篆刻・遊印(深沢秋男所蔵)

1 深/蔵書/澤 2 深澤/蔵 3 深澤/蔵印 4 深澤/蔵印 5 氏/従拝受〔深〕/年月日 6 我心在/古典
7 我心在/古典 8 我心在古典 9  /我心在古典/  10 人間探究 11 人間/探究 12 人間/探究
13 人間/探究 14 人間探究 15 實事/求是 16 實事/求是 17 實事/求是 18 實事求是
19 實事求是 20 願讀/人間未/見書 21 好古/成癖 22 有所/不為 23 一事不/成両/鬢糸 24 莫若/書籍
25 盈而/不溢 26 體道/不倦 27 花意/竹情 28 馳神/運思 29 獨樂/其志不/厭思道 30 朽木不/可雕
31 改過/不吝 32 行素/夢/常情 33 安貧/樂道 34 書不可/妄讀 35 書不可/妄讀 36 無所不/用其極
37 地不長/無名之/艸 38 存生不/可言 39 朝聞/道夕/死可 40 存生不/可言 41 萬巻/蔵書/宜子弟 42 校書如/掃塵
43 瀟灑/林書瞑 44 後生/可畏 45 他山/之石 46 録而/不作 47 間/是宝 48 焉/用佞
49 勉而/壱 50 好書/到手不/論銭
その他1 その他2 その他3 その他4 その他5 その他6
その他7 その他8 その他9 その他10

  

1,蔵書印(WEB日記,2000年8月10日,より)
●私も少し蔵書が貯りだした頃,蔵書印のことが,チラチラと頭に浮かんだ。しかし,町のハンコ屋さんで彫ってもらう気はしなかった。まして,書店などで売っているゴムのものなど問題外であった。かといって,プロの篆刻家にお願いする身分でもなかった。
●大学卒業以来だから,35年間も続いている,池袋の土曜会なる,何の目的も無いグループがある。第3土曜日に,都合のよい者が集まる。メンバーに資格は要らない。学歴も年齢も職業もバラバラ。ただ,1人1人が何かに取り憑かれている,そんなグループであった。多分,中心は仲小路彰の教え子・大久保力雄氏だったと思う。何か,森銑三先生の三古会に似ていた。
●その中に,トガシという人がいた。塗料か何かの会社で頑張っているそうであった。趣味は詩吟で,これは定評があり,玄人の域に達していた。知り合って10年以上も経った頃,石をカジッている,と耳にした。私はオダヤカではいられなくなった。時間をかけて印影集を閲覧させてもらうところまで漕ぎ着けた。
●私も,集まりの度に,様々な印譜集や蔵書印集を持参して,機の熟するのを待った。兎に角,トガシさんの印影はミゴトであり,今,ハバを利かせている印譜協会の方々の作品に比して,決して見劣りはしない。聞くと,協会には意識して入らないとのこと。さもありなん,と納得。
●折をみて,恐る恐る,ヒトツ蔵書印を,と切り出してみた。案の定,余りヨイ顔色では無かったが,引き受けてくれた。こちらの希望は,20ミリの方形で「深沢蔵書」ということのみで,あとは,何も言えなかった。何時出来るかもわからなかった。3ケ月位経って,印影のみ見せてくれた。私は,即座に気に入り,頂くことにした。
●モンダイは謝礼である。金で彫るのではないから,石代だけでよい,と言われた。石の程度も分からない。私は,芸術家に対して失礼にならないような謝礼をした。こんなイキサツで私は,念願の蔵書印を持つことが出来た。小さいものであるが,気に入っていて,自分の蔵書として恥ずかしく無い本にのみ,この印を押している。

2,篆刻(WEB日記,2000年8月11日,より)
●トガシさんの篆刻家としての雅号は〔省艸(せいそう)〕という。冨樫さんは酒田の産で,漢籍の世界に通じていて,キビシイ処世観の持ち主であった。ちょっと近寄りがたいところはあるが,根は温かく,情に厚い方であった。蔵書印に味をシメテ,氏・名,と進み,やがて遊印の世界へ広がっていった。
●現在,私の手元には,冨樫省艸刻のものを主体とした篆刻遊印が,オヨソ400本はある。日本橋の丸善に森林楽の仕様で特注したケースに入れてある。大小様々であるが,数はそれ位ある。しかも,冨樫氏のものは,殆ど袴(ハカマ)付きである。そして,石の磨きも印面のみでなく,全体が正確な立方体ではなく,丸みを帯び,少し変形し,温かく磨き上げられている。市販の石に生命が吹き込まれたように感じる。
●冨樫氏は,深沢は貧乏学者だから,金は要らない,気持ちだけでイイ,その分,金持ちからもらうヨ ,と言って,私の希望を叶えてくれた。私の研究する斎藤親盛(如儡子)が冨樫さんと同じ酒田の奉行の子であった,という点で好意を持っていてくれたのかナ,と今は思ったりしている。私は失礼のないように対応してきた。冨樫さんはお酒が大好きで,特に洋酒を好んだ。私は専ら三越のオールドパーを活用していた。印文は私が古典の中で出会ったもので,しかも冨樫さんが納得したもののみ彫ってくれた。私は常に冨樫さんにテストされていた事になる。また,冨樫さんの印影を見せてもらい,気に入ったものをお願いしたりもした。私としては,身に余る道楽であったが,これらの印文から生き方を学んだ点も多い。感謝,感謝,感謝。

3,篆刻・2(WEB日記,2000年9月11日,より)
●冨樫氏の篆刻作品は見事である。私も蔵書印譜など多く見ているが,見劣りは決してしない。40年間も彫り続けて,その数も膨大なものであった。
●我々,池袋土曜会は,「省艸印譜刊行会」を設立して,平成4年12月12日,『省艸印譜』を刊行した。限定30部,収録印は,厳選して144点。全て,中国,西玲印社の印泥による手押し。和装本で,匡郭・丁付・題簽は木版,印文等は全て活版。
●寄贈先は,国立国会図書館・都立中央図書館・東大・京大・芸大・武蔵美・多摩美・早稲田・慶応・明治・法政・立教・昭和女子等の図書館である。明治時代には三村竹清などとという粋人がいて,見事な印譜集を残しているが,この『省艸印譜』もキッと,後世の人々の目を楽しませてくれるものと確信している。本サイトでは,いずれ,この『省艸印譜』の紹介もしたいと思う。

以下,各印について,簡単な注を付す。(印材は,注記の無い場合,中国産の石である)
1=「深/蔵書/澤」方形陽刻(蔵書)・陰刻(深澤)混合,20ミリ×20ミリ。中央に陽刻で「蔵書」,左右の「深」「澤」のサンズイは旁の中に組み込まれている。深沢の第1蔵書印で,自分の蔵書に相応しい本のみに押している。
2=「深澤/蔵」陽刻方形,20ミリ×20ミリ。
3=「深澤/蔵印」陽刻方形,25ミリ×25ミリ。
4=「深澤/蔵印」陽刻方形,24ミリ×24ミリ。
5=「氏/従拝受〔深〕/年月日」陽刻縦長方形,43ミリ×28ミリ。本を寄贈された場合に押して,寄贈者と年月日を書き込む。
6=「我心在/古典」陽刻方形,40ミリ×40ミリ。神田の古書店で頂いた短冊から。
7=「我心在/古典」陽刻方形,38ミリ×38ミリ。
8=「我心在古典」陽刻縦長方形,45ミリ×23ミリ。
9=「 /我心在古典/ 」陽刻方形,39ミリ×39ミリ。指導した卒業論文の末尾におす。右に題目,左に面接諮問実施日を書き込む。
10=「人間探究」陽刻縦長方形,90ミリ×22ミリ。文学研究の目標として,恩師・重友先生からお教え頂いたもの。
11=「人間/探究」陽刻方形,23ミリ×23ミリ。
12=「人間/探究」陽刻方形,24ミリ×24ミリ。
13=「人間/探究」陽刻方形,23ミリ×23ミリ。
14=「人間探究」陽刻縦長方形,30ミリ×14ミリ。
15=「實事/求是」陰刻縦長方形,46ミリ×30ミリ。研究姿勢として,実践を目指している。天理図書館入口の額にある。木村三四吾先生からのアドバイスも頂いた。中国浙江大学の校訓は「求是」であった。
16=「實事/求是」陽刻縦長方形,45ミリ×29ミリ。
17=「實事/求是」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。平成7年の年賀状に使用。前年に中国旅行をして浙江大学を訪問。
18=「實事求是」陽刻縦長方形,22ミリ×8ミリ。
19=「實事求是」陽刻縦長方形,18ミリ×8ミリ。
20=「願讀/人間未/見書」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。平成6年の年賀状に使用。新しい資料にめぐり合いたいという願望を込めた。
21=「好古/成癖」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。平成8年の年賀状に使用。
22=「有所/不為」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。平成9年の年賀状に使用。平成8年4月,国語国文学科の学科長となる。
23=「一事不/成両/鬢糸」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。晩年の年賀状に使用する事になると予測される印文。
24=「莫若/書籍」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。平成10年の年賀状に使用。人の神智を益するは書籍に若くは莫し。とかく実用が重んじられ,書物が軽んじられている。
25=「盈而/不溢」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。
26=「體道/不倦」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。道を追究してあきることがない。
27=「花意/竹情」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。なにやら,己に通うが如し。
28=「馳神/運思」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。
29=「獨樂/其志不/厭思道」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。平成15年の年賀状に使用。『礼記』の「楽記」第19にある。独り其の志を楽しんで,其の道を厭わず。つぶさに其の道を挙げて,其の欲を私せず。こんな調子で1年を送りたいものと。
30=「朽木不/可雕」陰刻方形,24ミリ×24ミリ。
31=「改過/不吝」陰刻方形,24ミリ×24ミリ。
32=「行素/夢/常情」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。
33=「安貧/樂道」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。
34=「書不可/妄讀」陽刻方形,25ミリ×25ミリ。
35=「書不可/妄讀」陽刻方形,29ミリ×29ミリ。
36=「無所不/用其極」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。
37=「地不長/無名之/艸」陽刻方形,35ミリ×35ミリ。
38=「存生不/可言」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。いずれは発信したい印文。
39=「朝聞/道夕/死可」陰刻方形,34ミリ×34ミリ。
40=「存生不/可言」陰刻方形,20ミリ×20ミリ。
41=「萬巻/蔵書/宜子弟」陽刻方形,40ミリ×40ミリ。
42=「校書如/掃塵」陰刻縦長方形,40ミリ×18ミリ。長年古典の校訂・校注の仕事をしてくると,切実に感じる。
43=「瀟灑/林書瞑」陰刻方形,25ミリ×25ミリ。
44=「後生/可畏」陰刻方形,20ミリ×20ミリ。
45=「他山/之石」陰刻方形,25ミリ×25ミリ。
46=「録而/不作」陰刻方形,25ミリ×25ミリ。論文もかくありたきもの。
47=「間/是宝」陰刻方形,30ミリ×30ミリ。平成14年の年賀状に使用。14年から15年にかけて,まさにこのような時間が経過している。「間」は誠に大切なもの。その「間」を活かすか空費するか。
48=「焉/用佞」陰刻方形,35ミリ×35ミリ。誠に厳しい。
49=「勉而/壱」陽刻方形,30ミリ×30ミリ。平成12年の年賀状に使用。
50=「好書/到手不/論銭」陰刻方形,35ミリ×35ミリ。


深沢秋男