平家物語(城方本・八坂系)
巻第五 P214
都遷 501
ぢしよう四ねん・六ぐわつ三かのひ・にふだうしやうごくの・としごろしつして・かよはれし・ふくはらへ・みやこうつりし・あるべしとぞ・きこ
えしかねては・三かとさだめられたりしかども・いま一にちひきあげて・二かのひの・うのこくに・ぎやうかうなる・しゆじやうえう
しゆのときの・ごどうよには・ぼこうとて・ははのきさきの・まゐらせたまふことなるに・こんどは・そのぎなし・へいだいなごんとき
ただのきやうの・きたのかた・そちのすけどのぞ・ごどうよには・まゐられける・おなじき三かのひ・ふくはらへ・いらせたまふ・にふだう
のおとと・いけのちうなごんよりもりのきやうの・しゆくしよ・くわうきよになる・おなじき四かのひ・いへのしやうとて・ぢもくおこなはれける・
よりもりのきやう・じやうニゐしたまふ・九でうどののおんこ・うたいしやうよしみちのきやう・こえられさせ・たまひけり・むかしより・せうろくの
きんだちの・ぼんにんに・かかい・こえられさせ・たまふこと・これはじめとぞ・うけたまはる・さるほどに・ほうわうは・じやうなんのり
きうに・おしこめられて・わたらせたまひたりしを・さきのうたいしやうむねもりのきやう・をりふし・まをされしによつて・と
ばどのをば・いだしたてまつつて・八でうからすまるの・びふくもんゐんのおんまへへ・いれたてまつりたりしが・こんどは・たかくらのみやの・ご
むほんによつて・ふくはらへ・ごかうなしたてまつり・四めんに・はたいたおし・くちひとつある・三げんのいたやを・つくつて・P215
おひこめたてまつつて・おきたてまつり・しゆごのぶしには・はらだの・たいふ・たねなほばかりぞ・さふらひける・わらべどもは・ふく
はらの・ろうの・ごしよとぞ・まをしける・きくも・よにおそろしう・あさましかりしおんことなり・さるままには・ほうわう
ばんきのおんまつりごとをば・つゆしろしめさず・ただやまやま・てらでら・しゆぎやうして・こころのままに・なぐさまばやとぞ・おほせ
ける・にふだうしやうごくの・あくぎやうに・おいては・はやみなきはまりぬ・くわんぱく・ながしたてまつつては・むこをくわんぱくに・おしな
し・あまつさへ・一ゐんだい二のおんこ・たかくらのみやをば・ここのへのうちを・おひいだしたてまつつて・うしなひたてまつる・のみならず・ぼん
にんにさへ・なしまゐらせぬる・ことこそ・くちをしけれ・いまのこるところとては・みやこうつしは・これせんしよう・なきにあら
ず・じんむてんわうは・ぢじん五だいのみかど・ひこなぎさたけうがやふきあはせずのみことの・だい四のわうじ・おんははは・たまよりひめ・てんじん
七だい・ぢじん五だい・かみのよ・十二だいのあとを・うけ・にんだい百わうの・ていそなり・かのとのとりのとし・ひうがのくに・みやさきの
こほりにして・くわうわうのはうそを・つぎ・五十九ねんと・いつし・つちのとのひつじのとし・十ぐわつに・とうせいして・このごろ・やまとの
くにと・なづけたり・とよあしはらの・なかつくにに・とどまつて・うねびの・やまを・てんし・きうと(イ帝都)を・たて・かし
はらのちを・きりはらうて・きうしつを・つくりたまふ・これを・かしはらのみやとは・なづけられけり・しかしよりこのかた・よよのみ
かどの・みやこを・たこく・たしよへ・うつさるること・三十どにあまり・四十どに・およべり・じんむてんわうより・けいかうてん
わうまで 十二だいは・なほ・おなじきくに・こほりこほりに・みやこをたてて・たこくへはうつされず・しかるを・せいむてんわうぐわんねん
に・あふみのくにに・うつつて・しがのこほりに・みやこをたつ・ちうあいてんわうニねんに・ながとのくににうつつて・とよらのこほり
に・みやこをたつ・そのくにの・かのこほりにして・みかど・かくれさせたまひしかば・きさき・じんぐうくわうごう・によたいとして・おんP216
ゆづりを・うけさせたまひ・しんら・はくさい・かうらい・けいたんを・はじめとして・いこくのいくさを・たひらげさせ・たまひて・その
のちわがてう・ちくぜんのくに・三かさのこほりにして・わうじ・ごたんじやうあり・それよりしてぞ・そのところを・うみのみやとも・まをす
なり・みくらゐののちは・おうじんてんわうとも・まをしき・かけはくも・かたじけなく・まします・やはたのおんことこれなり・
にんとくてんわうぐわんねんに・つのくに・なにはに・うつつて・たかつのみやに・すみたまふ・りちうてんわうニねんに・なほ・やまとの
くにに・うつつて・とをちのさとに・すみたまふ・はんぜいてんわうぐわんねんに・かはちのくにに・うつつて・しばがきのさとに・みやゐ・し
たまふ・いんけうてんわう四十二ねんに・なほ・やまとのくにに・うつつて・とぶとりの・あすかのみやに・すみたまふ・ゆうりやくてんわう
廿一ねんに・なほ・おなじきくに・はつせ・あさくらに・みやこをたつ・けいたいてんわう五ねんに・やましろのくに・つづきに・うつつ
て・十二ねん・そののち・おとくにに・すみたまふ・せんくわてんわうぐわんねんに・なほやまとのくにに・うつつて・ひのくまの・いるののみや
に・すみたまふ・きんめい・びだつ・ようめい・しゆじゆん・すゐこ・じよめい・くわうきよくまで・七だいは・なほ・おなじきくにに・みやこをた
てて・たこくへは・うつされず・しかるを・かうとくてんわう・たいくわぐわんねんに・つのくに・ながらに・うつつて・とよさきのこほり
に・みやこを・たつ・さいめいてんわうニねんに・なほ・やまのとのくにに・うつつて・をかもとのみやに・すみたまふ・てんぢてんわう・六
ねんに・あふみのくにに・うつつて・おほつにみやを・つくりたまふ・てんむてんわう・ぐわんねんに・なほ・やまとのくにに・かへつて・
をかもとの・みなみのみやに・すみたまふ・ぢとう・もんむ・二だいのせいてうは・なほ・おなじきくに・ふぢはらのみやに・すみたまふ・げんめい
げんせい・しやうむ・かうけん・はいたい・せうとく・くわうにんまで・七だいは・なほおなじき・くに・ならのみやこに・すみたまふ・しかるを・くわん
むてんわう・えんりやく三ねん・十一ぐわつついたちのひ・ならのきやう・かすがのさとより・やましろのくに・ながをかのきやうに・うつつて・十P217
ねん・このみやこに・すみたまふ・おなじきえんりやく十三ねん・しやうぐわつの三かのひ・だいなごん・ふぢはらのをぐろまる・さんぎさだんべん・き
のこさびを・つかはして・たうごくかどののこほり・うだのむらを・みせしむるに・りやうにんともに・そうして・いはく・この
ちのていを・みさふらふに・さしやうりう・うびやつこ・ぜんしゆじやく・ごげんむ・四じんさうおうのちなり・もつとも・ていとを・もとむるに・た
れり・よりておとくにのこほりに・おはします・かものだいみやうじんに・まをさせたまひて・おなじきえんりやく十三ねん・十一ぐわつ廿かのひ・
ながをかのきやうより・いまの・へいあんじやうに・うつつて・ていわう卅ニだい・せいさう・三百八十よさいの・しゆんじうを・おくりむか
へてぞ・ましましける・しかつしより・このかた・よよのみかどの・みやこを・たこく・たしよへ・うつされしかど
も・かかる・しようちは・いまだなしとて・くわんむてんわう・ことにしつし・おぼしめして・まづ・ちやうきうなるべき・じゆつ
とて・だいじん・くぎやう・しよだうの・さいじんに・おほせて・つちにて・八しやくの・ひとがたをつくらせ・くろがねのかつちうを・きせ・お
なじう・くろがねのきうせんを・もたせて・ひがしやまのみねに・にしむきに・たててぞ・うづませられける・これはすゑのよに・
このみやこを・たこくへ・うつすもの・あらば・かならずしゆごじんと・なるべしとの・おんやくそくありけり・されば・てん
がに・ことの・いでこんとては・このつかかならず・めいどうす・しやうぐんがつかとて・いまにあり・くわんむてんわうは・へいけの
なうそにてぞ・ましましける・へいあんじやうと・なづけては・たひらかにやすき・みやこと・かけり・もつともへいけのあがむべ
きみやこぞかし・さがのてんわうのおんとき・へいぜいのせんてい・よをみだらむと・せさせたまひしに・みやこを・たこく・たしよへ・
うつさんと・せさせたまひしとき・だいじん・くぎやう・しよこくのじんみん・ことごとくおこつて・そむき・まをせしかば・つひに・うつさ
れで・やみにき・かたじけなくも・いつてんのきみ・ばんじようの・あるじだにも・たやすく・うつしえたまはぬ・みやこを・なんP218
ぞ・だいじやうのにふだう・じんしんのみとして・たやすくうつされけるこそ・ふしぎなれ・いかさまにも・これはしよこくのい
ぞく・せめのぼり・へいけ・みやこのうちを・おひいだされ・さんりんにまじはるべき・ぜんぺうかとぞ・じやうげささやき・あへりける・
あはれきうとは・めでたかりし・みやこぞかし・わうじやうしゆごのちんじゆは・四はうにひかりをやはらげ・れいげんしゆしようのてらでら
は・じやうげにいらかを・ならべたり・はくせい・ばんみん・わづらひなく・五き・七だうも・たよりあり・ひとびとのいへいへをば・か
もがは・かつらがはに・こぼちいれ・いかだにくみ・うかべ・しざい・ざふぐを・ふねにつみて・ふくはらへはこびくだされ・たりければ・
はなのみやこも・ただなりに・ゐなかと・なるこそ・かなしけれ・つじつじほりきり・さかもぎ・ゆひふさぎ・たりけれ
ば・くるまなんどの・わのかよふこともなし・たまたま・ゆくひとは・みなをぐるまにのつて・みちを・へて・こそ
とほられけれ・またなにものがしたりけん・ふるきみやこの・だいりのはしらに・二しゆのうたをぞ・かきける・
ももとせをよかへりまでにすぎきにし・をたぎのさとのあれやはてなむ・
さきいづるはなのみやこをふりすてて・かぜふくはらのすゑぞあやうき・
されども・ふくはらには・しんとの・ことはじめ・あるべしとて・ぶぎやうのべんには・くらんどのさせうべんゆきたかとうの・うちうべん
みつまさ・くわんにんども・あひぐして・たうごくわだの・まつばらの・にしののをてんし・ここのへのちを・わられけるに・一でうよ
りはじめて・五でうまでは・ありしかども・それより・しもは・なかりけり・ぎやうじくわん・かへりまゐつて・このよしを・
そうし・まをしたりければ・さらば・はりまのいなみのか・なほたうごく・こやのか・なんど・さたありしかども・と
みに・ことゆくべしとも・みえざりけり・きうとは・すでに・うかれぬ・しんとは・いまだ・ことゆかず・ありとし・P219
あるひと・みなみを・うきぐもの・まよひと・なし・もと・そのところに・すむひとは・ちをうしなつて・うれ
へ・いまうつりくるひとは・みな・どぼくの・わづらひをぞ・なげかれける・なかにも・つちみかどの・さいしやうのちう
じやうみちちかのきやうの・まをされけるは・いこくには・三でうのくわうろを・ひらいて・十二のとうもんをたつと・いへり・いはんや
わがてうに・五でうまで・あらむみやこに・などか・だいりを・たてざるべきとて・五でうの・だいなごんくにつなのきやうの・
りんじに・すはうのくにを・たまはつて・さとだいり・つくらせらる・このくにつなのきやうとまをすは・ならびなき・だいふくちやうじやに
て・おはしければ・さとだいりざうしんせらるべきこと・さうにおよばすとは・まをしながら・まづさしあたつて・おこな
はるべき・ごけい・だいじやうゑをば・さしおかれて・かかる・よのみだれのなかに・せんとざうだいり・すこしも・さうおう
せず・いにしへの・かしこかりける・みよには・だいりをば・かやにて・ふき・のきをだにも・あらためられず・
たみのかまどの・ともしきをごらんじては・かぎりある・みつぎものをも・ゆるされけり・これひとへに・くにを・た
すけ・たみをはごぐむに・よりてなり・かのたうのげんそうの・りさんきうを・つくられしには・かはらにまつおひ・かきに・こけむす
まで・りんかう・なかりけるには・さうゐかな・しよしやう・くわたいをたて・れいみんあらけ・じんあはうのでんを・おこして・
てんがみだるとも・いへり・ばうしきらず・さいてんけづらず・しうしやかざらず・いふくあやなかりける・よも・ありける
ものを・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける
月見 502 P220
おなじき八ぐわつ八かのひ・ふくはらには・しんとの・ことはじめあつて・おなじき・十ぐわつ十かのひ・おんむねあげとぞ・きこえし・きう
とは・あれゆけば・いまのみやこは・はんじやうす・あさましかりし・なつもすぎ・あきも・なかばに・なりにけり・ふくはら
に・おはしける・ひとびとは・めいしよのつきを・みむとて・あるひは・げんじのたいしやうの・むかしのあとを・たづねつつ・す
まより・あかしのうらづたひ・しらく(イ白浦)ふきあげ・わかのうら・すみよし・なにはえ・たかさごをのへのつきの・あけぼのを・な
がめてかへる・ひともあり・きうとにのこるひとびとは・ふしみ・ひろさはの・つきをみる・なかにも・ふくはらにおはしける・ご
とくだいじのさたいしやう・じつていのきやうは・きうとのつきをみんとて・にふだうしやうごくに・いとまこひ・八ぐわつ十かあまりに・ふるきみやこ
へ・かへりのぼられけるが・みちすがらも・めいしよめいしよのつきをみる・すずめのまつばら・みかげのまつ・いくたこやのの・つき
をみる・くもゐにさらす・ぬのびきの・これや・この・もとめづかと・なづけしは・かのしまの・ほとりなり・こひゆゑみをうしなひ
し・二にんのをとこの・はかとかや・ゐなのみなとのあけぼのに・きりたちわたる・なにはがた・をとこやまのつきかげは・いはしみづにや・
やどるらん・むつだのよはの・むしのねに・いなばに・そよぐ・かぜのおと・あきのやまの・もみぢのいろ・こころをく
だく・たよりとなる・たいしやうきうとに・かへり・みたまへば・ひとびとのいへいへをば・さんぬる・なつ・かもがは・かつらがはに・
こぼちいれ・いかだにくみうかべ・しざいざふぐを・ふねにつみて・ふくはらへはこび・くだされたりければ・たまたまのこ
る・いへいへは・もんぜんくさふかく・ていじやうつゆしげく・よもぎが・そま・あさぢがはら・とりのふしどと・あれはてて・ただ・
きぎく・しらんの・のべとぞなりにける・いまふるき・みやこのおんなごりとては・おんいもうとこんゑがはらの・おほみやのごしよ
ばかりなり・たいしやうかれへ・まゐらせたまひて・ずゐじんをもつて・そうもんを・たたかせらるれば・うちよりにようばうのP221
こゑにて・たそやこのよもぎふの・つゆうちはらふひとだにも・まれなるところにと・とがむれば・これは・ふくはらより・たい
しやうどのの・おんまゐりにてさふらふと・まをす・ささふらはば・そうもんは・ぢやうが・さされて・さふらふぞ・ひがしのこもん
より・まゐらせたまふべしと・まをしたりければ・たいしやうさらばとて・ひがしのもんよりぞ・まゐられける・をりふしおほみやは・
つきにめでさせ・たまひて・みなみの・だいにして・おんびは・おんばちのおと・あざやかにこそ・あそばされけれ・かの
げんじの・うぢのまきには・うばそくのみやの・おんむすめ・あきのなごりを・をしみつつ・びはをしらべて・よもすがら・おん
こころをすまさせ・たまひしに・ありあけのつきの・やまのはより・いでけるを・なほ・たへず・やおぼしめされけむ・
ばちして・まねかせたまひしも・いまこそ・おぼしめししられけれ・おほみや・おんばちさしをさめさせ・たまひて・い
かにや・たいしやうこれへこれへと・おほせければ・たいしやうごぜんちかうまゐらせたまひて・ややはるかに・おんものがたりあり・そののち・たい
しやう・まつよひのこじじうを・よびいださせ・たまひて・むかしいまのことどもを・よもすがら・かたりぞ・あかさせたまひける・
そもそもこのまつよひのこじじうとまをすは・あるとき・おほみや・じじうをめして・まつよひと・かへるあしたは・いづれかはと・おほせ
ければ・じじうとりあへず・
まつよひのふけゆくかねのこゑきけば・あかぬわかれのとりはものかは
と・まをしたりけるによつてこそ・まつよひのこじじうとは・めされけれ・そののちたいしやう・はるかによふけ・ひとしづ
まつて・のち・やうでうねとり・さうさうかれなんとす・むしのおもひ・ねんごろなりといふ・らうえいして・
ふるきみやこの・あれゆくやうを・いまやうにこそ・うたはれけれ・P222
ふるきみやこをきてみれば・あさぢがはらとぞ・あれにける・
つきのひかりはくまなくて・あきかぜのみぞ・みにはしむ・
と・これを・二三どうたひ・すまされたりければ・おほみやをはじめまゐらせて・じじういげのにようばうたち・みなそでをぞぬ
らされける・あけければたいしやういとままをして・ふくはらへこそ・くだられけれ・じじう・たいしやうのおんなごりを・をしみたてまつつ
て・くるまよせまで・たちいで・おんうしろをはるばるとみおくりたてまつり・なみだをおさへてとどまりけり・たいしやうおんともにめしぐせら
れたりける・くらんどをめして・じじうがなにとおもひてやらむ・よにもなごりをしげにみえつるに・なんぢゆきて
なにともよきやうに・いひてこよかしとおほせければ・くらんどはしりかへり・これは・たいしやうどののまをせとさふらふとて
ものかはときみがいひけむとりのねの・けさしもなどかこひしかるらん・
じじうとりあへず
またばこそふけゆくかねもつらからめ・あかぬわかれのとりのねぞうき・
くらんどかへりまゐり・このよしをまをしたりければ・さればこそ・なんぢをばつかはしたりつれとて・たいしやうおほきのかんぜら
れけり・それよりしてこそ・ものかはのくらんどとは・めされけれ
物怪 503
にふだうしやうごくの・みやこうつりののちは・ゆめみも・あしう・またふしぎのことども・おほかりけり・たとへば・そのころ・にふだうP223
しやうごくの・すまれける・つぼのうちに・ひさうして・うゑさせられける・五えふのまつの・一やの・うちに・かれにけるこ
そ・ふしぎなれ・またうしろなる・まつやまのかたには・ひとならば・四五百・千にんばかりの・こゑにて・たいぼくをた
をすが・やうに・一どにどつと・わらふこゑしけり・にふだうひきめのばんと・なづけて・ひる卅にん・よる六十にんの
ひやうしを・すゑて・ひきめかぶらを・いさせられけるに・いおふせたるかと・おぼしきときは・おともせず・またそ
ぞろなるかたへ・いやつたるかと・おぼしきときは・一どにどつとぞ・わらひける・またにふだうしやうごくの・ちやうないには・
一まに・はばかるほどのものの・おもてが・いできて・にふだうしやうごくをにらみたてまつる・にふだうもさる・おそろしき・ひと
にて・おはしければ・すこしもさわがず・にらまれけるに・しにん・わらうて・うせにけり・あるときの・ふたあさ・
にふだう・ちうもんのらうに・いでたまひ・六ゐやさふらふ六ゐやさふらふと・めされけれども・をりふしひと・一りもさふらはざりけるに・つね
の・つぼのうちを・みやりたまへば・しやれたる・かうべが・四五百・千ばかり・みちみちて・はしなるが・なかへ
いり・なかなるが・はしへいで・うへなるが・したになり・したなるが・うへへあがり・たがひに・ころびあひ・ころ
びのき・がらめきけるが・さるかと・すれば・ひとつになつて・十ぢやうばかりに・そびえあがる・ときもあ
り・またちつとに・なるときもあり・千万のまなこをもつて・にふだうしやうごくを・にらめたてまつる・たとへば・にふだうも・せけん
に・わらはべのめくらべ・なんどを・するがやうに・またたきもせず・にらまれければ・つゆしものひに・あた
つて・きゆるが・ごとくに・あとかたもなうぞ・うせにける・またにふだうしやうごく・十四五六のわらはべを・三百よにん
めしあつめ・かぶろとなづけて・めしつかはれけるなかに・てんぐ・まぎれて・あそびけり・またにふだうしやうごくの・ひさうP224
して・なでかはれける・むまのをに・ねずみすをくひ・一やのうちに・こをうみにけるこそ・ふしぎなれ・
このむまはとうごく・さがみのくにのぢうにん・おほばの三らうかげちかが・もとより・八ケこく一の・めいばとて・まゐらせたりけるが・
くろきむまの・ひたひすこし・しろかりければ・もちづきと・なづけて・なのめならず・ひさうして・なでかはせられける・
むまのをに・ねずみすをくひ・一やのうちに・こをうみければ・これただごとに・あらずとて・八にんのはかせを・め
して・うらなはせらる・てんがの・さわぎと・うらなひまをす・やがてこのむまをば・あべのやすちかたまはりけり・むかしてんぢてん
わうのおんとき・れうのおんむまのをに・ねずみすをくひ・一やの・うちにこを・うみに・けるにも・てんがおだやかならずと
ぞ・にほんぎには・しるされたる・またふるきみやこに・おはしける・げんちうなごんがらいのきやうのもとに・さふらひけるせいし
が・みたりしゆめこそ・なによりも・ふしぎなれ・たとへば・たいだいの・じんぎくわんのへんを・とほると・おぼしき
に・そくたいしたまひたる・じやうらふの・いくらも・なみゐさせたまひて・ぎぢやうなんどの・ありけるを・なにごと
やらむと・たちとまつて・きくほどに・なかにも・ざじやうに・おはします・じやうらふの・ゆゆしう・けだかき・おんこゑに
て・このほど・へいけに・あづけおきたる・せつばかりを・めしかへし・いづのくにのるにん・さきのうひやうゑのごんのすけよりともに・た
ばんとぞ・おほせける・またまつざに・おはします・じやうらふの・へいけの・かたうどしたまふと・おぼしきを・おつたてらる
ると・みまをして・あけてのち・ひとに・かたるほどに・このことふくはらへ・きこえたり・にふだう・がらいのきやうのもとへ・ししや
を・たてて・それにゆめみの・をとこのさふらふなり・たまはつてゆめのやう・あひたづねさふらはんと・のたまひ・つかはされたり
ければ・このをとこ・あしかりなんとや・おもひけむ・やがてちくでん・してんげり・がらいのきやう・まつたう・さるP225
きよじを・ぢんじまをされたりければ・このうへは・にふだうちからおよばずとぞ・のたまひける・にふだうしやうごくの・いまだその
ころ・あきのかみたりしとき・いつくしまのだいみやうじんより・れいむかうふり・うつつに・たまはられたりける・しらえの
こなぎなた・つねのまくらを・はなたず・たてられたりけるが・にはかに・うせにけるこそ・ふしぎなれ・なかにも・かう
やのおやまに・おはしける・さいしやうのにふだうなりより・このよしを・つたへききたまひて・すはすは・へいけのうんめいは・すゑになり
ぬるは・なかにもざじやうに・おはします・じやうらふの・このほど・へいけに・あづけおきたる・せつどを・めしかへし・いづ
のくにのるにん・さきのうひやうゑのごんのすけよりともに・たばんと・おほせのわたらせたまふは・げんじのうぢがみ・しやう八まんだいぼさつ
にてぞ・わたらせたまふらん・またまつざに・おはします・じやうらふの・へいけのかたうど・したまふと・おぼしきを・おつ
たてらるると・みまをしたるは・へいけのうぢがみ・あきのいつくしまの・だいみやうじんにてぞ・わたらせたまふらん・いつくしまのだいみやう
じんは・しやからりうわうの・だい三のひめみや・たいざうかいのすゐじやくにて・によしんとこそ・うけたまはりつるに・さやうに・ぞくたいに
て・みえさせたまひけるこそ・ふしぎなれ・ただしこのおんかみは・三めい六つうを・えさせたまひたんなれば・もし・
さやうの・おんことにも・どうしんしたまへるに・こそと・ありがたかりし・おんことなり・うきよをいとひ・まことのみちに・
いるひとも・ぜんせいを・きいては・よろこび・なげきを・きいては・かなしめり・ふかきやまに・いりたまひしより
このかた・一かう・ごせぼだいの・つとめのほかは・たじやは・あるべきなれども・そのときより・をりにしたがふ・ならひと
て・かやうのことをも・のたまひけり・へいけ・よをとつて・廿一ねん・たのしみ・さかえは・むかしも・いまも・た
めし・すくなかりしことどもなり・されども・ほういつじやけんに・おはしければ・いまはせつどをも・めしかへさせたまふに・P226こそと・あはれなれし・ことどもなり
大場がはや馬(あひ) 504
おなじき九ぐわつニかのひ・とうごく・さがみのくにのぢうにん・おほばの三らうかげちかが・もとより・はやむまを・たてて・へいけへ・まをし
けるは・いづのくにのるにん・さきのうひやうゑのごんのすけよりとも・しうとほうでうの四らうときまさを・いんぞつして・つがふそのせい・五十
よき・さんぬる・八ぐわつ十七にちのよ・たうごくのもくだい・いづみのはんぐわんかねたかをやまきがたちにて・ようちに・しぬ・おなじき
二十かのひ・さがみのくにに・うちこえ・どひ・つちや・をかざきの・ものども・三百五十よきにて・いしばしのじやうに・たて
こもりさふらひぬ・おなじきニ十二にちに・かげちか・むさし・さがみ・二ケこくの・ぐんびやう・三千よきを・あひぐして・いしばしのじやう
におしよせ・さんざんに・せめたたかひさふらふほどに・よりとも・いくさに・うちまけ・しゆじう・七八きに・うちなされ・どひの・すぎ
やまに・にげかくれさふらひぬ・おなじき廿四かに・みうらのおほすけが一たう・五百よきにて・げんじがたす・はたけやま・五百
よきにて・ゆゐこつぼにて・かつせんす・はたけやま・いくさにうちまけ・むさしのくにに・ひきしりぞきさふらひぬ・なほ・はたけやま・はらを
たて・えど・かさい・しながはのものども・三千よきを・ひきぐして・おなじき廿六にちに・三うらきぬがさのじやうに・おしよせ・
さんざんにせめたたかひさふらふほどに・おほすけうたれさふらひぬ・こどもまごどもは・三百よきに・うちなされ・三うらくりばまよりふね
にとりのり・ひやうゑのすけが・あとをたづねてあはかづさへ・わたりぬとこそ・たてたりけれP227
朝敵揃 505
そのころふくはらに・さふらひける・へいけのさむらひども・このよしを・ききて・あはれさらば・げんじが・とうして・よせこよかし・
われうつてに・むかはんなんど・いふぞ・はかなき・そのころふくはらに・さふらひける・とうごくのだいみやうには・はたけやまの
しやうじしけよし・おととをやまだのべつたうありしげ・うつのみやのさゑもんともつななり・にふだうかれらをめして・のたまひけるは・なんぢらが
こども・とうごくに・あんなれば・げんじに・さだめて・どうしんするらん・なと・のたまへば・これらかしこまつて・まをしけるは・
ほうでうは・したしうなつてさふらへば・さやうの・おんこともやさふらふらん・そのほかのものどもは・まつたう・さなきよしを・
ちんじまをしたりければ・にふだうさらば・きしやうもんに・およぶべかしと・のたまへば・おのおのかしこまつてうけたまはり・くまののごわうを
まをしおろし・七まいのきしやうもんを・かいて・たてまつる・げにもと・まをすひともあり・いやいやこのこと・だいじにや・およばんず
らんと・ささやくものも・おほかりけり・にふだうかさねて・のたまひけるは・そもそもかの・ひやうゑのすけよりともと・いつぱ・さんぬ
るへいぢに・ちちよしともが・むほんによつて・いけどりに・せられ・すでにちうせらるべかりしを・こいけのぜんにの・を
りふし・のたまひしに・よつてこそ・しざいを・るざいに・しよするところなれ・いつしか・そのおんをわすれて・たうけに・
むかつて・ゆみを・ひき・いかでか・やをも・はなつべき・たうじこそ・わうゐもむげに・かるけれ・むかしは・
せんじを・むかへて・よみしかば・かれたる・くさきにも・ははり・はなさき・とぶとりも・したがひ・たてまつりたりしが・
むかしえんぎのせいだい・しんせんゑんに・ごかうなつて・いけの・みぎはに・さぎの・さふらひけるを・くらんどをめして・あP228
のさぎ・とつて・まゐらせさふらへと・おほせければ・くらんど・いかで・とるべきとは・おもひけれども・りんげんなれば・
まかりむかふ・さぎはね・つくろひを・して・たたんとす・くらんど・いかに・せんじぞ・まかりたつなと・い
はれて・さぎ・ひらみて・とびさらず・くらんどかれを・いだいて・おんまへへ・まゐりたりければ・みかど・なのめな
らず・ぎよかんあつて・なんぢが・せんじに・したがひ・まゐらせて・まゐりたるこそ・しんぺうなれ・やがて五ゐに・なせ
とて・五ゐに・なさる・けふよりのち・さぎのうちの・わうたるべしと・いふ・おんふだを・あそばして・さぎの・
くびにかけて・はなたせ・おはしましけり・まつたうこれは・さぎの・ごようには・あらず・ただ・わうゐの・
ほどを・しろしめされむが・ためなりき・それ・てうてきのはじめには・きのくに・なぐさのこほり・たかをのむらに・一のつちぐも
あり・あしてながく・みみじかく・ちからひとに・すぐれたり・じんみんおほく・がいせられしかば・くわんぐんはつかうし・
かづらの・あみを・むすびつつ・せんじを・よみかけて・つひにこれを・おほひ・ころす・しかつしより・この
かた・やしんを・さしはさむもの・おほいしのやままろ・おほやまのわうじ・おほともの・まとり・もりやのだいじん・そがの・い
るか・やまだ・いしかは・ぶんやのみやだ・おほやの・さゑもん・だざいのだいにひろつぐ・さだいじんながや・うだいじんとよなり・ゑ
みのだいじんおしかつ・いがみの・くわうぐう・さあらのたいし・たちばなのいつせい・ふぢはらの・ちうせい・たひらのまさかど・ふぢはら
のすみとも・あべのさだたふ・むねたふつしまのかみ・みなもとのよしちか・あくさふ・あくゑもんのかみに・いたるまでつがふそのれい・廿よにんなり・
されども・これらは・いつかは・そくわいを・とげたりし・かばねを・りようもんげんじやうの・つちにうづみ・かうべを・ごくもんに
かけられし・ものなりきP229
咸陽宮 506
とほくいてうの・せんじようを・とぶらふに・むかしえんの・たいしたんは・じんのしくわうていに・とらはれて・いましめを・かうぶ
ること・十二ねん・あるとき・たいしたん・しくわうていに・まをしけるは・われにしばらくの・いとまを・たまはれかし・わがふるさと
に・いちにんのらうぼあり・われほんごくにかへつて・いまいちどははを・みむと・まをしたりければ・しくわうてい・おほきに・あ
ざわらつて・なんぢに・いとまたばんこと・むまに・つのおひ・からすの・かしらの・しろくならむを・まつべしとぞ・のたまひける・
ときにたいしたん・てんに・あふぎ・ちにふして・ねがはくは・みやうけんの三ばう・かうかうのこころざしを・あはれませたまひて・むま
につのおひ・からすのかしらしろく・なしたまへ・われほんごくに・かへつて・いまいちど・ははをみむとぞ・いのりける・かの
めうおんだいしは・りやうぜんじやうどに・けいして・ふかうのつみを・いましめ・くしらうしは・だいたうしんたんに・いでて・ちうかうの
みちを・はじめたまふ・みやうけんの三ばう・かうかうのこころざしを・あはれませ・たまふことなれば・むまにつのおひて・きうちうに
きたり・からすのかしら・しろくなつて・ていぜんのきに・いたり・うとう・ばかくの・へんに・おどろき・りんげん・かへらざること
を・しくわうていおぼしめして・たいしたんを・ゆるして・ほんごくへこそ・かへされけれ・しくわうてい・たいしたんをゆるして・
ほんごくへ・かへされけることを・なほやすからず・おぼしめされければ・じんのくにと・えんのくにのさかひに・そこく
と・まをすくにあり・かのくににたいがあり・たいがのうへに・たかきはしあり・すなはちそこくの・はしとぞまをしける・しくわうていかしこ
へ・ひとをつかはして・たいしたんが・わたらんとき・おつべき・はかりごとを・めぐらされ・たりけるを・たいしP230
たんは・ゆめにもしらずして・わたるほどに・なじかは・よかるべき・なかのほどにて・おちに・けり・されども・みづ
にも・おぼれず・しさいなく・むかひのきしに・わたりつつ・たいしたん・おほきに・ふしぎの・おもひを・なし・うしろ
を・かへりみければ・おほきなる・かめの・かふにぞ・のつたりける・これもただ・かうかうの・こころざしの・ふかかりけるに・
よつてなり・たいしたん・これによつて・なほうらみをふくみ・しくわうていにも・したがはずかへつて・しくわうてい・うつべき・は
かりごとをぞ・めぐらしける・しくわうてい・四かいに・せんじを・くだし・たいしたんを・うつべき・はかりごとを・め
ぐらされたりければ・たいしたん・けいかだいじんを・はじめとして・つはものあまた・かたらはれけり・またここに・でんくわうせん
せいと・いへる・つはものあり・けいかかれが・もとにゆきて・かたらはれければ・せんせいがまをしけるは・きりんは千り
をとべりと・いへども・としおいぬれば・どばにも・おとれり・きみはこのみの・わかう・さかんなつし・ことを・
おぼしめして・かやうに・たのみおほせさふらふが・いかさまにも・べちのつはものを・かたらつて・たてまつらむとて・いでけれ
ば・けいか・かれが・そでをひかへて・あなかしこ・このことてんがに・もらしたまふなよと・いひければ・せんせい・
たちかへつて・なによりも・ひとに・うたがはれぬるに・すぎたるはぢはなし・われいはずとも・このこと・てんがに・も
れなば・さだめて・うたがはれなんず・ひとのくちより・もれぬさきに・こころやすう・おもひたまへとて・けいかが・
まえにて・じがいしてこそ・うせにけれ・またここに・はんよきと・まをすつはものあり・これはもと・じんのくにの・ものなりけ
るが・おや・をぢ・きゃうだいを・しくわうていに・ほろぼされて・えんのくにに・にげこもりたり・しくわうてい・四かいにせんじを・
くだして・はんよきが・かうべ・ならびにえんの・さしづもつて・まゐりたらむずる・ものには・五百こんの・きんをあたP231
ふべしと・ふれられ・たりければ・けいか・かれがもとに・ゆいて・われきく・なんぢが・かうべ・五百こんのきんに・
ほうぜられたんなり・まことになんぢ・しくわうてい・ほろぼすべき・こころざしならば・なんぢがかうべ・われにかせ・しくわうの・だいり
に・もつてゆき・えいらんを・へられんとき・つるぎをむねに・ささんは・やすかるべしと・いひければ・はんよき・
をどりあがり・いきをついて・まをしけるは・われ・おや・をぢ・きゃうだいを・しくわうわていに・ほろぼされ・よるひる・これを・おも
ふに・こつずゐに・とほつて・しのびがたし・まことに・なんぢしくわうてい・ほろぼすべきこころざしならば・わが・くび・なんぢに・あたへ
んこと・ちりはひよりも・なほ・やすかるべしとて・けいかがまへにて・みづから・くびかきおとし・うせに・けり・また
ここに・しんぶやうと・まをすつはものあり・これももとは・じんのくにの・ものなりけるが・十三のとし・おやの・かたきをうつて・
えんのくにに・にげこもりたり・かれが・いかつて・むかふときは・だいのをとこも・ぜつじゆし・またわらうて・むかふときは・み
どりごも・いだかれけり・かれに・はんよきが・くびを・もたせ・わがみは・えんのさしづの・いりたりける・
ひつを・もつて・じんのくにへぞ・むかひける・さうてん・ゆるしたまはねば・はつこう・ひをつらぬいて・とほさず・され
ば・わがほんい・とげがたしとぞ・たいしたんは・のたまひけるほどなう・じんのくににいたりぬ・はんよきが・かうべならびに・
えんのさしづ・もちて・まゐりたるよしを・そうもんす・しくわうてい・ひとして・うけとらむと・のたまへば・ひとしては・かな
ふまじ・ただちに・たてまつるべきよしを・まをしたりければ・しくわうてい・さらばとて・にはかに・せちゑのぎを・ととのへて・
えんの・つかひをぞ・めされける・かんやうきうと・まをすは・みやこのめぐり・一万八千三百七十よりと・かや・だいりをば・
ちより・三りたかく・つきあげ・くろがねのついぢ・たかさ百よぢやう・はう四十りに・つかせ・そのうちに・つくられP232
たり・あきは・たのむのかり・はるは・かならず・みやこより・こしぢへかへる・ものなれば・ひぎやう・じざいの・さはり
ありとて・ついぢには・がんもんと・いへるもんを・あけてぞ・とほされける・しろがねをもつて・つきを・つくり・
こがねを・もつて・ひを・つくれり・しんじゆのいさご・るりのいさご・こがねのいさごを・しきみてり・ちやうせいでんあり・ふらうもんあり・
四十八でんの・そのうちに・しくわうていの・つねに・すまれける・でんあり・あはうきうとて・くち・六しやくの・あかがねのはしらを・たか
さ・卅六ぢやうに・たてさせ・とうざいへ九ちやう・なんぼく五ちやうに・つくられたり・おほゆかのしたには・五ぢやうの・はたほこ
を・たてたれども・なほ・およばぬ・ほどなり・かしこに・たまの・きざはし・あり・しんぶやう・これを・のぼる
ほどに・おくしてもや・ありけん・ひざのふし・わなわなと・ふるつて・のぼり・わづらふ・しんか・あやし
みを・なし・ぶやうは・むほんのこころざし・あり・きみはけいじんに・ちかづかず・けいじんをば・また・きみのかたはらに・おか
ずと・いひければ・けいかたちかへつて・ぶやうは・むほんのこころざしなし・えんのくにの・いやしきに・ならつて・かかる
くわうきよを・はじめて・みるあひだ・めいわくすと・いはれて・しんか・おのおのしづまりぬ・そののち・はんよきが・かう
べならびに・えんのさしづともに・ひけんせらる・さしづの・いりたりける・ひつのそこに・つるぎの・こほりなんどの・やうに
て・みえければ・しくわうてい・おほきに・おそれをののいて・いそぎ・にげんと・したまひけるを・ぎよいの・たもとを・
むんずと・ひかへたてまつつて・つるぎを・むねにさしあて・たてまつる・すでに・かうとぞ・みえたりける・千万のつはものども
ていじやうにひざをつらねけれどもすくはんとするに・ちからなし・ただこのきみ・ぎやくしんに・をかされたまはんことを・
かなしみけりとぞ・うけたまはる・しくわうていは・三千にんの・きさきを・もちたまへり・そのなかにも・くわやうぶにんとて・ならびなP233
き・ことのじやうずにて・ましましけり・しくわうてい・けいかにむかつて・のたまひけるは・われにへんしのいとまをえさせ
よ・さいあいのきさきの・ことのねを・いまいちど・きかんと・のたまへば・けいかゆるしたてまつる・きさきは・七しやくのびやうぶを・へ
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り・とぶとりも・おち・くさきも・なびくばかりなり・いはんやけふをかぎり・ただいまばかりの・えいぶんに・そなへむと・し
らべましましければ・さこそは・おもしろかりけめ・けいかも・ぼうしんの・こころうしなひはて・かうべをうなだれ・みみ
を・そばだてて・これをきく・そのとききさき・はじめて・一きよくをそなふ・七しやくのびやうぶはたかくとも・をどらば・こえぬべ
し・一ぢようの・らこくは・つよくとも・ひかば・たえぬべしと・しらべ・ましましけるを・けいかは・これをきき
しらず・しくわうていは・ききしつて・ましましければ・ひかへたりける・ぎよいの・たもとを・ふつつと・ひきちぎ
つて・七しやくのびやうぶを・をどりこえ・あかがねのはしらの・かげに・かくれたまふ・けいか・おほきに・いかつて・つるぎを・なげ
かけたてまつる・をりふし・おんまへにばんのいしの・さふらひけるが・くすりのふくろを・なげかけたり・つるぎくすりのふくろを・かけられなが
ら・くち六しやくの・あかがねのはしらを・なからまでこそ・きつたりけれ・けいかは・つるぎの・あまたもなければ・つづい
ても・なげず・しくわうてい・たちかへり・ひしゆとまをす・ぎよけんを・めしよせて・けいかを・やつざきにこそ・したまひけ
れ・しんぶやうも・うたれにけり・そののちうつてをつかはして・たいしたんをも・ほろぼさる・むかしもいまも・おんをわす
れ・ちぎりをへんぜしものは・つひには・かくこそ・ありしか・さればいまの・ひやうゑのすけも・さこそは・あらんずら
むと・しきだいするひとも・おほかりけりP234
文覚の勧進帳 507
そもそもかのひやうゑのすけよりともといつぱ、おんとし十四とまをしし、えいりやくぐわんねん三月廿日のひ、いづのくにほうでうひるがしまにながされて、
廿よねんのはるあきをおくり、ことしはすでに卅四にぞなられける。としごろひごろもあればこそありけれ、いかなれば
ことししも、かかるむほんをおもひたたれける、ゆゑをいかにとまをすに、ごにちにきこえしは、たかをのもんがくしやうにんの
おんすすめなりけるとぞきこえし。このもんがくしやうにんとまをすは、わたなべのゑんどうさこんのしやうげんたいふもちとほがこに、ゑんどうむしやもり
とほとて、じやうさいもんゐんのしゆなり。しかるにもりとほ十九のとし、あさからずおもひけるをんなにおくれ、けんごのだうしんおこ
して、やまやまてらでらしゆぎやうしけるが、あるときおほみねをぎやうぜばやとおもひ、せんだちかたらうてくまのへまゐり、なちに千
にちこもり、おほみねことゆゑなうぎやうじてのち、さすがこきやうやこひしかりけむ、みやこにのぼり、たかをとまをすところにしばら
くおこなひてぞさふらひける。せんねんたかをに、じんごじとまをすやまでらあり。ひさしくしゆざうなくしてあれはいせり。とびらはかぜに
たふれて、むなしくおちばのしたにくち、のきばはあめにをかされて、ぶつだんさらにあらはなり。もんがくわれたまたまにん
げんにしやうをうけ、さいはひにしゆつけとんせいのみとなれり。あたらしうだうたふをたてんより、ふるきをこんりふしたらむに
はしかじと、たいきやうにもみえたり。せんずるところしゆざうせばやとおもひ、くわんじんちやうをかきて、十ぱうだんなをすすめあ
りきけるが、あるときゐんのごしよほうぢうじどのにまゐり、ほうがのよしをまをしければ、ひとびとけうなるひじりのごばうかな、ぎよいうの
をりふしぞ、わたるにまゐれとおほせければ、もんがくこれはまをせどもひとがそうせぬぞとこころえて、もとよりふてきだい一のあらP235
ひじりにてはさふらひけり。おんつぼのうちにやぶりいつて、だいじだいひのきみにてわたらせたまへば、などかごほうがのな
かるべきとて、ふところよりくわんじんちやうをおつとりいだし、おそろしげなるこゑをもつて、たからかにこそよみたりけれ。
しやみもんがくうやまつてまをす、ことにはじうばうだんなのごじよじやうをかうぶつて、たかをさんのいちに一ゐんをこんりふし、げんたうニ
せあんらくのだいりを、こんぎやうせしめんとこふくわんじんのじやう。
それおもんみれば、しんによくわうだいなり。しやうぶつのけみやうをたつといへども、ほつしやうずゐまうのくもあつくおほひて、はるかに十二いんえんのみね
にたなびきしよりこのかた、ほんうしんれんのつきのひかりかすかにして、いまだ三どく四まんのそらにあらはれず、かなしいかな、
ぶつじつはるかにぼつして、しやうじるてんのちまたみやうみやうたり。いろにふけり、かにほこる、たれかきやうざうてうゑんのまどひを
しやせん。ひとをばうしほふをばうす、あにえんらごくそつのせめをまぬがれんや。ここにもんがく、たまたまぞくぢんをはらひて、
ほうえをかざるといへども、あくぎやうなほこころにたくましくしてにちやにうつり、ぜんいんまたみみにさかつててうぼにすたる、いたましいかな、ふたたび
さんづのくわきようにかへつて、かさねてしやうじのくりんをめぐらんことを、このゆゑにむにのけんしやう千万ぢく、ぢくぢくにぶつしゆの
いんをあらはし、ずゐえんししやうのほふ、みなもつてぼだいのひがんにいたらずといふことなし。ゆゑにもんがくむニのくわんもんになみだをおとし、
じやうげしんぞくのけちえんをもよほし、じやうぼんれんだいにふをはげまして、とうめうかくわうのれいぢやうをたてんとなり。それたかをさんは、やま
うづたかうしてしゆぶのやまのこずゑをまなび、たにしづかにしてしやうさんとうのこけをしく。がんせんむせんでぬのをひき、れいゑんさけんでえだ
にあそぶ。じんりとほくしてがうぢんなく、しせきことなうしてしんじんのみあり。ちけいすぐれたり。もつともぶつてんをあがむべ
し。ほのかにきくしゆさゐぶつたふくどく、たちまちにぶついんをかんず、いはんやいつしはんせんのほうさいにおいてをや。ねがはくはこんりふじやうじゆして、きんP236
けつほうれきごぐわんゑんまん、ないしとひゑんきんりんみんしんそ、ともにげうしゆんぶゐのくわをうたひ、ちんえふさいくわいのゑみをひらか
ん。かねてまたしやうりやういうぎぜんごだいせう、ともにいちぶつしんもんのだいにいつて、おなじく三(イ三身)万とくのつきをもてあそばんや。
よりてくわんじんしゆぎやうのおもむきけだしもつてかくのごとし。
ぢしよう三ねん三ぐわつ廿かのひ もんがくほうし
うやまつてまをすとぞよみあげたる。
文覚の流され 508
さるほどに・ほうぢうじどのには・めうおんゐんのだいじやうだいじんもろなが・びは・かきならし・あぜちのだいなごんすけかたのきやう・ひやうしを
うちて・ふぞく・さいばら・うたはれけり・げんせうしやうまさかた・わごんを・しらべ・四ゐのじじうもろさだ・いまやう・と
りどりに・うたうて・たまのすだれも・れいれいと・してまことに・おもしろかりければ・ほうわうも・ぎよかんのあま
り・おんつけうたなんど・さふらひけるに・それに・もんがくが・もつてのほかおほごゑに・てうしも・はやことごとくみだれぬ・ほう
わう・あれなにものぞ・らうぜきなり・つゐほうせよと・おほせくださるる・ほどこそありけれ・あはれなにごとかな・ことにあはば
やと・おもふ・はやりうの・ものども・はしりよりて・いかに・けうのひじり・ぎよいうのをりふしぞ・ごにちにまゐれと・おほせけれ
ば・もんがくあなことごとし・たかをのじんごじに・おいて・くににても・しやうにても・いつしよ・よせたまはざらんほか
は・まつたうまかりいづまじとぞ・まをしける・そののち・すけゆきはんぐわんは・もんがくが・そくび・つかんとて・よりけるを・もんP237
がくくわんじんちやうをば・ひだりのてに・おつとりなほし・みぎのかひなを・さしいだし・すけゆきはんぐわんが・ゑぼしを・う
つてうちおとし・むねを・ばぐと・ついて・のけに・つきたふす・すけゆきはんぐわんは・もんがくに・ゑぼし・うちおと
され・をめをめと・なりて・おほゆかのうへへぞ・にげ・のぼりける・そののち・もんがくは・むまのをにて・つかまいたる・
かたなの・そのたけ・七すんばかり・ありけるが・よそよりは・こほりなんどの・やうに・みえけるを・ぬきもつて・
よりくるもの・あらば・つかんとこそは・まちかけたれ・もんがく・ひだりのてには・くわんじんちやうをもち・みぎのてに
は・かのかたなを・もつて・はしりありきければ・おもひもかけぬ・にはかごとにては・さふらひけり・ひとめにはただ・さ
うのてに・かたなをもつたる・やうにぞ・みえし・ほうわうも・えいりよを・おどろかさせ・おはします・わかき・く
ぎやうでんじやうびとや・つぼねのにようばうたちに・いたるまで・こは・いかなるべしとも・おぼえさせたまはず・ここにしなののくに
のぢうにん・あんどうみぎむねが・たうしよくにて・むしやどころに・さふらひけるが・たちを・ぬいて・つつといで・くわんじんのひじりを・
きつては・せんなしとてや・おもひけん・もんがくが・かたなもちたるかたの・かひなを・たちのみねにて・かたかけて・
したたかにうつ・うたれてひるむところを・たちをなげすて・はしりかかつて・むずとだく・もんがくは・だかれな
から・みぎむねが・かひなをぞ・ついたりける・みぎむねは・つかれながらぞ・しめたりける・もんがくもつよし・
みぎむねも・つよかりければ・たがひに・うへになり・したになり・ころびあふところを・ここかしこへ・にげ・ちり
たりつるものども・わが・かうみやうがうに・ちぎりき・さいぼうを・もつて・より・もんがくが・はたらくところの・
ぢやうを・さんざんに・がうしてんげり・されどももんがくは・ちつとも・いろもへんぜず・わるびれたる・けP238
しきも・なく・ゐをり・いよいよあくこう・ほうごんをぞ・しける・たとひほうがをこそ・したまはざらめ・これほどに・
くわんじんのひじりに・からきめを・みせたまひぬれば・たんだいま・おもひしらせ・まをさんずるものを・三がいは・
みなこれくわたくなり・わうぐうとても・のがるべからず・たとひいまこそ・十ぜんのていゐに・ほこつたうとも・くわうせんのたびに・
おもむきたまひなんのちは・ごづめづのせめをば・よにし・まぬがれたらじものを・まぬがれたらじものをと・をどりあがりをどりあがりぞ・
まをしける・そののちもんがくをば・ちやうのものに・たぶちやうのもの・たまはつて・七八にんが・なかに・ひつたてて・いでけるが・
ちやうのものどもは・もんがくを・ひつたてて・いづると・おもひけれども・ひとめには・ただ・ちやうのものどもが・もんがくに・ひ
つたてられて・いづるとぞ・みえし・もんがくをば・やがて・ごくぢやうせらる・そののち・すけゆきはんぐわんは・もんがくに・ゑぼ
し・うちおとされ・めんぼくなくや・おもひけむ・しばしは・しゆつしも・せざりけり・あんどうみぎむねは・もんがくに・くみ
たる・けんしやうに・たうざに・一らふを・へずして・うまのじようにぞなされける・そのころ・びふくもんゐん・にはかに・
かくれさせ・たまひしかば・もんがく・やがて・ごくをば・いだされけり・もんがくなほも・こりぬさまにて・またくわんじん
ちやうをかいて・十ぱうだんなを・すすめ・ありきけるが・へいけのひとびとの・あたり・とほると・おぼしきときは・
あつぱれ・てうおんに・ほこりたる・へいけのひとびとの・たんだいま・よのみだれ・いできて・うせはてに・あはう
ずるものを・あはうずるものをと・かやうに・のろのろしきことを・いひ・ありきければ・すべて・このほうし・みやこの・うちに
は・かなふまじ・さらば・をんるせよやとて・いづのくにへぞ・ながされける・これぞ・へいけのうんの・きはめ
なる・かいだうは・かなふまじ・ふねにのせて・くだせやとて・いせのくに・あののつより・ふねに・のせて・くだP239
すほどに・とほたふみのくに・てんりうなだ・九十九ひきのこまがた・なんどまをす・あくしよを・すぎゆくほどに・をりふし・おほかぜおほなみたつ
て・ふねすでに・じゆかいせんとす・すゐしゆかんどりども・ろ・かき・かぢを・たてなほせども・かなはず・あるひは・くわんおんの
みやうがうを・となへ・あるひは・さいごの・十ねんに・およびけれども・もんがくは・ちつとも・さわがず・ふなぞこに・ざぜんしてこ
そ・ゐたりけれ・すゐしゆかんどりども・いかに・ひじりのごばう・これほどに・おほかぜおほなみ・たつて・ふねすでに・じゆかいせん
と・するに・などきやうをもよみ・ねんぶつをも・まをして・りうじんに・たむけ・いのちたすからんとは・おもひたまはぬぞ
と・いひければ・もんがくげにもとや・おもひけん・かつぱと・おきなほり・ふなばたに・あゆみいで・だいのまなこに・
かどをたて・うみのおもてを・はつたと・にらまへて・いかにりうわうやある・いかにりうわうやある・これほどに・だいぐわん・おこ
したる・ひじりを・いかで・しづめて・みんとは・するぞ・たんだいま・てんのせめ・かうぶらんずる・りうじんどもかなと・
よばはつ・たりければ・りうじんこのことばにや・おそれけん・なみかぜしづまつて・ことゆゑなく・いづのくににぞ・つきにけ
る・もんがくだいぐわんを・おこすことあり・われふたたび・みやこにのぼり・たかをのじんごじを・しゆざうすべくば・しぬまじ・さ
らずば・しぬべしとて・みやこを・いでしひよりして・いづのくにに・つくまで・二十一にちがあひだは・ゆみづを・だにも
のみいれず・だんじきしてこそ・くだりけれ・されどもきりよくすこしも・おとろへず・ざぜん・ぎやうほふをも・おこたらず
して・いづのくににぞ・つきにける・そのほか・ただびとならずと・おもふことども・おほかりけり
福原院宣 509 P240
さるほどに・もんがくをば・たうごくのざいちやう・こんどう四らうくにたか・うけとつて・なごやがをかにぞ・おきたりける・それよ
りひやうゑのすけの・おはするところも・ほどちかかりければ・つねはよりあひ・きやう・ゐなか・むかし・いまのことどもを・かたりあ
はせて・たがひに・なぐさめあはれけり・あるとき・もんがく・ひやうゑのすけに・まをしけるは・へいしには・こまつどの・ばかりこそ・
おんこころも・がうにごさいかくも・ゆゆしう・わたらせたまひたりしかども・それも・へいけのうんめいを・はかつて・きよねんの
八ぐわつに・こうじたまひぬ・いまは・げんぺいりやうけのうちを・みるに・ごへんほど・しやうぐんのさう・もちたるひとも・おはせぬ
ぞ・はやはやおもひたつて・へいけをほろぼし・につぽんのしやうぐんとならむとは・おもひたまはずやと・いひければ・
ひやうゑのすけ・それおもひも・よらぬことなり・そのゆゑは・さんぬる・へいぢに・いけどりに・せられて・すでに・ちうせらる
べかりしを・こいけのぜんにに・いのちたすけられ・まゐらせしのちは・まいにち・ほけきやうを・二ぶようで・一ぶをば・
ぶもけうやう・一ぶをば・かのぜんにのために・たむけたてまつるよりほかは・またたじなしとぞ・のたまひける・もんがくかさねて・まをし
けるは・てんのあたふるを・とらざれば・かへりてそのとがめを・うけ・ときいたつて・おこなはざれば・そのわざはひを・う
くといふ・ほんもんあり・ごへんに・こころざしの・あり・なきをば・これにて・よく・しりたまへとて・ふところより・ぬののふくろ
に・いれたる・しやれたる・かうべを・なげいだし・ひやうゑのすけにたてまつる・ひやうゑのすけ・あれは・いかにとのたまへば・これこそ・
ごへんのちち・こさまのかうのとのの・おんくびよ・さんぬる・へいぢに・ごくしよのへんに・うづもれて・おはしけるを・
もんがくあまりの・いたはしさに・ほりおこし・たてまつつて・この二十よねんがあひだみを・はなたず・とぶらひたてまつりぬれば・
いまはさだめて・一ごふも・うかびたまひぬらむ・されば・もんがくは・こさまのかうのとのの・おんためには・ほうこうのものにP241
て・さふらふものをなんど・やうやうに・まをしたりければ・ひやうゑのすけ・これを・まこととは・おもはれざりけれども・ちちの
くびと・きくが・なつかしさに・ひだりのそでに・うけとつて・まづ・なみだをぞ・ながされける・それよりしてぞ・
むほんをば・やうやう・おもひたちたまひける・そののち・ひやうゑのすけ・のたまひけるは・たとひさやうのこと・おもひたつとも・
ちよくかんを・ゆるされ・まゐらせずしては・いかがあるべきと・のたまへば・もんがく・それは・われみやこにのぼり・まをして・
ゆるしたてまつらん・ひやうゑのすけ・おほきに・あざわらつて・ごへんも・るにんのみとして・ひとのちよくかんを・まをして・ゆるさ
んと・のたまふこそ・おほきに・まことしからねと・のたまへば・もんがく・やらそれは・わが・ゆりんと・まをさば
こそ・ひとの・ちよくかんを・まをして・ゆるしたてまつらむは・なじかは・くるしかるべき・これより・ふくはらのしんとへ・
三か・ゐんぜん・うかがはんに・一にち・じやうげ・七か八かには・よもすぎじ・あひかまへて・そのあひだは・まちたまふべしと
て・させる・りやうじやうは・なけれども・もんがく・ばうにかへり・でしどもに・あうて・かたりけるは・われ・いづ
のおやまに・七かさんろうのこころざしあり・たとひひと・たづぬるとも・あひかまへて・このよしかくと・かたるべからずとて・おひを・かけ・
ばうをいで・よをひについで・のぼるほどに・三かとまをす・とりのこくばかりに・ふくはらのしんとに・のぼりつき・うひやうゑの
かみみつよしの・もとに・いささか・ゆかりありければ・もんがく・かしこにおちつき・みつよしにあうて・かたりける
は・いづのくにのるにん・さきの・うひやうゑのごんのすけよりともこそ・ちよくかんを・だにも・ゆるされ・まゐらせば・へいけを・
ほろぼさんと・まをせなんど・かたりければ・みつよし・たうじは・きみも・へいけに・おしこめられさせたまひて・
つきひのひかりを・だにも・はかばかしう・ごらんぜず・みつよしも・三くわんともに・おしとどめられて・こころぐるP242
しき・をりふしなりとは・のたまへども・もんがくかさねて・まをしければ・みつよしおんまへに・まゐり・このよしを・そうし・まをされた
りければ・ほうわう・なのめならず・ぎよかんなつて・やがてゐんぜん・あそばしてぞ・たうだりける・もんがく・ゐんぜん・
たまはつて・なのめならず・よろこび・またよをひについで・くだるほどに・ひやうゑのすけ・あはれ・このひじりの・なまじひなること・
まをしいだし・またいかなる・うきめにか・あはんずらむ・なんど・おもはじなき・こともなう・あんじつづけて・お
はしける・七かとまをす・いぬのこくばかりに・もんがく・いづのくにに・おちつき・たまひて・くは・やとの・ひやうゑのすけ・ゐんぜんよ・
とてなげいだす・ひやうゑのすけ・ゐんぜんときくが・かたじけなさに・あたらしき・じやうえをき・てうづ・うがひして・
そののちかのゐんぜんをぞ・ひらかれける・そのじやうに・いはく
へいし・わうくわを・べちじよして・せいだうにはばかることなし・それわがてうは・しんこくなり・そうべう・あひならむで・じんとくこれあら
たなり・ゆゑに・てうていかいきののち・す千よさいのあひだ・ていゐを・かたぶけ・こくかを・あやぶめんと・せしもの・
みなもつて・はいぼくせずと・いふことなし・これによつて・かつは・しんだうのみやうじよに・まかせ・かつは・ちよくせんの・しいしゆに・
まかせて・はやく・へいじの・いちるゐを・ほろぼして・てうのをんてきを・しりぞけて・ふだいきうせんの・ひやうりやくをつぎて・みを
たて・いへを・おこすべし・てへりゐんぜん・かくのごとく・よりてしつぴつくだんのごとし
ぢしよう四ねん・七ぐわつ九かのひ・うひやうゑのかみみつよしが・うけたまはりたてまつりてひやうゑのすけどのへとぞ・あそばされたる
富士川合戦 510 P243
そののち・かのゐんぜんをば・にしきの・ふくろにいれて・いしばしの・かつせんのときも・ひやうゑのすけの・くびに・かけられけるとぞ・きこ
えし・さるほどに・ふくはらには・さらばまづ・とうごくへ・うつてを・むけよやとて・たいしやうぐんには・こまつのごんのすけ
せうしやうこれもり・ふくしやうぐんには・さつまのかみただのり・さぶらひたいしやうには・かづさのかみただきよ・ちやくしたらうはんぐわんただつな・ひだのかみかげいへ・その
こたいふのはんぐわんかげたか・かはちのはんぐわんひでくに・たかはしのはんぐわんながつな・いとう九らうすけうぢ・またのの五らうかげひさ・むさしの三らうさ
ゑもんありくに・ながゐのさいとうべつたうさねもりを・さきとして・つがふそのせい・三まんよき・おなじき九ぐわつ十八にちに・ふくはらをたちて・
あくる十九にちに・きうとに・つき・おなじき二十かのひ・とうごくへ・はつかうせられけり・なかにも・こまつのごんのすけせう
しやうこれもりは・しやうねん・廿三に・なられけるが・ようぎ・たいはい・よに・すぐれむまくら・もののぐにいたるまで・あた
りも・てりかがやくほどにぞ・みえられける・そのほか・われもわれもと・いでだたれ・たりし・ありさま・めづらし
かりし・けんぶつなり・せんぢやうへ・むかふ・たいしやうぐん・三のそんちあり・せつとを・たまはるとき・いへを・わすれ・いへをいづ
るとき・つまこを・わすれ・かたきと・たたかふとき・みをわするると・いふほんもんあり・このひとびとも・さこそは・
おもはれけめと・あはれなり・なかにも・ふくしやうぐん・さつまのかみただのりの・ねんらい・かようて・あそばされける・みやばらの
にようばうの・もとより・こそでをひとかさね・おくられけるが・千りのなごりを・をしみつつ・一しゆのうたをぞ・おくられける・
あづまぢのくさばをわけてそでよりも・たたぬたもとはなほぞつゆけき
ただのりの・へんじには
あづまぢをなにとなげかんこえてゆく・せきをむかしのあととおもへば・P244
せきをむかしのあととおもへばと・よめるうたのこころは・このひとびとの・せんぞ・へいしやうぐんさだもり・さうまのまさかど・つゐたうのために・とう
八ケこくへ・こえられたりしこころを・おもひいでてや・よまれたりけむ・いと・やさしうぞ・きこえし・てうてきを・
たひらげに・ぐわいとへ・むかふしやうぐんは・まづ・さんだいして・せつたうを・たまはるものなれば・しゆじやう・しんぎなんでんに・
しゆつぎよなつて・ないべんぐわいべんのくぎやう・さんれつして・ちうぎのせちゑを・おこなはる・しようへいてんぎやうの・しようせきも・としひさし
くして・なぞらへがたし・これは・ほりかはのてんわうのおんとき・さぬきのかみまさもりが・いまだいなばのかみ・たりしとき・つしまのかみ・
みなもとのよしちか・つゐたうのために・いづもへ・げかう・したりしれいとて・すずばかりを・たまはつて・かのふくろに・いれざふ
しきがくびに・かけさせてぞ・くだられける・さるほどに・へいけは・ここのへのみやこを・たちて・のはらのつゆに・やどをか
り・たかねの・くもに・たびねして・やまを・かさね・かはをへだてつつ・やうやう・くだりたまふほどに・十ぐわつ十六
にちには・するがのくに・きよみがせきにぞ・つきたまひける・ろじのつはもの・かりぐして・つがふそのせい・七万よき・せんぢん
は・ふじかは・かんばらに・ささへければ・ごぢんは・いまだ・てごしうつのやまにこそ・みちみちたれ・つぎのひ・
せうしやう・さぶらひたいしやう・かづさのかみただきよを・めして・おなじうは・あしがらを・うちこえ・八ケこくに・ついて・かつせん・せばや
と・おもふは・いかが・あるべきと・のたまへば・かづさのかみ・かしこまつて・まをしけるは・とうごくは・くさもきも・みな・
ひやうゑのすけに・したがひ・つきて・さふらへば・およそ・二三十まんきに・おとることは・さふらふまじ・みかたはわづかに・七万よき
とは・まをせども・あるひは・ざふひやう・あるひは・くにぐにの・かりむしやどもにて・ながたびに・せめつかれては・いかにも・
かなひさふらふまじ・ただこのたびも・やまを・まへにあて・かはをへだてて・みかたのおんせいを・またせたまふ・べうもや・さふらふらP245
んと・まをしたりければ・このうへは・せうしやうも・ちからおよびたまはず・なかにも・ふくしやうぐん・さつまのかみただのり・あはれひとの
こころの・のびたるほど・くちをしかりける・ものあらじ・にふだうの・いま一にちも・さきに・うつてを・むけられたらんに
は・おほばや・はたけやまが一たうは・まつさきに・こそまゐらんずれ・これほどに・こころうきことあらじとぞ・のたまひけ
る・そののち・せうしやう・とうごくのあんないしやに・めしぐせられたりける・ながゐのさいとうべつたうさねもりを・めして・とうごくに・
なんぢほどの・おほやいるものは・いかほどあるぞと・のたまへば・さねもり・おほきに・あざわらつて・きみは・さねもりをも・おほ
や・いるものと・おぼしめされさふらふか・わづかに・十三ぞくをこそ・つかまつりさふらへ・とうごくに・おほやと・まをすぢやうのものの・
十五そくに・おとつて・ひくは・さふらふまじ・ゆみは・三にん・五にんして・おしかかる・おほゆみ・おほやを・もつて・
つかまつりさふらへば・よろひの・二三りやうは・かけず・とほりさふらふ・とうごくに・だいみやうと・まをすぢやうのものの・五百きに・
おとつて・つるるは・さふらふまじ・むまをのるに・おつることを・しらず・あくしよを・はするに・むまを・たふさず・
さいこくぶし・きないのつはものどもこそ・おや・うたれさふらへば・こは・ひきしりぞき・いみ・あひて・よせ・こ・うたれ
さふらへば・おやは・ひきしりぞき・けうやうしては・よせさふらへ・とうごくには・すべて・そのぎさふらふまじ・おやうたれんと・すれ
ば・こは・さきに・しなんと・すすみ・しううたれんとすれば・いへのこ・らうどうは・さきにしなんと・すすみ
さふらふ・おやも・うたれよ・こもうたれよ・しにんを・のぼりこえのぼりこえ・たたかうさふらふ・かひ・しなのの・げんじ・やま
のあんないは・しつたり・からめてさだめて・まはりさふらふらん・ことにげんじは・ようちを・このみさふらふ・かやうに・まをせばとて・
きみを・おくせ・させ・まゐらせんとには・さふらはず・いくさは・せいにはよらず・はかり・ごとによると・むかしよP246
り・まをしつたへてさふらへば・よくよくごようじん・あるべしと・かやうに・おびただしげに・まをしたりければ・へいけのつはものども・
みないろを・うしなつてぞ・ふるひける・さるほどに・かまくらの・ひやうゑのすけよりともは・おなじき十八にちに・十八まんきに
て・あしがらを・こえ・たまふ・かひげんじ・なんぶ・たけだ・をがさはら・一まんきにて・ふじのこしを・つたうて・ひやうゑの
すけと・一になる・しなのげんじ・おほうち・ひらが・きそのくわんじや・これも・一まんよきにて・ひやうゑのすけと・一つになる・
げんじほどなく・廿万きに・なりにけり・おなじき廿かのひ・げんじ廿万き・ふじかはのはたに・うちいで・むかひのきしに・
ぢんをとる・げんぺいたがひに・かはをへだてて・ささへたり・おなじき廿三にちの・うのこくに・げんぺいたがひに・やあはせと
ぞ・さだめてんげる・へいけのかたには・このよしをきいて・いくさは・こんみやうのほどにては・よもさふらはじ・いざやたびの
なごりを・をしまんとて・そのへんちかき・しゆくじゆくより・いうくん・いうぢよども・よびむかへ・あるひはえびらをといて・まくらとし・
あるひは・かぶとをふせて・まくらとし・ぜんごも・しらずぞ・うちとけたる・ながゐのさいとうべつたうさねもり・このよしをみて・ゆく
すゑ・たのもしからずや・おもひけん・またいへのなを・をらじとや・てぜい五十よきを・ひきわけて・さき
に・きやうへぞ・のぼりける・せうしやう・こは・いかに・さねもりが・なきところにては・いくさは・せられぬことかとぞ・のたまひ
ける・さるほどに・げんぺいたがひに・やあはせと・さだめてんげる・そのよのやはんばかりに・ふじぬまに・いくらも・むれゐ
たりける・すゐてうどもが・なににかは・おどろきたりけむ・千万・たつ・はおとの・おほかぜおほなみ・なんどの・やうに・
きこえければ・へいけのつはものども・このよしを・きいて・あはや・さねもりが・いひつる・やうに・げんじは・ようちこ
のみと・きくに・あはせて・ただいま・よせたるに・こそわれら・ぶあんないなり・これにて・とりこめられては・かP247
なふまじ・すのまた・あじかを・ふせげや・とて・われさきにとぞ・のぼりける・あまりに・あわてたるものどもは・
ゆみ一ちやうに・二三にん・たち一ふりに・一二にん・とりつき・わがよ・ひとのよと・うばひやう・なほも・あわてたる
ものどもは・つなぎむまに・のつたりければ・うてどもうてども・ただ・くひを・のみこそ・まはりけれ・なほも・あ
わてたるものどもは・さかさまむまに・のつたりければ・ぬしは・にしへと・こころざせば・むまは・ひんがしへ・
はしるも・あり・そのへんちかき・しゆくじゆくより・いうくん・いうぢよども・よびむかへ・たりければ・かかるさうだうに・
あるひは・こし・ふみぬかれ・あるひは・かしらふみわられ・をめき・さけぶ・ありさま・をかしかりしことどもなり・
おなじき廿三にちの・うのこくに・げんじ廿万き・ふじかはのはたに・うちいで・ときをどつとつくつたりけれども・へいけの・
かたには・しづまり・かへつておとも・せず・ひやうゑのすけ・おほきに・ふしぎのおもひをなし・ひとをつかはして・み
せられければ・へいけはおちて・さふらはずとまをす・あるひは・よろひわすれてさふらふ・あるひは・かぶとわすれてさふらふ・あるひは・おほまくわすれ
てさふらふ・あるひは・えびらわすれてさふらふとて・てんでに・もつてまゐる・ひやうゑのすけわうじやうのかたを・ふしをがみ・これより
ともが・ゐせいに・あらず・うぢがみ八まんだいぼださつの・おんはからひにてぞ・わたらせたまふらん・やがて・つづいて
も・せむべけれども・あとのことも・おぼつかなければ・とて・それよりかまくらへこそ・かへられけれ・へいけは・た
だにげにして・きやうへのぼる・そのへん・ちかきしゆくじゆくのものども・このよしをみて・むかしより・みにげと・いふことは・あ
れども・ききにげと・いふことは・いまだなし・せんぢやうへ・むかふ・たいしやうぐん・やひとつを・だにも・いすてず・
にげのぼる・ゆくすゑとても・たのもし・からずさよとぞ・まをしける・なかにも・かづさのかみただきよが・ふじかはによろひわすP248
れたりければ・ただきよが・ただをとつて
ふじかはによろひはすてつすみぞめの・ころもただきよのちのよのため
ふじかはのいはこすせぜのみづよりも・はやくもおつるいせへいしかな
ただきよはにげのむまにぞのりてけるかづさしりがひかけてとどめよ
へいけをひらやによみなして
ひらやなるむねもりいかにさわぐらんはしらとたのむすけをおとして
にふだうしやうごく・このよしを・ききたまひて・おほきにはらを・たて・せんずるところ・せうしやうをば・きかいがしまへ・ながすべし・かづ
さのかみには・はらをきらせんと・いかられけるを・ひとびとやうやうに・とりまをされ・たりければ・そのうへは・にふだう
も・ちからおよびたまはず・されども・ふくはらには・しんとの・ことはじめあるべしとて・さとだいり・きらぎらしう・つくりいだしたてまつ
つて・おなじき十一ぐわつ七かのひ・ごせんかうとぞ・きこえし・されども・このみやこは・きたはやまに・そうてたかく・みなみは・
うみちかくて・くだれり・つねは・なみのおと・しほかぜはげしくして・かまびすき・ところなり・だいりは・やまの・なかなれば・き
のまろどのも・かくやと・おぼえて・なかなか・いうなるところもあり・ひとびとのいへいへは・のなか・たなかなり・ければ・
あさのころもは・うたねども・とをちのさととも・いつつべし
五節の沙汰(あひ) 511 P249
ことしは・だいじやうゑあるべしとて・てんがみな・そのいとなみなり・だいじやうゑと・まをすは・十ぐわつのすゑに・しゆじやう・ひがしか
はらへ・みゆきなつて・ごけいあり・だいだいの・きたののに・ざいちやうしよを・つくつて・じんぷく・じんぐを・ととのふ・りようび
だうのだんじやうに・くわいりうでんを・たてて・みゆをめす・おなじきだんのならびに・だいじやうぐうを・つくつて・しんせんを・そなふ・
しえんあり・ぎよいうあり・せいしよだうの・みかぐらあり・されども・ふくはらには・だいごくでんなければ・たいれい・おこなはること
もなく・せいしよだうも・なければ・みかぐらをも・そうせず・ことしは・五せちしんじやうゑ・ばかり・あるべしとて・な
ほしんとの・おんまつりごとをば・きうとの・じんぎくわんにてぞ・とげられける・五せちは・これ・むかし・きよみはらの・てんわうの・
おほとものわうじに・おそれさせたまひて・やまとのくによしののおくに・すませたまひしとき・つき・しろく・さえ・あらしはげしき・よ・
みかど・きんを・しらべたまひしに・しんぢよ・たちまちに・あまくだつて・をとめごが・をとめ・さびしも・からだまや・
そのからだまや・からだまと・五へんこれを・うたうて・五たび・そでを・ひるがへす・これぞ・五せちの・
はじめなる・こんどの・みやこうつしのことをば・きみもしんも・おほきに・なげきおぼしめされける・うへ・べつして・さんもんのたいしゆ・た
びたび・そうじやうをもちて・なげきまをしけり・だい三ケどのそうじやうに・にふだう・だうりしごくしてや・おもはれけん・おなじき十二
ぐわつ十かのひ・みやこがへり・あるべしとぞ・きこえし・へいけのひとびとの・かくかへりのぼられける・うへは・まし
て・たけのひとびとの・たれか・こころうかるべき・ふくはらのしんとに・一にちも・やすらふべきに・あらずとて・
われさきにとぞ・のぼられける・ひとびとのいへいへをば・さんぬる・なつ・かもがは・かつらがはに・こぼちいれ・いかだにくみう
かべ・しざいざふぐを・ふねにつみて・ふくはらへ・はこびくだされたりげれば・ないない・とりたてられ・けれども・いまは・なに
P250
ごとの・さたにも・およばず・みな・うちすてうちすてぞ・のぼられける・おのおの・すみかも・なければ・あるひは・八
はた・かも・ひよし・さが・うづまさ・にしやま・ひがしやまの・かたほとりに・ついて・あるひは・やしろのはうぜん・あるひはみだうの・
くわいらうに・さもしかるべき・ひとはみな・たちやどつてぞ・おはしける
奈良炎上 512
こんどの・みやこうつりの・ほんいを・いかにと・まをすに・きうとは・さんもん・なんと・ちかくして・いささかのことも・あれ
ば・あるひは・なんとの・しんぼくを・ささげたてまつつて・しやうらくし・あるひは・ひよしの・しんよを・かきささげたてまつつて・つねは・
げらくするあひだ・ふくはらは・えもはるかにへだたり・みちのほども・とほければ・さやうのことに・よもたやすからじと・にふ
だう・はからひいだして・うつされけるとぞ・きこえし・こんど・たかくらのみやの・ごむほんの・どうしんによつて・なん
との・うつぷんいまだ・やまず・せつしやうどのよりは・しゆとを・めされて・なにごとにても・ぞんずるむねあらば・そうもんに・
およべかしと・おほせければ・だいしゆかしこまつてうけたまはり・ただだいじやうのにふだうにあうて・しにたうさふらふとぞ・まをしける・そののち・
なんとには・ほうしばらに・おほせて・おほきなる・ぎつちやうの・たまを・つくらせ・これは・きよもりにふだうが・くびと・
なづけて・うて・ふめ・なんどぞ・まをしける・またつちにて・八しやくのにんぎようを・つくらせ・はんにやじの・おほそとば
に・くぎづけにして・これこそ・だいじやうのにふだうを・はつつけに・あはすれなんどぞ・まをしける・このひとかたじけなくも・
かしはばらのてんわうの・みすゑ・みかどの・ごぐわいしやくにて・だいじやうだいじんまでも・たやすくへあがりたまふほどの・ひとを・かやP251
うにまをす・なんとの・だいしゆに・てんま・いれかはれりとぞ・ひとまをしける・ことの・もらし・やすきは・わざはひをまねく・
なかだちと・つつしまざるは・やぶれを・とるもとゐとも・かやうの・ことをや・まをすべき・そののちだいりには・くらんどのせうしやうちかまさ
に・おほせて・なんと・しづめよとて・くだされければ・だいしゆ・きづがはのはたに・ゆきむかひ・みやこよりの・みつかひを・
さんざんに・りようりやくし・あまさへ・くわんがくゐんの・ざふしきニにんが・もとどり・きり・みつかひちかまさが・もとどりも・きれや・
きれとののしりければ・ちかまさおほきに・いろを・うしなつて・にげのぼる・にふだうまた・せのをのたらうかねやすを・やまとの
くにの・けびゐしよに・ふして・なんとしづめよとて・くだされけるが・わざとゆみや・うちもの・こしのかたなをも・たい
すべからずと・のたまへば・うけたまはつて・かねやす五百よきにて・むかひけるが・みなしらしやうぞくなり・だいしゆまた・きづ
がはのはたに・ゆきむかひ・かねやすが・てぜい・五百よきを・さんざんに・けちらし・あまつさへ・つはもの六十よにんが・くびを・
きつて・さるさはのいけのはたにぞ・かけさせける・へいけ・かやうのことどもを・なじかは・よしと・おもはるべき・
さらばまづ・なんとをも・はつかうせよやとて・たいしやうぐんには・にふだうの四なん・くらんどのとうしげひら・さぶらひたいしやうには・ゑつ
ちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの五らうびやうゑただみつ・ゑひのじらうもりかたをさき・として・つがふそのせい・四万
よき・ぢしよう四ねん十二ぐわつ廿八にちに・なんとへこそ・はつかうせられけれ・なんとにも・ならざか・はんにやじ・ふたつ
のみちを・きりふたぎ・ざいざいしよしよに・やぐらを・かいて・まちかけたり・くわんぐんは・四万よき・むまむしやどもが・さ
しつめ・ひきつめ・さんざんに・いる・だいしゆは・七千よにん・みなうちもの・かちだちなり・ければ・そのひ・一にち・たたか
ひくらし・よにいりければ・なら・はんにやじ・二ケしよのじやうかく・やぶれにけり・はぢをもおもひ・なをも・をしむ・P252
だいしゆは・ならざかにて・うちじにし・はんにやじにて・じがいす・ぎやうぶも・かなはぬ・らうさう・あゆみも・やらぬ・しゆ
がくしやは・にはにいで・おほく・じがいしてんげり・ここに・おちゆくせいの・うちに・さかの四らうばうえいがくとて・うちものとつ
ては・七だいじ・十五だいじにも・すぐれたり・もえぎのはらまきに・くろいとをどしのよろひを・かさねて・き・ぼうしかぶとに・五
まいかぶとを・おなじく・かさねて・きるままに・かたてには・しらえの・おほなぎなたの・さやを・はづし・かたてには・
おほたちを・ぬきもち・われに・おとらぬ・でし・どうじゆく・十よにん・ぜんごさいうに・たて・てんかいの・もんよ
り・うつていで・にしに・むけてしんばし・ささへたりけるにぞ・むまのあし・ながれて・くわんぐん・おほく・ほろ
びにける・おなじき廿八にちの・よのことなりければ・くらさはくらし・かたきもみかたも・みえわかず・たいしやうぐん・
くらんどのとうしげひら・ほつけじの・とりゐのまへに・うちたつて・ひをいだせ・やと・げぢせられ・たりければ・はりまの
くにのぢうにん・ふくゐのしやうの・げいし・二らうたいふともかたが・てよりも・たてを・わつて・たいまつにし・てんかいのみなみ
なる・にしの・ざいけに・ひをぞかけたりける・ほもとは・ひとつなりけれども・ふきまよふかぜに・おほ
くのがらんに・おしかけかけたり・ぶつざう・きやうくわん・ほふもん・しやうけうの・たぐひ・一くわんものこらず・くわいろくすでに・た
に・ことにして・せいやう一てうの・けぶりを・なす・じんじやうなる・ちご・にようばうや・だうぞく・なんによの・きらひなく・あるひは
やましなでら・とうだいじへ・われ・さきに・とぞ・にげこもりける・だいぶつでんの・二かいにも・らうせう・二千にん・ばかり
にげのぼり・かたきをのぼせじと・やがてはしをば・ひかせけり・さりともと・こそ・おもひしに・みやうくわは・ま
さしく・おしかけたり・をめきさけぶありさま・けうくわん・だいけうくわん・せうねつ・だいせうねつ・むげんあびほのほのにはの・P253
ざいにんどもの・かなしびも・これには・すぎじとぞみえし・こうふくじは・これ・たんかいこうのごぐわん・とうしるいだいのてらなり・
とうこんだうに・おはします・ぶつぽうさいしよの・しやかのざう・さいこんだうに・おはします・じねんゆしゆつの・くわんぜおん・るり
を・ならべし・四めんのらう・しゆたんを・まじへし・二かいのろう・九りんたかく・かがやける・二きのたふも・たちまちに
けぶりと・なるこそ・かなしけれ・とうだいじは・これじやうざいふめつ・じつほうじやくくわうの・しやうじんのによらいと・なぞらへて・しやう
むくわうてい・てづから・みづから・ゐうつし・まゐらつさせたまへる・こんどう十六ぢやうの・るしやなぶつ・うしゆつたかく・そびえ
ては・はんてんのくもに・かくれ・びやくがうあらたに・みがかれ・たまふ・まんげつの・おんよそほひ・みぐしは・やけおちて・だいち
にあり・ごしんは・わきあひて・つかの・ごとし・八万四千のさうかうは・あきのつき・はやく五ぢうの・くもにかく
れ・四十一ちのやうらくは・よるのほし・むなしく・十あくのかぜにただよひ・けぶりは・ちうてんに・みちみちて・みやう
くわは・こくうに・ひまぞ・なき・まのあたり・みるものは・さらにまなこを・あてず・かすかに・つたへきく
ひとは・きもたましひを・うしなへり・てんぢくしんたんは・しらず・につぽんわがてうにおいては・かかる・ほふめつは・まだなし・
ぼんしやく四わう・りうじん八ぶ・みやうくわんみやうしゆも・さだめて・おどろき・さわぎ・たまふらんとぞ・おぼえたる・ほつさうおうごの・かす
がのだいみやうじんも・いかなることをか・おぼしめされけん・しんりよのほども・はかりがたし・さればにや・かすがののつゆ・
いろかはり・みかさやまの・あらしのおとまでも・みなうらむる・さまにぞきこえける・おなじき廿九にちに・たいしやうぐん・くらんどの
とうしげひら・なんとほろぼして・ほつきやうへこそ・かへられけれ・こんどちやうぼんの・あくそうどものくびをば・ごくもんに・かけらるべ
し・なんど・ごさたありしかども・なんとほろぼして・めんぼくなくや・おもはれけん・こくさうゐんの・みなみなる・ほりやP254
みぞにぞ・すてられける・こんどせんぢやうにて・うたるるだいしゆ・かずをしらず・やけしぬるもの・四千にん・あるひは・やましな
でらにて・六百よにん・あるひは・みだうにて三百よにん・またあるみだうにて・五百よにん・だいぶつでんのニかいにも・一千
七百よにんとかや・いじやう・四千よにんとぞ・しるされける・こんど・なんとほろぼして・へいけばかりいきどほり・はれて・
おもはれけん・一ゐん・しんゐん・せつしやうどののおんなげき・まをすばかりも・なかりけり・たとへ・あくそうどもをこそ・ほろぼすと
いふとも・がらんを・はめつすべしやはとぞ・おんなげきありける・されば・しやうむくわうていの・しんぴつの・ごきしやうもんにも・
わがてら・すゐびせば・てんがも・かならず・すゐびすべし・わがてら・こうふくせば・てんがもかならず・こうふくすべしとこそ・
あそばされけんなれ・いまこれほどに・ちりはひと・なりぬるうへは・てんがのめつばう・うたがひなし・さるほどに・としくれて・
ぢしようも五ねんに・なりにけり
P255

入力者:荒山慶一



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