離婚後、子供は母親に引き取られるケースが多く、その父親には養育費支払の義務が課されます。
ですが、この義務がちゃんと遂行されているかと言えば、答えはNOです。
日本では全体の8割もの人が養育費を払っておらず、ちゃんと養育費を受給しているのは、たったの2割にしか過ぎません。
倫理的に考えれば、あり得ない話ですが、これが日本における養育費支払の実状なのです。
「何でそんな不条理がまかり通っているんだ?!」
良識的な人ならば、口を揃えてこう叫ぶことでしょう。
そこで今回は養育費不払いが横行している理由を徹底的に検証します。
そして、未払いの養育費を差し押さえで回収する方法も併せてお教えするので、養育費の未払いに悩んでいる人は、ぜひ問題解決の参考にしてください。
正確なデータから見る養育費を払わない人の割合
まずは厚生労働省が発表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」の公的データから、日本における養育費支払の現状を見ていくことにします。
日本の養育費の受給率の低さは、誰もが驚くような数値です。
この受給率の低さは離婚した人にとっては周知のことですが、意外と一般的には知られていないのが実情です。
何故、社会保障が充実した日本が、このような事態を招いているのでしょうか。
これから紹介するデータから、養育費を払わない割合がいかに高いか、何でこんな状況になっているのかを検証していきます。
決して褒められた事実ではありませんが、認めざるを得ない事実です。
それでは、目を背けることのできない実情を、一緒に検証していきましょう。
養育費を受け取っている離婚後世帯はたったの2割!
下記は母子世帯の養育費の受給状況です。
年度 |
現在も受給中 |
過去に受給したことがある |
受給したことがない |
不詳 |
平成23年 |
19.7% |
15.8% |
60.7% |
3.8% |
平成28年 |
24.3% |
15.5% |
56.0% |
4.2% |
参照先:厚生労働省HP「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」
最新の平成28年のデータでは、現在も継続して養育費を受け取っているのが24.3%と、前回調査時より若干上昇してはいますが、低い数値であることは否めません。
しかし、ここで注目してもらいたいのは、全く受給したことのない母子世帯が56.0%もの高い数値を示している点です。
途中から払われなくなったというなら話は別ですが、まったくもらっていないとなれば、端から養育費について離婚時に話し合いが持たれていなかったことになります。
これは日本で養育費の受給率が低い理由に、大きな影響を及ぼしている要因の1つです。
それでは、離婚時に養育費の取り決めはちゃんとされているのかを、調査データから見てい見ることにします。
離婚時に母親が養育費を請求する意思は決して高くない!
結論から先に言えば、母親の養育費を請求する意思は決して高くありません。
それは下記の「母子世帯の母の養育費取り決め状況」の調査データを見れば明らかです。
年度 | 養育費の取り決めをしている | 養育費の取り決めをしていない | 不詳 | |||||
文書あり | 文書なし | 不詳 | ||||||
債務名義 | その他 | |||||||
平成23年 | 37.7% | 70.7% | ― | ― | 27.7% | 1.6% | 60.1% | 2.2% |
平成28年 | 42.9% | 73.3% | 58.3% | 15.0% | 26.3% | 0.4% | 54.2% | 2.9% |
見ての通り、養育費の取り決めをしていない割合の多さが目立ちます。
最新データでも54.2%と半数以上の人が、離婚時に養育費支払の取り決めをしていません。
これでは、養育費を受け取っている母子世帯が約20%と低いのにもうなづけます。
請求されていないのですから、相手が支払わないのも当然です・・・。
これは離婚することに精いっぱいで、養育費に頭が回らなかったからと言う声もありますが、この意見は事実とは全く異なります。
下記が養育費の取り決めをしなかった理由の調査結果です。
(母子家庭の母が養育費の取り決めをしていない最も大きな理由)
- 相手と関わりたくない:31.4%
- 相手に支払う能力がないと思った:20.8%
- 相手に支払う意思がないと思った:17.8%
- 取り決めの交渉がわずらわしい:5.4%
- 取り決めの交渉をしたがまとまらなかった:5.4%
- 相手から身体的・精神的暴力を受けた
- 自分の収入等で経済的に問題がない:2.8%
- 現在交渉中または今後交渉予定である:0.9%
- 子供を引き取った方が、養育費を負担するものと思っていた:0.6%
- 相手に養育費を請求できることを知らなかった:0.1%
養育費請求を自ら拒否する人が31.4%と、最も多かったのには驚かされますが、端から請求を諦めている人が多い点に注目してください。
これは、母子世帯となる母親の多くが、離婚する時点で養育費の支払いを当てにしていないことの表れです。
養育費の支払いを取り決めていない人は、全体の約70%にも上ります。
養育費問題は支払義務のある親が支払わないことが、理由のように報道されていますが、実は端から請求する意思のない母親の多さも、理由の1つというわけですね。
母親の大半が養育費の支払いを求め、その受給率が20%であるのなら、支払義務をおろそかにしている相手に問題があるでしょう。
ですが、事実はそうではありません。
その意思がなく、取り決めをしていない人が大半を占めています。
相手が支払義務を怠り、養育費を払わないケースは、解決しなければならない大きな問題です。
しかし、支払われる側にも意識改革が求められるのも事実でしょう。
離婚したら今後一切関係を持ちたくないと考える人が多いのは、仕方のないことかもしれません。
ですが、母子世帯の母親で養育費を当てにすることなく、生活していけるだけの年収を得ているのはほんの一握りです。
母子世帯の多くが低所得で、相対的貧困率は50%を超えていると言われています。
となれば、離婚時には拒否した養育費が、将来的に必要になる可能性は高いでしょう。
その時に、調停等の面倒な手続きを幅くためにも、離婚時の養育費の取り決めが必要なのです。
現在、離婚協議中の人は、この点をよく理解して、養育費の取り決めはしっかり行うようにしてください。
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世界的に見れば日本の養育費支払の履行確保は高くない!
日本で養育費の受給率が低いのは、請求意思のない母子世帯が多いことが影響しています。
しかし、請求しているのに支払義務を無視して、不払いを決め込んでいる人が多いのも事実です。
養育費は離婚時に取り決めをしなければ、支払義務が発生しないわけではありません。
離婚しても子供に養育費を支払わなければならないのはこのためです。
では何故、24.3%と養育費の受給率は低いのでしょうか。
これはひとえに、不払を防止する制度が整備されていないことに尽きます。
法律で支払義務が定められてはいるものの、支払わなかったからといって、罪に問われるわけではありません。
不払をした時の実効的制度が全く整備されていないのです。
この点は世界の先進国と比べても、日本が不整備であることは明らかです。
それでは、世界各国は養育費の不払いに対して、国を挙げてどのような対応をしているのかを見てみることにしましょう。
世界各国が施行している実効的な制度
日本における養育費回収のために施行されている制度がいかに未整備であるのかは、他国と比較すれば一目瞭然です。
それでは早速、いかに日本の養育費た回収に対する対応が不十分なのかを、世界各国が実施している実効的な制度を紹介していきながら見ていくことにしましょう。
国による養育費立替払い制度
養育費立替払制度はスウェーデンをはじめとする北欧諸国やドイツ、フランスで施行されている、子供を引き取っている親に対して、一方の親に代わって養育費を支払う制度です。
この制度の仕組みは、実施までの流れを見てもらえば理解してもらえるでしょう。
- 子供を引き取った親が養育費の請求権を国に譲渡する
- 国がその親に養育費を支給する
- 国が支払義務者から支給費用を回収する
特に制度内容が充実しているのがスウェーデンで、その対策は受給者だけでなく、下記の様に支払義務者の生活を考慮した社会保障制度として確立されています。
- 子供が18歳になるまで国が定めた養育費補助手当が支給される
- 支払義務者に再婚等の諸事情に応じて、寛大な減免が行われる
日本でもこれと同じ方法を保証会社と共に実施している自治体が増えていますが、国と自治体では制度を利用できる人には大きな隔たりがあります。
現在、国でも同じ制度の導入が検討されているそうですが、実際に施行されるには、すぐ様というわけにはいかないようです。
ですが、国がこの制度を施行できれば養育費の不払いに対して、大幅なストップを掛けることもできるでしょう。
今後の進捗具合に期待したいところですね。
国による養育費取立て援助制度
この国による養育費取立て援助制度はアメリカやイギリス、オーストラリアなどの英米法を執っている国に多く見られます。
その名の通り、国が養育費を扱う専門機関をたてて、養育費の取り立てを援助する制度です。
この制度が一番有効的に機能しているのはアメリカでしょう。
アメリカでは連保政府内に養育費丁が設置されており、ここと各州政府が連携を取り養育費の設定・取り立てをし、下記手段で行方不明者の居所を探索します。
- 社会保障番号
- 全国新規雇用者登録制度
これら情報を元に支払い義務者を検索することにより、転居先住所や転職先を探し当てるというわけです。
そして、下記方法で取り立てを行い、様々な手段を使って養育費の確保を実施しています。
- 給与からの養育費天引き
- 所得税還付金や失業給付の差し押さえ
- 各種免許の停止
国が義務化した登録制度を利用して居場所を突き止め、確実に養育費を回収しているというわけです。
国による制裁実施
また、養育費の不払いが横行する、最も大きな理由は罰則の弱さです。
日本で養育費の受給率が著しく低いのは、何の罰則も科されないことが最大の理由でしょう。
しかし、海外では拘禁を科し、養育費の不払いを犯罪としている国がいくつもあります。
その最たる国がアメリカで、大半の州で養育費の不払いに対しては、犯罪として断固たる処置を下しているのです。
しかも、行方をくらましている支払い義務者に対しては、その顔写真にお尋ね者という見出しを付けたポスターを該当に貼り出して、徹底的に追及します。
これは到底日本では考えられない制裁手段ですね。
国を挙げて養育費の不払いは許さないと、断固とした態度で臨んでいるというわけです。
国が特設制裁するかしないかとでは、支払義務者の感じる罪の意識は180度違ってきます。
となれ日本でもアメリカのように国による制裁制度の導入が必要なのかもしれません。
また日本では、 母子世帯の平均年収の低さがクローズアップされています。
日本における母子世帯の平均年収は約240万円です。
父子世帯の平均年収が420万円ですから、母子世帯の年収がいかに低いかは一目瞭然ですよね。
しかも、この年収には子育て世帯やシングルマザーが受けられる公的手当や、離婚した相手からの養育費が含まれています。
これらを差し引いた就労収入は、たった年間200万円にしか過ぎないのです。
となれば、母子世帯が生活する上で、養育費の存在がいかに重要かはお分かりいただけるでしょう。
改正民事執行法の施行で養育費は回収しやすい時代に突入!!
外国と比べればまだまだですが、日本でも国を挙げて養育費の受給率を上げるための政策は、徐々にではありますが実施されています。
近年施行された改正民事執行法の施行もその1つです。
未払いの養育費の回収方法として最も効果が大きいのは、裁判所の強制執行による財産の差し押さえでしょう。
裁判所命令にはさすがに抗うことはできませんから、差し押さえが認められれば、大抵のケースで養育費の回収が可能になります。
しかし、差し押さえは民事執行法が定めた、申立要件を満たす必要がある点です。
これがネックとなって、差し押さえできずに、泣き寝入りしなければならないケースが実に多かったのです。
ですが、2020年に改正民事執行法が施行されたことによって、申立要件を満たせる人が増え、差し押さえできる確率がグンと高くなりました。
民事執行法がどう改正されて、養育費の回収がしやすくなったのかについては、下記の記事で詳しく解説しています。
未払いの養育費回収を差し押さえでと考えている人は、ぜひ目を通して、確実に差し押さえできる方法を身に着けてください。
絶対に諦めないで!養育費を払わないと言われたら差し押さえを!
日本に置ける養育費の受給率の低さは、今回紹介したデータを見れば、疑いようのない事実です。
この残念な実情を招いているのは、請求しても支払ってもらえると思っている人が少ないこと、そして支払義務から逃げる人が多いことが原因でしょう。
ですが、今一度考えて欲しいのは、養育費の支払いは別れた伴侶に対してではなく、自分の子供に対して負っている義務であることです。
離婚して生活を分かつことになっても、生活を共にしない子供に対して養育義務がなくなったわけではありません。
養育費を払わない相手から、回収するのは決して簡単なことではありません。
だから、その方法として財産の差し押さえという方法が設けられているのです
差し押さえで養育費の回収をする際の方法と注意点については、下記の記事で詳しく解説しています。
決めた養育費が払われなくなった、当初はいらないと思った養育費が必要になったという人は必ず目を通して、確実に養育費を回収できる方法を身に着けてくださいね。
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まとめ
日本の養育費受給率は決して褒められたものではありません。
むしろ、国としては改善を推し進めなければならない、窮地に立たされた状況といっても過言ではないでしょう。
しかし、国もこの状況に甘んじているわけでも、見て見ぬふりを決め込んでいるわけでもありません。
養育費を確実に受給するための政策は着実に進められています。
海外と比べればまだまだの日本ですが、端から未払いを放置する必要はありません。
未払いの養育費回収を検討している人は、現状を理解した上で、最も有効な回収方法を選ぶようにしてください。
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