平成20年(2008)明治大学入試に『井関隆子日記』出題

●菊池真一氏から『明治大学 国際日本学部 2010年版』(大学入試シリーズ345、教学社発行)を頂いた。明治大学 国際日本学部の2008年度の入試問題に『井関隆子日記』が出題されていたことを知った。これで、大学入試センター試験(1999)、明治大学入試(2008)、京都大学入試(2011)、と大学入試に3回出題された事になる。

●明治大学の入試に採用されたのは、天保12年8月15日の条である。
ここに掲げたものは、表記など、実際の問題とは異なる点がある。『明治大学 国際日本学部 2010年版』(大学入試シリーズ345、教学社発行)に拠っているので、正しくはこの本を確認してもらいたい。
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(三) 次の文章は、江戸時代に旗本の奥方が記した日記(『井関隆子日記』)の天保十二年(一八四一)某月十五日の記述である。この文章を読み、後の問に答えよ。

 十五日打ちはへ雲たてど雨降らず、昨夜もくまなく晴れぬものから月影あはれなるほどなりき。今宵はいかならむ。今朝すずろ寒きにここの人々とう参上れり。かたびらども寒気に見ゆ。夕付けて例のもちひ里ついもなど月のたむけはさら也、神々の御前にも大御酒にとり添へて奉り、人々も打ち集ひ祝ふ。あるじ御宿直なれば、明日の夜さかづきはとらむとて、今日は我わたくしに気色ばかりものす。かかるほどに空は雲みちふたがりて雨はらめきぬ。松の殿より今日の御祝ひの品どもかづけさせ給へる、あるじ許おこせたるくさぐさ也。御強飯、御まはりの物よりはじめ、作りくだ物、はた魚ども鯛海老鰈など、はた大きなる青籠を御台に居て、梨葡萄などいとあまた籠めたり。人々あつまり見はやす。げにかたじけなき御恵みおき所なきまで也。暮れゆくままに打ちしきり雨降り出でぬ。いささか雲間の光まつべき頼みもなし。時もときなるを、今宵こそ笠さしても月の出でよかし、など思ふもわりなしや。
  心なく降りくる雨かもち月の秋のこの夜をいつとしりてか
玉しく庭も葎生も、おふなおふな今宵の光あふがぬ人はあらざめるを、あやなう闇にかき霧らし降る。
  あめのした月に寐ぬ夜をいたづらにねて明かせとか雨のふらくは
軒のしづくもいみじきに、をしと思ふ夜にもあらざれば、かの躬恒もそしらじかしとてとく寐ぬ。

  〈注〉 打ちはへ…引き続き  ものから…ものの  すずろ…なんとなく  
     とう…早く  かたびら…夏用の単衣  もちひ…餅  はらめく…ばらばら
     と音を立てる  かづく…祝儀を与える  許…のもとへ  強飯…おこわ
     まはりの物…飯のおかず  はた…あるいは  見はやす…見てほめそやす
     葎生…つる草が一面に生えているところ  おふなおふな…できるだけのこと
     をして  あやなう…むなしく

問一 傍線a「十五日」とは何月の十五日か。次の中から一つ選び、その番号をマークせ
   よ。
  1 水無月   2 文 月   3 葉 月    4 長 月  5 神無月
 
問二 傍線b「里ついも」の「つ」と同じ用法の「つ」を含むものを次の中から一つ選び、
   その番号をマークせよ。
  1 のちのつき  2 はつかり  3 ふたつもじ  4 あまつかぜ  
  5 みわつくし

問三 傍線c「宿直」の読み(訓)をひらがなで記せ。
    
問四 傍線d「ものす」とは具体的にはどうすることか。次の中から最も適切なものを一
   つ選び、その番号をマークせよ。
  1 月にたむく  2 大御酒にとり添へて奉る  3 打ち集ひ祝ふ
  4 さかづきとる   5 品どもかづく

問五 傍線e「わりなしや」ということばに込められた筆者の心情として最も適切なもの
   を次の中から一つ選び、その番号をマークせよ。
  1 不 満   2 心 配  3 期 待  4 羨 望  5 虚 脱

問六 傍線f「あらざめる」を構成する活用語三語をすべて終止形の形で記せ。

問七 傍線g「かの躬恒もそしらじかし」は、躬恒の歌「かくばかりをしと思ふ夜をいた
   づらに寝て明かすらむ人さへぞ憂き」を踏まえる。この部分の解釈として最も適
   切なものを次の中から一つ選び、その番号をマークせよ。
  1 せっかくの月を見ずに何もしないで過ごしても、あの躬恒も文句は言わないだろ
    う。  
  2 月が出ないのであきらめて早く寝てしまっても、あの躬恒も非難しないだろう。
  3 月の出るのを待ちくたびれてうたたねしても、あの躬恒も悪くは思わないだろう。
  4 雨が降るので、退屈でいたずらをしてしまったとは、あの躬恒もそうとは気が付
    かないだろう。
  5 明日の夜にちゃんと祝うので、今夜は簡素に祝うとは、あの躬恒も知らないだろ
    う。

問八 「躬恒」とは、三十六歌仙の一人凡河内躬恒のことである。彼が選者の一人として
   加わり、彼の「かくばかり……」の歌も収載されている勅撰和歌集の名前を漢字で
   記せ。