養育費は支払い期間中、取り決めた額がずっと受け取れるとは限りません。
離婚後の元夫婦に様々な変化が生じた場合、それを理由として減額請求できるからです。
減額請求の可否は、まず両者の話し合いによって決定されます。
しかし、「支払い義務者は減額したい、受給権利者は減額されたくない!」と意見が食い違い、話し合いで決着がつくことはまれです。
大抵の場合、元夫が裁判所に養育費の減額請求調停を申し立て、最終的には裁判所の決定に従うことになるでしょう。
ここで問題なのが裁判所の決定です。
元夫からの減額請求理由に相当性があれば、養育費の減額請求が認められる可能性は高く、その結果に従うしかありません。
そこで今回は元夫からの養育費の減額請求を、回避するための対処方法をお教えします。
将来、元夫から養育費の減額請求される可能性は誰にでもあります。
その時に慌てず正しい対応が取れるように、基礎知識として身に着けるようにしてください。
養育費の減額請求が認められる条件
養育費の減額を請求するためには、相当理由が必要です。
その理由に相当性がなければ、裁判所が減額を認めることはありません。
そこで元夫からの減額請求に備えて、知っておいてもらいたいのがその相当理由です。
どのようなケースで、相手から養育費の減額請求を求められるのかを、まずは把握しておく必要があります。
養育費の減額請求が認められるのは、下記条件に該当する場合です。
- 支払い義務者(元夫)の収入が減った
- 受給権利者(元妻)の収入が増えた
- 支払い義務者(元夫)が再婚して扶養家族が増えた
- 受給権利者(元妻)の再婚相手が子供と養子縁組をした
元夫だけでなく、あなたの事情も相当理由になるのです。
上記条件に該当する場合は、元夫から養育費の減額請求を求められる可能性があると考えておくべきでしょう。
下記の状況を迎えた時には、元夫からの減額請求に備えておく必要があります。
- 離婚後の元夫婦それぞれの年収変化
- 離婚後の元夫婦それぞれの再婚
それではこれら2つの請求事由について見ていくことにしましょう。
離婚後の元夫婦それぞれの年収変化
そもそも養育費は下記3つの条件を元に決定されます。
- 離婚する夫婦それぞれの年収
- 子供の人数
- 子供の年齢
この中で最も養育費決定に大きな影響を及ぼすのが年収です。
下記条件に該当するほど、請求できる養育費は大きくなります。
- 支払い義務者(元夫)の年収が高い
- 離婚する夫婦の年収差が大きい
そのため、離婚後の元夫婦の年収に下記変化が生じた場合、離婚時に取り決めた養育費が、妥当な金額ではなくなっている可能性が出てくるのです。
- 元夫が会社都合によるリストラ等で年収が大幅に減額となった
- 事業成功などにより元妻の年収が大幅に増額した
そのため下記の年収変化は、減額請求を求められる正当な請求事由になります。
- 支払い義務者(元夫)の収入が減った
- 受給権利者(元妻)の収入が増えた
年収変化を請求事由にする際は大幅な変化が必要!
裁判所で年収変化を理由に養育費の減額請求を認めてもらうには、現在の養育費支払いが両者にとって、相当でないと認められる事実を有する必要があります。
つまり、養育費の取り決め時の年収と、現在の年収に大幅な差異が生じていなければ、年収変化による減額請求は認められないというわけです。
これが元夫の減額請求を回避するための、重要なポイントとなってきます。
離婚時に元夫の年収が425万円で妻の年収がゼロだったとしましょう。
この場合、養育費算定表の養育費相場は「4万円~6万円」です。
しかし、離婚後元妻がパートなどにより年収150万円になったとしても、下記の様に離婚時と養育費相場は変わりません。
この年収であれば、元夫から減額請求されることはありません。
離婚後にあなたの収入が増えたからといって、必ず養育費減額の請求事由になるわけではないのです。
減額請求を恐れて、仕事をセーブする必要はありません。
仮にあなたの年収が175万円になって、養育費算定表で「2万円~4万円」になったとしても、これくらいの年収増では、減額請求を認めることはないでしょう。
裁判所が減額請求を認めるのは、あなたに大幅な収入増加があった時のみです。
心配な人は養育費算定表を参考にして、減額請求されるかを確認してみるといいでしょう。
養育費算定表の使用方法は下記の記事で分かりやすく解説しています。
この記事で使用方法を確認して、早速、養育費が減額請求される可能性があるかを調べてみましょう。
離婚後の元夫婦それぞれの再婚
残念ながら離婚後のお互いの再婚は、年収変化よりも養育費の減額請求が認められる可能性が高くなります。
特にあなたの再婚では、養育費の支払いが免除になる可能性すら出てくるのです。
ですが、再婚による養育費の減額幅や免除の可能性は、再婚後のお互いを取り巻く条件によって異なります。
よって、どのような条件で養育費が減額・免除されるのかを知っておけば、減額幅を抑えることができますし、免除を免れるよう手を打つことも可能です。
そのためにも、まずは養育費が減額・免除される条件について理解しておく必要があるでしょう。
この条件については、下記の記事で詳しく解説しています。
養育費の大幅な減額や免除を回避するためにも、しっかりと目を通して対応策を講じれるようになってください。
養育費の減額請求が認められないケース
先に話したように、元夫の減収は養育費減額の請求事由になります。
ですが注意してください。
元夫が年収の減額を理由に減額請求を求めた時は、減収の事実があっても、養育費の減額が認められないケースもあります。
これは減額請求を求められても、きっぱりと断れる理由になるので、必ず覚えておきましょう。
裁判所が減収による養育費の減額請求を認めるのは、減収理由が下記に該当している場合のみです。
- 年収が減った理由に本人責任がないこと
- 年収が減った理由がやむを得ない事情によること
- 年収が減った理由が離婚時に予測不可能なものであること
そのため、下記理由で養育費の減額請求を求めても、裁判所が減額請求を認めることはありません。
- 元夫が自己都合で仕事を止めて養育費が払えないと言ってきた時
- 元夫が自己都合による転職で年収が激減して養育費が払えないと言ってきた時
- 元夫の不必要な転職で年収が減少して養育費が払えないと言ってきた時
- 離婚後に住宅ローンを組んだため、養育費が払えないと言ってきた時
- 来年から給料が下がるから養育費が払えないと言ってきた時
また、面会交流を守らないから養育費を払わないと言ってくる元夫もいますが、これも減額請求が認められる理由にはなりません。
養育費の支払いと面会交流は全く別の権利だからです。
子供に会わせてくれないから、養育費は支払わないという請求理由は認められません。
これも併せて覚えておきましょう。
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元夫から減額請求を求められた時の対処方法
元夫が減額請求を求めてきた時、以降の手続きは下記の流れになります。
- 元夫から減額請求の申し出
- 元夫との話し合い
- 元夫による裁判所への減額請求調停の申し立て
- 審判手続きの開始
- 裁判官による養育費減額の可否判断
話し合いで決着が付かない場合は、最終的に裁判所による採決で請求可否が決定されるという流れになります。
ここで気になるのが養育費減額請求の可否が決定するまでの期間です。
それでは裁判所に養育費の減額請求調停を申し立てた場合、その結果が出るまでどれくらいの日数を要するのかを見ていくことにします。
養育費減額請求の可否が決定するまでの期間
まずは調停にかかる期間からです。
調停は元夫婦と裁判官、そして調停委員とで養育費の減額請求について話し合いが行われます。
調停は話がつくまで数回にわたって行われますが、第1回目の調停は申し立て後1ヶ月ほど経ってからになるでしょう。
その後の調停は1ヶ月に1回のペースで継続され、早ければ1、2回で成立となりますが、多ければ10回以上も行われるケースもあります。
調停だけで1年以上かかることもあるのです。
しかし、調停委員たちも長期化となる事態を避けるため、長期化の可能性がある場合は早々に調停不成立として、審判に移行させることもあると言います。
ですが、お金が絡んだ調停は長期化する傾向があるので、覚悟しておく必要があるでしょう。
また、不成立になった際の審判にかかる日数ですが、一般的には調停不成立から審判による決定が下るまで3ヵ月から4ヶ月くらいが一般的です。
中には1ヶ月から2ヶ月ほどで審判が出ることもありますが、一般的な目安で予測しておいた方が無難でしょう。
調停回数にもよりますが、結論が出るまでに最短でも半年ほどの日数が必要になってきます。
短期間で請求可否の結果が出るわけではないので、この点は覚えておくようにしてください。
減額請求の可否が決定するまでの養育費
養育費の減額請求調停で気になるのは、減額請求の可否が出るまでの養育費の支払いです。
「どうなるの?」と不安になる人は多いでしょう。
仮に元夫からの減額請求が認められれば、減額が開始される期日以降は減額された養育費が支給されることになります。
しかし、減額請求の可否が出るまでは、養育費の支払いは取り決め時の条件通り継続されなければなりません。
そのため、減額請求の可否が出るまでに、養育費の不払いや、勝手な減額支払いがされている場合は、その分を取り決め額で元夫に請求することができます。
不払いによる遅延損害金も請求できるので、減額請求の結果がどうであろうと、必ず元夫へ請求するようにしてください。
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養育費の減額請求に関する審判例を見てみよう!
それでは実際に裁判所が元夫の養育費減額に対し、実際どのような判決を出しているのかを見てみます。
あなたの良い判断材料になるでしょう。
しかし、似たような減額請求事案でも、元夫と元妻の主張や立証方法によって判決は異なります。
自分の状況と似ているからといって、同じ判決が下るとは限りません。
あくまで参考程度にとどめておいた方がいいでしょう。
この点を理解した上で目を通すようにしてください。
元夫の養育費減額請求が認められた審判例①
請求理由
離婚から数年後、元夫が再婚して連れ子がいたことで扶養家族が増え、経済的負担が大きくなったことから、元夫が裁判所へ養育費の減額調停を申し立てる。
結果
調停は不成立となり審判に移行されましたが、審判では月額4万円の減額が認められました。
減額が認められたポイントは下記2つによるところが大きく、現在の養育費支払いが元夫にとって相当でないと認められました。
- 取り決め時の養育費が相場よりも大きく上回っていた
- 再婚に伴う経済的負担が増した事実
元夫の養育費減額請求が認められた審判例②
請求理由
元妻が再婚し、再婚相手が3人の子供と養子縁組したこと、そして元夫も再婚して扶養家族が増えたことで、双方の経済状況が変化したことから、元夫が裁判所に養育費の減額請求調停を申し立て。
結果
この事案も調停は不成立となり審判に移行されましたが、審判では子供1人当たり月額7万円、合計21万円の減額が認められました。
減額が認められたポイントは下記2つです。
- 元夫に扶養家族が増えたこと
- 元妻に子供の扶養義務者ができたこと
元妻の再婚相手と子供が養子縁組した場合、扶養義務を果たす権利は元夫よりも再婚相手の方が優先されます。
養子縁組により子供の扶養者ができたことが、大幅な減額が認められた一番の要因と言えるでしょう。
元夫の養育費減額請求が認められた審判例➂
請求理由
元夫は離婚時に子供3人に対し、1人当たり月額35,000円の養育費支払いの取り決めを交わした。しかし、再婚により2人の子供が誕生し、経済状況が変化したことを理由に、元夫が裁判所に養育費の減額請求調停を申し立てる。
結果
この事案も調停は不成立となり審判に移行され、審判では子供1人当たり月額5,000円、合計15,000円の減額が認められました。
減額が認められたポイントは扶養家族が増えたこともありますが、離婚当時1,500万円あった年収が、調停申立時には500万円まで減少していたことも考慮に加えられています。
元夫の養育費減額請求が却下された審判例①
請求理由
元夫が離婚後に発生した下記事由で、裁判所へ養育費の減額調停を申し立てる。
- 給料が減額になった
- 元妻の収入が増加した
- 離婚時に予期していなかった出費が必要になった
結果
調停は不成立となり審判に移行されましたが、審判では下記理由から、現在の養育費の支払い維持が実情に適さないとは判断されないとして、元夫の請求は棄却されました。
「取り決めた養育費は元夫が当時予測できる将来の状況を踏まえて、自分の意思で合意したものであるため、請求事由は養育費を取り決めた後に生じた相当程度の事情変更には当たらない。」
元夫の養育費減額請求が却下された審判例②
請求理由
下記事由により養育費の支払いが困難になったとして、元夫が裁判所へ養育費の減額調停を申し立てる。
- 収入が減少した
- 自身の再婚により新たに子供が誕生した
結果
調停は不成立となり審判に移行されましたが、審判では養育費の減額が認められました。しかし、元妻の弁護士は下記主張から家庭裁判所が下した審判が不当であるとして、高等裁判所へ即時抗告することにしたのです。
①については離婚前から予測可能なことである。
②については離婚時に相手方の再婚相手が妊娠していたことから新たな子供が誕生するのは明白な事実である。
即時抗告後は家庭裁判所での審判が取り消されましたが、高等裁判所では減額請求事由は法律上の「事情の変更」に該当しないとされ、元夫の減額請求の申し立ては却下されました。
元夫が一方的に養育費を減額してきた場合の対処方法
養育費の取り決めを変更する場合は、元夫婦それぞれの同意が必要です。
同意が得られない場合は、裁判所に調停を申し立て、裁判所の裁決を仰ぐことになります。
よって、これら段取りを踏まずに、一方的に養育費を減額したり、停止したりすることはできません。
ですが、元夫が養育費の減額や停止を、一方的に実行へ移すケースは度々見られます。
特に元妻が再婚した時、元夫はしばしばこういった行動に出るようです。
そんな時はそのままにしておかず、まずは相手に養育費の取り決め内容は勝手に変更できないことを伝え、早急に不払い分の養育費請求をしてください。
伝達手段は相手に話が伝わったことを証明できる、内容証明郵便がおすすめです。
内容証明郵便ならば、言った言わないと揉めることもありません。
それでもなお、相手がまったく応じない場合は、差し押さえによる不払い分の回収も視野に入れる必要があるでしょう。
しかし、差し押さえは、裁判所への申し立てが必要になります。
裁判所命令がなくては、相手の財産を差し押さえることはできません。
この点は注意するようにしてください。
不払いの養育費を差し押さえで回収する方法と、その時の注意点は下記の記事で詳しく解説しています。
差し押さえ方法が分からない人は、まずは目を通して回収方法を確認してください。
ですが、差し押さえを検討するのであれば、その際に掛かる費用にも注意が必要です。
減額分を回収するために、それ以上の費用が掛かったのでは何の意味もありませんよね。
その時は、他の回収方法を探る必要があるでしょう。
どのような回収方法があるのかは、下記記事の「不払いの養育費を請求する方法!」で、分かりやすく紹介しています。
まずは回収方法を確認した上で、どう対応するのが一番良いのかを、弁護士に相談してみることをおすすめします。
まとめ
養育費は支払い義務者と受給権利者の状況に応じて、減額・増額が可能です。
そのため、元夫から養育費の減額請求を求められる可能性は十分あるでしょう。
しかし、裁判所が減額請求を認めるには、 現在の養育費支払いが両者にとって相当でないと認められる正当性を有する必要があります。
よって、相手の減額事由が認められるとは限らないのです。
まずは今回紹介した減額請求が認められる条件を理解した上で、裁判所がそれを認める可能性について検討してみましょう。
また、減額請求が認められるお互いの再婚事由も、減額幅を軽減し、免除を避ける手立てはあります。
対処方法さえ分かっていれば、ダメージを軽減することができるのです。
元夫からの減額請求を退けたい人は、今回お教えした方法を実践して、万全の対応をするようにしてください。
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