未払いの養育費を差し押さえで回収しようと考えている人は少なくありません。
養育費の未払いが社会的な問題になっているご時世ですから、回収が困難な養育費を裁判所の手を借りて回収しようと考える人が多くなるのは当然のことです。
ですが、手続き方法に迷う人は、意外と多いのではないでしょうか。
「そんなの弁護士に相談すればいいじゃないか。」と言う人もいるでしょうが、弁護士はタダでは動いてくれません。
どんな手続きをするのか、回収期間はどれくらいかかるのかが分からなければ、費用が心配になって、やすやすと弁護士に相談なんてできませんよね。
そこで今回は養育費の差し押さえ方を、初めての人でも分かるように徹底解説していきます。
手続きで欠かせない重要ポイントや、回収に掛かる期間も併せてお教えするので、差し押さえで養育費を回収しようと考えている人は、ぜひ一読して参考にしてください。
未払いの養育費を差し押さえする為の要件!
差し押さえは未払いの養育費を回収する、最終手段とも言われます。
これは差し押さえが裁判所の強制執行に基づく措置のため、相手も拒否することができないからです。
裁判所に差し押さえさえが認められさえすれば、確実に未払いの養育費を回収することができるでしょう。
ですが、この最終手段は、誰でも利用できるわけではありません。
差し押さえは、養育費不払いに悩む人を救済するための法的措置だから、対象者全員にその権利があると思われがちです。
しかし、裁判所に差し押さえを申し立てるためには、下記要件を全て満たすことが求められます。
- 申立人が債務名義を取得している
- 差し押さえ対象者の住所を把握している
- 差し押さえする財産の情報を把握している
この中の1つでも欠ければ、差し押さえの申し立てはできません。
これについては異議がある人も多いでしょうが、これは差し押さえ時の規定を定めた民事執行法という法律で決められていることですから仕方ないことです。
しかし、現在、これら要件を満たしていない場合でも、諦める必要はありません。
これら要件をちゃんとクリアする方法があります!
それでは、あなたがこれら要件を満たしているのかを、各要件の内容を見ていきながら確認していきます。
要件を満たしていない時の対応策も併せてお教えするので、差し押さえで未払いの養育費を回収しようと考えている人は、しっかりと目を通すようにしてください。
申立人が債務名義を取得している
まず求められるのは、申立人が債権名義を取得していることです。
債権名義とは差し押さえを裁判所に申し立てできる権利を指し、主に下記のものが、その債権名義に該当します。
- 確定判決(上訴できない上級裁判所で判決が下された時に取得)
- 仮執行宣言付判決(上訴できる家庭判所で判決が下された時に取得)
- 和解調書(訴訟中に和解が成立した時に取得)
- 調停調書(調停離婚が成立した時に取得)
- 執行認諾文言付き公正証書(離婚時に両者同伴で公証役場にて作成)
見てもらえば分かるのですが、「執行認諾文言付き公正証書」を除く債権名義は、裁判所を介した下記方法で離婚した場合に取得できるようになっています。
- 判決離婚(家庭裁判所や上級裁判所で離婚判決を受けて離婚を成立させる離婚方法)
- 調停離婚(裁判所の調停委員を介して両者の話し合いで離婚を成立させる離婚方法)
そのため、裁判所を介して離婚した場合に取得できる債務名義の取得区分は、下記の様になります。
離婚方法 |
取得できる債務名義 |
判決離婚 |
確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書 |
調停離婚 |
調停調書 |
ですが、ここで考えて欲しいのは、日本では裁判所を介して離婚を成立する人が、ごく一部に限られているという点です。
日本では裁判所を介さない協議離婚が全体の80%を占めています。
となればこの80%に当たる人たちは、上記債務名義をどれも取得できていないことになってしまいますよね。
協議離婚でも、離婚時に離婚協議書を公証役場で「執行認諾文言付き公正証書」として作成していれば、債権名義を取得していることになります。
しかし、協議離婚では養育費の支払い条件を口約束で済ませることが多く、文書として離婚協議書を作成していたとしても、公正証書ではなく、私文書で取り交わす人が大半を占めます。
協議離婚では、その大半の人が債務名義を取得していない状態にあるのです。
ここまでの話を聞いて、不安になった人は多いでしょう。
ですが、安心してください。
離婚時に「執行認諾文言付き公正証書」を作成していなくても、離婚後に債務名義を取得することは可能です。
この取得方法は後述する「養育費を差し押さえて回収するまでの手順と流れ」の中で詳しく解説しています。
現在、債務名義を取得していない人は記事内容を参考にして、まずは債務名義取得の検討をおすすめします。
差し押さえ対象者の住所を把握している
差し押さえの申し立てをする時には、下記書類の提出が求められます。
当事者目録 |
元妻と元夫の現住所等の情報を記載したもの |
資格証明書 |
債務者の会社住所等を記載したもの |
請求債権目録 |
債務者への債権情報や請求金額を記載したもの |
差し押さえ債権目録 |
債務者の財産や勤務先情報を記載したもの |
債務名義 |
取得している債務名義 |
送達証明書 |
債務者に債務名義正本(または謄本)が送達された証明書類 |
(*養育費の差し押さえ申し立ての場合、申立人が債権者、差し押さえされる側が債務者になります。)
「現住所」だけでなく、後述する「差し押さえする財産の情報」の情報提出が求められているのがお分かりいただけるでしょう。
差し押さえ対象者の現住所情報が申立要件とされているのは、申し立て時に必要情報として提出が求められるからなのです。
差し押さえ対象者の現住所が分からない場合は?
離婚後、居住先住所が分からないという人は意外と多くいるようです。
離婚後も養育費の支払いだけでなく、子供との面会など、夫婦としての縁は切れていても、親子としての縁が切れたわけではありません。
離婚時の取決事項が両者で守られてさえいれば、必要最低限な情報くらいは、お互いに把握しているでしょう。
しかし、養育費を支払わないなど、一方が関係性を崩壊させている場合は、互いの現状を全く把握していないケースが多いようです。
ですが安心してください。
その場合は下記方法で、差し押さえ対象者の現住所を調べられます。
- 以前の住所から調べる
- 電話番号から調べる
どちらかの情報を把握していれば、現住所を調べることは可能です。
ですが、個人で調べるのは簡単ではありません。
以前の住所から調べるためには、既に他人となった差し押さえ対象者の住民票を開示する必要がありますし、電話番号から調べるためには、弁護士会の照会手続きを利用する必要があるからです。
ですが、債権者には債権回収に必要な債務者住所を調べるため、債務者の住民票開示が認められています。
この方法であれば、自分でやってやれないことはないでしょう。
しかし、慣れない手続きが必要ですし、差し押さえするつもりなら最終的には弁護士に頼るしかありません。
差し押さえをすると決めたならば、早めに弁護士に相談するのが最善策です。
費用は掛かりますが、この調査も弁護士に任せた方が無難でしょう。
差し押さえする財産の情報を把握している
差し押さえ対象者の現住所は弁護士居に任せれば、比較的簡単に調べることが可能です。
しかし、対象者がどんな財産を所持しているのかの調査は、例え弁護士であったとしても容易ではありません。
調査する方法はあるので、情報を得ることは可能ですが、その為には多くの時間と労力が掛かってしまうでしょう。
つまり、その分、弁護士費用がかさむというわけです。
これが、養育費の不払いに泣き寝入りする人が多い理由の1つと言われています。
事実、差し押さえしようにも費用面が問題となり、財産情報の調査ができず、申し立てを諦めたという人は少なくありません。
しかし、2020年4月以降は民事執行法が改正されたことにより、差し押さえ対象者が所持する財産を裁判所に調べてもらえる制度が施行されたのです。
それに伴い、調査費用を心配することなく、多くの人が差し押さえの申し立てができるようになりました。
裁判所に財産情報を調べてもらう制度
差し押さえ対象者の財産調査で利用できる制度は下記の2つです。
- 財産開示手続
- 第三者からの情報取得手続
これら手続きを裁判所に申し立てれば、確実に正確な財産情報を把握することができます。
この制度は債務名義を取得していれば申し立てできるので、差し押さえる財産情報が把握できていない時は、利用しない手はありません。
この2つの制度については、後述する「差し押さえを拒否された時の対処方法」で詳しく解説します。
差し押さえしたいけど、差し押さえる財産の情報が把握できていないという人は、しっかりと目を通すようにしてください。
養育費を差し押さえて回収するまでの手順と流れ
それでは差し押さえ申し立てするための要件が分かったところで、ここでは、養育費を差し押さえて、回収するまでの手順と流れを紹介しましょう。
養育費の差し押さえは、裁判所へ差し押さえの申し立てをして、裁判所から強制執行による差し押さえ命令を取ることになります。
差し押さえる財産によって、差し押さえまでの流れは多少異なる点はありますが、大筋としては大きな違いはありません。
差し押さえが認められれば、その財産から未払い分の養育費を取り立てればいいだけの話です。
この養育費を差し押さえて回収するまでの手順と流れは、給与差し押さえを例に挙げて、下記の記事で詳しく解説しています。
先に話した「離婚後に債務名義を取得する方法」もここで解説しているので、飛ばさず目を通すようにしてください。
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差し押さえを拒否された時の対処方法
裁判所から差し押さえ命令が発令されると、債務者(差し押さえ対象者)と第三債務者へ差押命令正本と陳述書が発送され、差し押さえ命令の発令が知らされます。
第三債務者とは債務者(差し押さえ対象者)に対して、債務を負う者のことです。
養育費の差し押さえ時では、下記の者が第三債務者に該当します。
- 差し押さえ対象者が勤務する会社(該当債務:給与、賞与など)
- 差し押さえ対象者が取り引きしている金融機関(該当債務:預金、株券など)
この差し押さえ財産に第三債務者が関与している場合、差し押さえ命令は債務者だけでなく、第三債務者に対しても発令されます。
第三債務者が債務者(差し押さえ対象者)に対して持っている債務を、差し押さえますという強制執行命令が発令されるというわけですね。
ここで、時折見られるのが、第三債務者による差し押さえ命令の拒否です。
金融機関が拒否することはまずありませんが、給与差し押さえ時に債務者(差し押さえ対象者)が勤務する会社が拒否するケースはしばしば見られます。
主な拒否理由としては、下記の2つです。
- 差し押さえ対象者が既に退職している
- 会社が差し押さえ対象者をかばっている
それでは会社に拒否されると、
「差し押さえはできないのでしょうか?」
「養育費の回収もできないのでしょうか?」
いいえ、そんなことはありません。
養育費を回収するための、正しい対処方法を取ってやればいいだけです。
その対処方法は下記の記事で詳しく解説しているので、同じ境遇となる可能性がある人は、ここで対象方法を理解しておくことをおすすめします。
また、先に話した「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」の方法も、ここで解説しています。
手続き方法を知りたい人は、しっかりと目を通すようにしてください。
養育費を差し押さえて回収するまでに要する期間
養育費の差し押さえで気になるのは、何と言っても回収するまでに要する期間でしょう。
養育費は子供を育てていくのに欠かせない資金です。
それが支払われていないのですから、その家庭の家計は切迫しているに違いありません。
となれば、養育費の回収は早いに越したことはありませんよね。
差し押さえから取り立てまでの大まかな流れは、下記の3ステップです。
- 裁判所へ差し押さえを申し立てる
- 裁判所から差し押さえ命令が発令される
- 取り立て
そして、この3ステップにかかる期間は約2週間と言われていますが、これは何の問題もなく、すんなりと手続きが進んだ場合の話です。
弁護士に手続きを依頼していれば、書類不備はまず考えられないので、ケアレスミスにより回収期間が伸びてしまうことはありません。
ですがこのケアレスミスを除外したとしても、申し立てる人の条件によっては、回収期間が長期化してしまうケースも出てくるのです。
場合によっては、回収期間の長期化も覚悟しなければならないでしょう。
そこで、ここでは回収期間を長期化させてしまう、要因を紹介していきます。
自分がこれら要因に該当しないかを、確認しながら見ていくようにしてください。
養育費の回収期間を長期化させる要因はコレ!
養育費の回収期間が伸びてしまう要因はいくつもありますが、長期化させる要因となれば、それほど多くはありません。
その要因として考えられるのは下記の3つです。
- 債権名義を取得していない
- 差し押さえる財産情報を把握できていない
- 給与差し押さえを会社に拒否された
それではこれら要因に該当する場合、どれくらいの期間延長になるのかを見ていくことにしましょう。
債権名義を取得していない
離婚後に債権名義を取得していない場合、その取得方法となるのは下記の2つです。
- 養育費支払を求める訴訟
- 支払督促
訴訟して判決が得られれば、判決文が債務名義となります。
しかし、訴訟となれば判決までに数ヵ月を要することになるので、こちらの方法はおすすめできません。
比較的短期間で債務名義である「仮執行宣言付支払督促」が取得できる、支払督促を選択することになるでしょう。
この支払督促で「仮執行宣言付支払督促」を取得するまでにかかる期間は、最短で3週間から1ヶ月ほどです。
しかし、この支払督促の申し立ては、さらに長期間を有する可能性があります。
支払督促では、訴えられた相手に異議申し立てできる権利が認められているからです。
そのため、異議申し立てされれば、そのまま民事訴訟に移行されるため、通常訴訟に切り替わります。
この場合は、判決が出るまでに、数ヵ月もの日数が必要になるでしょう。
債務名義を取得していない人は、回収期間が長期化する覚悟をしておくようにしてください。
差し押さえる財産情報を把握できていない
差し押さえる財産情報が把握できていない場合、差し押さえを申し立てるためには、その情報調査が必要になります。
その調査方法としておすすめなのが、今回お教えした下記2つの制度です。
- 財産開示手続(差し押さえ対象者を裁判所に出頭させ、所有財産を開示させる制度)
- 第三者からの情報取得手続(裁判所が第三債務者に対して情報開示請求をする制度)
「第三者からの情報取得手続」は「財産開示手続」の申し立てをした後で利用できる制度ですから、まずは「財産開示手続」をすることになります。
この「財産開示手続」に掛かる日数は最短で1ヶ月半ほどです。
また、さらに「第三者からの情報取得手続」を申し立てするなら、さらに1ヶ月ほどの日数がかかります。
「財産開示手続」によって、未払いに充当する財産が見つかればいいですが、見つからない場合には「第三者からの情報取得手続き」をして、さらに情報把握することになるでしょう。
差し押さえする財産情報が把握できていない人は、この点を念頭に置いて、回収期間が長期化する覚悟はしておきましょう。
給与差し押さえを会社に拒否された
給与差し押さえを会社に拒否された場合、その主な理由は下記の2つです。
- 差し押さえ対象者が既に退職している
- 会社が差し押さえ対象者をかばっている
差し押さえ対象者が既に退職している場合は、相手の現住所と差し押さえる財産情報を調査することになるでしょう。
現住所調査は数日で済みますが、財産情報の調査は先に話した通り、1ヶ月以上の日数が必要です。
また、在職しているが会社がかばって拒否した場合には、その会社を相手取って取立訴訟を起こすことになります。
この訴訟は通常の民事訴訟となるため、判決が出るまで数ヵ月を要することになるでしょう。
裁判に掛かる日数を考慮すれば、他の財産を差し押さえた方が、短期間で回収できる可能性があります。
場合によっては、差し押さえ財産を変更した方がいいかもしれません。
これについては担当弁護士とよく相談して、最善の方法を取るようにしてください。
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まとめ
今回は養育費の差し押さえ方を、初めての人でも分かるように解説しました。
今回の内容を理解してもらえれば、差し押さえ申し立てが初めての人でも、どうやればいいのか、自分に何が足りないのかを分かってもらえたかと思います。
回収が困難と言われた未払いの養育費は、民事執行法の改正に伴い、回収できる可能性がグンと高くなっています。
未払いの養育費問題で頭を悩ませている人は、今回お話ししたことを参考にして、しっかりと未払いの養育費の回収を成功させてください。
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