小学唱歌集
 
 
 
 
〔小学〕唱歌集 初編


(明治14年11月。歌詞のみ掲載。振り仮名は省略)
 
 
 
第一 かをれ

一 かをれ。にほへ。そのふのさくら。
二 とまれ。やどれ。ちぐさのほたる。
三 まねけ。なびけ。野はらのすゝき。
四 なけよ。たてよ。かは瀬のちどり。



第二 春山

はるやまに。たつかすみ。
あきやまに。わたるきり。
さくらにも。もみぢにも。
きぬきする。こゝちして。



第三 あがれ

一 あがれ。/\。広野のひばり。
二 のぼれ。/\。川瀬の若鮎。



第四 いはへ

一 いはへ。/\。きみが代いはへ。
二 しげれ。/\。ふたばの小松。



第五 千代に

一 ちよに。/\。千代ませきみは。
二 いませ/\。わが君ちよに。



第六 和歌の浦

わかの浦わに。夕しほみちくれば。
きしのむら鶴。あし辺に鳴わたる。



第七 春は花見

一 はるは。はな見。
  みよし野。おむろ。
二 あきは。つきみ。
  さらしな。をぐら。



第八 鶯

一 うぐひす。きなけ。
  うめさく。そのに。
二 かりがね。わたれ。
  霧たつ。そらに。



第九 野辺に

一 野辺に。なびく。ちぐさは。
  四方の。民の。まごゝろ。
二 はまに。あまる。まさごは。
  君が。みよの。かずなり。



第十 春風

一 春風。そよふく。やよひのあした。
  あき風。みにしむ。はつきのゆふべ
二 弥生は。野山の。はなさくさかり。
  はつきは。みそらの。月すむ夜ごろ。



第十一 桜紅葉

一 春見に。ゆきませ。芳野の桜。
  あきみて。つげませ。龍田のもみぢ。
二 よし野は。さくらの。花さくみやま。
  たちたは。紅葉の。ちりしくながれ。



第十二 花さく春

一 花さく。はるの。あしたのけしき。
  かをる。雲の。たつこゝちして。
二 あき萩。をばな。はなさきみだれ。
  もとも。末も。露みちにけり。



第十三 見わたせば

一 見わたせば。あをやなぎ。花桜。
  こきまぜて。みやこには。
  みちもせに春の錦をぞ。
  さほひめのおりなして。
  ふるあめにそめにける。
二 みわたせばやまべには。
  をのへにもふもとにも。
  うすきこき。もみぢ葉の。
  あきの錦をぞ。たつたびめ。
  おりかけてつゆ霜に。
  さらしける



第十四 松の木蔭

一 松のこかげに。たちよれば。
  ちとせのみどりぞ。身にはしむ。
  梅がえかざしに。さしつれば。
  はるの雪こそ。ふりかゝれ。
二 うめのはながさ。さしつれば。
  かしらに春の。ゆきつもり。
  鶴のけごろも。かさぬれば。
  あきの霜こそ。身にはおけ。



第十五 春のやよひ

一 春のやよひの。あけぼのに。
  四方のやまべを。見わたせば。
  はなざかりかも。しらくもの。
  かゝらぬみねこそ。なかりけれ。
二 はなたちばなも。にほふなり。
  軒のあやめも。かをるなり。
  ゆふぐれさまの。さみだれに。
  やまほとゝぎす。なのるなり。
三 秋のはじめに。なりぬれば。
  ことしもなかばは。すぎにけり。
  わがよふけゆく。月かげの。
  かたぶく見るこそ。あはれなれ。
四 冬の夜さむの。あさぼらけ。
  ちぎりし山路は。ゆきふかし。
  こゝろのあとは。つかねども。
  おもひやるこそ。あはれなれ。



第十六 わが日の本

一 わがひのもとの。あさぼらけ。
  かすめる日かげ。あふぎみて。
  もろこし人も。高麗びとも。
  春たつけふをば。しりぬべし。
二 雪間にさけぶ。ほとゝぎす。
  かきねににほふ。うつぎばな。
  夏来にけりと。あめつちに。
  あらそひつぐる。花ととり。
三 きぬたのひゞき。身にしみて。
  とこよのかりも。わたるなり。
  やまともろこし。おしなべて。
  おなじあはれの。あきの風。
四 まどうつあられ。にはのしも。
  ふもとのおちば。みねのゆき。
  みやこのうちも。やまざとも。
  ひとつにさゆる。ふゆのそら。



第十七 蝶々

一 てふ/\てふ/\。菜の葉にとまれ。
  なのはにあいたら。桜にとまれ。
  さくらの花の。さかゆる御代に。
  とまれよあそべ。あそべよとまれ。
二 おきよ/\。ねぐらのすゞめ。
  朝日のひかりの。さしこぬさきに。
  ねぐらをいでゝ。こずゑにとまり。
  あそべよすゞめ。うたへよすゞめ。



第十八 うつくしき

一 うつくしき。わが子やいづこ。
  うつくしき。わがかみの子は。
  ゆみとりて。君のみさきに。
  いさみたちて。わかれゆきにけり。
二 うつくしき。わがこやいづこ。
  うつくしき。わがなかのこは。
  太刀帯て。君のみもとに。
  いさみたちて。わかれゆきにけり。
三 うつくしき。わがこやいづこ。
  うつくしき。わがすゑのこは。
  ほことりて。きみのみあとに。
  いさみたちて。わかれゆきにけり。



第十九 閨の板戸

ねやのいたどの。あけゆく空に。
あさ日のかげの。さしそめぬれば。
ねぐらをいづる。百八十鳥は。
霞のうちに。友よびかはし。
夢みるてふも。とくおきいでゝ。
むれつゝ花に。まひあそぶなり。
あさいねする身の。そのおこたりを。
いさむるさまなる。春のあけぼの。



第二十 蛍

一 ほたるのひかり。まどのゆき。
  書よむつき日。かさねつゝ。
  いつしか年も。すぎのとを。
  あけてぞけさは。わかれゆく。
二 とまるもゆくも。かぎりとて。
  かたみにおもふちよろづの。
  こゝろのはしをひとことに。
  さきくとばかり。うたふなり。
三 つくしのきはみ。みちのおく。
  うみやまとほく。へだつとも。
  そのまごゝろは。へだてなく。
  ひとつにつくせ。くにのため。
四 千島のおくも。おきなはも。
  やしまのうちの。まもりなり。
  いたらんくにに。いさをしく。
  つとめよわがせ。つつがなく。



第二十一 若紫

一 わかむらさきの。めもはるかなる。武蔵野の。
  かすみのおく。わけつゝつむ。初若菜。
二 若菜はなにぞ。すゞしろすゞな。ほとけの座。
  はこべらせり。なづなに五行。なゝつなり。
三 なゝつの宝。それよりことに。得がたきは。
  雪消のひま。尋ねてつむ。わかななり。



第二十二 ねむれよ子

一 ねむれよ子。よくねるちごは。ちゝのみの
  父のおほせや。まもるらん。ねむれよ子。
二 ねむれよ子。よくねるちごは。はゝそばの。
  母のなさけや。したふらん。ねむれよこ。
三 ねむれよこ。よくねておきて。ちゝはゝの。
  かはらぬみ顔。をがみませ。ねむれよこ。



第二十三 君が代

一 君が代は。ちよにやちよに。さゞれ
  いしの。巌となりて。こけのむす
  まで。うごきなく。常磐かきはに。
  かぎりもあらじ。
二 きみがよは。千尋の底の。さゞれ
  いしの。鵜のゐる磯と。あらはるゝ
  まで。かぎりなき。みよの栄を。
  ほぎたてまつる。



第二十四 思ひいづれば

一 おもひいづれば。三年のむかし。
  わかれしその日。わがちゝはゝの。
  かしらなでつゝ。まさきくあれと。
  いひしおもわの。したはしきかな。
二 あしたになれば。かどおしひらき。
  日数よみつゝ。ちゝまちまさむ。
  わがおもひごは。ことなしはてゝ。
  はやいつしかも。かへり来なんと。
三 ゆふべになれば。床うちはらひ。
  およびをりつゝ。母まちまさん。
  わがおもひごは。事なしはてゝ。
  はやいつしかも。かへりこなんと。
四 あしたになれば。かどおしひらき。
  ゆふべになれば。とこうちはらひ。
  父まちまさん。母まちまさむ。
  はやく帰らん。もとの国べに。



第二十五 薫りにしらるゝ

一 かをりにしらるゝ。花さく御園。
  霞にかくるゝ。鳥なくはやし。
  君が代いはひて。幾春までも。
  かをれや/\。うたへやうたへ。
二 つきかげてりそふ。野中の清水。
  もみぢばにほへる。外山のふもと。
  きみが代たえせず。いく秋までも。
  てらせや/\にほへやにほへ。



第二十六 隅田川

一 すみだがはらの。あさぼらけ。
  雲もかすみも。かをるなり。
  水のまに/\。ふねうけて。
  花にあそばむ。ちらぬまに。
二 隅田川原の。あきの夜は。
  水もみそらも。すみわたる。
  かぜのまに/\。ふねうけて。
  月にあそばん。夜もすがら。
三 すみだがはらの。ふゆのそら。
  よは白妙に。うづもれて。
  木々のこと/゛\。はなさきぬ。
  ゆきにあそばん。消ぬまに。



第二十七 富士山

一 ふもとに雲ぞ。かゝりける。
  高嶺にゆきぞ。つもりたる。
  はだへは雪。ころもはくも。
  そのゆきくもを。よそひたる。
  ふじてふやまの。見わたしに。
  しくものもなし。にるもなし。
二 外国人も。あふぐなり。
  わがくに人も。ほこるなり。
  照る日のかげ。そらゆくつき。
  つきひとともに。かがやきて。
  冨士てふ山の。みわたしに。
  しくものもなし。にるもなし。



第二十八 おぼろ

一 おぼろににほふ。夕づき夜。
  さかりににほふ。もゝさくら。
  のどかにて。のどけき御代の。楽しみは。
  花さくかげの。このまとゐ。
  このうたげ。
二 千草にすだく。むしの声。
  をぎの葉そよぐ。風のおと。
  身にしみて。眼にみる物も。きく物も。
  あはれをそふる。あきの夜や。
  つきのよや。



第二十九 雨露

一 雨露におほみやは。あれはてにけり。
  みめぐみに。民草は。うるほひにけり。
  かくてこそ。今の世も。かまどのけぶり。
  み空にも。あまるまで。たちみちぬらめ。
二 飢ゑこゞえ。なきまどふ。民もやあると。
  身にかへて。かしこくもおもほすあまり。
  あられうつ。冬の夜に。ぬぎたまはせる。
  大御衣の。あつきその。御こゝろあはれ。



第三十 玉の宮居
一 玉のみやゐは。あれはてゝ。
  雨さへ露さへ。いとしげゝれど。
  民のかまどの。にぎはひは。
  たつ烟にぞ。あらはれにける。
二 冬の夜さむの。月さえて。
  隙もるかぜさへ。身をきるばかり。
  民をおもほす。みこゝろに。
  大御衣や。ぬがせたまひし。



第三十一 大和撫子

一 やまとなでしこ。さま/゛\に。
  おのがむき/\。さきぬとも。
  おほしたてゝし。ちゝはゝの。
  底のをしへに。たがふなよ。
二 野辺の千草の。いろ/\に。
  おのがさま/゛\。さきぬとも。
  生したてゝし。あめつちの。
  つゆのめぐみを。わするなよ。



第三十二 五常の歌

一 野辺のくさ木も。雨露の。
  めぐみにそだつ。さまみれば。
  仁てふものは。よのなかの。
  ひとのこゝろの。命なり。
二 飛騨の工が。うつ墨に。
  曲もなほる。さまみれば。
  義といふものは。世の中の。
  人のこゝろの。条理なり。
三 成像ほかに。あらはれて。
  謹慎みたる。さまみれば。
  礼てふものは。世の中の。
  ひとのこゝろの。掟なり。
四 神の蔵せる。秘事も。
  さとり得らるゝ。さまみれば。
  智といふものは。世の中の。
  人のこゝろの。宝なり。
五 月日と共に。あめつちの。
  循環たがはぬ。さまみれば。
  信てふものは。世の中の。
  人のこゝろの守りなり。



第三十三 五倫の歌

父子親あり。君臣義あり。
夫婦別あり。長幼序あり。
朋友信あり。







〔小学〕唱歌集 第二編


(明治16年3月。歌詞のみ記す。振り仮名省略)



第三十四 鳥の声

一 とりのこえ。きぎのはなのべにみちて
  かすみけりなのどかなるはるのひや
二 むしのこゑつゆのたまのべにみちて
  ゆくもゆかれずきよらなるつきのよや



第三十五 霞か雲か

一 かすみかくもかはたゆきかとばかりにほふ
  そのはなざかり?もとりさへもうたふなり
二 かすみははなをへだつれどへだてぬともと
  きてみるばかりうれしきことはよにもなし
三 かすみてそれとみえねどもなくうぐひすに
  さそはれつつもいつしかきぬるはなのかげ



第三十六 年たつけさ

一 としたつけさの。そのにぎはひは。
  みやこもひなも。へだてなく。
  毬歌うたひつ。羽子つきかはしつ。
  こゝろ/゛\に。うちつれだちて。
  かしこもこゝも。あそびゆくなり。
  都も鄙も。あそぶなり。
二 のどけき春に。はやなりぬれば。
  わかきもおいも。わかちなく。
  さく花かざしつ。なく鳥きゝつゝ。
  こゝろ/゛\に。うちつれだちて。
  やまべに野辺に。あそびゆくなり。
  山辺に野辺に。あそぶなり
三 ことしもいつか。なかばは過ぎて。
  秋風さむく。身にぞしむ。
  すゞむし松虫。はたおる虫さへ。
  ながき夜すがら。なくねをきけば。
  われらもおいの。いたらぬいたらぬさきに。
  学の道に。いそしまむ。
四 千代ながづきの。月たちぬれば。
  まがきのうちと。へだてなく。
  しら菊はなさき。紅葉かゞやく。
  菊ともみぢを。かざしにさして。
  君が代いはへ。八千代もちよも。
  わが君いはへ。よろづ世も。



第三十七 かすめる空

一 かすめるそらに。雨ふれば。
  草木もともに。うるほひぬ。
  わらへるはな。にほへるやま。
  類なの。ながめかな。
二 山の端はれて。つき清く。
  ちさとのくまも。かくれなし。
  きらめく露。なくなるむし。
  たぐひなの。秋の夜や。



第三十八 燕

一 こよや/\。こよつばくらめ。
  おやもひなも。ひねもすかたり。
  たのしみし。その巣をいでゝ。
  とほき国辺に。たちわかるとも。
  帰り来よや。わがやどり。
  かへりこよや。つばくらめ。
二 来なけ/\。やまほとゝきす。
  われもひとも。夜はよもすがら。
  いねもせず。深山をいでゝ。
  都のそらに。なけほとゝぎす。
  なのれ/\。わがやどに。
  きなけ/\。ほとゝぎす。



第三十九 鏡なす

一 かゞみなす。水もみどりの。かげ
  うつる。柳の糸の。枝をたれ。
  気霽ては。風新柳の髪を梳り。
  氷消ては。浪旧苔の。髭を洗ふとかや。
  げにおもしろの。景色やな。
  けにおもしろの。けしきやな。
二 降る雪に。樵夫のみちも。うも
  れけり。みやまのおくの。夕まぐれ。
  かざせる笠には。影もなき。月をやどし。
  担へる柴には。かをらざる。花をたをるとかや。
  げにおもしろの。けしきやな。
  げにおもしろの。景色やな。



第四十 岩もる水

いはもる水も。松ふく風も。
しらべをそふる。つま琴の音や。
あれおもしろの。こよひの月や。
こゝろにかゝる。雲霧もなし。



第四十一 岸の桜

一 岸の桜の。はなさくさかりは。
  水のそこにも。白雲かゝれり。
  すみだの川の。かはのせくだし。
  漕やをぶね。花にうかれて。
  雲にさをさし。霞にながして。
  こぐや雲ゐに。かすみの海に。
二 秋のもなかの。さやけき月夜は。
  水のそこにも。白玉しづめり。
  隅田の川の。かはの瀬のぼし。
  こぐや小舟。つきにうかれて。
  棹のしづくの。光もさながら。
  真玉しら玉。しら玉またま。



第四十二 遊猟

一 さながら山も。くづるばかりに。
  をのへにとよむ。矢玉のひゞき。
  神てふ虎も。てどりにしつゝ。
  いさみにいさむ。益荒雄の徒。
二 葦毛の馬に。しづ鞍おきて。
  あづさの真弓。手にとりしばり。
  みかりたゝすは。ますらをなれや。
  美猟たゝせる。そのいさましさ。
 
 
 
第四十三 みたにの奥

一 みたにのおくの。花鳥あはれ。
  うづまく雲の。かぐはしのよや。
  たのしき春に。あふさか山の。
  岩根によせて。君が代うたへ。
二 たり穂の稲の。ゆふ風あはれ。
  よせくる浪の。にぎはしのよや。
  ゆたけき秋に。あふさか山の。
  巌によせて。君が代いはへ。



第四十四 皇御国

一 すめらみくにの。ものゝふは。
  いかなる事をか。つとむべき。
  たゞ身に持てる。まごゝろを。
  君と親とに。つくすまで。
二 皇御国の。をのこらは。
  たわまずをれぬ。こゝろもて。
  世のなりはひを。つとめなし。
  くにと民とを。とますべし。



第四十五 栄行く御代

一 さかゆく御代に。うまれしも。おもへば
  神の。めぐみなり。いざや児等。神の恵を。
  ゆめなわすれそ。ゆめなわすれそ。
  ゆめなわすれそ。時の間も。いざやくら。
  神の恵を。ゆめなわすれそ。ゆめなわすれそ。
  ゆめなわすれそ。ときのまも。
二 恵も深き。かみがきの。みまへの
  さかき。とりもちて。ちはやぶる。
  神の御前に。うたひまはまし。うたひまはまし。
  うたひまはまし。夜もすがら。ちはやぶる。
  神の御前に。うたひまはまし。うたひまはまし。
  うたひまはまし。よもすがら。



第四十六 五日の風

一 いつかの風も。とをかの雨も。
  時に順ふ。わがきみが世や。
  にしの国より。高麗百済より。
  よりくる人も。御代いはふなり。
二 豊葦原の。みづ穂のくには。
  ちよよろづ世も。うごきなき国。
  わが君が代に。ちよよろづ代も。
  動きなき御代。いはへもろ人。



第四十七 天津日嗣

一 あまつ日つぎのみさかえは。
  あめつちの共。きはみなし。
  わがひのもとの。みひかりは。
  月日とゝもに。かゞやかん。
二 葦原の。ちいほあき。瑞穂
  のくには。日の御子の。
  きみとますべき。ところぞと。
  神のみよゝり。さだまれり。



第四十八 太平の曲

一 ゆはづのさわぎ。飛火のけぶり。
  いつしかたえて。をさまる御世は。
  あめつちさへも。とゞろくばかり。
  万代までと。君が代いはへ。
二 たひらのみやこ。百敷の宮。
  みあとになして。むさしの国に。
  しづまりましぬ。年は三千とせ。
  代は百二十。御功績あふげ。



第四十九 みてらの鐘の音

一 みてらの鐘のね。月よりおつる。
  ふみよむ燈火。かすかになりて。
  一二三四五六七八。
二 月影かたぶき。霜さえわたり。
  ねよとの鐘のね。枕にひゞく。
  一二三四五六七八。
三 漁火しめりて。霜天にみち。
  姑蘇城外なる。鐘かもきこゆ。
  一二三四五六七八。






〔小学〕唱歌集 第三編



(明治17年3月。歌詞のみ掲載。振り仮名省略)


第五十 やよ御民

一 やよみたみ。稲をうゑ。井の
  水たゝへ。君が代は。腹つゞみ
  うち。身をいはへ。
二 やよ御民。萱をかり。わが
  家をふきて。君が代は。雨露
  しのぎ。世をわたれ。



第五十一 春の夜

一 かすみにきゆる。かりがね
  も。かすかにひゞく。笛の
  音も。をさまる御代の。
  しらべにて。たのしき
  はるの。ゆふぐれや。
  ともし火とりて。むかし
  のひとの。あそびし
  夜半も。かゝりけん。
  世はさま/゛\と。おもひし
  を。むかしもいまも。
  かくさきにほふ。
  はなにはそむく。
  人ぞなき。



第五十二 なみ風

一 浪かぜさかまく。あをうな
  ばらに。暗路をたどれる。
  ふれ人あはれ。やみ路を
  たどれる。船人あはれ。命と
  たのむは。棹かぢなれや。/\
二 虎さへうそぶく。荒山中に。
  やみぢにまよへる。たび人
  あはれ。やみぢにまよへる。
  旅人あはれ。いのちとたのむは。
  ともし火なれや。/\



第五十三 あふげば尊し

一 あふげばたふとし。わが師の恩。
  教の庭にも。はやいくとせ。
  おもへばいと疾し。このとし月。
  今こそわかれめ。いざゝらば。
二 互にむつみし。日ごろの恩。
  わかるゝ後にも。やよわするな。
  身をたて名をあげ。やよはげめよ。
  いまこそわかれめ。いざゝらば。
三 朝ゆふなれにし。まなびの窓。
  ほたるのともし火。つむ白雪。
  わするゝまぞなき。ゆくとし月。
  今こそわかれめ。いざゝらば。



第五十四 雲

一 瞬間には。やまをおほひ。
  うちみるひまにも。海をわたる。
  雲てふものこそ。くすしくありけれ。
  くもよ/\。雨とも霧とも。みるまに
  変りて。あやしく奇きは。雲よ/\。
二 ゆふ日にいろどる。橋をわたし。
  みそらに声せぬ。浪をおこす。
  雲てふものこそ。奇しくありけれ。
  雲よ/\。なきかとおもへば。おほ空
  おほひて。あやしく奇きは。雲よ/\。



第五十五 寧楽の都

一 奈良のみやこの。そのむかし。
  みやびつくして。宮びとの。
  遊びましけん。龍田川原の。紅葉。
  たつたがはらのもみぢば。今もにほふ。
  ちしほの色に。残るかたみは。
  千代もくちせず。今かいまかと。
  君をまつらん。その紅葉。
二 ふるきみやこの。そのむかし。
  桜かざして。おほきみの。
  あそびましけん。滋賀の
  花園。はなさき。しがの花
  ぞの。花さき。今もにほふ。
  色香をそへて。ゑめる姿は。
  ちよもかはらす。今やいまやと。
  行幸まつらん。その花は。
 
 
 
第五十六 才女 

一 かきながせる。筆の
  あやに。そめしむらさき。
  世々あせず。ゆかりのいろ。
  ことばのはな。たぐひも
  あらじ。そのいさを。
二 まきあげたる。小簾の
  ひまに。君のこゝろも。
  しら雪や。廬山の峯。
  遺愛のかね。めにみるごとき。
  その風情。



第五十七 母のおもひ

一 はゝのおもひは。空にみち。
  ゆくへもしらず。はてもなし。
  つきの桂を。たをりてぞ。
  家の風をば。ふかせつる。
  あふげ/\。母のみいさを。
二 母のなさけの。撫子よ。露
  なわすれそ。めぐみをば。
  家をうつすも。そだて草。
  機をきるさへ。教へぐさ。
  したへ/\。母のなさけを。



第五十八 めぐれる車

一 めぐれる車。ながるゝ水。われらは
  いこへど。やむ間なし。
二 岩根をつたふ。しづくの水。積れば
  つひに。海となる。



第五十九 墳墓

一 松ふく風は。こゝろにしみて。
  おもへばあはれ。わがなき父の。
  奥津城どころ。
二 浅茅が露に。むしのねかれて。
  おもへばあはれ。わがなき母の。
  おくつきどころ。
三 苔むす墳は。文字さへ消えて。
  おもへばあはれ。いづれのひとの。
  なきあとなれや。



第六十 秋の夕暮

一 花や紅葉も。およぶものかは。
  浦のとまやの。秋のゆふぐれ。
二 こゝろなき身も。あはれしれとや。
  鴫たつ沢の。あきの夕暮。
三 あはれさびしや。色はなけれど。
  槙たつ山の。あきの夕ぐれ。



第六十一 古戦場
 
一 屍は朽て。骨となり。刃はをれて。
  しもむすぶ。今はた靡く。旗薄。
  皷のおとか。まつ風か。
二 人影みえず。風さむし。蓬はかれて。
  霜しろし。命を捨し。真荒雄が。
  その名は千代。も朽せじな。



第六十二 秋艸

一 さきのこりたる。あさがほや。
  命とたのむ。つゆも浅ぢの。
  あさがほや。
二 あや錦おる。はぎがはな。
  たまもいろなる。霜ぞこぼるゝ。
  萩がはな。
三 たれまねくらん。はなすゝき。
  風もふかぬに。露ぞみだるゝ。
  はなすゝき。



第六十三 富士筑波

一 駿河なる。ふじの高嶺を。
  あふぎても。動かぬ御代は。
  しられけり。
二 つくばねの。このもかの面も。
  てらすなる。みよのひかりぞ。
  ありがたき。



第六十四 園生の梅
 
一 そのふの梅の。追風に。わがすむ山も。
  春めきぬ。門田の雪も。むら消て。
  若菜つむべく。野はなりぬ。
二 弥生のそらに。野辺みれば。菫の
  花さく。山みれば。雪かあらぬか。そこ
  かしこ。桜の花も。さきそめぬ。



第六十五 橘

一 ちゝの実の。父やもうゑし。
  なつかしき。かにこそにほへ。
  よにふるさとの。花の橘。
二 はゝそばの。母やもうゑし。
  したはしき。かをりぞすなる。
  しのぶの里の。花の橘。



第六十六 四季の月

一 さきにほふ。やまのさくらの。
  花のうへに。霞みていでし。
  はるのよの月。
二 雨すぎし。庭の草葉の。
  つゆのうへに。しばしはやどる。
  夏の夜の月。
三 みるひとの。こゝろ/\に。
  まかせおきて。高嶺にすめる。
  あきのよの月。
四 水鳥の。声も身にしむ。
  いけの面に。さながらこほる。
  冬のよの月。



第六十七 白蓮白菊

一 泥のうちより。ぬけいでゝ。濁りにしまぬ。
  はな蓮。月のひかりか。ひるすごく。
  霜とさゆれば。夏さむし。乱るゝ露は。
  たまとみえ。かをれる風は。身にぞしむ。
  氷のすがた。雪のいろ。つゆなけがしそ。
  世のちりに。
二 草木もかれし園の中。雪にも色は。
  まさりぐさ。いたゞく霜は。身をよそひ。
  さえゆく月は。香ににほふ。霜はくすりと。
  きくの水。梅はみさをの。おのがとも。
  暗の夜はさへ。てらすなり。東籬の
  もとに。書やみん。/\。



第六十八 学び

一 まなびはわが身の。光りとなり。
  富貴も。栄花も。こゝろのまゝ。
二 驕りはわが身の。仇とぞなる。
  努々ゆるすな。こゝろの駒。
三 学びはわが身の。ひかりなり。
  驕りはわが身の。仇とぞなる。



第六十九 小枝

一 さえだにやどれる。小鳥さへ。
  礼はしる。道をもならひし。
  その人を。わするなよ。
二 吾家にかひぬる。犬さへも。
  恩はいる。君にもつかふる。
  大丈夫よ。身をつくせ。



第七十 船子

一 やよふな子。こげ船を。
  こげよ/\。/\/\。
  やよふな子。
二 しほみちて。風なぎぬ。
  こげよ/\。/\/\。
  やよふな子。



第七十一 鷹狩

一 しらふの鷹を。手にすゑもち。
  馬にまたがり。いさめる君。
  すはや狩場に。ゆけ/\/\。
二 雪は狩場に。ふれ/\/\。
  犬はかり場を。かれ/\/\。
  鳥ぞむれたつ。それ/\/\。



第七十二 小船

一 流るゝ水の。うへにもさく花。
  こゝろせよや。をぶね。
  底にもはなのかげ。
二 渕瀬もみえず。そらより散花。
  こゝろせよや。をぷね。
  袖にも花の浪。



第七十三 誠は人の道

一 まことは人の。道ぞかし。つゆな
  そむきそ。其みちに。
二 こゝろは神の。たまものぞ。露な
  けがしそ。そのたまを。



第七十四 千里のみち

一 千里の道も。足もとよりぞ。始まれる。
  葉末の露も。積れば渕と。なるぞかし。
二 雲ゐる山も。塵ひぢよりぞ。なれりける。
  書よむ道も。ことわりのみは。ひとつなり。



第七十五 春の野

一 いつしか雪も。きえにけり。
  梅さく野辺に。いざゆかん。
二 みどりに草も。もえぬれば。
  わかなつむ子も。うちむれて。
三 柳のいとも。なびくなり。
  こゝろをのべに。あそばまし。



第七十六 瑞穂

一 蒼生の。いのちの種と。かしこき
  神の。たまへるたねぞ。
二 採る手もたゆき。山田の早苗。
  ゆたけき秋の。たのみもしるし。
三 わづかにのこる。門田のいねを。
  苅るまで残れ。夕日のかげも。
四 ことしの稲の。初穂をとりて。
  新嘗つかへ。神をぞまつる。



第七十七 楽しわれ

一 たのしわれ。まなびもをへ。
  日もくれぬ。あすもまた。
  朝とくより。学ばまし。かくて
  年月。たえせざらば。月の桂
  をも。われぞをるべき。
二 うれしわれ。ふみよみはて。
  ひもくれぬ。あすもまた。
  朝とくより。勉めまし。かくて
  とし月。撓まざらば。龍の腮
  なる。玉もとるべし。



第七十八 菊

一 庭の千草も。むしのねも。
  かれてさびしく。なりにけり。
  あゝしらぎく。嗚呼白菊。
  ひとりおくれて。さきにけり。
二 露にたわむや。菊の花。
  しもにおごるや。きくの花。
  あゝあはれ/\。あゝ白菊。
  人のみさをも。かくてこそ。



第七十九 忠臣

一 嗚呼香ぐはし。楠の二本。あゝ絶せじ。
  みなと川。浪の音も。身にぞしむ
  なる。其あはれその功績。忠臣
  嗚呼忠臣。兄弟の人。忠臣あゝ
  忠臣。たぐひなや。
二 嗚呼かぐはし。花の二もと。あゝうるはし。
  芳野やま。ちりはてゝ世にこそ残れ。
  そのうたと。そのまこと。忠臣
  あゝ忠臣。兄弟のひと。忠臣嗚呼
  忠臣。たぐひなや。



第八十 千草の花

一 千草の花は。露をそめ。野中の
  水は。月やどる。そまらぬいろと。空の
  かげ。はかなきものか。よの中は。
二 錦をよそふ。萩の花。もみぢを
  さそふ。夜はの霜。夢野のあとゝ。
  消ゆかば。木枯ばかり。あれぬべし。
三 はかなきものを。誰めでん。きえゆく
  ものを。たれとはん。跡あるものは。筆
  の花。かをりをのこせ。後のよに。



第八十一 きのふけふ

一 きのふけふと。思ひしを。春は過て。
  夏来ぬ。雁はかへり。燕きぬ。君は
  ゆきて。かへらず。かへれ/\。/\とく。
  あはれ/\。わが友。花は散りて。あと
  もなく。空しき枝に。風ふく。
二 松は常磐。竹は千代。人の世のみ。
  つねなし。雪にほゆる。薬さへ。人の
  世には。かひなし。かへれ/\。/\とく。
  あはれ/\。わが友。君をおきて。友
  もなし。たちつゝゐつゝ。わがまつ。



第八十二 頭の雪

一 草木にのみと。おもひしを。春秋
  とほく。へだゝれば。隔てぬ君が。
  頭にも。ふりけるものか。雪と霜と。
二 面のなみを。みあげても。久しき
  としは。しられたり頭の雪の。光り
  にも。みえけるものを。高き齢。



第八十三 さけ花よ

一 さけ花よ。さくらの花よ。
  のどけき春の。さかりの時に。
  さけ花よ。桜のはなよ。
二 ふけかぜよ。春風ふけよ。
  さきたる花をちらさぬほどに。
  ふけ風よ。はるかぜふけよ。
三 なけ蛙。やよなけかはづ。
  すみゆく水の。にごらぬ御代に。
  なけかはづ。やよ鳴け蛙。
四 なけ鳥よ。うぐひすなけよ。
  さきたる花の。さかりの春に。
  なけとりよ。鶯なけよ。
五 やよ人よ。ひと/\うたへ。
  鶯かはづ。うたをぱうたふ。
  やよ人よ。ひと/\うたへ。



第八十四 高嶺

一 たかねをこえて。
  日はいでにけり。
  わがなすわざを。
  たすけむため
  に。日はいでに
  けり。
二 つき日のかげは。
  わが身のまもり。
  空しくなすな。
  しばしのひまも。
  つとめよはげめ。



第八十五 四の時

一 よつのとき。ながめぞ
  つきぬ。春ははな。
  おりなす錦。あきは
  月。ますみのかゞみ。
  なつごろも。かとりも
  すゞし。冬のあさけ
  雪もよし。ひとの
  世の。たのしきものか。
  神の恩。国のおん。
  君の恩。わするな人。



第八十六 花月

一 花を見る時は。こゝろいとたのし。
  心たのしきは。花のめぐみなり。
二 月をみる時は。心しづかなり。
  こゝろ静けきは。月の恵なり。
三 よきをみて移り。悪をみてさけよ。
  朱に交はれば。あかくなるといふ。



第八十七 治る御代

一 治る御代の。春の空。たゞよふ雲も。
  はれにけり。晴るゝみそらの。その
  雲は。めぐみの風に。はるゝなり。
二 治るみよの。春の風。千里の外に。
  みてるなり。みてるめぐみの。風に
  こそ。青人草は。さかゆらめ。



第八十八 祝へ吾君を

一 祝へ吾君を。恵の重波。やしまに
  あふれ。普ねき春風。草木もなびく。
  いはへ/\。国の為。わが君を。
二 祝へ吾国を。瑞穂のおしねは。野もせ
  にみちて。しろかね黄金。花咲栄ゆ。
  いはへ/\。君の為。わが国を。



第八十九 花鳥

一 山ぎはしらみて。雀はなきぬ。はや疾く
  おきいで。書よめわが子。書よめ吾子。
  ふみよむひまには。花鳥めでよ。
二 書よむひまには。花鳥めでよ。鳥なき
  花咲。たのしみつきず。楽みつきず。
  天地ひらけし。始もかくぞ。



第九十 心は玉

一 こゝろは玉なり。曇りもあらじ。
  よる昼勉めて。みがきに磨け。
二 蛍をあつめて。まなびし人も。
  ひかりは其まゝ。身にこそそはれ。
三 月影したひて。学びし人は。
  ひかりをうけえて。世をこそ照らせ。



第九十一 招魂祭

一 こゝに奠る。君が霊。蘭はくだけて。
  香に匂ひ。骨は朽ちて。名をぞ残す。
  机代物。うけよ君。
二 此所にまつる。戦死の人。骨を砕くも。
  君が為。国のまもり。世々の鑑。
  光りたえせじ。そのひかり。



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