『文学的視線の構図  梶木剛 遺稿集』
 
  梶木 剛 著

           2011年5月19日・深夜叢書社発行
           四6判、478頁、定価3500円+税



   目  次


I 文学に関する断片 ………………………………………    5

   文学に関する断片 ……………………………………    7
   陸●南という存在 ……………………………………   34
   柳田学と折口学 ………………………………………   84

U 斎藤茂吉紀行 ……………………………………………  119

   斎藤茂吉雑談 …………………………………………  121
   『あらたま』の輝き …………………………………  125
   藤岡武雄『書簡にみる斎藤茂吉』 …………………  133
   土屋文明一面 …………………………………………  136
   西方国雄黄金風景 ……………………………………  145

V 正岡子規紀行 ……………………………………………  177

   子規雑事手控 …………………………………………  179
   黒澤勉『子規の書簡』 ………………………………  202
   正岡子規『かくれみの』一見 ………………………  204

W 夏目漱石紀行 ……………………………………………  209

   狂気・漱石 ……………………………………………  211

   神山睦美『夏目漱石論―序説』 ……………………  216
   相原和邦『漱石文学の研究―表現を軸として』 …  219
   柄谷行人『漱石論集成』 ……………………………  222
   夏目漱石・昭和戦後 …………………………………  224

V 柳田國男紀行 ……………………………………………  291

   思想としての柳田國男 ………………………………  293
   柳田國男民俗学以前 …………………………………  297
   民俗学、文書学から実験学 …………………………  319
   赤坂憲雄『遠野/物語考』 …………………………  330
   赤坂憲雄『漂白の精神史 柳田國男の発生』 ……  332
   祭り・共同祈願・共食 ………………………………  334


Y 断章 ………………………………………………………  341

   秋の花火の物語 芥川龍之介「舞踏会」考 ………  343
   横光利一望見 …………………………………………  361
   太宰治文芸の基調――母恋い ………………………  375
   吉本隆明一望 …………………………………………  396
   その頃、単独に充実して ……………………………  407
   内側の視線の構図――吉本隆明『柳田國男論』読後  411


初出一覧 ……………………………………………………  422

年譜(佐藤満洲子) ………………………………………  424

 
哀辞――梶木剛の王道   月村敏行 …………………  466

告別式の記録 ………………………………………………  471

弔辞 

 梶木剛 追悼    吉本隆明 ………………………  472

 弔辞        秋葉四郎 ………………………  473

弔辞        脇地 炯 ………………………  474
弔辞        立石 伯 ………………………  477


                  装幀  高林昭太

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

梶木剛 追悼

 夫人から梶木が亡くなりましたと告げられたとき「どうしてですか。なぜで
すか」という返事にもならぬ返事をしていた。突然以前の突然の思いだった。
私の空想のなかでは教職からも子育てからも開放されて好きな旅情をたのしみ
ながら内外を旅行し、気が向くと、私などにも旅情を知らせる姿しかなかった。
夫人はすぐにわたしの指目の外れた錯覚をうち消すように、「子供に口述筆記
をしているうちに不意に倒れました」と語られました。
 夫人から梶木剛の死去の様子を知らされてもなお空を飛んだり、汽船にゆさ
ぶられたりしている彼の姿がなお想像の世界からはなれなかった。これは私の
記憶とかかわりのない願望のせいかもしれない。
 彼が文章家として固執し目をそそいでやまなかったのは、正岡子規をはじめ
近代日本の正統派リアリズムの詩人と散文作家だった。地味で正確なその解明
と掘り下げ方は稀有なものだった。
 心ある読者は〈形のない難所〉を悠然と歩いていく彼の姿勢をかなたにしな
がらどれだけふで運びのモデルとしたかはかりしれない。   
 梶木剛は平仮名「あいうえお」五十音の一文字、一文字が日本列島の散文文
学のふるさとであることをよく知っている文学者であった。
 梶木剛の魂よ 安らかなれ。
                               吉本隆明


弔辞

 梶木剛さん、病床を見舞ってから僅か十日程であなたは急ぎ足で向こう側へ
旅立ってしまわれました。この急ぎ足はどうしたことでしょうか。その折、書
く意欲を持ち続け、文学の道に生涯現役で生き抜く志を確認し安心していまし
たので、無念の思いが激しくつのって参ります。
 あなたは法政大学文学部新日本文学科を卒業後、二十歳代の後半から吉本隆
明さん主宰の「試行」で、文芸評論を展開されました。私より数歳上の先輩で
あなたのような方がいらっしゃり、深く感銘をうけておりました。その誌上で
の初期万葉集論、柿本人麿から近・現代の平野謙、芥川龍之介、夏目漱石など
にわたる批評と研究は、その後のあなたの文学的、人間的、思想的追究の本質
的ありようを開示するものでした。その後、次々と出版された著書の書題で、
斎藤茂吉、正岡子規、柳田國男、横光利一など個人名を除くものは、「思想的
査証」「存在への征旅」「宿命の暗渠」など。その命名だけで考察の方向と思
考の実質が暗示される類の明快なものでした。
 私はあなたの文学的方法を、宙空に広く枝葉を拡張し、そこから更に瑞々し
い新芽を育んでいくもので、根本は子規から継承した「写生」の技法で、若い
頃に提示された「人間的本質存在」に肉迫するものだと考えておりました。
 あなたは博覧強記で、資料を、博捜しました。十数年前、法政大学図書館の
子規文庫関係の資料を調べたいと相談され、当時未整理でこれを契機に子規文
庫目録が整備されました。あなたの子規に寄せる多角的な眼差しが、それを成
就したのです。他にも例は多いはずです。
 あなたは教育者としての業績も特筆されます。千葉県立高校等での詳細は私
には不明ですが、法政大学大学院での学生の指導は、大変貴重な成果をあげ、
感謝しております。私が講師を依頼した時、あなたは専任はどうか、というこ
とでしたから、大学で高等教育を支える後進を育成したかったのではないかと
感じていました。
 あなたは病床にパソコンを持ちこんで書きつづけたいということでしたから、
文学に対する執念は強靭なものでした。もう少し時間があったならと、返す返
すも無念です。今年初め発表の「夏目漱石・昭和戦後」は、近年のまとまった
力作に相違ありません。あなたは、今年一月末の葉書で、私の著書のことに関
して、「硬質の文体の重々しい展開」と記されましたが、これはそっくりあな
たのものであります。
 悲しいかな、今、何をいっても詮方ありません。駆け足で行かれた向こう側
では、親しかったさまざまな人々と人間の生き方・在り方、日本文学の問題、
思想の未来、自然の命運などについて話しあって下さい。
 ご冥福をお祈りいたします。合掌
                               立石 伯

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

梶木 剛(かじき ごう) 略歴
本名 佐藤春夫

昭和12年
新潟県に生れる
昭和32年
新潟県立新津高等学校卒業
法政大学文学部日本文学科入学
昭和36年
 『試行』創刊の吉本隆明に出会う
昭和37年
法政大学文学部日本文学科卒業
千葉県立天羽高等学校教諭
昭和43年
『古代詩の論理』を試行出版部から刊行
昭和45年
『斎藤茂吉』刊(紀伊国屋書店)
昭和46年
 『思想的査証』刊(国文社)
昭和47年
『存在への征旅』刊(国文社)
昭和49年
 『知識の論理』刊(国文社)
昭和51年
『夏目漱石論』刊(勁草書房)
昭和52年
『宿命の暗渠』刊(芹澤出版)
昭和54年
『横光利一の軌跡』刊(国文社)
昭和55年
『長塚節』刊(芹澤出版)
昭和57年
『折口信夫の世界』刊(砂子屋書房)
昭和64年
『柳田國男の思想』刊(勁草書房)
平成8年
『正岡子規』刊(勁草書房)
平成10年
 千葉県公立学校教員退職
平成11年
 『叙情の行程』刊(短歌新聞社)
平成13年
『写生の文学』刊(短歌新聞社)
法政大学文学部講師
東邦大学薬学部講師
平成15年
『子規の像、茂吉の影』刊(短歌新聞社)
平成17年
弘前学院大学文学部教授、大学院文学教科教授
平成18年
法政大学大学院人文科学研究科講師
平成19年
弘前学院大学文学部客員教授


平成22年5月19日 午前0時8分、永眠。73歳と13日。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

※この略歴は、文字通りの略歴であり、著書も主要のもののみを掲げた。
詳細は本書の、佐藤満洲子氏の「年譜」を参照願いたい。    深沢秋男


新刊案内(近世文学・その他)に戻る
はじめに戻る