未払いの養育費の請求を求めて元夫の会社へ、強制執行による給与の差し押さえを求めた。
強制執行は法に基づき強制的に権利を執行させる制度です。
元夫はこれを拒否できません。
ですが、会社に差し押さえを拒否され、養育費が回収できなかったというケースが稀に見られます。
しかし、諦めないでください。
元夫の会社が強制執行による差し押さえを拒否しても、未払いの養育費の回収は可能です。
そこで今回は、会社に強制執行による差し押さえを拒否された時の対処法方を徹底解説します。
未払いの養育費問題に直面している人は、最後まで目を通して、確実に回収する方法を身につけてください。
強制執行の拒否理由に合った正しい対処方法を理解しよう!
元夫の会社が差し押さえを拒否する主な理由としては、下記の2つが挙げられます。
②会社が元夫をかばっている
会社が拒否する理由は、大抵の場合、上記いずれかに該当するでしょう。
そこでまず明確にする必要があるのが、この拒否理由です。
拒否理由がどちらかで、養育費回収への対処方法は全く異なります。
まずは拒否理由を明確にし、正しい対処方法で対応する必要があるのです。
それでは、会社に差し押さえを拒否された場合にどうすればいいのか、その対処方法を見ていくことにしましょう。
①退職により強制執行を拒否された場合
元夫が既に退職している場合、差し押さえる給与自体が存在しません。
差し押さえる給与が存在しなければ、会社が強制執行を拒否するのは当たり前の話ですよね。
未払いの給与や退職金があれば差し押さえはできますが、そうでなければ諦めるしかないでしょう。
ですが、未払いの養育費回収自体を諦めないでください。
差し押さえの対象は給与だけではありません。
給与の差し押さえができないならば、他の財産を差し押さえればいいのです。
ここでは給与以外の財産を差し押さえる際の、ポイントを解説します。
給与以外の差し押さえを検討しよう!
強制執行による差し押さえることができる主な財産は、下記のものが挙げられます。
- 不動産:土地や建物
- 動産:現金や貴金属など
- 債権:給与や預貯金
一般的には給与が差し押さえ対象となるため、知らない人も多いのですが、給与以外にも差し押さえ可能財産は多岐に渡ります。
対象となる財産に何があるのかをちゃんと把握できれば、他の財産を、差し押さえることができます。
ですが、不動産はあまり現実的ではありません。
養育費を支払えない人が不動産を所有しているとは考えられませんし、所有している人が支払いを滞らすとは考えられないからです。
通常は預貯金が一番有力な差し押さえ候補になるでしょう。
振り込まれた給与残金や退職金が、口座に入金されている可能性は十分あります。
また、預貯金が当てにならなかった場合は、新たな勤務先の給与差し押さえも視野に入れてください。
元夫も収入がなければ生きてはいけません。
必ずどこかに勤務することになるでしょう。
その勤務先の給与を再び差し押さえてやればいいのです。
以上のように、未払いの養育費充てる回収資金は1つではありません。
元夫に財産さえあれば、再度強制執行命令を執ることで、未回収の養育費を回収できます。
ですが、新たな財産を差し押さえ時に必要なのは、その所在情報です。
所在が分からないものを差し押さえすることはできません。
次は、その所在の確認方法を解説します。
再度、強制執行の申し立て時には、差し押さえ対象の所在が必ず必要です。
しっかりと頭に入れるようにしてください。
強制執行による差し押さえには対象財産の所在情報が必要
強制執行の申し立て時には、差し押さえ対象の所在情報の提出が求められます。
- 預貯金の場合 → 銀行名・支店名
- 給与の場合 → 会社名・住所・給与支払者名
元夫に差し押さえできる財産があっても、その所在が分からなければ、強制執行による差し押さえは不可能です。
しかも、この所在確認は、申立人自身が行わなければなりません。
強制執行で給与が差し押さえられることが多いのは、既知の情報であり、調べる必要がないからです。
しかし、今回の様に元夫が退職している時は、新たな差し押さえ対象の所在確認が必要になります。
「強制執行による新たな差し押さえなんてできない。」こう思った人は多いでしょう。
みなさん安心してください。
今は裁判所に「財産開示手続」を申し立てすれば、元夫に財産情報を開示させることができます。
この制度は自分で調査することなく、元夫の正確な財産情報を入手できる方法です。
退職を理由に会社から強制執行を拒否された場合は、まずは裁判所へ「財産開示手続」の申し立てて、元夫の正確な財産情報を入手しましょう。
次はこの「財産開示手続」について詳しく解説します。
重要な情報ですから、しっかりと目を通すようにしてください。
財産開示手続の法的効力と手続時の注意点
令和2年4月1日に改正民事執行法が施行されたことで、裁判所へ「財産開示手続」をすれば、元夫の財産情報を正確に把握できるようになりました。
この「財産開示手続」は債務者(元夫)を裁判所に出頭させ、所有する全財産を開示させる制度です。
改正以前にもこの「財産開示手続」はありましたが、罰則が軽いため、実効性が乏しく、預貯金や勤務先情報の提出拒否や虚偽をする人が後を絶ちませんでした。
そのため給与の強制執行が空振りに終われば、財産情報が把握できず、泣き寝入りすせざるを得ないケースが多かったのです。
平成28年には、母子家庭の養育費受取率が全体の25%に満たないことが、厚生労働省から公表されています。
この数値を見れば、養育費受取率の低さがいかに深刻かは明白ですよね。
そこで、この状況を是正するために施行されたのが「改正民事執行法」です。
「財産開示手続」の法的効力
民事執行法の改正により、実効性が乏しかった民事改正法の効力は、強力な養育費回収手段として生まれ変わりました。
それに一役買っているのが、下記の変更・新設内容です。
- 財産開示手続への拒否や虚偽に対する罰則が強化された
- 金融機関から口座の情報提供を得られるようになった(第三者からの情報取得手続)
- 市町村や年金事務所等から勤務先情報の提供を得られるようになった(第三者からの情報取得手続)
改正前の財産開示手続に科される罰則は30万円以下の科料でしたが、改正後は「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑事罰に変更されました。
罰則を受ければ、前科者の扱いになるというわけです。
改正前は養育費よりも罰金を支払った方が、安くすむと安易に考えていた人もいたでしょう。
しかし、罰金が増えた上、前科が付くとなれば話は別です。
懲役や前科者となることを覚悟して、出頭拒否や虚偽をする人はいないでしょう。
また、債権者(元妻)は新たに追加された「第三者からの情報取得手続」をすれば、正確な口座情報と勤務先情報を取得できます。
偽証してもすぐバレて、刑事罰に問われるだけです。
財産隠しをしても良いことはないと思い知らされることになるでしょう。
元夫にまともな弁護士が付いていれば、まず拒否や偽証は止めろと忠告するはずです。
となれば、法改正後の「財産開示手続」が、強力な養育費回収手段と呼ばれるのもうなづけますよね。
しかし、「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」は誰でも無条件に利用できる制度ではありません。
そのため利用するに当たっては、事前に必要条件を理解しておく必要があるでしょう。
そこで引き続き、「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」利用時の注意点を見ていくことにします。
他の財産を差し押さえする際には、必ず必要な手続きです。
ポイントをしっかり押さえるようにしてください。
「財産開示手続」の注意点
「財産開示手続」の手続きの流れは下記の通りです。
- 元夫の住所を管轄する裁判所に「財産開示手続」の申し立てをする
- 財産開示期日が実施される
財産開示期日に、裁判所で元夫が提出した財産目録が開示されます。
当日は元夫も裁判所に出廷し、口頭弁論が行われるので、怪しい点はしっかりと質問してください。
「こんな制度があるならば、最初の強制執行の申し立て前にやれば良かった。」こう思った人もいるでしょう。
しかし、「財産開示手続」の申し立てができるのは、強制執行による差し押さえの準備段階にある人だけです。
そのため、強制執行の申し立てに必要な、下記要件を満たしている人しか申し立てできません。
- 元夫の現住所を把握している
- 債務名義を取得している
- 元夫に養育費の支払い能力がある
裁判所のHPにも、「債権者は,陳述によって知り得た債務者の財産に対し,別途強制執行の申立てをする必要があります。」という文言が記載されています。
強制執行の申し立てができる人以外は、「財産開示手続」できないのです。
この点は勘違いしないように、よく覚えておきましょう。
「第三者からの情報取得手続」の注意点
「第三者からの情報取得手続」の手続きの流れは下記の通りです。
- 元夫の住所を管轄する裁判所に「第三者からの情報取得手続」の申し立てをする
- 情報提供命令が発令される
- 情報提供命令の確定
情報提供命令が確定すれば、情報提供先へ元夫の情報開示を求めることができます。
この「第三者からの情報取得手続」の申し立て条件は「財産開示手続」と同じです。
しかし、下記の様に取得する情報によって、申し立てできるタイミングが異なる点には注意が必要です。
- 口座情報(金融機関) → 「財産開示手続」を経てから
- 勤務先情報(市町村や年金事務所等) → 「財産開示期日」を経てから
口座情報は「財産開示手続」をすれば直ぐに申し立てできますが、勤務先情報は「財産開示期日」の後です。
また、「財産開示手続」の再申し立ては、前回実施日から3年を経過しないとできませんが、「第三者からの情報取得手続」の再申し立てに制限はありません。
元夫の懐事情が変わった際には財産情報を再取得できるので、忘れずに覚えておきましょう。
②会社が元夫をかばって強制執行を拒否した場合
会社が元夫をかばって、強制執行による差し押さえを拒否するケースは時折見られます。
会社が元夫と同族の家族経営であったり、元夫と経営者が懇意な場合にはあり得る話です。
この場合の対処方法は、会社を相手取った取立訴訟が挙げられます。
これは差し押さえを拒否された元夫の給与分を、会社財産から取り立てるための訴訟です。
それでは、この取立訴訟について、詳しく見ていくことにしましょう。
ーーー
取立訴訟の効果
強制執行が認められると、裁判所から会社へ元夫の給与に対して差し押さえ命令が送達されます。
この差し押さえ命令が送達されると、会社は元夫へ差し押さえ分の給与支払いが禁止され、支払った場合、会社には元妻の取り立てに応じる義務が課せられます。
取立請求は民事執行法で認められた、債権者(元妻)の権利です。
法的手段に則った強制執行を拒否し、この債権者(元妻)の権利を無視したのですから、取立訴訟で敗訴することはまずあり得ないでしょう。
取立訴訟の手続きの流れは下記の通りです。
- 取立訴訟の提訴
- 口頭弁論
- 判決確定
判決が確定すれば会社財産に対して、強制執行による差し押さえが実行され、養育費の回収が行われるという流れです。
会社に差し押さえできる財産があれば、まず取りはぐれることはありません。
しかし、注意して欲しいのは、この勝訴は一時しのぎとなる可能性が高い点でしょう。
元夫は勤務先の会社が訴えられても、養育費の支払いに応じないような人です。
今後も養育費が未払いになる可能性は高いでしょう。
そこで、あなたにお教えしたいのが、この先の養育費支払いを確実にする方法です。
何の心配もなく、この先ずっと確実に養育費が得られるなら、こんなに良いことはありませんよね。
その方法とは、将来発生する養育費の差し押さえです。
将来発生する養育費も差し押さえてしまおう!
取立訴訟で未払いの養育費を回収しても、その後未払いが発生する可能性は否めません。
となれば、また強制執行による差し押さえを申し立てることになります。
未払いが続けば、延々同じことを繰り返すことになるでしょう。
この負のスパイラルから抜け出す対処方法が、将来発生する養育費に対する差し押さえの申し立てです。
実は未払いの養育費と併せて、将来発生する養育費を一括して差し押さえることができます。
申し立てが裁判所に認められれば、永久的に毎月の支払期限を給与が差し押さえることが可能です。
2度と未払いの養育費に対する差し押さえを申し立てる必要がありません。
元夫が退社すれば効力はなくなりますが、下記のような辞めそうにない会社に勤めているなら、絶大な効果を発揮するでしょう。
- 官公庁
- 大手上場企業
- 同族経営会社
勤務先が上記に該当するなら、養育費の一括差し押さえは、是非とも実践して欲しい対処方法です。
また、一括差し押さえができるのは給与のみで、他の財産は差し押さえできません。
この点は勘違いしないようにしてくださいね。
自力回収だけは絶対にNG!
それでは最後に、未払いの養育費回収で絶対にNGの回収方法について話しておきましょう。
実際、強制執行しても会社から差し押さえを拒否され、未払いの養育費を回収できなかった人は少なくありません。
そんな時たまにいるのが、実力行使に出ようと考える人です。
そう考えてしまうのは理解できます。
ですが実力行使による自力回収だけは絶対にやめてください。
個人が持つ自身の権利を、実力行使することを法律では禁止されています。
これを「自力救済の禁止」というのですが、実力行使で養育費を回収すると、民事上で損害賠償責任を負うだけでなく、下記の犯罪行為にも問われかねません。
- 窃盗罪
- 強盗罪
- 器物損壊罪
未払いの養育費の回収方法は法に基づいた回収手続きが必要です。
権利者であろうとこれを無視した自力救済は、法的責任を問われることになります。
この点をよく理解して、法に基づく回収を心がけるようにしてください。
ーーー
まとめ
今回は強制執行による給与差し押さえを、会社に拒否された時の対処法について解説しました。
元夫に財産があれば、未払いの養育費は必ず回収できます。
会社に給与の差し押さえを拒否されても、諦める必要はありません。
養育費の未払い問題に直面した際は今回話した内容を参考にして、担当弁護士とよく相談した上で、最善の解決方法を取るようにしてください。
コメント
[…] […]