかみなかつなの、いまだそ
のころゑぶのくらんどにてさふらはれけるが、なかつなとおいらへまをしてまゐられたり。おとどこのくちなはをたぶ。なかつな
たまはつて、でんじやうのこにはをへて、ゆばどのにいで、みくらのこどねりをめして、これたまはれとのたまへば、きや
つかしらをふつてにげさりぬ。そののちわたなべのきほふの、たきぐちをめして、このくちなはをたぶ。たきぐちたまはつてすて
P184
てんげり。つぎのひのまんだあさ、おとどよきむまにくらおかせ、たち一ふりそへて、いづのかみのもとへおくりつかはさ
るとて、さてもきのふのふるまひこそ、いうにみえられさふらへ、このむまはのりいちのむまなり、やいんにおよんで、ぢんげ
よりけいせいのもとなんどへかよはれんずるとき、もちひらるべうさふらふとのたまひつかはされたりければ、いづのかみのごへん
じには、六ゐのことば、おとどのごへんじなりければ、まづおんむまかしこまつてうけたまはりさふらひぬ、さてもきのふのおんふるまひ
は、げんじやうらくににてさふらひしかとぞまをされける。いかなればあにのおとどはかくこそゆゆしうおはせしに、おん
おとうとのむねもりは、さしもひとのをしむむまをこひとつて、てんがのだいじにおよびぬるこそあさましけれ。なかにもわた
なべのきほふのたきぐちがしゆくしよは、六はらのうらかきのうちなりければ、おくればせして、とどまりたるよしを、う
たいしやうききたまひて、きほふめせとてめされけり。めされてきほふまゐりたり。うたいしやうやがていであひ、たいめんしたまひて、など
なんぢはさうでんのしゆ三ゐにふだうがともをばせでとどまりたるぞ、いかさまにもぞんずるむねのあるかとのたまへば、きほふさん
さふらふ、ひごろはしぜんのこともさふらはば、まつさきかけて、うちじにつかまつるべうぞんじさふらひつるが、こんどはなにとおもはれさふら
ひてやらん、このよしかくともしらせられさふらはねば、まかりとどまりさふらふ、うたいしゃう、としごろなんぢがこのへんをいでいりつるを、
あつぱれめしつかはばやとおぼしつるに、たうけにほうかうをいたせよかし、三ゐにふだうがおんには、すこしもおと
るまじきぞとよ、ただしてうてき三ゐにふだうにどうしんをやすべき、またたうけにほうこうをいたさんとやおもふとのたまへば、きほふ、
さんさふらふ、たとひさうでんのよしみさふらふとも、いかでかてうてきにどうしんをばつかまつりさふらふべき、ぜんあくたうけにほうこうをいたさうず
るさふらふとまをしたりければ、うたいしやうなのめならずよろこびたまひていりたまふ。きほふはあるかさふらふさふらふとて、あしたよりゆ
P185
ふべにおよぶまでしこうす。そのひのくれがたに、きほふまをしけるは、みやならびに三ゐにふだうどの、三ゐでらにとうけたまはりさふらふ
が、わたなべたうには、ぞんぢやうそれがしたれがしなんどぞさふらふらん、おもふにこころにくうもさふらはず、さだめてようち
なんどをもせさせられさふらはんずらむ、しぜんのこともさふらはば、えりうちなんどをもつかまつるべうぞんじさふらふが、このほどのり
てようにあひぬべきむまをもつてさふらひつるを、したしきやつにぬすまれて、むま一ぴきももちさふらはず、あはれさ
もしかるべうさふらはば、おんむま一ぴきくだしたまはりさふらはばやとまをしたりければ、うたいしやういかにもして、あらせつ
けばやとおもはれければ、しろあしげなるむまのなをば、なんれう(イなんちやう)とつけて、さしもひざうせられたり
けるめいばに、きんぷくりんのくらおいてぞたうだりける。きほふおんむまたまはつて、なのめならずよろこび、しゆくしよにかへり、
あはれさらば、ひのとうしてくれよかし、このむまにうちのりて三ゐでらにはせまゐり、みやならびに三ゐにふだうどののまつさきか
けてうちじにせんと、おもひけるこそおそろしけれ。しだいにくらうもなりしかば、さいしどもをばしのばせて、
みづにちどりをおしたる、ひやうもんのひたたれに、きくとぢおほきらかにしてぞきたりける。ぢうだいのきせなが、ひ
をどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほなかぐろのや
おひ、ぬりごめとうのゆみもちて、たきぐちがこつはうをわすれじと、たかのはにてはいだりける、まとや一てぞさしそ
へたる。げにんのをのこにたてわきはさませ、やかたにひかけ、三ゐでらへこそまゐりけれ。そののち六はらには、きほふがしゆくしよ
より、ひいできたれりとてさうだうす。うたいしやうまづ、きほふはあるか。さふらはずとまをす。すはやきやつにだしぬかれつ
ることこそやすからね、しやつおつかけ、いけどりにせよとのたまへば、へいけのさぶらひども、らうせうなみゐたりけるが、い
P186
やいやきほふはきこゆるだいりきのがうのものにて、つよゆみせいひやうなり、廿四のやにては、まづ廿四にんはいころされなんず、
おとなせそとて、むかふものこそなかりけれ。そののち三ゐでらには、きほふがさたあつて、あつぱれこのもの一にんを
ば、めしぐせらるべうさふらひつるものをなんど、くちぐちにまをしあはれければ、三ゐにふだうかねてよつく、きほふがこころの
そこをやしりたまひたりけむ、いたづらにそのもの、とらへからめられはよもせじ、みよたんだいまこれへまゐ
らうずるものをとのたまふところに、きほふつつとまゐりたり。さればこそとぞのたまひける。きほふまをしけるは、いづのか
うのとののこのしたがかはりに、六はらのなんれうをこそとつてまゐりてさふらへとまをしたりければ、いづのかみなのめな
らずよろこびたまひて、やがてそのむまをきほふにこうて、をがみをきりすてさせ、むかしはなんれう、いまはたひらのむねもりにふだう
じやうはんといふかなやきをして、おなじ十八にちのまんだあさ、六はらのそうもんのうちへおひいれられたりければ、
へいけのさぶらひども、これをみつけてさうどうす。うたいしやう、こんど三ゐでらへよせたらんには、ひとをばしるべからず、まづ
きほふめをいけどりにせよ、のこぎりにてくびきらんずるものをとて、をどりあがりをどりあがりいかりたまへども、いまだなんれうがをがみ
もおひず、かなやきもまたうせざりけり。

三井寺より山門へ牒状 406
さるほどに三ゐでらには、みやいらせたまひてのち、おほせきこせきほりきつて、かひがねならし、だいしゆおこつてせんぎす。きん
じつせじやうのていをみるに、ぶつぽふのすゐびわうぱふのらうろうただこのときにあたれり。いまきよもりにふだうがぼあくをいましめずんば、い
P187
づれのひかくわいけいをきよめんや。しかるにたかくらのみやたうじへにふぎよのこと、これひとへにてんせうだいじん、しやう八まんぐう、しんらだいみやう
じんのみやうじよにあらずや。てんじんちるゐもやうがうをたれ、ぶつりきしんりきもさだめてかうぶくをくはへたまふべし。そもそもほくれいはゑん
とん一みのけうもんなり、なんとはまたげらふとくどのかいぢやうなり、てふそうのところなどかくみせざるべきとて、ならへもやまへも
てふじやうをこそおくりけれ。まづさんもんへのじやうにいはく、
をんじやうじてふすえんりやくじのがことにがふりよくをいたしてたうじのぶつぽふはめつをたすけられんとこふじやう
みぎにふだうじやうかいがために、ぶつぽふをほろぼし、わうばふをかたぶけむとす。うちにつけほかにつけ、なげきをなしうらみをなすあひだ、
しうたんきはまりなきところに、こんげつ十五にちのよ、一ゐんだい二のみこ、たかくらのみやふりよのなんをのがれむがために、ひそかににふじ
せしめたまふところなり。ここにゐんぜんとがうして、いだしたてまつるべきむねしきりにせめありといへども、しゆと一かう
これををしみたてまつる。よりてかのぜんもんぶしをたうじへいれんとす。たうじのぶつぽふのすゐびまさにこのときにあたれり。しよしゆ
なんぞしうたんせざらむや。それえんりやくをんじやうりやうじは、もんぜき二にあひわかるといへども、がくするところは、おなじくゑんとん一
みのけふもんなり。たとへばとりのさうのつばさのごとし。またはくるまの二のわににたり。一ぱうかけむにおいては、いかでかその
なげきなからんやは。ことにがふりよくをかうぶつて、たうじのぶつぽふはかいをたすけらるべくんば、ねんらいのゐこんをわすれて、ぢう
せんのむかしにふくせん。しゆとのせんぎかくのごとし。たいしゆら
ぢしよう四ねん五ぐわつのひ
とぞかいたりける。
P188
三井寺より南都への牒状 407
さるほどにさんもんには、このじやうをひけんして、なんぞたうじのまつじのみとして、とりのさうのつばさくるまのりやうりんなむどおさへ
て、かくでうらうぜきなりとて、へんてふにもおよばず。つぎになんとへのじやうにいはく、
をんじやうじてふすこうふくじのがことにがふりよくをかうぶつてたうじのぶつぽふはめつをたすけられんとこふじやう
みぎぶつぽふのしゆしようなることは、わうぽふによる。わうはふまたちやうきうなることも、かならずぶつぽふによる。ここにしきりのとしよりこの
かた、へいしやうごくぜんもんじやうかいがためにぶつぽふをほろぼし、てうせいをみだる。うちにつけほかにつけ、なげきをなしうらみをなすあひだ、
しうたんきはまりなきところに、こんげつ十五にちのよ、一ゐんだい二のみこ、たかくらのみやふりよのなんをのがれんがために、にはかににふじ
せしめたまふところなり。ここにゐんぜんとがうしていだしたてまつるべきむね、しきりにせめありといへども、しゆと一かうこれををしみ
たてまつる。よりてくわんぐんをはなちつかはさるべきむね、そのきこえあり。ぶつぽふといひわうぱふといひ、一じにまさにはめつ
せんとす。それたうのゑしやうてんしは、くわんぐんをおこして、ぶつぽふをほろぼさしめむとせしとき、しやうりやうせんのしゆと
かつせんをいたして、これをふせぐ。いはんやむほん八ぎやくのはいにおいてをや。なかんづくなんきやうれいなくして、つみなきちやう
じやをはいるせらる。このときにあらずんば、いづれのひかくわいけいをかうぶらんや。しゆとねがはくは、うちにはぶつぽふはめつを
たすけ、ほかにはまたあくぎやくのはんるゐをしりぞけば、どうしんのいたり、ほんくわいにたりぬべし。しゆとのせんぎかくのごとし。
ぢしよう四ねん五ぐわつのひ  だいしゆら
P189
とぞかきたりける。

南都より円城寺への返牒 408
そののちなんとには、このでうをひけんして、とうだいこうふくてらでらのだいしゆ、しふゑしてせんぎす。せんぎことをはつてのち、やがてまゐ
るべきよしのへんてふをこそおくりけれ。そのじやうにいはく、
こうふくじてふすをんじやうじのがことにらいてふいつしにのせられたり
みぎさきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりがために、きじのぶつぽふをほろぼさしめむとするよしのことてふす。ぎよくせんぎよく
くわりやうかのしうぎをたつといへども、きんしやうきんくこれみなおなじく、一だいのけうもんよりいでたり。なかんづくなんきやう
ほつきやうともににて、によらいのでしたり。じじたじたがひにてうだつがましやうをふくすべし。そもそもきよもりにふだうはへいけの
さうかう、ぶけのぢんかいなり。そふまさもり、くらんど五ゐのいへにめしつかへて、しよこくじゆりやうのさくをとる。おほくらきやうため
ふさかしうししのこけびゐしよにふし、しゆりのだいぶあきすゑはりまのたいしゆたりしむかし、みまやのべつたうしきににんず。しかるをただ
もりしようでんをゆるされんとせしとき、とひのらうせうほうこのかきんををしみ、ないげのえいぐわおのおのばだいのしもん
になく。ただもりせいうんのつばさをかいつくろふといへども、よのためなほはくをくのたねをかろんじ、なををしむせいしそのいへに
のぞむことなし。しかるにきよもりにふだう、さんぬるへいぢぐわんねん十二ぐわつに、だいじやうてんわういつせんのこうをかんじて、ふじの
しやうをさづけられたまひしよりこのかた、たかくしやうごくにあがり、かねてひやうぢやうをたまはる。なんしあるひはたいくわいをかたじけなく
P190
し、あるひはうりんにつらなり、によしあるひはちうぐうしきにそなはり、あるひはじゆごうのせんをかうぶる。ぐんていそしみなきよくろにあゆみ、
そのまごかのをひことごとくちくふをさく。かみきうしをとうりやうし、はくしをしんだいして、みなぬひぼくじうとなす。一もこころに
たがへば、わうこうといへどこれをとらへ、へんげんみみにさかふれば、くぎやうといへどこれをからむ。しかりといへ
ども、あるひは一たんのしんみやうをのびんがため、あるひはへんしのれうにくをまぬかれんとおもひて、ばんじようのせいしなほめ
んてんのこびをなして、ぢうだいのけくんかへつてしつかうのれいをいたす。よよさうでんのけりやうをうばふといへども、じや
うさいもおそれてしたをまき、みやみやさうしようのしやうゑんをとるといへども、けんゐにはばかつてものいふことなし。かつに
のるあまり、きよねんのふゆ十一ぐわつに、だいじやうくわうのすみかをつゐぶくして、はくろくこうのみをおしながす、ほんげきのはなはだ
しきことまことにこきんにたえたり。そのときわれらすべからくは、ぞくしゆにゆきむかつてそのつみをとふべきなり。しかりと
いへども、あるひはしんりよにあひはばかつて、わうけむをしやうじ、あるひはうつたうおさへてくわういんをおくるあひだ、かさね
て一ゐんだい二のしんわうのみやをうちかこみたてまつるところに、八まん三しよかすがのだいみやうじん、ひそかにやうがうをたれ、せんひつをささ
げ、きじにおくりつけ、しんらのとぼそにあづけたてまつるところなり。これひとへにわうぱふつくべからざるむねあきらけし。したがつて
きじしんみやうをすててしゆごしたてまつるでう、がんしきのたぐひたれかずゐきせざらむや。そのときわれらゑんゐきにあつて、そのじやう
をかんずるところに、きよもりにふだうなほきようきをおこして、きじにみだれいらんとするよしのこと、ほのかにつたへう
けたまはりおよぶによつて、かねてそのよういをいたす。十七にちにたいしゆにふれ、十八にちのたつの一てんにしよじに
てふそうし、まつじにげぢし、ぐんしをえてのちあんないをたつせんとするところに、せいてうとびきたつてはうくわんをなげたり。すじつ
P191
のうつねん、一じにかいさんす。かのたうかしやうりやういつさんのひしゆ、なほぶそうのくわんびやうをかへす。いはんやわこくなんぼくりやうもん
のしゆと、いかでかぼうしんのじやるゐをはらはざらんや。よりてさうゑりやうのぢんをあはせて、よろしくわれらが
しんぱつのつげをまつべし。はやくじやうをさつしてぎたいなることなかれ。しゆとのせんぎかくのごとし。
ぢしよう四ねん五ぐわつのひ  だいしゆら
とぞかきたりける。

大衆そろへ 409
おなじき廿二にちのくれかたに、げん三ゐよりまさにふだう、みやのおんまへにまゐつて、まをされけるは、さんもんはこころがはりしぬ、
なんとはいまだまゐらず、このてらばかりにては、いかにもかなひがたし、いまはみかたにらうせう二千よにんはあるら
ん、いざやこんや六はらへようちにせん、まづらうそうどもはによいがみねよりからめてにむかふべし、もしたいしゆあくそうどもを
ば、一二百にんさきだてて、しらかはのざいけにひをかけて、くだりにゆかば、きやうしらかはのはやりうのものども、あ
はやこといできたりとて、さだめてはせむかはんずらむ、そのときいはさかさくらもとにひつかけひつかけ、たたかはんまに、い
づのかみをたいしやうとして、六はらにおしよせ、かざかみよりひをかけて、ひともみもうでせめたらんに、などかだい
じやうのにふだうやきいだしうたざるべきとぞまをされける。ここにへいけのいのりしける、一によばうのあじやりしんかいといへる
ものあり。せんぎのにはにすすみいで、かうまをせばへいけのかたうどするとやおぼしめされさふらふらん、それはさもさふらふべし、い
P192
かでかわがてらのはぢをおもひ、もんとのなをもをしまではさふらふべき、いくさはせいにはよらず、はかりごとによると、
むかしよりまをしつたへてさふらへば、よくよくごえうじんあつてよせさせたまふべしと、わざわざよをふかさんがために、さしも
なきことをながながとぞせんぎしける。ここにじようゑんばうのあじやりきやうしうは、もしやうぞくにかしらつつみ、おほきなるうち
かたなおしくつろげてさすままに、せんぎのにはにすすみいで、しようこをほかにひくべからず、わがてらのほんぐわん、
きよみはらのてんわう、おほとものわうじにおそれさせたまひて、やまとのくによしののやまへわけいらせたまひしとき、そのせいわづかに十
七き、されどもいがいせにいで、みのをはりのおんせいをもつて、おほとものわうじをほろぼし、つひにみくらゐにつかせたまふ。
きうてうふところにいり、じんりんこれをあはれぶといふほんもんあり、じよをばしるべからず、きやうしうがもんとにおいては、こん
や六はらにおしよせてうちじにせよやとぞまをしける。ゑんまんゐんのたいふげんかくすすみいでて、せんぎはしおほし、いそげやす
すめ、よのふくるにとぞまをしける。まづによいがみねへむかふらうそうどものたいしやうぐんには、げん三みにふだう、じようゑんばうの
あじやりきやうしう、りつざうばうのあじやりにちいん、そつのほうげんぜんちがでしぎはう、ぜんやうをさきとして、つがふそのせい六百よにん、
かぶとのををしめてぞうつたちける。まつさかよりむかふあくそうどものたいしやうぐんには、ゑんまんゐんのたいふげんかく、りつざうばうのい
がのきみ、ほふりんゐんのおにとさ、かれら三にんは、うちものとつてはおににもかみにもあはむといふ、一にんたうせんのつはものなり。
びやうどうゐんにはいなばのりつしやがうたいふ、じやうきゐんのあらさど、すみの六らうばう、つつゐほうしにきやうのきみ、あくせうなごん、きたのゐんに
は、こんくわうゐんのろくてんぐ、たいふ、しきぶ、のと、かが、さど、びんごらなり。かやのちくご、おほやのしゆんちやう、ひのをの
ぢやうおん、四らうばう、まつゐのひご、五ちゐんのたじま、じようゑんばうのあじやりきやうしうがばうに、六十にんがうち、かがのくわうじよう、
P193
ぎやうぶ、しゆんしう、ほうしばらには、一らいほうしぞすすんだる。だうしゆにはつつゐのじやうめうめいしゆん、をぐらのそんげつ、そんえい、ぢ
けい、らくぢう、かなこぶしのげんえいばう、ぶしにはいづのかみなかつな、げんだいふのはんぐわんかねつな、六でうのくらんどなかいへ、そのこくらんどたらう
なかみつ、しもかうべのとう三らうきよちか、わたなべたうにははぶく、はりまのじらうさづく、さつまのひやうゑのじよう、きほふのたきぐち、ちやう七、となふ、
あたふのうまのじよう、きよし、すすむ、さわぐ、むつる、つづくのげんだをさきとして、つがふそのせい一千よにん、てんでにたいまつをぞもつ
たりける。さるほどにみゐでらには、みやいらせたまひてのち、おほぜきこせきほりきつて、さかもぎゆひふさぎたりけれ
ば、ほりにはしわたし、さかもぎのけむとしけるまに、じこくおしうつつて、せきのにはとりことごとくなきあひぬ。いづのかみこのよし
をききたまひて、ここにてとりないては、六はらへははくちうにこそよせんずらめ、こはいかがせんとのたまふところに、
ゑんまんゐんのたいふげんかく、しばしとよ、いこくにさるためしあり、かんのせうわうのおんとき、まうしやうくんいましめをかうぶり、
めしこめられしに、はかりごとをもつて、にげまぬかれむとせしとき、かんこくのせきにいたる。かのせきのならひに
て、にはとりのなかざるほどは、せきのとあけてとほすことなし。まうしやうくん三千のかくのうちに、てんかつといへるつはものあ
り。あまりににはとりのなくまねをよくしければ、ひとけいめいとぞまをしける。いまだうしのこくばかりのことなりけるに、てん
かつたかきところにはしりのぼり、いむけのそでを二三どほととうちたたき、にはとりのなくまねをゆゆしくしたりければ、
せきのにはとりききつけてなきあひぬ。とりのそらねにばかされて、せきのとあけてとほすことあり。これもさだめてかた
きのはかりごとにてもやなかすらん、ただよせばやといひけれども、さつきのみじかよなりければ、よはほの
ぼのとぞあけにける。いづのかみ、ようちにはさりともとこそおもひしに、ひるいくさにてはいかにもかなふまじ、
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さらばてどもをよびかへせやとて、おほてはまつざかよりとつてかへし、からめてはによいがみねよりひつかへす。い
づのかみのたまひけるは、せんずるところこれは、一によばうがながせんぎによつてこそよはあけたれ、にくにくしそのばうきれと
て、ばうにおしよせさんざんにこそせめたりけれ。ふせぐところのでしどうしゆく十よにんうちころさる。いちによばうもいたでおう
て、はふはふ六はらにまゐり、このよしをまをしたりけれども、へいけはいとさわぐけしきもましまさず。おなじき廿三
にちのまんだあさ、げん三ゐよりまさにふだう、みやのおんまへにまゐつてまをされけるは、ようちには、さりともとこそぞんじさふら
ひつるに、ひるいくさにてはいかにもかなひさふらふまじ、いまはなんとへいらせたまふべうもやさふらふらんとまをされたり
ければ、みやも、いまはのときにもなりしかば、よろづおんこころぼそくやおぼしめされけん、せみをれこえだとて、ふたつの
おんふえを、さしもごひさうありけるを、なかにもせみをれをば、こんだうのみろくにこめまゐらつさせたまひけり。そもそもこのおんふえ
とまをしたてまつるは、とばのゐんのおんとき、そうてうのみかどへ、こがねを千りやうおくらせおはしましたりければ、そのごへんぱうかと
おぼしくて、しやうじんのせみのごとくに、ふしつきたりけるかんちくを、ひとよおくらせおはしましたりければ、み
かどなのめならずぎよかんあつて、わがてうにるゐあるべからず、ちようはうをいかでかただはえらせらるべきとて、だいなごん
のほういんかくそうにおほせて、だんじやうにたてしちにちかぢして、ゑらせられたりしおんふえなり。さればおぼろけのぎよいうに
は、とりもいだされざりけるを、あるときのぎよいうに、たかまつのちうなごんさねいへのきやううけたまはつて、このおんふえをふか
れけるに、ただよのつねのふえのやうにこころえて、とりわすれてひざよりしもにおかれたりければ、ふえやとがめけむ、
せみをれにけり。それよりしてこそせみをれとはなづけられけれ。しかるを、このみやのつたはらせたまひて、いつの
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よまでもおんみをはなたじとこそおぼしめされけれども、りうげのあかつき、ちぐのおんためにとおぼえて、あはれなりしおんことなり。
なかにもじようゑんばうのあじやりきやうしうは、はとのつゑにすがり、みやのおんまへにまゐつてまをしけるは、いづくのうらわまでも、
おんともつかまつるべうぞんじさふらへども、七じゆんにあまりぎやうぶもかなひがたうてさふらへば、でしにてさふらふぎやうぶしゆんしうをまゐら
せさふらふ、このしゆんしうとまをすは、とうごくさがみのくにのぢうにん、やまだのすどうぎやうぶのじようとしみちがこにてさふらふなり、ちちのぎやうぶのじようは、さん
ぬるへいぢによしともにつれて、六でうかはらにてうちじにつかまつりさふらひぬ、このしゆんしうはきやうしうにいささかゆかりあるによ
つて、えうせうよりあとふところにおほしそだててさふらへば、こころのおくまでも、よくぞんじしつてさふらふ、いづくのう
らわまでもめしぐせらるべうさふらふと、なみだもせきあへずまをしたりければ、みやもまたいつのよしみにか、かくはまを
すらめとて、おんなみだにむせばせおはします。これをはじめとして、らうそうどもはみないとままをして、まかりとどまりさふらふ
あくそうどもは、みなおんともにぞさふらひける。みやのおんせいわづかに一千よにんにはすぎざりけり。みやは、いつかおんむまにもめし
もならはせたまふべきなれば、てらとうぢとのあひだにて、六ケどまでごらくばあり。これはさんぬるよ、うちとけぎよ
しんもならざりつるゆゑなりとて、うぢのびやうどうゐんへいれたてまつり、しばらくこれにてごきうそくあり。
橋合戦 410
さるほどに三ゐにふだうなかつないげのぶしどもは、うぢばしのなか三げんひかせてかいだてにかき、むまひやさせ、くらがひおこな
ひなんどしけるほどに、へいけのかたには、このよしをききて、あはやたかくらのみやこそ、なんとへおもむかせたまふな
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れ、にくにくしそのぎならば、おつかけてうちたてまつれやとて、たいしやうぐんにはにふだうの三なんさひやうゑのかみとももり、をひに
ちうぐうのすけみちもり、おとうとにさつまのかみただのり、さぶらひたいしやうには、かづさのかみただきよ、ちやくしたらうはんぐわんただつな、ひだのかみかげいへ、そのこ
たいふのはんぐわんかげたか、ゑつちうのぜんじもりとし、じらうびやうゑもりつぎ、むさしの三らうさゑもんありくにをさきとして、つがふそのせい三万
よき、ぢしよう四ねん五ぐわつ廿三にちのむまのこくばかりに、こばたやまをうちこえて、うぢばしのつめにぞおしよせたる。むかひの
びやうどうゐんに、かたきありとみてんげれば、へいけのさぶらひども、えびらのほうたてうちたたき、てんもひびき、だいちも
ゆるぐばかりに、ときつくること三ケどなり。へいけのさぶらひどもあまりにいさみほこつてわたるほどに、せんぢんがはし
をひいたぞ、あやまちすな、はしをひいたぞ、あやまちすなと、いひけれども、ちかきものこそききつけけれ、ご
ぢんはこれをききつけず、ただおしにおしてわたるほどに、せんぢん二百よきおしおとされ、みづにおぼれてながれけり。そののち
げんぺいたがひに、はしのさうのつめにうつたつてやあはせす。げんじのかたには、わたなべたうのいけるやぞ、ものには
つよくとほりける。三ゐにふだうは、ちやうけんのひたたれに、しなかはをどしのよろひをき、ゆみをつよくひかんとて、
わざとかぶとはきたまはず。ちやくしいづのかみなかつなは、こんぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひをき、けふをさいごとたたかは
んとて、これもかぶとはきざりけり。五ちゐんのたじまは、もくらんぢのひたたれに、ひをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まい
かぶとのををしめ、しらえのおほなぎなたのさやをはづし、はしのつめにすすみいで、むかひのきしより、さしつめひきつめさん
ざんにいけるやの、あがるやをばついくぐり、さがるやをばをどりこえ、むかうてくるやをば、なぎなたにてきつ
ておとす。しよにんめをすます。それよりしてぞ、やぎりのたじまとはまをしける。つつゐのじやうめうめいしゆんは、かちのひた
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たれに、くろかはをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほ
なかぐろのやおひ、ぬりごめどうのゆみに、このむしらえのおほなぎなたをぞとりそへたる。はしのつめにすすみいで、だいおんじやうをあ
げて、ものそのものにてはなけれども、みやのおんかたに、つつゐのじやうめうめいしゆんとて、をんじやうじにおいては、そのかく
れなし、へいけのかたに、われとおもはむずるひとびとは、すすめやむかへ、げんざんせんとて、やたばねといて、
おしくつろげさしつめひきつめさんざんにいけるに、やにはにかたき十二きいおとし、十一きにておはせたれば、
ひとつはのこつてえびらにあり。いまはゆみをもからとなげすて、えびらをもといてかはへなげいれ、つらぬきぬいて、は
だしになり、かぶとのををつようしめける。かたきみかたあれはいかにとみるところに、はしのゆきけたを、さらさら
とはしりわたる。ひとはおそれてわたらぬを、じやうめうがここちには、ただ一でう二でうのおほぢとこそはふるまひけれ。まづむ
かふかたきをば、なぎなたにて四にんなぎ、五にんにあたるとき、なぎなたうちをつてすててけり。つぎにたちをぬいてきり
けるが、三にんきりふせ、四にんにあたるとき、あまりかぶとのはちにつよううちあて、めぬきのもとよりちやうとを
れ、ぐつとぬけて、かはへざんぶとぞいれにける。たのむところはこしがたな、ひとへにしなんとのみぞくるひける。
ここにじようゑんばうのあじやりきやうしがうしもぼうしに、いちらいほうしとて、しやうねん十八さいになりけるが、もくらんぢのひたたれにもえぎ
のはらまきをき、三まいかぶとのををしめ、うちものぬいてかたになげかけ、これもはしのゆきけたを、さらさらとはしりわた
り、じやうめうはたつたり、よくべきやうはなかりけり。ここをせんどとたたかひけるじやうめうが、かぶとのてつさきにてうち
かけ、あしうさふらふじやうめうばうとて、かたをゆらりとをどりこえてぞたたかひける。じやうめうはいちらいをうたせじとつづく、いち
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らいはまたかたきのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、ぶんどりあまたして、わがみもうちじにしてんげり。そのまに
じやうめうは、はしのゆきけたを、はふはふびやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬきおき、よろひにたつたるやめをかぞ
ふれば六十三、うらかくやは五ところなり。されどもいたでならねば、かしらをつつみ、じやうえをき、ゆみきりをつて
つゑにつき、あみだぶまをしてなんとのかたへぞまかりける。そののちじようめうがわたつたるをてほんにして、かたきみかた
はしのゆきけたをはしりわたりはしりわたりしようぶをす。とほきをばゆみにてい、ちかきをばたちにてきり、くまでにかけ
てとるもあり、とらるるもあり、ひきくんでさしちがへてかはへいるものもあり、はしのうへのいくさ、ひいづるほどにぞ
みえたりける。さぶらひたいしやうかづさのかみただきよ、たいしやうぐんのおんまへにまゐつてまをしけるは、いまはかはをわたさんずるにて
さふらふが、をりふしさみだれのころにて、みかさはるかにまさりたり、さればよどいもあらひかはちぢへやまゐりさふらふべき
とまをしけるところに、ここにしもつけのくにのぢうにん、あしかがのたらうとしつながこに、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいなりけるが、
しげめゆひのひたたれに、もえぎをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、あししろのたちをはき、廿四さい
たるきりふのやおひ、しげどうのゆみもつて、れんせんあしげなるむまのふとくたくましきに、きんふくりんのくらおいて、のつたりけるが、
すすみいでてまをしけるは、あしうもまをさせたまひたるかづさどのかな、さればよどいもあらひかはちぢをば、てんぢくしんたんのぶし
がまゐつてわたすべきか、それもおもふに、われらこそわたさんずれ、めのまへなるかたきをのがしたてまつつて、なんとへ
いれまゐらせなば、よしのとつがはのおんせいがまゐりては、いよいよみかたのおんだいじなるべし、とうごくにはとねがは
とまをすおほかはあり、このながゐのわたり、すぎのわたりとて、ともにだいじのわたりあり、せんねんちちぶとあしかがなかをたがひ、
P199
かつせんをつかまつりさふらひしに、あしかが、につたのにふだうをかたらうて、おほてはこのながゐのわたり、すぎのわたりへはにつた
のにふだう、からめてにまはりさふらひしに、すぎのわたりにいくらもよういしたりしふねどもを、ちちぶがかたよりわられて、
につたのにふだうのまをししは、かはをへだてたるいくさに、ふねがなければとて、ふちせをきらふやうやある、みづにおぼれて
しなばしね、いざわたらむとて、たいぜいがむまいかだをつくつてわたせばこそ、とねがはをもわたしけめ、このかはの
ていをみるに、とねがはにはいくほどまさじおとらじな、とのばらいざわたさんとて、たづなかいくり、たいぜいがまつさ
きにこそうちいれたれ。つづくつはものたれたれぞ、たいこ、おほむろ、ふかす、やまかみ、なはのたらうひろずみ、さぬきの四らうたいふ、
をのでらのぜんじたらう、へやこの七らう、らうどうには、とねの六四らう、きりやた五らう、うぶがたじらう、おほをかのあん
五らうをさきとして、つがふそのせい三百よき、くつばみならべてうちいれたり。あしかがあぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあ
げてげぢしけるは、つよからむむまをばうはてにたてて、よわからんむまをばしたてになせ、むまのあしのおよばん
ほどは、たづなをくれてあゆませよ、はずまばかいくつておよがせよ、さきなるむまのをにとりつけ、くらつぼに
みづしどまば、さうづにのりさがつて、むまにはよわくみづにはつよくあたるべし、くらつぼにのりさだまつて、あぶみ
をつよくふめ、むまのかしらしづまばひきあげよ、いつたうひいてひつかつぐな、かはなかにてかたきいるともあひびき
すな、かぶとのしころをかたぶけよ、いつたうかたぶけて、てへんいさすな、かねにわたいて、あやまち
すな、みづにしなうてわたすべし、わたせやわたせやとげぢしつつ、三百よきを一きもながさず、むかひのきしにさ
つとわたす。
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宮の最後 411
そののちあしかがたかきところにうちあがり、むちにてよろひのみづなでくだし、あぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあげて、これは
むかしてうてきまさかどをたひらげてけんじやうかうぶりたりし、たはらとうだひでさとに五だいのまつえふ、しもつけのくにのぢうにん、あしかがのたらうとし
つながこに、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいにまかりなる、かやうにむくわんむゐなるものの、みやにむかひたてまつつ
て、ゆみをひきやをはなつこと、みやうけんにつけてそのおそれすくなからずさふらへども、ゆみもやもみやうがのほども、へいけだいじやうの
にふだうどののおんみのうへにぞさふらふらん、みやのおんかたにわれとおもはんひとびとは、すすめやむかへ、げんざんせんとて、
びやうどうゐんのしばにおしよせ、ひいづるほどにぞたたかひける。これをはじめとして、二万よきのつはものどもも、みなうちいれうちいれ
わたしければ、さしもにはやきうぢがはなれども、むまひとにせかれて、みづはうへにぞたたへたる。おのづからは
づるるみづには、なんにもたまらず、おしながさる。そのなかにいがいせのつはもの六百よき、むまいかだおしやぶられ、
みづにおぼれてながれけり。もえぎ、ひをどし、あかをどし、いろいろのよろひかぶとのうきぬしづみぬながれけるは、かみなびやまのも
みぢばの、みねのあらしにさそはれて、たつたのかはのあきのくれ、ゐせきにかかつてながれもやらぬにことならず。なかに
もひをどしのよろひきたりけるむしや三にん、うぢのあじろにかかつてゆられけるを、いづのかみみたまひて、
いせむしやはみなひをどしのよろひきてうぢのあじろにかかりぬるかな
これはひののげん三、とばのげん六、くろだの五らう四らうとまをすものなり。なかにもくろだはふるつはものなりければ、ゆみのはずを
P201
いはのあひにねぢたて、わがみもあがり、のこり二にんをもたすけけるとぞうけたまはる。さるほどに三ゐにふだうは、みかた
のいくさまけいろにみえしかば、かなはじとやおもはれけん、わかたいしゆあくそうども廿よにんつけたてまつつて、みやをばなんとへ
さきだてたてまつり、わがみはこどもらうじうのこりとどまりて、ふせぎやいけり。なかにも三みにふだうのじなんげんたいふのはんぐわんかねつなは、あか
ぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さい
たるおほなかぐろのやをおひ、ぬりごめどうのゆみに、しらえのおほなぎなたのさやをはづいて、ちちの三ゐにふだうどのにかかりける
かたきに、かへしあはせかへしあはせさんざんにたたかはれけるところに、へいけのさぶらひたいしやうかづさのかみただきよがよつぴいていけるや
に、うちかぶとをしたたかにいさせて、ひるみたまふところを、かづさのかみがわらはおちやうて、げんたいふのはんぐわんとむずとくむ。はん
ぐわんはてはおはれたりけれども、きこゆるしたたかびとにておはしければ、とつておさへ、わらはがくびかききつて
なげのけ、おきあがらんとしたまふところを、かづさのかみがらうどうあまたおちあひて、げんたいふのはんぐわんのくびをとる。三
ゐにふだうこのよしをみたまひて、よろづこころぼそくやおもはれけん、ゆみやになつつうちものになつつ、たたかはれ
けるが、かたき四五ききつておとし、わがみもいたでおひければ、びやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬぎおき、わた
なべのちやうしちとなふをめして、はやはやなんぢかたきのてにかけで、わがくびうてとのたまへば、となふなくなく、おんくびたまは
つつともぞんじさふらはず、ごじがいだにもさふらはばと、なみだもせきあへずまをしたりければ、三ゐにふだうさらばとてにしに
むき、かうじやうにねんぶつす百べんとなへたまひけるが、ねんぶつをとどめ、さいごのことばぞあはれなる。
うもれぎのはなさくこともなかりしにみのなるはてぞかなしかりける
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そののちたちのきつさきをはらにおしあて、うつぶしにふしつらぬかつてぞうせられける。ことし七十五にぞな
られける。かならずそこにてうたよむべきにはあらねども、わかうよりすかれたりければ、さいごまでもわすれ
ざりけりとあはれなり。となふなくなくおんくびたまはつてひたたれにつつみ、おほきなるいしにくくりあはせて、うぢがはのふかきところ
にしづめてんげり。さるほどに三ゐにふだうのちやくし、いづのかみなかつなははしのうへにてたたかはれけるが、かたき七八ききつ
ておとし、わがみもいたでおひければ、びやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬぎおき、じがいしてこそうせたりけれ。その
くびをば、しもかうべのとう三らうきよちかとつて、びようどうゐんのつりどののしたへぞなげいれたる。なかにも六でうのくらんどゆきいへ、
そのこくらんどたらうなかみつは、たいぜいのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、かたき四五ききつておとし、いつしよにうちじにしてん
げり。このくらんどとまをすは、こ六でうのためよしがじなん、こたてはきせんじやうよしかたがちやくし、きそのくわんじやにはあになりけり。三
ゐにふだうえうせうよりふぢして、くらんどにもなしたりしかば、そのおんをわすれじと、こんどどうしんしてうちじにしたりける
こそあはれなれ。なかにもわたなべきほふのたきぐちをば、へいけいかにもしていけどつて、うたいしやうどののげんざんにいれんとおも
ひあはれけるに、きほふさきにこころえてんげれば、てにもたまらずかけまはる。たいぜいのなかにわつていり、にし
よりひがしへ一わたり、きたよりみなみへ一わたり、とつてはかへし、わつてはとほり、さんざんにたたかひ、かたき十
四五ききつておとし、わがみはふかでもうすでもおはずして、びやうどうゐんのしばにかへり、三ゐにふだうのむくろのへんにち
かづき、ひごろは一しよにとちぎりたてまつりしことなればとて、はら十もんじにかききつて、おなじまくらにふしにけり。なか
にもゑんまんゐんのたいふげんかくは、つりどのにたつたりけるが、なぎなたのえくきみじかにとりなし、たいぜいのなかにわつ
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ていり、さんざんにたたかひ、一ぱううちやぶつて、うらへつつといで、かはへざんぶとぞとびいりける。かたきみかた、あはや
げんかくこそじがいしてんげるとまをしけるに、もののぐをもぬかず、ぐそくひとつもすてずして、みづのそこをくぐつて、むか
ひのきしにわたりつき、だんにあがりなぎなたうちふり、いかにへいけのひとびと、これまではおんだいじかようとて、てらのか
たへぞまかりける。なかにもへいけのかたのさぶらひたいしやう、ひだのかみかげいへは、ふるつはものなりければ、いまはさだめてみや
はなんとへぞさきだたせたまふらんとて、五百よきにておひかけたてまつる。あんのごとくくわうみやうせんのとりゐのまへに
ておつつきたてまつり、さしつめひきつめさんざんにいたてまつる。たがいるやともみえざるに、しらはのやひとすぢきたつて、
みやのおんそばはらにたちければ、やがておんむまよりおちさせたまひけり。へいけのつはものあまたおちあひて、みやのおんくびたま
はりけり。くろまるとまをすわらはも、ここにてうちじにす。ぎやうぶしゆんしうもうたれにけり。わかだいしゆあくそうども二十よにんつきたてまつ
りたりけるも、もるるは一にんもなかりけり。みないつしよにてぞうたれにける。なかにもみやのおめのとご、六
でうのすけのたいふむねのぶは、てんがだい一のだいおくびやうしやなりければ、みやはうたれさせたまひしかども、じがいをもせずうち
じにをもせで、むまにまかせておちゆくほどに、むまはよわしかたきはちかづく、かなはじとやおもひけん、にいのが
いけにとびいつてもひきかづき、めわづかにみいだしてぞゐたりける。いけのはたをうちすぎうちすぎしけるかたきのなかに、はるか
にひきさがつて、五百きばかりうちとほりけるかたきのなかをみけるに、じやうえきたまへるひとのくびもなきを、しとみの
もとにかいてとほる。あれはいかにとみたてまつるに、これぞわがしうのみやにてわたらせたまひける。われしなばご
くわんにいれよとおほせなりしこえだときこえしおんふえも、いまだおんこしにぞさされたる。やがてはしりもいでて、とりつき
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たてまつらばやとはおもひけれども、それもさすがおそろしければ、ただみづのそこにて、かはづとともにぞなきゐたる。
かたきみなうちとほりてのち、いけよりあがり、ぬれたるものどもしぼりきて、ゆふべにおよんでみやこへいる。にくま
ぬものこそなかりけれ。さるほどになんとのだいしゆ、みやのおむかへにまゐりけるが、つがふそのせい七千よにん、せんぢんはこづに
すすめば、ごぢんはいまだこうふくじのなんだいもんにぞささへたる。されどもみやははやくわうみやうせんのとりゐのまへにて、う
たれさせたまひぬときこえしかば、だいしゆちからおよばず、なみだをおさへてひきかへす。いま五十ちやうがあひだをまちつけさせたま
はずして、うたれさせたまひけるみやのごうんのほどこそうたてけれ。

若宮の沙汰(あひ) 412
さるほどに・へいけのさぶらひどもは・いづのかみいげ・つはもの五百よにんが・くびとつて・そのひのよに・いつてみやこへいる・へいけの
ゆかりのひとびと・いさみののしりたまふこと・なのめならず・なかにも・三みにふだうのくびは・おほきなるいしに・くくりあは
せて・うぢがはの・ふかきところに・しづめてんげれば・なかりけり・ただしみやのおんくび・みしりたてまつつたるものぞ・なか
りける・てんやくのかみさだなりが・ごれうぢの・おんためにとてつねは・まゐりたりければ・これぞさだめて・みしりたてまつりたるら
んとて・めされけれども・げんしよらうとて・まゐらず・一とせおんひたひに・あしきおんかさの・いできさせ・たまひたりし
をも・このさだもりが・やうやうに・れうぢまをしてこそ・いままでも・あんをんには・わたらせたまひしを・こんどあへなう・
うしなひたてまつりけるこそ・あさましけれ・さるほどに・いよのかみ(イ伊豆守)もりのりのむすめ・三ゐのつぼねとて・八でうの・によう
P205
ゐんに・さぶらはれけるを・みや・よなよなめされければ・うちつづき・わかみや三ところ・いできさせたまひけり・これ
ぞさだめて・みしりたまひたるらんとて・たづねいだしたてまつる・このにようばう・あるくびを・一めみて・なみだにむせばれける
にぞ・みやのおんくびとは・しりてげる・このにようばうをば・なのめならずにようゐんの・おんいとほしみにて・おはしければ・
みこの・みやたちをも・わがおんこのごとく・おぼしめされて・つねは・ぎよいの・おんふところにて・そだて・まゐら
つさせ・たまひけり・なかにも・こんねん七さいに・ならせたまひける・わかみやの・わたらせたまひけるを・にふだう・おとといけ
のちうなごんよりもりを・もつて・わかみやとうとう・いだしまゐらつさせ・たまふべきよしを・まをされたりければ・によう
ゐんいざとよ・それはさやうのことの・きこえつる・あかつきがた・めのとのにようばうが・こころをさなくも・とりたてまつりて・いづ
かたへか・ゆきぬらん・ゆきがたも・しらずとぞ・おほせける・このよりもりのきやうと・まをすは・にようゐんのおんめのと・ぢみやうゐんの
さいしやうどのに・あひぐせられたりければ・ひごろは・さしもむつまじう・おぼしめされけるに・いま・このわか
みやのおんこと・まをされければ・いつしか・あらぬひとの・やうにうとましうぞ・おぼしめされける・ちうなごん・六
はらにかへり・まゐつてこのよし・まをされたりければ・にふだう・おほきに・いかつてなんでう・そのごしよならでは・
いづくにか・わたらせたまふべき・そのぎならば・ごしよちうを・さがしたてまつれとぞ・のたまひける・ちうなごん・また・ご
しよにまゐり・もんぜんに・つはものおきなんどして・このよしまをされたりければ・わかみやまをさせたまひけるは・なじかは・
くるしうさふらふべき・ただとくいださせ・おはしますべしと・まをさせたまひければ・にようゐんいとほしや・われから
に・だいじの・いでくることを・あさましう・おぼしめして・ただとく・いだすべしなんど・のたまふことの・いとふし
P206
さよ・なにしにか・かくうきひとを・この六七ねん・てならしたてまつて・いまかくうきめを・みることよとて・おん
なみだに・むせばせおはします・おんぼぎ三みのつぼねのおんことは・なかなかまをすにおよばず・にようくわんたち・つぼねのにようばう・め
のわらはにいたるまで・みなそでをぞ・ぬらしける・ちうなごんも・さすがいはきならねば・よにもあはれに・おもは
れけれども・さてしもあるべきならねば・わかみや・ひとつことに・のせたてまつて・六はらへぐそくしたてまつらる・さき
のうたいしやうむねもりのきやう・このわかみやを・みたてまつつて・あはれにおもひ・まゐらせられければ・ちちのおんまへにおはして・あはれ
このみやの・おんいのちをば・むねもりに・たびさふらへかしと・まをされければ・にふだうさらば・やがてごしゆつけ・せさせたてまつ
れとぞ・のたまひける・うたいしやう・このよしを・にようゐんへ・まをされたりければ・にようゐんなのめならず・おんよろこばせ
おはしまして・ただともかうも・よきやうにとぞ・おほせける・やがてにんなじどのにして・ごしゆつけせさせたてまつる・
やすゐのみや・だうそんと・きこえしは・このわかみやのおんことなり・またならにも・一ところ・わたらせたまひけれ・これをば・おん
めのとごの・さぬきのかみいへひで・とりたてまつて・ほつこくに・おちくだりしを・きそこれをば・わがしうに・したてまつらんとて・
とりたてまつて・ゑつちうのくにみやざきと・いふところに・ごしよ・しつらうて・おきたてまつりたりしが・一とせ・きそうじやうらくの
とき・ぐそくしたてまつて・みやこにのぼり・げんぞくせさせたてまつる・さてこそ・げんぞくのみやともまをし・またはきそがみやとも・
まをしき・のちには・さがのへん・のよりと・いふところに・わたらせたまひければ・ひとのよりのみやとぞまをしける・さても・せう
なごんこれながは・みやをば・あしうみそんじたてまつりたるものかな・なかごろ・とうじう(イ通乗)と・きこえしさうにんは・おほ二でうどの
をば・三だいのくわんぱく・おんとし八十・そちのうちの・おとどをば・るざいのさう・わたらせたまふと・まをしたりしに・たがはず・
P207
むかししやうとくたいし・しゆじゆんてんわうを・みまゐらつさせたまひ・きみはわうしのさう・わたらせたまふと・まをさせたまひた
りしは・むまこのだいじんに・ころされ・させたまひけり・むかしはさせるさうにんと・しもは・なけれども・さもしか
るべきひとは・みなかくこそ・ゆゆしう・わたらせたまひしに・これは・せうなごんこれながが・ひがごと也(なり)とぞ・ひとまをしけ
る・かのけんめいしんわう・ぐへいしんわうは・けんわうせいしゆの・みこにて・さきのちうしよわう・あとのちうしよわうとて・ともにめでたう・
わたらせたまひたりしかども・いつか・ごむほんおこさせ・たまひたりし

三井寺炎上 413
ご三でうゐんの・だい三のわうじ・すけひとのしんわうと・きこえしは・おんこころもがうに・ごさいがくも・ゆゆしうわたらせ・たまひ
しかども・しらかはゐん・なんとかおもひまゐらつさせたまひたりけむ・つひにみくらゐにも・つけまゐらつさせ・たまはず・
されば・そのおんこころを・なぐさめまゐらせんとにや・おんこ・はなぞののさだいじんどのに・げんじのしやうを・さづけ・まゐらつさせ
たまひて・むゐより三ゐして・やがて・ちうしやうに・なしまゐらつさせたまひけり・むかしより・一せいのげんじの・む
ゐより三ゐに・なることは・さがの・てんわうのみこ・やうぜいゐんのだいなごんさだむのきやうのほかは・うけたまはりおよばず・
おなじき廿四かに・ぢもくおこなはれて・さきのうたいしやうむねもりのおんこ・じじうきよむね・しやうねん十二さいに・なられけるが・
三ゐして・三ゐのじじうとぞ・まをしける・ちちのきやうは・このよはひにては・わづかに・ひやうゑのすけにてこそ・おはせしに・
さこそよを・とるひとの・こならんからに・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける・これは・みなもとのもちひと・三ゐにふだう
P208
いげ・つゐたうのしやうとぞ・きこえし・おなじき廿五にちに・みなもとのもちひと・三ゐにふだういげ・てうぷくせられたりし・きそうかう
そうたちに・けんしやうおこなはれけり・このみなもとのもちひととまをすは・たかくらのみやのおんことなり・まさしく・一ゐんだい二のみこ
にて・わたらせたまひけるを・ここのへのうちを・おひいだしたてまつつて・うしなひたてまつるのみならず・ぼんにんに・さへなし・
まゐらせぬることこそ・くちをしけれ・ひごろは・さんもんのだいしゆ・いささかのこともあれば・みたりがましくうつたへつかまつるが・こんど
は・をんびんのぎを・ぞんじて・おともせず・しかるになんと・三ゐでらは・あるひはみやを・ふぢしたてまつる・あるひはおんむかへに・
まゐる・これひとへに・てうてきなりとて・ならをも・てらをも・はつかうあるべしとぞ・きこえし・へいけさらば・まづ・
をんじやうじを・はつかうせよやとて・たいしやうぐんには・にふだうの三なん・さひやうゑのかみとももり・おととにさつまのかみただのり・さぶらひ大
しやうには・ゑつちうのぜんじ・もりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの五らうびやうゑただみつを・さきとして・つがふそのせい・三千よき・
おなじき五ぐわつ廿七にちに・をんじやうじへ・はつかうせられけり・てらにも・おほぜき・こぜき・ほりきつて・さかもぎ・ひいて・
まちかけたり・ふせぐところの・だいしゆ三百よにん・うちころさる・そののち・ぢちうにみだれいつて・ひをはなつ・やくるところは・
どこどこぞ・ほんかくゐん・しんによゐん・じやうきゐん・だいがくゐん・けおんゐん・ふげんゐん・しやうりうゐん・こんがうわうだう・けいそくばう・けうたい
くわしやうのほんばうならびに・ごほんぞん・ごわうぜんじんの・しやだん・八けん四めんの・だいかうだう・しゆろう・きやうざう・二かいのろうもん・くわんちやう
だう・すべて・だうしやたふめう・あはせて・六百廿七う・おほつのうらの・にしのざいけ・二千八百五十三う・ことごとくちをはらふ・
そのなかに・こんだう一う・やけのこりけるこそ・ふしぎなれ・だいしのわたしたまへる・一さいきやう・七千よくわん・ぶつざう・二
千よたいも・たちまちに・けぶりとなるこそ・かなしけれ・ほうもんしやうげうの・やくるけぶりには・だいぼんてんわうの・まなこも・くれ・
P209
しよてん五めうの・がくもこのとき・ながくばうじ・けんらうぢしんのたん・しきりにこがれ・りうじん三ねつのくるしみも・まさるらんとぞ・おぼ
えたる・三ゐでらはこれ・あふみのぎだいりやうが・わたくしのてらたりしを・てんぢてんわうへ・よせたてまつて・ごぐわんとなす・ほんぶつ
は・かのみかどの・ごほんぞん・しやうじんのみろくとぞ・きこえさせたまひし・しかるを・けうたいくわしやう・百六拾ねん・おこな
うてのち・ちしようだいしに・ふぞくしたてまつる・としたてんじやうまにはうでんより・あまくだらせ・たまひて・はるかに・りうげげしやう
の・あかつきを・またせたまふ・てんぢ・てんぶ・ぢとう・これ三だいのみかどの・おんうぶゆを・めされたりしに・よつてこ
そ・三ゐでらとは・なづけられけれ・かく・めでたかりし・せいせきも・いまはなにならず・けんみつしゆゆに・ほろびて・
がらんさらに・あとも・なし・三みつのだうぢやうも・なければ・しんれいのひびきも・たえ・一げのぶつぜんも・なければ・あ
かのおとも・せざりけり・しゆくらうせきとくの・めいしは・ぎやうがくに・わかれ・じゆほうさうしようの・でしどもは・きやうげうにこそ・
わかれんだれ

あひ 414
そうかう十二にんけつくわんせらる。あくそうどもには、つつゐのじやうめうみやうしゆんをさきとして、卅よにんをきんごくせらる。三ゐにふだう
みやをば、さしもたのもしげにまをして、すすめまゐらせたりけれども、をんごくはしらず、きんごくのげんじだにもまゐら
ねば、みやをもあへなううしなひたてまつり、わがみもしそんも、ことごとくほろびぬるこそあさましけれ。
P210

ぬえ(空+鳥) 415
そもそもげん三ゐよりまさにふだうの、一ごのあひだかうみやうとおぼしきことおほきなかにも、ことにはこのゑのゐんのおんとき、しゆじやうよな
よなおびえさせたまふことあり。くだんのごなうは、ひがし三でうのこむらより、くろくも一むらごてんのうへに、おしおほふと
おぼしきときは、しゆじやういよいよおびえさせたまひけり。これによつてさんもんなんとのきそうかうそうにおほせて、だいほふひほふしゆ
せられけり。またぶしをもつてもけいごあるべしとて、げんぺいりやうかのつはものをぞめされける。よりまさのきやうのいまだその
ころひやうごのかみたりしとき、めしぬかれてまゐる。これはほりかはのてんわうのぎよう、くわんぢのころかとよ、しゆじやうかやうにおび
えさせたまふことあり。そのときのしやうぐんよしいへのあそんをぞめされける。かうのかりぎぬのそでながやかにかいつくろひ、なん
でんにしこうして、めいげんすること三どののち、これはさきのむつのくにのかみみなもとのよしいへのあそんぞやと、かうじやうに三ケどま
で、ののしつたりければ、ごなうやがておこたらせたまひけり。こんどそのれいとぞきこえし。よりまさまをしけるは、てう
かにぶしおかるることは、ゐちよくのともがらをしりぞけ、またはぎやくほんのものを、しづめられんがためにてこそあるに、
めにもみえぬへんげのものいよとのちよくぢやうこそ、しかるべからね、とはまをしながらりんげんそむきがたうして、
しらあをのかりぎぬのそでながやかにかいつくろひ、たのみきつたるらうどう、とほたふみのくにのぢうにんゐのはやたに、ほろのか
さきりにてはいだりけるや一こしおほせ、ぬりごめどうのゆみに、やまどりのをにてはいだりけるとがりやふたつとりそ
へ、なんでんにしこうして、よふくるまませけんをうかがひみるほどに、あんのごとく、そのよのやはんばかりに、ひがし三でうの
P211
こむらよりくろくも一むら、ごてんのうへに五ぢやうばかりぞたなびいたる。くもすきにみければ、くものなかにすがたあるもの
あり、よりまさとがりやをとつてうちつがひ、よつぴいてひやうといる。ふつとあたる。よりまさえたりやお
うとやさけびをこそしたりけれ。やがてやたちながらていじやうへどうとおつ。ゐのはやたつつとよりとつて
おさへ、こしのかたなをぬき、つかもこぶしもとほれとほれと、九かたなぞさいたりける。そののちてんでにひをとぼして
みたまへば、かしらはさる、むくろはたぬき、をはくちなは、あしてはとらのごとくにて、なきごゑぬえにぞにたり
ける。きたいふしぎのものなりけり。ごなうやがておこたらせたまひけり。しゆじやうぎよかんのあまりに、ししわうとまをす
ぎよけんを、よりまさにこそくだされけれ。らいちやうのさふたまはり、ついでごてんのきざはしを、なからばかりおりくだ
らせたまひて、よりまさにたまはしける。ころはうづき十かあまりのことにてもやさふらひけん、ほととぎすくもゐに二こゑ三こゑおと
づれてすぎければ、やがてさだいじんどの、
ほととぎすなをもくもゐにあぐるかな
とおほせられかけたりければ、よりまさかしこまつてうけたまはり、もとよりこのむことなれば、つきをそばめにかけて、
ゆみはりづきのいるにまかせて
とつかまつて、ぎよけんをたまはつてまかりいづ。そののちくだんのへんげのものをば、うつぼふねにいれて、にしのうみへぞ
ながされける。そのときのけんしやうには、たんばの五かのしやうをぞたまはりける。また二でうのゐんのぎよう、おうはうのころかとよ、
ぬえとまをすけてうが、よなよなぢんとうにないて、しばしばしんきんをなやましたてまつる。せんれいにまかせて、またよりまさを
P212
ぞめされける。よりまさまをしけるは、げんぺいりやうけのうちより、めしぬかれてまゐること、みのめんぼくとはまをしながら、いお
ふせんことふぢやう、いそんぜむことはけつぢやうなり、ただいまいそんずるほどならば、ゆみきりをつてさんりんにまじはるべし、さる
にても八まんだいぼさつあはれみをたれさせたまへと、しんちうにきせいして、またなんでんにしこうす。ころはさつきはつか
あまりのことなれば、さみだれさへにかきくれて、めざすともしらぬやみなるに、くだんのけてうが、ただ一こゑおと
づれて、二こゑともなかざれば、いづくにありともしりがたし。すがたもかたちもみえざれば、いづくをやつぼと
さだめがたし。よりまさはかりごとに、かぶらをとつてうちつがひ、よつぴいてひやうといる。ぬえかぶらのおとにおどろ
いて、こくうにしばらくひひめいたり。つぎにこかぶらをとつてうちつがひ、よつぴきしばしたもつて、ひい
ふつとぞいおとしたる。ごなうやがておこたらせたまひけり。しゆじやうぎよかんのあまりに、ぎよいを一りやうよりまさにこそくだ
されけれ。こんどはおほゐのみかどのうだいじんきんよしこうたまはりついで、ごてんのきざはしを、なからばかりおりくだらせたまひ
て、よりまさにうちかづけさせらるとて、むかしのやうゆうはくものほかなるかりをい、いまのよりまさはあめのなかにぬえをいえた
りとぞおほせける。やがてうだいじんこう、
さつきやみなをあらはせるこよひかな
とおほせられかけたりければ、よりまさかしこまつてうけたまはり、
たそがれどきもすぎぬとおもへば
とつかまつて、ぎよいをたまはつてまかりいづ。よりまさゆみやをとつててんがになをあぐるのみならず、かだうのか
P213
たにも、いうにやさしかりけりと、きんちうさざめきあへり。そのときのけんじやうには、わかさのとうのみやかはをぞたまはりけ
る。そもそもこのよりまさのきやうとまをすは、つのかみよりみつに五だいのまご、さきのみかはのかみよりつなのまご、ひやうごのかみなかまさのあそんのこなり
けり。はうげんにまつさきかけたりしかども、させるごおんにもあづからず、へいぢにおほくのしんるゐをすててみかた
にまゐりたりしかども、おんじやうこれおろそかなり。ぢうだいのしよくなれば、おほうちのしゆごうけたまはつてとしひさし。されどもしよう
でんをばゆるされざりしかば、はるかにとしたけよはひかたぶいてのち、じゆつかいのわか一しゆよみてこそ、しようでんをもゆる
されたりしか。
ひとしれずおほうちやまのやまもりはこがくれてのみつきをみるかな
とつかまつつて、四ゐしてしばらくさふらひけるが、また三ゐをこころにかけて、
のぼるべきたよりなければこのもとにしひをひろひてよをわたるかな
とつかまつつて三ゐになされ、しゆつけしてほうみやうじやうれんとぞまをしける。たんばの五ケのしやう、わかさのとうのみやかは、いづのくにを
もちぎやうして、しそくなかつなずれうになし、さてあるべかりしひとの、よしなきむほんおもひたち、みやをもあへな
ううしなひたてまつり、わがみもしそんことごとくほろびぬるこそあさましけれ。

入力者:荒山慶一



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