ちゃんと話し合ったはずなのに、夫が別居中の生活費と養育費をまったく払おうとしない。

別居中の夫婦ではよくある話です。
夫婦それぞれが離婚を望み、離婚を前提とした別居ならば、あまりこういった話は聞きません。
しかし、相手が離婚を拒否しているケースの別居では、別居をとどまらせようとして、故意に生活費や養育費の支払いを拒む夫もいるようです。

ですが、こんな嫌がらせに屈する必要はありません。
生活費や養育費を払わない夫から、不払い分を確実に回収する方法がちゃんとあるからです。

そこで今回は確実に、別居中の生活費と養育費を回収する方法を徹底解説します。
回収時の注意点もお教えするので、最後まで目を通して参考にしてください。
婚姻費用(生活費・養育費)を払わない夫に罰則を科することはできるか
別居中の生活費や養育費を払わない夫を、罰する罰則はないものか。
あなたも一度は、こう考えたのではないでしょうか。

夫が別居中の生活費や養育費を払うことは、法律で定められた義務です。
となれば、そんな夫を罰する罰則があると考えるのは当然の事でしょう。
ですが、残念ではありますが、夫が別居中の生活費や養育費を払わなくても、なんら罪に問われることはありません。

夫を罰する罰則は何一つ存在しないのです。
しかし、夫のこの行為は「悪意の遺棄」に当たり、裁判上では離婚事由として認められています。

「悪意の遺棄」を分かりやすく説明すれば、下記の通りです。
- 悪意:婚姻生活が破綻すると分かっている
- 遺棄:夫婦としての生活を見捨てる行為
あなたの夫が離婚に同意せず、離婚交渉が難航しているのであれば、不払いは大きなチャンスです。
離婚事由として裁判所に離婚請求を申し立てれば、離婚が成立する可能性は高くなるでしょう。
悪意の遺棄とは

民法770条1項に定められた「法定離婚事由」には、下記の5つがあります。
- 配偶者に不貞行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が郷土の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

ここで注目して欲しいのが、民法第752条に定められた、下記の「同居、協力及び扶助の義務」です。
つまり、夫婦間には婚姻生活を継続していく上で、下記3つの法的義務が課せられているということです。
- 同居義務:夫婦が一緒に住む義務
- 扶助義務:夫婦が互いに助け合って、互いが同水準の生活ができるようにする義務
- 協力義務:夫婦が互いに協力して結婚生活を支え合う義務
これら3つの義務が果たされてていない場合、「悪意の遺棄」として、離婚事由になりうるのです。

別居中の生活費と養育費を払わないという行為は、先に紹介した離婚事由の「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に当たるというわけですね。
別居中とは言え、夫婦は互いが同水準の生活レベルを維持できるようにする義務があります。
そのため、あなたが別居中に必要とする生活費や養育費を、婚姻費用の分担率に応じて夫は払わなければなりません。

夫が別居中の生活費と養育費を払わないことは、扶助義務を怠った行為に該当するため、法的に離婚事由に該当すると判断されます。
これが別居中の生活費や養育費を払わない行為が、離婚事由として認められる法的根拠です。
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夫が別居中の婚姻費用(生活費・養育費)を払わない時の対処方法
別居中に夫が決めた生活費と養育費を払わない時は、まず、夫に不払い分の請求をすることになるでしょう。
この請求に対して、夫が応じようとしないのであれば、最終的には強制執行による差し押さえを申し立てるしかありません。

しかし、強制執行による差し押さえの申し立ては、多大な時間と労力、そして費用が必要になります。

そのため、数ヵ月程度の未払いで差し押さえを申し立てるのは、あまり賢い方法とは言えません。
まずは他の回収手段を試してみるべきでしょう。
それら回収手段を試してらちが明かない時に、最終手段として強制執行による差し押さえを申し立てるのが常道です。

しかし、裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てたかどうかで、利用できる回収手段は異なります。
それでは、下記2つのケースに分けて、利用できる回収手段を見ていくことにしましょう。
- 裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てた
- 裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てていない
裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てた人が利用できる回収手段

裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てた人が、差し押さえを申し立てる前に、利用できる回収手段は下記の2つです。
- 履行勧告
- 履行命令
これら2つは裁判所で取り決めた支払いが守られない時に、裁判所から支払いを促してもらう制度です。

そのため、裁判所を介さずに取り決めをした夫婦は、これら回収手段を利用することはできません。
①裁判所からの履行勧告

履行勧告は裁判所で取り決めた別居中の生活費と養育費を払わない夫に対して、裁判所に下記対応をしてもらう制度です。
- 夫に対して支払うように説得する
- 夫に対して支払うように勧告する
そのため申立先は、婚姻費用の分担請求を申し立てた家庭裁判所になります。

また、申立手続きに費用は発生しませんし、申し立ての方法も下記の様に簡単です。
- 書面申込
- 口頭申込
- 電話申込

ですが、裁判所が支払いを強制する制度ではありません。
履行勧告を利用しても、相手が支払いに応じなければ回収不可能です。

期待できる効力としては、裁判所からの勧告ということで、夫に心理的プレッシャーを与え、自発的な支払いを促すことができるくらいでしょう。
相手が裁判所の勧告をものともしないような性格ならば、何の効果もありません。
利用時には効果が期待できるかを、よく考えるようにしてください。
②裁判所からの履行命令
履行命令も申立先は履行勧告同様に、婚姻費用の分担請求を申し立てた家庭裁判所です。

この履行命令も裁判所が支払いを促してくれる制度ですから、裁判所がしてくれることは、履行勧告と違いはありません。
しかし、履行勧告よりは支払いに期待できるでしょう。

履行命令は夫が支払いに応じない場合、10万円以下の過料が科せられます。
そのため、履行勧告をするならば、この履行命令をした方が、確実に効果が期待できるのです。

しかし、履行勧告と異なり、申し立てには下記費用が掛かり、申立書類を提出しなければなりません。
- 収入印紙2,000円
- 連絡用の郵便切手(*申立先の家庭裁判所によって異なるため要確認)
また、利用するならタイミングが肝心です。

不払い額が過料を超えない内に、申し立てるようにしてください。
不払い額が過料よりも高額になれば、過料を支払った方が得だと考えられてしまいます。
申し立てるタイミングには、くれぐれも注意するようにしましょう。
裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てていない人が利用できる回収手段

裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てず、夫婦で話し合って決めた場合、利用できる回収手段は下記の1つだけです。
- 支払督促
支払督促は、裁判所があなたの申し立てを認めれば、裁判所が夫に対して支払の督促をしてくれる制度です。

裁判所からの突然の督促ですから、心理的プレッシャーを与え、自発的な支払いを促す効果が期待できます。
申立先は夫の住所地を管轄する、家庭裁判所です。
また、申込時の下記条件は、申立先の家庭裁判所によって異なります。
- 提出書類
- 申立手数料
申し立てる家庭裁判所に、直接確認するようにしてください。
支払督促にはこんなメリット!

また、この支払督促には、見逃せない大きなメリットがあります。

それは、債権名義が取得できる点です。
裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てれば、債権名義は取得できています。

しかし、夫婦で話し合って取り決めた場合は、その取り決めを「執行認諾文言付き公正証書」として作成しなければ、債権名義は取得できません。
債権名義は、強制執行による差し押さえを申し立てる権利を、書面で証明した公文書です。
そのため、この債務名義を取得していないと、このあと紹介する強制執行による差し押さえを申し立てる事ができません。

取得していない人には、一石二鳥の回収手段となるでしょう。
支払督促の申し立て方法と、債権名義を取得するまでの流れは、下記記事の「 執行認諾文言付き公正証書を取得していない場合の養育費請求の流れ」で、分かりやすく解説しています。
しっかりと目を通して、申し立てしてみましょう。
最終的には強制執行による差し押さえの申し立て
ここまで紹介した回収手段は、どれも強制力を伴うものはありません。

夫が裁判所からの心理的プレッシャーをものともしなければ、不払い額は回収できないでしょう。
ですが、どれも申し立てやすく、費用も安価です。
ダメもとで試してみるだけの価値はあるでしょう。
しかし、本当にダメだった時は、最終手段となる強制執行による差し押さえを申し立てるしかありません。
申し立てに必要な申立要件

申し立てをするには、下記3つの申立要件を満たす必要があります。
- 債権名義の取得
- 夫の現住所の把握
- 差し押さえる財産情報の把握
差し押さえる財産情報以外の要件は、別段問題ないでしょう。
また差し押さえる財産情報も、夫が会社員ならば給与差し押さえができるので、大抵は申立要件で手こずる心配もいりません。

難なく申し立てに踏み切ることができるでしょう。
申し立てから回収までの流れ、申立時の必要書類については、下記記事の「執行認諾文言付き公正証書を取得している場合の養育費請求の流れ」で、分かりやすく紹介しています。
養育費回収を題材にしていますが、申立方法は全く変わりません。
養育費を婚姻費用に置き換えて、読み進めるようにしてください。
不払いの婚姻費用(生活費・養育費)を回収する為に必要な弁護士費用
差し押さえに掛かる弁護士費用の相場は、回収額の20%くらいから30%前後といわれています。

回収額にもよりますが、一般的にはおよそ10万円程度です。
しかし、弁護士費用は依頼先によって、全く異なります。
相場よりも高いところもあれば、相場よりも安いところもあるといった具合です。

まずは、離婚問題を専門に扱っている弁護士事務所をピックアップして、弁護士費用を比較検討することをおすすめします。
差し押さえで掛かる弁護士費用については、下記の記事で徹底解説しています。
あなたが今感じている不安や疑問をすべて解消できる内容になっているので、必ず目を通すようにしてください。
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【要注意】気を付けて!不払いの婚姻費用(生活費・養育費)にも時効があります!!
不払いとなった婚姻費用を回収する際、注意して欲しいのが時効です。

下記の定期給付債権には、原則5年の時効期間が法律で規定されています。
- 家賃
- 給料
- 養育費
- 婚姻費用

裁判所に婚姻費用の分担請求を申し立て、取り決めた場合のみ10年に延長されます。
別居時の生活費と養育費は、養育費の様に何十年にもわたって請求するものではありません。
そのため、あまり時効を気にする必要はありませんが、基礎知識として持っておいて損はないでしょう。

基礎知識さえ持っておけば、時効を回避することができますし、時効を迎えた生活費と養育費を回収することも可能です。
この時効問題については、養育費を例に挙げて、下記の記事で詳しく解説しています。
別居中の婚姻費用(生活費・養育費)と養育費は共に定期給付債権に当たります。

時効に関する情報は養育費と全く同じです。
養育費を婚姻費用(生活費・養育費)に置き換えて、読み進めてもらえばいいでしょう。
まとめ

今回は別居中の生活費と養育費を回収する方法を徹底解説しました。
最終的には、強制執行による差し押さえを申し立てることになりますが、他の回収手段はあなたが下記のどちらに該当するかで異なります。
- 裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てた
- 裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てていない
今回の記事を参考にして、あなたが取れる回収手段を試し、確実に不払いの生活費と養育費の回収を成功させてください。
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