「離婚時養育費を一括で支払って欲しい!」と考える女性は少なくありません。
その理由の多くは、不払いになることを恐れてのことでしょうが、結論から言えば養育費の一括請求は可能です。
事実、養育費の不払いを避けたいのであれば、一括請求はまさにおすすめの回収方法となるでしょう。
ですが、養育費の一括請求はメリットばかりではありません。
当然のごとくデメリットもあるので、メリットばかりに目を向けていると、手痛い目に遭うことになってしまうでしょう。
そこで今回は養育費の一括払いについて、徹底解説していきます。
請求時の注意点や、知っておくべき重要ポイントを重点的に解説するので、養育費の一括請求を考えている人はぜひ目を通して、請求時の参考にしてください。
離婚時に養育費を一括請求の可能性は相手次第!
冒頭で言ったように養育費を一括請求は可能です。
養育費を支払う義務者が同意さえすれば、一括で養育費を受け取ることができます。
ですが、一括請求時に覚えておいて欲しいのは、養育費の支払い方法は定期的な給付、つまり月額払いが原則とされているという点です。
基本的に養育費は日々必要になる費用であり、長期的に支払われる性質を持つことから、一括給付ではなく、定期的に給付されるべき金銭だと考えられています。
これは裁判所も同様の見解です。
よって、仮に裁判所へ妻が養育費の一括請求をしても、夫の同意がなければ、裁判所が一括支払いを認めることはありません。
養育費の一括請求ができるかどうかは、養育費を支払う相手の意向次第なのです。
これは養育費を一括請求する上で、一番重要なポイントになってきます。
話し合いでらちが明かないなら、裁判所に裁決をお願いするという従来の方法を取ることはできません。
この点は勘違いのないように、よく理解しておきましょう。
一括請求の可否は相手次第
養育費についての取り決めは、原則、離婚する当事者同士の話し合いによって取り決められます。
しかし、問題となるのは、話し合いで決着が付かなかった場合です。
通常、養育費問題で離婚する当事者間で話し合いがまとまらなかった場合、裁判所に裁決を仰ぐことになります。
この場合、裁判所により公平な裁決が下されることになるでしょう。
ですが、養育費の一括請求に関しては話が別です。
裁判所に一括請求調停の申し立てをしたとしても、まず裁判所が認めることはありません。
これは、先に話したように裁判所自身が、養育費は定期的に支払われるべきものだというスタンスを取っているからです。
申し立てをしたとしても、夫がその請求を拒否するならば、一括請求は認められず、裁判所の裁決は月々の支払いにとどまることになるでしょう。
養育費の一括請求は可能です。
しかし、そのためには相手である夫の合意が必要不可欠になります。
自分の一存ではどうにもなりませんし、裁判所も見方にはなってくれません。
この点はよく覚えておくようにしてください。
離婚時に養育費を一括請求する際の注意点
離婚時の養育費の一括請求は相手の同意を得る必要があるため、決して安易なことではありません。
しかし、一括で支払いを受けられる可能性はあるでしょう。
そこで、ここでは養育費の一括支払いをスムーズに行うために、知っておいて欲しい注意点をお教えします。
養育費の一括請求を検討している人は、よく理解するようにしてください。
一括払いが認められやすいケースと、そうでないケース
養育費の一括支払いは誰にでもできることではありません。
まずは、養育費を支払う相手に、支払えるだけの財力があることが前提になってきます。
養育費は10年から20年と長期に渡って支払われるものです。
その養育費の平均月額である4万円を15年分一括で受け取るとしましょう。
その際の総額は720万円、20年分だと960万円にも上ります。
こんな大金を簡単に支払える人が、ゴロゴロいるはずありませんよね。
一括請求する際は、相手に支払うだけの財力があるかの見極めが必要になってきます。
しかし、離婚時に子供が高校生であるなど、支払い期間が短期間で済む場合なら話は別です。
このケースであれば、相手も一括支払いにも対応しやすくなるので、十分に可能性が出てきます。
よって、養育費を一括請求できる可能性があるのは、下記いずれかの条件に該当するケースに限定されるでしょう。
- 離婚する夫に支払えるだけのな財力がある
- 養育費の支払い期間が短期間
一括請求する場合は、これら条件に該当するかをまず検討してください。
また、これら条件をクリアしていたとしても、相手が同意するかは別の話です。
下記のような理由から、相手が一括支払いを拒否するケースも見られます。
- 妻が子供のために養育費を使うかどうかが不安
- 面会交流ができなくなるかが不安
特に「妻が子供のために養育費を使うかどうかが不安」という理由で、一括請求を拒否する人が多いのには注意が必要です。
仮に、親権者が一括で支払われた養育費を子供のためではなく、自分自身のために浪費してしまったとしましょう。
この時、再度、子供から養育費の支払いを求められた場合、義務者はこの支払いに応じなければなりません。
これは、子供が養育費を使い切ったわけではないため、本来の権利者である子供には何の責任もないからです。
このような司法判断が下されるのであれば、うかつに一括請求に応じることなんてできやしませんよね。
以上のように、養育費の一括請求は簡単に同意が得られるものではありません。
これも養育費の一括請求を考える際には、覚えておいてもらいたいポイントですね。
一括支払い後の養育費の追加請求は認められにくい!
また、養育費を一括請求で覚えておいて欲しいのは、追加請求が認められにくくなる点です。
一括支払いに合意した場合、将来起こりうるある程度の事情変更も視野に入れていると考えられます。
そのため、事情変更に伴う養育費の追加請求が認められにくくなるのです。
事実、下記のような事案で追加請求が認められなかった判例があります。
一括請求で養育費を受け取り、私立学校への進学や学習塾代金等の教育費として使い果たし、さらに養育費の分割を求めて追加請求。
これに対して東京高裁は下記理由にて、養育費を追加請求する事情変更には該当しないとして、養育費の追加請求を棄却しています。(*東京高裁平成10年4月6日判決)
- 親権者が計画的に使用して養育に当たれば不足は生じなかった
- 単に無計画に養育費を使い果たしただけ
私法上、養育費を受け取った権利者は、その権利の行使や履行において、義務者の信頼や期待を裏切らないように誠意をもって対応する信義誠実の原則(信義則)が求められます。
つまり、一括で養育費を受け取った権利者は、その金銭で子供の養育を賄わなければならないというわけです。
となれば、この信義誠実の原則(信義則)の観点からすれば、追加請求自体に問題があることになってしまいますよね。
以上の理由から、一括支払い時は分割支払時よりも、追加請求が困難になってしまいます。
この点は忘れないように、しっかりと覚えておきましょう。
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離婚時に養育費を一括請求した時のメリットとデメリット
それでは引き続き、養育費を一括請求した時のメリットとデメリットを見ていくことにします。
メリットについてはいくつか思い付く人もいるでしょうが、デメリットについては思い付かないという人は多いことでしょう。
特にデメリットについては、養育費を受け取る側にとって甚大なリスクを被る可能性があるので注意が必要です。
養育費の一括請求を検討するならば、このリスクについてはしっかりと理解しておくようにしてください。
養育費を一括請求した時のメリット
養育費を一括請求した時のメリットとして挙げられるのは下記の3つです。
- 養育費の未払いや滞納を回避できる
- 離婚後の生活不安が減る
- 相手と縁を切ることができる
それではこれらメリットを見ていくことにしましょう。
養育費の未払いや滞納を回避できる
養育費を一括で受け取ることのメリットは、何と言っても養育費の未払いや滞納を回避できることでしょう。
近年、社会的問題として取り上げられることが多くなっているのが、養育費の不払い問題です。
厚生労働省の調査結果では、現在継続して養育費を受け取っている母子世帯は、たったの25%弱しかいません。
となれば、離婚後に養育費の未払いや滞納の心配が一切いらないのは、他の何にも代えられない最大のメリットと言えます。
離婚後の生活不安が減る
離婚で一番の心配事といえば、離婚後の生活維持です。
特に専業主婦だった場合、離婚後の働き先を見つける必要もありますし、子供を抱えて生活していくことに対する不安は相当なものでしょう。
しかし、養育費を一括で受け取ることができれば、少なくとも当面の経済的な不安や負担を軽減することができます。
養育費を自分の生活費として流用することは許されませんが、まとまったお金が手元にあるとないとでは、気分的には全く違ってくるのは確かです。
相手と縁を切ることができる
養育費を一括で受け取っておけば、今後、離婚した元夫ときっぱり縁を切ることも可能です。
特に離婚原因が元夫のDVやモラハラだった人にとっては、間違いなく欠かせないメリットになってくるでしょう。
肉体的・精神的暴力を受けている場合、一刻も早く相手と縁を切る必要があります。
ですが、分割で養育費を受け取るとなれば、簡単に縁を切ることはできません。
となれば一刻も早く縁を切りたい人にとっては、養育費の一括支払いは一番の得策とも言えますね。
養育費を一括請求した時のデメリット
養育費を一括請求した時のデメリットは下記の3つです。
- 贈与税が発生する
- 分割払い時よりも減額となることが多い
- 離婚後の追加請求が認められにくい
3つ目の「離婚後の追加請求が認められにくい」については、先ほどの解説で理解してもらえたかと思います。
ここでは残り2つのデメリットについて見ていくことにしましょう。
贈与税が発生する
養育費は下記の相続税法に定められている通り、原則、贈与税の課税対象にはなりません。
「次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。二.扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの。」
(*相続税法21の3条1項2号「贈与税の非課税財産」より)
上記の「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの。」の部分が養育費に該当します。
ですが、これはあくまで養育費を分割で受け取っている場合に限定した話です。
下記の非課税条件を規定した「相続税基本通達21-3の5」を見てください。
「生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。」
この通達文で注目してもらいたいのが下記の部分です。
「生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合」
「当該預貯金の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。」
これは受け取った養育費を銀行に預けた場合、非課税条件を脱するため、非課税対象から除外するという趣旨の文章になります。
養育費の一括支払いともなれば、数百万円単位、多ければ1,000万円を超えることも珍しくありません。
となれば受け取った養育費は、当然、銀行に預けることになってしまいますよね。
よって、一括支払いで養育費を受け取った場合、贈与税の課税対象になってしまうというわけです。
そして、ここで注意してもらいたいのが、ぞの贈与税に掛かる税率の高さです。
親から子供への贈与で発生する贈与税には、下記の様に高額な税率が課されています。
養育費 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
― |
200万円超え~300万円以下 |
15% |
10万円 |
300万円超え~400万円以下 |
20% |
25万円 |
400万円超え~600万円以下 |
30% |
65万円 |
600万円超え~1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,000万円超え~1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
1,500万円超え~3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超え |
55% |
400万円 |
月額10万円の養育費を10年間受け取ると仮定した場合、受け取る養育費総額は下記の通りです。
ですが、これを一括支払いで受け取り、贈与税の支払いが発生したとしましょう。
その時に発生する贈与税は、下記の様に高額なものになってしまいます。
1,200万円 - 基礎控除額110万円 = 1,090万円
1,090万円 × 贈与税率45% = 490.5万円
490.5万円 - 控除額175万円 = 贈与税315.5万円
贈与税として支払う額は、何と315.5万円にも上ります。
分割であれば1,200万円もらえるところが、一括支払いだと贈与税の支払いが発生するため、下記の様に大幅な減額対象となってしまうのです。
これは養育費を一括で受け取る際に被る、見逃せない大きなデメリットです。
先ほどの税率表を見てもらえば分かりますが、受け取る養育費が高額になるほど税率は高くなり、受け取れる養育費の減額幅は大きくなります。
この点はしっかりと理解しておくようにしてください。
分割払い時よりも減額となることが多い
養育費の一括請求では、大抵のケースで相手から減額の申し出があります。
一括で支払うことを条件に、減額して欲しい旨の交渉を持ち掛けられることになるでしょう。
また、中間利息控除により、一括支払い時にはその控除分を差し引いて、義務者の逸失利益を減額するという考え方もあります。
そのため、養育費の一括支払い時には、高い確率で分割時よりも養育費は減額されることになるのです。
これについては次項の「一括請求時の養育費相場は変わってくる?! 」で詳しく解説するので、そちらを参考にしてください。
一括請求時の養育費相場は変わってくる?!
今話したように、養育費の一括支払い時には、養育費が減額される可能性が出てきます。
相手から減額を条件に一括支払いをすると言われれば、対応せざるを得ないでしょう。
また、この減額に関しては、ちゃんとした根拠があります。
中間利息控除を根拠として、減額請求することができるからです。
事実、東京高裁が昭和31年6月26日に下した判決では、下記の様に養育費の一括支払い時には中間利息を控除すべきだとしています。
「仮りに一度に支払うべきものとしても、その計算方法はホフマン式により中間利息を控除すべきで、抗告人の主張するように、単に一ケ月に要する費用をその養育年数に乗じて計算すべきでない。」
もちろん養育費を支払う義務者が、減額を求めてこなければ、減額する必要はありません。
しかし、相手から減額交渉があった場合は、それに応じざるを得ないでしょう。
中間利息控除ってなに?
中間利息控除と言われても、よく分からないという人は多いのではないでしょうか。
養育費のように本来ならば分割で取るはずのお金を一括払いしてもらう時に、将来にわたって発生する利息分を差し引くことを中間利息控除と言います。
例えばあなたが10年分の養育費1,000万円を、一括で受け取るとしましょう。
この受け取った1,000万円は、当然銀行に預けることになりますよね。
となれば分割支払いならば発生しない、10年分の銀行利息が発生してしまい、取り決めた養育費以上の金額を手にすることになってしまいます。
よって、支払い時にはその利息、つまり中間利息を差し引いた金額を支払うのが妥当だという考えになるのです。
この中間利息は法定利率である年3.0%が適用され、3年ごとに市場金利の変動に合わせて見直しが行われます。
利息計算に用いられる法定利率は、養育費支払が発生した時期が基準とされるので、法定利率が変更されても、受け取り後に金額変更はありません。
基本的にこの中間利息が、減額分に相当することになるでしょう。
どれくらいの減額となるか詳しい金額が知りたい人は、弁護士等に相談するようにしてください。
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養育費の一括請求で贈与税のかからない方法
養育費の一括請求で一番のネックになるのは贈与税の支払いです。
先ほどの話で、贈与税の存在に頭を抱えた人も少なくないでしょう。
しかし、養育費を一括で受け取った時でも、贈与税の支払いを回避する方法はあります。
受け取った養育費を信託銀行に預けて財産管理にすれば、贈与税を非課税にできるのです。
信託銀行に預ければ贈与税は非課税に!
信託銀行に預けることで非課税にできると言った根拠は、「相続税個別通達直審5の5」に基づきます。
下記の全条件をクリアすれば、養育費の一括支払い時でも贈与税を非課税にすることが可能です。
- 養育費を子供名義の口座に振り込む
- 養育費の振込後,それを管理する親権者が信託銀行と子供を委託者兼受益者にして養育費を預け、毎月子供に対し信託銀行から一定額を支払う均等割給付金の金銭信託契約を締結する
- 1と2を調停調書にする
(*「相続税個別通達直審5の5」より)
子供名義の口座に全額を振り込み、それを信託預金にしたことを、裁判所の調停で認めてもらえばいいわけです。
また、この手続きでは注目して欲しい点があります。
それは信託銀行との金銭信託契約を解除する際には、養育費を支払う義務者の同意が必要になる旨を特約として定めなければならない点です。
この特約により、親権者は勝手に契約解約することはできません。
解約するなら、養育費を支払った義務者の同意が必要になります。
ここで思い出してもらいたいのが、義務者が一括請求を拒む理由です。
相手が拒否する理由の1つに挙げられるのが、親権者がちゃんと子供のために養育費を運用するかどうかが不安な点になります。
ですが、この贈与税を非課税にするための方法を条件として提示すれば、相手も安心して支払いに同意することができますよね。
となれば、この贈与税を非課税にするための方法は、相手から一括請求の同意が得られやすくなる上、贈与税の支払いも回避できる、一挙両得な方法になってくるのです。
これは養育費の一括請求を検討する人には、絶対に知っておいて欲しい重要な情報と言えるでしょう。
まとめ
今回は養育費の一括払いを徹底解説しました。
養育費は原則、分割払いが基本ですが、養育費を支払う相手が同意さえすれば、一括で受け取ることも可能です。
ですが、高額な贈与税の支払いにはくれぐれも注意しなければなりません。
まずは養育費の一括請求におけるメリットとデメリットを念頭に置き、あなたにとって養育費の一括請求が本当に最善の方法なのかをよく検討するようにしてください。
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