離婚時に養育費の取り決めを行っている夫婦は全体の約40%、そして、継続して養育費を受け取っている母子世帯は25%弱にしか過ぎません。
つまり、せっかく養育費の取り決めをしても、その約35%は未払いの状態に追い込まれているというわけです。
この場合、いくつかの方法で未払いの養育費を回収することになるのですが、問題となるのは元夫が住所不定の場合で、このケースは多く見られます。
住所不定では元夫に連絡が取れず、支払意思の確認すらできません。
回収する術がなく、泣き寝入りするしかなかったとういう人も少なくないでしょう。
では、住所不定の元夫に未払いの養育費を支払わせる術はないのでしょうか?
安心してください。
回収できる可能性はゼロではありません。
そこで今回は住所不定の元夫から、未払いの養育費は回収できるのかを徹底検証していきます。
元夫が住所不定となって未払いの養育費回収に頭を悩ませている人は、最後まで目を通して、その打開策をしっかりと理解するようにしてください。
住所不定の元夫から未払いの養育費を回収するための対処方法!
未払いの養育費を回収する方法として挙げられるのは、裁判所の強制執行命令による財産の差し押さえです。
この財産差し押さえが不可能な場合、残念ではありますが、未払いの養育費回収は不可能と言うしかないでしょう。
現状、日本の行政は養育費の未払いに対して、個人間の問題とするスタンスをとっているため、元夫が養育費を支払わずに逃げたとしても、刑罰が科されることはありません。
事実、アメリカでは連邦政府に養育費庁、そして各州に養育費事務所を設置し、アメリカ全土で養育費の未払い撲滅のため下記制度が実施されています。
- 住所不定となった元夫の捜索
- 養育費の給与天引き
- 税金の還付金から相殺
しかも、応じない場合は制裁が科されるというのですから、かなり強力な制度だと言えるでしょう。
ですが、日本では行政に頼ることができるのは、裁判所の強制執行命令による財産差し押さえしかありません。
そのため、この財産差し押さえは未払いの養育費を回収する為の最終手段となってくるのです。
未払いの養育費を差し押さえで回収するには元夫の現住所の把握が必須!
しかし、ここで問題となってくるのが、財産差し押さえに必要な条件です。
この財産差し押さえを裁判所に申し立てるには、下記3つの条件をクリアしなければなりません。
- 債権名義を取得している
- 元夫の現住所を把握している
- 差し押さえる財産を把握している
元夫の現住所が分からなくては、未払いの養育費を回収する為の最終手段である財産差し押さえはできないというわけです。
これは差し押さえの申し立て時に提出する必要書類の中に、元夫の住所を記載する当事者目録があるため、住所不定では書類不備とみなされるからです。
原則、元夫の住所が分からなければ、把握できるまで未払いの養育費を回収することはできません。
2020年の民法改正に伴い、元夫の財産については裁判所命令で正確に知ることができるようになりました。
これによって、未払いの養育費を回収できる可能性はグンと上がったと言われています。
ですが、元夫の現住所の調査に関しては、改正後も申立人自らが調べるしか手がないのが実情です。
元夫が住所不定でも差し押さえはできると思っている人もいるでしょうが、これは勘違いしないよう、しっかりと頭に入れておいてください。
元夫の両親に養育費の請求はできないの?
それでは元夫が住所不定のままでは、未払いの養育費回収は諦めるしかないのでしょうか?
いいえ、簡単に諦める必要はありません。
現状、元夫から未払いの養育費を回収する為の手立てはありませんが、その両親に支払いを求めるという方法が挙げられます。
基本的に養育費の支払い義務があるのは子供の親である元夫だけで、その両親には支払い義務はありません。
ですが、状況によっては、その両親へ支払いを求めることも可能です。
これについては下記記事の中の「差し押さえる財産が何もない!!元夫に代わって、その両親に未払いの養育費を請求することは可能?」で分かりやすく解説しています。
元夫の両親に支払いを求めるには、それなりの条件が必要ですが、あなたに可能性がないわけではありません。
まずは、上記記事に目を通して、その可能性を探ってみましょう。
明確に財産特定ができるなら公示送達制度を利用する手も!
住所不定で勤務先も分からない状況では、未回収の養育費回収は諦めるしかないでしょう。
ですが、元夫が所有する財産を明確に把握していれば手が無いわけではありません。
公示送達制度を利用すれば、その財産を差し押さえることが可能です。
民事訴訟法では下記の様にいくつもの送達方法が規定されています。
- 通常送達:相手の住所がわかっている場合の原則的な送達方法
- 就業先送達:相手が住所不定だが勤務先が分かっている場合、勤務先に送達する方法
- 補充送達:同居人に受領してもらう送達方法
- 付郵便送達:相手が受け取らなくても送達済みとできる送達方法
- 公示送達:裁判所の掲示板などに送達物を掲示する送達方法
訴訟手続きでは訴訟相手に訴訟が開かれる旨の通達が行われますが、相手の住所が分からない、相手が受け取らないケースが想定されます。
これで裁判ができないとなれば話になりません。
そこで、いかなる場合でも裁判ができるよう、その救済措置として様々な送達方法が用意されているのです。
ここで注目してもらいたいのが公示送達で、元夫が住所不定の場合、この公示送達で裁判で差し押さえ命令を出してもらうことができます。
この公示送達は後述する方法などで、いくら知らべても住所の特定ができないことの証明が必要です。
ですが、差し押さえできる財産が明確に把握できているなら、この公示通達を利用しない手はありません。
公示送達の申し立ては提訴後でOKですし、費用は掛かりません。
差し押さえる財産を把握していなければ取れない方法ですが、分かれた元夫の財産状況を把握しているケースは無きにしも非ずです。
未払いの養育費を回収できる元夫の財産を把握している場合は、有効な回収方法となるでしょう。
住所不定の元夫の現住所を調べる方法!
元夫が住所不定だからといって、簡単に未払いの養育費回収を諦める人はいないでしょう。
何とか現住所を調べようとするはずです。
そんな時にまず最初に思い付くのは、元夫の友人知人に当たってみるという方法でしょう。
この方法はバカにできません。
あなたやその子供が元夫にどんな仕打ちを受けているのかや、養育費の必要性を真剣に相談すれば、相手も情にほだされて教えてくれる可能性はあるでしょう。
例え知らなくても、何らかの情報を得られる可能性もあるからです。
教えてくれるはずはない、知っているはずはないと端から諦めず、まずは元夫の友人知人に連絡を取ってみるようにしてください。
ですが連絡しても何の情報も得られなかったということは少なくありません。
ここでは、その際に取れる元夫の現住所の調べ方をお教えします。
その方法は下記の3つです。
- 戸籍の附票を取得する
- 弁護士照会制度を利用する
- 探偵事務所に依頼する
調べ方としては、上記の順番通りに進めていくのがベストです。
それではこれら各方法について詳しく見ていくことにしましょう。
戸籍の附票を取得する
住所移転時に最も簡単に相手の現住所を確認する方法として挙げられるのが、戸籍の附票の取得です。
戸籍の附票とは住所の移転履歴を記載した書類で、本籍地の役所で交付してもらうことができます。
現住所は住民票でも確認することができますが、相手が転居して住民票が除票されている場合、その保存期間は5年です。
よって、転居後5年経過している場合は、住民票では転居先を確認することはできません。
また、住民票は転居先の住所は記載されていますが、その転居先から新たに転居している場合、ずっと住民票をたどっていく必要があります。
ですが、住民票の附票であれば戸籍の構成員全員が除籍にならない限り、ずっと本籍地の役所で保管されますし、転居毎に新たな現住所が記載されるので、確実に相手の住所を把握することが可能です。
離婚しても元夫の戸籍の附票は取得できる!
「でも、離婚した自分が元夫の戸籍なんて取得できるの?」と思われる人もいるでしょう。
確かに第三者が簡単に取得できるのでは、個人情報保護法に抵触することになってしまいます。
ですが、離婚してもその戸籍に除籍者として記載されている場合、戸籍に記載されている人として戸籍謄本や戸籍の附票を取得することができるのです。
戸籍謄本と戸籍の附票については,その戸籍に記載されている人(除籍と記載されている人を含む)、またはその配偶者・直系尊属(親・祖父母等)・直系卑属(子・孫等)の方ならば取得する事ができますので、元夫の現在の戸籍に元妻が除籍者として記載されていれば、戸籍に記載されている人として取得する事ができます 。 (*水戸市HPより参照。)
離婚しても元妻は、元夫の戸籍謄本や戸籍の附票を取得する権利があるというわけです。
ですが、元夫が本籍を変更するなどの理由で戸籍が新たに構成されている場合、その戸籍には元妻の記載はされません。
そのため、このケースでは元妻は戸籍の附票を取得することはできませんが、なんら心配はいりません。
離婚して親と離れて暮らしていても、子供は元夫の戸籍に入ったままだからです。
よって、このケースでは元妻は戸籍の附票を取得できませんが、元夫の直系卑属である子供であれば、新たな元夫の戸籍の附票を取得することができます。
また、養育費の未払い回収という理由でも、戸籍の取得は可能です。
ですが、それには面倒な手続きが発生するため、子供に取得させた方が手は掛からないでしょう。
それでは引き続き、戸籍の附票の取得方法をお教えするので、しっかりと目を通すようにしてください。
戸籍の附票の取得方法
先に話した通り、元夫の戸籍の附票を取得できるのは本籍地の役所になります。
ですが、郵送請求もできるので、本籍が遠隔地でも何ら問題はありません。
下記必要書類を同封して本籍地のある役所の戸籍係・市民生活課住民係へ郵送申請すれば、1週間ほどで手元に郵送してもらえます。
- 請求用紙
- 切手を貼った返信用封筒
- 手数料(1通450円の郵便局の定額小為替、または現金書留)
- 請求者の本人確認書(運転免許証や健康保険証などのコピー)
- 請求者情報(住所、氏名、生年月日、昼間連絡が取れる電話番号)
- 申請者の署名と捺印
- 請求理由と使用目的
- 本人の委任状(*子供に代わって元妻が請求する場合)
請求用紙は役所の備え付け、または役所のHPからダウンロード可能です。
ですが、手数料や切手代は役所によって異なり、役所によってはマイナンバーカードで全国のコンビニエンスストアで取得できるサービスを展開しています。
実際に郵送請求する場合は、まず本籍地のある役所のHPを確認してみましょう。
弁護士照会制度を利用する
これは養育費回収を弁護士に依頼することが前提になりますが、弁護士ならば弁護士照会制度を利用して、元夫の現住所を調べられる可能性があります。
戸籍の附票で現住所が確認できれば問題ありませんが、元夫が転居届を出していないこともあるでしょう。
この場合、転居先が戸籍の附票に記載されないので、取得しても現住所を知ることはできません。
そんな時に次の方法としておすすめしたいのが、この弁護士照会制度の利用です。
後述する探偵事務所へ依頼してもかまいませんが、費用が高額になる上、その後の差し押さえ等の回収では弁護士の力が必要になります。
そのため、戸籍の附票で現住所が確認できない場合は、まずは弁護士に相談するのが得策でしょう。
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弁護士照会制度とは?
弁護士照会制度は弁護士法23条に定められた法的制度で、弁護士が担当事件に必要な証拠や情報を収集して、円滑に事実調査するために制定された制度です。
この弁護士照会制度を利用すれば、下記情報を調べることができます。
- 携帯電話の契約者氏名、住所、契約年月日、電話料金の引落口座
- 携帯電話のメールアドレスから電話番号の照会
- 銀行口座の照会
- 生命保険契約の有無とその契約内容
- 出入国記録
この弁護士照会制度の一番大きなメリットは、携帯電話の電話番号やメールアドレスから、元夫の現住所を確認できる点です。
多額な借金や犯罪から逃げているのなら、携帯電話はとっくに変えられているかもしれません
ですが養育費未払いくらいなら、携帯電話の番号はそのままの可能性は高いでしょう。
この弁護士照会制度は法的制度であるため、照会を求められた第三者は、原則として回答報告する義務が課せられます。
電話番号だけは変えたくないという人が多いので、元夫の現住所が確認できる可能性は十分にあります。
ですが、ここで肝に銘じておいて欲しいのは弁護士費用です。
弁護士照会制度の利用で掛かる費用は1件1万円程度ですが、弁護士に依頼するとなれば、それ相応の費用が発生します。
実際に現住所を把握し、未払いの養育費を回収する為に、どれくらいの費用が必要なのかは知っておくべきでしょう。
これについては下記の記事で詳しく解説しています。
養育費の差し押さえに必要な弁護士費用を分かりやすく紹介しているので、必ず目を通すようにしてください。
探偵事務所に依頼する
戸籍の附票を取得しても、弁護士照会制度を利用しても、元夫の現住所が確認できなかった。
残念ですがこういった結果となる可能性は否めません。
この場合、現状としては未払いの養育費請求は諦めざるを得ないでしょう。
ですが、どうしても納得いかないというなら、探偵事務所や興信所に依頼するという手が残されています。
どうしても諦められないという場合は、検討してみるといいでしょう。
しかし、探偵事務所へ依頼したとしても、確実に現住所が判明するわけではありませんし、高額な費用が発生する可能性があります。
費用については各事務所によって異なってきますが、依頼する際はよく検討するようにしてください。
何で大事な子供に必要な養育費を支払わずにいられるのか!
近年、養育費を受け取っている母子世帯の少なさが、社会問題としてクローズアップされています。
ここで大きな疑問として浮かぶのが、何で親が自分の大事な子供に対して、必要な援助を拒むのかという点でしょう。
子供大事で育てられた筆者にも、到底理解できないことです。
ですが、養育費の不払い問題に関しては、子供大事だけでは解決できない、根深さが存在することも否めません。
大事だから支払う、大事じゃないから支払わないと、単純に結論付けできる問題ではないのです。
この問題に関しては下記の記事で詳しく解説しています。
第一の責任は、養育費を支払おうとしない親にあることは明白です。
しかし、問題はそれだけではありません。
しっかりと目を通して、何故、日本の養育費受給率がこれほどまでに低いのか、その理由を理解しておきましょう。
養育費が未払いのまま逃げる元夫に対抗する為の法的秘策を紹介!
日本で養育費の受給率が低い1つの原因は行政の対応にあります。
これは前項で紹介した「何で大事な子供に必要な養育費を支払わずにいられるのか!」の記事に目を通してもらえば明白です。
しかし、訃報ばかりではありません。
行政も養育費の受給率の低さを懸念し、その手始めとして2020年に民法改正に踏み切ったことで、未払いの養育費を回収できるチャンスはグンと広がったからです。
民法改正に伴い、今までなら泣き寝入りするしかなかった人も、未払いの養育費を回収できるようになりました。
この民法改正でどのようなメリットが生まれたのかについては、下記の記事で詳しく解説しています。
以前なら困難に思えた未払いの養育費回収も、民法改正による法律の変更・追加で随分と楽になっています。
これは未払いの養育費問題に悩むあなたにとって、ぜひ把握しておいてもらいたい重要な情報です。
読み飛ばさずにしっかり目を通すようにしてください。
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まとめ
今回は住所不定の元夫から未払いの養育費を回収するための方法を解説しました。
元夫が住所不定の場合、未払いの養育費回収は決して簡単ではありません。
分からずじまいでは、どのような手を使っても回収することはできないでしょう。
ですが、元夫の住所は調べることができます。
簡単に諦める必要はないのです。
現住所を確認できる可能性は十分にあります。
まずは、諦めずに今回紹介した方法で、元夫の現住所調査に乗り出してみてはいかがでしょうか。
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