『表紙裏反古を国文学研究資料として活用する方法の開発を目ざす研究』  
(科学研究萌芽研究 平成19年・20年度 研究成果報告書)
    渡辺 守邦 著

            平成20年3月30日・実践女子大学文学部発行
            B5判・166頁・非売品

目  次

緒言 ………………………………………………………………………   1

第一章 表紙裏反古の諸問題 …………………………………………   5
    参考図版 ………………………………………………………  35

第二章 ワークショップ報告「表紙裏から反古が出た」 …………  67
    参考図版 ………………………………………………………  87

第三章 表紙裏反古の保存法について ……………………………… 125
                                    
第四章 寛永二十年版『黒谷上人語燈録』の表紙裏より抽出された宗存版
                   小山 正文 …………… 143
    参考図版 ……………………………………………………… 155

ワークショップ参加者名簿 …………………………………………… 164


                                         
緒言

 近世初期の板本で体験することであるが、表紙が破損したり綴じ糸が
切れて、表紙と見返しとの間に隠れていた墨書きやら版刷りの異物を見
出したりする。どうやらこの異物は表紙の裏側に貼りつけ補強材として
用いられた反古らしい。そして反古を使ったこの補強法は、出版業が発
展し業態を軌道に乗せるとともに、芯紙という厚みと弾力性を備えた補
強材を使う新方式に使命を譲って衰退する。反古紙から芯紙への転化は
出版部数の増加に伴う本作りの標準化の一環として、寛永から正保慶安
にかけての時期に進行したもののようである。
 補強材として表紙の裏側にひそむ反古を仮に表紙裏反古と呼ぶことに
しよう。表紙裏反古は、それゆえ、出版業が安定する以前特有の存在で
あり、反古という異物のひそむ表紙裏は出版の揺籃期特有のもろもろを
封じ込めたタイム・カプセルであった。版刷りの反古からは手探り状態
で出版された稀覯本や小規模の刊行ゆえに後世に伝存しなかった本の片
鱗が出現するかもしれない。また墨書の反古は出版事情に関わりある文
書であるかもしれない。これを研究の資料として活用しないまま見過ご
すことが許されようか。
 これは右に述べた趣旨から発足した「表紙裏反古を国文学研究資料と
して活用する方法の開発を目指す研究」と題する科研の研究報告書であ
る。筆者はこのテーマですでに試行的な実験を重ね、その中間報告とし
て成果を公表した経験を持つ。今回の科研では、この中間報告を出発点
に、このテーマに関心を寄せ知見を持つ専門家・研究者を招いて検証を
お願いし、浮かびあがった諸問題を公表して広く江湖の批判を仰ぐこと
とした。
したがってこの報告書は次のような構成を採る。

  一、表紙裏反古を研究資料として活用する提言
  一、ワークショップ「表紙裏から反古が出た」の報告
  一、表紙裏反古の保存法
  一、関連論文
一、	ワークショップ参加者名簿

 最初に載せた提言が先に触れた中間報告、すなわち学内の研究所が内
部を対象に行った初発的なワークショップの報告書である。今回の研究
はこの報告書に述べたところを基調に継承発展させたいと考え、その全
文を転載した。
 二番目のワークショップとは右の提言に即して検証・追試を行うべく、
広く学内外から参会者を招いて実施したもの。つまりここからが今回の
科研の範囲である。二年と限った研究期間内に三回の会合を持つことが
できた。その一回づつを報告のかたちでまとめてみた。
 その次は調査し記録の済んだ反古の処理について、たまたま出合った
実例に即しつつ考えを述べてみた。表紙から反古を採り出すこと自体は
それほど難しくない。難しいのは研究を終えた後の反古の扱いである。最
善の策は原態への復帰つまり表紙にもどしてやることなのであろうが、こ
れはそれほど簡単ではない。今回の第一回ワークショップでは表紙への
復帰を断念し、次善の策を採る仕儀となった。そんな騒ぎの最中に、あ
る図書館で、反古の保存と公開に折合いをつけようとする表紙の補修例
に出合い、難問の一つの解決法と考え、そのあたりのことを報告してみ
た。
 四番目の関連論文には、第一回のワークショップで表紙裏から多数葉
の出現した宗存版一切経の反古について、経典研究の視点からまとめて
くださった小山正文氏のご論考を載せた。申すまでもなかろうが小山氏
は宗存版研究の最前線に立つ仏教学者、お勤め先の紀要に寄稿された論
文の転載である。
 第一〜第四部と仮称する右の四論文・報告に、第三部をのぞいて参考
図版を付載し、出現した反古を掲出した。調査と記録を終えた後、反古
は原則として表紙裏にもどされ、再び日の目を見ることはない。それゆ
えその画像は信頼するに足る媒体に保存を委ねるべきであろう。このよ
うに考えて銀塩フィルムを使って記録に留めた。参考図版に掲げた写真
がそれである。蛇足ながら申し添えれば、銀塩フィルムは永久保存が保
証された数少ない記録媒体である。
 参考図版の写真は銀塩フィルムによっているが第一回ワークショップ
の反古はその限りでない。第一回ワークショップの参考図版は小山論文
の参考図版を兼ねる。小山論文が紀要に発表された時点では、反古の調
査と整理とに時問を取られて、銀塩フィルムによる撮影を業者に発注す
る段階に至っていなかった。それゆえ作業用に撮ったデジカメの画像を
使っていただいた。小山論文の再録に当り、反古の写真を差し替えるこ
とになって、はたと気が変った。幸か不幸か、第一回ワークショップの
反古は今もって一葉ごと台紙に貼った状態にあるので、今回、これを印
刷所の高性能スキャナーに読み込ませてみるのも一興ではないか。デジ
カメ、スキャナー、フィルムの差が印側面に現われることは期待できそ
うになく、その差を識別する眼識が私に備わっているとも思えないが、と
にかく実験をしてみることにした。
 最後にワークショップ参会者の名簿を載せて謝意の一端とした。また
併せてワークショップ開催の縁の下の力持ち役を勤めてくださった近世
ゼミの皆さんの名前も載せさせていただいた。
 なおこの報告書はそれぞれの時点でそれぞれの必要からまとめた文章
の寄せ集めとなった。その結果、構成が統一を欠く。また内容の重複す
る箇所があったり、長さもまちまちだったりする。しかしそれをあえて
推し進めたのはそれぞれの場における臨場感を大切したいと願ったがゆ
えである。ここに、お見苦しい出来栄えをご寛容くださるように冀う次
第である。

                                   
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