離婚後の生活資金が心配になって、なかなか踏み出せないという女性は少なくありません。
専業主婦で子連れの場合なら、特にその思いは強くなるでしょう。
そんな女性たちの一番の関心ごとと言えば養育費です。
もちろん慰謝料も気になるでしょうが、200万円から300万円が一般的と言われている慰謝料だけでは、離婚後の生活がままならないことは目に見えています。
となれば子供を養育するための費用請求は、生活していく上で必要不可欠な資金です。
そこで今回は日本人男性の平均年収である545万円(2018年現在)を上回る、年収800万円の夫と離婚した場合、いくらの養育費が請求できるのかを検証していきます。
まずは養育費の基本的な確認方法を理解しよう!
養育費の支払い金額に法的規制はありません。
離婚する両者が話し合って金額に合意さえすれば、いくらに設定しようととがめられることはないのです。
毎月100万円の養育費を請求しても、相手が同意すれば何の問題もありません。
しかし、養育費を請求する親権者と、支払う非親権者の希望額が、あまりにかけ離れていては、まとまる話もまとまりませんよね。
そこで養育費相場の参考にされているのが養育費算定表です。
この養育費算定表は協議離婚時だけでなく、裁判所での養育費決定にも用いられており、信頼性と実効性の高いデータとして評価されています。
養育費の相場を確認するなら、この養育費算定表を利用するのが、最も手早く確実な基本的な方法と言えるでしょう。
養育費算定表の見方
養育費算定表は下記の裁判所HPで確認することができます。
それではこの養育費算定表を用いた、養育費の確認方法を分かりやすくお教えします。
実際の養育費算定表を見ながらの方が理解しやすいので、まずは上記サイトにアクセスしてください。
アクセス画面と見比べながら、下記ステップの指示に従って養育費の確認方法を習得していくことにしましょう。
ステップ1:該当するPDFファイルを開く
上記サイトにアクセスすると「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」というページが開きます。
ここで注目してもらいたいのが、「(表1)から(表9)までのPDFファイル」です。
養育費算定表で該当する養育費を確認する際、必要になる情報は下記の3つです。
- 夫婦それぞれの年収
- 子供の人数
- 子供の年齢
まずは、これらPDFファイルの中から、下記条件に該当するものを選び、クリックしてください。
- 子供の人数
- 子供の年齢
ステップ2:夫婦それぞれの年収から養育費を確認する
今回は試しに「(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)」を利用して、養育費の確認をしていきます。
この表は名称の通り、14歳未満の子供が1人いる場合の養育費算定です。
それでは早速、このPDFファイルを開いてみましょう。
そうすると縦列に義務者の年収、横列に権利者の年収と書かれたグラフが画面に立ち上がります。
- 義務者⇒非親権者(子供と離れて暮らす夫)
- 権利者⇒親権者(子供と暮らす妻)
後は職業に応じて年収がクロスする金額を確認するだけです。
- 自営⇒自営業者
- 給与⇒会社員
それでは試しに、下記条件で養育費がいくらになるのかを確認してみましょう。
- 夫の年収(会社員):800万円
- 妻の年収:無収入
この場合両者の年収がクロスするのは、「10~12万円」になります。
これが今回の条件で相場とされる養育費です。
殆ど手間もかからず、養育費相場が確認できたのではないでしょうか。
この様に養育費算定表を利用すれば、簡単に養育費相場を確認することが可能です。
これなら、面倒な計算もないので、誰でも簡単に養育費の相場を確認することができますね。
実際に年収800万円の夫と離婚した際の養育費を確認しよう!
それでは養育費相場の確認方法が分かったところで、実際に養育費算定表を元に、年収800万円の夫(会社員)と離婚した際の養育費を確認してみましょう。
今回は子供の人数と年齢別で、それぞれの養育費がいくらになるのかを確認します。
妻の年収も無収入だけでなく、母子世帯の平均年収である243万円の2パターンを確認しました。
自分で調べるのが面倒な人は、こちらを参考にしてみるといいでしょう。
子供の年齢・人数別に見る養育費
夫の年収が800万円、妻が無収入のケースで、子供の年齢と人数が異なることで、養育費相場は下記の様に変動します。
子供の人数・子供の年齢 |
養育費相場 |
子供1人・年齢14歳以下 |
10万円~12万円 |
子供1人・年齢15歳以上 |
12万円~14万円 |
子供2人・共に年齢14歳以下 |
14万円~16万円 |
子供2人・第1子年齢15歳以上/第2子年齢14歳以下 |
14万円~16万円 |
子供2人・共に年齢15歳以上 |
16万円~18万円 |
子供3人・全員年齢14歳以下 |
16万円~18万円 |
子供3人・第1子年齢15歳以上/第2子、3子年齢14歳以下 |
18万円~20万円 |
子供3人・第1子、2子年齢15歳以上/第3子年齢14歳以下 |
18万円~20万円 |
子供3人・全員年齢15歳以上 |
18万円~20万円 |
また、母子世帯の母親の平均年収243万円の場合、養育費相場は下記の様に変動します。
子供の人数・子供の年齢 |
養育費相場 |
子供1人・年齢14歳以下 |
8万円~10万円 |
子供1人・年齢15歳以上 |
10万円~12万円 |
子供2人・共に年齢14歳以下 |
10万円~12万円 |
子供2人・第1子年齢15歳以上/第2子年齢14歳以下 |
12万円~14万円 |
子供2人・共に年齢15歳以上 |
12万円~14万円 |
子供3人・全員年齢14歳以下 |
12万円~14万円 |
子供3人・第1子年齢15歳以上/第2子、3子年齢14歳以下 |
12万円~14万円 |
子供3人・第1子、2子年齢15歳以上/第3子年齢14歳以下 |
14万円~16万円 |
子供3人・全員年齢15歳以上 |
14万円~16万円 |
養育費算定表の養育費は、下記の3つによって金額が異なります。
- 夫婦それぞれの年収
- 子供の人数
- 子供の年齢
この中で一番養育費に影響してくるのは年収です。
子供の人数や年齢の高さも関係してきますが、一番大きな影響を及ぼすのは何と言っても年収でしょう。
一般的に高収入となる夫の年収が高いほど、養育費は高くなります。
また、年収は夫婦の年収差が大きいほど、養育費は高くなるので、この傾向は覚えておくといいでしょう。
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夫婦それぞれが子供を引き取った場合の養育費
養育費算定表の養育費は、全ての子供を親権者が引き取った場合を仮定してのものです。
そのため、夫婦それぞれが子供を引き取った場合の養育費は確認できません。
この様に養育費算定表に当てはまらないケースでは、養育費算定表の養育費を算出する際に用いられた標準計算式を使って、養育費を算出することになります。
この計算方法は下記の記事で紹介していますが、計算が複雑なため、計算方法が分かっても、計算を間違うことが多いようです。
そこで今回は、養育費算定表を使った簡単な確認方法をお教えします。
多少の計算は必要になりますが、標準計算式を使った時の様に複雑なものではありません。
下記の条件で養育費がいくらになるのかを、ステップを追って分かりやすく解説するので、該当する人は計算方法を理解するようにしてください。
- 夫の年収:800万円
- 妻:無収入
- 夫婦がそれぞれ14歳未満の子供を1人ずつ親権
それでは、早速、このケースで養育費がいくらになるのかを計算していきましょう。
ステップ1:子供の生活指数を確認する
子供の生活指数とは一般的な大人の生活を100とした場合、子供がいくらになるかを数値化したものです。
子供の生活数値は下記の通り規定されています。
- 0歳~14歳未満:55
- 14歳以上:90
よって、今回はどちらの子供も生活指数は55です。
ステップ2:養育費を支払う子供の生活指数割合を求める
生活指数割合とは、養育費を支払う子供の生活指数が、子供全員の生活指数合算値の何割を占めるのかを指す数値です。
ここからは、計算が必要になるので、しっかり目を通すようにしてください。
まずは子供全員の生活指数を計算します。
今回は2人とも14歳未満ですから、子供の生活指数合計値は下記の通りです。
そして、14歳未満の子供1人が養育費の支払対象となるので、養育費対象となる子供の生活指数割合は下記の計算で求められます。
55 ÷ 110 = 0.50
⇒生活指数割合50%
2人の子供がいて、妻と暮らす子供が1人の場合、養育費を支払うのは1人分です。
よって、養育費を支払う子供の生活指数を、2人分の生活指数合算値で割ってやれば、生活指数割合が求められるというわけです。
ステップ3:養育費算定表から養育費を確認する
生活指数割合が分かったところで、次は子供全員を分かれる妻が引き取った場合の養育費を確認します。
この場合の養育費は「14万円~16万円」です。
ステップ4:養育費を計算する
最後に確認した養育費に、先ほど計算した生活指数割合を掛けてやれば完了です。
少々面倒に思う人もいるかもしれませんが、これが一番簡単な計算方法です。
夫婦それぞれが親権を持つ場合は、この計算方法で養育費相場を確認してみましょう。
もらった養育費は親権者の年収にはならない!
養育費をもらう人に注意してもらいたいのが会計上の扱いです。
中にはもらった養育費が自分の年収に含まれるのではないかと、気にしている人もいるでしょう。
年収となれば所得税の支払いが発生するので、これは気にして当然のことです。
しかし、安心してください。
下記の所得税法9条1項15号に規定されているように、養育費は所得税の対象にはなりません。
「学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するもの(給与所得を有する者がその使用者から受けるものにあつては、通常の給与に加算して受けるものであつて、次に掲げる場合に該当するもの以外のものを除く。)を除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品。 」
ところが、養育費は贈与税の対象となる可能性があるので注意が必要です。
それでは、どんなケースで養育費の受け取りが、贈与税の課税対象になるのかを見ていくことにしましょう。
もらった養育費の贈与税が課税される場合も!
下記の相続税法21の3条1項2号「贈与税の非課税財産」にもある通り、原則、養育費をもらっても贈与税の課税対象にはなりません。
「次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。二.扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの。」
しかし、養育費を一括で受け取った場合は話が別です。
相続税基本通達21-3の5では下記の通り、贈与税の非課税条件が規定されています。
「生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。」
つまり、養育費を一括で受け取り、それを銀行に預けた場合、贈与税の非課税対象から除外されてしまうのです。
月額10万円の養育費を15年間受け取ると仮定しましょう。
分割で支払ってもらう場合の養育費総額は下記の通りです。
それではこれを一括で支払ってもらい、銀行に預けた場合の贈与税を計算してみましょう。
1,800万円 - 基礎控除額110万円 = 1,700万円
1,700万円 × 贈与税率50% = 850万円
850万円 - 控除額250万円 = 600万円
何と600万円もの贈与税支払いが求められ、養育費として手元に残るのは分割払い時を大きく下回る1,200万円になってしまうのです。
親から子供への贈与時に適用される税率と控除額は下記の通り、贈与額が高額になるほど高くなります。
養育費 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
― |
200万円超え~300万円以下 |
15% |
10万円 |
300万円超え~400万円以下 |
20% |
25万円 |
400万円超え~600万円以下 |
30% |
65万円 |
600万円超え~1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,000万円超え~1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
1,500万円超え~3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超え |
55% |
400万円 |
養育費の不払いの危険性を考えれば、一括支払いはメリットの高い支払手段です。
しかし、受け取る金額によっては、高額な贈与税支払いというデメリットを被る可能性があります。
まさか、1,000万円を超えるお金をタンス預金して、その中から毎月、養育費として使っていくわけにはいきませんよね。
高額な養育費を受け取る際は、下記いずれかのデメリットを被る可能性があります。
- 養育費の不払い
- 高額贈与税の課税
年収800万円を超える夫との離婚では、養育費が月額10万円を超えるケースはざらです。
一括支払いに対応すれば、まさに今回試算した贈与税とほぼ同じ税負担を強いられることになるでしょう。
相手から一括支払いの申し出があった際は、すぐに飛びつかず、慎重に検討するようにしてください。
ーーー
まとめ
今回は年収800万円の夫と離婚した時、いくらの養育費が請求できるのかを解説しました。
養育費は離婚する両者の合意さえあれば、いくらに設定しても問題ありません。
しかし、最低でも相場を下回らない養育費をもらうためにも、相場価格を把握した上での交渉が肝心です。
養育費の相場は個人でも容易に確認できます。
今回解説した内容を参考にして、できるだけ優位に交渉を進めるようにしてください。
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