平家物語(城方本・八坂系)
巻第六 P255
新院の崩御 601
ぢしよう五ねん・しやうぐわつついたちのひ・だいりには・とうごくのへいかく・なんとのくわさいによつて・はいらいなし・こでうはいも・おこな
はれず・二かのひ・でんじやうのゑんすゐもなし・しんゐんのごしよには・ごなうと・きこえさせたまひしかば・なんによ・うちひ
そめて・きんちうのありさま・いまいましきほどなり・ほうわうも・ないないおほせけるは・四だいのていわう・おもへばこなり・まご
なり・しかるに・せいむをも・しろしめさずして・としつきを・おくらむ・こころうしとぞおほせける・なんとのそうがう・三
十四にんを・げくわんせらる・あくそうどもをば・きんごくせらる・しうとは・せんぢやうにて・うたれ・あるひは・やきころされ・あるひは・
ながし・うしなはれしかば・たまたまのこるものどもも・いへかまどをすてて・みなさんりんにこそ・まじりけれ・なかに
も・こうふくじのべつたう・けりんゐんのそうじやう・やうゑんは・ほうもんしやうけうの・けぶりとなるを・みたまひし・ひよりして・やまひ
つきほどなう・うせたまひぬ・このやうゑんは・やさしきひとにてぞ・ましましける・あるとき・ほととぎすのなくをききたまひて
きくたびにめづらしければほととぎす・いつもはつねのここちこそすれ W
と・よまれたりけるに・よつてこそ・はつねのそうじやうとは・めされけれ・おなじき四かのひ・そうみやうのさた・あり
P256
しかども・なんとは・げくわんせられぬ・さらば・てんだいしうの・しゆとばかりを・めさるべきか・さらずは・ごえん
いんあるべきか・なんどごさたありしかども・ことしは・ごさいゑばかり・あるべしとて・さんろうしうのがくしやうの・なか
に・じやうほうわうかうとて・くわんじゆじに・さふらはれける・らうそうばかりを・めされてぞ・かたのごとくの・ごさいゑをば・とげ
られけり・そのほどに・しんゐんのごしよは・こぞのふゆより・ごなうと・きこえさせたまひしが・とうごくのへいかく・なんとの
くわさいに・よつて・なほおもらせたまひしが・おなじきむつき十二にちに・おんとし二十一にて・つひに・かくれさせたま
ひけり・やがてそのよ・ひがしやませいかんじへ・おくりたてまつり・ゆふべのけぶりに・たぐへつつ・はるのかすみとともにたちぞ・
きえさせたまひける・八さいよりおんくらゐに・つかせたまひ・ぎよう・十二ねん・とくせい・千まんたん・ししよじんぎの・すたれだ
るみちをおこし・りせいあんらくの・たえたる・あとをつぎたまふ・じひのおんめぐみは・いつてんをてらし・びやうどうの・い
つくしみは・四かいのほかに・ながれたり・三みやう六つうのらかんも・まぬかれず・げんじゆつへんげのごんじやも・のがるる
かたなき・みちなれども・しやうしむじやうの・かなしみは・ことわりすぎてぞ・おぼえたる
紅葉 602
そもそも・たかくらのゐんと・まをしたてまつるは・ひとのしたがひつきたてまつることも・おそらくは・えんぎてんりやくのみかどとまをすとも・これには・
いかでか・まさらせたまふべきとぞ・ひとまをしける・おほかたは・けんわうのなをあげ・じんとくのかうをほどこさせ・おは
しますことも・きみごせいじんののちは・せいぢよくを・わかたせたまひて・そのうへのことにてこそあるに・むげにこのきみは・えう
P257
ちに・わたらせたまひしより・このかた・せいをにうわにうけさせおはします・しようあんのころほひは・ございゐの・はじめ
つかたにて・おんとしわづかに・十さいばかりにもや・ならせおはしましけん・もみぢをことに・えいらんあるに・あるとき・
はじ・かへでの・まことに・いろうつくしう・もみぢたりけるが・まゐりたりけるを・しゆじやう・なのめならず・ぎよかんあ
つて・きたのぢんに・こやまをつかせ・これをうゑさせ・もみぢのやまと・なづけて・ひねもすに・えいらんあるに・なほあ
きたらせ・おはしまさず・しかる・を・あるよ・あらしはげしうふきて・もみぢをみな・ふきちらし・らくえふ・すこぶる・
らうぜき・なり・とのもりの・とものみやつこ・あさぎよめすとて・ことごとくこれを・とりすててんげり・のこれ
るえだ・ちれるこのはを・かきあつめて・あらしすさまじき・あしたなれば・ぬひどののぢんにて・さけあたためて・たべ
ける・たきぎにこそは・したりけれ・だいぜんのだいぶのぶなりが・いまだそのころ・くらうどにて・もみぢのぶぎやう・うけたまはつて・
さふらひけるが・みゆきより・さきにと・かしこへゆきて・みけるに・一もなし・いかにと・とひければ・し
かじかとこたふ・のぶなりおほきに・いろをうしなつて・しらず・なんぢら・いかなる・きんごく・るざいにも・あうた
り・のぶなりもまた・いかなるげきりんにかあづからむ・ずらむと・おほきに・おそれ・をののくところに・しゆじやうは・い
とどしく・よるのおとどを・おんいであつて・おんあさまつりごとより・さきにと・かしこへぎやうかうなつて・えい
らんあらんと・するに・あとかたなし・しゆじやう・さて・いかにやと・おんたづねありければ・のぶなり・そうすべきやう
はなし・ありのままにぞ・まをしける・しゆじやうてんきことに・おんこころよげに・うちゑませたまひて・りんかんに・さけあたためて・
こうえふを・たくといふ・しのこころをば・これらには・たがをしへけるぞや・やさしうも・つかまつつたる・ものか
P258
なとて・かへりて・えいかんに・あづかつしうへは・あへて・ちよくかんは・なかりけり・またあんげん二ねんの・ふゆのすゑに・しゆ
じやうあるところへ・おんかたたがへのぎやうかうの・なりたりけるに・さらでだに・けいじん・あかつき・となふこゑ・めいわうねふりを・おどろかす・こ
ろにもなりしかば・しゆじやうは・いつも・おんねざめがちにて・うちとけ・ぎよしんも・ならざりけり・いはんやさゆるしもよ
の・てんきことに・はげしきときは・むかし・えんぎの・せいだい・こくどのたみどもが・いかにさむかりつらんとて・よる
の・おとどより・ぎよいをぬがせたまひて・おしいださせたまひし・おんことまでも・おぼしめしいでて・わがていとくの・い
たらぬことをのみ・なげかせおはします・そののち・はるかに・よふけ・ひとしづまつて・ほどとほく・をんなの・さ
けぶおとの・しければ・ぐぶのくぎやう・でんじやうびとは・ききもいだされざりけるを・しゆじやうは・きこしめしいだして・ただいま・さ
けぶは・なにものぞ・きつとみてまゐれと・おほせければ・うへふししたる・でんじやうびと・じやうじつのものに・おほせくださる・
じやうじつのもの・うけたまはつて・はしりめぐつて・みけるに・あるつじに・あやしの・めのわらはの・ながもちの・ふたさ
げたるが・なくにてぞ・ありける・じやうじつのもの・たちよりて・いかにと・とひければ・ささふらへばこそ・しう
のにようばうの・やうやうにして・したてられて・さふらひつる・おしやうぞくを・ごしよへもちて・まゐりさふらふを・
ただいま・おそろしげなる・をとこ・二・三にんがほど・いできたつて・うばひとつて・まかりぬるぞや・いまは・おしやうぞく
が・さふらはばこそ・ごしよにもわたらせ・たまはめ・またはかばかしう・たちよらせたまふべきを・したしき・
ひともましまさねば・これをおもふに・なくなりとぞ・まをしける・じやうじつのもの・かのめのわらはを・ぐそくして・ごしよ
にかへりまゐり・このよしをそうし・まをしたりければ・しゆじやう・あなむざん・なにものの・しわざにてか・ありつら
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む・むかしの・げうの・よのたみは・げうのこころをもつて・こころとするゆゑに・みな・すなほなりき・いまのちんがよの・たみ
は・ちんがこころをもつて・こころとするゆゑに・かだましきもの・てうに・あつて・つみををかす・これわが・はぢにあ
らずやとぞ・おほせける・さてその・とられつる・きぬは・なにいろぞと・おほせければ・しかじかとまをす・ちうぐう
のおんかたに・さやうのいろしたる・おんきぬやさふらふと・おほせつかはされたりければ・はるかにいろうつくしきが・まゐ
りたりけるを・しゆじやう・かのめのわらはに・くだし・たまはすとて・なほも・よふかし・さやうの・めにも
や・あふとて・じやうじつのもの・あまたつけさせ・おはしまして・しうのにようばうの・つぼねまで・おくらせたまふぞ・かたじけな
き・されば・あやしの・しづのを・しづのめに・いたるまで・ただこのきみ・せんしうばんぜいの・はうさんを・いのりたてまつる
葵の前(あひ) 603
なによりもそのころ・いうに・やさしき・ためしに・まをしはべりしは・ちうぐうのおんかたに・さふらはれける・つぼねの
にようばうたちの・めしつかはれける・うへわらはのなかに・あふひのまひとて・りようがんに・しせきしたてまつる・ことあり・ただあからさまの・
ことにてもなうて・しゆじやう・つねは・めされければ・しうのにようばうも・めしつかはず・かへつて・しうのごとくに
ぞ・もてなしける・そのかみの・えうえいに・いかで・ぢよをうんでも・ひたんすることなかれ・ぢようは・ひたり・
ひはきさきとも・なれり・しらずこのひと・にようごきさきともや・いはれ・たまはんずらんとて・ないないは・あふひにようごな
んどぞ・ささやきまをしける・しゆじやうこのよしを・つたへきこしめされて・そののちはあへて・めされざりけり・これはまつ
P260
たう・おんこころざしの・つきさせ・たまへるにはあらず・ただよの・そしりを・おぼしめしはばからせたまふに・よりて・な
り・されども・おんこころざしのつきさせ・たまはざりしかば・くごをも・つやつや・きこしめされず・ぎよしんも・うちとけ
ならず・そのときの・せつろくまつどの・このよしを・つたへききたまひて・さては・さやうに・おこころぐるしきおんことの・わたらせたま
ふにこそ・まゐつて・なぐさめたてまつらむとて・いそぎごさんだいあつて・さやうに・えいりよに・かけて・おぼしめさ
れむずる・おんことを・おんはばかりあつて・なんのせんかさふらふべき・ただ・くだんのじんを・めさるべし・ぞくしやう・あひたづねら
るるにおよばず・やがてもとふさが・やうやうにつかまつるべきよしを・まをさせたまひたりければ・しゆじやう・おほせなりけ
るは・くらゐを・しりぞいてのちは・まま・さるためしありとは・しろしめせども・まさしう・ざいゐのとき・か
やうのもの・めされたる・ためしなし・わがよに・はじめたらむは・こうだいのそしり・なるべしとて・つひにきこしめし
も・いれさせたまはず・このうへは・くわんぱくどのも・ちからおよばせたまはず・いそぎおんくるまにめして・ごたいしゆつあり・あるときしゆじやう
おんてならひのついでに・みどんのうすやうの・にほひことに・ふかかりけるに・ふるきうたなりけれども・かかるをりふしを・おぼし
めしいでて
しのぶれどいろにいでにけりわがこひは・ものやおもふとひとのとふまで・ W
おんこころしりの・でんじやうびと・たまはりついて・あふひのまひに・たぶ・あふひのまひ・たまはつて・れいならぬ・ここ
ちいできたりとて・さとにかへり・しやうじのうちに・たふれふし・このぎよしよを・むねにあて・かほにあて・かなし
みけるが・十四かとまをすに・つひに・はかなく・なりにけり・しゆじやう・このよしを・つたへきこしめされて・なのめなら
P261
ず・おんなげきに・しづませおはします・きみが・一じつのおんのために・せふが・百ねんのみを・あやまつとも・かやうのことを
や・まをすべき・かのたうのたいそうの・ていじんきが・むすめを・げんくわでんに・いれしめんと・せしとき・ぎちようがいはく・てい
ぢよすでに・りくしにやくせりと・いさめしによつて・でんへいれられんと・せしことを・やめられ・たりしにも・まさ
らせたまふ・おんこころばせかなとぞ・ひとまをしける・きみは・あふひのまひが・ことに・おぼしめししづませたまひて・ごなう
と・きこえさせたまひしかば・ちうぐうのおんかたより・ごかいしやくの・にようばうたち・あまた・まゐらせられけり
小督 604
そのころ・さくらまちのちうなごん・しげのりのきやうの・おんむすめ・こがうのとのと・まをして・きんちういちの・びじんならびなき・ことのじやうず・
おはしけり・れいぜいのだいなごんたかふさのきやうの・いまだそのころ・せうしやうにて・せちゑに・まゐられたりけるが・このにようばう
を・ひとめみそめ・たてまつつて・おもひにこころを・そめ・うたをよみ・ふみをつくし・としつき・こひかなしまれけれども・な
びくけしきも・なかりしに・さすが・なさけによわるこころにや・つひには・なびきたまひけり・せうしやう・ちようあいして・
わりなく・おもはれけれども・ほどなう・うちへめされまゐらせて・あかぬ・わかれのなみだにや・そでしほぬれて・ほしあ
へず・せうしやう・よそながらも・みたてまつることもや・とて・つねは・そのこととなく・さんだいせられけり・こがうのとのの・
すみたまひける・つぼねのまへを・かなた・こなたへ・とほり・みすのそとに・たたずみ・ありかれけれども・つて
のなさけをだにも・かけられず・せうしやう・なさけなく・おもひたまひて・あるとき・一しゆのうたをかきて・みすのうちへぞ・
P262
いれられける
おもひかねこころはそらにみちのくの・ちかのしほがまちかきかひなし・ W
こがうのとの・やがて・へんじをも・せばやとは・おもはれけれども・われかやうに・きみに・めしおかれ・まゐら
せぬる・うへは・せうしやう・いかにいふとも・ことばをかはし・へんじを・すべきにあらずとて・ふみをば・うへわらはに
とらせて・みすのそとへぞ・なげいだされける・せうしやうなさけなくも・うらめしうは・おもはれけれども・さすが・ひと
めも・そらおそろしくて・このふみを・ふところにひきいれつつ・あゆみいでられけるが・さるにてもとて・またたちかへり
たまづさをいまはてにだにとらじとや・さこそこころにおもひすつとも・ W
いまは・こんじやうにてあひみんことも・かたければ・いきてゐて・ひとをこひしと・おもはんより・ただしなんとの
みぞ・のたまひける・あうて・あはざる・こひもあり・あはで・おもひ・ふかき・うらみもあり・あはで・おもふ・こひ
よりも・あうてあはざる・うらみこそ・せんかたなくは・おもはれけれ・このれいぜいのせうしやうと・まをすも・にふだうしやうごくの
むこなり・またちうぐう・だいりに・わたらせたまへば・ふたりのむこを・こがうのとのに・とられて・にふだういやいや・この
こがうが・あらむかぎりは・よのなかよかるまじ・されば・このこがうを・とらへて・なにとも・なさばやとぞ・のたま
ひける・こがうどの・このよしを・つたへききたまひて・わがみの・ともかうも・ならんは・いかにもなりなん・きみ
のおんことこそ・おんこころぐるしけれとて・あるくれがたに・だいりをば・しのびつつ・まぎれいで・ゆきがたしらずぞ・
うせられける・きみは・こがうがことに・おぼしめししづませたまひて・ぐごなんども・きこしめさず・ぎよしんも・うちとけなら
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ず・にふだうしやうごく・このよしを・つたへききたまひて・きみは・こがうがことに・おぼしめししづませ・たまひたんなれ・さらむに
とつては・とて・ごかいしやくの・にようばうたち・一にんも・まゐらせられず・さんだいせられける・しんかたちをも・そね
まれければ・にふだうの・けんゐに・はばかりて・さんだいするひとなし・きんちうのありさま・いたいたしきほどなり・きみは・
こがうがことに・おぼしめししづませ・たまひて・ひるは・よるの・おとどにのみ・いらせたまひ・よるは・なんでんに・しゆつぎよ
なつて・つきのひかりに・おんこころをすまさせ・おはします・ころははづきの十かあまりの・ことなれば・さしも・くま
なき・そらなれども・おんなみだに・くもりて・つきのひかりぞ・おぼろなる・しゆじやう・ひとやさふらふひとやさふらふと・おほせけれども・おんいらへ
まをすものも・なかりけるに・ややあつて・だんじやうのたいひつ・なかくにそのよしも・ごぜんちかう・おんとのゐまをして・さふらひけ
るが・なかくにと・おいらへまをして・まゐりたり・いかになかくにちかう・まゐれ・おほせあはすべき・ことありと・おほせければ・
なかくにごぜん・ちかうぞ・まゐりたる・おもひもかけぬ・ことなれども・もし・こがうが・ゆくへや・しりたるかと・
おほせければ・いかでか・たやすく・しりまゐらせ・さふらふべき・しゆじやう・まことや・さがのおく・かたをりどと・や
らんしたるうちに・ありとまをす・もののあるぞとよ・あるじが・なをば・しらずとも・たづねて・まゐらせなんや
とぞ・おほせける・なかくにまをしけるは・あるじがなを・しりさふらはでは・いかで・たやすく・たづねまゐらせさふらふべき・
しゆじやう・まことにもとて・りようがんに・おんなみだせきあへさせたまはず・なかくにこのおほせ・うけたまはるかたじけなさに・つくづく
ものを・あんずるに・まことや・そのひとの・だいりにて・ことひきたまひしとき・つねは・ふえのやくに・めされてまゐりしもの
を・たとひいづくにも・おはせよ・このつきのくまなさに・きみのおんこと・おぼしめしいだして・ことひきたまはぬ・ことあらじ・
P264
さがのざいけ・いくほどなし・うちまはつて・たづねたてまつらんに・そのひとの・ことのねならば・いづくにても・きき
しらんずるものをと・おもひければ・ささふらはば・たづねまゐらせて・みまゐらせさふらはばや・たとひたづねあひまゐらせて・
さふらふとも・ごしよを・たまはりさふらはでは・うはのそらにてもや・さふらはんずらんと・まをしたりければ・しゆじやう・まことに
もとて・やがて・ごしよあそばしてぞ・たうだりける・れうのおんむまにのつて・ゆけとぞ・おほせける・なかくに・
おんむまたまはつて・めいげつにむちをあげて・そこはかとなく・あこがれゆく・をしかなく・このやまさとと・えいじけ
む・さがのあたりの・あきのくれ・さこそは・あはれにおもひけめ・かたをりどしたるところを・みつけては・もしこれにも
や・おはすらんとて・ひかへひかへ・ききけれども・ことひくおとは・せざりけり・このつきのくまなさに・つきのひかり
に・さそはれて・もしみだうなんどへもや・まゐりたまひたるらんとて・しやかだうをはじめとし・だうだうを・まはつ
て・たづねまゐらせけれども・こがうのとのに・にたるひとだにも・なかりけり・だいりをば・さしも・たのもしげに・
まをしていでぬ・たづぬるひとには・いまだあはず・むなしう・かへりまゐりたらんは・なかなかあしかりなん・これより・いづ
かたへも・おちゆかばやとは・おもへども・いづくか・わうどならぬ・みをかくすべき・やどもなし・ほうりんは・
ほどちかければ・ほうりんの・かたへと・ゆくほどに・かめやまのあたりちかく・まつのひとむらあるかたに・かすかに・こと
ぞ・きこえける・みねのあらしか・まつかぜか・たづぬるひとの・ことのねか・おぼつかなくは・おもへども・こまをはやめて・う
つほどに・かたをりど・したるうちに・ことをぞ・ひきすましける・すこしも・まがふべからず・こがうのとのの・つま
おとなり・がくは・なにぞとききければ・をとこおもうて・こふとよむ・さうふれんをぞ・ひかれける・がくしもこそ・お
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ほきに・ただいま・このがくを・ひきたまふことよ・なかくにいとほしや・このひとも・いまだきみの・おんことをば・おぼしめし・
わすれざりけりと・うれしくて・やうでう・すこしねとり・むまより・とんでおり・かどをほとほとと・たたきけ
れば・ことをば・はやひき・やみたまひぬ・これは・だいりより・なかくにと・まをすものが・おんつかひに・まゐつてさふらふ・あけら
れさふらへあけられさふらへとて・たたけどもたたけども・とがむる・おともせざりけり・ややあつて・うちより・ひとのきたるおとの・し
ければ・うれしくて・まつところに・ぢやうをはづし・かどをあけ・いたいけしたる・こにようばうの・かほばかりを・さし
いだして・これは・だいりなんどより・おんつかひ・たまはりぬべき・ところにてもさふらはず・いかさまにも・かどたがへにて
もや・さふらふらんと・まをしければ・なかくに・へんじせば・かどたてられ・ぢやうさされては・あしかり・なんと
や・おもひけん・やがて・おしあけてぞ・いりにける・こがうのとのの・すみたまひける・つまどのあひの・えんに・
よりゐて・まをしけるは・いかで・かかる・おんすまひにて・わたらせたまひ・さふらふぞや・きみは・おんことゆゑに・おぼしめし
しづませ・たまひて・ぐこなんども・きこしめされず・ぎよしんも・うちとけならず・ただうはのそらと・おぼしめされ
てさふらふが・ごしよを・たまはつて・まゐりてさふらふ・ものをとて・ありつる・にようばうして・きみのごしよを・たてまつる・ひらい
て・みたまへば・まことに・きみの・ごしよなり・やがてごへんじ・あそばして・ひきむすびつつ・にようばうのしやうぞく・一かさね
そへて・おしいだされ・たり・なかくに・にようばうの・しやうぞく・かたにうちかけて・まをしけるは・よのおんつかひ・にてもさふらはば・
ごしよの・ごへんじのうへは・しさいさふらふまじ・けれども・きみのだいりにて・おことひかせ・たまひしとき・つねは・ふえ
のやくに・めされて・まゐりさふらひし・そのごほうこうをば・いつしか・おぼしめし・わすれさせたまひて・さふらふやらん・ぢきの・
P266
ごへんじ・うけたまはらざらむは・くちをしう・さふらひなんずと・まをしければ・こがうのとの・あるべしとや・おもはれけん・み
づから・へんじしたまひけり・そこにも・さだめて・しられたるらんやうに・だいじやうのにふだうどのの・あまりに・おそ
ろしき・ことをのみ・のたまふと・ききしが・あさましさに・あるくれがたに・だいりをば・しのびつつ・まぎれいで・
かかるすまひにて・ありつれば・ことなんど・ひくことも・なかりつるに・あすのころより・をはらのへんに・お
もひたつことの・さふらふあひだ・あるじの・にようばうが・こよひばかりの・なごりを・をしみつつ・よもはや・ふけぬ・
いまは・たちぎくものも・あらじなんど・やうやうに・こしらへ・おくほどに・さぞな・むかしのことも・
ゆかしくて・てなれし・ことをひくほどに・やすくも・ききいだされけるよ・とておんなみだに・むせびたまへば・なかくにも・そで
をぞ・ぬらしける・なかくにまをしけるは・あすのころより・をはらのへんに・おぼしめしたつおんことと・さふらふは・いかさまにも・
おんさまなんど・かへらるべきにて・さふらふやらん・あるべうも・さふらはず・あるじの・にようばう・いだしたてまつるべから
ずとて・めしぐしたりける・めぶ・きちじやうなんど・まをす・をとこを・とどめおき・わがみは・だいりへ・かへりまゐり
ければ・よははや・ほのぼのとぞ・あけにける・れうのおんむま・つながせつつ・にようばうのしやうぞく・はねむまのしやうじ
に・なげかけ・いまははや・ぎよしんも・はるかに・なりぬらん・たれしてか・まをすべき・なんどおもひ・なんでんの
かたへと・ゆくほどに・いざよひのつきは・はやなんていを・わたつて・にしのちうもんへ・さしいれども・きみは・よるの・
おとどへも・いらせたまはず・なかくにを・おんまちがほにて・ゆふべの・おんざにぞ・ましましける・みなみに・かけり・
きたに・むかふ・かんうんの・あきのかりに・つけがたし・ひがしにいで・にしにながる・ただせんばうを・あかつきのつき
P267
に・よすと・たからかに・えいぜさせたまふところに・なかくに・つつとまゐり・こがうのとのの・ごへんじをたてまつる・しゆじやう・
なのめならず・ぎよかんあつて・おほせあはすべきものも・なきに・さらばやがて・なんぢむかへかしと・おほせければ・なかくに・へい
けの・かへりききたまはんところをも・はばかりおもひけれども・これもまた・ちよくぢやうなりければ・てぐるま・きよげに・さたし・
さがに・まゐり・このよしまをしたりければ・こがうのとの・しきりに・まゐるまじきよしを・まをされけるを・やうやうに
して・こしらへ・むかへとりたてまつり・かすかなるところに・しのばせまゐらせて・しゆじやうよなよな・めされける
ほどに・ひめみや・ひとところ・いできさせたまひけり・このひめみやとまをすは・ばうもんのにようゐんの・おんことなり
九州の早馬(あひ) 605
一ゐんは・うちつづき・おんなげき・あさからず・まづえうまんぐわんねん・七ぐわつには・だい一のみこ・二でうゐん・かくれさせたまひ
ぬ・またあんげんぐわんねん・七ぐわつには・おんまご・六でうゐん・ほうぎよなりぬ・ひよくのとり・れんりのえだと・ほしをさし・さしも・
おんちぎりあさからざりし・けんしゆんもんゐんは・ゆふべのきりに・をかされ・あしたのつゆと・きえぞうせさせたまひける・またげんせ・ご
しやう・たのみまゐらつさせ・たまひたりける・このたかくらゐんに・さへおくれまゐらつさせたまひしかば・一じようめうてん
の・おんどくじゆ・三みつごまの・ごくんじゆも・つもらせたまひけり・にふだうしやうごくも・このひごろ・こころのままに・ふるまは
れけることを・さすがそらおそろしうや・おもはれけん・あきいつくしまの・ないしがはらの・おんむすめ・ことし十六に・
なられけるを・ほうわうへまゐらせられけり・ひとびとをも・えらまれ・にようばうたちをも・あまたつけまをされけり・
P268
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か・つねめかしとぞ・まをしける・そのころ・しなののくに・きそとまをすやまなかに・よしなかと・いふげんじありとぞ・きこえ
し・これは・こ六でうの・はんぐわん・ためよしが・じなんこたちはきのせんじやうよしかたが・こなりけり・ちちのよしかたは・さんぬる・きう
じゆ二ねん・九ぐわつ廿三にちに・むさしのくに・おほくらがやかたにして・あくげんたよしひらにくんで・うたれぬ・そのときよしなか・わづかに・二
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たつままに・みぢからだいにして・ちから・ひとにすぐれたり・はかりごとを・めぐらすことも・たむら・としひと
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まをしける・やうふのかねとほ・このよしをききて・まことにさやうに・のたまふこそ・八まんどのの・おんすゑとも・おぼゆれと・ほめ
られて・いよいよこころたけくなる・まづ・しなののくにには・ねのゐの・やた(イ大弥太)・しげののゆきちかを・さきとして・
こくちうのものども・きそにつく・かうつけのくにには・なはのたらうひろずみを・さきとして・たこのこほりのものども・こたちはきの
せんじやう・よしかたが・よしみによつて・きそにつく・きそとまをすは・しなののくにに・とつても・みなみのはし・みののくに
に・さかうたり・それより・みやこも・ほどちかかりければ・へいけのひとびと・こはいかがせんとぞ・さわがれける・
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P269
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こなり・けり・おなじき十二にちに・うさのだいぐうじきんみつ・はやむまをたてて・へいけへまをしけるは・うすきのじらう・これたか・
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P270
なんかい・さいかい・かくのごとし・四いすでにみだれぬ・よはたんだいま・うせなむず・こはいかがせんとぞ・さわが
れける
入道の死去 606
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P271
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P272
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かかりける・さうさうのよ・にふだうしやうごくの・しゆくしよにし八でうより・ひいできて・にはかに・やけに・けるこそ・ふしぎな
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そ・ゆゐごんからに・ただあけくれは・いくさ・かつせんの・いとなみのほかは・たじなしとぞ・きこえし
慈心坊 607
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P274
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P275
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り・そのぐわんりきの・ありがたさに・このひとを・ひびに・三どらいしたてまつるなり・そのもんにいはく・きやうらい・じゑだいそうじやう・
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祇園女御 608
そのうへ・にふだうしやうごくは・ただもりが・こにては・なかりけり・まことは・しらかはのゐんの・みこなりとぞ・まをしける・そのゆゑ
は・さんぬる・えいきうのころほひ・しらかはのほとりに・ならびなき・さいはひじん・一にんましましけり・しらかは
のゐん・なにとしてか・きこしめしいださせ・たまひたりけん・つねは・かしこへ・ごかうなる・さてこそ・ひと・ぎをん
P276
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しこへ・ごかうならせたまひけるに・ころは・さつき廿かあまりのことなれば・さみだれさへに・かきくれて・め
ざすとも・しらぬやみなるに・このにようばうの・すまれける・あたりちかき・はやしのなかを・すぎさせたまふほどに・
あるふるだうの・うちよりも・ひかりものこそ・いできたれ・ひかりものの・ていたらく・かしらには・しろがねのはりを・
みがきたてたるが・ごとし・かたてには・つちのやうなる・ものをもち・かたてには・ひかるものをもちて・とば
かりあつては・さつとは・ひかりひかり・しだいに・ちかづきたてまつる・ぐぶのくぎやう・でんじやうびと・あな・おそろし・
つちのやうなるものは・おにがもつなる・うちでの・こづちなんめり・ちかづきたてまつつて・いかなる・おんことの・いでこ
んずらん・もしこれを・いもし・きりも・ととめたらむ・ものには・けんじやうあるべしと・しよきやうごさたありける
に・ただもりの・いまだそのころ・びぜんのかみにて・ほくめんに・さふらはれけるが・らうどうに・むかつて・のたまひけるは・この
へんはやしのなかなり・まことの・きじんにては・よもあらじ・おもふに・きつね・たぬきの・しわざにてぞ・あるらん・お
なじうは・くんで・いけどらばやと・おもふなりとて・みだうのうちに・はしりいり・ひかりものを・むず
とだく・だかれて・こはいかにやと・まをすこゑを・きけば・ひとのこゑなり・そののち・てんでに・ひをともし
て・みたまへば・むそぢばかりなる・ほうしなり・このみだうの・しようしほうしにてぞ・さふらひける・ほとけに・みあかし・
たてまつりけるが・てがめに・あぶらをいれて・もちけるが・つちのやうには・みえにけり・かはらけに・ひをいれて・ふ
きけるが・ひかりものとは・みえにけり・あめしげければ・ぬれじとて・こむぎのわらを・あみあつめて・か
P277
づきたるぞ・しろがねのはりの・やうには・みえにける・そのとき・みなひと・いちどに・どつと・わらひて・のきたま
ふ・一ゐんこれを・えいらんあつて・あはれぶしの・こころほど・たけうやさしかりける・もの・あらじ・まことのきじんと
こそ・おぼしめしつるに・もしこれを・いもし・きりも・とどめたらむは・いかばかり・むねんならまし・くま
んと・おもひかかりたる・ただもりが・こんやの・ふるまひ・かへすがへすも・しんべうなりとて・けんじやうには・くだんの・ぎ
をんにようごをぞ・たまはりける・このにようばう・くわいにんしたまへり・うめらむ・ところのこ・なんしたらば・なんぢがこにせよ・によ
したらば・われにえさせよとぞ・おほせける・ほどなうさんしたまへり・まことの・なんしにてぞ・ましましける・ただ
もりかやうのことをも・そうせばやとは・おもはれけれども・とかく・うちまぎれ・このわかぎみ・二さいと・まをしし・あき
のころ・一ゐんくまのまうでの・くわんぎよのとき・きのくに・いとがやまと・いふところに・みこし・かきすゑさせ・しばらく・これ
にて・ごきうそくの・さふらひける・をりふし・ただもりそうせばやと・おもはれければ・かたやぶに・いくらもある・ぬか
ごとまをすものを・そでにもりいれ・ごぜんにまゐり・かしこまつて・まをされけるは
いもがこははふほどにこそなりにけれ
と・まをされたりければ・一ゐんはやおんこころえあつて・
ただもりとりてやしなひにせよ W
とぞ・おほせける・このわかぎみ・あまりに・よなきをしたまひけるをも・ただもりまをされたりければ・一ゐん
よなきすとただもりたてよすゑのよに・きよくさかふることもこそあれ W
P278
と・あそばされたりけるに・よりてこそ・きよもりとは・なのられけれ・まことの・わうじにてましませば・ただ
もりなのめならず・もてなし・まをされけり・十二にて・じよしやくし・十八にて・四ゐのひやうゑのすけとぞ・まをしける・ま
ことのわうじにて・ましませば・しだいの・しようしんとどこほらず・だいじやうだいじんまでも・たやすくへあがりたまひけり・
とばのゐん・ばかりこそ・きよもりが・くわしよくは・ひとには・おとるまじとは・おほせけれ・ひとは・とかうまをしけれども・いち
ごは・おもふことなくて・すごされけるこそ・めでたけれ
あひ 609
むかし・てんぢてんわう・はらみたまへるきさきを・たいしよくくわんに・たまはすとて・なんしたらば・しんがこにせよ・によ
したらば・われにえさせよとぞ・おほせける・ほどなうさんしたまへり・まことの・なんしにてぞ・ましましける・たうぶ
のみねのほんぐわん・ぢやうゑくわしやう・これなり
国綱の死去 610
おなじき・うるふ二ぐわつ廿かのひ・五でうのだいなごんくにつなのきやうも・うせられけり・このくにつなのきやうと・まをすは・にふだうしやうごくに・しよ
じないげなう・とくいまをされけるが・おなじとしの・おなじひ・やまひづき・おなじきつきに・うせられけるこそ・ふ
しぎなれ・このくにつなのきやうの・にふだうしやうごくに・とくいはじめられける・ゆゑを・いかにとまをすに・ならびなき・だいふくちやうじやにて・
P279
おはしければ・なににても・ひに・一しゆにふだうのもとへ・おくられければ・げんぜのとくい・これに・すぐべからず
とて・くにつなのきやうのしそく・たんばのかみきよくにを・にふだうの・やうしにし・しそく・しげひらを・くにつなの・むこにぞ・なされけ
る・されば・そのゆゑにや・しやう二ゐのだいなごんまで・あがられけるこそ・めでたけれ・せんねんくにつなの・ははうへ・
やはたへ・まゐりたまひて・ねがはくは・わがこのくにつなくらんどのとうに・なして・みせたまへと・いのりまをされける・よのゆめに・
かものかたよりと・おぼしくて・みやびとどもが・びりやうのくるまを・くにつなのもとへ・やりいるるといふ・ゆめをみて・
これをひとにかたりたまへば・いかさまにも・くぎやうの・きたのかたに・ならせたまはんずるに・こそと・まをしければ・
わがみ・としおいぬ・いかでかさることのあるべきと・のたまひけるが・くにつなくらんどのとうをも・さしすぎて・しやう二ゐの・
だいなごんまで・あがられけるこそ・ふしぎなれ・このくにつなのきやうとまをすは・八でうのちうなごん・かねすけに・八だいのまご・さき
のではのかみ・もとすけのまご・うまのかみもとくにの・あそんのこなり・けり・このひとの・いまだそのころ・しんしのざふしきに
て・このゑのゐんにさふらはれけるが・にんぺい三ねん・うづきに・四でうだいりに・ぜうまうの・いできたりしに・しゆじやう・なんでんに・
しゆつぎよなつて・ひとやさふらふひとやさふらふと・おほせけれども・をりふし・おいらへ・まをすものも・なかりけるに・くにつなえうよを・かか
せて・まゐりたり・しゆじやう・こはいかなるものぞと・おほせければ・しんしのざふしき・ふぢはらのくにつなと・なのりまをす・しゆ
じやう・えうよに・めされて・五でうの・だいりへ・ぎやうかうなる・そののち・しゆじやう・ほうしやうじどののもとへ・かやうに・さかさ
かしきものこそ・さふらへ・それに・めしつかはるべしと・おほせくだされたりければ・ほうしやうじどの・ごりやうたび・なん
どして・めしつかはれけり・あるときしゆじやう・やはたへ・ぎやうかうなつて・りんじの・みかぐらのさふらひけるに・にんちやうが・
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はうしやうがはへ・おちいりて・ぬれねずみのごとくにて・そのひのみかぐらは・あるまじかりしを・をりふしくにつな・ほうしやうじどの
の・おんともに・さふらはれけるが・しんべうにこそ・さふらはねども・にんちやうがしやうぞくをば・これにも・よういせさせてさふらふとて・
とりいだして・にんちやうに・きせ・そのひのみかぐらをぞ・とげられける・ほどこそすこし・おしうつりたりけれども・うた
のこゑも・すみわたり・まひのそで・ひやうしに・あうて・おもしろかりけり・ものの・おもしろきことは・しんめいも・ひとのこころも・
おなじこと・むかし・あまてらすおほんがみ・あな・おもしろやと・おほせなりし・おんことまでも・いまこそ・おぼしめししられけれ・
むかし・くわんぺいほうわう・さがの・おほゐかはへ・ごかうなつて・ぎよいうの・さふらひけるに・くわんしゆじの・ないだいじん・たかふぢ
こうの・おんこいづみのたいしやう・くにたか・をぐらやまの・あらし・はげしくして・ゑぼしを・かはへふきおとされ・たぶさを・
おさへて・せんかたなげにて・そのひの・ぎよいうは・あるまじかりしを・やまかげの・ちうなごんの・おんこ・じよむ
そうづ・さんえばこより・ゑぼしを・とりいだし・たいしやうにきせたてまつつて・そのひの・ぎよいうとげられけり・よあがつ
てこそ・かかるふしぎは・ありしに・くにつなときにとつての・ようい・かしこかりける・かうみやうかな・ぢしよう四ねんの・
ごせちは・ふくはらにてぞ・とげられける・わかき・くぎやう・でんじやうびとは・ちうぐうのおんかたに・すゐさんまをし・いまやう・らう
えいして・あそばれける・なかに・あるでんじやうびとの・たけしやうほにまだらなり・くもこしつのあとにこると・いふらうえいを・せ
られたりければ・くにつなあな・あさまし・さやうのことは・きんきと・こそうけたまはれ・ききにも・きかじとて・ぬきあし
をしてぞ・にげられける・このしのこころは・むかしの・げうの・みかど・おんむすめ二にん・もちたまへり・あねをば・がくわう・いもうとを
ば・ぢよえいとて・ともに・しゆんのみかどの・きさきにたちたまへり・あるとき・しゆんわう・かくれさせたまひしかば・さうごの
P281
のべへ・おくりたてまつり・二にんのきさき・みかどのおんわかれを・かなしみたまひて・さうごののべにて・なきたまひけるなみだ・しやうほ
のきしのたけに・かかつてまだらなり・きさきそこにて・しつを・しらべたまひしかば・しやうほのきしのたけ・おひいづるごとに・
まだらにてたてり・そのうへ・しつを・しらぶるところには・つねに・くもたなびいて・ものあはれなる・こころあり・くにつな・さ
せるぶんしやう・うるはしきひとにては・おはせねども・さかさかしきによつて・かやうのことをも・ききとがめら
れ・けるとかや・おなじきうるふ二ぐわつ廿二にちに・ほうわう・ほうぢうじどのへ・くわんぎよなるべきよしを・おほせくださる・このほうぢうじ
どのと・まをすはさんぬる・おうはうのころ・つくりいだしたてまつつて・せんすゐ・こだちにいたるまで・おんこころに・まかせたりしかども・この
三四ねんがあひだは・あるひは・とばどのに・おしこめられさせたまひ・あるひは・ふくはらへごかうなり・なんどして・ごしよ
も・みな・あれはてにしかば・さきのうたいしやうむねもりきやう・ざうしんして・なし・まゐるべきよしを・まをされたりし
かども・いまは・なにごとの・さたにも・およばせたまはず・ひそかに・かしこへ・ごかうなりて・えいらんあるに・きしの
まつ・みぎりのさくら・としへにけりと・おぼえて・こだかく・なりたりけるを・ごらんぜらるるに・つけて・まづ・
こにようゐんのおんことを・おぼしめしいでて・おんなみだに・むせばせ・おはします・たいえきのふよう・びやうのやなぎ・これにむかふに・
いかでか・なみだおちざらん・かのなんたいせいきうの・むかしのあと・しげみに・まじる・はなとりを・ごらんぜらるるに・つけ
ても・つきせぬ・ものは・おんなみだなり
行高の沙汰(あひ) 611
P282
おなじき・やよひついたちのひ・なんとのたいしゆ・ほんにふくし・しやうゑん・まつじもとのごとくに・ちぎやうすべきよしを・おほせくだ
さる・おなじき三かのひ・とうだいじ・つくりはじめらる・ぶぎやうべんには・くらうどのさせうべんゆきたかとぞ・きこえし・せんねんゆきたか・
やはたへまゐりたまひて・つやして・ねんじゆせられける・よのゆめに・ごはうでんの・みとおしひらき・うちより・ゆ
ゆしう・けだかきみこゑにて・ややなんぢ・とうだいじ・ぶぎやうのときは・これをたいして・むかふべしとて・こがねの・しやく
をたまふとみて・うちおどろきて・みたまへば・すなはちまくらにぞ・さふらひける・ゆきたか・たうじなにごとに・よつてか・とうだい
じぶぎやうには・むかふべきとは・おもはれけれども・ふかうをさめて・げかうせられたりけるが・はるかにほどへての
ち・へいけの・あくぎやうに・よつて・とうだいじ・えんじやうし・いまこのしやくを・たいして・とうだいじぶぎやうに・むかはれける
こそ・ふしぎなれ・八まんだいぼさつの・しんりよにも・あひかなひたまへる・しゆくしふのほどこそ・めでたけれ
墨俣合戦 612
おなじきやよひ五かのひ・とうごくより・はやむまうつて・へいけへまをしけるは・十らうくらんどゆきいへ・あくぜんしゑんさいきやうのきみぎ
ゑん・三にんひとつになつて・つがふそのせい・七千よき・をはりのくにまで・せめのぼつたるよしを・みののくにの・もくだいの
もとより・まをしたりければ・さらば・まづ・これをふせげやとて・たいしやうぐんには・さひやうゑのかみとももり・さつまのかみただのり・
さふらひたいしやうには・ゑつちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの・五らうびやうゑただみつ・ゑびのじらうもりかたを・さきとし
て・つがふそのせい・一万よき・おなじきやよひ十かのひ・みやこをたつて・おなじき十五にちに・みののくにに・はせくだり・すのまた
P283
がはらにぢんをとる・十らうくらんど・このよしをききたまひて・みののくにまで・せめのぼり・すのまたがはに・おしよせ・むかひの
きしに・ぢんをとる・そのひのよにいりて・きやうのきみぎゑん・しうじう七き・すのまたがはを・うちわたり・へいけのぢんへぞ・いりたり
ける・をりふしゑつちうのぜんじもりとしが・五十きばかりにて・よまはりするに・ゆきあうたり・あれは たそ・みかた
と・いふ・みかたは・たそ・まことはかたきぞかし・これはよしともがばつし きやうのきみぎゑん・ひごろの・うつぷんをたつせん
ために・ただいまよせたるなりと・いふ・にくしそのぎならば・あますな・もらすな・うてやとて・たいぜいが・
まんなかに・とりこめて・われうちとらんとぞ・すすみける・十らうくらんど・このよしをききたまひて・きやうのきみうたすな・ぎゑん
うたすな・すすめやものども・つづけつはものとて・げんじ七千よき・すのまたがはに・うちいれてぞ・わたしける・へいけの・
かたのたいしやうぐん・さひやうゑのかみとももり・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうを・あげて・げんじ・ただいまかはを・わたし
たれば・ぬれむしやは・みなかたきぞ・あますな・もらすな・うてやとて・むまもののぐのぬれたるをば・ここにお
つつめ・かしこに・おさへて・くびをとる・きやうのきみぎゑん・二ときばかりたたかつて・うたれにけり・十らうくらんど・この
よしを・みたまひて・かなはじとや・おもはれけん・またすのまたがはを・わたしかへして・ひきしりぞく・へいけつづい
て・すのまたがはを・うちわたし・おちゆくものどもを・ここにおつつめ・かしこに・かけつめて・うちとりけり・げんじのか
たには・ふせぎたたかふといへども・ぶせい・たぜいに・かなはねば・さんざんに・うちちらされて・ひきしりぞく・すゐ
えきを・うしろにせざれとこそ・まをすに・こんどのげんじの・はかりごと・おろかなりとぞ・ひとまをしける・十らうくらんど
みののくににも・こらへえで・をはりのくにに・ひきしりぞく・へいけつづいて・をはりのくにに・うちこえ・さんざんに・せめければ・
P284
十らうくらんど・をはりのくににも・こらへえで・みかはのくにに・ひきしりぞき・やはぎがはの・はしを・ひいて・むかひのきしに・ぢん
をとる・へいけつづいて・みかはのくにに・うちこえ・やはぎがはをも・わたされければ・十らうくらんど・みかはにも・こらへ
えで・とほたふみのくにに・ひきしりぞき・はまなのはしを・ひきて・むかひのきしに・ぢんをとる・へいけつづいて・せめられけるが・
たいしやうぐん・しよらうのここち・いできたりとて・たかせのふもとより・とつてかへす・こんども一ぢんは・やぶれども・ざん
たうを・やぶらねば・はかばかしう・しいだしたる・ことなきがごとし・へいけは・きよきよねん・こまつのおとど・
こうじたまひぬ・こんねんまた・にふだうしやうごく・うせたまひしかば・ねんらいおんこの・ともがらのほかは・まゐりちかづけるものもなし・なかに
も・ゑちごのくにのぢうにん・じやうのたらうすけながは・さんぬる二ぐわつに・ゑちごのかみに・にんぜし・そのてうおんのかたじけなさに・きそ・
つゐたうせんとて・ゑちご・では・あひづ四ぐんを・もよほしけるに・つがふ・そのせい・六まんよき・おなじき五ぐわつ十五にちに・かどいで
して・あかつきすでに・うつたたむとしける・そのよのやはんばかりに・あめかぜおびただしう・ふりくだり・あめかぜ
やんでのち・こくう・しばらく・うすぐもつて・さふらひけるに・おそろしげなる・こゑを・もつて・こくうに・
ものが・つげてとほる・なにものにても・だいがらんほろぼしたる・へいけのかたうど・したらんものをば・いちいちに・め
しとるべしと・よばはつたりければ・じやうのたらう・おそろしさ・きくひと・みなみのけよだつて・おぼえけ
れども・ゆみやとりのそれには・よるべからずとて・やかたを・いで・十四五ちやう・いでたりけるに・じやうのたらうが・
うへに・くろくもひとむらおし・おほふとぞ・みえし・たちまちめくれ・はなぢたつて・たふれふす・むまにても・か
なふべうも・みえざりければ・あをたに・かかれてやかたにかへり・二ときばかりあつて・しにけり・じやうの四
P285
らう・はやむまを・たてて・このよしまをしたりければ・へいけの・ひとびと・こはいかがせんとぞ・さわがれける・おなじ
き・七ぐわつ十三にちに・かいげんあつて・やうわぐわんねんとぞ・まをしける・おなじき十四かに・ぢもくおこなはれて・ちくごのかみ
さだよし・ひごのかみに・なつて・ちんぜいのむほん・たひらげむとて・三千よきにて・みやこをたつ・おなじき八ぐわつ八かのひ・
まさかどつゐたうのれいとて・くわんのちやうにて・だいにんわうゑおこなはる・おなじき九ぐわつ九かのひ・すみともつゐたうのれいとて・くろがねの
かつちうを・いせへ・まゐらつさせ・たまひけるに・さいしゆじんぎのおほなかとみのさだたか・ゐんのごしよへまゐり・くろがねのかつちうを・
うけとりて・いせへ・もつて・まゐるほどに・あふみのむまやにて・やまひづき・いせのりぐうにて・しにけり・そのころ・へい
けは・みゐでらにて・三七にちの・五だんのほふを・おこなはせられけるに・はじめの七かの・だい三かに・あたりけ
るよ・がう三せのだんの・だいあじやり・かくさんほういん・ひぎやうしやの・ひがんしよにて・ひじに(ねしに)に・こそは・したり
けれ・しんめいも・さんばうも・ごなふじゆなしといふこと・いちじるし・そのころ・あんしやうじの・じちげんあじやり・へいけへ・
ごくわんじゆ・たてまつりけるが・げんじ・てうぷくとは・かかで・へいけてうぷくと・かきたるぞ・これきたいの・あやまりなり・めさ
れて・いかにと・おんたづねありければ・さんさふらふ・われらは・てんかたいへい・てうてきてうぷくの・おんいのりつかまつる・ものなり・しか
るに・たうせいのていを・みさふらふに・へいけ・もつぱら・てうてきとみえさせ・たまふに・よつて・これをてうぷくす・されば・
なにのひがごとか・さふらふべきと・まをしたりければ・そのほう(イほうし)・しざいか・るざいか・なんど・ごさたありしかども・てんかの
だいせうじに・まぎれて・やみにけり・そののちへいけほろび・げんじのよとなりて・かまくらどのより・たづねいだされたてまつつて・や
がてごんりつしなされ・ほういんに・きよせらる・おなじき十二ぐわつ・廿五にちに・ちうぐう・ゐんがうかうむらせたまひて・けんれいもん
P286
ゐんとぞ・まをしける・しゆじやう・えうしゆのときのぼこうのゐんがう・これはじめとぞ・うけたまはる・さるほどに・としくれて・やうわも・二ねんにな
りにけり
横田河原合戦 613
おなじきしやうぐわつ廿三にちに・たいはく・ばうせい・をかすてんもんはかせ・これを・うらなひまをす・たいはくばうせい・をかすときんば・
しやうぐん・くにのさかひを・いづとも・いへり・おそろしおそろしとぞ・まをしける・おなじき二ぐわつに・さんもんの・ごんせうそうづけんしん・
きせんじやうげを・すすめて・ひえのやしろに・おいて・一まんぶの・ほつけどくじゆの・ことあり・かかりければ・ほうわうも・おん
けちえんのために・ごかうなる・またなにものが・まをしだしたりけん・一ゐん・やまのたいしゆにおほせて・へいけ・つゐたう・あるべき
よし・きこえしかば・へいけのひとびと・こはいかに・せんとぞ・さわがれける・さるほどに・さんもんには・へいけ・
やまをせむべしと・いふことに・ききなして・さんもんのさうどう・なのめならず・かかりければ・おんけちえんも・はやうち
さましぬ・ほうわう・いそぎ・みやこへ・くわんぎよなる・なかにも・ほん三ゐちうじやうしげひら・一千よきにて・きたしらかはまで・おんむかへ
にまゐり・ほうわうを・うけとり・たてまつつて・いそぎほうぢうじどのへ・くわんぎよなしまをされけり・かかりければ・へいけ・やまを・せむ
べしと・いふことも・またやまより・へいけを・ほろぼすべしと・いふことも・あとかた・なき・そらごとなり・これひとへ
に・てんまのしよゐとぞ・おぼえたる・おなじき五ぐわつ八かのひ・かいげんあつて・じゆえいぐわんねんとぞ・まをしける・さるほどに・ゑち
ごのくにのぢうにん・じやうの四らうすけもちは・あにすけながが・せいきよのあひだ・ながもちと・かいめいし・あにが・うつぷんをたつせんがために・
P287
きそつゐたうせん・とてこんどは・ゑちごばかりを・もよほしけるに・つがふそのせい・二まんよき・おなじき九ぐわつ十一にちに・
ゑちごのこふをたつて・しなののくにに・うちこし・よこたがはらに・ぢんをとる・きそも・そのせい三千よき・たうごく・
よだのじやうを・たつて・よこたがはらに・おしよせ・むかひのきしに・ぢんをとる・きそ・のたまひけるは・よしなかが・いくさ
のきちれいには・七てにわかつものなれば・まづ・いまゐの四らうかねひらに・五百よきを・さしそへて・よこたがはに・
うちいれてぞ・わたさせける・のこり六ても・おのおののゐたるところより・うちいれうちいれわたしけるを・へいけは・うんのきはめ
にや・これをたいぜいとこそ・みてんげれ・まづじやうの四らうがせんぢんに・さふらひける・あひづのじようたんばう・うたれにけ
り・じやうの四らう・きそに・ていたうせめられて・むらくもたつてぞ・ひかへたる・きそ・かつに・のつていよいよ
せめければ・じやうの四らうが・せい二まんよきとは・みえしかども・おちぬ・うたれぬ・せしほどに・たんごぶらいに・
なりに・けり・じやうの四らう・ただ一きに・なつて・かなはじとや・おもひけん・よこたがはに・とびいり・みづのそこを・く
ぐつて・ゑちござかひへぞ・おちゆきける・じやうの四らう・はやむまを・たてて・みやこへ・このよしを・まをしたりけれども・へい
けは・あまりのことにや・いと・さわぐけしきも・ましまさず・おなじき十ぐわつ十三にちに・さきのうだいしやうむねもりきやう・
ないだいじんに・あがりたまふ・くぎやう・六にん・せんくあり・でんじやうびと十三にん・こしようせらる・みな・われもわれもと・いで
たたれたりしありさま・いまいくほどぞやとぞ・みえし・とうごく・ほくこく・はちのごとくに・おこりあひ・せんやう・せん
おん・なんかい・さいかいの・つはものども・すでに・みやこへせめのぼる・なんどきこえしかども・へいけは・かぜのふくやらん・なみのたつ
らんをも・しらずしてあそび・たはぶれてのみ・おはしけるぞ・ひとへにへいけの・うんのきはめなる・さるほど
P288
に・としくれて・じゆえいも・二ねんに・なりにけり



 

入力者:荒山慶一



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