平家物語(城方本・八坂系)
巻第十二 P536
重衡のきられ 1201
さるほどに・ほん三みのちうじやうしげひらのきやうをば・いづのくにのぢうにん・かののすけ・むねもちが・あづかりたてまつつて・こぞより・い
づにぞ・おはしける・ならを・ほろぼしたまへる・がらんのかたきとて・たいしゆしきりに・まをしければ・さらば・わたし
たてまつれやとて・こんどは・げん三み・よりまさにふだうのばつし・いづのくらんどのたいふよりかね・うけとりたてまつつて・なんとへこそは・
わたしけれ・こんどは・みやこのうちへは・いれられず・やましなより・だいごぢに・かかられければ・ひのも・しだいに・
ちかくなる・このきたのかたとまをすは・とりかひの・ちうなごんこれざねのきやう・おんむすめ・五でうのだいなごん・くにつなのきやうのやうし・せんていの
おんめのと・だいなごんのすけどのとぞまをしける・さいこくより・たけきぶしのてに・わたり・ふたたびみやこへ・かへりのぼらせたまひて
は・あねのたいふ三みのつぼねと・どうしゆくして・このひのといふところに・ぞ・おはしける・三みのちうじやう・しゆごのぶしに・
むかつてのたまひけるは・このひごろおのおのに・なさけをかけられて・わすれがたうは・おぼゆれども・いま一ど・さいごのはうおん
に・あづからばやと・おもふは・いかがあるべきとのたまへば・しゆごのぶしども・なにごとにてさふらふやらんと・まをしたりけ
れば・三みのちうじやう・べちのやうはなし・ひごろあひなれし・にようばうの・このひのと・いふところに・ありときく・P537
うちすぎさまに・たちよつて・ごせの・ことどもも・いひおかばやと・おもふは・いかがあるべきと・のたまひければ・
しゆごのぶしども・やすきおんことさふらふとて・ひと・さきにまゐつて・これに・だいなごんのすけどのと・まをす・にようばうや・おんわた
りさふらふ・三みのちうじやうどのの・ならへ・おんとほりさふらふが・いささか・ごげんざんのために・いらせ・たまひてさふらふと・まをしたりけ
れば・きたのかたいづくや・いづらとて・はしりいでて・みたまへば・あゐずりのひたたれに・をりゑぼし・きたるをとこの・
やせ・くろみたるが・えんに・よりゐたるぞ・そなりける・きたのかた・いかにや・これへこれへと・のたまへば・三み
のちうじやう・みすうちかづきて・いりたまふ・たがひに・てにてを・とりくみ・いかにやと・いはんと・すれば・なみだに
て・しばしはものをも・のたまはず・ややあつて・三みのちうじやう・なみだを・おさへて・のたまひけるは・こんど・しげひら・
いちのたににて・いかにも・まかりなるべう・さふらひしみの・一にん・いけどりに・せられて・きやうゐなか・ひきしろはれ・うき
はぢを・さらし・さふらふだにも・こころうきに・はては・ならを・ほろぼしたる・がらんのかたきとて・ただいまわたされ・
さふらふぞや・いかばかりか・つみ・ふかう・さふらはんずらむ・たとへ・いかなる・おんありさまにても・わたらせたまへ・しげ
ひらがごせ・とふらうて・たばせたまへと・なみだも・せきあへず・のたまひければ・きたのかたまことに・こぞの・きさらぎ六
かのあかつきを・かぎりとも・しらずして・わかれたてまつりぬれば・やがて・いかにもなりぬべかりしみの・おほいとの
も・二ゐどのも・きみをば・いかでか・すて・まゐらつさせ・たまふべきと・やうやうにせいし・たまひしうへ・されば・と
て・また・このよに・なきひとと・なりたまひたりとも・きこえざりつるほどに・たがひに・かはらぬ・すがたをも・いま一ど・
みえ・たてまつることもや・あらんずらむと・おもひてこそ・いままでも・ありつれ・いまよりのちは・ながきわかれと・ならんP538
ことこそ・かなしけれと・のたまへば・三みのちうじやう・たれも・かはらぬすがたを・たがひに・みえ・たてまつりぬれば・
いまはしでのやまぢをも・たやすく・こえゆきなんと・おもふのみこそ・うれしけれ・なごりは・よを・かさね・ひを
かさぬとも・つきすまじ・これよりなんとも・ほど・とほうさふらへば・ぶしの・まつらんも・こころなし・さらば・いとま・まをし
てとて・すでにいでんとしたまへば・きたのかた・めしてさふらふものの・しほたれて・あまりに・みぐるしうさふらへば・これを・
めせとて・しろこそでに・じやうえそへて・たてまつらる・三みのちうじやう・これを・きかへたまひて・もと・きたまひたる・
ものをば・なからんのちのよの・かたみにも・ごらんぜよ・とて・さしおきたまへば・きたのかたなからんのちのよの・かた
みには・むなしき・ふでのすさみこそ・ならんずれとて・おんすずり・とりいだしたまへば・三みのちうじやう・すみすり・
ふでそめて
せきあへずなみだのかかるからころも・のちのかたみにぬぎぞかへぬる・
きたのかたの・ごへんじには
ぬぎかふるころももいまはなにならず・(イ何かせん)けふをかぎりのかたみとおもへば・
三みのちうじやう・さらば・いとま・まをしてとて・すでにうちいでたまへば・きたのかた・さるにても・いましばしとて・ひきとどめ
たまへば・さのみは・いかがとて・ひきちぎつてぞ・いでられける・三みのちうじやう・こころつよくも・ひき・ちぎつ
ては・いでられけれども・さすがむまをも・すすめもやりたまはず・ただ・うしろへ・のみ・ひきかへす・ここちして・ひ
かへひかへぞ・なかれける・かへりみたまふ・ひのは・しだいに・とほざかり・なんとはまた・ちかくなり・としよのP539
ひつじのあゆみの・ちかづくここちして・むまに・まかせて・うつほどに・そのひのくれがたには・三み・なんとにこそ・
いりたまへ・さるほどに・なんとのたいしゆ・三みのちうじやうどのを・うけとりたてまつつて・とうだい・こうふく・りやうじのたいしゆ・しふゑして・
せんぎしけるは・そもそも・このしげひらのきやうと・いつぱ・ぢうぼんの・あくにんたるうへ・三せん五けいの・ぎやくざいにもこえ・しゆいん
かんくわの・だうりごくじやうせり・せんずる・ところ・りやうじのおほがきを・ひきまはし・そののち・ほりくびにや・すべき・またのこぎりに
てや・ひくべきと・せんぎしけるところに・そのなかに・らうそうどもの・まをしけるは・まことに・がらんはめつせしとき・しゆうとが・
いけどりにも・したらば・とがめさるべけれども・はるかに・ほどへて・のち・ぶしが・とりこに・したるを・うけとりて・さや
うに・せんこと・そうとのほふに・をんびんならず・ただ・ぶしに・とらせて・きづのへんにて・きらすべしと・いひ
ければ・さらばとて・またぶしのてへこそ・わたしけれ・ここに・三みのさぶらひに・むくうまのじよう・まさときとまをすものあ
り・ちうじやうすでに・きづがはにて・きられさせ・たまふと・きこえしかば・いそぎ・むちあぶみあはせて・はせけるが・ほどな
う・きづがはに・はせついて・いそぎ・むまより・とんで・おり・たいぜいの・なかを・おしわけおしわけ・おんまへにまゐつて・
みたてまつるに・ただいまを・かぎりと・みえたまふ・三みのちうじやう・いかに・あれは・まさときか・うれしうも・みえたる
ものかな・いま一ど・ほとけををがみたてまつらばやと・おもふは・いかがあるべきと・のたまひければ・まさときやすきおんことさふらふ
とて・あるみだうに・まゐつて・みたてまつるに・さいはひにみだの・三ぞんの三じやくの・りふざうにて・わたらせ・たまひけるを・
とりたてまつつて・すなごのうへに・ひがしむきに・すゑたてまつり・まさときが・ひたたれの・くくりを・といて・ほとけのみてに・
ゆひつけたてまつり・三みのちうじやう・五しきのいととなぞらへて・これをひかへたまひて・われはからざるに・がらんせうしつP540
の・よやうに・まどはされて・ごくぢうこんぽんの・ことわりに・こたへて・すゑのつゆもとのしづくと・なるためし・しげ
ひら一にんが・とがにて・ながく・あびだいじやうの・そこに・しづまんこと・ただいまなり・ただしつたへきく・だつたが・三ぎやく
ををかし・しやわうのむだうに・ちちをがいせしも・かへつて・てんわうによらいの・きべちにあづかる・ごくぢうあくにん・むたはうべん・
ゆゐしようみだ・とくしやうごくらくの・おんちかひ・あらたまらせ・たまはずは・ひごろの・あくぎやうを・ひるがへし・九ほんあんやうの・じやう
どへ・いんぜふしたまへと・まをさせたまひ・さらば・とく・きれやとて・くびをのべてぞ・うたせられける・ひごろ
の・あくぎやうの・にくさも・さることにて・きりてのぶしも・たいしゆも・みなよろひの・そでをぞぬらしける・そののち・くび
をば・たちの・きつさきに・さしつらぬき・たかく・さしあげ・だいおんじやうを・あげて・さんぬる・ぢしようのか
せんに・ほつけじの・とりゐの・もとにうつたちて・ひを・いだせやと・げぢ・したりしは・これぞ・かしとて・はんにや
じのだいそとばに・くぎづけにこそしたりけれ・さるほどに・三みのちうじやうの・きたのかたは・ひのにおはしけるが・あはれ
や三みの・たとへくびをこそ・とらるるとも・むくろは・むなしく・かはらにぞ・すておきたるらん・いつて・みよと
て・くわんおんくわんじやぢざうくわんじや・十りきほうしなんどまをすものに・こしをかかせて・つかはさる・あんのごとく・むくろ
は・むなしう・かはらに・すておきたるを・おんこしに・かきのせたてまつつて・ひのへ・かへりまゐりたり・きたのかた・む
なしきおんてに・とりつき・たまひて・かなしみ・たまへど・かひぞ・なき・さてしも・あるべきならねば・の
べへ・おくりたてまつり・くびをば・なんとの・しゆんじようしやうにん・しゆとに・こうて・ひのへ・つかはさる・ひとつ・たきぎ
に・つみこめて・けぶりとなし・たてまつる・こつをばかうやへ・おくり・つかをば・ひのにぞ・つかせける・そののち・きたのかたP541
は・ほうかいじより・ひじりを・しやうじて・さまかへ・ひたすら・三みのちうじやうの・ごしやうぜんしよをぞ・いのられける
大地震の沙汰(あひ) 1202
へいけ・ほろびてのちは・くには・こくしにしたがひ・しやうは・りやうけのままなりければ・みちを・かよふに・わづらひ・なくみやこもお
だしかりければ・じやうげあんどのおもひを・なすところに・げんりやく二ねん・七ぐわつ九かのひの・うまのこくばかりに・だいち
おびただしう・うごきて・ややひさし・しらかはの・うち・せきけんの・ほとり・九ぢうのたふよりはじめて・だうしやぶつかく・
じんをくおほく・あるひは・やぶれ・くづれ・あるひはたふれ・かたぶいて・またきは・一うもなかりけり・三十
三げんの・とくちやうじゆゐんをも・十七けんまで・ふりたふす・あがる・ほこりは・けぶりに・おなじ・てんくらうして・ひ
のひかりも・みえず・らうせう・たましひを・うしなひ・てうじう・きもを・まどはす・みやこのうちは・まをすにおよばず・きんごくゑんごくも・
みなかくのごとし・だいち・さけては・みづをいだし・うみ・かたぶきて・はまを・ひたす・やまくづれては・たにをうづみ・
いはほ・くづれて・かはをうづむ・なぎさこぐふねは・なみにただよひ・くがをゆく・ひづめは・あしのたてどを・まどは
す・とりにあらざれば・てんをも・かけりがたし・りうにあらざらば・くもへもまた・いりがたし・こうずゐ・みなぎりいじこば・
たかきをかに・あがりても・しばしは・さりぬべし・みやうくわ・もえきたらば・かはを・へだてても・などか・た
すからざるべき・ただせんかたなきは・だいぢしんなり・またなにものか・まをしだしたりけむ・おんやうのかみ・あべのやすちか・
いそぎ・だいりに・はせさんじて・そうもんしけるは・ゆふさりの・ゐねのこく・あすの・みうまのこくには・だいちかならず・P542
うちかへすべしなんど・そうもんすと・きこえしかば・そのときに・いたつて・いへのなり・しとみかうしの・ゆるぎはた
たくを・みては・おとなしきものの・をめきければ・をさなきものどもも・おなじう・つれてぞ・むせびける・
さるほどに・しゆじやうはおふねに・めして・いけのみぎはに・うかばせ・おはします・そのほかにようゐん・みやみやは・あるひはおん
こしに・めされ・あるひはおんくるまに・めして・いづちともなく・ぎやうけいなる・むかし・もんとくてんわうのぎよう・さいかう三
ねん・三ぐわつ三かの・だいぢしんには・とうだいじのみほとけの・みぐしおちさせたまひけむなり・またしゆじやくゐんのぎようてんぎやう四
ねん・四ぐわつの・だいぢしんには・しゆじやう・ござしよを・いでさせたまひて・だいごくでんのまへ・じやうねいでんのみなみに・五ぢやうのあくをく
を・つくつて・すませたまひけむなり・そのときは・四ぐわつより・はじめて・七ぐわつにいたるまで・ひびに七八ど・
ないし十四五ど・廿どばかり・ゆりけるなんどは・きこえしかども・それはむかしのことなれば・しらず・七八十・
ないし九十のひとまでも・よのめつすると・いふことは・さすが・きのふけふとは・きかざりつるものを・いかさま
にもこれは・へいけのをんりやうか・またはよのそんすべき・ぜんぺうかとぞ・じやうげ・まをしあへりける・さるほどに・ほふわうは・
いまくまのに・なぬか・おんはな・まゐらつさせ・たまひけるが・こんどの・だいぢしんに・ごあんじつ・ふりたふされさせたま
ひ・ひとおほく・うちころされ・しよくゑ・あまた・いできにしかば・いそぎ・みやこへ・くわんぎよなる・さるほどに・けんれいもんゐん
は・ひがしやまのふもと・よしだのごしよに・わたらせたまひけるが・こんどのだいぢしんに・ごしよもやぶれ・ついぢも・くづれにしかば・
りよくえのかんし・きうもんをまぼるだに・なしあれたるにはのまがきは・しげきのべよりも・つゆふかく・うらむるむしの・
こゑまでも・ことに・ものあはれに・きこえ・よも・ながく・なりゆくままに・いとど・おんねざめがちにて・おのづから・P543・
うちも・まどろませ・たまはねば・むかしのことをば・ゆめにだにも・ごらんせず
平大納言の流され 1203
げんりやく二ねん・八ぐわつついたちのひ・かいげんあつて・ぶんぢぐわんねんとぞまをしける・おなじき十かのひ・みやこには・ぢもくおこなはれて・
げんじ六にん・じゆりやうに・なるまづ・九らうたいふのはんぐわんよしつね・いよのかみ・たけだのたらうのぶよし・するがのかみ・かがみのじらう
とほみつ・さがみのかみ・へんみのくわんじやありよし・むさしのかみ・やすだの三らうよしさだ・とほたふみのかみ・おほうちたらうこれよし・しなののかみ・とぞ
きこえし・おなじき廿三にちに・へいけのいけどり・くにぐにへ・ながしつかはさる・まづ・へいだいなごんときただ・のとのくに・くらの
かみのぶもとさどのくに・さぬきのちうじやうときざね・とさのくに・ひやうぶのせうまさあきさぬきのくに・二ゐのそうづせんしんあきのくに・ほつしようじの
しゆぎやうのうゑんいはみのくに・ちうなごんのりつしちうくわいむさしのくに・きやうじゆばうのあじやりいうゑんは・びんごのくにとぞ・きこえし・おなじき廿二
にちのくれがたに・へいだいなごんときただ・にようゐんの・わたらせたまひける・よしだのごしよに・まゐつて・まをされけるは・あ
りがひなき・みにてさふらへども・みやこに・さふらひしほどは・つねは・おんゆくへをも・うけたまはりさふらひしに・いまはせめ・おも
うして・はいしよに・おもむきさふらふべし(イなり)・いまよりのち・いかなる・おんありさまにか・ききなしたてまつらん・ずらむと・
ゆくそらも・おぼえず・さふらふと・なみだも・せきあへず・まをされたりければ・にようゐん・まことに・むかしのなごりとては・そこ・ば
かりこそ・おはせしに・いまよりのち・またたれやのひとか・とひとぶらひ・さふらふべきとて・おんなみだに・むせば
せ・おはします・このときただのきやうと・まをすは・さきのではのかみもとのぶのまご・ぎようぶのごんのせう(イ兵部権大輔)ときのぶのあそんのこP544
なりけり・けんしゆんもんゐんのおんおとと・こたかくらゐんにも・ごぐわいせきにて・おはしければ・かのやうきひが・さいはひしとき・
やうこくちうが・さかえたりしが・ごとし・にふだうしやうごくの・きたのかた二ゐどのにも・おんおととにて・おはしければ・てんが
のだいせうじともに・このきやうに・のたまひあはせられければ・ひとへいくわんぱくとぞ・まをしける・いま・しばらくも・へいけの・よな
らましかば・だいじんのさう・うたがひあらましかは・ちちときのぶのあそんにも・ぞうさだいじんをぞ・おくられける・
しそくさねいへ・ときざねも・ちうせうしやうまで・あがられけり・さればけびゐしのべつたうにも・だい三ケどまで・なりかへら
せたまひけり・このきやうのちやうむのときは・しよこく七だうの・せつたうがうたう・さんぞくかいぞくとうを・めしあつめ・みぎのひぢを・うち
きりうちきり・おひはなされければ・ひとあくべつたうとぞ・まをしける・一とせ・へいけ・さぬきのやしまに・おはせしとき・みやこよ
りのゐんぜんの・おんつかひはながたが・かほに・なみがたと・いふ・かなやきを・さされたりしも・このきやうの・しわざなり・さ
るほどに・ほうわうは・こにようゐんのおんことを・おぼしめされけるに・つけても・いかにもして・このきやうをば・みやこの・
うちに・たすけ・おかばやと・おぼしめされけれども・ひごろのふるまひ・あまりに・ばうぢやくぶじんなりければ・おんいきどほ
り・ふかかりけり・はんぐわんも・したしう・なつて・おはしければ・なにともして・このきやうをば・みやこのうちに・おき
たてまつらばやとは・おもはれけれども・わがみさへ・かまくらの・げん二ゐどのに・こころよからざるうへ・ほふわうのおんいきどほり・
ふかかりければ・ちからおよばせたまはず・きたのかた・そちのすけどのも・ひごろより・かかるべしとは・おもひ・まうけら
れし・ことなれども・さしあたつては・またかなしくぞ・おもはれける・はるかにとしたけ・よはひ・かたぶいて・のち・
みやこの・うちを・いでられけるに・一まども・うち・おくりたてまつるひと・一にんも・つきたてまつらず・けふを・かぎりP545
に・みやこのほかへ・いでられける・こころのうち・おしはかられて・あはれなり・やうやう・くだりたまふほどに・あふみのくにに
も・なりしかば・ここをば・いづくと・いふぞと・とひたまへば・かただのうらとぞ・まをしける・まんまんたる・おきに・ひく
あみを・みたまひて・だいなごん
かへりこむことも(イは)かただにひくあみの・めにもたまらぬわがなみだかな
またやうやう・くだりたまふほどに・のとのくににも・なりしかば・だいなごんの・おはするところは・うらのあたりちかき・ところ
なりければ・いはのうへうへ・まつの一もと・そびえ・たつたるを・みたまひて・だいなごん
しらなみのうちおどろかすいはのうへに・ねいらでまつのいくよへぬらん・
きのふはさいかいのなみのうへにして・をんぞうゑくの・くるしみを・へんしうのなかにつみ・けふは・ほつこくの・ゆきのしたに・
うづもれて・あいべつりくの・かなしみを・こきやうのくもに・かさねたりと・よみあかし・よみくらして・としつきを・おくり
ぞ・かさねさせ・たまひける
小原いり 1204
けんれいもんゐんは・ひがしやまのふもと・よしだのごしよに・わたらせたまひけるが・ここはなほ・みやこちかくてたまぼこの・みちゆくひとの・ひと
めもしげかりなん・されば・つゆのおんいのち・かぜを・またせたまはんほども・いかならむ・やまのおくの・おくへも・
いりなばやとは・おぼしめされけれども・さるべきたよりも・ましまさざり・けるにあるにようばうの・まゐつて・まをしP546
けるは・をはらのおくじやくくわうゐんと・まをすところこそ・きはめて・しづかなるところにて・さふらへと・まをしければ・にようゐん・これ
は・しかるべきほとけの・おんつげにこそと・おぼしめし・やまざとは・ものの・さびしきことこそ・あんなれども・よのうきよ
りは・すみよかんなるものを・とて・なくなくおぼしめしたたせ・たまひけり・なにごとも・むかしに・かはりゆくことどもにて・
おのづからなさけをかけたてまつる・ひとも・なかりけるに・いまはれいぜいの・だいなごんたかふさのきやうの・きたのかた・七でうのしゆり
のだいぶのぶたかの・にようばうよりぞ・つねは・おんのりものなんどをも・さたし・まゐらつさせ・たまひける・ころはぶんぢぐわん
ねん・ながつき廿かあまりの・ことなれば・よものこずゑのいろいろなるを・ごらんじて・はるばると・すぎさせたまふに・やまかげ
なればにや・ひもはや・くれにけり・いつしか・そらかきくもり・うちしぐれつつ・このは・みだりがはし・の
でらのかねの・いりあひのおとすごく・しかのね・かすかに・おとづれて・むしのこゑごゑ・たえだえなり・にようゐんじやくくわう
ゐんに・まゐらせたまひて・みまゐらつさせたまふに・さいはひに・みだの・三ぞんにてぞ・わたらせたまひける・かたじけなくも・わ
がたのみを・かけたてまつるほんぞん・しかるべきことに・おぼしめして・はいを・まゐらつさせたまひけるが・ほつせを・とどめて・か
うぞ・まをさせ・たまひける・てんし・しやうりやう・いちもんいうぎ・とんしようぼだい・じやうとうしやうがくとぞ・まをさせたまひける・き
のふは・ひがしにむかはせたまひて・てんせうだいじん・ぎよくたいあんをんにと・ごきせいあり・けふは・にしにむかつて・みだ
によらい・わうじやうごくらくと・まをさせたまふぞ・あはれなる・にしのやまのはを・ごらんぜらるれば・したもみぢ・ところどころに・
みえわたり・りよくらのかき・もみぢのやま・ゑに・かくとも・ふでもおよびがたし・ひがしには・ほそたにがは・ながれつつ・いはにこけ
むして・さびたるところなれば・まことに・すままほしくぞ・おぼしめす・にはのはぎはら・しもがれて・まがきのきくの・かれがれにP547・
うつろふいろを・ごらんじても・ただおんみのうへとぞ・おぼしめす・はうぢやうなる・ごあんじつを・むすばせたま
ひて・かたはらを・ごしんしよに・こしらへ・一まを・ぶつしよに・しつらはれたり・ちうやてうせきの・おんつとめ・
ぢやうじふだんの・ごねんぶつ・おこたらせたまはずして・つきひを・おくらせたまひけり・かくて・かんなづき・なかの五かの・くれ
かたに・にはにちりしく・ならのはを・ものふみ・ならして・きこゆれば・にようゐんひるだにも・ひとめまれなる・やまざとへ・
ただいま・なにものの・きたるやらん・しのぶべきものならば・しのばばやと・おほせければ・だいなごんのすけどの・たちいでて・
みたまふに・ひとにては・なかりけり・よにうつくしき・をしかの・三つつれたるが・わたるにてぞ・ありけ
る・だいなごんのすけどの・かへりまゐらせ・たまひて
いはねふみたれかはとはむならのはの・そよぐはしかのわたるなりけり
と・まをさせたまひたりければ・にようゐん・なくなく・まどのおんしやうじに・あそばしぞ・つけさせたまひける・かかる
おんつれづれの・なかにも・なほむかしに・おぼしめしなぞらふる・おんことども・おほかりけり・のきにならべる・うゑき
をば・七ぢうはうじゆにかたどり・いはまに・つもるみづをば・八くどくすゐとぞ・おぼしめす・ちやうしうきうに・はなを・も
てあそんしあした・かぜきたつて・にほひを・さそひ・せいりやうでんに・つきをながめし・ゆふべ・くもおほうて・ひかりをかく
す・むかしはぎよくろうきんでんの・たへなる・おんすまひなりしかども・いまは・しばひきむすぶ・いほのうち・よそのたもとも・おさ
へがたしP548
参河守の最後(あひ) 1205
そのころかまくらには・九らうたいふのはんぐわん・うたるべしとぞ・きこえし・あるとき・げん二ゐどの・みかはのかみを・ようで・ご
へん・みやこにのぼり・九らううちたまへと・のたまひければ・みかはのかみ・まをされけるは・これはおなじきやうだいの・なかとは・まをしな
がらことにちぎりを・ふかうなし・さいごくしよしよの・かつせんの・はかりごとまでも・九らうにはすぎずさふらふ・されば・わが
てにかけて・うたむこと・あまりに・ふびんに・ぞんじさふらへば・じよのじんに・おほせつけらるべうもや・さふらふらんと・まをさ
れたりければ・げん二ゐどの・さては・ごへんも・九らうどうしんの・ひとやとて・いそぎしやうじをちやうと・たててぞ・い
りたまひける・みかはのかみ・かなはじとや・おもはれけん・まつたう・さなきよしを・きしやうもんを・もつて・まを
されたりければ・さらば・やがていづにこえ・しゆぜんじに・おはせよと・のたまへば・うけたまはつて・いづに・こ
え・しゆぜんじにこそ・おはしけれ・かかりけるところに・かぢはら・げん二ゐどのに・まをしけるは・みかはのかみどのと・九らうた
いふのはんぐわんと・ご一しよに・ならせたまひては・ゆゆしき・おんだいじにてこそ・さふらはんずれ・こはいかが・おん
はからひさふらふ・やらんと・まをしたりければ・さらば・なんぢ・いづに・こえ・みかはのかみ・うてと・のたまへば・かぢはら・
うけたまはつて・ふし三き・五百よきにて・いづに・こえ・しゆぜんじにこそ・おしよせたれ・みかはのかみは・あるばうに・
おはしけるが・こそでに・おほくちばかりにて・つまどのあひだに・おはしけるが・やたばね・といて・おしくつろげ・
さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いたまひけるに・よせて・おほく・いころさる・そののち・やだねつきければ・ひとでにP549
・かからじとや・おもはれけん・ばうに・ひかけ・じがい・してこそ・うせられけれ・そののち・かぢはら・けぶりを・し
づめ・みかはのかみの・やけくびとつて・かまくらに・もてゆき・げん二ゐどのに・みせたてまつる・しんぺうなりと・のたまひける
土佐坊が夜討 1206
あるとき・げん二ゐどの・とさばうしやうしゆんを・めして・わそう・みやこに・のぼり・九らううてと・のたまへば・とさばう・かしこまつて
まをしけるは・さぞ・たいぜいにては・いかにも・かなひさふらふまじ・しやうしゆんが・てぜいばかりにて・まかりのぼりさふらはんとて・やが
て・五十よきにてぞ・うちたちける・みちすがらをば・くまのまうでのていに・ことよせて・みやこにのぼり・三でう・あぶらのこう
ぢなるところに・やどうちとつてぞ・ゐたりける・はんぐわん・なんとしてか・ききいださせ・たまひたりけん・とさばうが・の
ぼつたんなれば・さだめてまゐらむずる・ものをとて・そのひ・一にち・またれけれども・まゐらず・つぎのひ一にち・また
れけれども・まゐらざりければ・はんぐわん・むさしばうべんけいを・めして・とさばうが・のぼつたんなるが・まゐらぬことこ
そ・ふしぎなれ・なんぢゆいて・とさばうを・ぐしてまゐれと・のたまへば・むさしばう・かしこまつてうけたまはり・とさばうがやどに・
ゆきむかひ・しようしゆんを・ぐして・まゐりたり・はんぐわん・やがて・いであひ・たいめんしたまひて・いかに・わそうは・よし
つねうてとの・つかひなと・のたまへば・とさばうまをしけるは・これは・としごろ・七だいしよまうでの・のぞみ・さふらひしかども・このりやう三
ねんは・きやうとの・さわぎ・くにぐにの・みだれに・よつて・そのぎなくさふらふ・いまは・せけんも・しづかになりさふらへば・その
しゆくぐわん・はたさんために・まかりのぼつてさふらふあひだ・かまくらどのにも・このよし・かくとも・まをしさふらはねば・おんふみなんども・P550
さふらはず・いかさま・げかうのみちに・まゐらむずるここちして・さてまゐらずさふらふと・まをしたりければ・はんぐわん・いや
とよ・まことはよしつねうてとの・つかひなと・のたまひて・けしき・おほきに・かはつて・みえられければ・とさばう・か
なはじとや・おもひけん・くまのの・ごわうを・まをしおろし・七まいの・きしやうもんをかいて・たてまつる・はんぐわん・このうへは・ごん
げんにこそ・まかせまをさんずれとて・とさばうを・ゆるして・かへされけり・とさばう・やどにかへり・いやいや・
このこと・のびては・かなふまじ・こんや・ようちに・したてまつらんとて・みちすがら・しのうで・もたせたる・ひやうぐとりいだ
し・やがて・五十よきにてぞ・うちたちける・はんぐわんのしゆくしよ・六でうほりかはのごしよに・おしよせ・あぶらのこうぢおもてなる・もんをどうどうとたたいて・これは・かまくらどのより・うつてのたいしやう・うけたまはつて・とさばうしやうしゆんが・まゐつてさふらふ・あけられさふらへあけられさふらへとぞ・まをしける・ころは・十ぐわつ十七にちのよの・ことなりければ・はんぐわんのさぶらひどもは・みなきよみづでらまうでして・一にんもなかりけり・おんかたはらには・しづかと・まをす・しらびやうし・ただ一にんぞ・さふらひける・をりふしはんぐわんは・さけにゑひて・ふしたまへり・しづか・はんぐわんを・おし・おどろかし・たてまつつて・ひるの・きしやうほうしが・まゐりて・さふらふに・おきさせたまへと・まをしたりければ・はんぐわん・さては・とて・おきたまふ・まに・よろひ・とつてたてまつる・うは
おびしめたまふまに・たち・とつてたてまつる・おびたまふまに・かぶととつて・たてまつる・を・しめたまふ・まにゆみとつて・
たてまつる・はりたまふ・まに・やとつて・たてまつる・はんぐわん・ゆみおしはり・やかきおひ・ちうもんに・いでられたりけれ
ば・ざふひやうが・むまにくらおいて・ひつたてたり・はんぐわん・むまにうちのり・おほにはに・かけむかひ・あぶみ・ふんばりつつたち・あがり・だいおんじやうを・あげて・てんぢく・しんたんにも・にほんわがてうにも・たうじよしつねを・かたきとて・むかはんずるものこそP551・おぼえね・いかなるものぞ・なのれや・なのれと・のたまひて・さうなう・もんをば・ひらかれず・ついぢ
を・へだていあひたり・はんぐわんのさぶらひどもは・みな・きよみづでらまうで・したりけるが・たうじはきみの・ごようじんのをりふし
ぞ・いざや・まゐらむとて・うちつれうちつれ・まゐるほどに・あんのごとく・六でうおもてに・やさけびのおと・しければ・されば
こそとて・はせあつまり・とさばうを・なかに・とりこめてぞ・たたかひける・えだのげん三・ひざぐち・いさせて・ひきしりぞく・
くまゐたらう・うちかぶといさせて・ひきしりぞく・そののちはんぐわん・もんをひらかせて・きつていで・さんざんに・せめられたり
ければ・とさばうが・せい・五十よきとは・みえしかども・おちぬうたれぬせしほどに・たんごぶらいに・なりにけ
り・とさばう・ただ一きに・なつて・むまをも・はなれ・おりたつて・たたかひけるが・かなはじとや・おもひけ
ん・あぶらのこうぢを・のぼりに・にげてゆく・むさしばう・ただ一にん・つづいたり・きたなしや・かへせや・かへせ
とて・おひかけたり・五でうをひがしへ・ひがしのどうゐんを・のぼりに・にげゆく・三でうをひがしへ・まてのこうぢを・のぼりに・
くらまやまへぞ・にげいりける・はんぐわんは・もと・このてらのちごにて・わたらせたまへば・そのよしみをもつて・たいしゆおこ
つて・とさばうを・いけどりて・むさしばうにぞ・とらせける・むさしばう・しやうしゆんを・からめとつて・みやこにかへり・はん
ぐわんのしゆくしよ・ろくでうほりかはの・ごしよの・おんつぼのうちにぞ・ひつすゑたる・はんぐわん・ごらんじて・わそうは・はやくも・
きしやうには・うてたるものかなと・のたまへば・とさばう・まをしけるは・うつるこそ・だうりさふらふよ・あることに・かい
て・さふらへばとぞ・まをしける・はんぐわん・やがて・なんぢをば・きつても・すつべけれども・こさまの・かみとのの・おんとき・こん
わうまるとて・さしも・ふびんに・せさせ・たまひたりしかば・そのごぼだいの・おんために・いのちをば・たすくるぞ・はやはやP552・かまくらへ・くだるべしと・のたまへば・とさばう・まをしけるは・こは・くちをしきことをも・おほせられさふらふものかな・かま
くらどのの・おんまへを・まかりいづるとき・きみを・うちたてまつらずは・まつたう・まかりくだらじと・まをしきつて・まかりのぼつてさふらふに・きみをこそ・うちたてまつらざらめ・あまつさへいのちたすけられ・まゐらせて・ふたたび・かまくらへ・まかりくだつて・さふらはば・なにほどのえいぐわをか・つかまつりさふらふべき・ただごおんには・いそぎ・かうべを・はねさせたまへと・まをしたりければ・はんぐわんさらばとて・やがて・かはらに・ひきいだし・にしむきにぞ・ひつすゑたる・とさばう・まをしけるは・しやうしゆんはただ・かみともほとけとも・かまくらどのをこそ・たのみたてまつつてはさふらへ・おなじうは・ひがしむきにぞ・きられたうさふらふと・まをしたりければ・さらばとて・またひがしむきにぞ・ひつすゑたる・そのとき・とさばう・てをあはせ・なむかまくらの・げん二ゐどのと・三どとなへてぞ・きられけるP552
吉野軍 1207
さるほどに・かまくらには・みやこにて・とさばう・うたれたりと・きこえしかば・ほうでうの四らうときまさに・六万よきの・ぐん
びやうをさしそへてぞ・のぼせられける・おなじき十一ぐわつついたちのひ・九らうたいふのはんぐわんよしつね・ゐんのごしよに・まゐり・おほくらの
きやう・やすつねのあそんをもつて・まをされけるは・よしつね・かまくらのげん二ゐに・こころよからざるに・よつて・ほうでうの
四らうときまさに・六万よきのぐんびやうを・さしそへて・のぼせさふらふ・うぢ・せたのはしを・ひき・みやこの・うちにて・ささへ
むことは・いと・やすうさふらへども・くげゐんちうの・おんさわぎ・なるべし・あはれ・さいこく・ちんぜいの・ごけにんのうちへ・よしつね・
P553
みはなつべからざる・よしの・ちやうのおんくだひぶみを・くだしたまはりさふらはじやと・まをされたりければ・ほうわう・この
こと・おほきに・おぼしめしわづらはせたまひて・しかるべきくぎやう・あまためして・おほせあはせられけり・うちにも・ほり
かはのだいなごんただちかのきやうの・まをされけるは・まことに・よしつね・みやこの・うちにて・ささへたらむは・くげゐんちうの・
さわぎ・なるべし・くにぐにのみだれは・ふびんにさふらへども・ゐんぜんを・だにも・くだされさふらはじ・みやこの・うちは・
おだし・かるべきよしを・まをされたりければ・ほうわう・このぎもつともとて・やがて・よしつね・みはなつ・べからざ
るよしの・ちやうのおんくだしぶみをぞ・くだされける・はんぐわん・ゐんぜんたまはつて・ゐんのごしよをいで・せんじやうよしのり・くらんどゆきいへ・三
にんひとつに・なつて・つがふそのせい・五百よき・おなじき十一ぐわつ三かのひ・みやこをたつて・さいこくへこそ・くだられけ
れ・はんぐわんは・かはごえがむすめ・へいだいなごんときただのきやうのおんむすめを・さきとして・きたのかた十二にん・もちたまへり・いづれをも・
みはなちがたう・おもはれければ・みな・ひきぐしてぞ・くだられける・かりけるところに・つのくにのぢうにん・おほた
のたらうたかよし・としまのくわんじやよりもと・このよしをききて・あはやはんぐわんどのこそ・かまくらどのに・おんなか・たがはせたまひて・さい
ごくへ・くだらせたまふなれ・にくし・そのぎならば・これにて・うちとどめたてまつらんとて・びんぎのともがら・五百よにんを・
あひもよほし・つのくに・みぞくひと・いふところに・じやうくわくかまへて・まちうけたてまつる・はんぐわん・このよしききたまひて・かしこに・
おしよせ・かれらをさんざんに・けちらし・そのひは・つのくに・だいもつのうらにぞ・つきたまひける・つぎのひ卅よさうのふねに・
とりのり・さいこくへ・くだらむと・したまひけるに・一のすのおきにして・へいけのしりやうや・おこりけん・むこやま
のあらし・はげしくして・ふねどもさんざんに・ふきちらされ・さんを・みだすがごとくにぞ・なりに・ける・十らうくらんどP554
の・ふね二さうは・いづみのうらに・ふきよせたり・はんぐわんのふね二さうは・つのくに・なにはのうらへぞ・うちあげたる・はん
ぐわんは・いかにもして・なみかぜをしづめ・さいこくへとは・おもはれけれども・うちつづき・あれければ・それより・うら
づたひして・すみよしのはまへぞ・あがられける・いづみ・かはちのものども・このよしをききて・たいぜいにて・むかふよしきこ
えしかば・はんぐわんかなはじとや・おもはれけん・十二にんの・にようばうたちをば・すみよしのはまに・うちすて・それより・つはもの
卅よにんを・ひきぐし・にようばうには・しづか・ばかりを・めしぐして・よしのやまを・さしてぞ・おちられける・十二にん
のにようばうたちは・すみよしのまつのもとに・そでを・かたしき・なきゐたまひけるを・そのへんの・ざいちのものども・あはれみたてまつ
つて・おこしにのせたてまつり・よにいつて・みやこへおくりたてまつりけるとぞ・きこえし・さるほどにはんぐわんは・よしのやまに・しの
うで・おはしけるを・だいしゆ・おこつて・あはやはんぐわんどのこそ・かまくらどのに・おんなか・たがはせたまひて・このやま
に・しのうで・おはすなる・いれたてまをしては・かなふまじ・にくしそのぎならば・おひいだしたてまつれや・とて・
たいぜいにて・むかふよし・きこえしかば・はんぐわんいづくまで・かたきに・うしろを・みすべきとて・じがいせんと・したまひ
けるを・あうしうの・さとう四らうびやうゑただのぶ・あににてさふらひし・三らうひやうゑつぎのぶは・やしまにて・おんいのちに・かはり
まゐらせさふらひぬ・けふは・ただのぶ・おんいのちに・かはりまゐらせさふらふべし・ひとまど・なりとも・のびさせたまへと・まをしけ
れども・はんぐわん・いかでか・さることの・あるべきとて・かさねてじがいせんと・したまひけるを・ただのぶ・やうやうに・とり
とどめたてまつりければ・ちからおよびたまはず・それより・つはもの十よにんを・ひきぐして・またよしのやまをぞ・しのばれける・ただ
のぶは・はんぐわんの・おんきせながを・たまはつてぞ・きたりける・のこり十七にんのつはものどもも・よせくるかたきを・いまやいまやP555
とぞ・まちかけたる・あんのごとく・よしののすげう・かくばんぜんじを・さきとして・たいぜいにて・おしよせた
り・そののち・ただのぶ・たかきところに・はしりあがり・これは・かまくらのげん二ゐどのの・おとうと・九らうたいふのはんぐわんよしつねぞと・な
のつて・やたはね・といて・おしくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるやに・よせておほく・いころさる・
よせてのものども・このよしを・みて・あはや・はんぐわんどのは・うちもの・とつてこそ・ゆゆしう・おはすなるに・ゆみ
をさへ・よくいたまひけりとぞ・おそれける・そののち・やだね・つきければ・うちものの・さやを・はづいて・きつていで・
さんざんに・たたかひけるに・十七にんは・うたれにけり・そののち・ただのぶ・また・たかきところに・はしりあがり・これはまことに・はん
ぐわんどのと・おもひたてまつるか・それは・はや・きのふより・おちたまひぬ・これは・はんぐわんのみうちに・あうしうの・さとう四
らうびやうゑただのぶと・いふものなり・がうのものの・じがいするを・みて・てほんに・せよやとて・よろひのうはおび・きつて・の
け・はら十もんじに・かき・やぶるていに・もてなし・そばなるたにへ・とびおりてぞ・おちゆきける・よせてのものども・
このよしを・みて・ただのぶがくび・とらむとて・ここを・つたひ・かしこを・まはるなんどと・しけるまに・たに
を・こえ・みねを・へだててぞおちのびたる・それより・みやこに・のぼり・あはたぐちのへんに・しのうでぞ・さふらひける・さる
ほどに・ほうでうの四らうときまさは・六まんよきの・ぐんびやうを・たなびいて・おなじき十一ぐわつ五かのひ・みやこに・のぼり・六
はらに・おちつきて・おはしけるが・このよしをききたまひて・たいぜいにて・むかふよし・きこえしかば・ただのぶこのよしを
ききて・あはたぐちをば・しのびつつ・三でうまてのこうぢなるところに・ひごろみそめたる・にようばうのもとに・たち・しのう
でぞ・さふらひける・六はらには・このよしをききて・たいぜいにて・おしよせたり・ただのぶは・つまどのあひだに・さふらひけるが・
P556
やたばね・といて・おしくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるやに・よせておほく・まとに・なつて・い
ころさる・そののち・やだね・つきければ・ひとでに・かからじとや・おもひけん・しやうじのうちに・ひきこもり・はら十
もんじに・かきやぶつたりけれども・なほもしなれざりければ・かたなの・きつさきを・くちに・ふくみ・えんより・さ
かさまに・つらぬかつてぞ・うせに・ける・こんねん・廿六・かたきも・これを・みて・をしまぬものこそ・なかりけ
れ・かくて・はんぐわんは・よしのやまの・みゆきに・ふみまよひ・とかくして・たうごくうだのこほりへぞ・いでられける・そのところ・
りうもんのまきは・はは・ときはが・ゆかりなりければ・はんぐわん・かしこに・おちつき・しばらく・いきついてぞ・おはしけ
る・それより・なんとに・のぼり・とうだいじの・ほとり・しゆんぜじと・まをすやまでらに・しのうで・おはしけるが・その
としのくれに・みやこにのぼり・ふしみ・ふかくさ・うめづ・かつら・にしやま・ひがしやまの・かたほとりに・つのて・かくれしのびて
ぞ・おはしける・つぎのとしの・はるのころ・やまぶししゆぎやうじやの・まねをし・おひを・かけ・ひでひらにふだうを・たのみつつ・
ほつこくにかかり・あうしうへぞ・くだられけるとぞ・きこえし
十郎蔵人の沙汰(あひ) 1208
さるほどに・せんじやうよしのりは・いづみの・うらに・うちあげられて・おはしけるが・それよりいがに・くだり・せんどの・
やまでらに・しのうで・おはしけるを・はつとりのげし・へい六まさつなは・へいけの・ゆかりのものなりけるが・このよし
をききて・びんぎのともがら・二百よにん・あひもよほし・せんどのやまでらに・おしよせて・ときを・どつとぞ・つくりける・よしのりP557
は・あるばうに・しのうで・おはしけるが・やたばね・といて・おしくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・い
たまひけるに・よせておほく・いころさる・そののち・やだねつきければ・ひとでに・かからじとや・おもはれけん・ばう
に・ひかけ・じがいしてこそ・うせられけれ・そののち・まさつな・けぶりにしづめ・よしのりのやけくびとつて・かまくらへ・もつ
てくだる・さてこそはつとりをば・あんど・してんげれ・さるほどに十らうくらんどどのは・きのくになぐさを・さして・くだ
られけるが・いづみのくに・やげじたと・いふところにて・げにんのをとこ・しよらうの・ここち・いできたりとて・やどうちと
つて・かんびやうして・おはしけるを・あるじのをとこ・このよしを・みたてまつつて・あつぱれ・これは・たうじ・ふす
まの・せんじ・かうぶりおはすなる・十らうくらんどどのにこそと・おもひければ・よに・いつて・しゆくしよをば・しのび
つつ・みやこに・のぼり・六はらに・まゐつて・このよし・まをしたりければ・ほうでう・しんべうなりとて・かげなるむまに・さや
まきそへてぞ・とらせける・そののちほうでう・あるじのをとこを・めして・たうじ十らうくらんどどの・うつても・からめても・え
さすべきものは・たれか・あるべきとのたまへば・あるじのをとこ・さんさふらふ・さいたふの・きただにほうしに・ひたちばうしやうめいこ
そさふらへ・ほうでうさらば・ひたちばう・めせとて・めされける・めされて・しやうめいまゐりたり・ほうでうやがて・いであひ・たい
めんしたまひて・いかに・わそうは・十らうくらんどどの・よく・みしりたてまつりたるかと・のたまへば・よくみしりたてまつつて・
さふらふとぞ・まをしける・ほうでうさらば・十らうくらんどどの・うちても・からめても・えさせよ・けんじやうは・こひに・よるべし
と・のたまへば・ひたちばう・かしこまつてうけたまはり・ささふらはば・ちうげん十にんを・たまはらむと・まをしければ・ほうでうやがて・け
にんのをとこ・十にんさしそへ・あるじのをとこを・あんないじやとして・いづみのくに・やげじたへこそ・くだされけれ・十らうくらんど
P558
どのは・もとのやどをば・かへて・むかひなるところに・やどうち・とつて・おはしけるを・あるじのをとこ・これこ
そと・をしへければ・げにんのをとこどもをば・かしこここに・かくしおき・わがみは・しげめゆひのひたたれに・ふしなはめ
のよろひをき・おほたちを・ぬいて・きつている・十らうくらんど・このよしを・みたまひて・いかに・あれは・ひたちばうと・み
るは・ひがめかと・のたまへば・しやうめいさふらふとて・きつて・かかる・十らうくらんども・そばなる・たち・おつとり・ぬ
きあはせ・さんざんに・たたかはれけるが・ひとでに・かからじとや・おもはれけん・しやうじのうちに・ひきこもりたまへば・
しやうめい・まさなや・ごじがいさふらふか・たすけまをさんずる・ものをとて・たちをなげすて・つつといつて・むず
とくむ・十らうくらんども・つよし・ひたちばうも・つよかりければ・たがひに・うへになり・したになり・ころびあ
ふところを・ここかしこに・かくしおきたりける・げにんのをとこども・はせあつまつて・うへなる・ひたちばうがあしに・なは
をぞ・かけたりける・こはいかに・みかたに・なはかくる・やうや・あると・いはれて・さること・さふらふと
て・ふたりが・あしに・なはをぞ・かけたりける・そののち十らうくらんどどのをば・てとり・あしとり・もとどり・とり・
いけどりにこそ・したりけれ・そののち・たがひに・いきついて・おはしけるが・ふたりのたちを・めしよせ・みたまへ
ば・ひたちばうが・たちは・四十二しよまで・きられたりけれども・十らうくらんどのたちは・一ところも・きれず・な
んぼうゆきいへは・ふるまうたるぞと・のたまへば・しやうめい・いまだ・これほど・てごき・おんかたきには・あひまゐらせず
さふらふとぞ・まをしける・そののち・ひたちばう・あまかはに・つつみ・もたせたりける・ほしひ・とりいだし・十らうくらんどどのにも・
すすめたてまつり・わがみもくひ・げにんのをとこどもにも・くはせ・そののち・十らうくらんどどのをば・おこしにのせたてまつつて・ぐそく
P559
したてまつり・ひたちばう・さきにみやこへ・ひとをのぼせて・六はらへ・このよしまをしたりければ・ほうでうなのめならずよろこびたま
ひて・五百よきにて・おんむかへに・まゐられけるが・よどのおほわたりのへんにて・まゐりあひたてまつり・十らうくらんどどのを・うけ
とりたてまつつて・よどの・あかゐがはらにて・つひに・きりたてまつつてんげり・やがて・ひたちばうをも・十らうくらんどのくびに・そ
へて・かまくらへこそ・くだされけれ・かまくらどの・しんぺうなり・けんしやうには・ながせとて・むさしの・かさいへぞ・
ながされける・つぎのとしの・はるのころ・めしいだし・あまりによき・かたき・うつたるものは・ゆみやみやうが・なきあひだ・さてながし
たりつるなり・いまはけんしやうあるべしとて・ひごろそしようしける・つのくに・おほたのしやうを・あんどする・のみなら
ず・たじまのくに・はむろのしやうを・たまはりけり・おなじき七かのひほうでうゐんざんまをし・よしつねつゐたうの・ゐんぜんを・まをされければ・
やがて・よしつねつゐたうの・ゐんぜんをぞ・くださる・あしたに・かはり・ゆふべに・へんず・せけんのふぢやうこそ・かな
しけれ・おなじき九かのひ・ほうでう・またゐんざんまをし・かげゆのこうぢの・ちうなごんつねふさのきやうを・もつて・まをされける
は・よりともこんど・へいけ・つゐたうのしやうに・せんぜられ・くににこくしをさだめ・しやうに・ぢとうを・すゑおき・たんべつ五しやう
づつの・かちようまいを・あておこなはる・べきよしを・まをされたりければ・ほうわう・このことおほきに・おぼしめし・わづらはせ
たまひて・しかるべき・くぎやうあまた・めして・おほせあはせられけり・なかにも・八でうのちうなごんながかたのきやうの・まをさ
れけるは・およそ・てうてきをたひらぐるものの・はんごくを・たまふと・いふことは・むりやうぎきやうのせつには・みえてさふらへども・より
とものきやうのまをすでう・おほきに・しかるべからざるよし・まをされたりけれども・ひたすらつねふさのきやうの・とりまをされける
うへ・ほうわうつひに・にほんこくのそうつゐふくしをぞ・くだされける・このつねふさのきやうとまをすは・よしだのだいなごんみつふさのきやうの・おん
P560
こなり・ほうわう・しよじ・ないげなう・おほせあはせられけるに・よつて・じやう二ゐのだいなごんまで・あがられけり・さ
れば・ほうわう・おんとし六十六にて・おんかくれのときも・てんかの・たいせうじともに・このきやうに・おほせおかれけるとぞうけたまはる・
されば・かまくらの・げん二ゐどのも・しよじなにごとをも・このつねふさきやうして・まをされけるとぞ・きこえし
六代 1209
あるとき・げん二ゐどの・ほうでうのもとへ・ししやをたてて・へいけは一もん・ひろかりしかば・しそんさだめて・おほかるらん・
いかにもして・たづねいだして・うしなはるべしと・のたまひつかはされたりければ・ほうでう・さてはとて・やが
ててんてをわかつて・きやうちうを・ふれられけるは・なにものにても・へいけのしそん・たづねいだして・まゐらせたらむず
る・ものには・そしようも・しよまうも・こひによるべしと・ふれられたりければ・そしようも・しよまうも・もちたるものは・
おほかりけり・へいけのしそんや・ましますと・かしこここをぞ・たづねける・かならずへいけのしそんならねども・ふつうの・
ひとのこの・じんじやうなるをば・とりいだし・あれは・かの・ちうしやうどのの・わかぎみ・これは・かの・せうしやうどのの・おんこ
なんどまをしければ・ちちはは・これを・かなしみて・まつたう・さなきよしを・ちんじまをしければ・あれは・おち・に
てこそさふらへ・これは・おんめのと・にてこそさふらへ・なんどまをして・ぜひをも・いはせず・おとなしきをば・
くびを・きり・をさなきをば・みづに・いれ・つちにうづむ・はらのうちを・さがさぬと・いふばかりなり・ははのなげ
き・めのとが・かなしみ・まをすばかりも・なかりけり・そののち・ほうでう・かまくらへ・ひとを・たてまつつて・このよしまをさ
P561
れたりければ・げん二ゐどの・さやうに・へいけのしそん・たづねいだして・うしなはれさふらふこと・かへすがへすも・しん
べうにさふらふ・ただし・へいけのちやくちやく・こまつの三みのちうじやう・これもりのきやうのちやくし・六だいはとしも・すこしおとなしかんな
れば・いかにもして・たづねいだして・うしなはるべしと・のたまひつかはされたりければ・ほうでうさてはとて・
やがて・てんてを・わかつて・にしやま・ひがしやまを・たづねさせられけれども・なかりければ・ちからおよばず・あかつきすで
に・かまくらへ・くだらんと・いでたたれける・そのよ・あるにようばうの・六はらに・まゐつてまをしけるは・このほど・おんたづね
さふらふ・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうこれもりのきやうの・わかぎみ・六だいごぜんの・わたらせたまふ・おんゆくへを
こそ・うけたまはりいだして・さふらへ・そのゆゑは・にしやまのふもと・だいがくじ・しやうぶたにのばうと・まをすところに・きたのかた・わか
ぎみ・ひめぎみ・ひきぐし・まゐらつさせたまひて・この三ねんがあひだ・すみたまふよしを・まをしたりければ・ほうでう・さては・と
て・くわんとうげかうを・とどめて・つぎのひの・まんだあさ・ひとを・つかはして・みせられければ・つかひ・しやうぶだに
のばうに・たづねいり・まがきの・ひまより・をさなきひとの・かひたまへる・しろき・ゑのこの・みすのそとさして・はしり
いでけるを・とらんと・つづいて・いでられければ・めのとのにようばうと・おぼしくて・あな・あさまし・けふこの
ごろ・ひともこそ・みさふらふにとて・とりとどめたてまつると・みおふせて・つかひ・六はらに・かへり・このよし
まをしたりければ・ほうでうさてはとて・やがて・五百よきの・せいにて・しやうぶだにのばうに・おしよせばうの四はうを・七
へ・八へに・うちかこんで・うちへ・ひとを・たてまつつて・これに・うけたまはりさふらへば・へいけのちやくちやく・こまつの・三みの
ちうじやうこれもりのきやうの・わかぎみ六だいごぜんの・わたらせたまふよしを・うけたまはりいだして・かまくらの・げん二ゐのだいくわん・ほうでうの
P562
四らうときまさと・まをすものが・おんむかひに・まゐつてさふらふ・とうとうと・まをされたりければ・ははうへ・めのとのにようばうを・はじめ
たてまつつて・いへのうちに・ありとしあるひと・みな・きも・たましひを・うしなつて・こゑを・あげてぞ・なかれ
ける・この三とせがあひだ・すみたまへども・あたりのひとを・はばかつて・こゑをも・すがたをも・しのびつつ・ものをも・た
かう・のたまは・ざりしかども・いまはのときにも・なりしかば・たへ・しのぶべき・ここちも・したまはず・ほうでう
も・こども・あまた・もちたる・みにて・おはしければ・あな・いとふし・さこそは・おもひたまふらめとて・
さうなうも・みだれいらず・つくづくとぞ・またれける・ひも・やうやう・くれければ・ほうでうまた・うちへ
ひとを・たてまつつて・これは・べちのしさいも・わたらせたまひさふらふまじ・しばらく・よを・しづめむほど・あづかりまを
せと・うけたまはつて・おんむかひのみこし・よういつかまつつてさふらふ・とうとうと・まをされたりければ・さいとう五さいとう六・ばうの
四はうを・たちまはりみて・ははうへのおんまへに・まゐつて・まをしけるは・おほかた・つはものども・みちみちて・いまは・
いづかたへも・しのばせたまふべき・やうも・さふらはず・こは・いかが・おんはからひさふらふ・やらんとまをしたりけれ
ば・ははうへ・さらば・まづ・われを・うしなひて・さてこのこをば・いだせや・とてぞ・なかれける・そののち・
わかぎみ・ははうへの・おんまへに・おはして・まをされけるは・なにかは・くるしう・さふらふべき・ただとく・いでばやと
こそ・ぞんじさふらへ・そのゆゑは・いましばらくも・さふらはば・おそろしげなる・ぶしどもが・みだれいつて・ひとびとの・う
たてげなる・おんありさまを・みたてまつらんに・つけても・いよいよ・こころうく・さふらふべし・たとへ・六はらへ・いでてさふらふ
とも・さうなうは・よも・きられさふらはじ・いま・しばらくも・さふらはば・ほうでうと・かやに・いとまこひ・かへりまゐ
P563
つて・みえまゐらせんと・よにも・おとなしやかにてぞ・のたまひける・さてしも・あるべきならねば・めのとのによう
ばう・おきなほり・さうぞく・したてまつる・二へおりものの・ひたたれに・しろき・おほくちを・きせたてまつる・ははうへは・く
ろきのじゆずの・ちひさきを・とりいだしたまひて・これは・こ三みどのの・としごろ・てなれたまひし・じゆずなり・これ
にて・いまはの・ときまでも・ねんぶつまをし・ちちのわたらせ・たまふ・ひとつじやうどへ・まゐらんと・ねがふべしとぞ・
のたまひける・わかぎみ・さては・ははうへにこそ・はなれまゐらせ・さふらふとも・ちちの・わたらせたまふ・ひとつじやうどへ・
まゐらんことこそ・うれしけれとてぞ・いでられける・わかぎみ・ははうへめのとのにようばうに・たちわかれたまふ・なごりのをしさ・さ
こそは・おもはれけれども・へいけのちやくちやく・さるひとの・こなりければ・ぶしに・よわげを・みえじと・おさ
ふるそでのしたよりも・あまりてなみだぞ・ながれける・わかぎみは・ことし十二に・なりたまひけるが・みめかたち・うつ
くしく・あたりも・てりかがやくほどに・おはしければ・おんむかへのぶしどもも・みな・よろひのそでをぞ・ぬらし
ける・おんいもうとのひめぎみ・ことし十に・なりたまひけるが・わかぎみは・いづくへ・ぞや・われも・まゐらんとて・つづ
いて・いでんと・したまひけるを・めのとのにようばう・とりとどめ・たてまつる・ほうでうも・いはきならねば・あはれに・おもひまゐ
らせけれども・さてしも・あるべきならねば・わかぎみ・みこしに・のせたてまつつて・ぐそくしたてまつる・さいとう五・さいとう六
も・かちはだしにて・六はらへこそ・いでにけれ・わかぎみ・いでさせたまひてのち・きたのかた・めのとのにようばうに・むかつ
て・のたまひけるは・みなひとのこをまうけてのちは・めのとなんどが・かたへ・さしはなつて・つかはすことも・あるぞ
かし・このこを・まうけてのちは・よのつねに・ひとの・もたぬ・こを・もちたるやうに・ひとしれず・ふたりが
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なかに・おきてこそ・あいせしが・このこが・としも・すこし・おひたつまま・に・こ三みどのに・すこしも・た
がはざりしかば・しかるべき・おんかたみに・もと・おもひ・こ三みどのに・はなれたてまつつてのちは・このこどもをこそ・
ひだりみぎに・おきても・なぐさみしか・いまは・ひとりは・あれども・ひとりは・なし・このこは・十二になるまで・たび
ねは・こよひはじめなり・おとなしきをば・くびを・きり・をさなきをば・みづにいれ・つちにうづむなれば・
このこは・としも・すこし・おとなしかんなれば・さだめて・きりぞ・せんずらん・ゆふさりにてや・あらんずら
む・またあかつきにてもや・あらんずらむ・さこそは・おそろしくも・おもふらめとて・なきあかし・たまひける・
ながきふゆの・よなれども・かぎりあればや・あけにける・あけければ・さいとう五・かへりまゐりたり・きたのかた・さて・
いかにやと・のたまへば・さんさふらふ・いままでは・べちのしさいも・わたらせたまひさふらはず・わかぎみよりの・おんふみさふらふとて・
とりいだして・たてまつる・きたのかた・ひらいて・みたまへば・げにも・さいとうが・まをすに・たがはず・かかれたり・いままで
は・べちのしさいも・さふらはず・おんこころやすく・おぼしめさるべし・いつしか・よのほども・ひとびとこそ・おんこひし
う・おもひ・まゐらせさふらへ・なんどぞ・かかれたる・きたのかた・さてこのこは・なんと・あるぞと・のたまへば・さんさふらふ・
ひとの・みまゐらせさふらふときは・しらぬていにて・おんわたりさふらふが・またひとのみまゐらせ・さふらはぬときは・かたはらに・う
ちむき・つねは・むつがらせ・おはしましさふらふと・まをしたりければ・きたのかた・それは・まことに・さも・あるらん・
いまみるものも・またみるものも・おそろしげなる・ぶしどもにて・ひごろ・みなれたるもの・一にんも・なし・さこ
そは・それに・つけても・こなたを・こひしと・おもふらめ・とてぞ・なかれける・さいとう五・いましばらく
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も・さふらへば・おんこころもとなく・おもひまゐらせさふらふに・いそぎかへりまゐるべきよしを・まをしたりければ・ははうへしばしや・
へんじのあらんずるぞとて・みづぐきのあとは・なみだに・かきくれて・そこはかとは・おぼえねども・おもふこころ
を・しるべしにて・なくなく・おんふみあそばしてぞ・たうだりける・さいとう五・ごへんじ・たまはつて・なくなく・だいがく
じをぞ・いでにける・おんめのとのにようばう・かくて・あるにも・あられねば・だいがくじをば・しのびつつ・まぎれいで・
かしこ・ここをぞ・なきありきける・みちにて・ひとゆきあひ・あないとふし・さこそは・おもひたまふらめ・これよ
り・おく・たかをとまをすところにこそ・もんがくしやうにんと・まをして・たつときひじりの・おはす・なるが・しかも・かまくらどの
だいじのひとに・したまふなり・さも・しかるべき・ひとのこの・じんじやうならんを・おんでしに・せばと・のたまふ
が・もしやと・まゐつて・まをして・みたまへかしと・をしへければ・このにようばう・これは・しかるべき・ほとけのおんつげに・
こそと・おもひければ・いまだ・しらぬ・たかをに・たづねのぼり・もんがくのばうに・たづねいりて・みければ・をりふしもん
がくは・つとめ・して・えんに・いでられたり・やや・ものまをさうと・いへば・ひじり・なにごとと・こたふ・これは・ちの・
なかより・とりあげ・いだき・そだて・まゐらせて・さふらふ・をさなきひとを・きのふ・ぶしに・とられ
て・さふらふぞや・あはれ・さもしかるべく・さふらはば・こひうけ・まゐらつさせ・たまひて・おんでしに・
しまゐらつさせ・たまへかしと・まをしければ・ひじり・さて・それは・いかなるひとの・おんこぞ・いまはなにをか・か
くし・まゐらせ・さふらふべき・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうこれもりのきやうの・わかぎみ・六だいごぜんと・まをし
て・ことしは・十二にならせ・おはしまし・さふらふが・みめ・かたち・ならびなく・こころざま・よに・
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すぐれて・おはしまし・さふらへば・ことに・をしうこそとぞ・まをしける・ひじり・さて・それを・こひうけたら
ば・一ぢやう・ひじりに・たぶべきか・まをすにやおよび・さふらふ・こひうけ・まゐらつさせたまひて・だにも・さふ
らはば・ただ・ともかうも・しやうにんの・おんはからひに・こそとぞ・まをしける・ひじり・さて・そのあづかりのぶし
をば・たれとか・いひつる・なに・ほうでうと・かや・まをすひとにて・さふらふなる・やや・さては・しらぬ・
ひとかとこそおもひたれば・ほうでうをば・しつたるひとや・そのひとのことならば・かなはぬまでも・まをしてこそ・み
め・こころやすう・おもひたまへとて・やがて・うちたつて・六はらへこそ・いでられけれ・このにようばう・だいがくじに・かへ
りまゐつて・このよしまをしたりければ・きたのかたあはれ・されかしされかし・このこがいのちの・たすかりたらんぞ・ひとへに・は
せのくわんおんの・ごりしやうにても・あるべき・うれしきにも・またつらきにも・つきせぬものは・なみだなり・そののちもん
がく・六はらへ・いでられたりければ・ほうでうやがて・いであひ・たいめんしたまひて・このあひだのことどもを・やや・はるかに・
おんものがたりあり・そののち・ほうでうまをされけるは・ひじりもさだめて・しろしめされたるらんやうに・かまくらどのより・へいけ
のしそん・たづねいだして・うしなへと・うけたまはつて・さふらふほどに・ことごとく・たづねいだして・うしなひまゐらせさふらふこと・ときまさ
も・こども・あまた・もつたるみにてさふらへば・まつたうこれを・ほんいとは・ぞんじさふらはねども・よにしたがふならひ・
ちからおよばざるしだいなり・またへいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうこれもりのきやうの・ちやくし六だい・たづねいだして・うしな
へと・うけたまはつて・きのふより・むかへまをしては・さふらへども・あまりの・いたはしさに・なんと・したてまつるべき・
ひとやらんと・とかく・あんじ・わづらひて・こそさふらへと・まをされたりければ・ひじりも・そのひとにこそと・おもはれ
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ければ・ささふらはば・そのわかぎみを・ひとめ・みまゐらせさふらはばやと・のたまへば・ほうでう・やすきおんことさふらふとて・
ひじりを・わかぎみのおんかたへ・いれまをされけり・ひじり・しやうじを・すこしほそめに・あけて・みたまへば・まことにも・
きくにも・こえて・みめかたち・ならびなく・あたりも・てり・かがやくほどなり・くろきのじゆずの・ち
ひさきを・くりたまひて・まことに・おもひいれたる・おんありさま・いたはしく・みたてまつるところに・わかぎみ・ひじりを・みつけ
たてまつつて・なんとか・おもはれけん・やがて・なみだにむせびたまへば・ひじりも・あまりの・いたはしさに・めも・あてら
れず・しきりになみだの・すすみければ・すみぞめのそでを・かほに・おしあてて・しやうじを・ひきたててぞ・いでられ
ける・そののち・もんがく・ほうでうのまへに・ゆきむかひ・すゑのよに・いかなる・あたの・かたきとも・ならばなれ・いかでか・
このひとのいのちをば・うしなふべき・せんずるところ・ほうでうどの・このひとのいのちを・廿かがあひだ・のべて・たべ・われ・かま
くらに・くだつて・こひうけ・たてまつらんずるに・げん二ゐどのに・ずりやうの・かみつきたまは・ざらむほどは・もんがくが・
まをさうずることをば・いかでか・たがへたまふべき・そのゆゑは・ごへんもさだめて・しりたまひたるらん・やうに・あ
のひとの・いまだ・いづのくに・ほうでう・ひるがしまに・ながされて・おはせしとき・もんがくも・るにんのみにては・さふらひし
かども・あのひとを・よに・たてまをさんがために・ゐんぜんまをしに・ふくはらへ・のぼりしとき・ひとめを・はばかるなら
ひ・よはだいだうにいで・ひるはやまみちにかかつて・よをひに・ついで・のぼるほどに・あるときは・ふじかはのみづいで
て・おしながされんと・せしときも・ありまたあるときは・たかせのふもとにて・さんぞくらに・いのちを・うしなはれん
とせしときも・あり・されども・みを・またうして・みやこに・のぼり・ふくはらのしんとに・くだつて・ゐんぜんまをして・たてまつ
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るのみならず・れいぶつれいしやに・いのりを・かけて・よにたてまをしたる・もんがくがことをば・いかでかたがへたまふべき・
あひかまへて・廿かがあひだは・まちたまふべしとて・させるりやうしやうは・なけれども・でしのそう一にん・めしぐし・いそぎむま
に・うちのつて・かまくらへこそ・くだられけれ・さいとう五・さいとう六は・ひじりのおんあとを・はるばると・みおくりたてまつつ
て・ただしやうじんの・によらいと・のみぞ・をがみける・二にんのものども・だいがくじに・かへりまゐつて・このよし・まをしたりけれ
ば・きたのかたさればこそ・この三とせがあひだ・はせのくわんおんに・あゆみをはこび・いのるいのりは・ここぞ・かし・しじうのこと
は・しらねども・このこがいのちの二十かがあひだも・のびんことの・うれしさよ・とてぞ・なかれける・一にち二かと・
せしほどに・廿かのすぐるは・ゆめなれや・ひじりは・いまだ・みえざりけり・ほうでうも・まちかねて・あかつきすでに・かま
くらへ・くだらむと・こそ・いでたちけれ・さいとう五・さいとう六は・てを・にぎれども・かなはず・さてしも・あるべ
きならねば・さいごのいとままをしに・だいがくじへぞ・まゐりける・きたのかた・さていかにやと・のたまへば・さんさふらふ・ひじり
も・廿かがあひだと・こそ・まをして・まかりくだつて・さふらへども・いまだ・のぼることも・さふらはず・ほうでうも・まちかねて・
あかつきすでに・かまくらへ・くだらんと・こそ・いでたつげに・さふらへとまをしたりければ・きたのかた・さてこのこは・なにと・
なるべきぞと・のたまへば・さんさふらふ・それも・ゆふさりか・あかつきのほどに・一ぢやうと・こそみえさせ・おはしまし
さふらへ・そのゆゑは・このほど・あづかりまをしてさふらふ・ぶしをば・のけられて・きのふより・べちのつはものの・あづかりまをしてさふらふ
が・あるひは・かたはらに・ささやくものもさふらふ・あるひは・わかぎみを・みたてまつつて・なみだに・むせぶものもさふらふ・またねんぶつ
まをすものも・ありとぞ・まをしける・ははうへ・さればとよ・もしこのひじりの・こひうけて・もや・おそかるらん・また
P569
かなはぬ・にてもや・おそかるらん・もし・こひうけたらば・たとひ・わがみこそ・おそくとも・さきにひとをば・のぼ
すべきものぞ・かし・あはれ・ほうでうと・かやが・もちひつべからむずる・おとなしきものの・このこをみちにて・
ひじりに・ゆきあはむところまで・ぐして・くだれと・いふものの・あれかし・ものこのひじりの・こひうけて・もや・のぼる
らんに・このこは・さきに・きられたりと・きかむことこそ・かなしけれ・かまくらのげん二ゐと・かやも・わがみに・
しれて・このこが・いのちを・たすけんとは・よも・のたまはじ・されば・くわんおんも・ぢやうごふをば・ちからおよばせたまは
ず・あはれ・ゆめは・たのまれざりける・ものぞや・このあかつき・このこが・しろきむまに・のつて・きたりつるを・いか
にやと・いはんと・すれば・そのゆめの・やがて・さめぬる・うらめしさに・たとへゆめなりとも・しばしがほども・
そはずして・さめぬるゆめこそ・うたてけれ・さては・このこが・いのちのたすからんずるかと・おもひたれば・し
ぬべきことの・かねてより・みえつることの・むざんさよ・なによりも・ひとひいでしとき・いましばらくも・さふら
はば・ほうでうと・かやに・いとまごひ・かへりまゐつて・みえ・まゐらせんと・いひおきし・なぐさめことばの・おとな
しさよ・はつかもすでに・すぐるまで・かなたへも・ゆかず・こなたへも・きたらず・ひとひいでしを・かぎりにて・
ながきわかれと・ならむことこそかなしけれ・きたのかた・さて・なんぢらは・なにとなるべきぞと・のたまへば・さんさふらふ・これ
も・わかぎみの・ともかうも・ならせたまはんところまで・おんともまをして・さふらはんほどに・ともにうしなはれんは・ほんい
なり・たとへまた・たすけられてさふらふとも・やがてもとどり・きつて・わかぎみのごぼだいを・とぶらひまゐらせんと・
かれらふたりは・おもひなつて・こそさふらへと・まをしたりければ・きたのかた・いしうも・おもうたり・さらばとく・
P570
かへつて・このこがゆくすゑを・しらせよと・のたまへば・ふたりのものども・さいごのいとままをして・なくなく・だいがくじをぞ・いで
にける・さるほどに・ほうでうの四らうときまさは・六まんよきの・ぐんぴやうを・だなびいて・ぶんぢぐわんねん・しはす十六にちに・
みやこをたつて・かまくらへこそ・くだられけれ・ほうでう・わかぎみをば・みこしに・のせたてまつつて・ぐそくしたてまつる・さいとう
五・さいとう六をも・のりかへに・のれと・いひけれども・けふをかぎりの・おんともなれば・とて・かちはだしにて
ぞ・くだりける・そのころの・きやうちうのじやうげ・このよしを・みたてまつつて・あな・いとふし・わかぎみのうゐむじやうのさかひ・
けふすでに・こえゆきたまひなんず・とて・みな・なみゐて・そでをぞ・ぬらしける・あはだぐちにも・なりしかば・わ
かふしとぞ・みたまひける・こまを・はやむる・ぶしあれば・ただいま・わがくび・うてとの・つかひやらんと・きも
を・けし・かたはらに・ささやく・ものあれば・ただいま・さいごやらんと・むねさわぐ・いのちのすゑを・まつざかや・
四のみやがはらにて・一ぢやうときこえしかども・せきやま・せきでら・うちすぎて・おほつの・うちでに・なりにけり・あはづの
はら・せたのはしにて・一ぢやうときこえしかども・のぢ・しのはらをも・うちすぎて・そのひはかがみに・つきたまふ・ゆふさり・
一ぢやうとききしかども・そのよも・きらで・あけにけり・あすは・一ぢやうとききしかども・そのひも・きらでぞ・くれにけ
る・ほうでうは・いかにもして・としのうちに・かまくらまでと・いそがれければ・よをひについでぞ・くだられける・
みのをはりにも・なりしかば・いとどこころぼそくぞ・おもはれける・みかはのくにをも・うちすぎて・とほたふみのくに・さよのなか
やま・すぐるにも・またこゆべしとも・おぼえねば・いとど・なみだぞおちまさる・うつのやまべの・うつつにも・ゆめ
に・みちゆくここちして・ひかずやうやう・かさなれば・するがのくに・千ぼんのまつばらにこそ・つきたまへ・さるほどにせんぼん
P571
のまつのしたに・おほまく・ひきまはさせ・しきがはしいて・わかぎみ・みこしより・だきおろしたてまつつて・しきがはのうへに・お
きたてまつる・そののち・ほうでう・さいとう五・さいとう六を・かたはらへ・よびはなして・のたまひけるは・わかぎみをば・ただいまこれにて・
うしなひたてまつるべきにてさふらふなり・ごへんたちは・べちのしさいあるべからず・これより・みやこに・のぼり・わかぎみのごぼだいを・
とぶらひまをさるべしと・のたまへば・二にんのものども・ひごろより・かく・あるべしとは・おもひまけうしことなれ
ども・ただいますでにと・きくからに・むねふさがつて・めくれつつ・とかうの・へんじにも・およばず・そののち・ほう
でう・わかぎみのおんまへに・まゐつて・まをされけるは・かつ・きこしめされさふらふ・ごとく・ひじりも・廿かがあひだとこそまをし
て・まかりくだつてさふらへども・いまだ・のぼることも・さふらはず・かねてまた・あふみのかがみにて・うしなひたてまつれと・うけたまはつては・
さふらひつれども・もしやとひじりにゆきあはんところまでとぞんじ・これまで・おんともまをしてさふらふなり・おなじうは・あしがらをも・
こしまをしたうは・さふらへども・くわんとうのきこえ・しかるべからざるうへ・げん二ゐどのも・いちごふしよかんのわかぎみを・たすけまゐ
らせんとは・よもまをされさふらはじ・ただいまこれにて・うしなひたてまつるべきにてさふらふなり・なにごとも・おぼしめしおくおんことさふら
はば・ときまさにも・うけたまはれ・また二にんのひとびとにも・おほせおかれさふらふべし・さてもこのあひだの・おんなごりこそと・なみだ
も・せきあへず・まをされたりければ・わかぎみは・とかくのへんじも・したまはず・ただうちうなづき・たまふ・ばかり
なり・そののち・わかぎみ・さいとう五・さいとう六を・めして・ただいますでにと・きくぞ・なんぢらは・べちのしさい・あらじと・
こそおもへ・これより・みやこに・のぼるべし・ははうへ・めのとのにようばうの・さだめて・わがことをぞ・とひたまはんずらむ・その
ときは・われみちにて・きられたりと・まをすべからず・ことゆゑなう・かまくらまで・くだりつきて・ひとに・あづけられた
P572
りと・まをすべし・そのゆゑは・われみちにて・きられたりとききたまひたらば・ははうへめのとのにようばうの・ひとしれず・なげき
たまはんも・なかなか・つみふかかるべし・たとへ・のちには・かへり・きこしめさるるとも・あひかまへて・このよし・かくと・
まをすべからず・またひとしもこそ・おほきに・なんぢらが・これまで・はるばると・おんともまをしたる・こころざしのほどこそ・
かへすがへすも・しんぺうなれ・あひかまへて・それに・つけても・ははうへ・めのとのにようばうには・よくよく・おんみやづかひつかまつれ・
それぞ・なににも・すぐれたる・こんじやうごしやうの・けうやうとも・おもふべきと・のたまへば・ふたりのものども・わかぎみに・はな
れたてまつつて・一にちへんし・ながらふべしとも・おぼえずとて・せんぼんのまつのした・すなごの・うへに・たふれふし・こゑ
を・あげてぞ・かなしみける・そののち・わかぎみ・ふところより・くわんおんぎやうを・とりいだしたまひて・二三ぺんがほど・よみわた
し・おなじう・くわんおんのみやうがうを・となへ・そののち・にしにむかひ・かうじやうに・ねんぶつす百べん・となへたまひて・さらば・
とく・きれやとて・くびを・のべてぞ・またれける・きりては・かののくどうしげもちとぞ・きこえし・しげもち・たち
を・ぬいて・ひきそばめ・おんうしろに・たちまはりければ・わかぎみ・これをごらんじて・みぐしの・うしろへ・ゆらゆ
らと・さがりたりけるを・おんまへへ・ひきこしたまへば・す千のつはもの・これを・みて・あな・いとふし・いままで
も・おんこころの・わたらせたまひけるよ・とて・ぶし・たけしと・まをせども・みな・よろひのそでをぞ・ぬらしける・
しげもちも・ながるる・なみだに・かきくれて・たちの・うちども・おぼえず・いちぢやう・しげもち・ふかく・つかまつと・
ぞんじさふらふ・されば・じよのじんに・おほせつけられさふらへとて・なみだに・むせびてぞ・たちたりける・ほうでうも・せんかた
なげにて・あなこころうや・いかなるしゆくしふか・かかる・うきひとに・とりかかりたてまつつて・いまかやうに・こころを・く
P573
だく・こころうさよ・たれも・さこそは・おもふらめ・さらば・あれ・きれ・これきれと・きりてを・えらぶところに・
ここに・はるかのひんがしの・かたより・こきすみぞめのころも・きたりける・そう一にん・しろあしげなるむまに・のつてぞ・いでき
たる・これぞ・もんがくがでしなりける・みちにてひと・ゆきあひ・あな・いとふし・さこそは・おもひたまふらめ・あ
れなる・まつのしたに・こそ・へいけの・きんだちと・まをして十二三ばかりなる・よにうつくしき・をさなきひとを・ただ
いまきりたてまつらんと・しつれ・あまりのいたはしさに・みたてまつらずして・とほり・たりつるよ・なんど・かたりけれ
ば・このそう・さては・わかぎみの・これまで・くだらせたまふなるが・ただいまこれにて・きられさせたまふに・こそと・
おもひければ・いそぎ・むちあぶみ・あはせて・はせけるが・たいぜいの・ののめくを・みてあまりの・こころもとなきに・きたる・
ひがさを・ぬいてぞ・まねきたる・あれは・いかに・やうあり・かまくらどのよりのおんつかひ・ごさんあれと・ひとりふ
たり・まをすほどこそ・ありけれ・きりても・いそぐことなければ・六万よきのつはものどもも・みなひんがしの・かたをぞ・ま
ぼりける・このそう・ほどなうきたりぬ・いそぎむまより・とんで・おり・たいぜいの・なかを・おしわけおしわけ・ほうでうのまへ
に・ゆきむかひ・かまくらどのより・おんゆるしぶみの・さふらふぞとて・くびにかけたる・ふみぶくろより・とりいだして・たてまつるほうでう・
ひらいて・みたまへば・そのじやうに・いはく・
なかにも・へいけのちやくちやく・こまつの三ゐのちうじやうこれもりの・ちやくし六だいたづねいだされさふらふことかへすがへすも・しんべうにぞんじさふらふ・
ただし・たかをの・もんがくしやうにん・しきりに・まをさるるに・よつて・しばらく・あづけたてまつるところなり・これにて・べちのうたがひ・
あるべからず・いそぎ・かのひじりのかたへ・わたさるべし
P574
ぶんぢぐわんねん・十二ぐわつ廿三にち
ほうでうの四らうどのへ・よりともと・こそあそばされたれ・ごじひつなり・ごはんなり・ほうでうも・たかうは・よまれねども・
しんべうしんべうとて・さしおかれければ・さいとう五・さいとう六は・なかなかまをすに・およばず・ほうでうのいへのこ・らうどうも・みな
よろこびのなみだをぞ・ながしける
初瀬六代 1210
さるほどにもんがくも・やうやう・おはしたり・ほうでうやがていであひ・たいめんしたまひて・かねては・はつかのあひだと・こ
そ・うけたまはつては・さふらひつれども・おんのぼりも・さふらはず・またかまくらよりは・ひとを・のぼせ・さふらひて・あふみのかがみにて・
うしなひたてまつれと・うけたまはつては・さふらひつれども・もしやと・ごばうにゆきあひたてまつらんところまでとぞんじ・これまでおんともまをしては・
さふらへども・うしなひたてまつらんと・つかまつりさふらふところに・かしこうぞ・あやまち・つかまつつて・こうかいするらんにと・まうされけ
れば・もんがくされば・とよ・われかまくらに・くだつて・このことを・まをさむと・つかまつりさふらへばやがて・なすののかりに・
いでたまふ・つきたてまつつて・まをせば・かまくらに・かへつて・よきやうに・はからはんと・のたまふあひだ・かまくらにて・まをせ
ばわそう・いしうも・くだつたり・わかみやに・七かこもつて・ごまたけ・おほみだうに・三かこもつて・ぶつじせよ・なん
ど・のたまふあひだ・このひとのおんこころに・すこしも・たがひたてまつつては・もんがくがしよまうも・いかでか・かなふべきと・おもひ・
かしこ・ここに・まゐりこもりし・うちにも・わかぎみのごきたうをのみ・つかまつりさふらひき・もんがく・げん二ゐどのに・このことを・
P575
まをしさふらへば・はては・かなふまじと・のたまふあひた・もんがく・こは・いかに・ごへんの・いまだいづのくに・ほうでうひるがしまに・
ながされて・おはせしとき・もんがくも・るにんのみにては・さふらひしかども・ごへんをよに・たて・まをさむがために・
ゐんぜんまをしに・ふくはらへ・のぼりしとき・ひとめを・はばかるならひ・よるはおほぢにいで・ひるは・やまぢに・かかつて・
よをひについで・のぼるほどに・あるときは・ふじがはの・みづいでて・おしながされんと・せしときもあり・またあるときは・
たかせのふもとにて・さんぞくらに・いのちを・うしなはれんと・せしときも・あり・されども・みを・またうして・みやこ
にのぼり・ふくはらのしんとに・くだつて・ゐんぜんまをして・たてまつるのみならず・れいぶつれいしやに・いのりをかけて・よに・た
てまをしたる・もんがくがしよまうを・たがへたまはんに・おいては・ごへんのみやうがも・おはせうずるか・なんど・ある
ときは・おどしたてまつり・またあるときはすかしたてまつつて・おんてに・すみふでを・とりあてがふやうに・してこそ・おんゆ
るしぶみも・いだしたれ・やは・たやすかるべきと・のたまへば・ほうでう・まことにも・とぞおもはれける・そののちほうでう・
わかぎみの・おんまへに・まゐつて・まをされけるは・もつともおんともつかまつつて・まかりのぼりたくは・さふらへども・としのうちに・くわんとうに・
いささかさたつかまつるべき・ことのさふらふあひだ・こんどは・まづ・まかりくだり・いかさまにも・はるに・なつて・まかりのぼり・おんめにかかる
べしと・まをされたりければ・わかぎみの・ごへんじには・あの・ひじりのごばうの・おんことは・なかなか・まをすにおよばず・
さても・そこのはうしこそ・いつのよまでも・わすれがたけれ・いかほどにも・しやうらくのときは・まづ・げんざんに・
いらうずるさふらふとぞのたまひける・そののちもんがく・わかぎみうけとりたてまつる・ほうでうの・さたとして・みこしに・のせたてまつる・ひとあ
また・つけたてまつつて・のぼせまをされけり・さいとう五・さいとう六をも・のりかへに・のせてぞ・のぼせられける・さるほど
P576
に・もんがく・わかぎみうけとりたてまつつて・いかにもして・としのうちに・みやこまでとは・いそがれけれども・つながぬ・つき
ひなり・ければ・をはりのくに・せたのうらにて・としくれぬ・ぶんぢも二ねんに・なりにけり・おなじきむつき五かのひ・もん
がく・わかぎみ・ぐそくしたてまつつて・みやこに・のぼり・もんがくのしゆくばう・二でうゐのくまの・いはがみのばうへ・いれたてまつる・つぎのひ・わか
ぎみ・さいとう五・さいとう六を・おんともにて・ははうへの・おはしける・しやうぶだにのばうに・おはして・みまゐらつさせたま
ふに・もんこをとぢて・たたけどもたたけども・おともせず・さいとう五・もとより・あんないは・しつたり・ついぢを・のぼり・こ
え・うちへ・まゐつてみたてまつるに・ちかうひとのすみたるけしきも・なかりけり・さいとう五・かへりまゐつて・このよしまをし
たりければ・わかぎみ・こは・いかに・われ・みちにて・きられたりと・ききたまひて・もしふちかはへ・みをもや・
なげて・おはすらん・わがいのちの・をしかりつるも・いまいちど・ははうへをみたてまつらんと・おもふためにこそ・あれ・まことに・
さやうに・なりたまひたらんに・おいては・ありし・せんぼんの・まつばらにて・ともかうも・なるべかりつる・もの
をとて・こゑを・あげてぞ・なかれける・わかぎみの・もとかひたまへる・しろき・ゐのこの・さふらひけるが・わか
ぎみの・おんこゑを・ききつけたてまつつて・ついぢの・かげより・をうちふつてぞ・むかひける・わかぎみ・さてはなんぢは・いま
だ・これに・ありけるにや・あはれなんぢ・ものいふものなりせば・ひとびとのおんゆくへを・とはぬか・とてぞ・なか
れける・そののち・ちかき・あたりのひとに・とひたまへば・さんさふらふ・それは・ふゆのころより・はせへ・おんまゐり
にてさふらふと・まをしたりければ・わかぎみなのめならず・よろこびたまひ・いそぎみやこへかへらせたまひて・つぎのひ・さいとう五を・おんつかひ
にて・はせへ・くだされけり・さるほどに・きたのかたは・わかぎみのおんこと・おぼしめしいだし・なみだに・むせび・うつぶして・お
P577
はしけるところへ・さいとう五・つつと・まゐりたり・きたのかた・さていかにやと・のたまへば・さんさふらふ・わかぎみをば・もん
がくしやうにんの・こひうけ・まゐらつさせ・たまひて・みやこへ・おんのぼりにてさふらふと・まをしたりければ・きたのかたこは・ゆめか
やゆめかやとぞ・のたまひける・そののち・ははうへ・のたまひけるは・まことに・このくわんおんは・ぢやうごふをも・てんじかへさせ・たま
ふおんこと・いまにはじめぬ・ことながらとて・やがて・よろこびのほつせ・まゐらつさせたまひ・いそぎみやこへ・ごげかうあつ
て・わかぎみを・むかへまゐらつさせたまひて・みまゐらつさせたまひけるにも・ただゆめの・ここちぞ・したまひける・
そののち・ははうへ・のたまひけるは・こんどは・ならはぬ・たびのそらに・おもむき・やせくろみたれば・しばらく・
これにて・ゆをも・あび・みをも・いたはりたまへかしとは・おもへども・またひじりのごばうの・おぼしめさるる・
ところもあり・まづたかをに・のぼりたまふべし・これよりたかをも・ほどちかかりければ・つねは・くだつて・みえたまへと
て・さいとう五・さいとう六を・おんともにて・たかをに・のぼせまをされけり・ひじりも・ぜんせのことにや・わかぎみなのめならず・
いとほしみたてまつつて・さいとう五・さいとう六をも・ふぢし・ははうへ・めのとのにようばうの・かすかなる・おんすまひをも・
つねは・こととひ・たまひけり
あひ 1211
そのころのせつしやう・このゑどの・せつしやう・めしかへされ・させたまひて・九でうどの・しんせつしやうに・ならせたまふ・されば・この九
でうどのは・へいけの・ほろび・よのそんじゆくことを・おほきに・なげき・おぼしめされければ・いんとく・むなしからず・
P578
やうはう・たちまちに・ひるがへつて・つひにはみよを・しろしめされけるこそ・めでたけれ
小原御幸 1212
ごしらかはのほふわうは・ぶんぢ二ねんの・はるのころ・にようゐんのかんきよの・おんすまひ・ごらんぜま・ほしくやおぼしめされけむ・
ごかうと・さだめられたりしかども・きさらぎ・やよひは・よかんも・はげしく・みねのしらゆき・きえやらで・たにの・つら
らも・うちとけず・かくてはるすぎ・なつのはじめ・うづき廿かごろにぞ・やうやうおぼしめしたたせ・たまひける・しのびの・ご
かうなりけれども・とくだいじ・くわざんゐん・つちみかどいげ・くぎやう六にん・でんじやうびと八にん・そのほか・ほくめんのともがらどもも・せうせうめ
しぞ・ぐせられける・をはらどほりを・ひよしのやしろへと・ごひろうあつて・かの・きよはらのふかやぶが・ふだらくじ・
をののくわうたいこうぐうの・きうせきを・えいらんあつて・それより・おんくるまをとどめてぞ・おんこしには・めされける・はじめたる・ご
かうなりければ・ごらんじなれたる・かたもなく・きうたいはらふ・ひとも・なし・じんせきたえたるほども・かつかつ・
おぼしめししられて・せれうのさとの・ほそみちも・さこそはおんところせく・おぼしめされけめ・とほやまに・かかる・しら
くもは・ちりにしはなの・かたみなり・あをばに・みゆるこずゑには・はるのなごりぞ・をしまるる・じやくくわうゐんは・いはにこけむ
して・ふるうつくりなせる・せんすゐ・こだち・よしあるさまの・みだうなり・いらか・やぶれては・きりふだんのかうを・
たき・とばそ・おちては・つき・じやうぢうの・ともしびを・かかぐとも・かやうのところをや・まをすべき・みねの・あおやぎつゆをふくみて・たまを
つらぬくか・とも・うたがはれ・いけのうきぐさ・なみに・ただよひ・にしきを・さらすかと・あやまたる・なかしまのまつに・かか
P579
れる・ふぢなみ・こずゑのはなののこるも・やへたつくもの・たえまより・やまほととぎすの・ひとこゑも・けふの・みゆき
を・まちがほなり・さらでだに・みやまがくれの・ならひにて・おほはらや・もりのしたくさ・しげく・あをばま
じりの・おそざくら・はつはなよりも・めづらしく・みづのおもに・ちりしきて・よせくるなみも・しろたへなり・ほふわう・
かれをえいらんあつて
いけみづにみぎはのさくらちりしきて・なみのはなこそさかりなりけれ・
ほふわう・にようゐんのごあんじつを・えいらんあるに・かきには・つたあさがほ・はひかかり・へうたんしばしばむなし・くさ・がんえんが・ちまた
に・しげしとも・いひつべし・のきには・しのぶまじりのわすれぐさ・にはには・よもぎおひ・しげり・れいでう・ふかくとざせり・
あめげんけんが・とばそを・うるほすとも・また・いひつべし・すぎの・ふきめも・まばらにて・しぐれも・しもも・おくつゆ
も・もるつきかげに・あらそひて・たまるべしとも・みえざりけり・うしろはやま・まへはのべ・いささ・をざさに・
かぜそよぎ・よに・たへぬみの・ならひとて・うきふし・しげきたけばしら・みやこのかたのことづては・まどほに・
ゆへる・ませがきや・わづかに・こととふものとては・みねにこづたふ・ましらのこゑ・しづがつまぎの・をののおと・これ
らが・おとづれならでは・まさきの・かづら・あをつづら・くるひと・まれなるところなり・ほうわう・にようゐんのごあんじつに・
いらせたまひて・ひとやさふらふひとやさふらふと・おほせけれども・をりふし・おんいらへまをすものも・なかりけるに・ややあつて・らうに・一
にんいでて・さふらふとぞ・まをしける・ほうわう・にようゐんは・いづかたへ・みゆきなりたるぞと・おほせければ・このうへのやまへ・
はなつみにとぞ・まをしける・ほうわう・さては・はなつみて・たてまつりぬべきひと・一にんも・つきたてまつらざるに・こそ・さ
P580
こそ・おんよを・いとはせたまはんからに・ならはぬおんわざは・いたはしうこそと・おほせければ・このあままをしける
は・いまめかしき・まをしごとにては・さふらへども・しやかは・ちうてんぢくの・あるじ・じやうぼんだいわうのたいしなり・され
ども・かやじやうを・いでさせたまひ・だんとくせんに・いらせたまひて・たかきみねには・たきぎをとり・ふかきたにには・みづを・
むすび・ゆきを・はらひ・こほりを・くだくのみならず・なんぎやうくぎやうのごう・つもつて・つひに・しやうがくとげさせ・たまひ
き・いはんや・さきのよの・しゆくぜんをも・またのちのよの・しゆくごふをも・おぼしめしさとらせたまひて・しやじんのぎやうを・しゆしまし
まさむは・なんのおんうたがひか・さふらふべきとぞ・まをしける・ほうわう・このあまのすがたを・つくづくと・えいらんあるに・
よにも・うたてげなる・あさのころもをぞ・きたりける・ほうわう・ふしぎやあのすがたにても・かやうのことを・まをす
ことよと・おぼしめされて・そもなんぢは・いかなるものぞと・おほせければ・このあま・なみだにむせびて・しばしは・ご
へんじをも・まをさず・ほうわうかさねて・さて・いかにや・いかにと・おんたづねありければ・ややあつて・このあま・なみだを
おさへて・まをしけるは・これはこせうなごんにふだうしんせいのむすめ・あはのないしとぞ・まをしける・ないしは・きの二ゐのむすめ・
きの二ゐは・またほうわうのおんめのと・これは・おんめのとごにて・ていせき・りようがんに・ちかづきたてまつりしをば・いつしか・
おぼしめしわすれて・ただいま・ゆめかと・おどろきおぼしめすにも・りようがんに・おんなみだせきあへさせ・たまはず・かたはらの
しやうじを・ひきあけて・えいらんあるに・ごしんじよと・おぼしくて・たけのおんさをに・かけられたるものは・あさのおんころもに
かみのふすま・むかしのらんじやの・にほひを・ひきかへて・そらだきものと・かをりしは・ふだんかうの・けぶりなり・また
かたはらのしやうじを・ひきあけて・えいらんあれば・らいがうの三ぞん・ひがしむきにたちたまへる・ちうそんのみてには・五しきのいと
P581
を・かけられたり・ほとけのひだりに・ふげんのゑざう・みぎに・ぜんだうくわしやうのみえい・ならびにせんていのごえいをも・おなじう・か
けぞ・そへられたる・おんまへのつくゑには・三ぶきやう・八ぢくのめうもん・九でふのごしよをも・おかれたり・なかにも・
くわんきやう・あそばしかけたると・おぼしくて・はんぐわんばかりぞ・まかれたる・そのほかしよきやうのえうもんども・しきしにかきて・ところ
どころに・おされたり・なかにも・にようゐんの・ごえいかと・おぼしくて
おもひきやみやまのおくにすまひして・くまゐのつきをよそにみんとは・
なかにも・にやくうぢうごつしやう・むしやう・じやうどいん・じようみだぐわんりき・ひつしやうあんらくこくとも・あそばされたり・かのおほえのぢやうき
ほうしが・ごだいさんのふもと・しやうやうせんにして・えいじたりけん・しやうかはるかにきこゆこうんのうへ・しやうじゆらいがうすらくじつのまへと
も・あそばされたり・かのじやうみやうこじの・はうぢやうのむろにして・三まん三千のゆかを・ならべ・十ぱうのしよぶつを・しやう
じ・まゐらつさせ・たまひけん・おんありさまも・これには・すぎじとぞ・みえし・なかにも・ごとくだいじのさだいじんじつていこう・
なみだをおさへて・あしたには・こうがんあつて・せいろにほこれども・ゆふべには・はくこつとなつて・かうげんにくちぬ・
いにしへはつきにたとへしきみなれど・そのひかりなきみやまべのさと
と・なくなくえいぜられたりけるにぞ・みなひと・そでをばぬらされける・そののち・やや・はるかに・あつて・うへの
やまより・こきすみぞめのころもきたりける・あま二にん・きのねを・つたひ・おりくだる・しきみ・つつじ・ふぢのはな・は
なかたみに・いれて・おんひぢに・かけられたり・一にんは・つまぎに・わらびをりそへて・いだきたまへり・おんはなかた
み・おんひぢに・かけさせたまひたるは・かたじけなくも・にようゐんにてぞ・わたらせ・たまひける・つまぎにわらびをりそへて・いだきたまへ
P582
るは・せんていのおんめのと・だいなごんのすけどの・これなり・にようゐんは・ほうわうの・ごかうなりたるよしを・きこしめされ
て・一ねんのまどのまへには・せつしゆのくわうみやうを・ごし・十ねんのしばのとぼそには・しやうじゆのらいがうをこそ・まちつるに・おも
ひのほかに・ほうわうのごかうなりたることこそ・こころうけれ・きりかすみならば・たちもへだたり・つゆしもならば・ときの
まに・きえも・うせばやとぞ・おほせける・よひよひごとの・あかのみづ・むすぶたもとも・しをれつつ・あかつきおきの・
そでのうへには・やまぢのつゆも・しげくして・はらひや・かねさせたまひけん・にようゐんは・ごあんじつへも・いらせ
たまはず・またうしろのやまへも・たちもかへらせたまはずして・おぼしめしわづらはせたまひて・たたせたまへるところに・ないし
のあま・まゐりてぞ・おんはなかたみをばたまはりける
六道 1213
ないしのあま・まをしけるは・おんよを・いとはせたまひて・まことのみちに・いらせたまひぬるうへは・なにのおんはばかりか・
さふらふべき・はやはや・ごたいめんあつて・いそぎくわんぎよなし・まゐらつさせ・たまへかしと・まをしければ・
にようゐんごあんじつに・いらせたまひて・あさのおんころもを・ひきかつがせ・たまひて・なくなくおんまへへは・まゐらせたまひたり
けれども・ほうわうも・おほせいださるるむねも・なし・にようゐんもまた・まをしいださせたまふ・こともなかりけるに・やや・あつて・
ほうわう・おほせけるは・さても・かかるおんありさまに・みなしたてまつるべしとは・つゆおもひこそ・よりさふらは・ざりしか・
たうじたれか・こととひ・まゐらせさふらふと・おほせければ・にようゐんいまは・こととひ・さふらふ・かたとては・れいぜいのだい
P583
なごんたかふさきやうの・きたのかた・七でうのしゆりのだいぶのぶたかの・にようばうよりぞ・つねは・こととひ・さふらふなる・ひごろは
このひとびとに・とひ・とぶらはるべしとは・つゆおもひこそ・よりさふらはざりしかとて・おんなみだ・いよいよ・せき
あへさせたまはず・にようゐんまた・まをさせたまひけるは・このひとびとに・おくれ・さふらひしことは・なかなかなげきのなかのよろこ
びなり・そのゆゑは・五しやう三じうのくを・はなれ・しやかのゆゐていに・つらなり・びくのしやうみやうを・けがし・三じに六
こんを・さんげして・一もんのぼだいを・とぶらひ・さふらふなり・にようゐんかさねて・まをさせたまひけるは・みなひとは・
しやうを・かへてこそ・六だうを・みさふらふに・このみは・いきながら・六だうをこそ・みて・さふらへと・まを
させたまひたりければ・ほうわう・それこそ・おほきに・ふしんに・ぞんじさふらへ・いこくの・げんしやう三ざうは・さとりのまへ
に・六だうを・み・わがてうのにちざうしやうにんは・ざわうごんげんの・おんちかひに・よつてこそ・六だうを・みたりとは・
つたへうけたまはつてさふらへ・さやうに・しやうをかへずして・六だうを・ごらんぜむこと・いかがさふらふべかるらん・にようゐん・ご
ふしんは・さることにては・さふらへども・六だうのおもむき・あらあら・なぞらへまをすべし・このみは・へいだいしやうごくのむすめ・
てんしを・こにもちたてまつりたりしかば・おほうちやまの・はるのはな・いろいろのころもがへ・ぶつみやうのとしのくれ・だいじんくわんぱくいげの・
くぎやうでんじやうびとに・もてなされ・さふらひしありさま・四ぜん六よくの・くものうへに・して・八まんのしよてんに・ゐねうかつ
がうせらるらむも・これには・すぎじとこそ・おぼえさふらひしか・さてもじゆえいのあきのはじめ・みやこをば・きそよしなか
と・かやに・おひいだされ・にしのうみ・なみぢはるかに・ただよひ・さふらひしありさま・てんにんの五すゐと・こそ・
おぼえさふらひしか・たのみつる・九こくのうちをば・をがたの三らうこれよしと・かやに・おひいだされ・さんや・ひろしと・
P584
いへども・やすまむと・するに・ところなし・みつぎものも・たえて・なければ・たみのちからも・およばず・ぐごは・
たまたま・そなはれども・みずをも・きこしめされず・うみにうかべりと・いへども・それしほなれば・のむに・
およばず・ばんすゐ・うみにあり・のまんと・すれば・みやうくわと・なる・く・がきだうのしゆじやうの・くるしみも・これ
には・すぎじとぞ・みえし・とほきまつに・しろさぎの・むれゐるを・みては・げんじの・はたを・あぐるかと・きも
を・けし・さうかいに・やがんのなくをききては・かたきふねをこぐかと・おどろかる・さてもびつちうのみづしま・はりまのむろやま・二た
びのいくさに・かちぬとて・ひとびとすこし・いろをなほして・さふらひしに・またつのくに・いちのたにとかやにして・一
もん十よにん・むねとのさぶらひ三百よにん・ほろび・さふらひしかば・ひとびとの・なほしそくたいも・みえわかず・みには・も
ろもろのけだもののかはを・まき・あしてには・くろがねを・のべてまとひつつ・あさゆふは・いくさよばひの・たえざりしありさま・
たいしやくらごわうの・しゆみのみねにして・たがひのゐせいを・あらそふらんも・これには・すぎじとぞ・おもひさふらひし
か・ひるは・いそべのなみに・ただよひ・よるは・すさきのちどりとともに・なきあかし・なきくらし・さふらひしほどに・
ながとのくに・だんのうらと・かやに・して・せんていを・はじめたてまつつて・一もんみな・いまはかうとて・うみに・しづみ・さふらひ
しかば・たまたまのこるものどもは・ふなぞこに・いふせられ・きりふせられて・をめきさけび・さふらひしありさま・けうくわんだい
けうくわん・むげんあびの・ほのほの・そこの・ざいにんも・これにはすぎじとぞ・おぼえさふらひしか・さても・たけき・もののふ
のてに・わたり・ふたたびみやこへ・かへり・のぼりさふらひしに・はりまのくに・あかしのうらと・かやにつきて・さふ
らひしよの・ゆめに・べうべうたるはまを・なぎさに・そうて・にしへゆけば・るりを・かざつたる・たかき・ろうの・さ
P585
ふらふを・まゐつて・みさふらへば・せんていを・はじめたてまつつて・一もんみな・なみゐて・どうおんに・だいばぼんを・よみ
さふらふを・ここをば・いづくと・いふぞと・とうて・さふらへば・二ゐのあまの・こゑとおぼしくて・りうぐう
じやうと・まをす・かほど・めでたき・ところにも・くは・あるかととうて・さふらへば・これも・いまだ・ちくしやうのく
を・はなれぬところにて・さふらへば・などか・くるしみのなうては・さふらふべき・あひかまへて・ごせ・とぶらうて・
たばせたまへと・まをすと・おぼえて・ゆめさめてのちは・つねは・だいばぼんを・ようで・一もんのぼだいを・とぶらひ・さ
ふらふなり・これすこしも・六だうのおもむきに・たがひ・さふらはずや・さては・わがみ・いのち・をしからねば・あさゆふ・これ
を・いのることなし・ただ・いつのよまでも・わすれがたきは・せんていのおんおもかげ・またこころの・をはりのみだれぬ・さき
にと・ねがはしきは・わうじやうののぞみばかりなりと・なくなくまをさせたまひたりければ・ほふわうを・はじめたてまつつて・ぐぶの・く
ぎやう・でんじやうびと・みなそでをぞ・ぬらされける・さるほどに・せきやう・にしにかたぶけば・じやくくわうゐんの・かねのこゑ・けふも
くれぬと・うちしられ・ひもいりあひに・なりしかば・ほうわうみやこへ・くわんぎよなる・にようゐんは・ほうわうのおんうしろを・はるばる
と・みおくり・まゐらつさせ・たまひて・ごあんじつに・かへらせ・おはしましけるをりふし・やまほととぎす・しきりに・お
とづれて・すぎければ・にようゐん
いざさらばなみだくらべんほととぎす・われもうきよに・ねをのみぞなく・
それよりしてぞ・ほうわうより・つねは・こととひ・まゐらつさせ・たまひけるとぞうけたまはる・にようゐんも・ごねんぶつ・
いよいよ・おこたらせたまはずして・おんとし卅九とまをすには・つひには・りうによか・しやうがくのあとを・おひ・ゐたいけ
P586
ぶにんの・むかしをしたひ・わうじやうのそくわいを・とげさせたまひけるとぞ・うけたまはる・あはれなりしおんことなり
法性寺合戦 1214
さるほどにはんぐわんは・あうしうに・くだり・ひでひらにふだうに・たづねあはせたまひて・わがみ・かまくらの・げん二ゐどのに・こころよ
からざるに・よつて・なんぢを・たのみて・これまで・きたれるなりとのたまへば・ひでひらにふだう・かひがひしくも・たのまれ
て・ころもがは・やなぎがたちに・ごしよ・しつらうて・おきたてまつる・あるときひでひら・はんぐわんに・まをしけるは・せんずるところ・かまくら
どのに・おんなか・まをしなほしたてまつらん・たとへまた・かまくらどの・にふだうがまをすむねを・ごしよういんなくて・おくをせめさせ・たまひさふらふ
とも・あうしう・うしう・りやうごくのつはもの・廿八まんぎにて・ふせがんずるに・などか・ささへざるべきと・よにもたのも
しげにこそ・まをしけれ・かかりけるところに・はんぐわんの・うんやつきにけん・ぶんぢ四ねん・十二ぐわつ十二にちに・ひでひらにふだう・
とし六十六にして・うせにけり・ちやくし・にしきどのたらうやすひら・おくのこじらうよりひら・いつしか・ちちがめいをそむきて・
あくる・ぶんぢ五ねん五ぐわつ九かのひ・五百よきにて・やなぎがたちに・おしよせ・はんぐわんをば・つひに・うちたてまつつてんげり・
やすひらよりひら・このよしを・かまくらへ・まをしたりければ・かまくらどの・いかがは・おぼしめされけん・さらば・おくをも・せめら
るべしとて・はうじやうゑをば・七ぐわつついたちに・ひきあげ・おなじき七ぐわつ十八にちに・十八まんぎにて・かまくらを・たちて・
あうしうにはつかうし・七ぐわつより・かつせんはじめ・八ぐわつ・九ぐわつ・三ケつきがあひだに・あうしう・うしう・りやうこくを・せめしたが
へ・やすひらよりひらを・さきとして・たたかふものをば・うちとり・おちゆくものをば・たすけられけり・それより・こほりこほりに・だいくわんを・
P587
すゑおき・わがみは・いそぎ・かまくらへこそ・かへられけれ・さるほどに・かまくらには・この二三ケねんがあひだは・きやうとの・
さわぎくにぐにのみだれに・よつて・おほやけのごねんぐも・たてまつらねば・そのおそれありとて・おほやけのごねんぐたてまつる・ならびにかまくら
どのは・しやうらくとぞきこえし・おなじき十一ぐわつ七かのひ・みやこにのぼり・六はらに・おちつきたまひて・おなじき九かのひ・ゐんざんまをし・
しやう二ゐの・だいなごんに・あがりたまふ・ひやうゑのぜう十人・ゆきへのぜう十にん・ともに三十にんを・めしつかはるべき
よしを・おほせくだされければ・これよりともがためには・あまりにくわぶんのいたりなるべしとて・十五にんをば・じし・まをされて・
のこり十五にんをぞ・めしつかはれける・おなじき廿二にちに・をはらのの・ぎやうかうの・おんともつかまつり・うだいしやうに・あ
がりたまふ・さるほどに・かまくらどのは・たいしやう・だいなごん・りようくわんを・じしまをされて・おなじき十二ぐわつ三かのひ・かまくらへ
こそ・くだられけれ・さるほどに・六だいどのは・たかをに・おはしけるが・十四五にも・なりたまひしかば・いよい
よ・みめかたち・ならびなく・こころさまよにすぐれて・おはしければ・きたのかたよのよならましかば・いまは
はや・このゑづかさにてこそあらんずれ・なんど・のたまひけるぞ・いとほしき・きたのかた・いまは・よのおそろ
しきに・とうとうしゆつけしたまへかしなんど・のたまひけれども・もんがく・しきりに・をしみたてまつつて・十七のとしの・はるの
ころ・しゆつけしたまふべきにて・かみを・かたの・まはりに・きりまはし・さいとう五・さいとう六も・おなじすがたに・いでた
つて・かうやにのぼり・たきぐちにふだうに・たづねあはせたまひて・しかじかと・いつしひとの・こなりしが・かくなりた
るよしを・かたりたまへば・たきぐちにふだう・このわかぎみのおんすがたを・つくづくとみたてまつるに・こ三みどのに・すこしも・たが
はせ・たまはねば・いよいよ・いとほしく・おもひたてまつつて・二三にち・とどめたてまつり・だうだう・じゅんれい・したまひつ
P588
つ・そののち・たきぐちにふだうを・せんだちにて・くまのへまゐらせたまひ・三のおやまの・ごさんけいことゆゑなう・とげさせたまひ
て・のち・はまのみやの・おまへより・まんまんたる・おきをみたまひて・ちちの・しづみたまひしあとと・きくからに・よせ
くる・おきのしらなみも・なつかしげにぞ・みたまひける・それよりみやこへ・ごげかうあつて・たかをにのぼり・しゆつけし
たまひて・三ゐのぜんじと・まをして・おこなひすましてぞ・おはしける・さるほどに・こまつどのの五なん・たんごのじ
じうただふさは・この五六ケねんがあひだは・びつちうのみやうちと・いふところに・しのうで・おはしけるが・きのくにに・うちこえ・
ゆあさの七らうびやうゑむねみつを・たのみつつ・ゆあさにこそ・おはしけれ・おなじきくにのぢうにん・くまののべつたうたんそう・このよ
しを・きいて・たいぜいにて・おしよせたり・ゆあさもとより・くきやうのじやうくわくなりければ・さうなうおつべきやうも・
なかりけるに・みなとをさしふさぎ・ひやうらうぜめに・せめければ・ゆあさ・かなひがたうぞ・みえし・たんごのじじうどの・
ゆあさにむかつて・のたまひけるは・たとへ・わがみこそ・あらめ・おのおのをさへ・まどひものと・なさんことこそ・くちをしけ
れ・ただわらはを・かまくらへ・ぐして・くだりたまへと・のたまへども・ゆあさいかでかさることの・あるべきとて・ふせぎけるが・
かなはぬせにも・なりしかば・たんごのじじうどのを・ぐそくしたてまつつて・かまくらに・くだりまつたう・さなきよしを・ちんじ
まをしたりけるに・よつてこそ・ゆあさをば・あんどしてんげれ・そののちかまくらどの・たんごのじじうどのに・いであひ・たい
めんしたまひて・こさまのかうのとのの・ごぼだいのおんために・おんいのちばかりをばたすけたてまつるべし・はやはやみやこへ・かへ
りのぼりたまへと・のたまへば・たんごのじじうどの・なのめならずよろこびたまひて・みやこへかへり・のぼらせたまひけるに・かまくらどの・い
かがは・おぼしめされけん・おつさまに・ひとを・のぼせて・たんごのじじうどのをば・あふみのくに・しのはらにて・つひ
P589
に・きりたてまつつてけり・さるほどに・けんきう三ねん・三ぐわつ三かのひ・とうだいじ・くやうあるべしとぞ・きこえし・かかりけれ
ば・かまくらどのも・ごけいごのために・しやうらくあり・きたのかたも・ごけちえんのために・しやうらくとぞ・きこえし・とうだいじくやう・
ことゆゑなう・とげさせたまひてのち・みやこへ・のぼらせたまひけるに・ならざかにて・あやしきをとこ・二にんあり・かまくらどの・
はたけやまをめして・あのうちに・あやしきをとこ二にんあり・いちいちに・めしとつて・ことのしさいをたづねさふらへと・のたまへばはたけやま・
かしこまつて・うけたまはり・あみがさきたる・をとこ二にんを・めしとつて・ことのしさいを・とひけるに・さんさふらふ・一にんは・か
づさの五らうびやうゑただみつ・一にんはさつまのひやうゑのぜうさだやすさふらふ・ごしやうらくのみちすがらも・ねらひたてまつり・たるよしを・まをしけ
れば・さては・とて・きづがはにてぞ・きられける・さるほどに・こまつどののすゑのこに・とさのかみむねざねは・三さいの
としより・おほゐのみかどの・さふにやうせられ・いまはたにんの・ごとくにて・おはしけるを・かまくらどの・なんとし
てか・ききいださせたまひたりけん・たづねたまふよし・きこえしかば・とさのかみ・かなはじとや・おもはれけん・とし十八
にて・しゆつけし・ならに・くだりしゆんじようしやうにんを・たのみつつ・ゆざうにぞ・おはしける・しゆんじようしやうにんは・かひがひ
しくも・たのまれたてまつつて・ゆざうにおきたてまつりたりしが・わたくしにては・いかにも・かなふまじとて・このよしを・
かまくらへ・まをされたりければ・かまくらどの・さらばぐして・くだりたまへ・これにて・よきやうに・はからはんと・
のたまふあひだ・しゆんじようしやうにん・とさのにふだうを・ぐそくして・かまくらへこそ・くだられけれ・とさのにふだう・とても・たす
かるまじとて・なんとを・いでしひよりして・ゆみづをだにも・のみいれたまはず・十四かと・まをすには・あしがらのやま
を・こゆるとて・ひじにに・こそは・したまひけれ・しゆんじようしやうにん・このよしを・かまくらへ・まをされたりければ・
P590
かまくらどの・あなおそろし・そのごころにては・いかなることをか・おもひたまはんずらむ・おそろしおそろしとぞ・のたまひけ
る・さるほどに・へいけのしそんは・はや・みなたえぬるかと・おもひたれば・しんちうなごんとももりの・すゑのこに・いがの
たいふともただは・へいけみやこをおちられけるとき・三さいに・なられけるを・おんめのとごの・きの二らうたいふためかた・とりたてまつ
つて・いがに・くだり・せんどのやまでらに・しのうで・おはしけるが・十四のとし・しのびつつ・みやこにのぼり・ひ
そかにげんぷくし・いがのたいふともただとぞ・なのられける・そののちは・ほうじやうじ・一のはし・たけのうちなるところに・と
ころを・しめてぞ・おはしける・かかりければ・へいけの・うちもらされの・一もんさぶらひども・このよしをきいて・ほうじやう
じ・一のはしへぞ・まゐりける・ゑつちうのじらうびやうゑもりつぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよ・きの二らうたいふがこ・ひやうゑのた
らう・ひやうゑのじらうを・さきとして・むねとのつはもの・廿九にんぞ・こもりける・ひるは・ほりのはしを・ひき・よるは・はしをぞ・
わたさせける・かかりければ・きやうちうのらうぜき・もつてのほかにぞ・さふらひける・そのころ・一でうの・二ゐどのにふだふよしやす
のきやうの・きたのかたは・かまくらどのの・おんいもうとにておはしければ・かまくらへ・ひとを・くだして・このあひだの・きやうちうのらうぜき・も
つてのほかに・さふらへば・とのゐのもの・たまはるべきよしを・のたまひつかはされ・たりければ・しんひやうゑのぜうもときよに・
たいぜいをつけそへて・のぼらせらる・もときよ・みやこにのぼり・六はらに・おちつきて・さふらひけるが・このよしをきいて・たいぜいにて・
おしよせたり・かの一のはしと・まをすは・くきやうの・じやうくわくなりければ・たやすく・おつべきやうぞ・なき・よせての・いるや
は・たけにはあたれども・ひとにはあたらず・じやうのうちより・あめのふるやうに・いけるやに・よせておほく・まと
になつて・いころさる・もときよ・かなはじとや・おもひけん・ほうじやうじの・まへなる・ざいけを・こぼつて・ほり
P591
に・むめ・はしとして・きつている・じやうのうちにも・たかやぐらより・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるが・
そののち・やだねつきければ・うちもののさやを・はづし・きどを・ひらいて・きつて・いで・さんざんに・たたかひけるに・廿
五にんは・うたれにけり・なかにも・ゑつちうのじらうびやうゑもりつぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよは・くつきやうの・にげじやうずなりけ
れば・かはらざかに・うつていで・さんざんにたたかひ・ぶんどり・あまたして・一ぱううちやぶつて・みなみを・さしてぞ・おちゆきけ
る・いがのたいふともただは・こそでに・おほくちばかりにて・つまどのあひだに・おはしけるが・ひとでに・かからじとや・おも
はれけん・しやうじのうちに・ひきこもり・じがいしてこそ・うせられけれ・おんめのとごの・きのじらうたいふためかたも・たち
に・ひかけ・ともただのおんしがいに・ちかづきたてまつり・ひごろは・一しよにと・ちぎりたてまつりし・ことなればとて・はら十もん
じに・かきやぶり・おなじまくらに・ふしにけり・そののち・もときよ・けぶりを・しづめ・ともただの・やけくびとつて・一
でうに・もちて・ゆき・二ゐにふだうどのに・みせたてまつる・しんべうなりとは・のたまへども・ともただのおんくび・みしりたてまつりたるもの
ぞ・なかりける・ここに・しんちうなごんとももりのきたのかた・ぢぶきやうのつぼねは・さいこくより・たけき・もののふの・てに
わたり・ふたたび・みやこへ・かへり・のぼらせたまひては・にんわじの・ほとりに・かくれしのびてぞ・おはしける・
これぞさだめて・みしりたまひたるらんとて・たづねいだしたてまつる・このにようばう・あるくびを・一めみて・これも・三さいのとしよ
り・わかれたりしかば・いまはいかでか・みしるべき・さるにても・これや・そなるらんとて・なみだに・むせ
ばれけるにぞ・ともただのくびとは・しりてんげる・なかにも・ゑつちうの二らうびやうゑもりつぎは・たじまに・くだり・けひ
のごんのかみが・むこに・なつてぞ・ゐたりける・たじまのしゆご・あだちの三らうざゑもんとほもと・このよしをきいて・たい
P592
ぜいにて・おしよせたり・じらうびやうゑも・一ぱううけとつて・たたかひけるが・いかがはしたりけん・たいぜいのなかに・とり
こめられて・いけどりにこそ・せられけれ・やがて・けひのごんのかみをも・じらうびやうゑに・そへて・かまくらへこそ・
くだしけれ・けひのごんのかみは・まつたう・さなきよしを・ちんじまをしければ・ゆるされけり・そののち・ゑつちうのじ
らうびやうゑを・おつぼのうちに・めしいだし・かまくらどの・など・なんぢほどのものの・いたづらに・いけどられぬるぞと・のたまへば・
さんさふらふ・いかにもして・みを・まつたうし・きみを・うちたてまつらんと・ねらひまをしさふらひしに・いまは・うんつきて・
いたづらに・いけどられ・さふらひぬるうへは・ちからおよびさふらはず・ただごおんには・いそぎかうべを・はねさせたまへと・まをしたり
ければ・さらばとて・ゆゐのはまにてぞ・きられける・さるほどに・あはのみんぶふしをば・わだに・あづけ・お
かれたりけるが・かほどに・へいけのさぶらひども・ざいざいしよしよにて・むほんおこすと・きこえしかば・ゆくすゑ・しかるべか
らずとて・あはのみんぶふしをば・三うらのはまにてぞきられける・これは・けんきう八ねん・十ぐわつのことなりさるほどに・
かまくらどのも・一ごかぎり・おはしければにや・しやうぢぐわんねん・むつき十三にちに・おんとし・五十三にて・うせたまふ・
かかりければ・しゆじやう・みくらゐを・さらせたまひて・みこ・つちみかどのゐんに・さづけ・まゐらつさせ・たまひけり・じやう
わうみくらゐに・わたらせたまひしほどは・さしも・けんわう・せいしゆの・おんきこえ・わたらせたまひしが・みくらゐを・さらせ・
たまひてのちは・いつしかよこしまに・ならせ・おはします・あそびを・このませたまひては・いやしきふぢよに・
なずらへ・ぶけいを・このませたまひては・しよこくのつはものどもを・めしあつめ・ほくめんと・なづけてめし・つかはる・ごわう・
けんかくを・このんじかば・てんかに・きずをかふむるもの・おほく・そわう・さいえうを・あいせしかば・きんちうに・うゑてし
P593
ぬるをんな・おほし・かみにこのめば・しもも・すなはち・したがふならひ・これひとへに・よの・そんずべき・ぜんぺうかとぞ・
ひと・まをしける・そのころの・ぢよゐぢもくは・ゐん・うち・せつしやう・くわんぱくの・ごせいばいにも・あらず・一かうきゃうの二ゐの・
つぼねの・まま・なりければ・とひのうれへぞ・おほかりける・さるほどに・もんがくは・たかくらの・ゐんの・二みやを・みくらゐ
に・つけたてまつらむとて・しよこくの・ぶしをぞ・かたらひける・じやうわう・このよしを・つたへ・きこしめされて・くわんにん
すけかねに・おほせて・もんがくをば・二でういはがみにて・からめとり・おきのくにへぞ・ながされける・もんがく・はいるのことを・やすか
らず・おもひければ・なんでふこの・ぎちやうくわんじやに・おいては・われ・ゐたらむずるところへ・むかへんずるものをむかへんずるものを
と・をどりあがりをどりあがりぞ・まをしける・この・ごとばゐんと・まをしたてまつるは・をさなうより・ぎちやうのたまに・すかせたま
ひければ・みな・ひと・ぎちやうくわんじやとぞ・まをしける・されば・そのゆゑにや・じようきうに・ことおこり・くわんとうよりの・そしやう
のために・おきへ・ながされさせ・たまひけり・さるほどに・もんがくは・とし八十八に・して・おきのくににて・ひじにに・
こそしたりけれ・さるほどに・六だいどのは・三みのぜんじと・まをして・おこなひ・すまして・たかをに・おはしけ
るを・さるひとのこなり・さるもののでしなり・ゆくすゑ・しかるべからずとて・たかをにて・からめとり・かまくらに・くだし・
をかべの三らうざゑもん・うけとつて・むつらざかにて・きりたてまつる・十二より廿九まで・たすかりたまふことは・ひとへ
に・はせのくわんおんの・ごりしやうとぞ・きこえし・三みのぜんじ・きられて・へいけのしそんは・たえにけり


入力者:荒山慶一



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