現在、日本で離婚後に養育費受け取っている母子世帯は、全体の25%弱と低い数値を示しています。
これは近年、社会的問題として取り上げられている不払い者が多いことが原因です。

しかし、養育費の受給率が低いのは、この不払いだけに理由があるわけではありません。
とにかく離婚したい、今後一切関わりたくないといった理由で、端から養育費の取り決めをしない女性が多いことも理由の1つなのです。
これは離婚時に養育費の取り決めをした夫婦が40%と、半数にも満たないことからも明らかでしょう。

それでは、離婚時に養育費の請求をしなければ、あとから養育費を受け取ることはできないのでしょうか?

いいえ、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても、あとから養育費を請求することは可能です。
そこで今回は 離婚後の養育費の請求方法と注意点を分かりやすく解説します。
離婚したあとの養育費請求を考えている人は最後まで目を通して、養育費を受け取るための参考にしてください。
養育費は離婚したあとからでも請求可能!でも請求できないケースも・・・
冒頭で言ったように離婚したあとからでも請求することは可能です。

しかし、下記の場合に限っては、養育費の請求はできません。
- 請求以前の養育費
- 時効を迎えた養育費
養育費の支払いは親が子供に対して負う義務です。
そのため、権利者から請求があった場合、その義務者となる親は請求を拒否することはできません。
ですが、権利者である子供やその監護者となる親が、請求する権利を行使していない場合、後から請求しても認められないケースもあるので注意が必要です。

離婚したあとで養育費を請求する場合は、この2点についてよく理解しておく必要があります。
それでは離婚したあとで請求の認められない可能性がある、この2つのケースについて詳しく解説していきましょう。
請求以前の養育費を受け取れる可能性は低い!

原則、請求できる養育費は、権利者が義務者に対して養育費の請求意思を明確にした時点からです。
よって、離婚時に養育費の取り決めをしていれば、離婚後直ぐに請求できる権利が発生します。

しかし、問題なのは離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合です。
養育費の支払いは親に課せられた義務ですから、離婚時の取り決め有無に関わらず、権利者から請求されれば、義務者は請求から逃れることはできません。
請求時点以降の養育費支払いは、間違いなく確保できるでしょう。
ですが請求以前の養育費については話が別です。
請求以前にさかのぼった養育費の請求は、そのほとんどが認められることはありません。
請求以前の養育費は回収できない!
相手が請求以前分の支払いに同意すれば、離婚時にまで遡って養育費を受け取ることが可能です。
ですが、相手がその支払いを拒否し、その判断を裁判所による採決に委ねた場合、請求以前の養育費は請求できない可能性が高くなってくるでしょう。
裁判所が養育費請求に下した判例では、養育費の支払い義務の発生時期は請求調停の申し立て時とする裁決が大半を占めます。

裁判所のスタンスとしては、養育費の支払い開始時期は請求意思が明確になった時点を基準とする考えなのです。
この判決は、下記理由が根拠となっています。
- 過去に遡って請求すると義務者の負担が大きくなりすぎる
- 養育費の支払い時期があいまい
つまり、離婚時に養育費の支払いについて取り決めしていない場合、その期間が長ければ長いほど、受け取れる養育費は少なくなってしまうというわけです。
判例の中には、養育費請求が妥当だと認められ、支払いに沿うとする範囲において支払いが命じられたケースがないではありません。

しかし、これは稀なケースです。
基本的には、離婚したあとに養育費を請求した場合、その請求時点が養育費の支払い起点であると考えておいた方がいいでしょう。
時効を迎えた養育費は回収できない可能性が!

驚くかもしれませんが、養育費にも時効があります。
養育費は借金と同じ債権に分類され、毎月定額を支払うことから「定期給付債権」と呼ばれます。
実は、この定期給付債権は民法169条の「定期給付債権の短期消滅時効」によって、下記の様に時効が5年と定められているのです。
「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。」

よって、不払となった養育費は取り決めた支払日から5年経過すると、時効によって支払義務が消滅してしまいます。
2000年7月に毎月5万円の養育費支払の取り決めをしたとしましょう。
この場合、2005年7月から毎月5万円ずつが、時効の対象となってしまうというわけです。
そのため、養育費支払いの取り決めを交わしている場合、不払いが継続すると時効によって支払義務がどんどん増え、支払われない養育費が増えていってしまいます。
養育費の時効は取決め形態によって異なる!
今、養育費の時効は5年と言いましたが、時効までの期間は養育費の取決方法によって異なります。

取り決め方法によっては5年ではなく、10年まで延長されるので覚えておきましょう。
養育費の取り決めは下記いずれかの方法で取り交わされます。
- 両者の話し合いでの合意(口約束、または離婚協議書の作成)
- 公正証書による離婚協議書の作成
- 調停離婚や養育費請求調停・審判による裁判所の裁決
- 離婚訴訟による裁判所の裁決
このうち1と2の当事者間で取り交わされた約定の場合、時効期間は5年になります。
しかし、裁判所を介した3と4の場合は扱いが異なり、時効期間は10年まで延長されるのです。
近年は強制執行力が伴う公正証書で、協議離婚書を作成する人が増えています。
離婚協議書を執行快諾文言付きの公正証書として作成しておけば、養育費の不払い時には強制執行による差し押さえが可能です。
協議離婚書を公正証書で作成するメリットは、裁判手続きをした時と同じ効力を持つ点ですが、この時効に関してはその効力は伴いません。
この点は勘違いしないよう、覚えておくようにしてください。
時効は引き延ばすことができる!
時効は不払時から時間が経過すれば、成立するというものではありません。

時効が成立するのは、請求する権利があるにも関わらず、その権利を行使しなかったと判断された時のみです。
あなたの分かれた元夫が突然、約束していた養育費の支払いをストップしたとしましょう。
その時、あなたが「やっぱりね・・・。」と諦めて何のアクションも起こさず、時効期間を迎えた場合には、時効が成立してしまいます。

ですが、不払いに対してアクションを起こし、請求を続ければその時点で時効の進行を止めることができるのです。
これを時効の中断と呼ぶのですが、その手段としては下記の方法が挙げられます。
- 債権承認:相手に支払う意思があることを認めさせる
- 裁判所への請求調停や訴訟:調停や訴訟の申し立てをする
- 仮差し押さえや差し押さえ:裁判所への仮差し押さえや差し押さえの申し立て
また、時効完成を迎える直前に時効になると気が付く場合もあるでしょう。

この様に時効の中断が間に合わない場合には、内容証明郵便で滞納している養育費の請求をすれば、一時的に時効の中断をすることができます。
時効完成までに時間がない場合には、この方法が有効になってくるでしょう。
しかし、この方法では完全に時効の中断は完成できません。
内容証明郵便の到着後、半年以内に請求調停や仮差し押さえ、または差し押さえなど、具体的な裁判手続きをしないと、時効までのタイムリミットが再度進行してしまいます。
この方法を取る場合には、必ず半年以内に裁判手続きをするようにしてください。
離婚したあとに養育費を請求する方法
離婚したあとでも養育費の請求ができること、そして、その際の注意点を理解してもらえたでしょう。

そこで、次は離婚したあとに養育費を請求する方法を解説します。
離婚したあとから養育費を請求する流れは下記の通りです。
- 元夫と養育費支払について話し合う
- 裁判所へ養育費の請求調停の申し立てをする
- 審判により裁決が下される
離婚したあとに養育費を請求する場合でも、その方法は離婚時と何ら変わりはありません。
まず、当事者間で話し合いをして、そこで合意に至らなければ、裁判所に裁決を委ねるという流れです。
それではこれらそれぞれの流れを詳しく見ていくことにしましょう。
ーーー
ステップ1:元夫と養育費支払について話し合う
まずは元夫に連絡を取り、養育費支払いについて話し合いの場を持つことから始めます。

分かれた元夫と会うのが嫌という人もいるでしょうが、ここから始めなければどうしようもありません。
どうしてもいやだという人は、この時点で弁護士を代理人として交渉を任せるという手もあるでしょう。
この話し合いで合意に至らなければ、次のステップとなる裁判所への申し立てが必要になるため、どうしても弁護士の助力が必要になります。
端から話し合いにはならないと分かっているのなら、この段階から弁護士に丸投げするという手もありです。
この話し合いで協議するのは下記の3つになります。
- 養育費の支払い金額
- 養育費の支払い方法
- 養育費の支払い期間
それではこれらを交渉する際、どのようなポイントに注意すればいいのかを見ていきましょう。
養育費の支払い金額
原則、養育費は離婚する両者の話し合いによって取り決めるべきものです。
そのため、養育費の支払い金額にしても、この後の支払い方法や支払い期間にしても、両者の合意さえあれば自由に取り決めることができます。

しかし、この3つの中でも、一番話し合いで合意に至らないのが支払い金額です。
養育費を支払う側はできるだけ低く抑えようとしますし、受け取る側はできるだけ高くしようと考えます。
そこで、養育費の支払い額を適正なものにするため参考にされているのが、養育費算定表の養育費相場です。
話し合いでは、この養育費算定表による養育費相場をベースとして、支払い額が決められるのが一般的です。

となれば、どれくらいの養育費が受け取れるのかは気になるところですよね。
これは、養育費を支払うことになる義務者の年収が大きく関係してきます。

義務者の年収が高ければ高いほど、より多くの養育費を受け取ることができるでしょう。
受け取れる養育費は、養育費を支払う義務者の年収しだいというわけです。
いくらの養育費がもらえるかについては、後述する「あなたが受け取れる養育費を算定表でチェックしよう!」で詳しく解説するので、そちらを参考にしてください。
養育費の支払い方法
養育費の支払い方法は下記のいずれかです。
- 毎月の分割支払い
- 一括支払い
一般的には分割支払いで、毎月定額を支払ってもらうことになりますが、分割支払いの際には、下記の取り決めも忘れないようにしてください。
- 支払日
- 支払方法(口座振り込みなど)
また、一括支払いで受け取る場合には注意が必要です。
養育費は非課税となるため、原則、所得税や贈与税の対象とはなりません。

しかし、一括払いの場合には贈与税の課税対象となる恐れがあります。
この場合、決して安くはない贈与税の納付義務が生じるため、実際に受け取れる養育費が大幅に減額される可能性が出てくるのです。
これについては下記記事の「もらった養育費は親権者の年収にはならない!」で詳しく解説しています。
養育費を一括支払いで受け取る可能性がある人は、ぜひこの記事に目を通し、今一度、養育費の支払い方法を再考することをおすすめします。
養育費の支払い期間
原則、養育費の支払い期間は子供が成年年齢となる20歳までです。
しかし、近年は大学進学率が増加したことから、大学卒業時までの支払い期間延長を望む親権者が増えています。
あなたも、支払い期間の延長の必要性を感じているのではないでしょうか。

これについても、相手の合意さえあれば問題なく支払い期間の延長が可能です。
ですが、問題なのは相手が支払い期間の延長に合意しなかった場合です。
この時は裁判所の裁決を仰ぐことになりますが、裁判所判断により、延長が認められないケースも少なくありません。
この問題に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
大学進学に備えて、養育費の支払い期間延長を検討している人は、ぜひ目を通して対応策を講じてください。
話し合いで合意に至った時は公正証書の作成を!

離婚した元夫と話し合いで決着がついた時は、必ず取り決め事項を公正証書で作成することをおすすめします。
口約束や当事者間のみで交わした協議書は法的執行力を持ちません。
しかし、取り決め事項を公正証書として作成しておけば、約束が履行されなかった場合、直ぐに強制執行による財産差し押さえが可能になります。
養育費の不払いが起こった時は、絶大な効果を発揮するので、公正証書の作成は必ず行って欲しいところです。
公正証書の重要性については、下記の記事で詳しく解説しています。
話し合いで合意に至りそうな人は、必ず目を通すようにしてください。
ステップ2:裁判所へ養育費の請求調停の申し立てをする
離婚した元夫との話し合いが決裂した場合は、裁判所に養育費の請求調停を申し立てることになります。

調停とは裁判所が当事者同士の間に入って、話し合いにより問題を解決に導くための制度です。
離婚した元夫の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てることで、養育費の支払いを請求することができます。
養育費の請求調停に必要な費用と書類
裁判所への調停申立に掛かる費用は大したことはありません。
- 収入印紙代:1,200円/子供1人当たり
- 郵便切手代:80円×10枚、50円×2枚、10円×10枚の計1,000円分(家庭裁判所によって異なる場合あり)
- 子供の戸籍謄本代:450円/一通当たり
しかし、提出書類は下記の通り、専門的なものも在中するので、作成時には注意が必要です。
- 調停申立書(3通)
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 収入証明書(給与証明書や源泉徴収票など)
- 子供の戸籍謄本
この中でも面倒なのが調停申立書をはじめとする作成書類です。

ネット等で作成方法についてレクチャーが公開されていますが、作成書類に不備があれば申し立てが却下される可能性もあります。
調停は両者の話し合いがメインになりますが、調停委員の心証も重要なポイントとなるので、調停慣れした弁護士の力はあるに越したことはありません。
書類作成等の手間や負担を減らすためにも、調停に臨むことになった場合は、弁護士に助力を求めた方が無難でしょう。
ーーー
ステップ3:審判により裁決が下される
請求調停が不成立に終わった場合、請求申立ては自動的に審判へ移行されます。

養育費の請求申立で審判となるケースは稀ですが、その可能性もあると覚えておきましょう。
調停では当事者の合意が必要でしたが、審判は裁判所の判断となるので、当事者の合意は必要ありません。

この審判で請求申立ての結果が必ず出ます。
審判時に掛かる費用は調停時と同じで、提出書類は特別ありません。
書類提出の指示があれば、それに従うようにしてください。
あなたが受け取れる養育費を算定表でチェックしよう!
「受け取れる養育費を事前に知りたい。」
「どうやって調べればいいの?」
このように養育費相場の確認方法に戸惑っている人もいることでしょう。
しかし、戸惑う必要はありません。

養育費を取り決める際に参考にされる養育費相場は、誰でも簡単に調べることができます。
裁判所がHPで無料公開している「養育費算定表」を利用すれば、下記3つの条件だけで難なく確認することができます。
- あなたと元夫の年収
- あなたが引き取った子供の人数
- あなたが引き取った子供の年齢
その確認方法については下記の記事で分かりやすく解説しています。
もらえる養育費がいくらなのかを知りたい人は、ぜひ目を通して、養育費相場の確認方法をマスターしてください。
元夫の年収別に見る養育費相場はコレ!
先に話したように受け取れる養育費は、支払い義務者の年収が大きく影響してきます。

離婚した元夫の年収が高いほど、より多くの養育費を受け取れる可能性は高くなってくるでしょう。
しかし、養育費を決定するのは年収だけではありません。
その他にも下記の2つが影響してきます。
- 子供の人数
- 子供の年齢
最終的にはこれら3つの条件がどうかで、受け取れる養育費が決まってきます。
元夫の年収が同じでも、同額の養育費が受け取れるわけではありません。
子供の人数や年齢にしても同様です。

受け取れる養育費は個々の抱える状況に応じて変わってくるというわけです。
これについては、下記の記事で際しく解説しています。
年収だけでなく、子供の人数や年齢によって、受け取れる養育費がどう変わってくるのかを徹底検証しています。
どれくらいの養育費を受け取れるのかが気になる人は、この記事に目を通して参考にしてください。
まとめ
今回は離婚したあとの養育費の請求方法と注意点を解説しました。
養育費支払いは離婚時に取り決めしていなくても、いつでもあとから請求することができます。

しかし、原則、請求できるのは、請求意思を示した時点が起点です。
そのため、請求が遅れるほど、受け取れる養育費は少なくなってしまいます。
この点を考慮すれば、請求する気があるならば、できるだけ早く行動に移す必要があるでしょう。
離婚後の養育費請求は話し合いで決着が付きにくいケースも多いでしょうが、請求すれば相手は支払いを拒否することはできません。
今回の記事を参考に、早めにアクションを起こすようにしてください。
コメント
[…] […]