平家物語(城方本・八坂系)
巻第十 P435
頸渡 1001
じゆえい三ねんきさらぎ七かのひつのくに・いちのたににて・うたれさせたまふ・へいしのくび・おなじき十かのひ・みやこへいる・ならびに・
ゑつちうのぜんじもりとしがくびも・みやこへのぼる・なかにもほん三みのちうしやうしげひらのきやうは・ひとり・いけどりに・せられたまひけり・
なかにも・こまつの・三みのちうしやうこれもりきやうの・きたのかたは・にしやまのふもと・だいがくじ・しやうぶだにのばうと・まをすところに・しのう
で・おはしけるが・三みのちうじやうといふひと・いけどりにせられて・みやこへ・いると・きこえしかば・いかさまにも・
このひと・のがれたまはじものをとてぞ・なかれける・ひとまゐつて・三みのちうじやうどのとは・ほん三みのちうじやうどのの・おんことにて
さふらふとまをしたりければ・さては・くびどものなかにもや・あるらんとてぞ・なかれける・そのころきやうちうに・のこりとどま
りたまへる・へいけのゆかりのひとびと・いつしか・けふ・われらがみのうへに・いかなるうきことをか・みきかむず
らんとて・やすきここちも・したまはず・おなじき十二にちに・へいしのくびおほぢをわたし・ごくもんにかけらるべし・なん
ど・ごさたありしかば・ほふわうこのこと・おほきに・おぼしめしわづらはせたまひて・しかるべき・くぎやうあまためして・おほせ
あはせられけり・なかにも・ほりかはのだいなごんただちかのきやうの・まをされけるは・およそ・この一もんは・せんてうの・おんときより・せきP436
りのしんとして・ひさしくてうかにつかうまつる・なかんづく・けいしやうのくび・おほぢをわたさるること・ためしなし・されば・のりより・よしつね
が・まをしじやう・あながち・ごきよようあるべからずと・まをされたりければ・ほふわう・このぎもつともとて・すでに・わたさるま
じかりしを・のりより・よしつね・つつしんで・まをされけるは・いのちをかろんじ・ぎをおもんずることも・かつは・ちよくせんの・
おもきがゆゑ・かつは・またおやの・くわいけいのはぢを・きよめんがためなり・まをすむねをごしよういんなからんに・おいては・
なにのいさみにか・てうてきを・ほろぼし・まゐらせさふらふべきと・まをされたりければ・ほふわうもちからおよばせたまはず・またわたさ
るべきにぞ・さだまりける・おなじき十二にちに・へいしのくび・おほぢをわたさる・ひごろみなれたてまつりし・きやうちうのじやうげ・
みななみゐて・そでをぞぬらしける・いはんやそのえんに・ふれ・たがひにおんをかうふり・あはれし・ひとびとの・こころのうち・おし
はかられて・あはれなり・さるほどに・こまつの三みのちうじやうこれもりの・さぶらひに・さいとう五・さいとう六は・六だいどのにつきたてまつ
つて・さふらひけるが・にしやまのふもと・だいがくじしやうぶだにのばうに・しのうでさふらひけるが・わがしゆのおんくびや・まし
ますと・けんぶつのひとの・なかに・まぎれて・みけるに・そのおんくびはなかりけれども・ひごろあひなれたてまつりし・ごいちもんの
くび・いくらもありければ・あまりにめもあてられず・いたはしくて・しきりになみだのすすみければ・ひとに・あやしめ
られじと・いそぎだいがくじに・かへりまゐりたり・きたのかた・さていかにやとのたまへば・さんさふらふ・こまつどののきんだちには・
びつちうのかみのとのの・おんくびばかりこそ・みえさせおはしましさふらへ・そのほかは・そんぢやうそれがし・たれがし・な
んど・まをしたりければ・きたのかた・それも・ひとのうへならばこそ・とてぞ・なかれける・さいとう六が・まをしけるは・
けんぶつのひとのなかに・まをしさふらひしは・こまつどののきんだちたちは・はりまの・三くさのてを・かためさせたまひて・さふら
P437
ひつるが・それもげんじにやぶられたまひて・しん三ゐどのや・しんせうしやうどのや・たんごのかみのとのは・はりまのたかさごのうら
より・おんふねにめして・さぬきの・八しまへ・わたらせおはしましさふらひぬ・びつちうのかみどのばかりこそ・一たにへ・かへらせ
たまひて・うたれさせ・おはしまして・さふらへと・まをしさふらふほどに・さて・こまつの三みのちうしやうどのの・おんことは・いか
にととうてさふらへば・それはおんいたはりにて・こんどのいくさには・あはせたまはず・さぬきの八しまにと・こそ・
まをしてさふらひつれと・まをしたりければ・きたのかた・それもわれらがことをのみ・あさなゆふな・おもひたまふぞ・おんいたはり
とも・ならせたまひたるらむとて・なきたまへば・わかぎみ・ひめぎみ・さてそのおんいたはりは・なにごとのおんやまひぞと・か
へしてこそ・とはましけれとぞ・のたまひける・さるほどに・こまつの三みのちうじやうこれもりきやうは・さぬきの八しまに・
おはしけるが・あるよのあかつきがた・ねざめして・よ三びやうゑしげかげ・わらはいしどうまろが・おんまへちかうおんとのゐまをしてさふらひける
を・めされて・あはれみやこにも・ねざめをば・したるらんものを・たとへをさなきものどもこそ・わするるとも・ひとは・か
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もはましと・のたまひけるぞ・いとほしき・あけければ・よ三びやうゑを・おつかひにて・みやこへのぼせられけり・きたの
かたへの・おんふみには・さても・みそめ・みえそめ・たてまつりしのちは・かたとき・はなれたてまつらじとこそ・まをしてさふらひし
かども・いまは・こんじやうにて・あひみんことも・かたければ・らいせにては・かならず・一ぶつじやうどのえんと・ねがひ
たまふべしと・かきとどめ・おくには・一しゆのうたをぞ・かかれたるP438
いづくともしらぬあふせのもしほぐさ・かきおくあとをかたみともみよ・
さてをさなきひとびとの・おんかたへは・さても・つれづれをば・なにとしてか・なぐさむ・いそいで・むかへとらん
ずるぞ・六だいどのへこれもり・やしやごぜんへ・これもりと・ねんがう・ぐわつび・こまやかに・こそかかれたれ・しゆせきは・
いつまでも・かはらぬものなれば・たとへ・これもり・このよに・なきものとなりたりとも・なからんのちのよの・かた
みにも・みよかしと・かやうにかきぞ・おくられける・よ三びやうゑおんふみたまはりて・よをひについでのぼるほどに・ほどな
う・みやこにのぼりつき・だいがくじにまゐり・三みのちうじやうどのの・おんふみを・きたのかたへたてまつる・きたのかた・めづらしきふみをも・み
るものかなとて・わかぎみ・ひめぎみ・三にん・一しよに・さしつどひ・このふみを・ひらいてみたまひて・なみだに・むせび
たまひけり・わかぎみひめぎみ・さてこのごへんじをば・なにとかまをしさふらふべき・きたのかた・ただともかうも・わごぜたちの・
おもひたまはん・ずるやうに・かきたまふべしと・のたまへば・をさなきひとびとの・さても・つれづれをば・なんとか・
おぼしめされさふらふ・いそいでむかへ・とらせたまへなんどぞ・かかれたる・よ三ひやうゑ・ごへんじたまはりて・またよをひ
についで・くだるほどに・ほどなう・八しまにくだりつき・きたのかたのごへんじを・三みのちうじやうどのへ・たてまつるちうじやう・ひら
いてみたまへば・きたのかたのみづぐきのあとは・なみだにかきくれて・とかくうらみ・くどき・かかれたるより・をさな
きひとびとの・いまだ・いとけなき・ふでのすさびなるに・こひしこひしと・かかれたるを・みたまひてぞ・いとど・
せんかたなくは・おもはれける・こきやうのいぶせかりけることどもは・はや・みなききはるけたまへども・れんぼの・おも
ひは・なほ・やすまらず・さいしは・こころをつくすものなれば・えんぶは・あいしふのつな・つよくして・ゑどを・いP439
とふに・いさみなく・じやうどを・ねがふにものうし・こんじやうは・かくいつとなく・さいしに・こころをくだく・のみ
ならず・たうらいはまた・しゆらのくるしみにこそ・せめられむずらめ・しかじ・これより・うらづたひ・しまづたひして・みやこに
のぼり・こひしきものどもを・いま一ど・みもし・みえもして・まうねんはらひ・そののちやがて・しゆつけして・ひの
なか・みづのそこへも・いりなんと・おもひぞ・さだめたまひける
八島院宣 1002
おなじき十四かに・ほん三みのちうしやうしげひらきやうをば・おほぢを・わたしたてまつる・どひのじらうさねひら・もくらんぢのひたたれに・ひ
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にも・二ゐどのにも・おぼえのきんだちにて・たうけ・たけのくぎやうでんじやうびとの・しゆつしのところにても・ずゐぶんところを・お
かれたまひし・ひとぞかし・ただいまのおんありさまの・いたはしさよとて・みななみゐて・そでをぞぬらしける・かはら
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ほりかはの・みだうへいれたてまつる・そのひのよにいつて・ゐんのごしよより・おんつかひあり・くらんどのゑもんのごんのすけ・さだながとぞ・
きこえし・さだながは・せきいにけんしやく・たいして・三みの・ちうじやうのかたへ・ゆきむかふ・ひごろは・なんともおもはれざりけ
る・さだながが・いつしかけふは・めいどにて・みやうくわんに・あへるここちぞ・したまひける・さだながまをしけるは・これはちよくP440
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請文 1003
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なるべう・さふらひしみの・ひとり・いけどりに・せられてふたたびみやこへ・かへりのぼりて・こそさふらへ・ゐんぜんかくの
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このみたから・みやこへかへしまゐらつさせ・たまひたりとも・しげひらが・いのちたすからむこと・ふぢやうなりと・まをしあはれけれ
ば・ひとびと・このぎもつともと・どうじあはれければ・二ゐどの・ちからおよびたまはず・またひきかづきてぞ・なかれける・さる
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みだりがはしく・たうを・むすんで・じゆらくのあひだ・かつうは・えうてい・ははぎさきのおんなさけ・もつともふかく・かつうは・くわいせき・とつ
みやのおんこころざし・あさからざるによつて・九しうに・みゆきしまします・くわんかうなからんに・おいては・三しゆのしんぎ・
いかでかぎよくたいを・はなたるべきや・それきみは・しんをもつて・ていとし・しんはきみをもつて・しんとす・しん
うちにうれへて・ていほかによろこばず・きみかみにうれふるときんば・しんしもにたのしまず・せんぞ・へいしやうぐんさだもり・さうまのまさかどを・
つゐたうし・とう八ケこくを・うちなびけしより・このかた・ししそんそんにつたへて・ながく・きんけつてうかを・まもりたてまつる・
なかんづく・だいじやうだいじんにふだうじやうかい・さんぬる・はうげん・へいぢ・りやうどのか〔つ〕せん・ぐめいを・かろんじ・ちよくめいを・おもんぜしこと・ひとへ
に・きみのために・つかへて・まさに・みのためにせず・そもそもかのひやうゑのすけよりともと・いつぱ・さんぬる・へいぢぐわんねん・十二
ぐわつに・ちちよしともが・むほんによつて・しきりに・つゐばつすべきよし・おほせくださると・いへども・こにふだうしやうごく・じひ
のあまりに・まをしなだむるところなり・いつしかむかしのはうおんをわすれて・いまこうおんをぞんぜず・たちまちるにんのみを・ひるがへし・きよう
たうのべつに・あひくははる・これおろかなる・しりよのみじかきところなり・たちまちしんだうの・てんばつをまねき・いよいよ・はいせきの・ちんめつを・
ごせんものか・かつうは・こうしんちやくちやく・きみすたいのほうこう・あさからず・かつうは・わがちちじやうかいが・たびたびのほうこうを・おぼ
しめしわすれずんば・一ゐんかたじけなくも・さんしうへ・ごかうなるべきものか・ここにしんら・ゐんぜんのむねを・うけたまはつて・四こく・
九ごくのぐんびやうども・くものごとく・あつまり・かすみのごとく・たなびいて・ならびに・ふるさとにかへつて・かさねて・くわい
けいのはぢを・きよめんとぞんず・もししからずんば・三しゆのしんぎ・なみにひかれて・きかい・かうらい・てんぢく・しんたんに・
いたらむか・かなしきかな・にんわう八十一だいに・あひあたつて・いたましいかな・わがてう・よよの・おんたからを・なみのそこの・みP444
くづと・しづめんことを・しんたいに・まどつて・かくのごとく・あんないを・けいするところなり・このおもむきをもつて
しかるべきやうに・もらし・そうもんせしめたまへ・せいくわうせいきようきんげん・じう一ゐさきのないだいじんたひらのむねもり・とんしゆごんじやう
とぞかかれたる
内裏女房 1004
また・三みのさぶらひに・むくうまのぜう・まさときと・まをすものあり・あるとき・八でうほりかはの・みだうにまゐり・しゆごの・ぶし
に・むかつて・まをしけるは・これは三みのちうじやうどのの・ねんらい・めしつかはれし・さぶらひに・むくうまのぜうまさときと・まをすものに
てさふらふなり・みやこをおんいでのときも・もつともおんともつかまつるべう・ぞんじさふらひつれども・八でうのにようゐんに・けんざんのみにてさふらふ・うへ
ゆみやのもと・すゑを・だにもぞんじさふらはねば・いとままをして・まかりとどまりさふらふ・まことやらん・三みのちうじやうどのの・みやこに
わたらせたまはんも・けふあすばかりと・やらんうけたまはりさふらふ・あはれおんゆるされを・かうぶつて・いま一ど・おんめに
かかりさふらはば・やとまをしたりければ・しゆごのぶしども・こしのかたなをだにも・おかれさふらはば・やすきおんことさふらふとぞ
まをしける・まさときさらばとて・こしのかたなをば・どひのじらうに・あづけおき・三みのちうじやうどのの・げんざんにいる・三み・いか
に・あれは・まさときか・これへこれへと・のたまへば・まさとき・おそばちかくまゐりて・こしかたゆくすゑのことどもを・よもす
がら・かたりぞ・あかさせたまひける・あけければ・まさとき・いとままをして・まかりいづ・三みのちうじやう・さても・いつぞや・なんぢし
てまをしかよはせし・ふみのぬしは・たうじいづかた・にか・ましますらむなど・のたまへばゐんのごしよに・おんわたりさふらふとぞまをしP445
ける・三みのちうじやう・せめてふみをたてまつつて・へんじをなりとも・みてなぐさまばやと・おもふはいかがあるべきと・
のたまへば・まさときやすき・おんことさふらふとぞまをしける・三みのちうじやう・なのめならず・よろこびたまひて・やがて・おんふみ・あそばし
て・まさときに・たぶ・まさときたまはつて・いでければ・しゆごのぶしども・あれは・いづかたへの・おんふみにてさふらふやらん
と・あやしめければ・三みのちうじやう・くるしかるまじ・そのふみみせよとて・どひのじらうに・みせられけり・
さねひら・ひらいてみ・ややこれは・にようばうのおんかたへの・おんふみにてさふらふなり・くるしからじとて・いだしける・まさ
とき・しゆくしよにかへり・そのひ一にちを・まちくらし・やがてよにいつて・ゐんのごしよにまゐり・くものうへのしづかに・なるほどを・
うかがひて・くだんのにようばうの・すまれけるつぼねの・やかきのへんに・たたずんでききければ・このにようばうも・三みのちうじやう
どののこと・のたまひいだして・なきたまひければ・まさときこのひとも・いまだ・三みのちうじやうどののおんことをば・おぼしめしわすれざりけ
りと・うれしくおもひ・つまどをほとほとと・たたけば・うちよりたそとこたふ・これは三みのちうじやうどのの・お
つかひに・まさときと・まをせば・あけられたり・このおんふみをたてまつる・ひらいてみたまへば・一しゆのうたをぞかかれたる・
なみだがはうきなをながすみなりとも・いま一たびのあふせともがな・
やがてごへんじ・あそばして・まさときにたぶ・まさときたまはつて・八でうほりかはのみだうに・まゐり三みのちうじやうどのに・たてまつ
る・ひらいてみたまへば・これも一しゆのうたをぞ・かかれたる
きみゆゑにわれもうきなをながすとも・そこのみくづとともにきえなん・
三みのちうじやう・このごへんじを・みたまひてぞ・おもひをなぐさめ・たまひける・そののち・三みのちうじやう・しゆごのぶしP446
に・むかつて・のたまひけるは・いま一どはうおんに・あづからばやとおもふは・いかがあるべきと・のたまへば・しゆごのぶ
しども・なにごとにてさふらふやらんと・まをしたりければ・三みのちうじやう・べちのやうはなし・きのふのふみのぬしに・たいめん
して・ごせのことどもをも・いひおかばやと・おもふはいかがあるべきとのたまへば・しゆごのぶしども・やすき・おん
ことさふらふ・とぞまをしける・三みのちうじやう・なのめならずよろこびて・まさときに・このよしのたまへば・まさときかひがひしくも・うしぐるま・
きよげに・さたし・ゐんのごしよにまゐつて・このよし・まをしたりければ・このにようばうも・あまりに・おもはれしことなれ
ば・なのめならずよろこびたまひて・やがていでんと・したまひけるを・かたへのにようばうたち・あなあさまし・それには・
ぶしどもが・いくらもありて・みぐるし・かんなる・ものをなんど・のたまひあはれければ・このにようばう・いまなら
では・またいつのよにかは・みゆべきとて・いそぎ・おんくるまにめし・八でうほりかはのみだうに・おはして・あんないを・
まをされたりければ・三みのちうじやうこれには・ぶしどもが・いくらもありて・あまりに・みぐるしうさふらへば・
くるまよりは・な・おりられさふらひそとて・もんのほとりに・くるまをたてて・はるかに・よふけ・ひと・しづまつてのち・三
みのちうじやう・くるまにいであひ・たいめんしたまひて・こしかたゆくすゑのことどもを・よもすがらかたりぞ・あかさせたまひける・
しののめやうやうあけゆけば・くるまのながえをめぐらして・もとのみちへぞ・かへられける・いづくをやどとて・いそぐら
ん・またいつまでとてか・ちぎりけん・しのぶに・たへぬなみだのいろ・くるまのよそまで・もれぬべし・きぬぎぬにまさとき
を・つかひにて・一しゆのうたをぞ・おくられける
あふこともつゆのいのちももろともに・こよひばかりやかぎりならまし・(イ限りなるらん)P447
このにようばうすみすり・ふでそめて・ごへんじをかかれける・がみづから・ひすゐのかんざしを・もとゆひぎはより・
おしきつて・へんじに・そへてぞおくられける・まさときごへんじ・たまはつて・また八でうほりかはの・みだうにまゐり・三み
のちうじやうどのにたてまつる・ちうじやうひらいてみたまへば・これも一しゆのうたをぞかかれたる
あふことの(イことも)かぎりときけばつゆのみの・きみよりさきにきえぬべきかな・
三みのちうじやうこのかんざしを・みたまひて・ひごろのこころざしの・わりなきいろの・あらはれて・たへぬおもひの・あま
りには・こゑにもいでて・さけぶほどにぞ・おもはれける・やがて・このにようばう・ゐんのごしよをば・まぎれいで・
しやうねん廿三とまをすには・はなのたもとをひきかへて・すみぞめのそでに・やつれはて・ひがしやまさうりんじのかたほとりにぞ・すま
れける・このにようばうとまをすはをはらの・みんぶにふだうしんはんのおんむすめ・さゑもんのかみの・とのとぞ・まをしける
重衡の戒文 1005
さるほどに・三みのちうじやうしげひらのきやうは・おんうけのじやうたうらいのよしをききたまひて・さればこそ・いかにも・かなふまじ
かりつるものを・さこそは・みやこのひとびとも・また一もんのかたがたも・これほどまで・しげひらをいふかなひなきものと・
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重衡の海道くだり 1006
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かんと・たはぶれたまひ・びはを・とり・てんじゆを・ねぢ・わうじやうのきふを・ひきぞ・すまされたる・三みのちうじやう・
びは・ひきならし・ともしびくらうしては・すかうぐしが・なんだ・よふかうしては・四めんそかのこゑといふ・らうえいをぞ・
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ること七十よど・たたかひごとには・かううかちぬ・されどもつひに・かううまけて・ほろびしとき・ぐしといへるきさきに・なごり
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せんじゆがかへりまゐりたるよしを・ききたまひて・わうよりともは・せんじゆに・おもしろくも・ちうじんをば・したりつる・
ものかなと・のたまへば・さいゐんの・すけちかよし・おんまへちかう・ものかいて・さふらひけるが・ふでさしおき・こは・なに
ごとにて・さふらふやらんと・まをしたりければ・ひやうゑのすけ・へいけは・よよのかじん・さいじんと・きくに・あはせて・こよ
ひ・よもすがら・たちききつるに・三みのちうじやうの・びはのばちおと・らうえいのきよく・まことにおもしろかりつる・ものかなP458
と・のたまへば・ちかよしさんさふらふ・へいけは・よよのかじん・さいじんたるうへ・ひととせこまつのだいふを・はじめたてまつつて・この
ひとびとを・はなにたとへて・さふらひしに・なかにも・このしげひらのきやうをば・ぼたんのはなにこそ・たとへて・さふらひしか・
たれもゆふべ・うけたまはるべうさふらひつるを・いささかまぎるることの・さふらひて・うけたまはらずさふらふ・こののちは・つねに・たちきく
べしとぞ・まをしける・そののち・ひやうゑのすけ・三みのちうじやうの・びはの・ばちおと・くちずさび・つねはおもしろげに・かんじたま
へば・せんじゆのまへは・なかなかに・ものおもひとぞ・なりにける
横笛 1008
なかにも・こまつの三みのちうじやう・これもりのきやうは・みがらは・やしまにありながら・こころは・みやこへのみぞ・かよはれける・
ふるさとに・とどめおきし・をさなきものどもを・いま一ど・みもし・みえばやとは・おもはれけれども・さるべきたよりも・
なかりければ・よ三びやうゑしげかげ・わらはいしどうまるは・ふねにこころえたればとて・とねりたけさと・かれら三にんばかりを・めし
ぐして・じゆえい三ねん・三ぐわつ十五にちのよの・あかつきがた・やしまのたちをば・しのびつつ・まぎれいでさせ・たまひて・
あはのくに・ゆふきのうらより・ふねにのつてぞ・いでられける・なるとのおきを・おしわたり・わか・ふきあげ・そとほりひめの
かみと・あらはれたまひけん・たまつしまのみやうじん・にちぜんこくげんの・おまへのなぎさを・こぎすぎて・きいのみなとにこそつきたまへ・
これよりうらづたひ・しまづたひして・みやこへのぼらばやとは・おもはれけれども・をぢほん三みのちうじやう・しげひらきやうの一
にん・いけどりに・せられて・きやうゐなか・ひきしろはれ・うきはぢを・さらし・たまふだにも・こころうきに・またこれもりさP459
へ・とらへからめられて・ちちのかばねにちを・あやさんことも・こころうければとて・みやこへとはちたび・こころはすすまれ
けれども・こころにこころを・からかひて・それより・かうやのおやまに・のぼり・しりたるひじりを・たづねたまふ・このひじりとまをす
は・さんでうの・さいとうさゑもんのたいふ・もちよりがこに・さいとうたきぐち・ときよりとて・もとは・こまつどのに・さふらひけるが・
十三のとし・ほんじよへまゐりたる・けんれいもんゐんのざふしに・よこぶえといふをんなあり・たきぐち・かれに・さいあいして・かよひけ
るよし・きこえしかば・ちちのもちより・このよしを・ききて・あるときにたきぐちを・ようでいひけるは・なんぢ一にん・もちぬれば・
いかならんひとの・えんにもなし・しゆつしなんどの・たよりにも・せさせんとこそ・おもひしに・かかるいふかひ
なき・よこぶえとかやに・あひぐしたんなり・なんぢこのこと・ふけうの・いたりなるべしなんど・やうやうにいさめければ・たき
ぐちおもひけるは・さいわうぼと・いつしものも・むかしはありていまはなし・またとうばうさくと・きこえしも・なにのみ・きい
てめには・みず・らうせうふぢやうのさかひは・せきくわのひかりに・ことならず・たとへひと・ぢやうみやうを・たもつといへども・七十八十を
ば・すごさず・そのあひだに・ひとのみの・さかんなることは・わづかに・廿よねんを・かぎれり・いくほどならぬ・よのなかに・
おもはしきものを・みんとすれば・おやのめいを・そむくににたり・またおやのめいに・したがはんとすれば・をんなのこころむざん
なり・ゆめまぼろしの・よのなかに・みにくきものを・へんしもみて・なににかはせん・しかじぜんちしきなり・うきよ
を・いとひまことのみちに・いりなんには・とて・たきぐち十九にて・もとどりきり・さがのおく・わうじやうゐんなる
ところに・ねんぶつしてぞ・ゐたりける・よこぶえ・このよしをききて・われをこそ・すてめ・さまを・かへけんことのむざん
さよ・たとへさまを・かふるとも・などみづからに・このよし・かくとは・しらせざりけるぞや・たとへひとこそ・こころP460
づよくとも・いま一どたづねて・うらみばやとおもひ・あるくれがたに・だいりをば・しのびつつ・まぎれいで・さがのかたへ
ぞ・あこがれゆく・すゑのまつやまなみこさば・うらみむとこそは・おもひしに・あふさかやまの・さねかづら・などく
るひとの・なかるらん・ころはきさらぎ・十かあまりの・ことなれば・うめづのさとのはるかぜに・よそのにほひもなつ
かしく・おほゐがはのつきかげは・かすみにこめて・おぼろなり・ひとかたならぬ・あはれさを・たれゆゑと・こそ・おもひけ
め・わうじやうゐんとは・ききつれども・さだかに・いづくのばうとも・しらざれば・このも・かのもに・たたずんで・
たづねかぬるぞ・むざんなる・ここに・すみあらしたる・そうばうに・ねんじゆのこゑの・しけるを・よこぶえ・たきぐちが・こゑに
ききなして・ぐしたりける・をんなをいれて・いはせけるは・さまのかはりて・おはするなるを・みたてまつらむ
ために・よこぶえこそ・これまでまゐりて・さふらへと・いひいれたりければ・たきぐち・むねうちさわぎ・あさましさに・しやうじの
ひまより・みければ・ねくたれがみの・たえまより・なみだのつゆぞ・ところせく・こよひ・よもすがら・
ねざりけりと・おぼえて・おもやせたる・けいき・たづねかねたる・ありさま・まことにみるも・いたはしく
て・いかなる・だうしんじやなりとも・こころよわくも・なりつべし・たきぐち・やがて・ひとをいだして・これには・さや
うのこともさふらはず・いかさまにも・かどたがへにてもや・さふらふらんとて・つひに・あはでぞ・かへしける・そののち・
たきぐちにふだう・あるじのそうに・むかつて・まをしけるは・これもよに・しづかなるところにて・ねんぶつに・しやうげは・さふらはね
ども・あかでわかれし・をんなに・すまひを・みえて・さふらへば・たとへ一どこそ・さふらふとも・なほも・したふこと・あらば・
さだめて・こころもはたらきぬべし・さらばいとままをしてとて・わうじやうゐんをば・なくなくたちいで・それよりも・かうやのおやまに・P461
のぼり・ほふどうゐん・なしのばうなるところに・おこなひすましてぞ・ゐたりける・よこぶえも・さてしも・あるべきならねば・みやこ
にかへり・さまをかへ・ならの・ほつけじに・おこなふよし・きこえしか・ばたきぐちにふだう・このよしを・つたへききて・なのめ
ならずよろこび・かうやのおやまより・一しゆのうたをぞ・おくりける
そるまではうらみしかどもあづさゆみ・まことのみちにいるぞうれしき・
よこぶえが・へんじには
そるとてもなにかうらみんあづさゆみ・ひきとどむべきこころならねば・
よこぶえは・そのおもひのつもりにや・ほどなう・はかなく・なりにけり・たきぐちにふだう・いよいよおこなひ・すまして
ぞ・ゐたりける・ちちもふけうを・ゆるしけり・したしきひとは・かうやの・おやまの・ひじりのごばうとて・もてな
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しゆつけののちは・けふぞ・はじめて・みたまひける・いまだ・卅に・だにも・ならぬが・らうそうすがたに・やせお
とろへ・こきすみぞめに・おなじけさ・かうのけぶりに・しみかをる・さかしうも・おこなひいりたる・だうしんじや・うらやましくぞ・
おもはれける・しんの七けんが・ちくりんじ・かんの四かうが・こもりけん・しやうざんごもりの・すまひも・これには・すぎじとぞみ
えしP462
高野の巻 1009
そののち・たきぐちにふだう・三みのちうじやうを・みたてまつつて・こはさらに・うつつとも・おぼえさふらはぬ・ものかな・ひごろは・
さぬきの・やしまに・とこそ・つたへうけたまはりつるに・ただいま・なんとして・これまでは・つたはらせ・おはしまし
たるやらんと・まをしたりければ・三みのちうじやう・さればとよ・みやこをば・ひとなみなみに・まぎれいで・さいこくの
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さればかかる・ついでに・ひのなか・みづのそこへも・いりなばやと・おもひさだめてあるぞとよ・またくまのへ・まゐら
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るを・そり・おろしたてまつつて・ぎよいを・きせたてまつらせ・たまひけり・かのみでし・いしやまの・ないぐしゆんいうの・い
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たり・ごにふぢやうは・しようわ二ねん・三ぐわつ廿一にち・とらの一てんのことなれば・すぎにしかたも・三百よさい・いま五十六
おく・七千万ざいののち・じそんのしゆつせ・三ゑのあかつきを・またせたまふらん・ひさしさよ
維盛の出家 1010
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らぬことこそ・かなしけれとて・なみだぐみたまふぞ・あはれなる・そのよは・三みのちうじやう・たきぐちにふだうが・あんじつに・
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も・うたがはれ・ごや・しんでうの・かねの・こゑには・しやうじのねぶりを・さますらんとも・おぼえたり・のがれぬべくは・かくても・
あらまほしくぞ・おもはれける・あけければ・三みのちうじやう・かいのし・しやうじ・さまかへむと・したまひけるが・
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二にんのものども・なみだにむせびて・しばしは・ごへんじをもまをさず・ややあつて・しげかげなみだを・おさへてまをしけるは・ちち
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たれふびんとまをすものも・さふらはざりつるに・こおほいとのの・わがみに・かはりたるものの・こなればとて・なのめな
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に・もとどり・とりあげられ・まゐらせて・もりのじをば・五だいに・つけんしげのじをば・まつわうに・たぶと
て・さてこそ・しげかげとは・めされさふらひしか・またわらはなを・まつわうと・まをすことも・うまれて五十にちと・まをすに・ちちが・
いだいて・まゐりければ・こおほいとの・このいへを・こまつと・いへば・いはうて・まつわうと・つけんとて・かやうに
も・めされさふらひき・されば・ごわうじやうのおんときも・このよの・おんことどもをば・はや・おぼしめしわすれさせたまひて・ひとこと
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ねんを・おくるとも・つひには・をはりの・なかるべきか・とて・みづから・もとどり・おしきつて・たきぐちにふ
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しやうぞくしたるぶし・十四五き・三みのちうじやうどのに・ゆきあひたてまつる・三みのちうじやう・ただいまこれにて・とらへからめられ・
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たるやらん・はや・さまかへたまひけり・よ三びやうゑしげかげ・わらはいしどうまるも・つきたてまつつて・しゆつけしたりけ
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とほりたりつるなり・いとほしの・おんありさまやとて・なみだにむせびければ・らうどうどもも・みなそでをぞ・ぬらしけ

維盛の熊野参詣 1011
三みのちうじやう・やうやうさしたまふほどに・いはたがはにも・なりしかば・このかはの・ながれを・一ども・わたるもの
は・あくごふぼんなう・むしのざいしやうも・きゆなるものをと・よにも・たのもしげにこそ・のたまひけれ・たきのしり・たかはら・
十でう・くませがは・ゆのかは・みこしがたけをも・すぎゆけば・ほつしんもんにぞ・なりにける・ほんぐうにまゐり・をがみを・まゐら
つさせ・たまひけるが・ほつせを・とどめて・このやまのちけいを・みたまふに・こころもことばもおよばれず・だいひおうご
のかすみは・ゆやさんに・たなびき・れいけんぶさうのしんめいは・おとなしがはに・あとをたれ・一じようしゆぎやうのみねには・かんおうのつき・
くまなし・六こんざんげのそこには・まうざう・つゆを・むすばず・いづれもいづれもたのもしからずと・いふことなし・そのよは・
三みのちうじやう・ほんぐう・しようじやうでんの・おまへにつやして・よもすがら・けいびやくしたまひけるは・ちちの・おとども・
このおまへにてこそ・いのちをめして・ごしやうを・たすけさせおはしませと・まをさせたまひし・おんことまでも・おぼしめし
いだして・ほんぢ・みだによらいにて・ましませば・せいしゆふしやのほんぐわん・あやまりたまはず・九ぽんあんやうの・じやうどへ・P468
いんぜふしたまへと・まをされける・なかにも・ふるさとに・とどめおきし・さいしあんをんにと・いのられけるぞ・うきよを・い
とひ・まことのみちに・いりたまふとは・まをせども・まうしふ・なほ・つきせずと・おぼえて・かなしき・あけければ・
三みのちうじやう・ごぜんのつより・ふねにのり・しんぐうにまゐり・かんのくらを・をがみたまふに・こころもことばも・およばれ
ず・がんしようたかくそびえては・あらし・まうざうのゆめを・やぶり・りうすゐきよく・ながれては・なみぼんなうのあかを・すすぐらむとも・
おぼえたり・あすかのやしろを・ふしをがみ・さののまつばら・さしすぎて・やけいのつゆに・そでぬらし・なちへぞ・まゐ
りたまひける・三のおやまは・いづれも・とりどりなりとは・まをせども・なちさん・ことにすぐれたり・三へに・
みなぎりおつるたきのみづ・す千ぢやうまで・よぢのぼれり・くわんおんのれいざうは・いはのうへに・あらはれて・ふだらく
せんとも・いつつべし・かすみのそこには・ほつけどくじゆのこゑ・きこゆ・りやうじゆせんとも・まをしつべし・むかしくわんざんのほうわう・くわんわ
のなつのころ・十ぜんのていゐを・すべらせたまひて・このおやまにして・九ほんのじやうせつを・おこなはせたまひし・ごあんじつ
の・きうせきには・むかしをしのぶばかりにて・おいきのさくらのみぞ・のこれる
維盛の入水 1012
そのよは・三みのちうじやう・たきもとに・まうでつつ・せんじゆだうに・ねんずして・おはしけるいほりに・なちごもりのそうのなか
に・三みのちうじやうを・よくみしりたてまつりたりける・らうそうの一にん・さふらひけるが・ここなる・しゆぎやうじやを・たれなるら
んと・おもひゐたれば・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうどのにて・ましましけるぞや・あのひとのことぞP469
かし・すぎにしあんげんぐわんねん・三ぐわつ十三にちに・ほうわう・ほうぢうじどのにして・りんじのおんきやうくやう・ならびに・いそぢのおんが
の・ありしとき・あのひとの・いまだそのころ・四ゐのせうしやうにて・十八か・九に・なられしが・たうけにも・たけ
にも・みめよき・でんじやうびとに・ゑらまれ・さくらをかざして・せいがいはをまはれし・かいかには・だいじん・くわんぱく・
つきたまひ・ちちのおとどは・だいなごんの・うだいしやう・をぢの・むねもり・ちうなごんにて・ちやくざせられ・たりし・けいき・
たれかたをならぶ・べしとも・みえざりき・にようばうたちは・みやまぎのなかの・やうばいとこそ・たはふれたまひしか・あらしに・
たぐふはなの・にほひ・かぜにひるがへす・まひのそで・てんをもてらし・ちをかがやかす・ばかりなり・ただいまに・だいじんの・たい
しやうを・まちうけたまへる・ひとよとこそ・われも・ひとも・まをしあひたりしに・よのまに・かはるならひほど・くちをし
かりけること・あらじ・ただいまのおんありさまの・いたはしさよとて・なみだにむせびければ・さんろうの・ぎやうじやたちも・みなう
ちごろもの・そでをぞ・ぬらしける・あけければ・三みのちうじやう・はまのみやの・おまへより・一えふのふねに・さをさ
して・万りのさうかいに・うかびたまふ・こぎゆくふねの・あとのしらなみ・うらやましくぞ・たちかへる・はるかのおきに・おしいだして・
みたまへば・一のしまあり・あれは・いかにと・のたまへば・あれこそ・ほたてじまとも・まをし・またおほひらいしとも・まをしさふらふ
なりとまをす・三みのちうじやう・かのしまにふねを・よせさせ・ふねよりあがり・まつのえだをけづりて・ゆびの・さきより・ちを
あやし・なくなく・めいせきをこそ・かかれけれ・そぶ・だいじやうだいじんたひらのあそんきよもりこう・ほうみやうじやうかい・そのちやくし・こまつ
のないだいじんしげもりこう・ほうみやうせうくう(イ浄蓮)・そのこ・こまつの三みのちうじやうこれもり・ほうみやうゑんじやう(イ浄円)・とし廿七と・
まをす・やよひ廿九にちに・なちのおきにして・しづみをはんぬと・かきとどめ・おくには・一しゆのうたをぞ・かかれたるP470
ふるさとのまつかぜいかにうらむらん・そこのみくづとしづむわがみを・
またふねに・とりのつて・うみにぞうかびたまひける・かいろはるかにみわたせば・あはれをもよほすたよりあり・あまのつりぶねの・
なみのうへに・うきぬ・しづみぬ・ゆられけるを・みたまふに・つけても・わがみのうへとぞ・おもはれける・ころ
はやよひ廿九にちの・ことなれば・はるも・すでに・くれなんとして・けふをかぎりの・はるなれば・さこそは・なごり・
をしかりけめ・むかしは・九への・うちにして・はるのはなに・うたをよみ・いまはきうしに・しゆくやして・あきのつきに・
しをつくれり・あるひは・やしまのいその・とまやに・たびねして・なみまのつきに・こころをくだき・あるひは・もじ・あかまの
なみのうへに・うきねして・からろのおとに・ゆめをさまし・かへるかりの・くもゐに・おとづれゆくを・みたまふに・つけて
も・ふるさとへ・ことづてせまほしく・そぶがここくの・うらみまでも・おもひのこせる・くまぞなき・そののち・三みのちう
じやう・にしにむかつて・さいごの十ねん・したまひけるが・がつしやうをみだり・ねんぶつを・とどめて・ひじりにむかつて・のたまひ
けるは・あはれ・ひとのみに・さいしをば・もつまじかりけるぞや・こんじやうは・かくさいしに・こころをつくす・のみな
らず・ごせぼだいまでの・さまたげとなる・こころうさよ・ただいまもまた・おもひいづるぞや・おもふことを・こころにこむれば・
つみふかからんなれば・さんげするなりとぞ・のたまひける・たきぐちにふだう・まことに・それは・さぞおぼしめされさふらふら
ん・たかきもいやしきも・おんあいのみちは・ちからおよばずさふらふ・いちやのちぎりを・こむるも・ぜんせのしゆくえん・あさからず・ま
してふうふは・五百しやうまでの・しゆくえんとこそ・うけたまはりさふらへ・しやうじやひつめつ・ゑしやぢやうり・うきよの・ならひにてさふら
へば・たとへ・ちそくこそ・さふらふとも・おくれ・さきだつことの・つひになくて・しもや・さふらふべき・なかにも・だいろくてんP471
のまわうは・よくかいを・わがままに・りやうして・そのうちの・しゆじやうのしやうじを・はなれんと・することをば・きはめて・を
しみ・あるひは・おやとなり・ことなり・あるひは・をつととなり・つまとなつて・もろもろの・はうべんを・めぐらして・さま
たげんと・つかまつりさふらふを・三ぜのしよぶつは・いつさいのしゆじやうを・おんこのごとく・おぼしめされて・ごくらくじやうどの・
ふたいのはうどに・すすめいれんと・したまふを・ひとのみに・さいしと・まをすものが・しやうじを・はなれぬ・きづななる
によつて・ほとけのおほきに・いましめたまふこれなり・げんじのせんぞ・いよにふだうらいぎは・さだたふ・むねたふを・せめし十二ねん
の・か〔つ〕せんのあひだに・ひとのくびを・きることも・一万五せんにん・そのほかさんやのけだもの・がうがのうろくづ・そのいのちをたつこと・いく
せんまんといふ・かずをしらず・されども・一ねん・ぼだいしんを・おこすによつて・わうじやうすることを・えたり・かくつみ
ふかかりしらいぎも・こころつよきがゆゑに・わうじやうをとぐ・ましてきみは・させるざいごふも・わたらせたまはねば・など
かじやうどへ・まゐらせたまはではさふらふべき・ごせんぞ・へいしやうぐんさだもり・さうまのまさかどを・つゐたうし・とう八ケこくを・うちな
びけ・させたまひしに・あひついで・ちやくちやく九だいに・あたらせたまへば・きみこそ・にほんのしやうぐんとも・ならせ
たまふべけれども・ごうんつきさせたまひぬるうへは・ちからおよばせたまはず・なかにも・しゆつけのくどくは・ばくだいなれば・
ぜんせのざいごふも・さだめてほろびさせ・たまひなんず・百せんさい・百らかんを・くやうし・たとへひとあつて・七はうの・たふば
をたてんこと・たかさ三十三てんに・いたるといふとも・一にちのしゆつけのくどくには・なほおよばずとこそ・みえてさふらへ・
そのうへ・みだによらいは・さいはうじやうどを・しやうごんし・一ねふ十ねんをも・きらはず・十あく五ぎやくざいをも・みちびかんといふ・
ひぐわんましますなり・かのぐわんりきに・じようぜんに・廿五のぼさつは・ぎがくかやうして・ほつしやうのみとを・おしひらき・P472
ただいまさいはうより・きたりたまふべし・くわんぜおんぼさつは・こんれんだいをささげ・だいせいしぼさつは・百ふくしやうごんの・みてを
のべ・むりやうのしやうしゆとともに・みてをさづけて・むかへ・まゐらつさせたまふべし・ただいまこそ・ちいろの・そこに・しづ
むと・おぼしめされさふらふとも・つひには・しうんのうへにこそ・のぼらせたまはんずれ・じやうぶつとくだつして・さとりを
ひらかせたまはば・しやばのこきやうに・たちかへり・さりがたく・おぼしめされし・ひとびとをも・またわりなく・おも
ひまゐらつさせ・たまはんおんかたをも・むかへ・まゐらせ・たまはんは・なんのおんうたがひか・さふらふべき・あひかまへて・よ
ねんおこさせたまふなとて・しきりに・かねうちならし・ねんぶつをすすめたてまつる・三みのちうじやう・たちまちまうねん・ひるがへし・かう
じやうに・ねんぶつす百ぺん・となへたまひて・なむととなふる・こゑとともに・うみにぞ・しづみたまひける・よ三びやうゑしげかげ・わ
らは・いしどうまるも・つづいている・とねりたけさとも・つづいていらんとしけるを・ひじりいかで・ばくだいのごゆゐごんを
ば・たがへまゐらせんとは・つかまつるぞとて・とりとどめければ・ちからおよばず・ふなそこに・たふれふし・をめきさけぶこと・
なのめならず・もしも・うきもや・あがりたまふらんと・しばしはみたてまつりけれども・三にんながら・つひに・しづ
んで・みえたまはず・ひもやうやうくれなんとして・かいしやうもくらく・なりしかば・むなしきふねを・こぎもどす・
おつるなみだ・かいのしづく・わきて・いづれも・みえざりけり・さてしも・あるべきならねば・ひじりは・かうやの・
おやまへと・ゆきければ・とねりは・やしまへまゐりける・こころのうちおしはかられて・あはれなり
維盛の北方の出家(あひ) 1013 P473
さるほどに・とねり・たけさと・さぬきの・やしまに・まゐつて・このよしまをしたりければ・おほいどのも・二ゐどのも・さればこ
そ・ひごろは・みやこのことをのみ・あさな・ゆふな・のたまひしほどに・いかさまにも・これは・いけのだいなごんがやうに・げん
じと・ひとつに・なつて・みやこへ・のぼらせたまふに・こそと・よにも・こころもとなく・おもひしに・さては・さや
うに・なりたまひたることよとて・なみだにむせばせ・おはします・三みのおとうと・しん三みどのや・せうしやうどのや・たんごのかうの
とのは・三にんひとつところに・さしつどひ・こおほいとのに・はなれたてまつつてのちは・このひとをこそ・たかきやま・ふかき
うみとも・たのみまゐらせつるに・さては・さやうに・なりたまひたることよとて・なみだに・むせびたまひけり・そののちしん三みどの・とね
りたけさとをめして・おんふみは・なきかとのたまへば・おんふみは・さふらはず・おんことばにて・おほせられさふらひしは・さちうじやうどの・
びつちうのかうのとのも・ところどころにて・うせたまひぬ・またこれもりさへ・かくなりゆけば・さこそは・ひとびとの・こころぼそう・
おもひたまふらめ・そのほか・からかは・こがらすのことまでも・こまやかに・まをしたりければ・しん三みどの・わがみのうへとて
も・いちにちへんし・ながらふべしとも・おぼえずとて・ふししづみてぞ・なかれける・さるほどに・こまつの・三み
のちうじやうこれもりきやうの・きたのかたは・にしやまのふもと・だいがくじ・しやうぶだにのばうに・しのうでおはしけるが・あるよのあかつきか
た・ねざめして・めのとのにようばうに・むかつて・のたまひけるは・あはれや・三みのひごろは・つきに一どの・おと
づれも・ありつるが・このほど・かきたえ・たることよ・せめてふみを・たてまつつて・へんじを・なりともみて・なぐさ
まばやと・おもふなりとて・つぎのひ・さいとう五を・おつかひにて・さぬきのやしまへ・くだされけり・さいとう五・ほどな
うかへりまゐり・たり・きたのかた・さていかにやと・のたまへば・さんさふらふ・うへには・はや・さんぬるやよひ十五にちのよP474
の・あかつきがた・やしまのたちをば・しのびつつ・まぎれいでさせたまひて・あはのくに・ゆきのうらより・おふねにめして・
きのみなとに・あがらせたまひ・それよりかうやへ・おんまゐりあつて・たきぐちにふだうに・たづねあはせたまひて・だうだう・
じゆんれい・せさせたまひ・そののち・たきぐちにふだうを・せんだちにて・くまのへ・おんまゐりあつて・三のおやまの・ごさんけい・こと
ゆゑなう・とげさせたまひて・のち・なちの・おきにして・しづかに・ねんぶつさふらひて・うみにしづませ・おはしましさふらふ
と・これは・とねりたけさとが・まをしさふらふなりと・まをしたりければ・きたのかた・さればこそ・ひごろは・つきに一どの・
おとづれも・ありつるが・このほど・かきたえたるよと・おもひしに・さては・さやうに・なりたまひたることよとて・
たふれふしてぞ・なかれける・ややあつて・めのとのにようばう・なみだをおさへて・まをしけるは・うへには・さんぬる・やよひ十
五にちの・よの・あかつきがた・やしまのたちをば・まぎれいでさせ・たまひて・きのぢに・つかせたまひ・それより・かう
やへ・おんまゐりあつて・そののち・たきぐちにふだうを・せんだちにて・くまのへ・まゐらせたまひ・なちのおきにして・しづかに・
ごねんぶつさふらひて・うみにしづませ・おはしまし・さふらふなれば・いまはなかなか・おんなげきのなかの・おんよろこびに
てこそ・さふらへ・たれとても・つひにまた・ながらへ・はてさせ・たまふべき・おんみにても・わたらせたまはず・
いまのおんぼだいをこそ・とぶらひまゐらつさせ・たまはんずれなんど・まをせば・きたのかたさては・とて・おんとし廿五と
まをすには・ほうかいじより・ひじりしやうじて・さまかへ・いつかう三みのちうじやうの・ごしやうぜんしよをぞ・いのられける
池の大納言の・関東下向(あひ) 1014 P475
じゆえい三ねん・うづきついたちのひ・くわいげんあつて・げんりやくぐわんねんとぞまをしける・そのころみやこには・しゆとくゐんかみと・あがめたてまつら
んとて・おほゐのみかどかはらに・やしろをつくつて・おなじき三かのひ・みやうつしあるべしとぞ・きこえし・かもの・まつりい
ぜんなりければ・ほうわうのさたとして・だいりには・しろしめされずとぞ・うけたまはる・おなじきさつき五かのひ・いけ
のだいなごんよりもりのきやうを・かまくらより・よびくだしたてまつるとぞ・きこえし・あるときだいなごん・やへいびやうゑむねきよをめして・かま
くらより・くだれといふは・いかがあるべきと・のたまへば・それは・おんくだりさふらふべし・むねきよをもともにて・くだれとい
ふは・いかにとのたまへば・もつともおんともつかまつつて・まかりくだりたくはさふらへども・さだめて・きやうおう・ひきでものなんどぞ・さふら
はんずらん・さいこくのどうれうどもの・かへりきかんずるところも・あまりに・くちをしうさふらへば・こんどはまづ・まかりくだり
さふらふまじ・むねきよはと・たづねられさふらはば・いささか・いたはることありてと・おほせられさふらふべしと・まをしたりけ
れば・だいなごん・こはいかに・よりもりきやうが・としおいおとろへて・ならはぬたびの・そらに・おもむくをば・こころうしとは・
おもはずやと・のたまへば・いくさばなんどへの・おんいでにて・だにもさふらはば・もつともおんともつかまつるべうさふらへども・こん
どは・くるしからじと・ぞんじさふらふとて・あふみのくに・のぢまで・おくりたてまつつて・むねきよきやうへぞ・のぼりける・おなじき
さつき十九にちに・いけのだいなごんよりもりのきやう・かまくらいりと・きこえしかば・かまくらどの・たいぜいひきぐして・さがみがはのはたまで・
おんむかひに・まゐり・いけどのに・たいめんまをして・まづむねきよは・さふらふと・とはれければ・いささか・いたはることありてと・のたま
へば・ひやうゑのすけこはいかにと・さんぬるへいぢに・たうけのために・いけどられ・むねきよに・あづけられてさふらひしとき・こと
にふれて・はうしん・ほどこしたりしかば・いつしか・そのことの・わすられで・つねは・こひしうさふらふものを・さては・くだP476
らざりつる・ことよとて・よにもほいなげにこそ・のたまひけれ・だいなごんもひごろ・ちぎやうしたまひけるところ・すこし
も・さうゐあるまじかりけるうへ・そのほかに・くきやうのところ・十ケしよ・すぐつて・たてまつらる・むねきよもくだつたらまし
かば・しよちたばんとて・ないないところづけ・なんどして・あひまたれけれども・くだらざりければ・そのぎなし・そののちかま
くらどの・だいなごんを・ぐそくしたてまつつて・かまくらにかへり・これこそよりともが・一ごに・だいじのきやくじんなれ・よりともを・よ
りともと・おもひあはれんずるひとびとは・みなもてなし・まをさるべしと・ふれられたりければ・かまくらうちの・
だいみやうせうみやう・みなわれもわれもとぞ・もてなし・まをされける・きんぎんのるゐ・りようらきんしうぎうば六ちくのたからを・つむ・
くらおくうまだに・五百ぴきにおよべり・おなじきみなづき廿かのひ・いけのだいなごんよりもりのきやう・みやこへかへりのぼりたまひけり・こんど
だいなごん・かまくらに・くだり・いのちたすかりたまふ・のみならず・とくつきてこそ・のぼられけれ
藤戸 1015
げんりやくぐわんねん・ふみづき廿五にちにも・なりしかば・やしまには・へいけの一もん・みなひとつ・ところに・さしつどひ・われ
らがみやこを・いでしは・こぞの・けふにてこそありしか・そのときの・にはかにあわただしう・あさましかりしことども
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げんじがまのくわんじやのりより・みかはのかみになさる・おとうと九らうよしつね・はんぐわんになる・おなじき廿八にちに・はんぐわんのらうどう・二にんひやう
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ぐわんとぞ・まをしける・おなじき八ぐわつ十かあまりにも・なりしかば・やしまには・をぎのうはかぜ・やうやうみにしみ・はぎ
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も・くれゆくあきのゆふべは・ものうかるべし・いはんやへいけの・ひとびとの・こころのうち・おしはかられてあはれなり・むかしは九へ
の・うちにして・はるのはなを・もてあそび・いまは・やしまのいそにして・あきのつきにかなしめり・そのころ・みやこには・さい
こくへのうつて・すまんぎにてはつかうすとぞ・きこえし・たいしやうぐんには・げんじみかはのかみのりより・あしかがのくらんどよしかね・いづ
のくらんどのたいふよりかね・えまのこ四らうよしとき・さふらひたいしやうには・どひのじらうさねひら・ちやくしの・やたらうとほひら・ささきの
三らうもりつな・ほうしむしやには・一ぽんばうしやうけん・ひたちばうりやうじうを・さきとして・つがふそのせい・三まんよき・おなじき九ぐわつ十
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一まんよき・千よさうのふねに・とりのり・びぜんのくにに・おしわたり・こじまに・ぢんをぞとりたりける。げんじもまた・
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げんじ・ここをわたせやと・まねきければ・ささきの三らうもりつなが・そのひのしやうぞくには・かちのひたたれに・かしどりをどしのよろひ
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いへのこらうどう・廿よき・ひきぐして・うちいれてぞわたしける・たいしやうぐんみかはのかみ・のりより・このよしをみたまひて・むかしより
かはを・わたしたることは・あれどもうみをわたしたるためしなし・あれとどめよと・のたまへば・どひのじらううけたまはつて・P479
いそぎむちあぶみ・あはせて・はせきたり・いかに・ささきどの・もののついて・くるひたまふか・たいしやうぐんよりの・ごぢやうに
て・ざうぞ・とどまりたまへ・かへらせたまへと・いひければ・ささき・たうけに・おいて・うまのはなかへしたる・
ためしさふらはずとて・ただわたしにこそわたしけれ・どひのじらうさねひらも・とどめかねて・てぜい三百よき・うちいつてぞ・
わたしける・うまのくさわき・むながいづくしに・たつところもあり・くらづめを・ひたすところも・あり・またくらつぼ
をこすところもあり・ふかきところをば・すこしおよがせて・あさきところに・さつとうちあげたりへいけのつはもの・これをみて・みな
ふねに・とりのつて・こぎむかひてぞ・たたかひける・げんじのつはものどもは・へいけのふねに・のりうつり・のりうつつてぞ・たたか
ひける・なかにもかうづけのくにのぢうにん・わみの八らうゆきしげ・さぬきのくにのぢうにん・かべのげんじに・ひつくんで・ふなぞこに
どうとおち・わみがくび・かききつて・おきあがらんと・しけるところを・わみがいとこ・ゑちごのくにのぢうにん・こばやしの
たらうたかしげ・かべのげんじに・おちあひて・ひつくんで・うみへぞいりたりける・こばやしがらうどうに・くろだのげんだと・
まをすもの・こぶねをこぎよせ・くまでをおろして・さがしけるに・しうもかたきも・くまでに・とりつきてぞ・あがつたる・
やがてかべのげんじをば・ふなばたにとつて・おさへて・くびかききつて・すててんげり・これをはじめとして・げんじ・三
まんよき・うちいつてぞわたしける・へいけの・かたのつはものども・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけれども・げんじ・これ
をことともせず・かぶとのしころをかたむけ・さんざんに・たたかひければ・へいけかなはじとや・おもひけん・またさぬき
のやしまに・こぎしりぞく・そのまに・げんじも・こじまのちに・うちわたり・うまのいきをぞ・やすめける・されば・ささきに・
こじまをたびける・ときのみげうしよにも・てんぢく・しんたんは・しらず・にほん・わがてうに・おいてはかはを・わたしたるP480
ことは・あれども・うみをわたしたるためしなし・きたいふしぎのことなりとぞ・ぶんしやうにも・のせられたる・おなじき十ぐわつ十か
あまりにも・なりしかば・やしまには・しほかぜ・はげしくして・いそこすなみも・たかければ・げんじのふねも・よせきた
らず・しやうかくの・ゆきかふことも・まれなれば・みやこのつても・きかまほしく・ゆきうちふつて・へいけのひとびとは・
いとどきえいる・ここちぞ・したまひける
五節の沙汰(あひ) 1016
おなじき廿六にちに・みやこには・五せち・ならびに・だいじやうゑ・あるべしとぞ・きこえし・ぢしよう四ねんの・五せちは・ふくはらにて
ぞ・とげられける・そのときは・やしまのおほいとのぞ・せつかの・あくよには・まゐられし・こんどは・おほゐのみかどの・
さだいじんつねむねこうぞ・せつかの・あくよには・まゐられける・九らうたいふのはんぐわんよしつね・かちのひたたれに・しらはのや
おひて・ぐぶ・つかまつる・はんぐわんは・きそにもにず・みやこなれたるひとにて・いうなるところも・おほかりけれども・へいけの
えりくづには・なほおとれりとぞ・ひとまをしける・この二三ケねんがあひだは・とうごくほつこくの・ひやくしやうら・あるひは・げんじにせめふせ
られ・はるはとうさくの・おもひをわすれ・あるひは・へいけに・なやまされ・あきはせいしうの・いとなみにもおよばず・いへかまどを・すてて
みなさんりんににまじり・しかば・かかるたいれいをも・いかでか・おこなはるべきなれども・かくのごとくぞ・とげられける・
さるほどに・げんじついで・せめたらましかば・へいけは・そのとしに・ほろぶべかりしを・たいしやうぐん・みかはのかみのりより・はり
まのくに・むろたかさごに・ひきのき・みやこより・いうくんいうぢよども・よびくだし・あそびたはふれて・のみぞ・おはしける・とうごく・P481
ほつこくのつはものどもは・すすむも・せうせうありけれども・たいしやうのげぢに・したがふならひ・ちからおよばず・ただくにのつひえ・
たみの・わづらひのみあつて・さるほどに・としくれて・げんりやくも・二ねんに・なりにけり

 

入力者:荒山慶一



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