「夫との離婚を検討しているけど、離婚後の生活が心配・・・。」
「でも年収が1,000万円もあるんだから、子供の生活を十分保障してもらえるだけの養育費は絶対にもらえるはず!」
こんな風に考えている女性は多いことでしょう。
確かに養育費は支払い義務者の年収に比例するため、年収が高いほど、もらえる養育費も高くなります。
しかし、実際にもらえる養育費が、必ずしも望んでいる額とは限りません。
基本的に養育費は養育費相場を基準に決められるため「期待していたほどではなかった・・・」と落胆させられることも少なくないのです。
原則、養育費は離婚する両者の合意によって決められます。
ですが大抵の場合、両者の要求にずれが生じ、話し合いがまとまることはありません。
そこで、参考にされるのが養育費相場です。
そこで今回は年収1,000万円の夫と離婚した場合、どれくらいの養育費が請求できるのかを、養育費相場を基に検証していきます。
年収1,000円の夫と離婚を検討している人は、最後まで目を通して養育費交渉の参考にしてください。
養育費の基本的な計算方法を理解しよう!
養育費相場の計算方法はいくつかありますが、複雑な計算を伴うものもあるため、その全てが万人向けとは言えません。
そこで今回は誰でも難なく養育費相場を確認できる方法を紹介します。
養育費は原則、離婚する両者の話し合いによって取り決められますが、その際に養育費相場として参考にされるのが養育費算定表です。
養育費算定表は信頼性と実効性のあるデータとして評価されており、協議離婚時や裁判所の調停時など、養育費を決定する際の相場データとして広く利用されています。
裁判所での養育費決定は、ほぼ養育費算定表のデータが適用されると言われます。
となれば、養育費相場を確認するにはまさに打ってつけのデータですよね。
そこでまずは、この養育費算定表を使った養育費相場の確認方法を解説します。
実際に養育費算定表を見ながら、順追って養育費相場を確認していくので、確認方法をマスターしてください。
養育費算定表の見方
養育費算定表は下記の裁判所HPで無料公開されています。
まずは上記サイトにアクセスしてください。
すると画面上には「養育費・養育費用算定表」というページが開きます。
ページを確認できたら、ページトップ下にある「▶養育費・婚姻費用算定表」をクリックしてください。
ステップ1:該当するPDFファイルを開く
今、画面上で「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」というページが確認できていると思います。
このページで注目して欲しいのが、ページトップ下に羅列されているPDFファイルです。
養育費相場の確認に使用するのは、「(表1)から(表9)」までのPDFファイルで、これらが養育費算定表になります。
養育費算定表を使って養育費相場を確認する際、必要になる情報は下記の3つです。
- 夫婦それぞれの年収
- 子供の人数
- 子供の年齢
「(表1)から(表9)」までのPDFファイル名を見てください。
各ファイル名に子供の人数と年齢が記載されているのが確認できるでしょう。
養育費相場を確認する際、まずは下記条件に該当するPDFファイルを選びます。
- 子供の人数
- 子供の年齢
14歳以下の子供が1人なら(表1)、15歳以上の子供が1人なら(表2)といった具合です。
ステップ2:夫婦それぞれの年収から養育費を確認する
今回は「(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)」を使って、養育費相場を確認していきます。
この表は名称の通り、14歳未満の子供が1人いる際に使用する養育費算定です。
それでは早速、このPDFファイルを開いてみましょう。
そうすると画面に、縦列に義務者の年収、横列に権利者の年収と書かれたグラフが画面に現れます。
- 義務者 ⇒ 非親権者(*今回は子供と離れて暮らす夫)
- 権利者 ⇒ 親権者(*今回は子供と暮らすあなた)
後はそれぞれの職業に応じた、個々の年収を選んでください。
- 自営 ⇒ 自営業者
- 給与 ⇒ 会社員
そして両社それぞれの年収が、画面上でクロスした金額帯を確認するだけです。
試しに、下記条件で養育費がいくらになるのかを確認してみましょう。
- 夫の年収(会社員):1,000万円
- 妻の年収:無収入
- 子供:1人(14歳以下)
この場合両者の年収がグラフ上でクロスした価格帯は、「12~14万円」です。
あなたも同じ金額になったでしょうか?
養育費算定表の一番の特徴でありメリットなのは、計算せずに目視だけで養育費相場が確認できる点です。
これなら初心者でも手間なく簡単に、養育費相場が確認できるのは間違いなしですね!
ーーー
実際に年収1,000万円の夫と離婚した際の養育費を確認しよう!
養育費相場の確認方法を理解してもらったところで、次は実際にこの養育費算定表を使って、年収1,000万円の夫と離婚した時の養育費を確認してみましょう。
夫の年収が1,000万円でも、下記条件が異なれば養育費相場も変動します。
- 妻の年収
- 子供の人数
- 子供の年齢
今回は妻が専業主婦で無収入であると仮定し、残り2つの条件が変わることで、養育費がどう変動するのかを確認します。
これら条件の変更に伴い、養育費相場がどのように変動するのかを、注意して見るようにしてください。
子供の年齢・人数別に見る養育費
夫の年収が1,000万円、妻が無収入のケースでは、子供の年齢と人数が異なることで、養育費相場が下記の様に変動します。
子供の人数・子供の年齢 |
養育費相場 |
子供1人・年齢14歳以下 |
12万円~14万円 |
子供1人・年齢15歳以上 |
14万円~16万円 |
子供2人・共に年齢14歳以下 |
18万円~20万円 |
子供2人・第1子年齢15歳以上/第2子年齢14歳以下 |
18万円~20万円 |
子供2人・共に年齢15歳以上 |
20万円~22万円 |
子供3人・全員年齢14歳以下 |
20万円~22万円 |
子供3人・第1子年齢15歳以上/第2子、3子年齢14歳以下 |
22万円~24万円 |
子供3人・第1子、2子年齢15歳以上/第3子年齢14歳以下 |
22万円~24万円 |
子供3人・全員年齢15歳以上 |
24万円~26万円 |
子供の人数と年齢は、養育費相場にさほど大きな影響は見られません。
注目してもらいたいのは、教育費相場が高額な点です。
冒頭で言ったように、養育費相場は支払い義務者の年収に比例します。
下記は日本人男性の平均年収441万円の養育費相場と差額比較したものです。
子供の人数・子供の年齢 |
養育費相場 |
差額 |
子供1人・年齢14歳以下 |
4万円~6万円 |
-8万円 |
子供1人・年齢15歳以上 |
6万円~8万円 |
-8万円 |
子供2人・共に年齢14歳以下 |
8万円~10万円 |
-10万円 |
子供2人・第1子年齢15歳以上/第2子年齢14歳以下 |
8万円~10万円 |
-10万円 |
子供2人・共に年齢15歳以上 |
8万円~10万円 |
-12万円 |
子供3人・全員年齢14歳以下 |
8万円~10万円 |
-12万円 |
子供3人・第1子年齢15歳以上/第2子、3子年齢14歳以下 |
10万円~12万円 |
-12万円 |
子供3人・第1子、2子年齢15歳以上/第3子年齢14歳以下 |
10万円~12万円 |
-12万円 |
子供3人・全員年齢15歳以上 |
10万円~12万円 |
-14万円 |
この差額の大きさには驚かされますよね!
最大14万円もの差額が出るとは予想もしていませんでした。
年収1,000万円の夫と離婚してもらえる養育費は、平均世帯と比べてかなり高額であることは一目瞭然です。
また、今回は夫の年収が1,000万円ということで、詳しくは触れませんが、妻に収入がある場合は、確実に養育費相場は減額されます。
夫に1,000万円の年収があれば共働きというケースは少ないでしょう。
ですが、あなたに定期的な収入がある場合は注意が必要です。
年収の高さによっては大幅な減額となる可能性があります。
あなたに定期的な収入がある場合は、養育費算定表で養育費相場を確認してみることをおすすめします。
夫婦それぞれが子供を引き取った場合の養育費
養育費算定表の養育費は、親権者となる親が子供全員を引き取ったケースを前提として算定されています。
そこで問題となるのが、離婚する夫婦それぞれが子供を引き取った時の養育費相場の確認です。
このケースでは養育費算定表で養育費相場の確認はできません。
養育費算定表では確認できないイレギュラーなケースでは、原則、養育費算定表の算定時に用いられた標準計算式を使って、自ら養育費を計算するしか手はありません。
この計算方法は下記記事の「再婚した時にもらえる養育費の相場」で詳しく解説しています。
ですが、この計算方法は万人向けとは言い難く、複雑な計算のため計算をミスする人が多いと言われています。
計算が得意な人なら問題ないでしょうが、計算が不得意だ、面倒な計算は嫌だ、という人には向かないでしょう。
そこで今回は誰でも簡単に計算できる方法をお教えします。
養育費算定表の様に簡単にはいきませんが、難解な計算ではないので、計算が苦手な人でも難なく養育費相場が求められるでしょう。
それではその計算方法に基づき、下記条件での養育費相場を計算します。
- 夫の年収:1,000万円
- 妻:無収入
- 夫婦がそれぞれ14歳未満の子供を1人ずつ監護
順を追って分かりやすく解説するので、一緒に養育費相場を計算していきましょう。
ステップ1:子供の生活指数を確認する
子供の生活指数は一般的な大人の生活を100とした時の、子供の指数がいくらになるかを示した数値です。
子供の生活数値は年齢によって、下記の様に区分されています。
- 0歳~14歳未満:55
- 14歳以上:90
今回はどちらの子供も14歳未満ですから、生活指数は共に55になります。
ステップ2:養育費を支払う子供の生活指数割合を求める
生活指数割合は養育費を支払う子供の生活指数が、子供全員の生活指数合計値に占める何割を示す数値です。
よって、生活指数割合は下記計算式で求められます。
まずは子供全員の生活指数合計を計算しましょう。
そして、今回の養育費の支払対象は14歳未満の子供1人ですから、養育費を支払う子供の生活指数割合は下記の通りです。
55 ÷ 110 × 100 = 50
⇒生活指数割合50%
今回は子供2人で共に年齢が14歳未満だったため、計算も簡単でした。
しかし、年齢が異なることもが3人、あなたが年齢が異なる子供を1人ずつ、残りを夫がといったように、複雑な条件下では条件を取り違える人が多くなりますす。
計算自体は難しいものではありませんが、条件を取り違えると計算ミスに繋がります。
くれぐれも条件を取り違えないように注意してください。
ステップ3:養育費算定表から養育費を確認する
次は養育費算定表を使って、子供全員をあなたが引き取った時の養育費を確認してください。
この場合の養育費は下記の通り「18万円~20万円」です。
ここまでくれば、後は最後の計算を残すだけです。
ステップ4:養育費を計算する
今確認した養育費に、先に計算した生活指数割合を掛けてやれば、今回の条件下での養育費相場が算出できます。
今回の計算方法で注意して欲しいのは、先に話した子供の生活指数割合の計算だけす。
ここで条件を取り違えさえしなければ、計算ミスすることなく養育費相場を算出できるでしょう。
夫婦それぞれが子供を引き取る場合は、この計算方法を使うことをおすすめします。
もらった養育費は親権者の年収にはならない!
年収1,000円の夫と別れるとなれば、数十万円単位の養育費を受け取ることも可能です。
となれば、気になるのは養育費の会計上の処理でしょう。
中にはもらった養育費が年収に当たるのではないかと、心配している人もいるようですが、これには心配する必要はありません。
もらった養育費は課税対象にはなりませんから、所得税や住民税の納税義務は発生しないので安心してください。
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養育費は所得税の対象外!
養育費が所得税の対象外であることは、下記の所得税法9条1項15号にちゃんと規定されています。
「学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するもの(給与所得を有する者がその使用者から受けるものにあつては、通常の給与に加算して受けるものであつて、次に掲げる場合に該当するもの以外のものを除く。)を除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品。 」
「扶養義務を履行するため給付される金品」が養育費に該当します。
よって、養育費を受け取っても所得税や住民税の支払いを求められることはありません。
ですが、注意して欲しいのは所得税ではなく贈与税です。
贈与税も原則非課税ですが、とある条件に該当することで、贈与税の課税対象になる可能性が出てきます。
一括で養育費を受け取る場合は贈与税に注意!
贈与税も所得税と同様に、原則、養育費は課税対象にはなりません。
これは下記の相続税法21の3条1項2号「贈与税の非課税財産」を見てもらえば明らかです。
「次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。二.扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの。」
「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの。」が養育費に該当します。
しかし、下記の規定を見てください。
この「相続税基本通達21-3の5」は、贈与税の非課税条件を規定したものです。
「生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。」
ここで注目してもらいたいのが、「生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。」という部分です。
これは養育費を銀行に貯蓄した場合、贈与税の非課税対象から除外されることを言及しています。
毎月分割で養育費を受け取っている場合、とてもじゃありませんが貯蓄に回すことはできません。
しかし、養育費を一括で受け取った場合は話が別です。
今回のように、夫の年収が1,000万円と高額な場合、一括で養育費を受け取ると数千万円単位もの高額な金額になってしまいます。
となれば、口座に10年単位でプールされることになるでしょう。
これが預貯金として判断されてしまうのです。
この場合、受け取った養育費は贈与税の課税対象とされ、贈与税の納税義務が課されてしまいます。
贈与税の対象となると驚きの課税額が!!
月額20万円の養育費を15年間受け取ると仮定しましょう。
分割で支払ってもらう場合の養育費総額は下記の通りです。
これを一括で支払ってもらい、銀行に預けた場合の贈与税を計算してみましょう。
3,600万円 - 基礎控除額110万円 = 3,490万円
3,490万円 × 贈与税率55% = 1919.5万円
1919.5万円 - 控除額400万円 = 1519.5万円
贈与税として支払う額は、何と1519.5万円にも上ります。
分割であれば3,600万円手にできるところが、一括支払いだとこの贈与税の支払いが発生し、2080.5万円しか手にできないのです。
親から子供への贈与時に掛かる税率は、下記の様に贈与額が高額なほど高くなります。
養育費 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
― |
200万円超え~300万円以下 |
15% |
10万円 |
300万円超え~400万円以下 |
20% |
25万円 |
400万円超え~600万円以下 |
30% |
65万円 |
600万円超え~1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,000万円超え~1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
1,500万円超え~3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超え |
55% |
400万円 |
そのため、年収が高額な夫から一括で養育費を受け取ると、高額な納税義務という大きなデメリットを被る可能性が出てくるのです。
養育費の一括払いは、養育費の不払いを回避できる大きなメリットがあります。
しかし、このデメリットを簡単に無視することはできません。
相手から一括支払いの申し出があった場合は、下記どちらのデメリットを取るかの選択を強いられることになるでしょう。
- 養育費の不払い
- 高額贈与税の課税
相手から一括支払いの申し出があった場合は、どちらのデメリットを選んだ方が得かを、慎重に考えるようにしてください。
養育費はいつの年収を基に決められるのか
養育費算定表を使った養育費相場の確認では、「いつの年収を使えばいいの?」と戸惑う人もいるでしょう。
大抵の場合、現在の年収なのか、昨年の年収なのかで迷うのではないでしょうか。
原則、養育費を試算する場合は昨年度年収を用います。
しかし、事情が変わって下記の様に、昨年度年収と大きく異なる場合は話が別です。
- 業績や勤務成績で年収の変動が大きくなる職業の場合
- 今後の減収が確実視している場合(個人事業主等)
- 転職した場合
- 退職し転職先が見つかっていない場合
どの時点の年収で養育費を算定するのかを、両者で話し合う必要があるでしょう。
どれもそうですが、離婚時収入または、直近収入が減額されることが証明できることが、変更可能な理由になります。
個人事業主などでよく使われる、「減収見込み」くらいでは変更理由にはなりません。
養育費はあなたができるだけ高くと望むように、相手はできるだけ低くと望んでいます。
あいまいな減収理由で、養育費の減額を求めてくることもあるでしょう。
これは単なる引き下げ手段に過ぎないかもしれません。
相手から減収を理由に養育費減額を相談された際は、自己判断せず、必ず弁護士に相談するようにしてください。
まとめ
今回は年収1,000万円の夫と離婚した時、いくらの養育費が請求できるのかを解説しました。
年収1,000万円を超えるのは、日本人男性の約9%ほどしかいません。
年収が高いことは養育費を受け取る側には、様々なメリットがあります。
養育費の増額を受け入れてもらえる可能性も十分にあるでしょう。
養育費は養育費相場を基に決められるのが一般的ですが、相手の同意さえあれば増額はいくらでも可能です。
まずは今回紹介した養育費相場の確認方法で養育費相場を確認し、その上で増額交渉に臨んでみるのもいい方法かもしれませんね。
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