不払いの養育費を何とか回収したい。
養育費の不払いが多発し、社会的問題となっている今、 そう考えている人は多いことでしょう。
しかし、支払いを拒んでいる相手からお金を回収することは、口で言うほど簡単なことではありません。
そのため、個人で不払いの養育費を回収するのは、困難を極めることになるでしょう。
そんな人たちを救済するために用意されている制度が、強制執行による差し押さえです。
強制執行による差し押さえは、国家権力により強制的に債務(借金など)を返済させる方法です。
債権を回収する方法の中でも、最も強力な方法と言っても過言ではないでしょう。
そこで今回はこの強制執行による差し押さえで、不払いの養育費を回収する方法と注意点を分かりやすく解説します。
不払いの養育費問題に頭を悩ませている人は、最後まで目を通して、この強制執行による差し押さえを成功させる秘訣を理解するようにしてください。
まずは強制執行をしっかりと理解しよう!
冒頭でも話しましたが、強制執行による差し押さえは、国家権力を用いた債権回収方法です。
残念ながら現段階では、債務を返済しない相手に対して刑事罰を与えることはできません。
裁判により支払い命令を下されたとしても、実際に回収できるかどうかは別の話なのです。
相手に支払意思がなければ、この裁判所命令は何の効力も発揮しません。
支払わないからといって、裁判所が何かしてくれるわけではないのです。
そんな時に国家権力を発動して、債務を回収する方法として制定されているのが強制執行による差し押さえです。
国家権力による強制執行を発動して、債務者の財産を差し押さえることで、債権者は債務の返済に充てることができます。
また、強制執行による差し押さえは何を差し押さえるかによって、下記の3つに分類可能です。
- 債権執行
- 不動産執行
- 動産執行
どの強制執行を選ぶかによって、差し押さえることができる可能性や、差し押さえ可能な金額が大きく変わってきます。
そのため、裁判所へ強制執行による差し押さえを申し立てる時は、何を差し押さえるかが重要なポイントとなってくるのです。
それではこれら3つの強制執行について、簡単に解説していくことにしましょう。
債権執行とは?
債権執行時の主な差し押さえ対象は、下記の3つが挙げられます。
- 給与
- 銀行預金
- 売掛金
この債権執行の一番のメリットは、差し押さえ後に換金や競売の手続きが必要なく、確実に目的の金銭を入手することができる点です。
不払いの養育費回収で給与が差し押さえ対象にされることが多いのも、このメリットがあるからこそでしょう。
後述する残りの2つは差し押さえ後に現金化する必要があり、ものによっては希望の金銭に満たない可能性も出てきます。
そのため、相手に給与などの明確な債権が存在する場合は、債権執行による差し押さえが最も有効です。
ですが、差し押さえる債権によって、上限額が決められています。
差し押さえ可能な債権が複数ある場合は、どの債権を差し押さえるのがベストなのかを慎重に検討するようにしてください。
不動産執行とは?
不動産執行による差し押さえ対象は、その名の通り不動産です。
不動産執行による差し押さえでは、差し押さえ後、下記いずれかの方法で債務を回収することになります。
- 競売
- 強制管理
一般的に取られるのは競売で、不動産を競売により売却し、その売却金額から債務を回収する流れです。
一方、強制管理とはアパート・マンションなどの不動産収入を生み出す物件に対して取られる方法で、家賃収入などの不動産収入を返済に充てる流れになります。
この不動産執行における最大のメリットは、銀行預金などの様に財産隠しができない点と、まとまったお金を手にできる点です。
不払い額が高額な場合は、一気に回収できる可能性が高いでしょう。
しかし、不動産執行による差し押さえでは、競売時の費用が高額な点と、他の債権者が抵当権を設定している可能性があるので注意が必要です。
競売時の費用は申立人の自己負担となりますし、他の債権者がいる場合は競売による売却益を全員で分けなければなりません。
場合によっては、期待していたほどの回収ができないケースも出てくるでしょう。
動産執行とは?
動産執行時の差し押さえ対象は動産(物)です。
そのため、強制執行の中では差し押さえ対象が下記の様に多岐に渡ります。
- 機械
- 商品
- 宝飾品
- 貴金属
- バッグ
- 美術品
- 楽器
- 自動車
- バイク
- 有価証券
この動産執行のメリットは何と言っても、差し押さえ対象が多岐に渡る点でしょう。
ですが、この動産執行はあまりおすすめできません。
現金もこの動産執行の差し押さえ対象となるのですが、現金以外は現金化する必要があります。
この現金化時に換金率が悪いケースが多いのです。
100万円のブランドバッグを質屋に持って行っても、10万円程度でしか売れなかったという話を聞いたことはありませんか。
それと同じで、期待したほどの現金化ができなかったケースは珍しくありません。
前述した2つの強制執行ができない時は、この動産執行を検討することになるでしょう。
ですが、確実に高額売却が可能な美術品を所有している場合を除けば、一番最初に候補にするのは避けた方がいいでしょう。
また、この動産執行には差し押さえできない対象外動産があるので注意が必要です。
差し押さえ禁止財産については、後述する「【強制執行時の要件】不払いの養育費回収時の差し押さえ禁止財産はコレ!」を参考にしてください。
法改正で不払いの養育費回収の強制執行はスムーズになった!
強制執行による差し押さえは、不払いの養育費回収において究極の回収方法と言えます。
しかし、注意して欲しいのは、誰でもこの強制執行による差し押さえができるわけではない点です。
強制執行による差し押さえを裁判所に申し立てするには、下記3つの申立要件を満たす必要があります。
- 債権名義を取得している
- 差し押さえる相手の現住所を把握している
- 差し押さえる財産情報を把握している
この3つ全てが揃わなければ、裁判所は申し立てを受理してくれません。
そして、この中でも厄介なのが、差し押さえる財産情報の把握です。
相手の勤務先が分かっているなら手間取ることはありません。
給与を差し押さえ財産として申し立てればいいからです。
ですが、相手が転職していたり、無職の場合、差し押さえ財産の特定には頭を悩ますことになるでしょう。
転職しているなら相手の新たな勤務先を、無職であれば差し押さえ可能な財産を調べる必要があります。
これを個人で調査するとなれば、容易なことではありませんよね。
差し押さえる財産が特定できず、強制執行による差し押さえを断念せざるを得なかった人は少なくありません。
しかし、安心してください。
2020年の改正民事執行法の施行に伴い、これら調査を裁判所に委ねることができるようになりました。
下記2つの改正により、正確に相手の財産を把握することが可能になったのです。
- 財産開示手続時の出頭拒否や虚偽進行に対する罰則の強化
- 第三者からの情報取得手続きができるようになった
また、上記の財産開示手続の利用者枠が拡大された点も見逃せません。
この法改正の重要ポイントについては、下記の記事で詳しく解説しています。
差し押さえる財産の特定に困っている人は、しっかりと目を通してその方法を頭に入れるようにしてください。
【強制執行時の要件】不払いの養育費回収時の差し押さえ禁止財産はコレ!
先に話したように強制執行時の差し押さえ財産には、差し押さえできないものが決められています。
どんな財産が差し押さえできないかは、予備知識として持っておいた方がいいでしょう。
また、差し押さえ財産としておすすめした給与ですが、これも差し押さえできる上限額が決められています。
給与は一番差し押さえ対象にしやすい財産ですから、いくらまで差し押さえできるのか、一度の差し押さえで全額回収できない場合、どうなるのかは知っておくべき情報です。
この情報に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
差し押さえる財産が全くない場合の対処方法も紹介しているので、よく目を通して頭に入れるようにしてください。
不払いの養育費を強制執行で回収する方法とその流れ
ここまでの話で強制執行による差し押さえで、不払いの養育費を回収する為に必要な条件は理解してもらえたでしょう。
次は実際に強制執行の申立方法を、分かりやすく解説していくことにします。
裁判所に申し立てるための条件が揃えば、後は実行に移すだけです。
この申し立てをする時には弁護士を雇っているでしょうから、実際に自分で申し立てをする必要はありません。
ですが、どのような方法を取って、どんな流れで強制執行命令が出されるのかを知っておかなければ、納得して弁護士を雇うこともできないでしょう。
強制執行による差し押さえを申し立てる時は、必ず弁護士の助力が必要になります。
それを知ってもらうためにも申し立ての方法や流れは、知識として持ち合わせておくべきでしょう。
これについては下記の記事で詳しく解説しています。
また、弁護士を雇う上で気になるのが弁護士費用です。
弁護士費用となれば安価なものではないため、心配になって弁護士を雇うのにためらいがある人も多いことでしょう。
そして、もう1つ申し立て時に忘れてはならないのが、遅延損害金の存在です。
不払いの養育費にも遅延損害金が発生します。
引き続き、この2点についてお教えしておくので、飛ばさずに目を通すようにしてください。
強制執行で不払いの養育費を回収する際に必要な弁護士費用
強制執行で不払いの養育費を回収するために必要な費用は、大きく分けると下記の2つに分類されます。
- 弁護士報酬
- 実費
この2つの合計額が弁護士費用として請求されます。
ここで知っておいてもらいたいのが、この弁護士費用の相場です。
弁護士費用に関してはガイドラインが設定されてはいますが、請求金額は弁護士事務所によってバラつきが見られます。
よって、提示された費用が妥当なものであるかを判断する必要があるのです。
そこで重要になるのが弁護士費用の相場で、これさえ知っていれば費用の安い弁護士を雇うこともできるようになります。
弁護士を選定する際には、知っておくべき情報と言えるでしょう。
弁護士費用に関する情報は、下記の記事で徹底解説しています。
弁護士費用の相場と注意点を分かりやすく紹介しているので、しっかりと目を通して弁護士選びの参考にしてください。
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不払いの養育費にも遅延損害金は発生する!その利率と計算方法を紹介
養育費に遅延損害金が発生するはずはない。
そう思っている人は少なくないでしょう。
しかし、養育費は金銭債務の1つです。
通常の金銭貸借時と同様に、決められた期限までに支払われなかった金額に対しては遅延損害金が発生します。
不払いの養育費は遅延損害金を含めた請求ができるので、強制執行時にはしっかりとその合計額を請求するようにしてください。
遅延損害金の利率
遅延損害金を請求する場合、注意してほしいのが請求根拠となる利率です。
この利率は遅延損害金について取り決めているかどうかで、下記の様に異なります。
取り決め |
金利 |
あり |
利息制限法の規定内 |
なし |
法定利率の年5% |
また、利息制限法による利率は、下記の様に対象額によって上限利率が異なります。
金額 |
上限利率 |
10万円未満 |
年20% |
10万円以上~100万円未満 |
年18% |
100万円以上 |
年15% |
基本的に養育費は月額払となっているため、不払い月の養育費がいくらかによって設定できる上限利率が異なるというわけです。
大抵は10万円未満が妥当な金額でしょうから、上限を年20%として任意で決定することができます。
しかし、この遅延損害金の取り決めをしている人は稀です。
大抵は、法定金利の年5%が適用利率となってくるでしょう。
遅延損害金の利率は取り決めをしておいた方が高く設定できます。
しかも、利率が高ければそれだけ多くの遅延損害金を支払うことになるため、不払いを抑制する効果も期待できるでしょう。
取り決めしていない人は残念ですが、これから離婚するという人は忘れず取り決めるようにしてください。
遅延損害金の計算方法
遅延損害金は支払日の翌日をスタート日として、日割り計算で算出します。
その計算方法は下記の通りです。
それでは下記条件でいくらの遅延損害金が発生するのかを試算してみましょう。
- 月額養育費:5万円
- 遅延損害金利率:年5%
- 遅延日数:100日
この条件での遅延損害金は下記の通りです。
遅延損害金は不払いの養育費総額で計算するのではなく、毎月発生する養育費の不払い額で計算します。
この点は勘違いしないように、よく覚えておきましょう。
不払いの養育費にも時効がある!時効にならないように早めの対処を!!
先の遅延損害金に驚かれた人も多いでしょうが、不払いの養育費にはまだまだ驚かされることがあります。
実は不払いの養育費にも時効が存在し、時効期間を過ぎれば法的に支払う義務が免除されてしまうのです。
不払いの養育費に時効があることを知っている人は多くありません。
そのため、請求する決心をした時には、その大部分が時効になっていたというケースも少なくないのです。
不払いの養育費がある人には、絶対に知っておいてもらいたい情報と言えるでしょう。
しかも、時効はその存在さえ知っておけば、さほど心配する必要もありません。
時効を回避する方法もありますし、時効を迎えた不払いの養育費を回収できる可能性もあるからです。
この時効に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
この記事に目を通してもらえば、時効で不払いの養育費を回収できなかったという残念な事態も回避できます。
内容を理解して対処方法を身に着けるようにしてください。
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まとめ
今回は不払いの養育費を、強制執行による差し押さえで回収する方法と注意点を解説しました。
強制執行による差し押さえが可能なら、不払いの養育費は高い確率で回収可能です。
強制執行による差し押さえという方法を知ってはいても、実行に移していない人も多いことでしょう。
しかし、不払いの養育費には時効がありますし、相手にいつまでも回収できる財産があるとは限りません。
確実に不払いの養育費を回収する為には、早急な対応が必要不可欠です。
まだ実行に移してないという人は、今回の内容を参考にして、不払いの養育費回収に挑戦してください。
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