『藤井文政堂板木売買文書』(日本書誌学大系 97)

        永井 一彰 著

               平成21年6月15日 青裳堂書店発行

               A5判 404頁、22000円+税


  目 次

はじめに …………………………………………………………………   1


翻刻・図版


藤井文政堂板木売買文書 ………………………………………………   5

文政堂蔵板目録 ………………………………………………………… 166

明治期板賃の控 ………………………………………………………… 175

竹苞楼蔵板員数 ………………………………………………………… 182


解題


第一章	文書の概要―軒前・板賃等― ……………………………… 251

第二章	板木売買の現場 ……………………………………………… 299

第三章 引当・差入れ・売戻し ……………………………………… 311

第四章	 代金不記の文書 ……………………………………………… 327

第五章	 同年・同月付文書 …………………………………………… 331

第六章	 本居物一件 …………………………………………………… 336

第七章	 重類板の処理 ………………………………………………… 357

第八章	 願株の売買 …………………………………………………… 374

第九章	 焼株の売買 …………………………………………………… 378


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 はじめに


 現在も京都寺町通五条上ルで営業を続けておられる藤井文政堂は代々山城屋
佐兵衛を名乗る近世以来の古書肆である。現六代目当主藤井聲舟氏の談によれ
ば、本屋を創業した初代は文化九年卒、安政六年に没した二代目の時代に文政
堂と称するようになり、現在に至っているとのこと。初代は蛸薬師通高倉西人
ルに店を構えていたが、二代目に三条通麩屋町角に移り、その後寺町四条下ル
を経て現在地に移ったのは嘉永ごろ、というのも現当主のお話である。
 京都の古くから続く書肆には板木をはじめ近世以来の出版史料を保存してい
る店が少なくはなく、文政堂にも板木・文書・蔵板目録・伺本・版下本など多
くを蔵する。「こんなものがあります」と、聲舟氏からそれらの諸史料を提示
されたのは、平成十年のこと。きっかけになったのは、戦後に御当主の御存知
ないまま文政堂から流失した板木約五百枚がたまたま奈良大学へ入ることにな
り、その中から寛政版『おくのほそ道』の板木が一枚出て来たことによる。そ
の関連の文書が残っていはしまいかと考えた私が初めてお店を訪ねた折に、聲
舟氏が諸史料を提示されたのであった。その折に文書・蔵板目録などを拝惜し
て帰り、それらの読解を進め、現在に至っている。近世期京都の出版史料につ
いては宗政五十緒氏が精力的に渉猟され、それらの成果は『近世京都出版資料』
(昭和四十年、日本古書通信社)『京都書林仲間記録』(昭和五十二年、ゆま
に書房)『近世京都出版文化の研究』(昭和五十七年、同朋社刊)などに纏め
られている。氏は文政堂関係の史料調査をも意図されたことがあったらしいが、
結局触られることはないまま故人となられた。
 その文政堂蔵出版史料の中で、板木もさることながら、特に注目すべきは百
二十通余りの板木売買文書及びその関連文書である。宗政氏の報告の中にも、
板木売買文書のことは見えないし、また京都のそれについて他に纏まった報告
も聞いていない。おそらくは近世期の本屋仲間の間で日常的に夥しく遣り取り
されたはずの文書で、百二十通余というのは大海の一滴にも相当しないのであ
ろうが、それでも当時の出版業界の在りようを垣間見せてくれる史料ではある。
そこで、この著では文政堂蔵の板木売買文書を全点の図版を添えて翻刻し、些
かの考察を加えるとともに、関連の『万延元年庚申卯月改正文政堂蔵板』『明
治期板賃の控』(仮題)、それに竹苞書楼の佐々木惣四郎からお預かりしてい
る史料の内から『蔵板員数』なども併せて紹介することとした。
なお、文政堂現蔵の板木約五百枚についてはその後奈良大学に搬入し、大学で
購入した分と合わせて合計千枚ほど、それに京都市内の印章店数店に収まって
いる二百枚余りを併せて調査を進め、ようやく仮目録らしきものを作成したと
ころである。これらの板木は近年奈良大学に収まった竹苞書楼旧蔵の板木約二
千四百枚、それに大阪の中尾松泉堂から引き取った高野版の板木約四百枚と共
に、立命館大学アートリサーチセンターとの共同研究でデータベース化の作業
が始まっており、その完成を待って公開を考えている。文政堂の伺本・版下本
なども大層興味深い史料ではあるが、今のところそこまで手を広げている暇が
なく、また別の機会に譲りたい。

 文政堂文書の読解については、奈良大学教授鎌田道隆氏、三重大学名誉教授
酒井一氏、それに神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター研究員石川道
子氏に御教示を仰いだ。ここに記して謝意を表する。また、日本書誌学大系の
一冊として出版を快諾された青裳堂主にも御礼を申し上げたい。
 なお、この著の出版に際しては平成二十一年度奈良大学出版助成を受けてい
る。


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