すみたはら   建順



  炭俵序

此集を撰める孤屋野坡利牛らは、常に芭蕉の軒に行かよひ、瓦の窓をひらき心の泉をくみしりて、十あまりなゝの文字の野風をはげみあへる輩也。霜凍り冬とのゝあれませる夜、この二三子庵に侍て火桶にけし炭をおこす。菴主これに口をほどけ、宋人の手亀らずといへる薬是ならんと、しのゝ折箸に●(ヒヘン+「唐」)のさゝやかなるを竪にをき横になをしつゝ、金屏の松の古さよ冬籠と、舌よりまろびいづる声のみたりが耳に入、さとくもうつるうのめ鷹のめどもの、是に魂のすはりたるけにや、これを思ひ立、はるの日のゝつと出しより、秋の月にかしらかたぶけつゝ、やゝ吟終り篇なりて、竟にあめつちの二まきにわかつとなん。是をひらきみるに、有声の絵をあやどり、おさむれば又くぬぎ炭の筋みへたり。けだしくも題号をかく付侍事は、詩の正義にいへる五つのしな、あるはやまとの巻/\のたぐひにはあらねど、例の口に任せたるにもあらず、竊により所ありつる事ならし。ひと日芭蕉旅行の首途に、やつがれが手を携へて再会の期を契り、かつ此等の集の事に及て、かの冬籠の夜、きり火桶のもとにより、くぬぎ炭のふる歌をうちずしつるうつりに、炭だはらといへるは誹也けりと、独ごちたるを、小子聞をりてよしとおもひうるとや、此しうをえらぶ媒と成にたり。この心もて宜しう序書てよと云捨てわかれぬ。今此事をかうがへ、其初をおもふに、題号をのづからひゞけり。さらに弁をつくる境にはあらじかしとくちをつぐむ。

 元禄七の年夏閏さつき初三の日     素龍書




誹諧炭俵集 上巻

むめがゝにのつと日の出る山路かな  芭蕉
 処/\に雉子の啼たつ  野坡
家普請を春のてすきにとり付て  同
 上のたよりにあがる米の直  芭蕉
宵の内はら/\とせし月の雲  同
 薮越はなすあきのさびしき  野坡
御頭へ菊もらはるゝめいわくさ  野坡
 娘を堅う人にあはせぬ  芭蕉
奈良がよひおなじつらなる細基手  野坡
 ことしは雨のふらぬ六月  芭蕉
預けたるみそとりにやる向河岸  野坡
 ひたといひ出すお袋の事  芭蕉
終宵尼の持病を押へける  野坡
 こんにやくばかりのこる名月  芭蕉
はつ雁に乗懸下地敷て見る  野坡
 露を相手に居合ひとぬき  芭蕉
町衆のつらりと酔て花の陰  野坡
 門で押るゝ壬生の念仏  芭蕉
東風々に糞のいきれを吹まはし  同
 たゞ居るまゝに肱わづらふ  野坡
江戸の左右むかひの亭主登られて  芭蕉
 こちにもいれどから臼をかす  野坡
方/\に十夜の内のかねの音  芭蕉
 桐の木高く月さゆる也  野坡
門しめてだまつてねたる面白さ  芭蕉
 ひらふた金で表がへする  野坡
はつ午に女房のおやこ振舞て  芭蕉
 又このはるも済ぬ牢人  野坡
法印の湯治を送る花ざかり  芭蕉
 なは手を下りて青麦の出来  野坡
どの家も東の方に窓をあけ  野坡
 魚に喰あくはまの雑水  芭蕉
千どり啼一夜/\に寒うなり  野坡
 未進の高のはてぬ算用  芭蕉
隣へも知らせず嫁をつれて来て  野坡
 屏風の陰にみゆるくはし盆  芭蕉



  三吟
兼好も莚織けり花ざかり  嵐雪
 あざみや苣に雀鮨もる  利牛
片道は春の小坂のかたまりて  野坡
 外をざまくに囲ふ相撲場  嵐雪
細々と朔日ごろの宵の月  利牛
 早稲も晩稲も相生に出る  野坡
泥染を長き流にのばすらん  野坡
 あちこちすれば昼のかねうつ  利牛
隣から節々嫁を呼に來る  野坡
 てう/\しくも誉るかいわり  嵐雪
黒谷のくちは岡崎聖護院  利牛
 五百のかけを二度に取けり  野坡
綱ぬきのいぼの跡ある雪のうへ  嵐雪
 人のさわらぬ松黒む也  利牛
雑役の鞍を下せば日がくれて  野坡
 飯の中なる芋をほる月  嵐雪
漸と雨降やみてあきの風  利牛
 鶏頭みては又鼾かく  野坡
奉公のくるしき顔に墨ぬりて  嵐雪
 抱揚る子の小便をする  利牛
ぐはた/\と河内の荷物送り懸  野坡
 心みらるゝ箸のせんだく  嵐雪
婿が来て娘の世とは成にけり  利牛
 ことしのくれは何も●(クチヘン+「羅」)はぬ  野坡
金仏の細き御足をさするらん  嵐雪
 此かいわいの小鳥皆よる  利牛
黍の穂は残らず風に吹倒れ  野坡
 馬場の喧嘩の跡にすむ月  嵐雪
弟はとう/\江戸で人になる  利牛
 今に庄やのくちはほどけず  野坡
売手からうつてみせたるゝき鉦  嵐雪
 ひらり/\とゆきのふり出し  利牛
鎌倉の便きかせに走らする  野坡
 かした処のしれぬ細引  嵐雪
独ある母をすゝめて花の陰  利牛
 まだかびのこる正月の餅  野坡



  ふか川にまかりて
空豆の花さきにけり麦の縁  孤屋
 昼の水鶏のはしる溝川  芭蕉
上張を通さぬほどの雨降て  岱水
 そつとのぞけば酒の最中  利牛
寝処に誰もねて居ぬ宵の月  芭蕉
 どたりと塀のころぶあきかぜ  孤屋
きり/゛\す薪の下より鳴出して  利牛
 晩の仕事の工夫するなり  岱水
妹をよい処からもらはるゝ  孤屋
 僧都のもとへまづ文をやる  芭蕉
風細う夜明がらすの啼わたり  岱水
 家のながれたあとを見に行  利牛
鯲汁わかい者よりよくなりて  芭蕉
 茶の買置をさげて売出す  孤屋
この春はどうやら花の静なる  利牛
 かれし柳を今におしみて  岱水
雪の跡吹はがしたる朧月  孤屋
 ふとん丸げてものおもひ居る  芭蕉
不届な隣と中のわるうなり  岱水
 はつち坊主を上へあがらす  利牛
泣事のひそかに出来し浅ぢふに  芭蕉
 置わすれたるかねを尋ぬる  孤屋
着のまゝにすくんでねれば汗をかき  利牛
 客を送りて提る燭台  岱水
今のまに雪の厚さを指てみる  孤屋
 年貢すんだとほめられにけり  芭蕉
息災に祖父のしらがのめでたさよ  岱水
 堪忍ならぬ七夕の照り  利牛
名月のまに合せ度芋畑  芭蕉
 すた/\いふて荷ふ落鮎  孤屋
このごろは宿の通りもうすらぎし  利牛
 山の根際の鉦かすか也  岱水
よこ雲にそよ/\風の吹き出す  孤屋
 晒の上にひばり囀る  利牛
花見にと女子ばかりがつれ立て  芭蕉
 余のくさなしに菫たんぽゝ  岱水

  芭蕉
  孤屋
  岱水
  利牛
    各九句



  百韻
子は裸父はてゝれで早苗舟  利牛
 岸のいばらの真ツ白に咲  野坡
雨あがり珠数懸鳩の鳴出して  孤屋
 与力町よりむかふ西かぜ  利牛
竿竹に茶色の紬たぐりよせ  野坡
 馬が離れてわめく人声  孤屋
暮の月干葉の茹汁わるくさし  利牛
 掃ば跡から檀ちる也  野坡
ぢゝめきの中でより出するりほあか  孤屋
 坊主になれどやはり仁平次  利牛
松坂や矢川へはいるうら通り  野坡
 吹るゝ胼もつらき闇の夜  孤屋
十二三弁の衣裳の打そろひ  利牛
 本堂はしる音はとろ/\  野坡
日のあたる方はあからむ竹の色  孤屋
 只奇麗さに口すゝぐ水  利牛
近江路のうらの詞を聞初て  野坡
 天気の相よ三か月の照  孤屋
生ながら直に打込むひしこ漬  利牛
 椋の実落る屋ねくさる也  野坡
帯売の戻り連立花ぐもり  孤屋
 御影供ごろの人のそはつく  利牛
ほか/\と二日灸のいぼひ出  野坡
 ほろ/\あへの膳にこぼるゝ  孤屋
ない袖を振てみするも物おもひ  利牛
 舞羽の糸も手につかず繰  野坡
段々に西国武士の荷のつどひ  孤屋
 尚きのふより今日は大旱  利牛
切●(ムシヘン+「羌」)の喰倒したる植たばこ  野坡
 くばり納豆を仕込広庭  孤屋
瘧日をまぎらかせども待ごゝろ   利牛
 藤ですげたる下駄の重たき  野坡
つれあひの名をいやしげに呼まはり  孤屋
 となりの裏の遠き井の本  利牛
くれの月横に負来る古柱  野坡
 ずいきの長のあまるこつてい  孤屋
ひつそりと盆は過たる浄土寺  利牛
 戸でからくみし水風呂の屋ね  野坡
伐透す椴と檜のすれあひて  孤屋
 赤い小宮はあたらしき内  利牛
浜迄は宿の男の荷をかゝえ  野坡
 師走比丘尼の諷の寒さよ  孤屋
餅搗の臼を年々買かえて  利牛
 天満の状を又忘れけり  野坡
広袖をうへにひつぱる船の者  孤屋
 むく起にして参る観音  利牛
燃しさる薪を尻手に指くべて  野坡
 十四五両のふりまはしする  孤屋
月花にかきあげ城の跡ばかり  利牛
 弦打颪海雲とる桶  孤屋
機嫌能かいこは庭に起かゝり  野坡
 小昼のころの空静也  利牛
椽端に腫たる足をなげ出して  孤屋
 鍋の鑄かけを念入てみる  野坡
麦畑の替地に渡る傍爾杭  利牛
 売手もしらず頼政の筆  孤屋
物毎も子持になればだゞくさに  野坡
 又御局の古着いたゞく  利牛
妓王寺のうへに上れば二尊院  孤屋
 けふはけんがく寂しかりけり  野坡
薄雪のこまかに初手を降出し  利牛
 一つくなりに鱈の雲腸  孤屋
銭さしに菰引ちぎる朝の月  野坡
 なめすゝきとる裏の塀あはひ  利牛
めを縫て無理に鳴する鵙の声  孤屋
 又だのみして美濃だよりきく  野坡
かゝさずに中の巳の日をまつる也  利牛
 入来る人に味曾豆を出す  孤屋
すぢかひに木綿袷の龍田川  野坡
 御茶屋のみゆる宿の取つき  利牛
ほや/\とどんどほこらす雲ちぎれ  孤屋
 水菜に鯨まじる惣汁  野坡
花の内引越て居る樫原  利牛
 尻軽にする返事聞よく  孤屋
おちかゝるうそ/\時の雨の音  野坡
 入舟つゞく月の六月  利牛
拭立てお上の敷居ひからする  孤屋
 尚言つのる詞からかひ  野坡
大水のあげくに畑の砂のけて  利牛
 何年菩提しれぬ栃の木  孤屋
敷金に弓同心のあとを継  野坡
 丸九十日湿をわづらふ  利牛
投打もはら立まゝにめつた也  孤屋
 足なし棊槃よう借に来る  野坡
里離れ巡礼引のぶらつきて  利牛
 やはらかものを嫁の襟もと  孤屋
気にかゝる朔日しまの精進箸  野坡
 うんぢ果たる八専の空  利牛
丁寧に仙台俵の口かゞり  孤屋
 訴訟が済で土手になる筋  野坡
夕日に医者の名字を聞はつり  利牛
 包て戻る鮭のやきもの  孤屋
定免を今年の風に欲ぼりて  野坡
 もはや仕事もならぬおとろへ  利牛
暑病の殊土用をうるさがり  孤屋
 幾月ぶりでこゆる逢坂  野坡
減もせぬ鍛冶屋のみせの店ざらし  利牛
 門建直す町の相談  孤屋
彼岸過一重の花の咲立て  野坡
 三人ながらおもしろき春  執筆



 春之部発句

  立春
蓬莱に聞ばや伊勢の初便  芭蕉
東雲やまいら戸はづすかざり松  濁子
みちのくのけふ関越ん箱の海老  杉風
春や祝ふ丹波の鹿も帰とて  京 去来
刀さす供もつれたし今朝の春  膳所 正秀
いそがしき春を雀のかきばかま  大坂 洒堂
喰つみや木曾のにほひの檜物  岱水
猶いきれ門徒坊主の水祝ひ  沾圃
目下にも中の詞や年の時宜  孤屋
初日影我茎立とつまればや  利牛
長松が親の名で来る御慶哉  野坡

  梅
梅一木つれ/゛\草の姿かな  露沾
むめ咲や臼の挽木のよきまがり  曲翠
むめが香の筋に立よるはつ日哉  支考
  窓のうちをみこみて
むめちるや糸の光の日の匂ひ  伊賀 土芳
梅さきて湯殿の崩れなをしけり  利牛
赤みその口を明けりむめの花  游刀
みな/\に咲そろはねど梅の花  野坡
紅梅は娘すまする妻戸哉  杉風
  おなごどもの七くさはやすをみて
とばしるも顔に匂へる薺哉  其角
七種や粧ひしかけて切刻み  野坡
うちむれてわかな摘野に脛かゆし  仙杖
  洛よりの文のはしに
朧月一足づゝもわかれかな  去来
大はらや蝶の出てまふ朧月  僧 丈艸
おぼろ月まだはなされぬ頭巾かな  仙花
  深川の会に
長閑さや寒の残りも三ケ一  利牛
十五日立や睦月の古手売  大坂 之道
猫の恋初手から鳴て哀也  野坡
ねこの子のくんづほぐれつ胡蝶哉  其角

  鶯
うぐひすにほうと息する朝哉  嵐雪
鶯に薬をしへん声の文  其角
うぐひすの声に起行雀かな  桃隣
うぐひすや門はたま/\豆麩売  野坡
鶯の一声も念を入にけり  利牛

  柳
こねりをもへらして植し柳かな  湖春
障子ごし月のなびかす柳かな  素龍
五人ぶちとりてしだるゝ柳かな  野坡
せきれいの尾は見付ざる柳哉  一風
町なかへしだるゝ宿の柳かな  利牛
傘に押わけみたる柳かな  芭蕉

  椿
土はこぶ●(タケカンムリ+「羅」)にちり込椿かな  孤屋
枝長く伐らぬ習を椿かな  湖春
念入て冬からつぼむ椿かな  曲翠
鋸にからきめみせて花つばき  嵐雪
鳥のねも絶ず家陰の赤椿  支考
はき掃除してから椿散にけり  野坡

  花
 うへのゝ花見にまかり侍しに、人々幕打さはぎ、ものゝ音小うたの声さま/゛\なりにける、かたはらの松かげをたのみて
四つごきのそろはぬ花見心哉  芭蕉
めづらしや内で花見のはつめじか  杉風
うか/\と来ては花見の留守居哉  丈艸
  何がしのかうの殿の花見に侍りて
中下もそれ相応の花見かな  素龍
花守や白きかしらを突あはせ  去来
朝めしの湯を片膝や庭の花  孤屋
あすと云花見の宵のくらき哉  荊口
だかれてもおのこゞいきる花見哉  斜嶺
柿の袈裟ゆすり直すや花の中  北枝
牡丹すく人もや花見とはさくら  湖春
あだなりと花に五戒の桜かな  其角
花はよも毛虫にならじ家桜  嵐雪
やまざくらちるや小川の水車  大津あま 智月
老僧も袈裟かづきたる花見哉  大坂 之道
誰が母ぞ花に珠数くる遅ざくら  祐甫
山桜小川飛こすおなご哉  越前福井 普全
昆布だしや花に気のつく庫裏坊主  利牛
おちつきは魚やまかせや桜がり  同
折かへる桜でふくや台所  孤屋
祭まであそぶ日なくて花見哉  野坡
食の時みなあつまるや山ざくら  仝

  上巳
帯ほどに川のながるゝ塩干哉  沾徳
昼舟に乗るやふしみの桃の花  桃隣
かざらきの神はいづれぞ夜の雛  其角
鬼の子に餅を居るもひなゐ哉  みの 如行
日半路をてられて来るや桃の花  野坡
麻の種毎年踏る桃の華  利牛
藪垣や馬の貌かくもゝの花  孤屋
青柳の泥にしだるゝ塩干かな  芭蕉

  題知らず
滝つぼに命打こむ小あゆ哉  嵯峨田夫 為有
春雨や蜂の巣つたふ屋ねの漏  芭蕉
散残るつゝじの蘂や二三本  子珊
ほそ/゛\とごみ焼門のつばめ哉  怒誰
鳥の行やけのゝ隈や風の末  伊賀 猿雖
気相よき青葉の麦の嵐かな  仙華
  旅行にて
法度場の垣より内はすみれ哉  野坡
 此集いまだ半なる比、孤屋旅立事ありけるに、品川までみ送りて
雲霞どこまで行もおなじ事  野坡
梅さくらふた月ばかり別れけり  利牛



 夏部之発句

  首夏
塩うをの裏ほす日也衣がへ  嵐雪
衣がへ十日はやくば花ざかり  野坡
綿をぬく旅ねはせはし衣更  九節
雀よりやすき姿や衣がへ  雪芝
花の跡けさはよほどの茂りかな  子珊
扇屋の暖簾白し衣がへ  利牛

  うの花
卯の花やくらき柳の及ごし  芭蕉
うのはなの絶間たゝかん闇の門  去来
  旅行に
うの花に蘆毛の馬の夜明哉  許六
卯の花に扣ありくやかづらかけ  支考

  題しらず
棹の歌はやうら涼しめじか舟  湖春
髭宗祇池に蓮ある心かな  素堂
うぐひすや竹の子藪に老を鳴  芭蕉

  郭公
聞までは二階にねたりほとゝぎす  桃隣
ほとゝぎす一二の橋の夜明かな  其角
行燈を月の夜にせんほとゝぎす  嵐雪
挑灯の空に詮なしほとゝぎす  杉風
木がくれて茶摘も聞やほとゝぎす  芭蕉
青雲や舟ながしやる子規  素龍
時鳥啼々風が雨になる  利牛
子規顔の出されぬ格子哉  野坡

  麦
柿寺に麦穂いやしや作どり  みの 荊口
麦の穂と共にそよぐや筑波山  千川
麦跡の田植や遲き蛍どき  許六
  翁の旅行を川さきまで送りて
刈こみし麦の匂ひや宿の内  利牛
  おなじ時に
麦畑や出ぬけても猶麦の中  野坡
  おなじこゝろを
浦風やむらがる蠅のはなれぎは  岱水

  端午
五月雨や傘に付たる小人形  其角
さうぶ懸てみばやさつきの風の音  大坂 洒堂
五日迄水すみかぬるあやめかな  桃隣
文もなく口上もなし粽五把  嵐雪
みをのやは首の骨こそ甲なれ  仙花
帷子のしたぬぎ懸る袷かな  素龍
  夏旅
並松をみかけて町のあつさかな  臥高
枯柴に昼貌あつし足のまめ  斜嶺
二三番鶏は鳴どもあつさ哉  長崎 魯町
はげ山の力及ばぬあつさかな  猿雖
するが地や花橘も茶の匂ひ  芭蕉
   この句は島田よりの便に

  五月雨
さみだれやとなりへ懸る丸木橋  素龍
五月雨の色やよど川大和川  桃隣
さみだれに小鮒をにぎる子供哉  野坡
五月雨や露の葉にもる●(クサカンムリ+「商」)●(クサカンムリ+「陸」)  嵐蘭
    この句は嵐蘭より書てよこしぬ
五月雨や顔も枕もものゝ本  岱水

  涼
川中の根木によろこぶすゞみ哉  芭蕉
月影にうごく夏木や葉の光り  女 可南
涼しさよ塀にまたがる竹の枝  長崎 卯七
行燈をしいてとらするすゞみかな  探芝
崎風はすぐれて涼し五位の声  智月
すゞしさをしれと杓の雫かな  備前 兀峯
すゞしさや浮洲のうへのざこくらべ  去来
夕すゞみあぶなき石にのぼりけり  野坡
三か月の隠にてすゞむ哀かな  素堂

  題しらず
橘や定家机のありどころ  杉風
熨斗むくや礒菜すゞしき島がまへ  正秀
世の中や年貢畠のけしの花  里東
早乙女にかへてとりたる菜飯哉  嵐雪
  木曽路にて
やまぶきも巴も出る田うへかな  許六
ひるがほや雨降たらぬ花の貌  智月
はへ山や人もすさめぬ生ぐるみ  北鯤
暁のめをさまさせよはすの花  乙州
雨乞の雨気こはがるかり着哉  丈艸
蛍みし雨の夕や水葵  仙花
一いきれ蝶もうろつくわか葉哉  楚舟
なりかゝる蝉がら落す李かな  みの 残香
猪の牙にもげたる茄子かな  さが 為有
団売侍町のあつさかな  怒風
けうときは鷲の栖や雲の峰  祐甫
一枝はすげなき竹のわかば哉  仙花
竹の子や児の歯ぐきのうつくしき  嵐雪
  さるべき人、僕が酒をたしむ事を、かたく戒め給ひて諾せしむ。しかるにある会にそれをよく知て、あらきあはもりなど、名あるかぎりを取出て、あるじせられければ、汗をかきて
改て酒に名のつくあつさ哉  利牛
  ある人の別墅にいざなはれ、尽日打和て物がたりし其夕つかた、外のかたをながめ出して
行雲をねてゐてみるや夏座敷  野坡






俳諧炭俵 下巻

 穐之部  秋のあはれいづれか/\の中に月を翫て時候の序をえらばず


  名月
名月や見つめても居ぬ夜一よさ  湖春
名月や椽取まはす黍の虚  去来
家買てことし見初る月夜哉  荷兮
名月や誰吹起す森の鳩  洒堂
松陰や生船揚に江の月見  里東
もち汐の橋のひくさよけふの月  利牛
家こぼつ木立も寒し後の月  其角
  むさしの仲秋の月、はじめて見侍て、望峰ノ不尽筑波を
明月や不二みゆかとするが町  素龍

  七夕
笹のはに枕付てやほしむかへ  其角
星合にもえ立紅やかやの縁  孤屋
七夕やふりかへりたるあまの川  嵐雪

  盂蘭盆
とうきびにかげろふ軒や玉まつり  洒堂
踊るべきほどには酔て盆の月  江州 李由
盆の月ねたかと門をたゝきけり  野坡

  朝貌
  閉関
朝貌や昼は錠おろす門の垣  芭蕉
朝貌や日傭出て行跡の垣  利合
てしがなと朝貌ははす柳哉  湖春

  秋虫
年よれば声はかるゝぞきりぎりす  大津 智月
悔いふ人のとぎれやきりぎりす  丈艸
蟷螂にくんで落たるぬかごかな  さが 為有
こうろぎや箸で追やる膳の上  孤屋

  鹿
友鹿の啼を見かへる小鹿かな  車来
  人のもとめによりて
鹿のふむ跡や硯の躬恒形  素龍
  旅行のとき
近江路やすがひに立る鹿の長  土芳

  草花
宮城野の萩や夏より秋の花  桃隣
花すゝきとらへぢからや村すゞめ  野童
片岡の萩や刈ほす稲の端  猿雖
蘆の穂や貌撫揚る夢ごゝろ  丈草
  なには津にて
蘆のほに箸うつかたや客の膳  去来
  女中の茸狩をみて
茸狩や鼻のさきなる歌がるた  其角
  園菊
菊畑おくある霧のくもり哉  杉風
紺菊も色に呼出す九日かな  桃隣

  秋植物
柿のなる本を子どもの寄どころ  利牛
落栗や谷にながるゝ蟹の甲  祐甫
秋風や茄子の数のあらはるゝ  木白
箕に干て窓にとちふく綿の桃  孤屋
  とうがらしの名を南蛮がらしといへるは、かれが治世南ばんにてひさしかりしゆへにや。未詳。ほうづき、天のぞき、そら見、八つなりなどいへるは、をのがかたちをこのめる人々の、もてあそびて付たる成るべし。みなやさしからぬ名目は、汝がむまれ付のふつゝかなれば、天資自然の理、さら/\恨むべからず。かれが愛をうくるや、石台にのせられて、竹椽のはしのかたにあるは、上々の仕合なり。ともすればすりばちのわれ、そこぬけのつるべに土かはれて、やねのはづれ、二階のつま、物ほしのひかげをたのめるなど、あやうくみへ侍を、朝貌のはかなきたぐひには、たれも/\おもはず、大かたはかづら髭つり髭のますらおにかしづかれて、びんぼ樽の口をうつすさかなとなり、不食無菜のとき、ふと取出され、おほくはやつこ豆麩の比紅葉の色をみするを、栄花の頂上とせり。かくはいへど、ある人北野もうでの帰さに、みちのほとりの小童に、こがね一両くれて、なんぢが青々とひとつみのりしを、所望せし事ありといへば、いやしめらるべきにもあらず。しかしいまは、その人々も此世をさりつれば、いよ/\愛をもたのむべからず。からきめもみすべからずと、小序をしかいふ。
石台を終にねこぎや唐がらし  野坡

  題しらず
相撲取ならぶや秋のからにしき  嵐雪
水風呂の下や案山子の身の終  丈草
碪ひとりよき染物の匂ひかな  洒堂
秋のくれいよ/\かるくなる身かな  荷兮
茸狩や黄蕈も児は嬉し貌  利合
夕貌の汁は秋しる夜寒かな  支考
くる秋は風ばかりでもなかりけり  北枝
秋風に蝶やあぶなき池の上  僧 依々
包丁の片袖くらし月の雲  其角



   冬之部

  初冬
凩や沖よりさむき山のきれ  其角
市中や木の葉も落ずふじ颪  桃隣
冬枯の礒に今朝みるとさか哉  芭蕉
桜木や菰張まはす冬がまへ  支梁
蜘の巣のきれ行冬や小松原  斜嶺
刈蕎麦の跡の霜ふむすゞめ哉  残香
初霜や猫の毛も立台所  楚舟
凩や盻しげき猫の面  八桑
  南宮山に詣て
木枯の根にすがり付檜皮かな  桃隣
箒目に霜の蘇鉄のさむさ哉  游刀

  時雨
芋喰の腹へらしけり初時雨  荊口
黒みけり沖の時雨の行どころ  丈艸
  芭蕉翁をわが茅屋にまねきて
もらぬほど今日は時雨よ草の庵  斜嶺
在明となれば度々しぐれかな  許六
  旅ねのころ
小夜●(アメカンムリ+「衆」)となりの臼は挽やみぬ  野坡

  大根引といふ事を
鞍壺に小坊主乗るや大根引  芭蕉
蜂まきをとれば若衆ぞ大根引  野坡
神送荒たる宵の土大根  洒堂

  さむさを下の五文字にすへて
人声の夜半を過る寒さ哉  野坡
この比は先挨拶もさむさ哉  示蜂
足もともしらけて寒し冬の月  我眉
魚店や莚うち上て冬の月  里東
  右の二句は、ふか川の庵へをとづれし比、他国よりの状のはしに有つるをみて、今爰に出しぬ

  雪
はつ雪にとなりを顔で教けり  野坡
初雪の見事や馬の鼻ばしら  利牛
はつ雪や塀の崩れの蔦の上  買山
雪の日に庵借ぞ鷦鷯  依々
雪の日やうすやうくもるうつし物  猿雖
  冬の夜飯道寺にて
杉のはの雪朧なり夜の鶴  支考
朱の鞍や佐野へわたりの雪の駒  北枝
はつ雪や先馬やから消そむる  許六
炭売の横町さがる雪吹哉  湖夕
海山の鳥啼立る雪吹かな  乙州
江の舟や曲突にとまる雪の鷺  素龍

  題不知
かなしさの胸に折込枯野かな  羽黒亡人 呂丸
寒菊や粉糠のかゝる臼の端  芭蕉
禅門の革足袋おろす十夜哉  許六
御火焼の盆物とるな村がらす  智月
白うをのしろき匂ひや杉の箸  之道
榾の火やあかつき方の五六尺  丈艸
庚申やことに火燵のある座敷  残香
誰と誰が縁組すんでさと神楽  其角
海へ降霰や雲に波の音  同

  すゝはき
煤はきは己が棚つる大工かな  芭蕉
煤払せうじをはくは手代かな  万乎
餅つきや元服さする草履取  野坡
山臥の見事に出立師走哉  嵐雪
待春や氷にまじるちりあくた  智月

  歳暮
このくれも又くり返し同じ事  杉風
はかまきぬ聟入もあり年のくれ  李由
なしよせて鶯一羽としのくれ  智月
鍋ぶたのけば/\しさよ年のくれ  孤屋
としの夜は豆はしらかす俵かな  猿雖
年のくれ互にこすき銭づかひ  野坡
  芭蕉よりの文に、くれの事いかゞなど在し其かへり事に
爪取て心やさしや年ごもり  素龍
行年よ京へとならば状ひとつ  湖春



  俳諧秋之部

秋の空尾上の杉に離れたり  其角
 おくれて一羽海わたる鷹  孤屋
朝霧に日傭揃る貝吹て  同
 月の隠るゝ四扉の門  其角
祖父が手の火桶も落すばかり也  同
 つたひ道には丸太ころばす  孤屋
下京は宇治の糞船さしつれて  同
 坊主の着たる簔はおかしき  其角
足軽の子守して居る八つ下り  孤屋
 息吹かへす霍乱の針  其角
田の畔に早苗把て投て置  孤屋
 道者のはさむ編笠の節  其角
行燈の引出さがすはした銭  孤屋
 顔に物着てうたゝねの月  其角
鈴縄に鮭のさはればひゞく也  孤屋
 鴈の下たる筏ながるゝ  其角
貫之の梅津桂の花もみぢ  孤屋
 むかしの子ありしのばせて置  其角
いさ心跡なき金のつかひ道  同
 宮の縮のあたらしき内  孤屋
夏草のぶとにさゝれてやつれけり  其角
 あばたといへば小僧いやがる  孤屋
年の豆蜜柑の核も落ちりて  其角
 帯ときながら水風呂をまつ  孤屋
君来ねばこはれ次第の家となり  其角
 稗と塩との片荷つる籠  孤屋
辛崎へ雀のこもる秋のくれ  其角
 北より冷る月の雲行キ  孤屋
紙燭して尋て来たり酒の残  其角
 上塗なしに張てをく壁  孤屋
小栗読む片言まぜて哀なり  其角
 けふもだらつく浮前のふね  孤屋
   孤屋旅立事出来て、洛へのぼりけるゆへに、今四句未満にして吟終りぬ。

 其角
 孤屋
   各十六句



   天野氏興行

道くだり拾ひあつめて案山子かな  桃隣
 どんどと水の落る秋風  野坡
入月に夜はほんのりと打明て  利牛
 塀の外まで桐のひろがる  桃隣
銅壺よりなまぬる汲んでつかふ也  野坡
 つよふ降たる雨のついやむ  利牛
瓜の花是からなんぼ手にかゝる  桃隣
 近くに居れども長谷をまだみぬ  野坡
年よりた者を常住ねめまはし  利牛
 いつより寒い十月のそら  桃隣
台所けふは奇麗にはき立て  野坡
 分にならるゝ嫁の仕合  利牛
はんなりと細工に染まる紅うこん  桃隣
 鑓持ばかりもどる夕月  野坡
時ならず念仏きこゆる盆の中  利牛
 鴫まつ黒にきてあそぶ也  桃隣
人の物負ねば楽な花ごゝろ  野坡
 もはや弥生も十五日たつ  利牛
より平の機に火桶はとり置て  桃隣
 むかひの小言たれも見廻ず  野坡
買込だ米で身体たゝまるゝ  利牛
 帰るけしきか燕ざはつく  桃隣
此度の薬はきゝし秋の露  野坡
 杉の木末に月かたぐ也  利牛
同じ事老の咄しのあくどくて  桃隣
 だまされて又薪部屋に待  野坡
よいやうに我手に占を置てみる  利牛
 しやうじんこれはあはぬ商  桃隣
帷子も肩にかゝらぬ暑さにて  野坡
 京は惣別家に念入  利牛
焼物に組合たる富田A  桃隣
 隙を盗んで今日もねてくる  利牛
髪置は雪踏とらする思案にて  野坡
 先沖まではみゆる入舟  桃隣
内でより菜がなうても花の陰  利牛
 ちつとも風のふかぬ長閑さ  野坡



  神無月廿日ふか川にて即興
振売の鴈あはれ也ゑびす講  芭蕉
 降てはやすみ時雨する軒  野坡
番匠が椴の小節を引かねて  孤屋
 片はげ山に月をみるかな  利牛
好物の餅を絶さぬあきの風  野坡
 割木の安き国の露霜  野坡
網の者近づき舟に声かけて  利牛
 星さへ見えず二十八日  孤屋
ひだるきは殊軍の大事也  芭蕉
 淡気の雪に雑談もせぬ  野坡
明しらむ籠挑灯を吹消して  孤屋
 肩癖にはる湯屋の膏薬  利牛
上をきの千葉刻むうはの空  野坡
 馬に出ぬ日は内で恋する  芭蕉
株モフ七つさがりを音づれて  利牛
 堺に門ある五十石取  孤屋
此島の餓鬼も手を摺月と花  芭蕉
 砂に暖のうつる青草  野坡
新畠の糞もおちつく雪の上  孤屋
 吹とられたる笠とりに行  利牛
川越の帯しの水をあぶながり  野坡
 平地の寺のうすき藪垣  芭蕉
干物を日向の方へいざらせて  利牛
 塩出す鴨の苞ほどくなり  孤屋
算用に浮世を立る京ずまひ  芭蕉
 又沙汰なしにむすめ産  野坡
どたくたと大晦日も四つのかね  孤屋
 無筆のこのむ状の跡さき  利牛
中よくて傍輩合の借りいらゐ  野坡
 壁をたゝきて寐せぬ夕月  芭蕉
風やみて秋の鴎の尻さがり  利牛
 鯉の鳴子の綱をひかゆる  孤屋
ちらほらと米の揚場の行戻り  芭蕉
 日黒まいりのつれのねちみやく  野坡
どこもかも花の三月中時分  孤屋
 輪炭のちりをはらふ春風  利牛

  芭蕉
  野坡
  孤屋
  利牛
    各九句



雪の松おれ口みれば尚寒し  杉風
 日の出るまへの赤き冬空  孤屋
下肴を一舟浜に打明て  芭蕉
 あいだとぎるゝ大名の供  子珊
身にあたる風もふは/\薄月夜  桃隣
 栗をかられてひろき畠地  利牛
熊谷の堤きれたる秋の水  岱水
 箱こしらえて鰹節売る  野坡
二三畳寐所もらふ門の脇  子珊
 馬の荷物のさはる干もの  沾圃
竹の皮雪踏に替へる夏の来て  石菊
 稲に子のさす雨のはら/\  杉風
手前者の一人もみへぬ浦の秋  野坡
 めつたに風のはやる盆過  利合
宵々の月をかこちて旅大工  依々
 脊中へのぼる児をかはゆがる  桃隣
茶むしろのきはづく上に花ちりて  子珊
 川からすぐに小鮎いらする  石菊
朝曇はれて気味よき雉子の声  杉風
 脊戸へ廻れば山へ行みち  岱水
物思ひたゞ鬱々と親がゝり  孤屋
 取集めてはおほき精進日  曾良
餅米を搗て俵へはかりこみ  桃隣
 わざ/\わせて薬代の礼  依々
雪舟でなくばと自慢こきちらし  沾圃
 となりへ行て火をとりて来る  子珊
又けさも仏の食で埒を明  利牛
 損ばかりして賢こがほ也  杉風
大坂の人にすれたる冬の月  利合
 酒をとまれば祖母の気に入  野坡
すゝけぬる御前の箔のはげかゝり  子珊
 次の小部屋でつにむせる声  利牛
約束にかゞみて居れば蚊に食れ  曾良
 七つのかねに駕籠呼に来る  杉風
花の雨あらそふ内に降出して  桃隣
 男まじりに蓬そろゆる  岱水

  杉風五   野坡三
  孤屋二   沾圃二
  芭蕉一   石菊二
  子珊五   利合二
  桃隣四   依々二
  利牛三   曾良二
  岱水三
          撰者芭蕉門人
              志田氏 野坡
              小泉氏 孤屋
              池田氏 利牛
  元禄七歳次甲戌六月廿八日

俳諧炭俵下巻之終
 
        京寺町通  井筒屋庄兵衛
        江戸白銀丁 本屋藤助