養育費の不払いを防ぐために、連帯保証人を付けてもらいたい。
こんな考えが頭をよぎったことはありませんか?
養育費に連帯保証人を付けることは可能です。
事実、元夫の両親を養育費の連帯保証人にしたという話もちらほら聞きます。
しかし、養育費に保証人を付けることは、法的観点からすれば微妙な手続きになるため、手続時には注意が必要です。
そこで今回は連帯保証人を付ける際の注意点とメリット、そして必要書類と書き方を分かりやすく解説します。
「養育費に保証人を・・・」と考えているなら、最後まで目を通して手続時の参考にしてください。
養育費に連帯保証人を付けられる可能性はある!しかし、手続きには注意が必要!!
養育費に連帯保証人を付けることは禁止されているわけではありません。
そのため、元夫の連帯保証人になる人さえいれば、連帯保証人を付けることはできるでしょう。
しかし、冒頭でも言ったように、養育費に連帯保証人を付けることは、法的観点から見ればグレーゾーンと言わざるを得ません。
そのため、一般的な契約で連帯保証人を付ける時とは、少々勝手が違ってきます。
その違いはしっかりと理解しておかなければなりません。
それでは、養育費に連帯保証人を付ける際の注意点を、紹介していくことにしましょう。
覚えておこう!家庭裁判所や公証役場は養育費の連帯保証人に否定的!!
まず覚えておいて欲しいのは、 家庭裁判所や公証役場は養育費の連帯保証人に否定的だということです。
「なんで?」と驚く人もいるでしょう。
これは養育費に連帯保証人を付けることは、法的に間違っているという見解が成り立つためです。
養育費の支払いは親だけに課された義務であり、他の第三者に譲渡することはできません。
このように特定人のみに帰属して、他の第三者に移転しない義務を一身専属義務と言います。
つまり、養育費はこの一身帰属義務に当たるのです。
そのため元夫が養育費を支払わないからといって、その義務を他の第三者に移転することは、一身帰属義務から逸脱しているという見解が成り立ちます。
また、後述しますが連帯保証人が死亡した場合、次の保証人を巡って裁判に発展する恐れがあることを、裁判官や公証人が嫌がっていることも影響しているでしょう。
将来、抗争に発展する可能性を、裁判官や公証人は避けようとします。
よって、裁判官や公証人は養育費に連帯保証人を付けることに否定的になってしまうのです。
公正証書の作成時や、裁判所の調停等では、養育費に連帯保証人を付けることに難色を示される可能性は否めません。
この点はよく理解しておくようにしてください。
家庭裁判所や公証役場で難色を示された時は・・・
しかし、養育費に連帯保証人を付けることが、禁止されているわけではありません。
法的には疑問の残る手続きではありますが、必ずしも裁判官や公証人が難色を示すとは限らないでしょう。
何の問題もなく、すんなり要求が通ったケースも少なくありません。
しかし、問題なのは、公証人が難色を示した場合です。
その時は、養育費に連帯保証人を付けることにこだわらず、執行認諾文言付きの公正証書作成を第一に考えてください。
この公正証書の作成をしておかなければ、不払い時に裁判所へ強制執行による差し押さえの申し立てができません。
申し立てるにはいくつもの手続きが必要となり、弁護士への依頼も必要になるため、余計な時間と労力、そして安くない費用が必要になります。
このような事態は絶対に避けなければなりません。
連帯保証人を付けることに固執するより、執行認諾文言付きの公正証書を作成することを第一に考えた方が、いい結果を招くことになるでしょう。
連帯保証の期間と連帯保証人が死亡した時の保証義務の行方
養育費に連帯保証人を付けた場合、注意して欲しいのは下記の2つです。
- 連帯保証の期間
- 連帯保証人が死亡した時の保証義務
養育費の連帯保証人が負っている保証義務は、通常の連帯保証人とは少々異なります。
この点はしっかりと理解しておくべきでしょう。
それでは、通常の連帯保証人が負っている義務とどう違うのかを、簡単に解説しておきます。
連帯保証の期間
連帯保証の期間は下記のいずれかです。
- 養育費の支払い期間が終わった
- 支払い義務者である元夫が死亡した
「支払い義務者である元夫が死亡しても、連帯保証人の保証義務は無くならないのでは・・・。」
あなたはこう思ったかもしれません。
確かに、通常債務者が死亡した場合、連帯保証人は残りの債務を支払う義務を負います。
債務者に相続人がいれば、債務は相続人に引き継がれます。
しかし、思い出してください。
養育費の支払い義務は一身帰属義務です。
そのため、一身帰属義務による債務は、相続財産から除外されています。
また、養育費の支払い義務を負っているのは支払い義務者だけですから、その当人が死亡すれば、この義務は消滅します。
支払い義務自体が消滅したのですから、連帯保証義務も無くなるというわけです。
この点は通常の連帯保証人が負っている保証義務とは異なるので、よく覚えておくようにしましょう。
連帯保証人が死亡した時の保証義務
また、連帯保証人が養育費の支払い期間中に死亡した時は、相続人に連帯保証義務が引き継がれます。
金額や支払い期間が特定される債務は、相続の対象になるからです。
そのため、この条件に該当する養育費の保証義務は、原則、相続人に引き継がれると解されています。
連帯保証人の相続人が元夫1人ならば、連帯保証義務は消滅するでしょう。
しかし、他に相続人がいるならば、相続割合に相当する保証義務がその人に引き継がれます。
これは、養育費の保証義務が一身帰属義務であることから、裁判で争われる可能性はありますが、相続対象と認められる可能性は高いでしょう。
ですが、相続人が下記に該当する場合は、保証義務は引き継がれません。
民法第450条では、保証権の要件を下記のように規定しています。
1. 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
一 行為能力者であること。
二 弁済をする資力を有すること。
2. 保証人が前項第2号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
必ずしも連帯保証人の相続人へ、保証義務が引き継がれるわけではないのです。
これは覚えておくようにしましょう。
連帯保証人になれる条件
連帯保証人になれる人は、今紹介した保証権の要件に該当すれば誰でも問題ありません。
しかし、問題なのはなり手がいるかという点です。
養育費の連帯保証人となることは、第三者にとって何のメリットも生みません。
むしろデメリットだけです。
そのため、引き受けてくれる可能性があるのは、元夫の両親をはじめとする親族に限られるでしょう。
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養育費に連帯保証人を付けるメリット
養育費に連帯保証人を付けるメリットは、養育費を受け取る側だけと思われがちです。
しかし、支払い義務者にもメリットは存在します。
支払い義務者のメリットは、養育費の連帯保証人を詰めてもらう際の交渉材料にも使えるので、覚えておくといいでしょう。
受け取る側のメリット
これは改めて解説する必要はありませんが、受け取る側のメリットは不払いを回避できる点に尽きるでしょう。
支払い義務者が養育費を支払わない時は、連帯保証人に請求できます。
連帯保証人である事実を執行認諾文言付き公正証書として作成していれば、連帯保証人の財産を差し押さえることも可能です。
不払いという最悪の状況を避けられることで、離婚後の生活を安心して送れる安心感が得られ、精神衛生上にもいい効果が期待できます。
支払う側のメリット
離婚後、確実に養育費が支払われるかが心配で、離婚が上手く進まないというケースもあるでしょう。
この場合、相手がしっかりとした連帯保証人を付ければ、離婚に応じてくれる可能性が高くなるのではと考えるかもしれません。
支払い義務者が離婚したいのに、あなたが離婚を拒否している。
こういった状況であれば、離婚交渉時に連帯保証人を付けることを条件にすれば、相手も連帯保証人を付けることに同意する可能性は高くなります。
現実問題として、養育費に連帯保証人を付けることは簡単ではありません。
連帯保証人を引き受けてくれる人が、見つかりにくいからです。
しかし、支払い義務者が強く離婚を望んでいるなら、親族縁者に頼み込むなどして、連帯保証人も見つかりやすくなります。
これを見込んで、離婚条件として交渉してみるのも1つの手でしょう。
離婚協議書の公正証書化時、連帯保証人を付けるために必要な書類
離婚協議書を公正証書として作成する際は、下記3つの書類提出が求められます。
- 本人確認書
- 戸籍謄本
- 離婚協議書
離婚協議書に連帯保証人となる旨の記載を入れる際には、連帯保証人も同様の書類が必要です。
公正証書を作成する際も、当事者と同席するか、代理人を立てる必要があります。
代理人を立てる際は、上記書類の他に下記書類が必要です。
- 委任状
- 連帯保証人の印鑑証明書
- 代理人の確認資料
これら必要書類に関しては、下記記事の「公正証書を作成する為に必要な書類と費用と注意点」で詳しく紹介しています。
ぜひ目を通して、提出書類に漏れがないように注意してください。
連帯保証人を付けた離婚協議書の作成方法
連帯保証契約は書面で合意した場合のみ有効で、口約束だけの合意では無効になります。
そのため、離婚協議書には連帯保証人が、養育費支払いの連帯保証人であることに合意した記載が必要です。
まず、離婚協議書には、連帯保証人に自筆で下記3つの記載が求められます。
- 氏名
- 住所
- 捺印(実印)
これに加えて、下記の連帯保証契約に関する事項記載が必要です。
- 連帯保証契約を結ぶ旨の記載
- 養育費の支払い金額
- 養育費の支払い期間
- 養育費の支払い期日
- 養育費の支払い方法
- 連帯保証の限度額(極度額)
この中で最も注意して欲しいのは、連帯保証の限度額です。
連帯保証の限度額の記載が必須!
2020年4月の民法改正に伴い、下記の様に、個人の保証契約では限度額を決めなければ連帯保証の効力が発生しなくなりました。
(民法465条の2第1項)
個人(保証人が法人ではないもの)の根保証契約(「一定の範囲に属する不特定に債務を主たる債務とする保証契約」・新民法465条の2・第1項)について、保証人は、「極度額」(「主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について、その全部に係る極度額」)を限度として、その履行をする責任を負う。(民法465条の2第2項)
個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
養育費の連帯保証契約は、個人の根保証契約に当たります。
限度額の取り決めが記載されていなければ無効になるので、記載漏れのないように注意してください。
また離婚協議書の書式にはこれといった決まりはありません。
しかし、記載事項は養育費だけに限らず多くのものがあるため、個人で作成するのはあまりおすすめできません。
WEB上に文例や雛型が公開されてはいますが、弁護士または行政書士といった専門家に依頼した方が確実でしょう。
自分で作成して不備があれば、公正証書にしても何の意味もありません。
そうならないためにも、専門家に作成依頼することをおすすめします。
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養育費保証サービスや自治体の養育費保証制度の検討も!
近年、養育費の不払い問題を解決する方法として、注目されているのが下記の2つです。
- 民間保証会社の養育費保証サービス
- 自治体の養育費保証制度
どちらも不払いの養育費を、立て替え払いしてくれるサービスです。
保証金額に上限があるため、完全保証を受けられるわけではありませんが、養育費の不払いを回避するにはおすすめのサービスと言えるでしょう。
民間保証会社では保証料の支払いが必要ですが、自治体であれば保証料の支払いが免除されます。
あなたが住んでいるところの自治体が、養育費保証制度を導入しているなら、絶対に養育費保証制度の方がおすすめです。
これら養育費保証サービスと養育費保証制度の概要については、下記の記事で詳しく解説しています。
確実に養育費不払いを回避できるサービスですから、必ず目を通してサービス利用の検討をしてみましょう。
まとめ
今回は連帯保証人を付ける際の注意点とメリット、そして必要書類と書き方を解説しました。
養育費に連帯保証人を付ければ、養育費の不払いを高い確率で回避できます。
連帯保証人が見つかりにくいのがネックですが、可能ならば是非実施してもらいたい養育費不払いの対処方法と言えるでしょう。
今回の記事で紹介した注意点を理解した上で、離婚時には交渉してみるようにしてください。
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