深沢秋男研究室 -4仮名草子研究4

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仮名草子研究5

目  次
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深沢秋男
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1、 はじめに

 仮名草子の研究は近代から始まった、という暗黙の了解があるように思われる。確かに『万葉集』や『古事記』や『源氏物語』等の如く、近世の人々は、同時代の著作の故か、仮名草子を確たるジャンルとも意識せず、これを分析したり、解明する対象とはしてこなかったようである。
 しかし、同時代においても、浅井了意の『可笑記評判』などは『可笑記』の出典を少なからず指摘しているし、近世後期の考証随筆類には、少なからず、考証の拠所に仮名草子作品を利用している。『瓦礫雑考』・『還魂紙料』・『嬉遊笑覧』・『近世女風俗考』・『骨董集』・『書檜贅筆』・『用捨箱』・『擁書漫筆』・『柳亭記』・『柳亭筆記』・『歴世女装考』などは、その一例に過ぎないが、これらから研究上のヒントを得ることもある。このように考えると、近世の様々な著作も、仮名草子研究に寄与している点があり、これらは尊重されるべきものと思う。

2、 近代の仮名草子研究

 近代の仮名草子研究の全貌については、『仮名草子研究文献目録』(深沢・菊池共編、2004年12月、和泉書院)によって知る事ができる。この目録では、仮名草子作品も全て収録しているが、現在、仮名草子作品の範囲が確定している訳ではない。この点に関しては、広義に解釈する説と、小説的な作品に限定するという狭義の説があり、今後検討しなければならない、大きな課題である。
 私が仮名草子研究を始めた、昭和30年代は、180点弱の作品が仮名草子として扱われていた。しかし、現在『仮名草子研究文献目録』の「第一部 仮名草子作品」に掲げられる作品は、ざっと数えても380点に達する。これは、なにも数の多いのを誇っているのではない。明治以後の研究の結果がこのようになった訳である。
 仮名草子の対象を、狭義の説に従って処理した場合、近世初期の大啓蒙期に、続々と書かれた著作の大部分が削除され、仮名草子作品の数が減少するだけでなく、結果的には、この時代の文化的潮流の全貌が把握できない事となる。
 近代の仮名草子研究の道を拓いた水谷不倒氏は、「仮名草子」を次の如く定義された。

  「仮名草子の名称
 寛文時代に行はれたる草子類は、学識ある人々が一般の知識を啓発せんとの目的にて、漢書、経文、さては古文等の案を翻し、または其の侭、仮名の読み易き文章に更めて紹介したるにあり。これを通例かな草子と呼べり、蓋しいかなる草子も、仮名文にて綴られざるはなきに、ひとり此の時代の草子のみに此の名目を附するはやゝ穏かならざるに似たれど、古文は仮名文なれども、ことば雅にして一般に読ましむる目的にあらず。又元禄以降は、草子類も段々六ケ敷真字を交ふることとなり、其れに傍訓を施して、婦女子にも読み易からしめたれども、寛文ごろの草子は、日常用ふる最も容易き文字の外は、成べく真字を避けて仮名を使用し、其の目的全く文学の普及にあれば、特に此の時代の草子をかくは名づけしなり。」(『近世 列伝躰小説史』)

 水谷氏は、この定義のもとに、以下、如儡子の『可笑記』『百八町記』、鈴木正三の『盲安杖』『麓草分』『因果物語』『破吉利支丹』『二人比丘尼』『念仏草紙』『万民徳用』、山岡元隣の『誰が身の上』『小卮』、浅井了意の『孝行物語』『堪忍記』『本朝女鑑』『大和二十四孝』『新語園』『可笑記評判』『浮世物語』などを取り上げて論じておられる。
 仮名草子の研究は、以後、この水谷氏の定義に従って、明治・大正・昭和・平成と続けられてきたが、この「仮名草子」は、文学のジャンルから見るならば、複合ジャンルの如き性質を持っている。そこから、様々な分類がなされたり、この定義への批判も出されてきている。
 仮名草子の範囲を考える場合、様々な条件が浮かび上がる。御伽草子(上限)や浮世草子(下限)との関係、遊女評判記・役者評判記との関係、軍書・軍学書との関係、名所記・地誌・紀行との関係、教訓書・女性教訓書との関係、仮名仏書・仮名儒書との関係、古典等の注評釈書との関係、翻訳物・翻案物との関係等々が、一応考えられる。また、実利・実用的な要素と文芸的要素の関連も、啓蒙期の文芸を取り扱う場合には特に留意しなければならないと思う。
 しかし、現時点で、仮名草子を分解するという説は、時期尚早であると考える。前述の如く、近世初期は、長い戦乱の後に訪れた、大啓蒙期にあり、百科全書家が時代をリードし、新しい文化の生成に努めた時期であったのである。文化は混沌とし、未分化であった。この時代思潮は慎重に扱う必要がある。
 また、仮名草子と目される、各作品の研究も十分行われているとは思われない。いずれかと言えば、代表的な作品に集中している傾向がある。現在では、なお、水谷不倒氏が「仮名草子」と命名した路線に従って、全作品の調査・分析を行い、全体像を明らかにする事が重要であると思う。その後に分解しても、決して遅くはない。当分の間は、仮名草子を広義に解釈して研究を進めたいと思うのは、このような、現在の研究段階を考慮してのことである。
 明治以降の仮名草子研究を概観してみると、必ずしも活発であったとは言えない。明治39年から昭和30年頃の約50年間に発表された論文はおよそ150点、単純計算しても年間3点の論文しか書かれていない。
 ところが、昭和31年から40年の10年間には182点の論文が発表されている。これには、昭和35年・37年刊の、野田寿雄氏校注の日本古典全書(朝日新聞社)『仮名草子集(上・下)』2冊が大きく影響しているものと思われる。昭和37年に卒論を提出し、最初の論文を39年に発表している私は、まさにこの時期にあった。今、振り返ってみても、この野田氏の仮名草子作品への最初の校注は、我々若い研究者にとって、大きな励みとなった。
 近代に入り、仮名草子研究の道を拓かれたのは、『近世 列伝躰小説史』(明治30年)、『仮名草子』(大正8年)、『新撰列伝体小説史 前編』(昭和4年)などの労作を残された水谷不倒氏であり、戦後の低調な研究を軌道に乗せられたのは、昭和22年「仮名草子の世界」(『国語と国文学』7月)を発表し、仮名草子作品に初めて校注を施された野田寿雄氏であったと言ってよいだろう。
 仮名草子作品の本文研究では、昭和47年から刊行開始した『近世文学資料類従』が画期的なものであった。これは、前田金五郎氏・横山重氏の企画で勉誠社から出されたが、仮名草子編全39冊、古板地誌編全21冊、その後刊行された遊女評判記集をも含めると、実に80余作品を収録している。この出版が、以後の仮名草子研究に与えた恩恵は大きなものであった。
 次に注目されるのは、朝倉治彦氏の『仮名草子集成』(東京堂出版)であろう。昭和55年に第一巻を刊行し、平成17年までに38巻を出版している。仮名草子作品を網羅的に翻刻して収録するという、遠大な計画のもとにスタートして、ほぼ五十音順に刊行している。38巻には『女訓抄』が収録されたが、この出版計画の完結が望まれる。
 仮名草子の本文の研究に限ってみると、以上の二つの叢書が注目されるが、その他にも、翻刻・校注・現代語訳など、諸先学の地道な研鑽が続けられてきた。これらに関しては、仮名草子全体の課題や研究の状況と共に、かつて、少し詳細に述べた事がある。「仮名草子研究の現状」(『文学研究』59号、昭和56年9月)、「仮名草子の範囲と分類」(早稲田大学蔵資料影印叢書『仮名草子集』月報43、平成6年9月)、「仮名草子」(『日本古典籍書誌学辞典』1999年3月)等を参照して頂けるなら幸いである。

3、 採録の単行本

 既に述べたように、明治以降の仮名草子の研究は、必ずしも活発ではなかった。殊に、仮名草子研究として単行本で出版される事は稀であり、多くは、日本文学史、近世文学史の中の一部分として言及・論及される事が多い。また、この度の叢書に採録するにあたっても、様々な問題があり、何回か改めて、この書目が決定した。その点、編者としては不本意な点も無い訳ではないが、結果的にこれだけの、先学の労作を収録 できた事に、一応満足している。                                                  
 『単行本記述集成(一)』には、明治30年5月発行の水谷不倒氏の『近世 列伝躰小説史にをまず収録した。奥付の著者には、坪内逍遥も列記されているが、水谷氏の執筆したものを坪内に校閲してもらったものである。水谷氏には、『東京専門学校 文学科第一回二年級 講義録 参考科目』があり、その中の「徳川小説史要」は「凡例/序論/第一期 万治寛文/仮名草子/其一 教訓体/其二 仏教趣味の諸作/其三 心学もの/其四 翻訳」等の内容を収めている。これをもとにして執筆公刊したのが『近世 列伝躰小説史』であろうと思われる。文字通り、本書が仮名草子研究の出発点になったと言ってよいだろう。
 明治39年に、朝倉無声の『新修日本小説年表』。があるが、昭和4年に、これを底本にして、山崎麓が編纂したのが『日本小説書目年表』である。さらに、昭和52年には、書誌研究会が、頭注の形式で増補修正を加えた『改訂日本小説書目年表』を刊行した。現在では、この年表が最も信頼できるものと思われるので、これを『単行本記述集成(三)』に収録する事にした。
 津田左右吉氏の『文学に現はれたる我が国民思想の研究』は仮名草子の研究書ではないが、この時期の文学を広く読み、その時代思潮を的確に述べているという点で、実に有益な著書と思われるので収録する事にした。その意味では、和辻哲郎氏の『日本倫理思想史』なども参照すべきであると思われる。どの時代も同じであるが、特に仮名草子のこの近世初期は、単に文学そのものだけでなく、歴史・思想・出版関係の著作も参照して、合わせ研究してゆく必要がある。そのような意味で、易しい文章でありながら、豊かな内容を持つ津田氏の著作を収録した。
 『単行本記述集成』の各巻についての、個別的な説明は必要ないと思われるが、編者としては、最初、水谷不倒氏と野田寿雄氏に関しては、別に一括して、水谷氏では、『近世 列伝躰小説史』、『仮名草子』、『新撰列伝体小説史 前編』を収録し、野田氏では、『近世小説史論考』、『近世文学の背景』、『近世初期小説論』、『日本近世小説史 仮名草子篇』を収録したいと希望していた。また、北条秀雄氏の『浅井了意』も収録したい名著であった。この著書については、その後、昭和47年に改訂版が出ている。これらの原案に関しては、様々な条件が関連して、今回は収録する事が出来なかった。さらに、ごく一部であるが、著作権の関係で採録出来ないものもあった。以上の点に関しては、別の機会があれば考慮したいと思う。

 『仮名草子研究叢書』を編纂するにあたって、著作権所有者をはじめ、多くの方々の御理解と御高配を賜った。ここに記して深甚の謝意を表します。
 この叢書編纂の話は、一昨年の暮に朝倉治彦氏から依頼された。私も前々から考えていた事であったので、喜んでお引き受けした。ただ、文献を改めて調査したり、選択する作業は、意外に労力の必要な仕事であるため、『仮名草子研究文献目録』の共編者、菊池真一氏に御協力をお願いした。雑誌関係は菊池氏、単行本関係は深沢と、一応分担したが、多くは菊池氏の御高配に負う結果となった。このような機会を与えて下さった朝倉氏の御厚情と共に、菊池氏の御協力に対して、心から御礼申上げます。

『仮名草子研究叢書』全8巻、深沢秋男・菊池真一 編、2006年2月25日、クレス出版発行  








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