平家物語(城方本・八坂系)
巻第九 P370
拝礼の沙汰 901
じゆえい三ねん・しやうぐわつついたちのひ・ゐんのごしよは・だいぜんのだいぶなりただが・しゆくしよ・六でうにしのとうゐんなりければ・ごしよの
てい・しかるべからざるうへ・はいらいなし・ゐんのはいらいも・なければ・八しまのいそにて・はるをむかへ・あらたまの・とし
たちかへり・たりけれども・せんていましませば・しゆじやうと・あふぎたてまつれども・こでうはいも・おこなはれず・はらかも・そうせず・
よしのの・くずもまゐらず・ひのためしも・たてまつらず・さすが・よみだれたりとは・いひしかども・みやこにて・か
くは・なかりしものをと・あはれなり・せいやうのはるもきたり・うらふくかぜも・やはらかに・いそべものどかに・なりゆけども・へい
けのひとびとは・いつも・こほりにとぢこめられたる・ここちして・ただかんくてうに・ことならず・とうがんせいがんのやなぎ・ちそく
をまじへ・なんしほくしのうめ・かいらくすでに・ことにして・はなのあした・つきのよる・しいかくわんげん・まりこゆみ・あふぎあはせ・ゑあはせ・
くさづくし・むしづくし・さまざまに・けうありしことどもを・おもひいで・かたりあひて・ながきひを・くらしかねたまふぞ
あはれなる
P371
佐々木と・梶原と・生数寄・摺墨を・あらそふ事 902
おなじきむつき十かのひ・きそのさまのかみよしなかを・ゐんのごしよへ・めされて・へいけ・つゐたうのために・さいこくへ・はつ
かうすべきよしを・おほせくださる・きそ・かしこまつてうけたまはり・おなじき十六にちに・かどでして・あかつきすでに・うちたたんと・しけ
るに・またとうごくよりのうつて・すまんぎにて・みののくに・いせのくにに・つきなんと・きこえしかば・きそは・かどいでばかり
にて・さいこくげかうは・とどまりぬ・きそは・そのころ・三千よきときこえしが・みなはうばうへ・わかち・つかはし
て・をりふしせいこそ・なかりけれ・まづひぐちのじらうかねみつに・五百よきを・さしそへて・をぢの・十らうくらんどゆきいへ・
かはちのくに・ながののじやうに・ありとききて・せめさせんとて・つかはしぬ・いまゐの四らうかねひら七百よきにて・せた
のてへこそ・むけられ・けれ・にしな・たかなし・やまだのじらう・五百よきにて・うぢのてへこそ・むかひけれ・
しだの三らうせんじやうよしのり・ほうどうの三らうよしひろ・つがう三百よきにて・よどをふせぎに・むかひけり・そのころかまくらどのに
は・いけずき・するすみとて・きこゆる・めいばあり・なかにもいけずきとは・くろくりげなるむまの・ふとくたくましきが・むまをも・
ひとをも・よせたてず・くひければ・いけずきとは・なづけられたり・たけは・やきのむまとぞ・きこえし・かまの
おんざうし・九らうおんざうし・このむまを・しよまうありけれども・かなはず・あるとき・かぢはらげんたかげすゑ・まゐつて・このむまを・まをし
ければ・ひやうゑのすけ・のたまひけるは・これは・よりともが・しぜんのとき・一のむまに・たのんであれば・かなふまじ・
これもおとらぬ・むまなればとて・するすみをぞ・たまはりける・また・ささき四らうたかつなまゐつて・このむまを・まをしければ・P372
ひやうゑのすけ・のたまひけるは・ずゐぶんひとびとの・まをされつるうへ・またかぢはらげんだかげすゑが・まをしつるにも・たばざんなり・
ただしごへんのちち・ささきのげん三ひでよしは・こさまのかうのとのの・おんいとほしみ・あさからざりき・されば・はうげん・
へいぢ・りやうどのかつぜんに・いのちをすてたりしひとなり・あひついでまた・ごへんのほうこう・しんべうにさふらふ・こんどうぢがはをば・
このむまにのりて・わたすべしとて・いけずきをこそ・たうだりけれ・ささき・しやうがいのめんもく・これには・すぎじとお
もひ・ごぜんを・まかりたつて・いでけるが・いかがはおもひけん・またたちかへり・こんどたかつな・うぢがはにて・しした
りと・きこしめされさふらはば・はやひとに・さきを・せられてんげりと・おぼしめされさふらふべし・またいきたりと・きこ
しめされさふらはば・せんぢんはさだめて・したるらんものをと・おぼしめされさふらふべしと・まをしきつて・いでければ・あつ
ぱれ・くわうりやうの・まをしやうかなとぞ・のたまひける・さるほどにひとびと・かまくらをたつて・たにやまを・うちこえ・するがのくに・うき
じまがはらに・かかつて・やうやうあゆませゆくほどに・なかにも・かぢはらげんだかげすゑ・たかきところに・うちあがり・お
ほくの・むまどもを・みけるに・いく千万といふかずを・しらず・おもひおもひのくらおかせ・いろいろのしりがいかけさせて・
あるひは・のりくちに・ひかせ・あるひは・もろくちに・ひかせつつ・ひきとほしひきとほし・しけるなかにも・かげすゑが・するすみに・ま
さるむまこそ・なかりけれと・よろこうで・しづかに・あよませゆくところに・はるかに・ひきさがつて・ささき・
いけずきに・きんぷくりんのくらおかせ・こぶさのしりがい・かけさせて・とねりあまたに・ひかせつつ・さしもに・ひろき・
うきしまがはらを・ところもなげに・おとらかさせ(イおどろかさせ)・しらあわ・かませちうにかけつて・いできたるかげすゑ・あ
たりを・はらつてぞ・みえたりける・かぢはら・いけずきが・のぼりけるよ・やあそれは・たがおんむまぞ・ささ
P373
きどののおんむまさふらふ・ささきは・三らうどのか・四らうどのか・四らうどののおんむまさふらふとて・ひきとほす・かぢはら・こはい
かに・かげすゑが・まをしつるには・たばで・ささきに・たうづることこそ・ゐこんなれ・いかさまにも・こんど・
みやこに・のぼり・きそどののみうちに・四てんわうと・きこえつる・いまゐ・ひぐち・たて・ねのゐに・くむか・さらすば・さい
こくにくだり・へいけの・かたに・さしも・おにがみの・やうに・きこえたる・ゑつちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・
かづさのあく七びやうゑかげきよに・くむか・さらずば・のとどのに・くみたてまつらんとこそ・おもひしに・ささきに・お
もひかへられたてまつりて・いくさして・しなんと・はるばると・きやうへ・のぼつて・せんなし・せんずるところ・ここにて・ささ
きと・ひつくんで・さしちがへ・はぢあるさぶらひ・ふたりしして・ただいま・だんじかかへたまふ・かまくらどのに・そんとらせたてまつ
らむと・おもひて・あひまつところに・ささきも・しだいに・ちかづいたり・かぢはらおしならべてや・くむべき・また
むかふさまに・あててや・おとすと・おもひけるが・まづことばをぞ・かけたりける・いかにさふらふささきどの・
いけずき・たまはつてとなう・ささき・かねて・こころえてんげれば・すこしもさわがず・につこと・わらひ・いけず
きをば・たまはらぬぞとよ・そのゆゑは・ずゐぶんひとびとの・まをされつるうへにも・たばざんなれば・ましてたかつななん
どが・まをすとも・よもたまはらじ・まをしてまた・たまはざらんは・むねんなるべし・よしよし・かかる・てんがのおんだい
じに・しうのおんむまや・もののぐなんど・ぬすみたらんは・すこしもくるしかるまじ・きつくわいのおほせをば・ごにち
にこそ・うけたまはらんめと・おもひて・たたむと・しつるあかつき・とねりをとこに・こころをあはせて・ぬすんで・のぼるぞ・
かぢはらどのと・いひければ・かぢはらこのことばに・はらがゐて・ねつたい・さらばかげすゑも・ぬすむべかりつるものをと
P374
て・どつとわらつてぞ・のきにける
宇治川 903
さるほどに・げんじ六万よきを・をはりの・あつたより・おほてからめて・二てに・わけてぞ・のぼられける・まづおほての
たいしやうぐんかまのおんざうしのりよりに・あひしたがふひとびとには・たけだのたらうのぶよし・かがみのじらうとほみつ・そのこのこじらうながきよ・
一でうのじらうただより・いたがきの三らうかねのぶ・ゐざはの五らうのぶみつ・へんみのくわんじやありよし・やすだの三らうよしさだ・さぶらひたいしやうに
は・どひのじらうさねひら・ちやくしのやたらうとほひら・いなげの三らう・はんがへの四らう・もりの五らう・ひらやまのむしやどころすゑしげを・
さきとして・つがふそのせい・三万五千よきにて・あふみのくにのぢ・しのはらにぢんをとる・からめての・たいしやうぐん・九らうおんざう
しよしつねに・あひしたがふひとびとには・たしろのくわんじやのぶつな・おほうちのたらうこれよし・やまなの三らうよしゆき・さぶらひたいしやうには・はたけやま
のしやうじじらうしげただ・しやてい・ながのの三らうしげきよ・おなじきうぢ・かはごえのたらうしげより・ちやくしの・こたらうしげふさ・しぶやのしやう
じしげくに・そのこのうまのぜうしげすけ・かぢはらげんだ・ささきの四らう・くまがへのじらうなほざね・ちやくしの・こ二らうなほいへ・かぢはらへい
じ・ささきの五らう・かすやのとうだ・ゐのまたのこへい六のりつなを・さきとして・つがふそのせい・二万五千よきにて・いせの
くにをとほり・いがのくにを・へつつ・うぢばしのつめにぞ・おしよせたる・むかひのきしには・らんぐひうつて・さかも
ぎ・ふさぎ・みづのそこには・おほづなはへ・さかもぎ・つないで・ながしかけたりければ・いはなみ・おびただしう・
たきなりし・せまくら・しきりに・みなぎりて・さかまくみづも・はやかりけり・まだ・うのこくの・ことなれば・かはP375
ぎり・ふかくたちこめて・むまのけも・もののぐのけも・さだかには・みえざりけり・ころはむつきはつかあまりの・
ことなれば・ひらのたかね・しがのやま・むかしながらの・ゆきげに・たにだにのこほり・とけあひて・みかさはるかに・まさ
りたり・ふねならでは・たやすくわたすべしとも・みえざりけり・かかりけるところに・九らうおんざうしよしつね・ひとびとの・こころ
を・みんとや・おもはれけん・まづ・かはのはたに・うちのぞんで・こは・いかに・とのばら・みづの・ひんをや・まつ
べきと・のたまふところに・ここに・むさしのくにのぢうにん・はたけやまのしやうじじらうしげただ・しやうねん廿一に・なりけるが・すすみいでてまをし
けるは・こはごぢやう・ともおぼえさふらはぬものかな・さしも・このかはのごさたは・かまくらどのの・おんまへにても・さふらひつ
るものを・ひごろも・なきうみかはが・けふ・はじめて・いできても・さふらはば・こそ・いまさら・かくとも・まをさせたまはめ・
あふみの・みづうみのすゑなれば・まてどもまてども・みづひまじ・はしをもまたたれか・かけても・まゐらせさふらふべき・さんぬるぢ
しようの・かつせんに・あしかがの・またたらうただつなが・十七さいにて・ここをわたしけるは・おにがみにては・よもさふらはじ・こん
どは・しげただ・せぶみつかまつりさふらはん・つづけや・むさしのとのばらとて・たんのたう・五百よき・くつばみひしひしと・ならぶ
るここに・びやうどうゐんのうしとら・たちばなのこじまがさき・むすぶの・みやうじんの・おんまへより・むしやこそ・二き・いできたれ・
てきみかた・あれは・いかにとみるところに・一きは・かぢはらげんだ・一きは・ささきの四らう・きこゆる・いけずき・
するすみに・のりつれて・ひきかけひきかけぞ・いできたる・ひとめには・なにとも・みえねども・たがひに・さきを・あらそひける
が・かぢはら・ささきに・ゆみたけ・ばかりぞ・すすんだる・ささき・いまは・かなはじとや・おもひけん・まづ・
はかりごとに・なういかに・かぢはらどの・とうごくにては・とねがは・さいこくにては・このかはを・こそ・につぽん・一二の・たいP376
かとは・まをせ・なかにもこのかはは・うへもしたも・はやうて・むまのあしたち・すくなし・あのかぢはらどのの・むまのはる
びの・はるかにのびて・さうぞ・かはなかにて・くらのりかへし・あやまち・したまふな・しめたまへしめたまへと・いはれ
て・かぢはら・さもやあるらんとおもひ・たづなをば・むまの・ゆかみ(イゆみのかみ)に・うちおき・さうのあぶみを・
ふみすかし・はるびを・といて・二しめ・三しめ・ひつしめひつしめ・しけるまに・ささき一むち・あてて・かは
へ・さつとぞ・うちいりたる・かぢはらさては・たばかりけるよ・そのぎならば・一どでも・たばからる・まじき
ぞとて・おなじう・つづいて・うちいりたり・かはなかまでは・たがひにおとらず・わたしけるが・されども・ささき
は・いけずきと・まをす・むにのむまには・のつたり・かはのあんないは・しつたりけり・むまのあしに・かかるつなをば・た
ちをぬいて・ふつふつと・うちきりうちきり・さしもに・はやき・うぢかはなれども・一もんじに・さつとわたいて・
おもふところに・うちあげたり・かぢはらも・つづいて・わたしけるが・おほづなに・むま・のりかけ・のため・かたに・
おしおとされ・はるかの・しもへぞ・うちあげたる・さてこそ・せんぢんささき・二ぢんかぢはらと・につきには・しるされたれ・
そののち・ささきの四らうたかつな・たかきところに・うちあがり・むちにて・よろひのみづ・なでくだし・あぶみふんばり・つつたちあがり・
だいおんじやうを・あげて・これは・うだのてんわうに・十一だいのこういん・あふみのくにのぢうにん・ささきのげん三ひでよしが・四
なん・四らうたかつな・こんどうぢがはの・せんぢんぞやとぞ・なのつたる・けしきまことに・あたりを・はらつてぞ・みえ
たりける・そののち・はたけやまも・つづいて・わたしけるが・むかひのきしより・やまだのじらうが・よつぴいて・いけ
るやに・かはなかにて・むまのひたひを・のぶかに・いさせて・むまこらへずして・びやうぶを・たふすが・やうに・
P377
かつはと・まるびければ・はたけやま・かなはじとや・おもひけん・ゆんづゑに・すがり・かはなかにぞ・おりたつ
たる・いはなみ・しきりに・かぶとの・てつさきに・あたつて・おしあげおしあげ・しけれども・これをこととも・せず・
みづのそこをくぐつて・むかひのきしに・わたりつくはたけやまが・うしろのあたりに・おもきものの・とりつきければ・なにものや
らんと・ふりむいて・みけるに・だいのをとこの・おもよろひきたりけるがながれかかつて・とりついたり・はたけやま・
ごへんは・たそ・おほぐしのじらうしげつなさふらふ・あまりに・よわきむまに・のりてさふらへば・かはなかにて・おしおとされ・な
がれかかつて・みだりに・とりつき・まゐらせてさふらふ・たすけたまへと・いひければ・はたけやま・かしこう・あや
まち・しつらう・いつも・ごへんたちをば・しげただこそ・たすけまをさんずれと・いふままに・めての・かひな
を・さしいだし・おほぐしが・よろひのうはおび・あげまきともに・とりぐして・ちうに・さしあげ・二ふり三ふり・
うちふつて・だん(イきし)のうへへぞ・なげあげたる・おほぐし・ちうにて・たちを・ぬき・まつかうに・さしあて・
だいおんじやうをあげて・これはむさしのくにのぢうにん・おほぐしのじらうたひらのしげつな・こんど・うぢがはの・かちわたりの・せんぢんぞやとぞ・
なのつたる・てきも・みかたも・一どに・どつとぞ・わらひける・そののちはたけやまも・たかきところに・うちあがり・かはなか
にて・むまのひたひを・いたりつる・やまだのじらうに・めをかけて・三じやく五すんありける・がうひらといふ・たちをぬ
き・やまだに・うつてかかる・やまだも・ぬきあはせてぞ・うちやうたる・はたけやまわかむしや・やまだおいむしやなり・やまだ・
はたけやまに・きりたてられ・うけだちにこそ・なりにけれ・いかがはしたりけむ・やまだが・うけはづすところを・
ゆんでのかたより・めてのわきへ・かけず・きつてぞ・おとしける・これを・はじめとして・二万五千よきのつはものどもも・
P378
みな・うちいりてぞ・わたしける・さしもに・はやき・うぢかはなれども・むま・ひとに・せかれて・みづは・うへにぞ・
たたへたる・ざふにんばらは・むまの・しもて(イしたはら)に・とりつきとりつき・わたしけるが・ひざより・うへを・ぬらさぬ
ものも・おほかりけり・しぶやのうまのじようしげすけ・かぢはらへいじ・ささきの五らう・かすやのとうだ・ゐのまたのこへい六・かれ
ら五にんは・むまをも・はなれ・ゆんづゑをつき・はしのけたをぞ・わたりける・むかひのきしより・やまだがせい・さし
つめ・ひきつめ・さんざんに・いけれども・これをことともせず・かぶとのしころを・かたぶけ・よろひのそでを・まつかう
に・あてて・さんざんにこそ・たたかひけれ・やまたのじらう・五百よきにて・ふせぎたたかふといへども・おちぬう
たれぬ・せしほどに・五十きばかりに・うちなされ・あるひは・こはたやま・ふしみを・さして・おちゆけば・うぢは・
ほどなく・やぶれにけり・せたをば・いなげの三らうしげなりが・はかりごとに・たながみの・くごのせをこそ・わたしけれ・いま
ゐの四らう・七百よきにて・ふせぎたたかふと・いへども・ぶせいたせいに・かなはねば・せたも・ほどなく・やぶれに
けり
河原合戦 904
きそは・うぢ・せた・やぶれぬと・きこえしかば・ゐんのごしよ・六でうどのに・まゐり・ほうわうを・とりたてまつりて・さい
こくに・くだりへいけと・一になりて・ひやうゑのすけうたんとて・りきしや廿よにんを・すぐつて・ゐんのごしよ六でうどのへ・はせ
まゐられけるが・てきすでに・かはらおもてまで・みだれいりたるよし・きこえしかば・それより・とつてかへし・六でうたかくらな
P379
るところに・ひごろ・みそめたる・にようばうのもとに・たちよつて・さいごのなごりをしまれけるに・ここに・ゑちごのちうた
みついへとて・いままゐりの・さふらひけるが・てきすでに・かはらおもてまで・みだれいりてさふらふに・さやうに・うちとけさせ
たまひては・いぬじに・せさせ・おはしまし・さふらひなんず・はやはやうちたたせたまへと・まをしけれども・きそなほ・
いでやりたまはねば・ささふらはば・みついへには・いとまたびさふらへかし・まづ・さきだち・まゐらせて・しでのやまにてこそ・
まちまゐらせさふらはめとて・はら十もんじに・かきやぶつてぞ・うせにける・きそこれは・よしなかを・すすむるじがいに
こそとて・やがて・もののぐしてぞ・うちたたれける・かうづけのくにのぢうにん・なはのたらうひろずみを・さきとして・そのせい
二百よきには・すぎざりけり・きそ・かはらおもてに・うちいでて・みたまへば・げにもとうごくのたいぜい・うんかのごとく
に・みちみちたり・なかにも・わかてのむしやとおぼしくて・五十きばかりすすんだり・ことにむしや二き・す
すんだり・一きは・てつしがはらの五三らうありなほ・一きは・しほのやの五らうこれひろなり・てつしがはらが・まをしけるは・
ここにひかへて・ごぢんのせいをや・まつべきと・まをしければ・しほのやがまをしけるは・一ぢんやぶれぬれば・ざんたうまつた
からずと・いへり・ただかけよやとて・をめいて・かく・きそも・そのせい・二百よき・たいぜいの・なかにわつ
ていり・にしよりひがしへ・一わたり・きたよりみなみへ・一わたり・とつてはかへし・わつてはとほり・さんざんに・たたか
ひ・一ぱううちやぶつて・いでたれば・二百よきとは・みえしかども・おちぬうたれぬ・せしほどに・五十き・ばかりに
こそ・なりにける・かかりければ・九らうおんざうしよしつねは・うぢのて・おひおとして・のぼられけるが・まづ・ごしよ
の・おぼつかなければとて・しうじう・六き・ゐんのごしよ・六でうどのへ・はせまゐられけるに・ごしよには・だいぜんのだいぶ
P380
なりただ・ごしよのひがしの・ついがきにのぼり・四はう・みめぐらして・みけるに・ここに・むしやの五六き・はせまゐるを・
みつけて・あはやまた・きそが・かへりまゐりさふらふぞやと・まをしたりければ・ほうわうを・はじめたてまつりて・くぎやう・でんじやうびと
や・つぼねのにようばうたちに・いたるまで・こんどぞ・よの・うせはてなるべしとて・てを・にぎり・たてぬぐわんも・ましまさ
ず・なりただ・よつく・みて・いいや・これは・きそにては・さふらはず・かさじるしの・かはつて・おぼえさふらふ・
いかさまにも・これは・こんにちまゐる・とうごくのげんじどもと・おぼえさふらふと・まをしもはてぬに・九らうおんざうしよしつね・ごしよのそう
もんに・うつたつて・だいおんじやうをあげて・これは・かまくらの・ひやうゑのすけよりともが・おとうと九らうくわんじやよしつね・うぢのて・おひ
おとして・まゐるよしを・まをさせたまふべうもや・さふらふらんと・まをされたりければ・なりただ・このよしを・ききて・いそ
ぎついがきよりとぶほどに・あまりに・あわてて・こしを・つきそんじてんげり・あまりのうれしさに・いたさを・わすれ・
はふはふ・おんまへに・まゐりこのよしを・そうしまをしたりければ・ほうわうなのめならず・ぎよかんありて・さらば・もんをひらい
て・いれよやとて・そうもんをひらいてぞ・いれられたる・たいしやうの・そのひのしやうぞくには・あかぢのにしきのひたたれに・くれなゐ
すそごのよろひをき・くはがたうつたる・五まいかぶとのををしめ・こがねづくりのたちを・はき・廿四さいたる・そめはのや・
おひ・しげどうのゆみの・とりうちのもとを・だんしを・一すんに・かかせ・五ぶに・たたんで・ひだりまきに・まいたる・
ばかりぞ・たいしやうの・しるしとは・みえし、のこり五にんも・もののぐこそ・いろいろなりけれども・つらたましひ・こつ
がら・たいしやうには・おとらず・ほうわうは・ちうもんのれんじより・えいらんあつて・ゆゆしげなるものどもが・ありさまか
な・一々に・なのりせよと・おほせければ・なりただうけたまはつて・一々になのらす・さんさふらふ一にんは・たいしやう・九らうよし
P381
つね・一にんは・あふみのくにのぢうにん・ささきのげん三ひでよしが四なん・四らうたかつな・一にんは・むさしのくにのぢうにん・はたけやまのしやう
じしげよしがこに・じらうしげただ・一にんは・かはごえのたらうしげよりがこに・こたらうしげふさ・一にんは・さがみのくにのぢうにん・かぢはら
へい三かげときがこに・げんたかげすゑ・一にんはしぶやのしやうじしげくにがこに・うまのぜうしげすけさふらふと・めんめんになのりて・かしこまる・
そののち・ほうわう・たいしやう九らうよしつねを・おほゆかちかう・めされて・ことのしさいを・おんたづねありけるに・かしこまつてまをしける
は・さんさふらふ・かまくらの・ひやうゑのすけよりとも・きそが・らうぜき・うけたまはつて・のりより・よしつねに・六万よきのぐんびやうを・さし
そへて・のぼせさふらふ・のりよりは・せたよりまゐりさふら〔ふ〕が・いまだ・みえさふらはず・よしつねは・うぢのて・おひおとして・のぼ
りさふらへば・きそは・二百きばかりにて・かはらおもてに・みえ・さふらひつるを・いくさをば・つはものどもに・せさせ・よしつね
は・まづ・ごしよの・おぼつかなさに・さてまゐりてさふらふ・いまはさだめて・きそをば・うちとりさふらひぬらんと・よにも・
こともなげに・まをされたりければ・ほうわう・なのめならず・ぎよかんあつて・さらば・なんぢ・やがて・ごしよちうを・しゆ
ごし・まをせよと・おほせければ・よしつね・かしこまつてうけたまはり・しうじう六き・ごしよのそうもんに・うちたちて・きみを・しゆ
ごしたてまつる・これをはじめとして・十き・廿き・五十き・百き・はせまゐるほどに・ほどなう・三千きに・なつて・
ごしよの・四もんをかためて・しゆごしたてまつりけるにぞ・ほうわうも・あんどの・みこころつき・おぼしめす・若(イ若字なし)
くぎやう・でんじやうびとや・つぼねのにようばうたちに・いたるまで・ちからづきてこそ・おもはれけれ・きそは・なほも・ゐんのごしよ・六
でうどのにまゐり・ほうわうを・とりたてまつつて・さいこくへとは・おもはれけれども・ごしよにも・とうごくのたいぜい・まゐりこもり
たるよし・きこえしかば・また五十よきとつてかへし・たいぜいの・かたに・かけむかひ・ここをさいごとぞ・たたかはれ
P382
ける・かかるべしとだに・しりたらば・いまゐを・せたへは・やらざらまし・ひごろは・一しよにとこそ・
ちぎりしに・ところどころにて・しなんことこそ・かなしけれ・さるにても・いま一ど・いまゐがゆくへを・たづねむとて・かはらを・
のぼりに・かけて・ゆく・てきおつかくれば・とつてはかへし・おつかくれば・とつてはかへし・六でうがはらと・三
でうがはらのあひだにて・七八どまでこそ・かへされけれ・五十きばかりありつるせいも・三十きばかりに・なる・されど
もつひには・てきをおひはらひ・三でうがはらを・うちわたり・あはたぐちへぞ・いでられける・きそが・きよねん・しなのをいでし
には・五万よきと・きこえしが・けふ・四のみやがはらを・すぐるには・しうじう七きに・なりにけり・まして・ちう
うのたびのそら・おもひやられて・あはれなり・七きがなかの一きは・ともゑといへるをんななり
木曽の最後 905
きそは・ともゑ・やまぶきとて・ふたりのをんなを・めしつかはれけるが・なかにも・ともゑとは・廿二三の・をんなの・みめ・
かたち・よかりけるが・あらむまのりの・だいりき・あくしよおとしの・じやうずなりければ・きそ・いくさの・あるたびごとに・
よきよろひ・きせ・よきむまにのせて・一ぱうのたいしやうに・さし・むけられけるに・一ども・ふかくは・せざりけり・
さるほどにきそは・ながさかにかかつて・たんばぢへとも・きこゆ・またりうげごえにかかつて・ほつこくへ・おつとも・きこゆ・
されどもきそは・いまゐがゆくへを・たづねんとて・せたのかたへと・ゆくほどに・おほつの・うちでの・はまにてぞ・いまゐ
の四らうは・いできたる・さるほどに・いまゐの四らうかねひらは・七百よきにて・せたへ・むかうたりけるが・そのせいおちうた
P383
れ・百きばかりになつて・はたをばまいて・もたせ・とつてかへし・みやこをさして・のぼるほどに・一ちやうばかりより・たがひに・さ
ぞと・みてんげれば・りやうはう・こまをはやめて・よりあうたり・きそ・むまうちならべ・いまゐが・てを・とつて・
よしなか・六でうがはらにて・いかにも・なるべかりつるを・なんぢがきやうごの・おぼつかなさに・おほくのかたきに・うしろをみせて・
これまで・きたれるなりと・のたまへば・いまゐ・かしこまつてうけたまはり・かねひらも・せたにて・うちじにつかまつるべう・さふらひつるを・
おんゆくへの・おぼつかなさに・これまで・まゐりたるよしを・まをしたりければ・きそ・さてはちぎりは・いまだ・くち
せざりけり・よしなかが・はたさしは・六でうがはらにて・うたれぬ・よしなかがせいは・このへんにも・さだめて・おちつ(イお
ちちり)たるらん・なんぢが・はたを・あげて・みよかしと・のたまへば・いまゐうけたまはつて・まいてもたせたりける・しらはたといて・
ばつと・さしあげたりければ・きやうよりおちたる・せいともなく・せたよりちつたる・せいともなく・いまゐがはたを・
みて・五き・十きづつ・はせまゐるほどに・ほどなう・五百よきにぞ・なりにける・きそ・うれしきものかな・
このせいあらば・などか・さいごのいくさ・一いくさせざるべき・あれに・しぐらうて・みえたるは・たがてやらん・
かひの・一でうどのの・おんてとこそ・うけたまはりさふらへ・せいは・いかほどあるやらん・七千よきとこそ・うけたまは
れ・きそさては・かたきも・たぜいにて・あんなれば・あのたいぜいの・なかへ・かけいつて・うちじにせんことよとぞ・よ
ろこばれける・きそどのの・そのひのしやうぞくには・あかぢのにしきのひたたれに・うすがねと・いふ・からあやをどしのよろひをき・くは
がたうつたる・五まいかぶとのををしめ・こがねづくりのたちを・はき・廿四さいたる・いしうちのや・そのひのいくさに・うちすて・
せうせう・のこりたりけるを・かしらだかに・おふままに・ぬりごめどうのゆみの・まんなかもつて・きその・おにあしげと・きこ
P384
ゆる・むまのふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらをおきて・うちいり・たいぜいの・かたに・かけむかひ・あぶみふんばり・つつたち
あがり・だいおんじやうをあげて・ひごろは・おとにも・ききけんきそのくわんじや・いまは・めにもみるらんさまのかみ・けんい
よのかみ・あさひのしやうぐん・みなもとのよしなかぞ・かたきは・一でうのじらうと・こそ・きけ・よしなかうちとつて・けんじやううけたまはれや
とぞ・なのられける・一でうのじらう・このよしをききて・いまなのるは・たいしやうきそぞ・あますな・もらすな・うてや
とて・たいぜいがまんなかに・とりこめて・うちとらんとぞ・すすみける・きそも・そのせい五百よき・たいぜいのなかに・わ
つていり・にしよりひがしへ・一わたり・きたよりみなみへ・一わたり・とつては・かへし・わつてはとほり・さん
ざんにたたかひ・一ぱううちやぶつて・いでたれば・五百よきとは・みえしかども・五十きばかりにぞなりにける・ど
ひのじらうさねひらが・三百きばかりにて・ひかへたりける・ところをも・かけわつて・いでたれば・しうじう五きにぞ・
なりにける・五きがなかにても・ともゑは・いまだ・うたれざりけり・ここに・むさしのくにのぢうにんに・おんだの八らうためしげ
とて・およそ卅にんがちから・もつたる・だいりきの・がうのものあり・かれが・らうどうに・むかつて・まことや・きそどののみ
うちに・ともゑとて・をんなむしやの・あんなるぞ・たとへ・こころこそたけくとも・おもふに・なにほどのことか・あるべき・おなじ
くは・くんで・いけどらんと・おもふなり・われ・くむとみば・なんぢら・すきをあらせず・おちあへとて・かしこ・
ここを・かけまはりかけまはり・みけるところに・ここに・ねりぬきに・うめの・たちえ・ぬひたる・ひたたれに・もえぎにほひの・よろひ
をき・くはがたの・かぶとのををしめ・あししろのたちをはき・十八さいたるそめはのや・おひ・二どころどうのゆみもちて・つき
げなるむまの・ふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらおいて・のりたりける・むしやをみつけ・おんだ・これや・そなるらんと・
P385
おもひ・さしうつぶいて・みければ・かねぐろに・うすげしやうをぞ・したりける・おんだ・さればこ
そと・おもひ・ゆんでの・かたを・うちすぐるていに・もてなし・あひつけ・よつて・むずとくむ・ともゑこのよし
を・きつとみて・めての・うでを・さしいだし・おんだがよろひの・むないた・たまかけぼねに・とりぐして・ちうに・
さしあげ・二ふり・三ふり・うちふつて・くらのまへわに・おしあつるとぞ・みえし・このひごろ・さしも・きこえ
たりつる・おんだが・しやくび・ねぢきつて・すててけり・らうどうは・これをみて・おちやうにおよばねば・みな
ちりぢりにこそ・なりけれ・そののち・きそ・ともゑを・めして・いづくまで・かたきに・うしろを・みすべきな
れば・よしなかは・ただいまこれにて・じがい・せむとおもふなり・なんぢは・これより・いづかたへも・おちゆくべしと・のたま
へば・ともゑ・こは・くちをしきことをも・のたまふものかな・いづくまでも・さいごのおんとも・つかまつるべきよしを・まをしければ・
きそなんぢが・こころざしのほどは・うれしけれども・ゆみやとりの・さいごのところにて・をんなの・ししたらんには・こうだいのきこえ・あ
しかるべし・ただこれより・いづかたへも・あしに・まかせて・おちゆき・よしなかがごせ・とぶらうて・えさせよ・
それぞ・さいごの・ともしたりとも・おもふべきと・のたまへば・ともゑ・なみだを・ながして・きよねん・しなのを・いでしより
いらい・だいせうじ・かつせんに・あふこと・廿よど・かたとき・はなれまゐらすることも・さふらは・ざりしに・いま・しうの
さいごを・みすてて・いづくを・さして・おちゆくべきぞやとて・さしも・たけき・ともゑなれども・すすむなみだは・
せきあへず・きそ・さるにても・とうとうと・のたまへば・ともゑちからおよばず・あはづの・こくぶんじの・みだうのまへに・
もののぐぬぎおき・たちわきばさみ・ひがしをさして・おつるとぞみえしが・ゆきがたしらずぞ・なりにける・てづか
P386
のたらううちじにす・てづかのべつたうは・いたでおひて・せたのかたへぞ・おちゆきける・いまはきそと・いまゐとばかりなり・き
そどの・いまゐに・むかつて・のたまひけるは・ひごろは・なにともおもはざりつるうすがねが・けふは・などやらん・おも
つて・おぼゆるぞと・のたまへば・いまゐ・いまだ・おんむまも・つかれさふらはず・またおんみも・よわらせたまはねば・
なにごとによつてか・一りやうのおんきせながの・おもうは・ならせ・たまふべき・いまはみかたに・つづくおんせいもさふらは
ねば・おんこころぼそきにてぞさふらふらん・かねひら一きをば・よのむしや・千きと・おぼしめされさふらふべしと・まをしたりけ
れば・きそおほきにいかつて・よしなか六でうがはらにて・いかにもなるべかりしみの・これまでおちきたりて・なんぢと・一しよにし
なんいのちの・なにごとによつてか・をしうては・おくすべき・そのぎならば・うちじにせんとて・またかけいでむと・し
たまひけるを・いまゐ・いそぎむまよりとんでおり・きそどのの・おんむまのみづつきに・とりつきたてまつて・ゆみやとりは・ひごろ
いかなる・かうみやうをして・さふらへども・さいごのところにて・あしうさふらへば・ながきゆみやの・おんきずなるべし・このひ
ごろ・につぽんこくに・きこえさせたまひたる・きそどのをば・そんぢやうそのくにの・たれがしが・らうどうのてにかけて・
うちまゐらせたりなんど・いはれんことこそ・くちをしけれ・あれにみえてさふらふをば・あはづのまつばらとまをしさふらふ・あの
まつのうちへ・いらせたまひ・しづかにごねんぶつさふらひて・ごじがいさふらふべし・かねひらがえびらにや七八・いのこしてさふらへば・ふせぎや
においては・つかまつらんずるさふらふとて・おんむまのはなをとつて・しきりに・おしむけおしむけしければ・きそちからおよびたまは
ず・あはづのまつはらをさしてぞ・おちられける・ころはむつき廿一にちの・いりあひ・ばかんのことなれば・あはづのまつ
も・かすみくれ・ぬまたに・うすごほりの・とぢふさがりたるを・しらずして・ぬまへむまを・うちいれ・あふれどもあふれども・うて
P387
どもうてども・はたらかず・きそはなほも・いまゐがゆくへの・おぼつかなさに・うしろをかへりみたまへば・そののちいまゐ
も・むまをよせうちのりて・たいぜいのなかに・かけむかひ・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはしな
ののくにのぢうにん・きそのごんのちう三かねとほがこに・きそどのの・おんめのとご・いまゐの四らうかねひらとて・かまくらどのまでも・
しろしめされたんなるぞ・かねひらうちとつて・けんじやううけたまはれやとぞ・なのりける・てきのかたには・このよしをききて・ただ
いまなのるは・いまゐの四らうかねひらぞ・あれいとれや・うつとれとて・さしつめひきつめ・さんざんにいけれども・
いまゐの四らうかねひらは・よろひよければ・うらかかず・すきまをいねば・てもおはず・いまゐもししやうはしらねども・八
のやにて・かたき八きまでこそ・いおとしけれ・ここにとうごく・さがみのくにのぢうにん・みうらのいしだの二らうもろひさ(イためひさ)
となのつて・きそどのを・めにかけたてまつり・やごろに・はせちかづきて・三にんばりに・十三ぞくの・なかざしとつてうち
つがひ・よつぴいてひやうといる・をりふしふりむきたまへる・うちかぶとをしたたかに・いさせて・いたでなりければ・かぶと
のまつかふを・くらのまへわにおしあて・うつぶして・おはしけるところを・いしだがらうどう・あまたおちあうて・き
そどののおんくびをば・たまはりてんげり・そののちくびをば・たちのきつさきに・さしつらぬき・たかくさしあげ・だいおんじやう
をあげて・このひごろにつぽんごくに・きこえさせたまひたる・きそどのをば・とうごくさがみのくにのぢうにん・三うらのいしだのじらう
もろひさが・かうこそうちたてまつりたれやとぞ・なのりける・いまゐこのよしをきいて・いまはたれを・かばはんとて・いくさをも
すべき・いかにとうごくのひとびと・がうのものの・じがいするをみて・てほんにせよやとて・むまのうへにて・よろひのうはおび
きつてのけ・はら十もんじに・かきやぶつたりけれども・なほもしなれざりければ・たちのきつさきを・
P388
くちにふくみ・むまよりさかさまに・おちつらぬかつてぞ・うせにける・きそどのは卅一・いまゐの四らう卅三・
きそといまゐが・うたれてぞ・あはづのいくさは・やぶれにける(イやみにける)
樋口が切れ 906
さるほどに・ひぐちの二らうかねみつは・きそどのの・をぢ十らうくらんどゆきいへ・かはちのくに・ながののじやうにありとききて・せめむと
て・むかうたりけるが・十らうくらんど・ながのをばたつて・きのくに・なぐさにくだつて・おはしけるを・ひぐちつ
づいてせめけるに・またみやこにも・いくさありとききて・それよりとつてかへして・のぼるほどに・いまゐがげにんのをとこども・
ひぐちどのに・このよしをまをさんとて・かはちをさしてくだりけるが・よどのおほわたりのへんにて・ゆきあうたり・ひぐちの
二らう・さていかにやと・いひければ・さんさふらふきみは・ゆふべあはづのまつばらにて・うたれさせ・おはしましさふらひ
ぬ・いまゐどのは・ごじがいとまをす・ひぐちの二らう・うちうなづき・なみだをはらはらとながして・いまはかうござんなれ・
これききたまへや・ひとびと・きみにおんこころざしおもひあはれむずるひとびとは・これよりかねみつを・たいしやうとして・みやこにのぼり・
うちじにしたまふべし・またいのちをしからんずるともがらは・これよりいづかたへも・おちゆくべしといひければ・あるひはここにて・むま
にものかひ・あるひはかしこにて・かぶとのを・しむるなんどして・五き十きづつ・おちゆくほどに・とうじ四つかのへんに
ては・ひぐちがせい・わづかに・廿よきにぞ・なりにける・ひぐちのじらう・けふすでに・みやこへいるときこえしかば・
たうも・かうけ・とうじ四つかに・はせむかふ・ここにひぐちがせいのなかに・ちののたらうみつよしと・まをすものあり・たいぜいのかたP389
にかけむかひ・あぶみふんばりつつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これにかひの一でうどののてや・ましますと・
ののしつたりければ・かたきみかた・どつとわらつて・こはいかに・一でうどのの・てにてなきは・いくさはせられ
ぬことかと・いひければ・みつよしもつとも・いはれたり・これはしなののくに・すはのかみの・みやにすまひつかまつる・ちののたいふ
みつひろがこに・ちののたらうみつよしと・まをすものにてさふらふなり・またおとうとにてさふらふ・ちのの七らうは・かひの一でうどののみうち
にさふらひしなり・またみつよしがこども二にん・すはのかみのみやに・のこりとどまつてさふらふが・われうたれたるよしをきいて・わがちちは・
ようてや・ししたるらむ・またあしうてや・うたれたるらんとて・なげかんことが・ふびんさに・おなじうは・
七らうがまへにて・うちじにして・かたらせんと・おもふためにこそあれ・まことはかたきをば・きらふまじとて・やたばねとい
て・おしくつろげ・さしつめひきつめ・さんざんにいけるやに・やにはにかたき三きいおとし・そののち・やだねつき
ぬれば・うちもののさやをはづいて・さんざんに・きつてまはりけるが・かたき二き・きつておとし・かれこれ五きうちと
つて・わがみも・よきかたきとひつくんで・おち・さしちがへてぞ・しにける・かたきもこれをみて・をしまぬもの
こそ・なかりけれ・さるほどにひぐちのじらうかねみつをば・ひごろこだまたうのなかへ・むこにとつてぞ・もてなしける・
こだまたういひけるは・ゆみやとつて・ひろきなかへ・いるといふは・かからんとき・一まどの・いきをもやすめまたは・
いのちたすからんためにこそあれ・いざやひぐちが・いのちをたすけむとて・ひぐちがもとへ・このよしを・いひおくりけ
れば・ひぐちのじらう・ひごろはさしものつはものなれども・うんやつきけむ・ゆみをはづし・かぶとをぬいで・かうにんにこそ・
なりにけれ・たいしやうぐんへ・このよしをまをす・のりより・よしつね・ゐんへこのよしを・そうしまをされたりければ・ほうわうよりは・
P390
すでにたすけらるべかりしを・にようばうだちの・まをしあはれけるは・あなあさまし・きそが・きよねんのふゆ・ほうぢうじ
どのへ・よせたりしときは・いまゐひぐちと・いつしものの・こゑのみこそせしか・さればそれらを・たすけられ
んには・あるひはさまをかへん・あるひはみをなげむなんど・まをしあはれければ・ほうわうもちからおよばせたまはず・またきる
べきにぞ・さだまりける・おなじき廿二にちに・しんせつしやうを・かいえきせられて・もとのせつしやうこのゑどの・げんちやくしたまふ・むかし
あはたのくわんぱくどのは・おんよろこびまをしののち七ケにちだにこそ・ありけんなれ・これは六十にちとは・まをせども・そのあひだに・せち
ゑもあり・ぢもくもおこなはれき・さればおもひでなきには・あらずやとぞ・ひとまをしける・おなじき廿四かに・きそが
かうべ・おほぢをわたさる・よたう五にんとぞ・きこえし・まづ・ゐのうへの九らう・ながせのはんぐわんだい・たかなしのくわんじや・ねのゐ
のこやた・いまゐの四らうかねひらとぞきこえし・ひぐちのじらうかねみつは・あゐずりのひたたれに・をりゑぼしきて・きそがか
うべのともして・おほぢをわたされけり・おなじき廿五にちに・五でうにしの・しゆじやかにひきいだし・つひにかうべを・はねら
れけり・さればこれらを・たすけられんには・とらをやしなふに・にたりと・ことにさたあつて・きられけるとぞ・
きこえし・つでにきく・こらうのくに・おとろへて・しよしやう・はちのごとくに・おこつしとき・はいこうさきだつて・かんやうきう
へいるといへども・かううがきたらんことをおそれて・さいわ(イ財寳)・びじんをも・おかさず・きんぎんしゆぎよくを・かすめ
ず・いたづらに・せきのひがしを・まぼつて・ぜんぜんに・かたきをほろぼし・つひにてんかを・ちすることを・えたまへり・
かんのかうそこれなり・さればいまのよしなかも・よりともにさきだつて・みやこへいるといふとも・つつしんでよりともが・げぢをだに
も・またましかば・はいこうが・はかりごとには・よにし・おとらじものをとぞ・ひとまをしける・さるほどに・へいけは・さぬき・P391
の八しまに・おはしけるが・みやこには・きそうたれたりときこえしかば・たいぜいひきぐして・摂津(つ)のくに・なにはがたへぞ・
わたられける・ひがしはいくたのもりを・おほてのきどぐちとさだめ・にしは一たにをじやうくわくに・かまふ・そのあひ・ふくはら・ひやう
ご・いたやど・すまにこもるせい・つがふ十万よきとぞきこえし・これはきよねんのふゆ・びつちうのみづしま・はりまのむろやま・二
ケしよのかつせんにうちかつて・そのあひだにしたがひつくところの・ぐんびやうどもなり・かの一たにとまをすは・くちはせばくて・おくひろし・きた
はやま・みなみはみぎは・みねたかうして・ひとへに・びやうぶを・そばだてたるにことならず・きたは・やまのふもとより・うみのとほあさに
いたるまで・たいぼくをきりて・しがらみにかき・たいせきをたたんで・かいだてとす・うみのとほあさにも・おほふねども・す千さう
そばだて・かたぶけて・かいだてとす・じやうくわくの四はうには・くらおきむまども・十へはたへに・ひきたてたり・じやうくわくのまへ
には・たかやぐらをかいて・うへにもしたにも・つはものども・ところもなく・みちみちたり・つねは・たいこをうちて・らんじやうす・
たかきところには・あかはたいく千万といふ・かずもしらず・うつたてたりければ・はるかぜに・もまれて・てんにひるがへり・ひとへに・
みやうくわのもえのぼるに・ことならず・かたきもこれをみて・おくしぬべうぞ・おぼえたる
六箇度合戦 907
さるほどに・あは・さぬきのものども・このひごろは・へいけに・ちうをいたしけるが・げんじにこころがはりしてんげり・かれらが
まをしけるは・われらこのひごろ・へいけにちうをいたしたれば・いまさらげんじへ・まゐりたりとも・よももちひたまはじ・いざや
へいけに・一やいて・それをおもてにして・まゐらむとて・かどわきのへいちうなごんのりもり・ゑちぜんの三みみちもり・のとのかみのりP392
つね・ふし三にん・びぜんのくに・しもつゐのうらといふところに・おはしけるを・かれらこぶね・廿よさうにとりのり・びぜんのくにに
おしわたり・しもつゐのうらに・おしよせて・ときをどつとぞつくりける・のとどのこのよしをみたまひて・このひごろ・み
かたにちうをいたしたるものどもが・げんじにこころがはりしてんげり・にくしそのぎならば・あますなもらすな・うてやとて・
さんざんに・うちたまひければ・これらのとどのに・ていたくせめられて・かなはじとやおもひけん・またふねにとりのり・四
こくをさして・わたりけるが・をりふしおほかぜおほなみ・むかひてたちければ・あはぢのくににおしわたり・ふくらのみなとにつきにけ
り・またこのところに・げんじ二にんありとぞきこえし・一にんはあはぢのくわんじやためしげ・一にんはかものくわんじやためのぶとて・これら
はこ六でうの・はんぐわんためよしがこどもなり・あは・さぬきのものども・かれら二にんを・たいしやうとして・ふくらのみなとに・じやうくわく
かまへてたてこもる・のとどのこのよしをききたまひて・こぶね五十よさうにとりのり・あはぢのくににおしわたり・ふくらのみなとにおし
よせて・さんざんにせめられければ・あはぢのくわんじや・うたれにけり・かものくわんじやは・いたでおひて・いけどりにこそ・せら
れけれ・これをはじめとして・あは・さぬきのものども・五十よにんが・くびとりて・いちのたににぞ・まゐられける・またあはぢのくに
のぢうにんに・あまの六らうただかげ・是もげんじにこころざしありければ・こぶね五さうにとりのり・かはじりをさして・わたりけるを・
のとどのこのよしを・ききたまひて・にしのみやのおくにて・よせあはせ・あまの六らうがふねを・なかにとりこめて・さんざんにせめられけ
れば・のとどのに・ていたくせめられて・かなはじとやおもひけん・いづみのくにに・おしわたり・ふけいたがはにぞ・つき
にける・またきのくにのぢうにんに・そのべのひやうゑただやす・これもげんじにこころざしありければ・いへのこらうどう・六十よにんを・ひき
ぐして・いづみのくにに・うちこゑ・あまの六らうと一になりて・ふけゐたがはに・じやうくわくかまへて・たてこもる・のとどのこのよしを・きき
P393
たまひて・いづみのくににおしわたり・ふけゐたがはに・おしよせて・さんざんにせめられければ・あまの六らう・のとどのに・
ていたくせめられて・かなはじとやおもひけん・やおもてをば・ざふにんばらに・ふせがせ・わがみは・よにいりて・きやうへのぼり・
げんじと一にぞ・なりにける・のとどの・あまの六らうをば・うちもらされたりけれども・ふせぐところのものども・百よにんが・
くびとつて・いちのたにへぞ・まゐらせられける・またいよのくにのぢうにんに・かはのの四らうみちのぶ・五百よきにて・むほん・お
こすと・きこえしかば・のとどの・このよしを・ききたまひて・さぬきのくにに・おしわたり・いよのくににこえたまふ・かはのこのよし
を・ききて・せうせん百よさうにとりのり・あきのくにに・おしわたり・ははかたのをぢ・ぬたのじらうと・ひとつになりて・
ぬたのじやうに・たてこもる・のとどの・このよしききたまひて・びんごのくにに・おしわたり・みのじまにつきたまふ・つぎのひ・あきの
くにに・うちこえ・ぬたのじやうにおしよせて・さんざんにせめられければ・ぬたのじらう・のとどのに・ていたくせめられて・
かなはじとやおもひけん・ゆみをはづし・かぶとをぬいで・かうにんにこそ・なりにけれ・かはの五十よきに・うち
なされ・ぬたなはてにのがれて・おちけるところを・のとどのの・めのとごに・へい八びやうゑとほしげ・弐百よきにて・おつか
けたり・かはのとつてかへし・さんざんにたたかひ・しうじう五きになつて・おちけるところを・へい八びやうゑがこに・へいはちたらうとほ
かげ・五十よきにて・おつかけたり・かはのとつてかへし・さんざんにたたかひ・しうじう二きになりて・おちけるところを・へい八た
らうが・いへのこに・あべの七らうともなり・ただ一きにて・おつかけたり・かはのがらうどうとつてかへし・あべの七らうと・
ひきくんで・どうとおつ・かはのとつてかへし・まづうへなる・あべの七らうが・くびかききつてなげのけ・したなるらう
どう・とつてひきたて・かたにひつかけ・うらへつつといで・またふねにとりのつて・九こくをさしてぞ・おちゆきける・のとどのP394
かはのをば・うちもらされけれども・ふせぐところのいへのこらうどう・弐百よにんがくびとつて・いちのたにへぞ・まゐらせられける・
さるほどに・九こくのぢうにん・うすきのじらうこれたか・をがたの三らうこれよし・かはのの四らうみちのぶ・三にん一になつて・つがふその
せい・一万よき・千よさうのふねに・とりのり・びぜんまで・せめのぼり・いまきがじやうに・たてこもる・のとどの・このよしをききたま
ひて・こんどは・いちのたにへ・おんせいを・まをさせたまひ・つがふそのせい・三千よき・びぜんのくににおしわたり・いまきがじやうに
おしよせて・ときをどつとぞつくりける・じやうのうちには・よせてこぜいと・みてんげれば・きどをひらいてきつていで・
さんざんにたたかひけれども・のとどの・これをことともしたまはず・よるひる三かに・さんざんにせめられければ・いまきがじやうも・
やぶれにけり・うすきのじらうこれたか・をがたの三らうこれよしは・九こくをさしてぞ・おちゆきける・かはのの四らうみちのぶは・
またふねにとりのり・四こくをさしてぞおちゆきける・のとどの・たいしやうどもをば・うちもらされたりけれども・ふせぐところのつはもの・五百
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P395
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三草の夜討 908
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P400
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鵯越 909
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せたまひて・あうしうひらいづみにて・うたれさせたまひし・おんときまでも・おんともまをして・うちじにしたりし・わしのをの四らう
よしひさとは・これなりけり・ちちをば・わしのをのしやうじたけひさとぞまをしける・かかりけるところに・むさしのくにのぢうにん・くまがへ
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P403
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なみうちぎはにうつていで・いちのたにの・にしのきどぐちへ・まつさきに・おしよせばやとおもふは・いかがあるべきと・いひ
ければ・こじらう・このぎもつとも・ゆゆしうさふらひなんず・さらば・やがてうちたたせ・たまへとぞまをしける・くまがへ・ひら
やまも・うちこみの・いくさをば・このまぬものなれば・ゆきてみよとて・らうどうを・つかはして・みせけるに・
あんのごとく・ひらやまも・もののぐして・うちたちけるが・こんどいちのたにに・よせたらんには・ひとをばしるべからず・すゑ
しげにおいては・ひつとひくも・ひくまじきものを・ひくまじきものをと・ひとりごとしてぞ・いでたちける・らうどうがむま
に・ものかふとて・につくいむまの・ながぐらひかなとて・うちければ・ひらやまききて・かうなせそ・かまくらどの
の・おんまへを・まかりいづるとき・こんどさいこくに・まかりむかうてさふらはば・さだめてうちじに・つかまつるべきよしを・まをしきつ
て・いでたるなり・されば・そのむまの・なごりも・こよひばかりぞと・いふをききて・らうどうはしりかへり・このよしかくと・
かたりければ・くまがへ・さればこそとてぞ・いでたちける・くまがへが・そのよの・しやうぞくには・かちのひたたれに・くろかは
をどしのよろひをき・しろきほろかけて・ごんだくりげにこそ・のつたりけれ・ちやくしのこじらうなほいへは・おもだかを・
一しほすつたるひたたれに・ひをどしのよろひき・せいろうとなづけたる・しらつきげにこそ・のつたりけれ・はたさしは・
きぢんのひたたれに・こざくらを・きにかへしたる・よろひをき・しらあしげにこそ・のつたりけれ・あすはおとさんずる・
あくしよをば・ゆんでになし・めてについて・うつほどに・としごろひともかよはぬ・たゐのはたといふ・ふるみちにかかりて・よ
もすがら・はりまぢの・なみうちぎはにぞ・うちいでたる・どひのじらうさねひらが・七千よきにて・しほやのはまといふP404
ところに・ひかへて・よのあくるを・まちけるところをも・まぎれてうちとほり・いちのたにのにしのきどぐちへ・まつさきにこそ・おし
よせたれ・いまだねのこくばかりのことなりければ・じやうのうちには・ひかすかにみえて・しづまりかへりて・おとも
せず・あまりに・よふかに・よせたれば・うしろにつづくせいもなく・たまたまこととふものとては・なぎさによする・なみ
のおと・すさきの千どりの・こゑばかり
熊谷平山が一二の懸 910
くまがへ・いかにこじらうよ・がうのものは・われ一にんとおもふべからず・このへんにも・さきかけばやとおもふものの・い
くらもひかへて・よのあくるをまつらんぞ・いざなのらんとて・かいだてのきはに・むまのはな・つかするほどにおしよ
せ・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはむさしのくにのぢうにん・くまがへのじらうなほざね・ちやくしのこじらう
なほいへ・こんどいちのたにの・せんぢんぞやとぞなのりたる・くまがへいまは・ひらやまもちかづきぬらんものを・なうれこじらうと・いひ
もあへず・うしろをかへりみければ・むしやこそ二きいできたれ・あれはたそ・ひらやまどのかすゑしげよ・くまがへどのかなほざね
よ・いつよりぞ・よひよりよとぞこたへける・すゑしげもとうによすべかりつるを・なりた五らうに・たばかられて・
いままで・ちちしてさうつるなり・なりたがみちすがら・いふやうぞ・いかにひらやまどの・あまりにさきかけはやり
な・したまひそ・いくさのさきをかくるといふは・みかたのせいを・ごぢんにちかづけて・わがかうみやうをも・ひとのふかくをも・たがひ
にみえたればこそ・せんにてはあれ・ふかいりして・うたれてなにの・せんぞといふあひだ・すゑしげ・げにもとおP405
もひ・こさかのすこし・ありつるに・うちあげて・むまをくだりかしらに・たてて・みかたのせいを・あひまつところに・
なりたもともに・いそがはしげにて・いできたり・いかさまにも・これにすゑしげに・ものいはんずるかとおもひた
れば・さはなくて・すゑしげがかたを・すげなげにみなして・うちすぎむとするあひだ・どこをもつて・わぎみは・すゑ
しげをば・たばかるぞと・い〔ひ〕すてて・三四たん・さきたちたる・なりたを・五たんばかり・ひきよけて・もみにもうで・よせ
たれば・いまはそのものども・十四五ちやうぞ・さがりたるらん・うしろかげをだに・よにしみたりしものをと・かたつて・
くまがへひらやまかれこれ・五きになつてぞひかへたる・くまがへ・いぜんに・なのりつれども・またひらやまがあるにとおもひて・かい
たてのきはに・むまのはなつかするほど・おしよせ・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはむさしの
くにのぢうにん・くまがへのじらうなほざね・ちやくしのこじらうなほいへ・こんどいちのたにの・せんぢんぞやとぞなのりたる・じやうちうには・この
よしをききて・いざよひより・なのる・くまがへおやこ・ひつさげて・こんとて・すすむつはものには・たれたれぞ・ゑつ
ちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの五らうびやうゑただみつ・ごとうないさだつな・まなべの四らうを・さきとして・むねとの
つはもの廿三き・きどをひらかせて・きつていで・さんざんにこそたたかひけれ・ひらやまがそのよのしやうぞくには・しげめゆひのひたたれ
に・あかがはをどしのよろひをき・うすくれなゐのほろかけて・ちばのすけの・てよりえたりし・あかすげにこそ・のりたりけれ・
はたさしは・ふたつびきりやうのひたたれに・あらひがはのよろひをき・さびつきげにこそ・のりたりけれ・ひらやまもさらば・なのらばやと・
あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはさんぬる・はうげんへいぢ・りやうどの・かつせんにうちかちて・かうみやう
しきはめたる・むさしのくにのぢうにん・ひらやまのむしやどころすゑしげ・ありとはしらずやと・ののしつたりければ・じやうのうちにP406
は・このよしをききて・こはくまがへばかりかとおもひたれば・またひらやまとなのるは・てこはしとやおもひけん・じやうの
うちへ・ばつとひきしりぞき・かたきをとざまになしてぞ・ふせぎける・くまがへおやこは・たちのきつさきを・まつかふにあてて・いよ
いよまへへはすすめども・うしろへはひつとあしもひかざりけり・くまがへはむまをいさせて・おりたつてぞたたかひけ
る・ちやくしのこじらうなほいへも・めてのこがひなを・いさせ・むまよりおり・ちちとならうでぞたつたりける・くまがへい
かに・こじらうよ・ておひたるか・さんさふらふ・やぬいてたべと・いひければ・ふかくにんかな・しばしこらへよ・
かぶとのしころを・つねにうちふれ・てへんいさすな・よろひづきを・つねにせよ・やにうらかかすなとぞ・
をしへける・くまがへひごろ・こじらうをば・あらきかぜにも・あてじとこそおもひしに・いつしかけふ・いくさばにて
は・ただしねや・しねとぞ・いさめける・そののち・くまがへまた・だいおんじやうをあげて・きよねんのふゆ・びつちうのみづしま・
はりまのむろやま・二ケどのいくさに・うちかつて・かうみやうしきはめたると・ののしるなる・ゑつちうのせんじもりとし・じ
らうびやうゑもりつぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよは・なきか・のとどのはおはせぬか・かうみやうをも・ふかくをも・ひとによつ
てぞする・ひとごとに・あうての・かうみやうをば・えせじものを・くまがへにくめや・ひらやまにおちあへやと・ののしりけ
れども・こたふるものもなかりけり・くまがへは・のりかへにのりてぞ・たたかひける・なかにも・ゑつちうの二らうびやうゑもりつぎは・
こむらごのひたたれに・ひをどしのよろひをき・くはがたうつたる・五まいかぶとのををしめ・いかものづくりのたちをはき・廿四さしたる・
おほなかぐろのやおひ・ぬりごめどうのゆみもちて・れんせんあしげなるむまに・きんぷくりんのくらおいて・のつたりけるが・じやうのうちへひいて
いる・くまがへいかに・あれはゑつちうのじらうびやうゑとこそみれ・まさなうもかたきに・うしろをみするものかな・かへせや・P407
かへせといひけれども・いいやさもさうずとて・ひいている・かづさの五らうびやうゑただみつ・あく七びやうゑかげきよ・くまがへ
にくまむ・ひらやまにおちあはんと・ののしりけるを・ゑつちうのじらうびやうゑ・きみのおんだいじ・これにかぎらじ・あれほどの・
ふてものに・あうてくんでうたれて・なにのせんぞといふ・あひだ五らうびやうゑも・あく七びやうゑも・くまざりけり・じやうのうち
より・あめのふるやうに・いいだしけるやなりけれども・げんじのせいはすくなく・やにもあたらず・かけまはる・
そのうへじやうのうちには・むまにのりたるはすくなく・かちだちはおほかりけり・へいけの・ひとびとののりたるむまは・かふことはまれ
なり・のることはしげかりけり・ふねにひさしくたておきたれば・みなすくんでえりきつたるがごとくなり・くまがへひらやまが・
のりたるむまは・かひにかうたるだいのむま・ひとむちあてば・むまもひとも・みなけたふされぬべかりければ・くまがへにく
めや・ひらやまにくめや・くめと・ののしりけれども・よつくくむものさらになし・ひらやまは・はたさしをうたせて・おほきに
はらをたて・じやうのうちにかけいり・ぶんとりしてこそ・いでにけれ・そのあひだに・くまがへも・むまのいきをやすめ・これもじやうのうちにか
けいり・ぶんどりあまたしてこそ・いでにけれ・くまがへさきによせつれども・きどをひらかねばかけいらず・ひらやまうしろによせ
たれども・きどをひらけばかけいりけり・さてこそくまがへ・ひらやまが・一ぢん・二ぢんをあらそひけれ・これをはじめ
として・なりたの五らうかげしげ・卅きばかりにていできたり・どひのじらうさねひら・七千よきにてよせきたる・しらはた・あかはた
あひまじはつて・ひいづるほどにぞたたかひける・いちのたにのいくさは・さかりなりけれども・おほていくたのもりのいくさは・いま
だはじまらず
P408
梶原が二度の懸 911
さるほどに・むさしのくにのぢうにん・かはらのたらうたかなほ・おなじきじらうもりなほとて・こんどおほて・いくたのもりに・さふらひけるが・おなじ
ききさらぎ六かのひの・よにいりて・かはらのたらう・おとうとのじらうをようで・いひけるは・だいみやうこそ・われとてをお
ろさざれども・らうどうのかうみやうによつて・くんこうのしようにもあづかれ・われらがやうに・みふせうなるものは・われとて
をおろさでは・いかにもかなふまじ・さればうのこくのやあはせとは・さだめられたりしかども・まつがあまりに・
ひさしければ・たかなほは・一にんなりとも・じやうのうちにかけいり・うちじにせんとおもふなり・ごへんはこれより・ふるさと
にくだりて・さいしどもに・このよしかくとかたるべしと・いひければ・もりなほきいて・なみだをながし・こはくちをしきことをも・のたま
ふものかな・ただおとどひさふらふものが・あにをかつせんのばにみすてて・ひとりふるさとへくだつたらば・なにほどのことかさふらふべ
き・これもいつしよにて・うちじにさふらふとまをす・かはらのたらう・さらばとて・かずのかたみをば・げにんのをとこに・ふるさとへくだし・
ただおとどひむまをもはなれ・ゆんづゑをつき・いくたのもりの・さかもぎを・のぼりこえて・じやうちうへぞいりたりける・まだうし
のこくばかりのことなりければ・じやうのうちには・ひかすかにみえて・しづまりかへつて・おともせず・かはらのたらう・ゆん
づゑをつき・だいおんじやうをあげて・これはむさしのくにのぢうにん・しのたうに・かはらのたらう・きさいちのたかなほ・おなじきじらうもりなほと
て・こんどおほていくたのもりの・せんぢんぞやとぞ・なのりたる・じやうのうちには・このよしをききて・あつぱれ・とうごくのつはもの
どもほど・たけうやさしかりけるものあらじ・このたいぜいのなかへ・たんだふたりうちいりたれば・なにほどのことか・あP409
るべき・たんだおいて・あいせよやとて・あひしらふものこそ・なかりけれ・かはらのたらう・やたばねといて・お
しくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんにいけるに・じやうのうちのつはもの・おほくいころさる・じやうのうちには・これをみ
て・いやいやこれらこそあいしにくけれ・そのぎならば・あますな・もらすな・うちとれとて・たいぜいうんかのご
とく・みだれいづる・そのなかに・びつちうのくにのぢうにん・まなべの四らう・五らうとて・きやうだいあり・あにの四らうをば・いちのたにに
おかれたり・おとうとの五らうは・いくたのもりにさふらひけるが・三にんばりに・十三ぞくの・なかさしとつて・うちつが
ひ・よつぴいて・ひやうといる・をりふしかはらが・ふりあふのいて・たつたりける・うちかぶとを・したたかに・い
させて・ひるむところを・おとうとのじらう・つつとより・あにをかたにひつかけて・さかもぎをのぼり・こえむとしける
ところを・まなべがにのやに・ひざのふしをしたたかに・いさせて・きやうだいまくらをならべて・どうとふす・そののち・まなべが
らうどう・おちあひて・かはらきやうだいが・くびをとりて・たいしやうぐんにみせたてまつる・しんちうなごんとももり・あつぱれがうのもののてほんかな・
いちにんたうせんとも・これらをこそ・いふべけれ・あつたらもの・いましばしいけてみてとぞ・をしまれける・その
のちかはらがげにんのをとこども・みかたのせいのうちにはしりいりて・かはらどのこそ・ただいまじやうのうちへ・かけいらせたまひて・うた
れさせ・おはしまして・さふらへと・こゑごゑに・よばはつたりければ・かぢはらこのよしをききて・ぢたいこれは・しの
たうの・とのばらのふかくにてこそ・かはらきやうだいをば・うたせたれ・そのぎならば・ときつくれやとて・かぢはらがてぜい・五
百よき・ときをつくりければ・みかたの五万よきも・ときをつくる・じやうのうちの・五万よきもおなじう・ときのこゑ
をぞ・あはせたる・たがひに十万よきが・ときのこゑには・てんもひびき・だいちもゆるぐばかりなり・たがひのときのこゑも・
P410
しづまりしかば・かぢはらがじなん・へいじかげたか・ちちにはかくともいはずして・じやうのうちへ・をめいてかく・かぢはらし
しやをたてて・みかたのせい・一きもつづかざらんに・さきかけたらむずるものには・くんこうあるまじきぞとの・たいしやう
ぐんよりの・ごぢやうにてあるぞと・いはせければ・へいじしばらくひかへて
もののふのとりつたへたるあづさゆみ・ひいてはかへす・ものならばこそ
と・まをさせたまへと・いひすてて・またをめいてかく・かぢはらさるにても・へいじうたすな・かげたかうたすな・すす
めや・ものども・つづけつはものとて・かぢはらが・てぜい・五百よき・じやうのうちへ・をめいてかく・じやうのうちには・これ
をみて・かぢはらは・とうごくにきこえたるものぞ・あますなもらすな・うちとれとて・たいぜいがまんなかに・とりこめたり・
されども・かぢはらことともせず・にしよりひがしへ・ひとわたり・きたよりみなみへ・ひとわたり・とつてはかへし・わつてはとほり・
さんざんにたたかひ・いつぱううちやぶつて・いでたれば・五百よきとは・みえしかども・五十きばかりにぞ・なりにける・
かぢはらこはいかに・げんたがみえぬはといひければ・らうどうのまをしけるは・ささふらへばこそ・げんたどのは・きたのやまぎ
はに・かけいらせたまひて・かたき八きがうちに・とりこめられさせたまひて・さふらひつるが・いまはさだめて・うたれてぞ・まし
ましさふらふらんと・まをしければ・かぢはらきいて・なみだをながし・かげときいくさして・よにあらんとおもふも・こどもをおもふため
なり・げんたをうたせて・かげとき・よにありても・なににかはせん・さるにても・いまいちど・げんたがゆくへを・
たづねむとて・またじやうのうちへ・かけいらんとしけるに・たいぜいうんかのごとくに・みだれあひて・たやすくかけいるべきやうも・
なかりければ・かぢはら・たいぜいのかたに・かけむかひ・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはむかし・八
P411
まんどののおんとき・ではのくに・せんぷくかねざはのじやうを・せめさせたまひしとき・十六さいにて・さきをかけ・ゆんでのまなこを・いさ
せ・そのやを・ぬかで・をりかけ・たうのやをいて・がうのざしきに・つきたりし・かまくらのごん五らうかげまさには・
五だいのばちえふ・さがみのくにのぢうにん・かぢはらへい三かげとき・ありとはしらずやと・ののしりたりければ・かたきもなにや・おそれけ
ん・はつとあけてぞ・とほしける・そののちかぢはらまた・じやうのうちへかけいり・かしこここを・かけまはりかけまはり・みけ
るに・げにもげんたは・きたのやまぎはにかけいり・かたき八きがうちにとりこめられて・かぶとをもはや・うちおとされ・おほわらは
になつて・二ぢやうばかりそびえたる・いはをうしろにあて・ここをさいごと・たたかひける・かぢはらいかにげんた・かげときここに
あり・あひかまへて・しぬるとも・かたきによわげみすなと・ちちにことばをかけられて・げんたいよいよかなはへて・ま
つしぐらにこそ・たたかひけれ・かぢはらさるにても・げんたうたすな・かげすゑうたすな・すすめやものども・つづけ
つはものとて・かぢはらがじなん・へいじかげたか・三らうかげいへ・おやこ四にんして・八きのかたきを・うちとりゆみやとりは・かくるもひく
も・をりにこそよれ・いざうれげんたとて・かいぐしてこそ・いでにけれ・それよりしてぞ・かぢはらが・にど
のかけとぞまをしける
あひ 912
これをはじめとして・たん・ゐのまた・ちちぶ・かはごえ・むらやまたうのつはものども・なのりかへなのりかへ・いれかへいれかへ・せめたたかふ・げんぺい
たがひに・ときつくるこゑ・うみをひびかし・やまをうごかす・むまのかけちがふおとは・いかづちのごとし・たちなぎP412
なたの・ひらめくかげは・いなづまにことならず・とほきをば・ゆみにてい・ちかきをば・たちにてきる・くまでにかけ
て・とるもあり・とらるるもあり・ひつくんで・さしちがへ・しぬるものもありけり・あるひはとつておさへ・
くびをうるもあり・とらるるもあり・あるひはいたでおうたるを・かたにひつかけ・かたはらへひきしりぞく・ものもあり・い
まだうすでおひて・ここをさいごと・たたかふものもありけり・げんぺいりやうけのつはものども・いづれひまありとも・みえざりけ

坂落し 913
ここに・むさしのくにのぢうにん・えどの四らうのぶすけは・じやうのうちに・みかたありともしらずして・とほやをよつぴいて・い
けるに・ははかたのをぢ・ふぢたの三らうたいふゆきやすが・ふかいりして・たたかひける・うちかぶとを・したたかにいさせて・
ひるむところを・じやうのうちより・あはのみんぶしげよしがおとうと・さくらばのすけよしとほ・おちあひて・ふぢたがくびをば・とつてんげり・
かかりけるところに・いちのたに・いくたのもり・とうざいの・きどぐちばかりにては・いかにもかなふべうも・みえざりけるに・
九らうおんざうしよしつねは・三千よきのせいにて・おなじききさらぎ七かのひの・うのこくに・へいけのこもりて・おはしける・
いちのたにのうしろ・ひえどりごえのたうげに・うちのぞんで・みたまひけるに・たやすくおとすべしとも・みえざりけり・せいにやおそれたりけ
む・をしか二・めか一つ・へいけのぢんへぞ・おちたりける・へいけのかたには・これをみて・こはいかに・さとちかか
らんししだにも・このたいぜいにおそれては・やまふかくこそ・いるべきに・やまよりししの・おちたることこそ・あやしけれ・
P413
いかさまにも・これは・からめてのせいの・まはるにこそとて・さわぎののしることなのめならず・ここに・いよのくにのぢうにんに・
たけちのむしやどころ・きよのり・それはなにものにてもあれ・かたきのかたより・きたらんずるものを・のがすべきやうなしと
て・ゆみおしはり・やかきおひ・むまひきよせうちのりて・まづまつさきに・はしりける・をしかのまんなか・いてぞ・
とどめける・そこしもあくしよなりければ・たづなを・ひらくにおよばず・ゆみのもとをや・こしたりけむ・め
てのくつばみ・いけづりて・つぎなるししも・とどめけり・めかをば・いてぞ・とほしける・こころならず・かりしたり・しし
めせや・とのばらと・いひければ・ゑつちうのぜんじもりとし・このよしをききて・せんなきとのばらの・ただいまのししの・いやうか
な・やだうなにとぞまをしける・おんざうしは・ここをおとさんとしたまひけるが・まづはかりごとに・かげなるむま一
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かげなるむまは・いかがはしたりけむ・あしうとんで・こしをつきそんじてんげり・しらあしげなるむまは・ゑつちう
のぜんじもりとしが・やかたのまへに・さうゐもなく・おちつきて・みぶるひしてこそ・たつたりけれ・へいけのさぶらひども・この
よしをみつけて・さきにししのおちたるだに・あやしきに・またぬしもなき・くらおきむまの・二ひきまで・おちたること
こそ・ふしぎなれ・いかさまにも・これはからめての・せいのちかづくにこそとて・おほきにさわぎあはれけり・おんざうしこの
よしを・みたまひて・むまはぬしがのりてこころえて・おとさば・よからんずるぞ・くはくはよしつねは・まづおとすぞとて・
たづなかいくり・たいだいがまつさきにこそ・おとされけれ・三千よきのつはものどもも・このよしをみて・つづいておとし
けるが・そこしも・こいしまじりの・すなごなりければ・ながれおとしに・二ちやうばかり・さらさらさつと・P414
おとして・すこしだんなるところに・ゆらへたり・それより・うしろをかへりみければ・みねたかうして・たやすくかけあ
がるべしとも・みえざりけり・それより・しもをみわたせば・だいばんじやくに・こけむして・つるべおとしに・十
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の・さはらの十らうよしつら・しやうねん十八さいに・なりけるが・あぶみふんばり・つつたちあがつてまをしけるは・われらがみうらのかたに
て・かりせしときは・うさぎ一ぴきみつけ・ことり一つおひたててだに・あさゆふかやうのところをこそ・はせありきしか・おもへば
これは・みうらのかたの・ばばやとて・たづなかいくり・たいぜいが・まつさきにこそ・おとしけれ・三千よきのつはもの
どもも・これをみて・またつづいておとしけるが・せんぢんにおとす・つはものの・かぶとのはちは・ごぢんにおとす・つはものの・あぶみのはなに・
からりからりとぞ・あたりける・いむけのそでを・ひつちがへ・ゆみのはずを・とりちがへて・あまりのいぶせさに・
めをふさぎ・えいえいごゑを・しのびにして・ゑつちうのぜんじもりとしが・やかたのまへに・さうゐもなく・おちつきて・しら
はた三十ながればかり・一どにばつとさしあげ・ときをどつとぞつくりける・三千よきがこゑなりしかども・やまびここたへて・
十万よきとぞ・きこえける・ここにしなののくにのぢうにん・むらかみのじらうはんぐわんだい・もとくにが・てよりも・たてをもつて・たい
まつにし・ゑつちうのぜんじもりとしが・やかたにひをぞかけたりける・をりふし・きたかぜはげしくして・やかたやかたに・くろけぶり
おしかけたり・へいけはかならず・かたきがいおとし・きりおとさざれども・けぶりにむせび・むまよりおちて・たふれふ
す・もしや・たすかると・まへのなぎさにおりくだる・なぎさには・たすけぶねども・おほかりければ・おもひおもひひとびとに・
P415
とりのりて・おちゆかばよからんずるを・ふね一さうに・もののぐむしやが・四五百にん・千にんばかりとりのりて・おちゆかんに・
なじかは・よかるべき・なぎさ三ちやうばかりおしいだし・おほぶね三ざうしづんで・ひと一にんもたすからず・おほいとの・この
よしをみたまひて・しかるべきひとをば・のるとも・つぎざまのひとをば・のすべからずと・のたまへば・うけたまはつて・しかるべ
きひとの・のらむとしけるをば・てをさづけ・ちからをあはせて・ひきのせけり・またつぎざまのものの・のらむとしけるを
ば・たちなぎなたにて・ふなばたをぞながせける・かくあるべしとは・しりながら・かたきにあうては・しなずして・のせ
じとするふねに・のらむとて・あるひは・かひなきりおとされ・あるひはゆびなぎおとされ・そのみはあけに・なつて・なぎさにたふれふし・を
めきさけぶこと・なのめならず
越中の前司が最後 914
のとどのは・いちども・ふかくしたまはぬひとの・こんどやまのて・やぶられて・めんぼくなくや・おもはれけむ・うす
ずみといふ・むまにのり・ただいつき・なぎさをにしへ・おちられけるが・はりまのたかさごより・おふねにめして・さぬきのやしま
へ・わたらせ・おはしまし・さふらひぬ・おんあにゑちぜんの三ゐみちもりは・くりげなるむまに・のりさぶらひにくんだ・たきぐち
ときかずばかりを・めしぐし・しうじう二き・うちつれて・なぎさをにしへ・おちられけるところを・あふみのくにのぢうにん・きむらのげん三なりつな
となのりて・しうじう七きにて・おひかけたてまつる・三ゐとつてかへし・さんざんにたたかひ・かたき三ききつておとし・わがみは・きむら
のげん三なりつなに・くんで・うたれたまひぬ・なかにもゑつちうのぜんじもりとしは・かちのひたたれに・ひをどしのよろひをき・かげ
P416
なるむまにのり・ただ一きなぎさをにしへ・おちけるが・いづくへゆかば・のがるべきかとて・かしこここに・ひかへひかへ
しけるところを・ここにむさしのくにのぢうにん・ゐのまたのこへい六・のりつなとなのりて・あつぱれよからんかたきがな・いまいちどくま
ばやとおもひ・かしこここを・かけまはりかけまはりみけるところに・ここにゑつちうのぜんじをみつけて・ゑしやくもなく・ひつ
くんで・どうとおつ・ゑつちうのぜんじは・ひとめには・三十にんがちからを・あらはしけるが・ないないは・六十にんして・
あげおろしけるふねを・ただひとりして・たやすくあげおろしければ・ひと六十にんが・ちからとぞまをしける・ゐのまたも・をしか
のつのの・一二のくさかりをば・たやすくひきもぎなんどして・とうごくには・きこえたる・だいりきの・がうのものなりける
が・ゑつちうのぜんじに・とつておさへられ・ものをいはんとするに・いきいです・かたなをぬかんとすれども・てすくん
で・ぬかれざりければ・ゐのまたこころにおもふやう・たうじのりつなを・これほどまで・てごめにすべきものこそ・おぼえ
ね・いかさまにもこれは・へいけのかたに・さしもおにがみのやうに・きこえたる・ゑつちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもり
つぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよか・さらずば・のとどのにこそと・おもひければ・ゐのまたいきのしたにてまをしけるは・かたきを
ば・そんぢやうそのくにの・それがし・たれがしなんど・なのり・なのらせて・うたればこそ・せんにてはさふらへ・
ただし・いぜんになのつつるはし・ききたまひてんやと・いひければ・ゑつちうのぜんじ・げにもとおもひ・これはもとは・いち
もんたりしが・みふせうなるによりて・さぶらひとなりたる・ゑつちうのぜんじもりとしといふものなり・さてなんぢは・いかなるものぞ
といひければ・さんさふらふ・これはむさしのくにのぢうにんに・ゐのまたのこへいろく・のりつなとて・しやうねん十八さいにまかりなる・ゑつちうのぜん
じ・さては・あんへいにおもひ・すこしおしくつろげ・さてきこゆるだいりきとは・わぎみがことか・さんさふらふ・こんどのいくさ
P417
のやうを・みさふらふに・げんじかちいくさ・へいけまけいろにみえさせたまひてさふらへば・あはれのりつなが・いのちをたすけさせお
はしましさふらへかし・ごいちもんいくたりもおはせよ・こんどののりつなが・いくさのくんこうに・まをしかへて・たすけまをさんず
るものをと・いひければ・ゑつちうのぜんじ・きたないわぎみがいひごとかな・へいけいまさら・げんじたのまんともおもはず・
げんじもまた・へいけにたのまれむとは・よもおもひたまはじとて・またとつておさへて・くびを・かかんとしけれ
ば・ゐのまたも・さるおそろしきものなりければ・すこしもさわがず・につことうちわらひ・なうまさなや・かうにん
のくびとるやうや・さふらふといはれて・ゑつちうのぜんじ・げにもとおもひ・とつてひつたて・よろひについたる・すなうちは
らひ・たのくろのありけるが・うしろはごみふかき・ぬまたの・まへは・すこしひあがつて・はたけのやうなるところに・
こしうちかけ・あしさしおろし・よろひむしやが・二にんたがひに・いきついて・ゐたりけるところへ・ひとみの四らう・三十き
ばかりにて・いできたる・ゑつちうのぜんじ・きたるかたきを・めもはなたず・まぼりければ・ゐのまたあれは・すこしもくるしう
さふらふまじ・のりつながいとこに・ひとみの四らうと・まをすものにてさふらふが・さだめてのりつなをぞ・たづねさふらふらんといひけれども・ゑつ
ちうのぜんじ・きたるかたきを・なほめもはなたず・まぼりければ・ゐのまたあつぱれ・いまいちど・くまんずるものを・
ひとみちかづかば・さりとも・よもおちあはぬことあらじと・おもひて・あひまつところに・ひとみもしだいにちかづいたり・
ゐのまたちからあしをふんで・つつたちあがり・おもひもかけぬ・ゑつちうのぜんじが・よろひのむないた・はくとついて・うしろな
るぬまたへ・のけにつきたをす・だいのをとこの・おもよろひきたりけるが・てふのはねを・ひろげたるが・ごとくに
て・おきんおきんと・しけるところを・ゐのまたとつておさへ・こしのかたなをぬき・くさずりを・ひきあげ・つかもこぶしも・
P418
とほれとほれと・三かたなさいて・くびをとる・そののちくびをば・たちのきつさきに・さしつらぬき・たかくさし
あげ・だいおんじやうをあげて・このひごろ・へいけのかたに・さしもおにがみのやうに・きこえたる・ゑつちうのぜんじもり
としをば・とうごくむさしのくにのぢうにん・ゐのまたのこへいろく・のりつなが・かうこそ・うちたれやとぞ・なのりける・げんじのつはもの
ども・このよしをききて いさみ・ののしること・なのめならず
薩摩守の最後 915
なかにも・さつまのかみただのりは・こんぢのにしきのひたたれに・むらさきすそごのよろひをき・くはがたうつたる・かぶとのををしめ・こがねづくりのた
ちをはき・廿四さいたるきりふのやおひ・しげどうのゆみもちて・つきげなるむまに・きんぷくりんのくらをおいて・うちのり・ただ一
きなぎさをにしへ・おちられけるところを・むさしのくにのぢうにん・をかべの六やたただずみとなのりて・ただ一きにて・おひかけたてまつる・
さつまのかみとつてかへし・これはみかたぞ・あやまちすなとてふりむきたまへる・うちかぶとをみければ・かねくろに・う
すげしやうをぞ・したまひける・六やたたうじ・みかたにさやうのひとをば・みぬものをとて・いよいよおひかけたてまつ
る・さつまのかみとつてかへし・につくいやつが・みかたといはば・いはせよかしとて・とつてひきよせ・むまのうへにて・
壱かたな・ちうにて一かたな・おつるところを一かたな・三かたなまで・さされけれども・二かたなは・よろひのうへにて・とほらず・一かたな
は・みぎのほうを・つきつらぬかれたりけれども・いたでならねば・とつておさへ・くびをかかむとしたまひける
を・六やたがわらは・おくればせにはせきたり・うちがたなのさやをはづいて・さつまのかみのかたな・もちたまへるかたの・かひな
P419
をふつと・うちおとしたてまつる・さつまのかみ・いまはかなはじとやおもはれけむ・やれさらば・そこのけ・にしをがま
んとて・ひだりのおんてにて・六やたが・よろひのうはおび・むんずとつかうで・ゆんだけばかり・なげのけ・くわうみやうへん
せう・十ぱうせかい・ねんぶつしゆじやう・せつしゆふしやと・となへもはてさせたまはぬに・六やた・いたでならねば・おきなほり・
さつまのかみの・くびをうつ・くびつつまんとて・ひたたれをときけるに・えびらにむすびつけられたりける・ふみをといてみ
ければ・りよしゆくのはなといふだいにて・一しゆのうたをぞ・かかれける
ゆきくれてこのしたかげをやどとせば・はなやこよひのあるじならまし・
たひらのただのりと・かかれたりしによつてこそ・さつまのかみとは・しりてんげれ・そののちくびをば・たちのきつさきに・
さしつらぬき・たかくさしあげ・だいおんじやうをあげて・このひごろ・へいけのかたに・さしもきこえさせたまひたる・
さつまのかみのとのをば・とうごくむさしのくにのぢうにん・をかべの六やたただずみが・かうこそ・うちたてまつつたれやとぞ・なのりける・
かたきもみかたも・このよしをききて・あつぱれ・さつまのかみのとのは・かだうにも・ぶげいにも・いうにやさしき・たいしやうぐんに
て・おはしつるものをとて・をしまぬひとこそなかりけれ・なかにも・たじまのかみつねまさは・ささきの四らうたかつなに・く
んでうたれたまひぬ・わかさのかみつねとしは・かぢはらげんだかげすゑに・くんでうたれぬ・あはぢのかみきよふさは・かはごえのこたらうしげ
ふさに・くんでうたれたまひぬ・をはりのかみきよさだは・かねこの十らういへただに・くんでうたれたまひぬ・なかにも・くらんどのたいふ
なりもりは・くろきむまにのり・ただ一き・なぎさをにしへ・おちられけるところを・ひたちのくにのぢうにん・ひちやの五らうたかみつとな
のりて・ただ一きにて・おひかけたてまつる・なりもりとつてかへし・むまのあしたて・なほすやおそき・おしならべて・むず
P420
とくんで・どうとおつ・ひちやもだいりき・なりもりも・きこゆるしたたかびとにて・おはしければ・たがひにうへになり・
したになり・ころびあふところに・あるこいへのまへに・ふるゐのさふらひけるにころびいりて・よろひむしやが・二にんしたへ
も・おちつかず・ちうにはたと・つまつてぞ・さふらひける・ひちやの三らう・おとうとをうしなうて・五らうはいづくに
ぞ・いづくにぞと・よばはつたりければ・はるかのゐのそこに・ここにといふ・ひちやさしうつぶいて・みければ・おとうとの
よろひは・ふしなはめかたきのよろひは・もえぎにほひなりければ・おとうとがきたるかぶとのしころを・むんずとつかうて・えいやつと
いうて・ひきあげければ・なりもりも・ひちやがこしに・だきついてぞ・あがられける・やがてなりもりをば・とつ
ておさへて・くびをとる・こんねんは・十六にぞ・なられける
知章の浜軍 916
こんど・おほていくたのもりの・たいしやうぐんには・しんちうなごんとももり・ほん三ゐのちうじやうしげひらのきやう・つがふそのせい・五万よきに
て・ひがしにむかひて・たたかはれけるところに・むさしのくにのぢうにん・ゐのまたたうのうちより・へいけへししやをたてて・ちうなごんに
まをしけるは・きみはひととせ・むさしのこくしにて・わたらせたまへば・そのよしみをもつて まをしさふらふ・いちのたにこそ・はやや
ぶれてさふらへ・いまだうしろをば・ごらんぜられさふらはぬ・やらんとまをしたりければ・ちうなごんを・はじめたてまつつて・おのおの
うしろをかへりみたまへば・げにもくろけぶり・てんにみちみちたり・五万よきのつはものどもも・このよしをみて・よろづ
こころぼそくやおもひけん・みなちりぢりにこそ・なりにけれ・なかにも・ほん三ゐのちうじやう・しげひらのきやうは・かち
P421
にしろう・きなるいとをもつて・いはにむらちどりぬうたるひたたれに・むらさきすそごのよろひをき・やしまのおほいとのより・たまは
られたりける・だうじかげに・のりたまふ・おんめのとごの・ごとうびやうゑもりながをば・ひごろのよめなし・つきげにぞの
らせける・しうじう二き・うちつれて・なぎさをにしへ・おちられけるところに・たすけぶねども・おほかりけれども・かたきはうしろにちかづ
く・のるべきひまもなかりければ・ちからおよばず・みなとがは・かるもがはをも・うちわたり・こまのはやしを・ゆんでになし・
はすのいけをば・めてにみて・いたやど・すまをもうちすぎて・あかしをさしてぞ・おちられける・かかりけるところに・
むさしのくにのぢうにん・しやうの四らう・たかいへとなのりて・しうじう五きにて・おひかけたてまつる・三ゐのめされたる・どうじかげ
は・くきやうのめいばなりければ・たやすくおひつくべしとも・みえざりけり・しやうの四らう・かなはじとや・おもひけむ・
やごろにはせちかづき・三にんばりに十三ぞくの・なかさしとつてうちつがひ・よつぴいてひやうといる・三ゐ
のめされたりける・どうじかげが・さうづにやたちければ・おんめのとごの・ごとうびやうゑもりなが・このよしをみたてまつつて・
わがむまめされ・まゐらせなんとやおもひけむ・とつてかへし・ひがしをさして・おちてゆく・三ゐいかにやうれ・もりながよ・
ひごろは・さはちぎらざりしものを・そのむままゐらせよと・のたまへども・みみにも・ききいれず・むちをあげて・はせて
ゆく・三ゐ・いまはかなはじとや・おもはれけん・うみへうちいれられ・けれども・そこしも・とほあさにて・さう
なう・しづむべきやうも・なかりければ・またなぎさにうちあがり・むまよりおり・うはおびきつてのけ・たかひもはづ
し・すでにはらをきらんとしたまふところに・しやうの四らうたかいへ・むちあぶみをあはせて・はせきたり・いそぎむまよりとんでおり・なぎなたお
つとりなほし・まさなうも・ごじがいさふらふものかな・たすけまゐらせむとて・わがむまにかきのせたてまつつて・おびに
P422
て・くらのまへわに・したたかにしめつけたてまつり・わがみは・のりかへにのつて・みかたのせいのうちへぞ・いりにける・
へいけのかたに・さしもきこえさせたまひぬる・ほん三ゐのちうじやうどのの・いけどりにせられたまひぬるこそ・くちをしけれ・
しんちうなごんとももりは・きぎよりようのひたたれに・はじのにほひの・よろひをき・これもやしまのおほいとのより・たまはられたりけ
る・ゐのうへぐろにのりたまふ・おんこむさしのかみともあきらは・うきおりもののひたたれに・つまにほひのよろひをき・きかはらげにこそ・のりたま
ひけれ・おんめのとごの・けんもつたらうよりかたは・ひしたすきのひたたれに・かたしろのよろひをき・しらあしげにこそ・のりたり
けれ・しうじう三き・うちつれて・なぎさをにしへ・おちられけるところに・ここにこだまたうとおぼしくて・うちはのはたささせた
る・もの・十きばかりにて・おひかけたてまつる・けんもつたらうよりかたは・きこゆるゆみのじやうずなりければ・とつてかへし・まづ・ま
つさきにすすんだる・はたさしが・くびのほねいて・いおとしけり・そののち・たいしやうとおぼしきもの・ちうなごんにかかり
たてまつる・おんこむさしのかみともあきら・なかにへだたり・かたきとひきくんで・どうとおち・かたきのくび・かききつて・おきあが
らんとしたまふところを・かたきがわらはおちあひて・むさしのかみのくびをとる・けんもつたちうおちかさなりて・むさしのかみのおんくび・たまはつた
る・わらはが・くびをも・とつてんげり・そののちよりかたも・ひざのふしを・したたかにいさせて・たたれざり
ければ・ゐながら・かたき三ききつておとし・わがみもうちじにしてんげり・そのまに・ちうなごんは・くきやうのめいばには・
のりたまひぬ・うみのおもて・廿よちやうを・およがせて・おほいとののおんふねへぞ・まゐられける・ふねにところなくして・
むまたつべきやうも・なかりければ・それよりむまをば・おひかへさる・あはのみんぶしげよし・このよしをみたてまつつて・ただいまあ
のおんむま・かたきのものとなりさふらひなんず・たまはつていころしさふらはんとて・よつぴいてむかひければ・ちうなごんよしよしそれは・
P423
なにのものにも・ならばなれ・ただいまわれを・たすけたらんずるものを・いかでかなさけなう・いころすべき・にあるべから
ずとのたまへば・ちからおよばず・はげたるやを・さしはづす・このむまぬしのなごりを・をしむかとおぼしくて・ふねのあ
たりを・およぎまはりおよぎまはり・しけれども・のするものもなかりければ・ちからおよばず・またなぎさにおよぎかへり・なほもこの
むま・ぬしのなごりを・をしむかと・おぼえて・おきのかたをまぼり・たかいななきをしつつ・あしかきしてこそ・
たちたりけれ・やがてこのむまを・かはごゑのこたらうしげふさとつて・おんざうしへたてまつる・それよりしてぞかはごえぐろとは・
めされける・このむまは・しなののくに・ゐのうへより・まゐりたりければ・ゐのうへぐろとなづけて・ゐんのおんむまやに・たてさせられた
りしを・やしまのおほいとのの・ないだいじんにあがりたまひて・おんよろこびまをしのさふらひしとき・ゐんよりくだしたまはられたりし
を・おんおとうとのちうなごんに・あづけまをされけり・ちうなごんあまりに・このむまをひざうして・まいげつついたちごとに・たいさんぶ
くんをぞ・まつられける・そののちしんちうなごんとももり・おほいとののおんまへに・まゐらせたまひて・まをさせたまひけるは・いま
ははや・むさしのかみにも・おくれさふらひぬ・またよりかたも・うたれさふらひぬ・いかなれば・こはおやに・くむかたきのなかに・へ
だたるに・いかなるおやなれば・ふたりともなき・このうたるるを・みすてて・とつてかへし・さふらはざりつる
ことこそ・みながらも・よくいのちはをしかりけりと・おぼえて・かへすがへすも・くちをしうこそさふらへ・ひとのうへに・かやう
のことを・みききさふらはんには・いかばかりか・もどかしうもこそ・さふらはんずらめと・まをしもはてず・なきたま
へば・おほいとの・むさしのかみは・こころもがうにして・よきたいしやうぐんにて・さふらひつるものをとて・おんこゑもんのかみの・こん
ねん十六になりたまひけるが・おんそばに・おはしけるかたを・みたまひて・むさしのかみは・あのゑもんのかみと・どうねんなと
P424
て・なきたまへば・ふねのうちのさぶらひどもも・みなよろひのそでをぞ・ぬらしける・
備中守の最後(あひ) 917
かかりけるところに・こまつどののすゑのこに・びつちうのかみもろもりは・しうじう七八にん・こぶねにとりのり・おきにうかうで・いくさの
なりゆき[* この一字不要]くやうを・みたまふところに・ここに・しんちうなごんのさぶらひに・ゑもんのじようしげさだと・まをすものあり・かたきにおひかけられ・なぎさへ
むいて・はせくだり・おきなるふねを・まぼつて・いかにあれは・びつちうのかみのとのの・おんふねとこそ・みまゐら
せてさふらへ・あはれまゐりさふらはばやと・まをしたりければ・びつちうのかみあれはいかに・しげさだか・うたすな・のせやとて・
ふねをなぎさへ・よせられたり・そこしもとほあさにて・ふねよらざりければ・むまのふとはらひたるほどに・うちいりて・
みけるに・そのあひ・わづかに・ゆんだけばかりは・あるらんとぞ・みえし・び〔つ〕ちうのかみ・いまはかたきの・ちかづくに・
とうのれかしとのたまへば・うけたまはつて・だいのをとこの・おもよろひきたりけるが・さしもなき・こぶねへ・おもひのまま
にかはととびのらむには・なじかは・よかるべき・ふねふみかへして・ひと壱にんもたすからず・はたけやまがらうどう
に・ほんだのじらうが・おちあひて・くまでをおろし・び〔つ〕ちうのかみを・ひきあげたてまつつて・くびをとる・こんねんは・十四さい
にぞ・なられける・
敦盛 918
P425
かかりけるところに・むさしのくにのぢうにん・くまがへのじらうなほざねは・あつぱれよからんかたきがな・いまいちどくまばやとおもひ・
かしこここを・かけまはりかけまはり・みけるところに・ここに・ねりぬきに・つるぬうたるひたたれに・もえぎにほひのよろひをき・
くはがたのかぶとのををしめ・こがねづくりのたちをはき・廿四さいたるきりふのやおひ・しげどうのゆみもちて・れんせんあしげなる
むまの・ふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらをおいて・うちのり・おきなるふねをまぼつて・うみのおもて・七八たんがほど・うちおよが
せて・おはしける・むしやをみつけ・くまがへあつぱれ・よきたいしやうぐんとこそ・みまゐらせてさふらへ・まさなうも・
かたきにうしろをば・みせさせたまふものかな・かへさせたまへかへさせたまへと・あふぎをあげて・まねきければ・まねかれて・や
がて・とつてぞ・かへされける・なぎさにうちあがらんと・したまふところに・くまがへむまのあしたて・なほすやおそき・お
しならべて・むずとくんで・どうとおつ・やがてとつて・おさへて・くびをかかんと・しけるが・あまりにものよ
わうおぼえければ・うちかぶとをおしあふのけて・みけるに・いまだ十六か・七かとみえたる・こじやうらふの・
かねぐろに・うすげしやうをぞ・したまひたる・そのとき・くまがへ・なみだをはらはらと・ながいて・いとふしや・
このひとのちちはは・さだめてましますらん・いくさばへ・いだしたてて・いかばかりのことをか・おもひたまふらんに・はや
うたれたりと・ききたまひたらば・さこそは・なげかせたまはむずらめ・なほざねが・こじらうと・うちつれて・いくさを
するだにも・おぼつかなきぞかし・けさいちのたにのにしのきどへ・よせたりつるに・こじらうがめてのこひぢを・のぶ
かにいさせて・やぬいてたべといひつるを・ふかくじんかな・いましばし・こらへとて・ぬかざりつるが・
そののちは・たいぜいに・おしへだてられて・ししやうしらず・ひとのおやの・こをおもふならひ・なほざねが・こじらうをおも
P426
ふやうにこそ・おもひたまふらんに・このひとひとりうちたてまつりたればとて・まくべきいくさに・かたんずるにもあら
ず・またたすけまをしたればとて・それにはよるべからず・あつぱれたすけまゐらせばやとおもひ・そもそもいかなるひと
にて・おんわたりさふらふぞ・なのらせたまへ・たすけまゐらせんと・まをしたりければ・かういふわぎみは・なにものぞ・ま
づなのれと・いはれて・これはむさしのくにのぢうにん・くまがへのじらうなほざねとまをすものにてさふらふなり・さてははや・なんぢがため
には・よきかたきぞ・これはわざわざおもふやうあつて・なのらぬなり・ただしなんぢをさくるにはあらず・なのらずとい
ふとも・はやはやくびをとつて・ひとにとへ・よにはまた・みしりたるものもあらんずるぞとて・つひになのりたまは
ず・くまがへあまりに・このひとのしづまり・がうにおはするほどをかんじて・あつぱれたすけまゐらせばやとおもひ・うしろ
をきつとみければ・どひのじらう・三百よきばかりにてつづく・さきははたけやま五百きばかりにて・ささへたり・
ゆんでのかたをみければ・かぢはら五拾きばかりにて・ひかへたり・そのほかかはごえ・もろをかのつはものども・六七百きにてかけま
はる・くまがへいとふしや・たすけまゐらせんと・つかまつりさふらへど・このたいぜいのなかにては・たとへなほざねがてをこそ・のがれさせ
たまひてさふらふとも・つひにはおんいのちの・のびさせたまひさふらふまじ・おなじうは・なほざねがてにかけたてまつつて・ごぼだいをこそ・
とぶらひ・まゐらせさふらはんずれ・これもただ・ぜんせのことと・おぼしめされさふらふべしと・まをしたりければ・このひとうち
うなづき・たまひけり・そののち・くまがへめをふさぎ・こしのかたなをぬき・くさずりひきあげ・三かたなさいて・くびをとる・く
びつつまんとて・ひたたれを・ときければ・ふえをぞこしに・さされたる・くまがへ・いとふしや・このあかつき・じやうの
うちに・ふえのねの・しつるは・はやこのひとの・ふきたまひけり・ねざしてことに・おもしろかりつるものかな・とうごくに・
P427
千万のつはものありといふとも・いくさばなんどへ・ふえもつものこそ・あるまじけれ・あはれみやこのひとほど・いうにやさしかりける・
ことあらじ・あはれゆみやとるみのならひほど・くちをしかりけるものあらじ・わがこころにまかせたるみならば・などかこのひと・
ひとりたすけざるべきとて・かたてには・くびをもち・かたてには・ゆんづゑにすがり・なみだにむせびて・しばしは
むまにも・のらざりけり・のちにひとにたづぬれば・しゆりのだいぶ・つねもりのすゑのこ・たいふあつもりとて・しやうねん十七にぞ・
なられける・ふえはこえだとて・めいよのふえなりつるを・つねもりこのひと・きりやうたるによつて・さづけられけると
ぞうけたまはる・くまがへががほつしんは・このひとゆゑとぞうけたまはる・さるほどに・いくさやぶれにしかば・へいけみなふねにとり
のり・あるひは・あしやのおきにかかつて・きぢへおもむくふねもあり・あるひは・あはぢのせとをこぎすぎて・しまがくれゆくふねも
あり・いまだいちのたにのおきにただよふふねもあり・うらうらしまじまおほければ・たがひのししやうをさだめがたし・へいけ・うみにしづんで・
しぬるは・かずしらず・くがにはたさをを・ゆひわたし・かけしるす・くび・三千よとぞ・きこえし・いちのたに・いくた
のもり・きたのやまぎは・みなみのなぎさ・とうざいのきどぐち・やぐらのほか・さかもぎのもとに・いふせられ・きりふせられたるひと・
むまのししむらやまのごとし・いちのたにの・をささはら・みどりのいろをひきかへて・うすくれなゐにぞ・なりにける・へいけ・くにを
なびくることも・十四ケこく・またせいのしたがひつくことも・十万よき・これよりみやこへは・わづかに一にちのみちぞかし・こんど
はさりともと・おもはれつる・いちのたにをも・やぶられて・こころぼそくぞ・おもはれける
小宰相の身なげ 919 P428
こんど・つのくに・いちのたににて・うたれたまひし・ひとびとには・ゑちぜんの三ゐみちもり・さつまのかみただのり・たじまのかみつねまさ・わかさの
かみつねとし・あはぢのかみきよふさ・をはりのかみきよさだ・びつちうのかみもろもり・むさしのかみともあきら・くらんどのたいふなりもり・たいふあつもり・十にんとぞきこ
えし・十のくび・みやこへいる・ならびに・ゑつちうのぜんじもりとしがかうべも・おなじくきやうへぞのぼりける・なかにも・ほん三ゐのちうじやう
しげひらきやうは・ひとりいけどりに・せられたまひけり・二ゐどのこのよしききたまひて・ゆみやとりの・いくさばにて・しぬるは・
つねのならひ・なれども・あはれやあの・三ゐのちうじやうが・ひとりいけどりに・せられて・いかばかりのことをか・おもふら
んとてぞ・なかれける・きたのかた・だいなごんのすけどのは・さまかへんと・したまひけるを・おほいとのも・二ゐどのも・
きみをば・いかでか・すてまゐらつさせ・たまふべきと・やうやうに・せいしたまひしうへ・こんどは・さまをもかへたまは
ず・ふししづみてぞ・おはしける・そのほか・いちのたににて・うたれたまひし・ひとびとのきたのかた・たいりやく・さまをぞ・か
へられける・なかにも・ゑちぜんの三ゐみちもりの・さふらひにぐんだたきぐちときかずと・まをすもの・きたのかたのおんまへに・まゐつて
まをしけるは・うへにはけさ・みなとがはのすそにて・かたき七きがなかに・とりこめられさせたまひて・うたれさせ・おはしま
してさふらひぬ・ことに・てをおろして・うちまゐらせてさふらふをば・あふみのくにのぢうにん・きむらのげん三なりつなとこそ・まをして
さふらひつれ・これもやがて・おんともまをして・いかにも・まかりなるべうさふらひしみの・かねてのおほせには・われいかになりた
りとも・ごせのおんとも・つかまつらんと・おもふべからず・あひかまへて・きたのおんかたの・おんゆくへを・みつきまゐらせよと・
おほせさふらひつるほどに・かひなきいのち・たすかつて・これまでまゐりてさふらふと・まをしたりければ・きたのかたは・とかくの
へんじをも・したまはず・ひきかづきてぞ・なかれける・一ぢやうこのひと・うたれたまひぬと・ききながら・もしこのことの・
P429
ひがごとにてもや・あらむずらむ・またいきて・かへらるることもや・おはせむずらむと・ただかりそめに・いでたる
ひとを・まつらむやうに・この三四かがあひだは・またれけるこそ・あはれなれ・されども・いまはむなしき・ひかずも・
すぎゆきて・もしやのたのみも・つきければ・こころぼそくぞ・おもはれける・きさらぎ十三にち・いちのたにより・八しまへ・
わたられけるあかつきがた・きたのかた・めのとのにようばうに・むかつて・のたまひけるは・あはれや三ゐのあす・うちいでんとてのよ・
さしも・いくさばへ・わらはをむかへて・ゆみやとりの・いくさばへ・いづるは・つねのならひなれども・こんどは・しなんず
るやらん・よにもこころぼそく・おぼゆるぞや・さても・みちもりが・はかなきなさけに・みやこのうちを・さそはれいで・な
らはぬたびのそらに・おもむき・すでにふたとせを・おくらんずるに・いささかもおもひこめたるいろの・おはせざりつることこそ・
いつのよまでも・わすれがたけれなんと・かくみも(イいひつづけ身も)ただならず・さへなりたることを・よろ
こびて・みちもり三十になるまで・こといふものも・なかりつるに・さては・うきよのわすれがたみの・あらんずるにこ
そ・ただしかくいつとなき・なみのうへ・ふねのうちのすまひなれば・みみともならんときの・こころぐるしさをば・いかがはす
べきなんど・いひおきし・ことのはは・はかなかりける・かねごとかな・ありし六かの・あかつきを・かぎりとだ
にも・しりたらば・などのちのよと・ちぎらざるべき・あひそめし・そのよのちぎりさへ・いまはなかなかうらめし
くて・かのひかるげんじのたいしやうの・おぼろづくよのないしのかみ・こきでんの・ほそどのも・わがみのうへに・おもふぞや・
まどろめば・ゆめにみえ・さむれば・おもかげにたつぞとよ・されば・みみともなりて・のちをさなきものをそ
だておき・なきひとの・かたみに・みむほどに・おもひのかずは・まさるとも・なぐさむことは・よもあらじ・ながらへ
P430
たれば・おもはぬふしも・あるぞとよ・くさのかげにて・みむも・うかるべし・さればかかる・ついでに・
ひのなか・みづのそこへも・いりなばやと・おもひさだめて・あるぞとよ・かきおきたるふみをば・みやこへたてまつりたまへ・ご
せのことどもまをしたり・しやうぞくをば・いかならんひじりにも・たうでわが・ごせとふらひたまへ・なによりも・そこのなご
りこそ・いつのよまでも・わすれがたけれなんど・こしかたゆくすゑのことどもを・かきくどいてのたまへば・めのと
のにようばう・ひごろは・ひとのまゐつて・ものまをすときだにも・はかばかしう・ごへんじのなきひとの・こよひしも・かく
こしかた・ゆくすゑのことどもを・かきくどいてのたまふは・まことにひのなか・みづのそこへも・いりたまふべき・ひとやらんと・
かなしくて・まをしけるは・こんどいちのたににて・うたれたまひし・ひとびとの・きたのかたのおんなげき・いづれか・おろかに・さ
ふらふべき・されどもみなおんさまをこそ・かへさせたまひてさふらへ・六だう四しやうは・まちまちに・さふ
らふなれば・いづれのみちへか・おもむかせたまひて・さふらふらんに・ひとつみちへ・むまれあひ・まゐらつ
させ・たまはんことは・かたかるべし・なかにも・みもただならず・さへなりたるひとの・ししたるは・ことにつみ
ふかしとこそ・うけたまはりさふらへ・されば・みみともならせたまひてのち・をさなきひとを・そだておき・まゐらつ
させ・たまひて・なきひとの・おんかたみに・ごらんぜむに・それになほも・おんんこころのゆかずは・そのときこそ・さま
をもかへ・なきひとの・ごぼだいをも・とぶらひ・まゐらつさせ・たまはんずれ・たとひちいろのそこに・しづませたま
ふとも・ともにわらはを・ひきぐしてこそ・いらせたまはんずれなんど・やうやうに(イさまざまに)・かなしみければ・
きたのかた・あしうきこえぬとや・おもはれけん・まことはおもひのあまりにこそ・いひつれ・このよは・はるかに・ふけぬら
P431
ん・いざやねなんとのたまへば・めのとのにようばう・さりともと・うれしくて・おんそばに・よりふしたりけるが・
しばらく・まどろみたるまに・きたのかたやはらおきなほり・ふなばたへこそ・いでられけれ・まんまんたる・かいしやうなれ
ば・いづくをにしとは・しらねども・つきのいるさの・やまのはを・そなたやらむと・おもひやり・しづかに・ねんぶつし
たまへば・おきのしらすに・なくちどり・ともまよはすかと・おぼしきに・あまのとわたる・かぢのおと・かすかに
きこゆる・えいやごゑ・いとどあはれやまさるらん・なむさいはう・ごくらくせかいの・けうしゆみだによらい・あかでわかれし・
いもせのならひ・らいせにては・かならずひとつはちすと・かきくどき・なむととなふるこゑともに・なみのそこ
にぞ・いりたまふ・きさらぎ十三にち・いちのたにより・八しまへ・わたられける・あかつきがたのことなりければ・みなひとねいり
て・これをしらざりけるに・ならびのふねに・かぢとりの・ひとりふねこいでさふらひけるが・このよしをみたてまつつて・あはれあさま
し・あのおんふねに・にようばうのただいま・うみへいらせたまひぬるはと・まをすこゑに・めのとおどろき・そばをさぐり・たてまつ
れども・ましまさず・あれあれと・かなしみければ・そのときみなひと・おきあひふねをとどめ・うみにいりて・さがし
たてまつれども・ましまさず・さらでだに・はるのよは・ならひに・かすむものなれば・よものむらくも・うかれき
て・つきひきかくす・よはなれや・あはのなるとの・くせとして・みつしほ・ひくしほ・はやければ・おんぞもなみも・
しろくして・かづけどもかづけども・つきおぼろにて・みえざりけり・ややあつて・かづきあげ・たてまつりければ・ねり
いろのふたつぎぬに・しろきはかまをきたまへり・みぐしもはかまも・しほたれて・とりあげたれども・かひぞなき・めのとにようばう・
むなしきおんてに・とりつきたてまつつて・きみのちのなかに・わたらせたまひしを・とりあげいだき・そだて・まゐらせて
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より・このかた・かたときはなれ・まゐらすることも・さふらはず・みやこを・おんいでのときも・おいたるおやをふりすてて・
これまでおんともまをしたる・かひもなく・いかでかかかるうきめをば・みせたまひさふらふやらん・たとひぢやうごふにてわたら
せ・たまひさふらふとも・しやうあるおんこゑをも・ありしむかしのおんすがたをも・いま一ど・みせたまへと・やうやうに・か
なしみけれども・わづかにかよひし・いきもたえ・つひにことぎえ・はてさせたまひけり・いづくをさして・おちつくべ
しともおぼえず・さてしも・あるべきならねば・三ゐのきせながの・一りやうのこりたりけるに・おしまとめたてまつつ
て・またうみへかへしいれたてまつる・めのとのにようばう・こんどは・おくれじと・つづいて・いらむとしけるを・ひととりとどめ
ければ・ちからおよばず・ふなぞこに・たふれふし・をめきさけぶこと・なのめならず・せめておもひのあまりにや・
みづからかみを・はさみおとし・三ゐのおとうと・ちうなごんのりつし・ちうくわいにそらせたてまつり・なくなくかいをぞ・たもちける・
をとこにわかるる・をんなのさまをかふるは・つねのこと・みをなぐるまでのことは・ためしすくなきことどもなり・ちうしんは・
じくんにつかへず・ていぢよりやうふに・まみえずとも・かやうのことをや・まをすべき・このきたのかたとまをすは・ことうのぎやうぶ
きやうのりかたのおんむすめ・じやうせいもんゐんに・こさいしやうどのとぞ・まをしける・しかるを・ゑちぜんの三ゐみちもり・いまだそのころ・ちうぐう
のすけにて・さふらはれけるが・このにようばうを・一めみそめ・たてまつつて・おもひにこころをそめ・うたをよみ・ふみをつくし・
としつき・こひかなしまれけれども・なびくけしきも・なかりしかば・三ゐみとせとまをすに・いまをかぎりのふみをかきて・
としごろとりつたへたりける・にようばうにたうだりければ・ごしよへもちてまゐるほどに・をりふしこざいしやうどの・さとよりごしよへ・まゐ
られける・みちにてゆきあひたてまつつて・おんくるまのそばを・はしりすぐるやうにて・このふみを・くるまのうちへ・なげいれてぞ・しの
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びける・こざいしやうどの・ただいまこのふみを・くるまのうちへ・なげいれたるものは・いかなるものぞと・おんたづねありけれども・おんとも
のものどもも・みなしらぬよしをぞまをしける・こざいしやうどの・さすがこのふみを・くるまのうちに・おくにおよばねば・はかまのこし
に・はさみつつ・ごしよにまゐりさふらはれけるほどに・ところしもこそおほきに・にようゐんのごぜんにしも・このふみを
おとされたり・にようゐんこれを・ごらんじ・つけさせたまひて・ごしよちうのにようばうだちをめして・めづらしきものをこそ・もとめ
たれ・このふみのぬしは・たれなる・らんと・おほせければ・めんめんに・よろづのかみや・ほとけにかけて・みなしらぬよしをぞ・
まをされける・そのなかにも・こざいしやうどのばかりこそ・かほうちあかめ・そばむいて・しばしは・ものをもまをされ
ず・にようゐんかさねて・さていかにや・いかにと・おんたづねありければ・あのみちもりのと・ばかりぞまをされける・にようゐんも・
かねてより・そのことありとは・しろしめされけれども・ふみをひらいて・えいらんあるに・くんろのけぶりも・なつか
しく・ふでのたてども・ゆゑびよしあるさまにて・一しゆのうたをぞ・かかれたる
わがこひは・ほそだにがはのまるきばし・ふみかへされて・ぬるるそでかな・
にようゐんこれは・いまだあはぬをうらみたる・ふみなりあなこころつよや・などなびきたまはぬぞ・あまりにひとの・こころつよきも・
みをなきものと・なすなるものを・なかごろ・をののこまちと・きこえしは・みめかたち・ならびなく・こころざま・よ
にすぐれ・たりしかば・みるひと・きくひとの・こころをいたましめずと・いふことなし・されども・こころつよき・
なをやとりたりけむ・のちには・ひとのおもひのつもりとて・せきでらのほとりに・すまひして・ゆききのたみに・ものをこ
ひ・やどにくもらぬ・つきをば・なみだに・つゆに・うかべつつ・あめをもらさぬ・わざもなく・かぜをふせぐ・
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たよりもなし・のべのわかな・さはのねぜりを・つみてこそ・つゆのいのちは・ささへけれ・よにはかかるためしのある
ぞよと・はやなびきたまへ・みづからへんじせんとて・かたじけなくも・にようゐんよりごへんじありとかや
ただたのめ・ほそだにがはのまるきばし・ふみかへしては・おちざらめやは・
三ゐかたじけなくも・にようゐんよりたまはらせたまひて・なのめならず・ちようあいせられけるに・またこまつどののじなん・しん三ゐのちう
じやうすけもり・いまだそのころ・せうしやうにて・せちゑに・まゐられたりけるが・このにようばうを・一めみそめたてまつつて・おもひにこころを
そめ・うたをよみ・ふみをつくし・としつきこひかなしまれけれども・なびくけしきも・なかりしに・はやゑちぜんの三
ゐのうへに・なりたまひぬと・きこえしかば・すけもりのきたのかた・うきやうのだいぶのつぼねとて・ちうぐうのおんかたに・さぶらは
れけるが・このよしをつたへききたまひて・そねましきこころにや・一しゆのうたをぞ・おくられける
いかばかりきみなげくらんこころそめし・やまのもみぢを・ひとにをられて・
すけもりのへんじには
なにとげにひとのをりけるもみぢばに・こころうつして・おもひそめけむ・
これもなかなか・いうにやさしきためしにぞ・まをしつたへたる・みめはさいはひのはな・なれば・三ゐかたじけなくもにようゐんよりたまはら
せたまひて・こんどさいかいのたびのそらまでも・ひきぐしたてまつつて・つひにはおなじみちにおもむかれけるこそ・あはれなれ

 

入力者:荒山慶一



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