夫婦関係が破綻して別居を考えている。
しかし、別居後の生活目処が立たないため、別居に踏み切れない。
勢いで別居に踏み切ったはいいが、生活資金が乏しく生活が苦しい。
実際、こういう女性は少なくありません。
別居に踏み切る原因は人それぞれでしょう。
ですが、あなたが一方的に別居に踏み切ったとしても、夫に別居後の生活費や、子供の養育費を請求することは可能です。
そこで今回は別居中に請求できる生活費と養育費の相場、そして請求時の注意点を分かりやすく解説します。
別居を考えているあなたには、必要な情報ばかりです。
最後まで目を通して、安心して別居に備えられるようになってください。
別居中の生活費や養育費は支払ってもらえる!
私が勝手に飛び出したんだから、別居中の生活費や養育費は請求できない。
あなたがこう思っているなら大間違いです。
婚姻関係が成立している夫婦には、下記の様に民法で協力扶助義務が課せられています。
「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」
この中の扶助が、別居中の生活費や養育費を請求できる法的根拠になるのです。
別居中でも夫婦には、婚姻費用の分担義務がある
夫婦となれば共に婚姻生活を送ることになりますが、その生活に必要となる費用を婚姻費用と言います。
夫婦には協力扶助義務が課せられているため、この婚姻費用も夫婦の収入や資産に応じて分担しなければなりません。
これを婚姻費用分担義務と言います。
この婚姻費用分担義務は、婚姻関係が続く限り、なくなることはありません。
そのため、別居したとしても、婚姻中はこの婚姻費用分担義務に基づき、夫婦間で婚姻費用を分担する義務が課せられているのです。
となれば、同居中と同じように、元夫から生活費や養育費を受け取れる権利があることを、理解してもらえるでしょう。
別居原因があっても、生活費や養育費を支払ってもらえるの
別居原因となる理由の1つが、夫婦どちらかの不倫です。
事実、不倫が原因で離婚する数は、裁判所への離婚調停申立で5番目に多いという結果が出ています。
しかし、あなたの不倫が理由で、別居に至った場合は注意が必要です。
民法に規定された「権利の濫用」に当たり、別居中に支払われる生活費と養育費が減額・免除される可能性が出てきます。
あなたの生活費は支払ってもらえない可能性が・・・
民法には特別な事情によって、権利の行使を認めないという民法全体に適用される共通ルールがあります。
その1つが「権利の濫用」を規定した下記条文です。
「権利の濫用は、これを許さない。」
正当な権利を持っていても、下記行為があった場合は、その権利を行使することができないという意味です。
- 他者に多大な損害を与えた
- 社会的概念から逸脱した行為を働いた
つまり、あなたの不倫が理由で別居した場合、この権利の濫用に当たり、元夫から支払われる生活費が減額・免除される可能性があるのです。
これは裁判所が判断することですから、夫が「権利の濫用」を盾に、勝手に減額・免除することはできません。
しかし、夫が裁判所に調停申立をすれば、減額・免除が認められる可能性はあるでしょう。
これは忘れず、よく覚えておくようにしてください。
子供の養育費はあなたの「権利の濫用」に関係なく支払ってもらえる
あなたの生活費が「権利の濫用」を理由に、減額・免除されたとしても、子供には全然関係のない話です。
あなたの生活費が減額・免除されたとしても、子供の生活費と養育費が、減額・免除されることはありません。
これは勘違いしないように、覚えておいてください。
離婚する前提の別居でも生活費や養育費は支払ってもらえる!
「離婚前提の別居だから、生活費や養育費は支払ってもらえないのでは・・・。」
あなたがこう思っているなら、安心してください。
離婚前提の別居であっても、別居中の生活費と養育費は支払ってもらえます。
先にも話しましたが、別居中の生活費・養育費の支払いは、夫婦の婚姻費用分担義務が法的根拠です。
そのため、夫が「どうせ離婚するんだから、生活費なんか払わない!」と言っても、この発言は法的根拠にかなっていません。
よって、裁判所が夫の主張を認めることはないのです。
仮に夫がそう主張して生活費や養育費を支払わなければ、離婚時の慰謝料にも影響していきます。
夫は損するだけなのです。
話し合いで夫が支払いに応じないのであれば、至急、裁判所に請求調停を申し立てるようにしましょう。
別居中の生活費と養育費を支払ってもらえる期間
中には別居期間が長期にわたるケースもあるでしょう。
この時に心配になるのが、別居中の生活費と養育費を支払ってもらえる期間です。
しかし、これも心配はいりません。
夫婦の婚姻費用分担義務は離婚しない限り、なくなることがないからです。
よって、婚姻中であれば別居が数年続こうとも、その間の生活費と養育費は支払ってもらうことができます。
別居中の生活費と養育費を気にして、離婚を急ぐ必要はないのです。
別居期間は気にせずに、満足いく条件を勝ち取ることを第一に、離婚協議を進めるようにしてください。
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別居中の生活費と養育費の取り決めは公正証書で作成しておこう!
別居を決めたならば、必ず夫と別居中の生活費と養育費を取り決めをしてください。
取り決めをしないことには、別居中の生活費と養育費を請求することもできません。
この状態で生活費や養育費を支払ってもらえないと訴えても、裁判所はどうすることもできないのです。
「別居後の生活費と養育費を支払ってもらうのは当然だ。」などと思って話し合いが必要ないと思っているなら、考えを改める必要があるでしょう。
この点は勘違いしないように、よく理解しておいてください。
また、夫と別居後の生活費と養育費の取り決めをした際は、必ず公正証書として書面化しておくことをおすすめします。
生活費と養育費の取り決めを公正証書で作成する理由
公正証書とは法務大臣が公証人法に基づき任命した、公証人によって作成された公文書です。
そのため書面化文書の中でも、下記点において高い効力を発揮します。
- 執行力
- 安全性
- 信頼性
また、この公正証書に「強制執行認諾条項」を定めておけば、不払い時にすぐさま強制執行による差し押さえを申し立てることができます。
通常の訴訟手続きを省いて申し立てできるので、不払い分の即時回収が可能です。
不測の事態に備えて、必ず「執行認諾文言付き公正証書」を作成しておくべきでしょう。
公正証書の作成方法と費用、そして作成時の注意点は、下記記事の「公正証書を作成する為に必要な書類と費用と注意点」で詳しく解説しています。
話し合いがまとまった際は、この記事を参考にして、公正証書を作成するようにしてください。
別居中に支払ってもらえる生活費と養育費の相場
別居中の生活費と養育費はいくら支払ってもらえるの?
これはあなたが一番気にしている問題でしょう。
基本的に別居中の生活費と養育費は、夫婦で話し合って決めることになります。
しかし、あなたが別居前提であることもあり、話しが上手くまとまらないケースも想定しておかなければなりません。
この場合、裁判所に請求調停の申し立てをし、それ以降は裁判所に裁決を委ねることになります。
その時に必要なのが請求額の相当性です。
調停時には請求額が適正金額であることの根拠を、調停委員にアピールしなければなりません。
その際は、実効性と信頼性に優れている「婚姻費用算定表」の相場データを用いることをおすすめします。
婚姻費用算定表とは
婚姻費用算定表は裁判所が公表している相場データです。
下記3つの情報さえ分かっていれば、誰でも簡単に婚姻費用の相場金額を確認できます。
- 夫婦それぞれの年収
- 子供の人数
- 子供の年齢
裁判所が別居中の生活費と養育費を決める際にも、参考データとして利用しています。
そのため、請求額が適正価格であることを裏付ける根拠として、アピールすることができるでしょう。
婚姻費用算定表の見方
婚姻費用算定表の見方は簡単です。
下記手順に沿っていけば、簡単に相場金額が確認できます。
- 裁判所HPにアクセスする
- 条件に合った婚姻費用算定表を開く
- 相場金額を確認する
それでは、下記条件でいくらの生活費と養育費を請求できるかを確認してみましょう。
- 夫の年収:500万円(会社員)
- 妻の年収:0円(専業主婦)
- 子供の人数:1人
- 子供の年齢:5歳
①裁判所HPにアクセスする
婚姻費用算定表が公開されているのは下記アドレスです。
このサイトにアクセスすると、「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」というページが開きます。
②条件に合った婚姻費用算定表を開く
このページを下にスクロールすると、下記の様に条件に応じた婚姻費用算定表のPDFファイルが並んでいるので、今回の条件に合った(表11)を開いてください。
➂金額を確認する
後はあなたと夫の年収がグラフ上で、クロスしたところに分布する金額を確認するだけです。
今回の条件では、「8万円~10万円」が請求できる相場金額というわけです。
この後、あなたの条件で、実際に請求できる相場金額を確認してみましょう。
支払ってもらえる金額は専業主婦か共働きかで変わる!
今の「婚姻費用算定表の見方」で気づいた人もいるでしょうが、別居中に支払ってもらえる生活費と養育費は、あなたが下記のどちらかで変わってきます。
- あなたが専業主婦
- あなたと夫が共働き
そもそも別居中の生活費と養育費は婚姻費用に当たります。
婚姻費用は夫婦それぞれの収入や資産に応じて分担するものですから、別居中の生活費と養育費も同様に分担することが前提です。
そのため、あなたと夫の収入差が大きいほど、支払ってもらえる金額は大きくなります。
あなたと夫が共働きであれば、年収にもよりますが、専業主婦よりも大きく減額されることになるでしょう。
家庭内別居時の生活費と養育費
中には家庭内別居という形を取ることもあるでしょう。
この場合、どこまでいけば別居となるかという問題があります。
一口に家庭内別居と言っても、下記の様にバリエーションは様々です。
- 食事を一緒にしない
- 顔を合わせない
- 食事程度は一緒にする
- 会話はないが一応顔は合わせる
しかし、別居時と同じように生活に掛かる費用が、夫婦別々に発生するのであれば、生活費と養育費の支払い義務は当然のごとく発生します。
特に以前の様に夫から給与の受け取りがない状態であれば、別居時と同じように生活費と養育費を請求してください。
別居中の家賃はどうなるの?
これら問題も夫婦の婚姻費用分担義務を思い出してもらえば、簡単に理解できるでしょう。
何度も言いますが、別居していても婚姻中であれば、夫婦には婚姻費用分担義務が課せられます。
そのため、この場合もあなたと夫の収入・資産に応じて、家賃を負担することになります。
しかし、夫が住宅ローンを支払っており、あなたの家賃も負担するとなれば、夫の負担は甚大なものになるでしょう。
長期にわたって支払いを維持することは困難です。
このように夫が住宅費を2重払いしており、婚姻費用算定表を基に支払額を決定する場合は、住宅ローン分が控除される可能性があります。
もちろん、住宅ローン支払いは資産形成という側面もあるため、全額が住居費として認められるわけではありません。
しかし、減額の可能性があることは覚えておきましょう。
別居中に支払われる生活費と養育費は、離婚後の養育費とは全く異なる
別居中に支払われる生活費と養育費は婚姻費用に当たります。
つまり、あなたと子供の生活費、そして子供の養育費が含まれているのです。
しかし、離婚後の養育費にはあなたの生活費は含まれていません。
そのため、別居中に支払われる金額と、離婚後に支払われる金額は全く異なります。
この点は覚悟しておく必要があるでしょう。
どれくらいの金額差が生まれるか
それでは、下記条件で支払われる別居中の生活費と養育費、そして、離婚後の養育費には、どれくらいの差があるのかを見てみましょう。
- 夫の年収:500万円(会社員)
- 妻の年収:0円(専業主婦)
- 子供の人数:1人
- 子供の年齢:5歳
この場合、別居中の生活費と養育費に支払われる相場金額は「8万円~10万円」です。
しかし、離婚後に支払われる養育費は「6万円~8万円」に減額されます。
共に上記3つの条件を基に算定されるので、条件に応じては更に減額される可能性もあるでしょう。
養育費相場の確認方法は、下記の記事で分かりやすく解説しています。
支払ってもらえる養育費は、離婚後の生活設計に大きく影響してきます。
離婚に備えて、請求できる養育費を確認してみるようにしてください。
別居中の生活費と養育費が必要な時は早めの請求を!
実際のところ、別居に備えて生活費と養育費の話し合いをする夫婦は、それほど多くないでしょう。
しかし、離婚が長期化した場合、生活費と養育費を受け取っていなければ、確実に生活は困窮してしまいます。
戻る実家があるならまだしも、そうでないなら絶対に取り決めをして支払ってもらうべきです。
また、現在、生活費と養育費を支払ってもらわず別居している人は、早急に請求して、支払いの取り決めをしてください。
別居中の生活費と養育費は、請求するまでの分は支払ってもらえません。
請求が遅れれば遅れるほど、支払ってもらえる金額は少なくなってしまいます。
しかも、裁判所に調停申立した場合、申し立てから支払い開始まで3ヵ月ほど掛かるのが一般的です。
となれば、その間に生活が困窮する可能性は否めませんよね。
あなたが別居時に生活費と養育費の取り決めをしていないなら、早急に夫へ請求することをおすすめします。
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まとめ
今回は別居中に請求できる生活費と養育費の相場、そして請求時の注意点を解説しました。
別居中の生活費と養育費は請求できます。
請求さえすれば、確実に支払ってもらえるでしょう。
そのためにも、別居時には生活費と養育費の取り決めをする必要があります。
この取り決めは絶対に必要です。
取り決めをせずに別居したならば、至急、夫と取り決めを交わすようにしてください。
別居中の生活費と養育費を支払うのは夫の義務です。
これを念頭に置いて、遠慮せずに請求するようにしてください。
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