日本における養育費の受給率が低いことは周知の事実です。
しかし、母子世帯ばかりがクローズアップされ、父子世帯の受給率はあまり触れられていません。
養育費を受け取っていない母子世帯は70%と高い数値ですが、なんと父子世帯はそれをも上回る90%に上ります。
養育費の未払いは、母子世帯だけの問題ではないというわけです。
そこで今回は母子・父子世帯における養育費受給率の実状を理解してもらうと共に、その解決の糸口となる制度とサービスを紹介します。
日本の養育費未払いの深刻な実状を紹介!
それではまず、日本の養育費未払いの実状を厚生労働省が公表している、「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」を参考に見ていくことにします。
冒頭でも言ったように、平成28年度の養育費受給率は、母子・父子世帯共に下記の様に実に低い数値です。
- 母子世帯:24.3%
- 父子世帯:3.2%
日本における母子世帯数はおよそ75万世帯(1.42%)、父子世帯数はおよそ8.4万世帯(0.16%)ですから、母子世帯数が圧倒的に多いのは歴然ですが、父子世帯の受給率の低さはあまり知られていません。
今回の数字を見て驚かれた人も多い事でしょう。
それでは、なぜこのように両世帯共に養育費の受給率が低いのでしょうか?
その理由にはまず、養育費の取り決めをしていない人が多いことが挙げられます。
もちろん未払いも見逃せない理由ではありますが、この養育費の取り決めをしていない人が多いことが、養育費の受給率を引き下げている一番大きな理由と言えるでしょう。
養育費の取り決め状況と取り決めをしない理由
両世帯で養育費の取り決めをしている割合は下記の通りです。
- 母子世帯:42.9%
- 父子世帯:20.8%
母子世帯でおよそ60%、父子世帯ではおよそ80%もの親が養育費の取り決めをしていません。
養育費の取り決めをしていない親がこんなにもいるのですから、養育費の受給率が低いのも当然の話です。
それではなぜ、こんなにも多くの世帯で養育費の取り決めが行われていないのでしょうか。
その理由は下記の通りです。
まずは母子世帯から見てみましょう。
(母子世帯)
- 相手と関わりたくない:31.4%
- 相手に支払う能力がないと思った:20.8%
- 相手に支払う意思がないと思った:17.8%
- その他:7.1%
- 取り決めの交渉をしたがまとまらなかった:5.4%
- 取り決めの交渉がわずらわしい:5.4%
- 相手から身体的・精神的暴力を受けた:4.8%
- 不詳:2.9%
- 自分の収入等で経済的に問題がない:2.8%
- 現在交渉中または今後交渉予定である:0.9%
- 子供を引き取った方が、養育費も負担するものと思っていた:0.6%
- 相手に養育費を請求できることを知らなかった:0.1%
次は父子世帯です。
(父子世帯)
- 相手に支払う能力がないと思った:22.3%
- 相手と関わりたくない:20.5%
- 自分の収入等で経済的に問題がない:17.5%
- 相手に支払う意思がないと思った:9.6%
- 取り決めの交渉をしたがまとまらなかった:8.3%
- 不詳:7.9%
- 子供を引き取った方が、養育費も負担するものと思っていた:7.0%
- その他:5.2%
- 取り決めの交渉がわずらわしい:4.0%
- 相手から身体的・精神的暴力を受けた:4.0%
- 現在交渉中または今後交渉予定である:4.0%
- 相手に養育費を請求できることを知らなかった:4.0%
両世帯共に上位の理由はあまり変わりませんが、母子世帯よりも高収入である父子世帯では、「自分の収入等で経済的に問題がない」を理由に挙げる親が多いようです。
端から養育費を受け取るつもりがないということでしょう。
しかし、両世帯を通じて言えるのは、共に下記の意識が強い点です。
- 相手と関わりたくない
- 端から支払いを期待していない
この2つの意識が強いことが、養育費の取り決めをしない人を増やしている、最も大きな理由と言えます。
まずは、この意識改善を促し、養育費の取り決め率を上げないことには、日本の養育費受給率は改善されることはないでしょう。
現在、国が未払いの養育費問題を解決するため、法改正に取り組んでいますが、離婚時に養育費の取り決めをすることを義務化するという話もあります。
この法案が通れば、日本の養育費受給率は大きく上昇することでしょう。
養育費の取り決めが義務化されれば、取り決め率は100%を維持できます。
そうなれば、残る問題は未払いだけとなるので、この未払い問題の解決策だけに注力できるというわけです。
それでは引き続き、なぜ養育費を支払わない親が多いのかを検証していくことにしましょう。
親が養育費を支払わない理由
養育費の支払いは親に課せられた法的義務です。
しかしながら、未払いに対する罰則は何もありません。
支払わないまま放っておいても、その親に罰が下されることはないのです。
法的義務であるにもかかわらず、何も罰則がない。
これこそが養育費の未払い者が続出する大きな理由でしょう。
ひとり親世帯の子供の貧困率は2015年で50.8%と、全体の子供の貧困率13.9%を大きく上回っています。
この数値は経済協力開発機構加盟国の中でも、特に高い数値なのです。
これは行政主導で養育費の未払い問題を解決しようとしている諸各国と日本とに、大きな温度差があることは疑いようがありません。
諸各国が実施している実効的な制度は、下記記事の「世界的に見れば日本の養育費支払の履行確保は高くない!」で詳しく解説しています。
ぜひ目を通して、日本との違いを実感してください。
そうすれば、行政が未払いの養育費問題に関与していないことが、未払い者を増やしている理由の1つであることを理解してもらえるでしょう。
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養育費の未払い解決に役立つ制度をやサービスを紹介!
日本における養育費の受給率が低い理由について理解してもらったところで、次は未払いの養育費問題解決に役立つ制度とサービスを紹介します。
現在、実効性のある制度とサービスと言えば、下記の2つになるでしょう。
- 自治体の立て替え払い制度
- 民間保証会社の養育費保証サービス
どちらも未払いの養育費を保証するものですが、民間企業と自治体とで若干利用方法や利用条件が異なります。
どちらを利用するかは、その違いをよく理解した上で決めるべきでしょう。
それではこれら2つの制度とサービスについて、その違いを見ていくことにします。
民間保証会社の養育費保証サービスについて
知らない人も多いようですが、民間保証会社の養育費保証サービスは以前から提供されていました。
後述する自治体の立て替え制度がクローズアップされたことで、このサービスの存在も認知されるようになったのです。
この養育費保証サービスは保証料を支払うことで、養育費が未払いになった時、その養育費を保証してもらえます。
申込条件や保証内容は各社で異なるため、希望する保証を受けたくても、申込条件を満たせず申し込みできないこともあるでしょう。
しかし、申込条件さえ満たせば、希望する保証が受けることができます。
多くの保証会社から、任意で選ぶことができる選択肢の多さが、民間保証会社の養育費保証サービスの一番のメリットです。
民間保証会社の養育費保証サービスについては、下記の記事で詳しく解説しています。
おすすめの養育費保証サービス会社も紹介しているので、ぜひ目を通すようにしてください。
自治体の立て替え払い制度について
自治体の立て替え払い制度は、先の民間保証会社の養育費保証サービスと同じと考えてもらって問題ありません。
自治体が民間保証会社と業務委託して、自治体に住んでいる人へ、民間保証会社の養育費保証サービスを提供しているだけです。
自治体が推奨する民間保証会社の養育費保証サービスを、利用しているに過ぎません。
民間保証会社の養育費保証サービスと大きく違う点は、自治体が1年目の保証料を負担してくれる点です。
そのため、利用者は保証料無料で養育費保証サービスを利用することができます。
低所得者が多いと言われる母子世帯にとって、これは大きなメリットになるでしょう。
しかし、その反面、自治体の立て替え払い制度には、下記のようなデメリットがあります。
- 立て替え払い制度を導入している自治体が限られる
- 民間保証会社の養育費保証サービスのように利用先を選べない
今後導入する自治体は増えると言われていますが、2020年11月時点では、その数は多いとは言えません。
導入していない自治体の方が多いのが実情です。
また、自治体が業務委託した民間保証会社の養育費保証サービスを利用することになるため、申込条件を満たしていない人は利用できません。
民間保証会社の養育費保証サービスとは異なり、選択肢がないのは残念なところですね。
自治体の立て替え払い制度については、下記の記事で詳しく解説しています。
お住まいの自治体が導入しているならば、ぜひ利用してもらいたい制度です。
現在導入されていなくても、将来導入される可能性は十分あります。
そんな制度概要なのか、しっかり目を通しておきましょう。
養育費が未払いになった時の対処方法
仮に現在、養育費がちゃんと支払われているとしても、この先、未払いとなる可能性は否めません。
よって、養育費を受け取っている親は、養育費が未払いになった時の対処方法は押さえておく必要があるでしょう。
未払い時の対処方法と言えば、差し押さえによる回収が挙げられます。
そこで最後にいざ差し押さえするしかないとなった時、慌てず対応できるように、回収までの方法と流れ、そして注意点をお教えしておきましょう。
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差し押さえで未払いの養育費を回収する方法と注意点
差し押さえがどういうものかは、誰でも簡単に想像がつくかと思います。
しかし、いざ実行するとなれば、どうすればいいのか分からないという人は多いのではないでしょうか。
そんな人でも弁護士に依頼すれば、何の心配もなく差し押さえに臨めます。
ですが、どういう流れで、どんな点に注意すればいいのかは、申立人となる本人も理解してておく必要はあるでしょう。
これについては下記の記事で分かりやすく解説しています。
差し押さえ時に必要な情報を漏らさず紹介しているので、ぜひ目を通して、その情報を頭に入れるようにしてください。
公正証書なし・ありで差し押さえに掛かる手続きは大きく変わってくる!
差し押さえは誰でもできるものではありません。
裁判所へ差し押さえを申し立てるには、下記3つの申立要件をすべて満たす必要があるからです。
- 債権名義の取得
- 差し押さえる相手の現住所
- 差し押さえる財産の情報
この中でも最も重要なのが、差し押さえできる権利を公文書として証明した債権名義です。
つまり、この債権名義が取得できていない人は、差し押さえを申し立てる権利すらありません。
そのため、債権名義が取得できていない場合、まずはこの債権名義を取得する必要があるのです。
債権名義は下記のどちらかで取得できます。
- 離婚や養育費の取り決めを裁判所で行う
- 協議離婚時に協議書を執行認諾文言付き公正証書として作成
協議離婚した場合、離婚協議書を執行認諾文言付き公正証書として作成していない人は、債権名義は取得できていません。
そして、この債権名義の有無で、差し押さえするまでの過程や手続きは大きく異なるのです。
これについては下記の記事で詳しく解説しています。
債権名義が取得できていない人は、必ず目を通して債権名義の取得方法を会得して、取得手続きに取り掛かるようにしてください。
まとめ
今回は母子・父子世帯における養育費受給率の実状、そしてその解決の糸口となる制度とサービスについて解説しました。
養育費受給率を低くしているのは支払義務者だけでなく、権利者にも原因があります。
この点を理解して、すべての離婚する夫婦が、取り組んでいくべき問題と言えるでしょう。
また、養育費の未払いに関しては、どう解決するかが重要なポイントです。
制度やサービスを利用するのか、差し押さえで回収するのか、これはよく検討するようにしてください。
今回の記事を参考に、養育費の取り決めをしていない人はその手続きを、そして養育費が未払いになっている人は、回収手続きに取り組むようにしてください。
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